挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

134/197

第197話 少女達の変化と決意

また長く開いてしまってすいません……。
感想は後ほど返させていただきます。

あと、夏風邪引きました……丸3日、インフルエンザかと思うほどキツかったです。
いや、まだ治ってないんですけど(マスク装備)。

地方によってはこのところ寒暖の差が激しいようです。皆さんもどうかお体に気をつけて……
 

 『サテライト』により、ミナトとゾルダー、そしてその部下たちが半ば一方的に侵入者達を粛清していっているその頃。

 ミナトに依頼された『解毒薬作成』を、さほど時間もかけずに終わらせたネリドラを始め、そこにいた女性陣は……現在、活動の場所を大広間に移していた。

 そこは現在、医務室に収まりきらなくなった患者達を寝かせておくために解放されている。
 食事の毒にやられた者たちはもちろん、囚人との小競り合いで負傷し、大小の怪我を負った者たちも運び込まれ、半ば野戦病院のようになっていた。

 1人1人の容態は重篤ではないものの、数が多くこちらの手が足りないことにより、医療班はてんてこまいになっていた。

 そしてミナトはといえば、それを見越して『何か大変そうだったら手伝ってあげて』と言い残していた。怪我人と医療班の護衛と、クロエとネリドラという『サナトリウム』の護衛、その両方に労力を割くくらいなら、両方いっぺんにやった方が効率的だという理由で。

 その通りに、クロエとネリドラは一時『サナトリウム』から出て、大広間で衛生兵のような働きをして職員達を手伝っていた。

 職員の中には当然、囚人に手伝わせることに難色を示した者もいたものの、先程一定量が届けられた解毒薬を作ったのがネリドラであると知らされたことと、2人の信頼性に関してはアリスが太鼓判を押したこともあって、最終的には受け入れていた。

 気がつけば、いつの間にか……

「そっちの方は消毒は済んでます、化膿止めと包帯を。あと、こちらに打ち身用の膏薬を2瓶……そう、緑色のラベルのやつです。あと、今運ばれてきた方たちは奥に運んで解毒をしてから、外科的処置が必要な人は空いてるスペースに……」

 方々に指示を出し、看護師長か何かと化しているネリドラがそこにいた。
 指示を受けた監獄職員達は、何の疑問も持たずにそれにしたがっている。

 すでに悟っているからだ。この少女の衛生兵役としての力量が、明らかに自分たちより上であると。この少女の指示に従っていた方が、仲間たちが早く、確実に助かると。

 幸か不幸か、職員の中でも名より実を取ることにためらいの無いメンバーがそろっていた。

 そして、そんな野戦病院(仮)で辣腕を振るっているネリドラの手伝いをしながら……1人の少女が、ため息をついていた。

(……すごいな、ネリドラ……)

 本物の衛生兵さながら、いやむしろ本職よりも気合を入れて現場を取り仕切っている親友に、手伝いで負傷者に薬を塗ったり包帯を巻いたりしているクロエは、しばしば目を奪われていた。

 やがて人段落ついたのか、指示を出すのをやめて自らも手当てに回り始めたネリドラの隣に、クロエもしゃがみこんだ。

「お疲れ様、ネリドラ。疲れてない?」

「大丈夫。むしろ……何だか、ここ数年なかったくらいに元気だから」

 言いながらネリドラは、負傷兵の生々しい傷にひるむこともなく、さっと消毒液を振り掛けて傷口の周りの血を拭き取る。そして針と糸で素早く傷口を縫い、清潔な布と包帯で覆った。

 処置時間僅かに数十秒。本職の衛生兵も舌を巻く見事な手際だった。

「……こんな時にこんなこと言うのも不謹慎かもだけど、何だか、こうしてると思い出すの」

「? 何を?」

「昔、私が医術学院に通ってた……って、前に話したよね? あの頃を思い出すの」

「……やっぱりネリドラって、実家が病院だからって理由だけじゃなくて……自主的にも医学を勉強してたの? 病気に困ってる人の役に立ちたいから……とかでさ」

「そうとも言えるし……そうでないとも言えるかな」

「?」

 どういう意味だろう、ときょとんとするクロエ。
 丁度、自分が見ていた負傷者への処置が終わった所だったことも手伝ってか、手も止まる。

「別に私……病気に苦しんでる人達皆の役に立つのが生きがいとか、そこまで思ったことは無いの。きっかけは間違いなく、実家が病院だから、それを継ぐためっていう理由だった。ただ……できないよりは出来た方がいいし、どうせやるんだったらとことんまでと思ってただけ」

「? そんな感じの理由だったの?」

「もちろん、やりがいも感じてたよ? 研修とかで治療した患者さんの『ありがとう』や、痛みがなくなった瞬間の嬉しそうな顔なんかを見るのは楽しかったし、嬉しかった。それで、勉強も実習も楽しくなっちゃって、ついやりこんじゃったんだ」

「やりこむ、って?」

「勉強中、カリキュラムに余裕が出来たから、先生に頼んで他の分野も勉強させてもらってたの。結局、在学中に……外科、内科、耳鼻科、眼科、産婦人科……とりあえず一通り全部勉強してた。それでも時間が余るようになってからは、薬学とか、生物学にも……」

 楽しそうに話すネリドラは、隣で唖然としているクロエに気付いていなかった。

 その背後に、近づいてきている人物がいることにも。

「なんとまあ……とんでもないのがいたものね……」

「あ、せ、セレナさん! お、お疲れ様です!」

「あ、お疲れ様です」

「そっちこそお疲れさん。大活躍ねあんた達? さすがは元とはいえ本職」

 ネリドラが自分で、もしくは指示を出して窮地を救った患者達を見回して、感心したような呆れたような声で言いながら、ため息をついていた。

「熟練の衛生兵でも、こんだけの現場を仕切りながら自分でも手当てするなんてのは難しいわよ? こんな超のつく逸材をドブに捨てるような真似するなんて……フロギュリアも存外節穴なのね」

「……えっと……ありがとうございます」

 褒められて嬉しいのか、少し顔を赤くして頭を下げるネリドラ。

「……ひょっとしたら、あの子と馬があうのはそのせいなのかもね」

「? あの子、って?」

「ミナトよミナト。あんた達、最近仲いいでしょ?」

 そう言われ、先程とは違う理由でネリドラの頬が赤くなる。

 それに気付いたかどうかは定かでは無いが、セレナは今度は紛れもなく呆れの混じったため息をついて、

「あの子もあの子で、研究バカって言えばいいのか……興味持った事柄にひたすらのめりこむからさあ。最初は普通の、ちょっと強いだけの冒険者のはずだったのに、今じゃ国家レベルで期待されつつ危険視もされるマッドウィザードになっちゃって……」

「こ、こっ……?」

「まあ、そのおかげで色んな人が助かってる部分も確かにあるから『やめろ』とも言えないんだけど……あ、ごめんねネリドラちゃん、あんなのと似てるなんて言っちゃって」

 『国家レベルで危険視』の所で唖然としているクロエは無視しつつ、自分でそんな風に言った弟と『似ている』と言ってしまって申し訳ない、と謝るセレナ。

 しかしネリドラは、笑って首を横に振った。

「いえ……むしろ嬉しいです。そんな風に言ってもらえて。私も、色んなことを勉強するのは大好きですから。それに……」

「それに?」

「すごく一生懸命に、楽しそうに研究してるミナトを見てて……なんだか、私もまたいつか、好きなことを好きなだけ勉強する生活に戻れたらいいな、って思ったんです。当然、そうなれるのはまだまだ……あと40年以上先の話ですけど、それでも……またやり直したい」

「やり……直す?」

 そう聞き返したクロエに、ネリドラはにっこりと笑って、

「うん。監獄帰りなんかじゃいい顔されないかもしれないけど……それでも私、自分の人生、悔いのないように生きて生きたいから。たとえ残り20年くらいしかなくなっちゃっても、その20年をめいっぱい自分らしく生きてみたい。自分で選んだ道を、自分らしく、自分の決めたやり方で。お婆ちゃんになっても、いい人生だったなあ……って、自分の選択に胸を張っていられるような生き方をしたい。だから私、絶対諦めない。元気でここを出て、今度こそ人生を始めるの!」

 笑顔でそう言い切ると同時に、他の患者の手当てに向かい始めたネリドラ。

 ほんの僅かな間、その言葉にあっけに取られていたクロエは……

「……そっか」

 短く、呟くようにそう言った。
 そして、ため息を一つついて……目を瞑った。心を落ち着かせるように。

(すごいな、ネリドラは……)

 そこでセレナは、部下(では厳密にはないのだが)に呼ばれてその場から立ち去り……クロエは別な、症状の軽い患者の手当てをしながら、今しがた聞いたネリドラの言葉をかみ締めていた。

「自分で決めた生き方……自分で決めたやり方……それに、自分がほんとうにやりたいこと……。自分の人生、か……」

 呟きながら振り返るのは、今の『囚人』という身分に身を落とす前の、自らの人生。

 クロエは、ナナ、アリスと共に、騎士団の訓練校の頃から研鑽を重ね、正規の騎士団員となってからも順風満帆・八面六臂の活躍を見せてきたと言っていい。
 無論のことながら、その頃、クロエの人生にかげりなど、不満などあろうはずもなかった。

 しかしある時、任務中に起きたある出来事を境に、クロエの人生に影がさした。
 その後すぐに無実の罪で投獄され、騎士団から追放・除籍された。

 しかし、クロエは冤罪で人生を奪われたことに悔しくは思ったものの、軍籍を奪われたことには悔しさを覚えてはいなかった。

 それはなぜか。クロエ自身……これ以上軍人として生きていくことが辛かったから。
 それは……罪状と関係ないがゆえに資料には記されていない、ミナトの知らないクロエの過去。

 その頃の自分を、そしてそこから道がだんだんとはずれ、今のこの形になってしまった自分を省みて、クロエは自嘲気味に笑っていた。

(……いつか、私もそんな風に思える時が来るのかな……?)

 目の前で、『なんちゃって衛生兵』として治療作業を取り仕切る親友を見ながら、人知れず。

 彼女の夢見る『その時』がいつになるのか、そしてそれが、どんな形で訪れることになるのか……まだ、誰も知らない。

 一方、その視線を受けているネリドラは……内心で焦りを覚えていた。

(……手が、足りない……!)

 ちら、と、野戦病院のようになっている広間に広がる何人もの負傷者を見渡す。

 手当てをする人材、という意味でなら足りている。
 だが、ネリドラが『足りない』と言っているのは、治療に関する細かな指示を出せる者だった。

 動ける人員には全て出てもらっている。この監獄の医務官はもちろん、警備隊の中で衛生兵の経験がある者たちにまで協力してもらっている。

 しかし、見境無しに毒を盛られたとあって……患者の数が多い。
 その上、少ない人数で賊を捕まえようとした結果として、傷を負った怪我人も運ばれてくる。

 加えて、状況を深刻化させているのが……使われた毒の組成だった。

(多分、量が必要だからって雑に作ったんだ。そのせいで、毒としての強力さは少しマシだけど、代わりに解毒や治療が難しくなってる。患者に合わせて複数の薬を組み合わせないと……)

 しかし、症状から必要な成分・薬を判断して投薬できるほどの知識を持つ者は、さすがに今ここにはごく僅かだ。ネリドラの負担が必然大きくなるし、1人の患者にかける時間が長くなる。

 それでは回りが悪くなり……次第に、処置が遅れ始めているのにも気付いていた。

 それに対処するため、少しでも時間が空くと、ネリドラはミナトの保管庫の薬品を使って必要となるであろう薬品を作って配布していた。
 体力回復用のポーション薬、呼吸を楽にする薬、痛み止め、麻酔薬……etc。

 ……無論、それらの材料の使用はミナトには無断であったが、詫びは後でいくらでもするつもりで使っていた。
 しかし、それでもなお……処置が間に合わなくなりそうだった。

(……っ……せめて、せめてもう少し私の処置や診察にかかる時間を短縮できれば……回復魔法や、医療用の特殊な魔法を使えれば…………あれ?)

 そこまで考えて……ふとネリドラは、違和感を覚えた。

(……私……そういえば、現役時代に……でも……)

「そうだ、私、確か魔法も使えたはずじゃ……でも、何で……?」

 
(……っ! まさか、ネリドラ……記憶が……?)

 
(……え? 今の声……誰?)

 
 ネリドラ・プエロトニコワ。
 未来への希望を取り戻した彼女に……ある変化が起ころうとしていた。

 
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ