挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

133/197

第196話 真意と策

えー、洒落にならないくらいお待たせいたしました、申し訳ありません。
ようやく土日が休みになったので更新します。

それと皆さん、作者からひとつ豆知識を……

……夏の水分補給は、喉が渇いたと思ってからでは遅いです。以上。

では、第196話、どうぞ。
 

 いやー、びっくりした。いきなり何言い出すのかと思ったもん。
 しかも、きっちり言った通りに出来てるんだもんな……うん、ホントにびっくりした。

 まさか、ありあわせの素材で解毒剤なんか作っちゃうとは。

「かなり強力だけど、解毒するのは難しくない毒だったから。阻害剤になる栄養成分を含む食材を適切に組み合わせれば……完全な解毒は無理でも、毒を限りなく弱めることは簡単」

「簡単……って言っても、ここまで完成度高いものを完成させるには、それこそ1g単位で成分や分量計算や茹で時間の計測しなきゃいけないと思うんだけど……よくできたね」

「時間の計測は砂時計を借りた。重さは……持てば大体わかるし」

 すごいな、おい。

 目の前には、アリスが中身を飲み干して空になったコップを持っているネリドラ。
 その後ろには、ネリドラが作った解毒剤を飲んで、毒の症状がだいぶマシになってるらしいアリスがいた。さっきよりも足取りが軽い。体もかなり動くようになったみたいだ。

 見た目どおり超マズかったらしく、口に含んだ瞬間に涙が浮かんできてたけど。

 しかし、王女様の方に仕掛けられてたのは『絹蛇』……非致死性の麻痺毒だったけど、アリスがくらってたのは致死性の毒だった。殺す気まんまんだったわけだ。

「しかし、あなた達はなぜ無事なのですか? ここに運ばれてきた食事にも、おそらく毒は入っていたでしょうし……実際、ルドルフもそう言っていたのですが」

「私が一口目で毒に気付いたから。遅効性の毒だから、効き始めるまでに全員分の解毒剤を作って飲むのは十分可能だった」

 アリスの疑問に、ネリドラがなんでもないことのようにそう答える。

 無味無臭……とまでは言わないものの、味付けの濃い料理に混入させることで見事にカモフラージュされていた毒。しかしネリドラは、その存在を瞬時に見抜いた。

 さすが医者の卵……いや、普通の医者じゃそんなこと無理だ。解毒剤調合の腕も含め、やっぱりこの娘は、稀代の天才って奴なんだろう。

 で、そこからはさっき説明したとおり。ネリドラがありあわせの素材で解毒薬を作ったおかげで、ネリドラ、クロエ、スウラさん、ギーナちゃんと、ここで食事を取っていた皆は全員無事。

「とはいえ、他にも大勢食らってるとなると……さっさと解毒薬作らないとね。大量に」

「作れるんですか? というか、材料は……」

「必要なものは僕の保管庫に全部揃ってるから。あ、ネリドラ、手伝ってくんない?」

「? 私……が?」

「うん。ありあわせで解毒剤作れるくらいだし、正規のそれの調合もできるよね?」

「作り方は一応知ってるけど……でも、いいの?」

「何が?」

「……私、囚人だけど……そんな、薬品なんて扱わせても」

「いいのいいの。ネリドラは信頼できるから。それに……」

「それに?」

「……僕と『彼』の予想が正しければ……この後、ちょっと面倒なことになる」

 言ってる間に僕の研究室に着いたので、ロックを解除して中に入る。
 その更に奥、薬品保管庫の前に行き、その扉のロックも解除。

 中に入ると……学校の理科準備室なんか目じゃないくらいに大量・多種類の薬品が所狭しと並んでいる。そしてそれらが入っているいくつもの戸棚は、どこに何があるのかわかりやすく引き戸部分に薬品名が書いてある。

 それらを確認しつつ、僕はネリドラと手分けして解毒薬の材料になる薬品を探し、取り出して集めていく。

 その途中、一緒に来ていたアリスがふと思い出したように、

「……っ! そうだ、アドルフの言葉が正しければ……もうすぐ囚人達の大脱走が起こると……もしアドルフの部下があそこにいたものだけでなければ……ミナトさん!」

「はい?」

「何も出来ない身でこのようなことを言うのは大変申し訳ないのですが……お願いします、急いでください! 早くしないと、囚人達の暴動が、大脱走が……!」

「いや、大丈夫。多分それはもうないから」

「……え?」

 きょとんとするアリス。あ、やっぱ聞かされてないんだ……『奴』から。

 
「いや、ゾルダーの奴が言ってたからさ。あらかじめこういう事態を警戒して、自分の直属の部下達何人かで警戒に当たらせてて、把握してたルドルフの残りの部下もこのあと捕縛するって」

 
「……はい?」

 ☆☆☆

 時は少しさかのぼり、僕が王女様の部屋を出て……あの男と会った時のこと。

「……よう、早いお出ましだな。『黒獅子』殿」

 ドアから出てきた所に、その男……男子看守長・ゾルダーは立っていた。

 いつもの看守制服……かと思いきや、違う点が2つほど。
 上着を脱いで上半身がワイシャツっぽいのになってる点と、手に武器を持ってる点。

 ショートソードのような刃物だ。剣と言うには短いけど、ナイフと言うには長い。艶消しなのか、刀身が漆黒に塗り潰されている。柄の部分も黒灰色で、飾りっ気が全く無い。

 けど、刃の鋭さや……なんかよくわかんないけど嫌な感じがすることから、ただのナイフでもないんだと思う。徹底的に実用性を重視したみたいな感じか?

 ……そして、それらとは別に、すごく見た感じ気になってるところが1箇所ある。

「あのさ、1つ聞いてもいい?」

「何だ?」

「……こいつら何?」

 言いながら僕は、周囲をぐるりと眺めるように見た。
 ゆうに10人分はあろうかという物言わぬ屍たちが転がっている……死屍累々のこの惨状態を。

 どの死体も頚動脈をかっ斬られていて、大量出血で失血死しているようだ。そしてそのせいで通路全体に鉄くさい血の匂いが充満している。ちょっとむせそう。

 当然ながら、全員がすでに事切れている。

「見ての通りだ。うちのお姫様を狙ってやがったんで、黙ってもらった。五月蝿くしたのは悪かったな、中まで聞こえたろ?」

「ちょっとの間だけね。てか、だからこいつらは何なの?」

「その前に黒獅子、1つ確認させろ。殿下は食事に手をつけたか?」

「いや、寸前で気付いて何も食べてない」

「そうか、なら問題ねーな」

「あのさ……問題ないのはいいんだけど、色々と説明してくんない? これから何をどうしたらいいのかとか考えなきゃいけないし。何かしら事情知ってるんでしょ?」

「それはいいが……あんまり時間ねーから移動しながらだ。殿下も連れてくから準備させるぞ」

 
 その数分後、僕らは『超特別(略)」から王女様を、侍女兼護衛のエルタージャさんとビクーニャさんも一緒になって連れ出し……『オフィス』への道をひた走っていた。

 その際、上り階段多い+やたら長いので、王女様はエルタージャさんが浮遊魔法で浮かせていた。そしてその前後に、義姉さんとナナ、そして夕食を持ってきたメイドさんも含めた女性人4人が護衛としてついている。

 そしてその更に数メートル先を走りながら、僕は彼……ゾルダーから色々な事情を聞いていた。

 女囚達の間でたまに名前が出てくる『看守長』っていう人物の正体は、事務総長のルドルフであり、彼こそが女囚達を食い物にしている悪徳看守達の元締めであるということ。

 さっきゾルダーが皆殺しにしてた不審者連中は、そのルドルフが内通していたある闇組織の手の者で、王女様の誘拐を企てていたこと。

 この監獄に少しずつもぐりこみ始めていた内通者の排除のために、ゾルダーとその部下数人が以前から秘密裏に動いていたこと。

 実は僕もその内通者の1人かもしれないとして疑われていたこと。けど色々と調べた結果、シロらしいと最近になって判断したこと。

 そして、今回の計画――王女様の誘拐と、奴隷にするための囚人の連れ出し計画については、ルドルフの裏切りとあわせて前々から情報はあった。

 実行がいつかまではつかめていなかったものの、万一の事態に備えて各所に備えをしていたため、現在すでに計画そのものは潰すことに成功しつつあるという。

「ただ、連中直前になって計画を変更しやがってな。そのせいで、一部後手に回っちまった」

 事前に間者への尋問で聞き出していた計画だと、あくまで連中は囚人の脱獄幇助と王女様の誘拐だけを、秘密裏に、気付かれないようにやってのける予定だったらしい。

 しかし今回のルドルフの計画は、食事に毒を混ぜることで看守達の大部分を無力化→殺害し、出せるだけの囚人を牢屋から出し、大規模な暴動を起こさせるものだったそうだ。
 その際、あらかじめ話を通していた囚人だけは回収し、奴隷として売る予定だったという。

 残った無事な看守達は、雇った傭兵や暗殺者、さらに暴徒化した囚人たちによって撃退ないし足止めし、とにかく強引に全てを実行するつもりだったらしい。

 ゾルダーと部下達の捜査の手が回っていたことに気付いてのことか、それとも他に理由があったのかはわからないが、大幅に計画が変更されていたため、ゾルダーも驚いたそうだ。

 暴動そのものは、ゾルダーの部下たちが侵入者達を、動き出すと同時に徹底的に駆除したおかげでほぼ起こっていないが、すでにいくつかの収容房の鍵が開けられた後で、囚人がいくらか逃げ出してしまっているらしい。

 さらに、毒にやられた看守・職員達の解毒もしなければならない。一刻も早く。

 そんなことを聞かされたあたりで、僕らは『オフィス』に到着。
 そこで、『サナトリウム』を心配したアリスがそこに向かい、ルドルフ達もそこに向かったと言う話を聴いて……その場をゾルダーに任せて、僕は『サナトリウム』に向かった。

 

 ……で、現在に戻る。

「じ、じゃあ……事件そのものはもう解決しつつあるということですか? いくらかの脱走者と侵入者がまだ内部に潜んでいるだけで……」

「そういうこと。もっとも、それもゾルダーの部下たちが順調にひっとらえるなりぶっ潰すなりしてるらしいから、今一番問題になってるのは毒くらった職員達の解毒だね。でもそれも……」

「……できた」

 目の前の大鍋でグツグツと煮立っている、ブルーハワイのシロップっぽい青色の液体。
 今しがたネリドラと一緒に作った解毒薬である。もうちょっと冷まさないと飲めそうにないけど、小分けにして持っていく間に冷めるだろう。

 しかしこれだけじゃ多分量が足りないので、もっと増産しないといけないわけで……

「じゃ、後、任せたネリドラ。僕、残ってる暗殺者の討伐に出てくるから」

「わかった、任せて」

 ぐっ、とサムズアップ。

 作りながら確認してたんだけども、ネリドラはきっちりこの解毒薬の作り方も知っていたし覚えていた。手順ごとに質問して確認したけど、全てが完璧だった。

 なので、この大鍋1杯分では不足するであろう解毒薬の追加製作を彼女に任せ、僕はアルバと一緒に監獄内にまだ残っている間者連中の捜索・討伐に出ることにした。

 その道のプロだけあって上手いこと隠れてるらしい。物陰から一気に襲ってきたり、人質を取ってきたりする可能性があるため、下手な実力のものに創作させるわけには行かない。

 が、アルバがいれば『サテライト』が使えるため、どこに隠れてようが探知できる。ずっと僕らのターン的な感じで一方的に追い回せる。これで脱走囚人と侵入者は一網打尽にできる。

 アルバだけ貸してゾルダー達に任せてもよかったんだけど、ちょっと今回のことは僕も少なからず怒ってるので、参加させてもらうことにしたのである。

 仲いい娘に毒なんて盛られて平然としていられるほど、僕はまだ大人じゃないんで。
 アリス、スウラさん、ギーナちゃん、クロエ、そしてネリドラの仇は僕が討つ。

「おい、勝手に殺さんでくれ、ミナト殿」

 と、冷静にツッコむスウラさんはとりあえずスルーし、ネリドラに僕の研究室の設備を扱う上での注意点を簡単に説明。具体的には、使っていいものと悪いものの説明。

 加えて、スウラさんとギーナちゃん、そして僕を除けばここで最大戦力である義姉さんに彼女達の護衛を頼んでおくと共に……『いざという時に使って』ってことで、僕が最近開発したある秘密兵器を渡しておく。

 こいつを使わなきゃいけないような事態は起こらないで欲しいもんだけど……最悪の場合は活躍してもらうとしよう。

 そんなことを思いながら、僕は義姉さんに、スーツケース的な見た目のカバンを渡した。
 表面に……『C.P.U-M』『DANGER』と書かれている。ちなみに誇張表現ではない。

 冷や汗を流しながらそれを受け取った(受け取りたくなさそうにしていた)義姉さんたちに後を任せ、僕は『サナトリウム』を後にした。

「……安心しなさい。絶対に使わないから…………使ってたまるもんですか(ぼそっ)」

 そんな声が、後ろから聞こえた。

 
 
『花の谷』の時に似たようなことやって色々指摘されたので、ちょっと展開的に恐々としています……しかも今回、大して伏線とかも作ってないし……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ