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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第195話 異変を告げる食卓

お久しぶりです。
リアルが死ぬほど忙しいんです……すいません。この時期出張に会議に報告物にマジで……時間足りない……
なるべく早く欠けるよう頑張ります。

それと、感想は全部読んでます。後で返しますので、しばしご容赦を……
 

「あれ? ミナトさん今日もいないの?」

 ある日の夕食時(結局決められた時間に食事を取るシステムが復活した)。
 夕食の時間になったので食堂を訪れたクロエは、食堂に集まっている面子の中に、この部屋の主がいないことに気付いて不思議そうにした。

 その後に続いて入ってきたネリドラも、意外そうに『ホントだ』と呟く。

 というのも、つい先程までミナトがこの『サナトリウム』内部にいるのを、2人とも見ていたからだ。そしてミナトは『サナトリウム』にいれば大概の場合、ここで皆と時間を合わせて一緒に食事を取る。
 それがここにいないということは、先程見かけてからの僅かな時間に何かあったと言うことだ。

 というか今食堂には、スウラとギーナの2人しかいない。ナナもセレナも姿を消している。

「ミナト殿なら、少し用が出来たとのことで出ている。先に食べていてくれ、とのことだ」

 と、スウラから伝言を聞かされた2人は、それ以上は何も言わずに、それぞれ皿を手に取った。いつものように好きなものを好きな量盛り付けていく。

 席についたところで、ふとネリドラが隣のクロエのトレーを見て気付いたように、

「……クロエ、最近ごはんいっぱい食べるようになったね?」

「え? そ、そうかな?」

 突然思わぬことを指摘され、女の子として思うところがあったのか、ドキッとするクロエ。

 しかし、自分が手にしているトレーに目をやれば……否定できない光景がそこにあった。

「あ、あはは……さ、最近よく運動するようになったからかもね、食べないと力出ないし」

「そういえばここ最近、訓練で見るクロエさんの動きは日に日に鋭くなっていますね」

 と、ふと思いだした様子でギーナが呟くように言った。

「え、そ、そうかな?」

「はい。稚拙な感想で申し訳ないのですが……武器を振るう際の狙いのつけ方といい、間合いをつめる際の踏み込みといい、すでにそこらの兵卒程度では並ぶべくも無いレベルに思えます。とても1年のブランクでなまっていたとは信じられませんよ」

「それは……確かにな。私も同意見だ」

 うんうん、と頷きながら、スウラも賛成した。

「今のあなたの動きが出来る者は、正規軍にもそういまい。アリス殿も『昔のクロエに戻ってきている』と言っていたしな」

 すると、それを聞いたクロエの顔に、一瞬だけ少しさびしそうな影が差す。

「……昔の私、かぁ……」

「? どうかしたの?」

「ううん、なんでもない」

 口ではそう答えつつも、どこかしゅんとした様子は消えていない。
 ネリドラはそれに気付きつつも、どこか声をかけづらい彼女の雰囲気に戸惑っていた。

(……そりゃ無理だよ、アリス。私もう、いくら鍛えようが……昔の私になんて戻れないよ)

 クロエはといえば、ここにいない自分の親友に向けて、声に出さずに自分を卑下するようなことを思いつつ、少しだけ昔を懐かしんで……運んできた料理に口をつけた。

 ネリドラもまた、気にはなるがどうしようもなさそうだと割り切って、料理を口に運んだ。

 ☆☆☆

「気分はどうですか? どこか、痛いところなんかは?」

「大丈夫ですわ。ありがとうございます、ミナト様」

 エルタージャさん達から、王女様が目を覚ましそうだって連絡が入ったのが、夕食の直前。

 急いで支度をして、義姉さん、ナナ、アルバ、そして通行に必要なミーシャさんと一緒に駆けつけると、ちょうど王女様が目を覚ます所だった。間に合ってよかった。

 そして今、王女様は『骨伝導』のために僕と手をつないで……は、いない。
 代わりに王女様は今、今まではつけていなかったあるアクセサリーを身につけている。

「驚きました……本当に、皆さんの声が聞こえます。ミナト様だけでなく、エルやビク、それにナナさんやセレナさんの声も……」

 頭の上にちょこんと乗っかっている、銀色のティアラ。
 もちろん、ただのアクセサリーではなく、僕が作ったマジックアイテムだ。『白夜病』による感覚喪失への応急処置として。

 こいつは僕が『骨伝導』によって音声を届ける仕組みを簡易的に再現したもので、外部の音声を魔力刺激に変換して王女様に届けている。それにより、聴覚を失う前と同じように……とまでは行かないが、会話・応対には支障ない程度に聴覚を保っていられている。

 と言ってもまあ、コレは応急処置で作っただけの、いわば補聴器みたいなもんだ。前にも言ったように、根本的な解決にはなってない。

 けど、その『根本的な解決』が出来る日も近い。
 ネリドラ……と、リュドネラへの診察・問診に基づいた実験によって『白夜病』の正体や概要は把握できた。それらの情報から、薬のイメージも出来ている。

 そのへんはすでに説明済みなので、簡単な健康状態のチェックだけにとどめてるんだけど……そんな中、王女様用の食事が届いた――その時。

(…………ん?)

 運んできたのは、メイドさん。もちろん、王女様の域のかかった口の固い人。
 彼女が、上品なレストランとかで見ることのある、あの金属の覆いみたいなの――名前知らない――を取ると、出来たてホカホカの湯気の立ち上る料理が出てきた。

 が、それを見て僕の頭に浮かんだのは、おいしそう、ではなく……

「ありがとう。では私が……」

「ちょっと待ってください、エルタージャさん」

 『え?』と、全員の視線が僕に集中する中……僕は『ちょっとすいません』と断って、運搬用の台車に近づき、その上の料理を1つ1つ確認する。すると……

「すいません、コレ毒見は?」

「え? も、もちろん行いましたが……何か問題が?」

「ええ。ちょっとコレは王女様に食べさせられないんじゃないかと」

 その僕の言葉に、ぎょっとする一同。メイドさん含む。
 直後、義姉さんとエルタージャさんがそばに寄ってきた。

「何、毒入り?」

「うん、そうっぽい。においが変」

「そ、そんな……今申し上げましたが、毒味は済んだはずですよ!?」

「遅効性です。多分……『絹蛇』の毒」

「っ……無味無臭の毒物ですね。でも、何でわかったんです?」

「アレ、加熱すると少しだけすっぱい匂いがするんですよ。多分、コレに混入してます」

 エルタージャさんの疑問に答えつつ、僕は料理の1つ……メインディッシュと思しき、デミグラスっぽいソースのかかったステーキ?を指差した。
 『絹蛇』の毒のにおいは、ここからする。

 『絹蛇』の毒は、無色・無味・無臭と三拍子そろった凶悪な毒だが、致死毒ではなく睡眠毒で、一時的に相手を眠らせる程度の力しかない。
 しかも取り扱いが難しく、保管方法や使用方法を少しでも間違えると腐ってしまう。

 しかし、相手を無効化するという目的においては非常に優秀な毒なので、誘拐事件などで用いられることがある。おまけに遅効性ですぐには効果が出ないため、毒味では防ぎにくい。

 もっとも、実は完全に無味無臭でもないので、僕レベルの嗅覚があれば――上位の獣人種族とかそのへんでも多分大丈夫かも――かぎ分けることはできる。加熱しててもしてなくても。

 説明している間に、部屋の中の空気がどんどん張り詰めたものになっていく。
 ふと見ると、王女様も、その隣のビクーニャさんも、驚きと動揺で冷や汗を垂らしていた。

「ほ、本当なんですか……そ、そんな……誰がこんなこと……!?」

「……それより問題は、入ってた毒が『絹蛇』だったってことね」

 メイドさんの震える声をさえぎって、義姉さんが腕を組みながら言う。

「……みなさん、それは……確かなのですか? 私の食事に、毒が……」

 おびえた様子で問いかけてくる王女様。

「……うちの義弟が言ってることをこの場で証明するのは難しいですが……本当なら由々しき事態です。毒物の混入はもちろん、それが致死毒ではなく『睡眠毒』だったとなると……」

「っ! そうか、眠らせた後に何をするつもりだったのか、っていう問題が残ってますね!」

「そういうこと。普通に考えて、殿下に睡眠毒を使うとなると……誘拐か何かの下準備、って可能性が高いわ。となると……」

「……この後、まだ何かある」

 と、言いかけたその時……

 扉の向こうから……争うような音が聞こえ出した。
 分厚い扉ごしの音だから、僕……と、アルバ以外には聞こえなかったみたいだけど、僕が扉の方を向いて睨むような目つきになったのを見て、義姉さんも気付いたらしい。

「『この後』じゃなくて、今正にもう起こってるみたいだね」

「……早いわね。いや……早すぎる。これじゃ、『絹蛇』の毒の意味がないわ」

 と、義姉さん。確かにそうだ。『絹蛇』の毒は、効果が現れるまでに数十分かかる。
 王女様が眠るのは、どう早く見積もっても約1時間後だ。まだ食べるか食べないかのこのタイミングでの襲撃は、早すぎる。

 じゃあ、この戦闘音は一体……?

 とりあえず、姉さんとナナ、それにエルタージャさん達に王女様のことを頼んで表に出る。

 1つめの扉を開ける。誰もいない。
 けど、2つ目の扉を開けると、そこにいたのは……

「……よう、早いお出ましだな。『黒獅子』殿」

 相変わらずな顔色と目つきの悪さで、ぎろりとした鋭い視線を向けてくる、男子看守長――ゾルダー・ヘルメスだった。

 ☆☆☆

 場面は変わり、ここは……女子監獄の『オフィス』から、『サナトリウム』へ向かうための通路。

 そこを女子看守長・アリスは疾駆していた。

 しかし、その走り方は……ややおぼつかないものだった。
 素人のパッと見にはわかりづらいが、見る者が見ればわかる程度に。僅かに足が震えており、普段の動きには見られる軸がぶれている。

 彼女はその理由を知っていた。食事に仕込まれていた、毒によるものであると。

 発覚は、単なる偶然だった。
 彼女の部下である看守の1人が、厨房担当の職員と仲がいいのをいいことに、夕食を待たずして料理の試食という名のつまみ食いをさせてもらっていた。

 そのしばらく後、職員たちができたての食事を楽しんでいる中で、遅効性の毒が効いてきて……つまみ食いをした職員が倒れた。
 彼だけが他よりも早く食べていたので、その時間に効果が出たのだ。

 異変を察したアリスは、職員達に食べ物を口にしないように指示するも、すでに総数の半数近くの職員が食事を終えた、もしくは食べ物に手をつけてしまっていた。アリス自身も含めて。

 途中でやめていたものはまだましだったものの、1人前きっちり食べ終えてしまっていた者はろくに動くこともできない状態。そんな事態が監獄のあちこちで起こっていた。

 アリスは素早く部下達に指示を出すと、その直後、同じ食事が『サナトリウム』へも運ばれていたことに気付き、毒で重い体に鞭打って走っていた。

 そして、ようやく扉の前にたどり着いたアリスは、もっている鍵で扉を開ける。
 すると、その先にはもう1つ、頑丈そうな金属の扉があった。関係者以外の立ち入りを防ぐために、ミナトが(独断で)つけた扉である。

 アリスはその扉の端にある隙間に、ミナトから貸し出されているカードキーを差し込むと、壁から現れた文字盤を叩いて『パスワード』を打ち込むというロック解除の手順を実行する。

 そして、重厚な金属の扉がようやく開き、アリスがそこに飛び込もうとした……その時。

 
「ほぉ……その扉はそうやって開くものだったのか、これはまた不思議なものだな」

 
「っ!?」

 突如として後ろから聞こえた声。

 はっとしたアリスは、後ろを振り向いて……予想外すぎる、というよりも意味のわからないその光景に絶句した。
 そこに立っていたのは……

「ルドルフ……事務総長!?」

 あご髭に、豪華さと気品が上手く調和された軍人用の外套に身を包んだ……ラグナドラスの事務総長、ルドルフ・ファーマウンド。
 そして彼が従えている……十数人の兵士と思しき、武装した男たちだった。

 しかもその半数以上は、どう見ても看守ではない。見覚えがないのはもちろんだが、制服も着ていないし、盗賊のような身なりだった。

「なぜここに……いえ、それよりも、その者達は!?」

「彼らは私の部下達だよ。気配を消すのが上手いだろう? 今回のために呼び寄せていたんだ」

「……どういう……ことですか?」

 言いながらも、アリスは腰の剣に手をかけていた。
 詳しいことはわからないが、少なくとも……彼らは敵であると、内心で感じ取っていた。

 それをルドルフも悟ったらしい。しかし余裕の笑みを崩すことはせず、くっくっと笑う。

「……料理の毒は、あなたの……いえ、あなた方の仕業ですか」

「ああそうさ、遅効性だが、致死性の毒だ。少量とはいえ摂取したにも関わらず、そこまで動けるとは……さすがは騎士団のエリートは違うな。うらやましいくらいの頑丈さだ。だが……」

 ちらっ、とルドルフはアリスの足を見る。かすかに震えている。

「さすがに戦うのは厳しそうだな? 悪いことは言わん、降伏したまえ」

「……なぜ、何の目的があってこんなことを……!?」

「やれやれ……この状況で威勢のいいことだな。まあいい……っと、それよりも君にはお礼を言わねばならんのだったな、アリス・カラドール」

「……???」

 困惑するアリスの顔に期限をよくしたのか、ルドルフは手早く、しかし得意げに口を開く。

「ほら、この間会議の席で言っただろう? 『囚人たちが集団で脱獄を企てている気配がある』と……悪いな、アレは本当のことなんだよ」

 
 ルドルフ・ファーマウンドは得意げに話した。
 今起こっている騒動の詳細を。そして、その主犯が自分であるということを。

 食事に混入させた毒。あれは、厨房の担当者のうちの何人かを買収してしこませたものだった。
 遅効性で、しかも死ぬまでに時間がかかる毒ではあるが、かなり強力で、効き始めると徐々に体が動かなくなる。そしてその後死に至るという、致死性の毒。

 そして看守たちが動けなくなった所で、ルドルフの部下たちが牢獄の扉を開き、囚人たちを少しずつ逃がしていく。動けない看守達を尻目に、堂々と。

 僅かに残っているであろう無事な看守達は、用意していた傭兵や殺し屋達に始末させる。

 後はその作業の繰り返しで、どんどん囚人たちを連れ出していく。

 スムーズに作業を実行するため、事前に何人かの囚人――ルドルフが見定めた『秘密を守れる囚人』には、事前にこの計画を打ち明けて準備させていた。
 バーバラもその1人だ。懲罰房にいる時に、悪徳看守の1人からそれを聞かされていた。

「囚人の解放……!? そんなことをして何になると……!?」

「別に開放などする気はないさ、あんな連中、世の中に再び解き放ってしまってもろくなことをしないだろう? 脱獄させてやったからと言って、私に恩義を感じてくれるような奴らでもない。だから……手っ取り早く金に換えてしまうことにした」

「っ!?」

「私の知り合いに奴隷商人がいてね? その男に聞いたんだが……今、かなり大手の顧客を抱えているそうだ。用意しただけ奴隷を買っていってくれるような相手で、絶好の稼ぎ時なんだと息巻いていたよ……だから私も、それに協力することにした」

「囚人たちを奴隷として売り飛ばすつもりですか!? そんなことをして、ただで済むと……」

「問題ないさ、全て済んだら私は国外へ亡命する。元々、ラグナドラス(ここ)もすっかりつまらない場所になってしまったと思っていたからね……ふははっ、いい機会だ」

「……どういう、意味……っ……!?」

「君も人の上に立つ者なら知っているのではないか? 感じたことは無いかな? 人の上に立ち、下の者たちを従えるということの愉悦を……」

「……何を言って……」

「人々が自分にへこへこと頭を下げ、自分の言う通りに動き、自分のご機嫌を取ろうと必死になって擦り寄ってくる。自分はそんな連中たちを上から見下ろし、管理し、命令を下す立場にある。腕の一振りで彼らを笑わせることも、泣かせることもできる……そんな立場に立つ楽しさだよ。私は昔からそれが好きでね……そんな私にとって、ここは理想の王国だった」

「……???」

「囚人という、社会の底辺に価値を落とされたゴミクズ共。当時『看守長』としてこのラグナドラスに赴任してきた私は、彼らを支配するのが楽しくて仕方なかった……従う者、私を楽しませてくれる者には褒美を、逆らうもの、気に入らないものには懲罰を……管理者として上に立ち、監獄の中で少しでもいい生活をしたいと擦り寄ってくる連中の上に立つのは実に楽しかった」

 くっくっく……と、過去を思い出しているのか、おかしそうに笑うルドルフ。

「褒美欲しさ、点数欲しさに囚人達は私に尻尾を振って擦り寄ってきた。私の個人的な仕事を手伝ってくれたし、表社会で上手くやっていくための有益な情報をくれた。男たちは見世物となって私を楽しませるためにケダモノのように殴り合い、女達は喜んで股を開いた。王である私に選ばれたものは、その尖兵として他のクズ共を率いる立場に立たせてやった……」

 それを聞いて、はっとするアリス。

「まさか……185番、バーバラ・ヒーストンやその部下達を特別扱いしていたのは……」

「そうさ、私だよ。私と、一部の私が見込んだ特に従順な看守達だ。ちなみに彼らは、当時の私の役職である『看守長』という呼び名を今も使っているようだね。まあ、異動・昇進にあわせて呼び名を変えさせてもよかったのだが、なじんだ通称になっていたようだから構うまい。彼ら彼女らのうち何人かは、売り飛ばさずに私の奴隷にしてやってもいいかな……さて……」

 そこで話題を切ると、ルドルフは先程アリスが開けた、『サナトリウム』の扉の方を見た。

「おしゃべりはこのあたりにしよう。せっかく君がこの扉を私のために開けてくれたんだ、さっさとこの中を制圧してしまわないとね」

「っ!? 何ですって!? 一体何のつもりなの!?」

「何、私の亡命先は中々に厳しい職場になりそうでね……そこでの私の評価を少しでも上げてやりやすくするために、この施設に使われているという最新鋭の技術を貰っていくことにしたんだよ。ただ……侵入者対策がやたら厳重だから手が出せず、結局今までかかってしまったがね。視察も受け入れてもらえなかったし、全く面倒だったよ」

「……! まさか、私を利用して……視察も、ここに入る手段を探るために!?」

「そうだ、アリス・カラドール。君はここの関係者以外で唯一この扉の開け方を知っている。本当は君か君の部下が毒に犯されたタイミングで、解毒剤と引き換えに方法を聞きだすつもりだったのだが、自分で開けてくれるとは手間が省けて助かった……後は中の備品を押収し、毒で動けなくなっている囚人と警備を始末なり回収なりするだけだ……行けお前達」

「「「はっ!!」」」

 合図と共に、ルドルフが従えていた手下達のうち、看守の制服を着ていない者たちがいっせいに『サナトリウム』の中になだれ込んでいく。

「っ! 待て……っ……!」

 その様子を見たアリスは、剣を抜いてそれを止めようとするも、毒が全身に回ったのか足が言ことをきかず……倒れないようにするだけで精一杯だった。

 当然、そんな力ない声で男たちが止まるはずもなく、無情にも『サナトリウム』内部に全員が足を踏み入れた……瞬間、

 ――バリバリバリバリバリ!!

「「「がぁああぁああああっ!!?」」」

 彼らめがけて真上から電撃が降り注いだ。

「っ!? な、何だ、何が起きた!?」

「わかりません! い、いきなり雷が……『バキッ!!』ぐはっ!!」

「っ!?」

 驚くルドルフの目の前で、突如として部下の1人が床に倒れた。
 その者だけではない、1人、また1人……と言うにはあまりに迅速に、殴られたような打撃音と共に床に倒れていく。

 ……というよりも、殴り倒されて気絶していっているように見えた。

 数秒と待たずして、ルドルフの部下の看守達は全員倒れ伏した。
 看守以外の手下……暗殺者か何かと思しき連中については、先の電撃の豪雨ですでに全滅している。ルドルフはほんの十数秒の間に、部下全員を失って丸裸になっていた。

「な、何が起きてる……一体誰が!? 何がガハァッ!?」

 同じ打撃音。壁まで吹き飛び……ルドルフはあえなく気絶した。

 ただ1人そこに残され、あっけに取られるアリスの目の前で……空間の一部が揺らぎ始めた。
 その揺らぎは色を帯び、次第に人の形になり、そして……最後には、よく知る人物になった。

「……姿消してたとはいえ、ここまであっさり終わるか……まあ、そりゃ武闘派じゃなきゃ看守っつってもこんなもんか」

「……ミナト、さん……!?」

 ☆☆☆

 何も難しいことはやってない。
 透明化魔法『カメレオン』で姿を、あとは風魔法の応用で呼吸音と足音消して近づいた。そして、見えない相手に困惑してるうちに全員殴り倒しただけ。

 ……だけなんだけど、まさかこうもあっさり片付くとは思わなかったな……。

 これが邪香猫うちのメンバーなら、気配でも何でも感じ取ってある程度対応してくるんだけど……武闘派じゃなきゃこんなもんか。
 別に手ごたえや戦いを期待してたわけでもないし、気にしなくてもいいだろう。

 それよりも……さっきから足を小刻みに震わせて、やっと立ってるっぽいアリスの方を気にしなくちゃ。やっぱ毒っぽいな。

「アリス、大丈夫?」

「み、ミナトさん……今、何を?」

「いや、ちょっと体透明にして殴ってただけだよ」

「いや、ちょっと透明って何ですかそれ……」

「そんなことどうでもいいから。とりあえず解毒剤作るから中に「あの、これ」ん?」

 そんな声が聞こえて振り向くと、『サナトリウム』の入り口から、ネリドラが出てくる所だった。
 そして、その手に持ってるのは……コップに入った何だか体に悪そうな緑色の液体。

 ……でも、あれ? この匂いって……

 
「あの、すいません……食材貯蔵庫と売店の中のもの、勝手に使っちゃったんですけど……解毒剤、作ったので……よかったら」

 
 ………………え、マジ?

 
 
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