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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第190話 ナナの思い

土日二日休んでもまだ休みが続くっていいなあ……
おかげで筆が進みました。
 

 僕は研究中、基本的に実験以外の全ての作業をデスクに座ったまま行う。
 『ヘカトンケイル』により、目と手の数にも腕?の長さにも不自由がないので。

 そんな僕に、近頃甲斐甲斐しく尽くしてくれているのは……以前から秘書みたいな感じで世話になっているナナである。

 このごろナナは、仕事の際には必要な時に必要な手助けをしてくれたり、入用になりそうなものを先回りしてそろえてくれたり、疲れたら夜食を出してくれたりマッサージもしてくれたりと、僕の生活面の細かい所を全面的に支えてくれている。

 おかげで、かなり快適に研究ライフを送ることが出来ている。
 今日もこうして、夜食のサンドイッチとコーヒーを持ってきてくれているので……研究を中断して、テーブルでそれを堪能させてもらっている。

 10分ほどで全部食べ終える。
 空になった皿とコップを回収してくれながら、ナナが声をかけてきた。

「やはり……難航しているんですか?」

「ん、まあね……」

 中空を眺め、ぼんやりと頭で考え事をしながら、ナナの質問に答えを返す僕。

「原因がわかったのはいいけど、対応策が浮かばなくてね……」

 あれから、他の『白夜病』患者のデータをあらためて精査した結果、ネリドラからの聞き取りで浮上した『心の病』の可能性がより一層強くなった。

 ストレス社会とまで呼ばれた現代日本で生きていた身として、病気の原因が心的なものかもって考えないわけじゃなかったんだけど……可能性としてはほとんど見ていなかった。

 その理由の1つが、感染者の身分や境遇にまるで統一性がなかったことだ。
 上は王女様や貴族から、下はスラム出身者や奴隷まで、色んな境遇の人間がこの病を過去発症している。彼らが感じるストレスその他の程度には差があるだろうし、それだけを要因にこの病が発祥するというのは考えにくかった。
 というか、今もそうは考えていない。ストレス+他の何か、だと思っている。

 感染者と似たような境遇・環境にあった者達はその周辺にもわんさかいた。にも関わらず感染者が絞られたというのなら、そこに他の者たちとは違う何かがあったはず。

 当初からそう思って調べていたものの、年齢、性別、体質、身分、住環境、さらには性格に至るまで見事にバラバラで、結局要因は見つからなかった。
 昨日ネリドラに、失礼は承知で根掘り葉掘り聞いてみたけど、結果は同じだった。

 強いて言うなら、ネリドラを含めた何人かの感染者に、聞くだけで鬱になるようなバックグラウンドを持っていたのが何人かいたくらいか……でもそれですら、この剣と魔法の世界じゃ、そこまで珍しいものでもない。感染者の他にも経験してる者は多いはずだ。

 ……仮にその法則がわかった所で、心の病をどう治せばいいのか、って課題がある。
 カウンセリングとか親身に話を聴くとか、リラックスさせて心を安らかにさせるとかで改善……するはずないな。今『サナトリウム』でのんびりしてるネリドラにその兆候がない以上は。

 それに、病人ということで目一杯いたわってもらい、ストレスとは無縁の生活を送ったり、カウンセリングっぽく相談に乗ってもらうなんてこと、貴族とかなら普通にやるだろうし……それでも改善した事例が報告されてないとなると、まず無いな。

 ……原因が見つからないといえば、『邪血疱瘡』の方もそうだ。
 何せ、病原体らしきものが、患部のみならずどこからも見つからない。ただ、理由もわからないままに皮膚や皮下組織が炎症を起こしているだけなのだ。

 コレまで心的要因だとかだったらマジでお手上げに近いんだけど……症状そのものは体に如実かつ急激に現れるものだし、薬で割と簡単に改善するので、その可能性は低いと思う。
 ただ、完治させるのが難しいだけだ……しかしそれも、血清療法で割と直る。

 血清の材料になる『身内の感染者の血液』が手に入らない場合は次善の薬を使う。
 血清よりかなり効きが悪いものの、病の進行と炎症をある程度抑えるくらいはできるし、人によってはこの薬で完治することもある。確率低いけど。

 だが第二王女様は、残念ながらそうはならないようだ。現在の所、一進一退で改善と悪化を繰り返している状態。この病について急を要するようなことは無いものの、油断も禁物。

 最初の方がなまじ順調だっただけに行き詰るな……さて、どうしたもんか……。

「…………」

 ふと気付くと、いつの間にか僕の横に来ていたナナが……なぜかしゅんとした、少し悲しそうな顔になっていた。ん、どうしたの?

「……ごめんなさい。こんな時、何か力になって差し上げられればいいんですが……私ではミナトさんのお役に立てそうにありません」

 そうして、はあ、とため息をつく。いや、突然何言い出すの?
 力になる、って……ひょっとして、研究分野で? いやいやいや、それはさすがに……

「それはさすがにジャンル違うって……自画自賛する気はないけど、僕はあくまで趣味が高じた得意分野で頑張ってるだけなんだから。それにナナは十分普段から頑張ってくれてるよ、僕の方こそ、特にここ来てからは雑務とか任せっぱなしで頭が下がるっていうか……」

「……それでも、役に立ちたい、って思ってしまうものなんです」

 呟くように言うナナ。

「……好きな人が目の前で困ってるのに、何もしてあげられない……女には結構こたえるんですよ? 自分で言うのもなんですけど、私、尽くすタイプですから……」

「へー……まあ、ホントに自分で言…………」

 ………………あれ?
 今、何か重要なことをさらっと言わなかった?

 はっとしてナナに目をやると……視線がこっちに向けられ、顔が少し赤くなっていた。

 お互いにお互いを見ているせいで、必然的に目が合い……しばしそのまま、固まる。
 どちらも何も言わないどころか、指一本微動だにしないままで、数秒ほどが過ぎた。

「……えっと……ナナ? あの、今……」

「言いましたよ? ミナトさんが好きだって」

 当然のようにそう言ってのけるナナの口調からは……こういう話特有の浮ついた抑揚みたいなものはまるで感じなかった。全然全くいつも通り、天気の話でもしているような口調。

「あらかじめ言っておきますと、社交辞令でもなければ人間性の話でもないです。男と女の意味で、LIKEじゃなくLOVEで、私はあなたが好きです、ミナトさん」

「……すごく平然と言っていただいておりますけども」

「はい……どういう感じで言う、というか切り出そうか結構悩んだんですけど……なんか面倒になったのであえてさらっと言ってみました」

「なんか全体的にぶっちゃけるね、ナナ。ていうか……」

 本気? って聞こうとして……やめた。
 真正面から目を合わせてくるナナ。その目が……あまりにも真剣だったから。

 少なくとも、口調こそ砕けたりふざけた感じではあっても……中身は冗談で言ってるわけじゃなさそうだ、って、視線だけで感じ取れるくらいに。

 そのまま何も言えずにいたら、ナナは目の前ですっくと立ち上がり……僕が座ってるソファに一緒に腰掛け、僕に身を寄せるようにしてきた。そのまま腕を抱き、胸が押し付けられてやわらかい感触が伝わってくる。

「……なんでいきなり、って思ってますよね」

「そりゃ、まあ……」

「……ちょっと、焦っちゃったんです。最近ミナトさん、色んな女の娘と仲いいから」

 ナナ曰く、最近の僕は、周りにいる女の娘達とどんどん仲よくなっていっているという。

 久しぶりに会ったスウラさんやギーナちゃんとは、元々知り合いで仲がよかったこともあって、最近では一緒に訓練したり世間話に花を咲かせたりと、気兼ねなく付き合えている。

 それに加えて、ここラグナドラスに来てから知り合った女の娘達とも。
 アリスにクロエにネリドラ……最初はビジネスライク、ないし一歩引いた感じの付き合い方だったけど、今ではスウラさん達同様、口調こそ敬語だけど友達感覚だ。

 それに引き換え……ほとんど自分は進展もなく、今までと同じ秘書的な立場のままだったことにナナは焦燥感や物足りなさを覚えていたのだという。

「……思えば、ミナトさんのことが本格的に気になりだしたのは……シェリーさんが名実共に『愛人』になってからでした。その後、元々たくさんいたのに、さらに女の子が回りに増えて、仲良く……それでも、ここに来る前はそこまで気にはならなかったんですけど……」

「? 何で?」

「……エルクさんがいたからですよ」

「は?」

 エルクって……どゆこと? なぜここでうちの嫁の名が出る?

「エルクさんは……自他共に認める、ミナトさんの『正妻』です。誰よりもミナトさんを愛してて、誰よりもよくミナトさんのことをわかってます。ミナトさんに大なり小なり好意を抱いている女にとって……彼女は別格なんです。愛人であるシェリーさんですら、及ばないほどに。だから必然的に……情けない話ですけど、彼女が比較対象になってる環境下では、さほどミナトさんと進展がなくても、納得できちゃってたんです」

 でも、と続けるナナ。

「そんなエルクさんがいない所に来て……スウラさんやギーナちゃんどころか、初対面だったアリスやクロエ、ネリドラちゃんもどんどんミナトさんと仲良くなっていくのに、私は今までのまま……色々と、ごまかしようも無いことに気付かされました」

 自分ひとりが足踏みをしている中、急速に仲良くなっていく僕と女の子達。
 それを目にするたびに、心の奥に悔しさや焦りを感じていたという。

 その理由には最初から気付いていたものの、あと一歩踏み出す勇気がなく、また僕が研究に集中しているこんな時に言うようなことでもなかったため、今まで言い出せなかったという。

 しかし最近、ある理由から自分の中の焦りが急激に高まっていくのを感じ……我慢できなくなったというのだ。

 が、その『ある理由』が何なのかと僕が聞いたら……なぜか帰ってきたのはジト目だった。

「……やはりお気付きでないようですね」

「は?」

「何でもありません……こういうのは私の口から言っていいものでもありませんので。ともかく……それで私、その、我慢できなくなって……こうして思いを伝えさせていただいた次第です」

 一部いまいちよくわからないけど、そういうことらしい。
 それに、とナナは続ける。なぜか、少し顔を赤くして……目を微妙に逸らして。

「ミナトさん自身……そろそろご無理をしていらしてはいないかと。その、ここには……夜のお相手がおりませんから」

「ブファッ!!?」

 突然飛び出したとんでもない一言に噴出す僕。

 え、え!? ちょ、何いきなり!?

「船にいる間は、エルクさんやシェリーさんが閨を共にしていらっしゃいましたけど、ここにはお2人はおろか、娼館すらありませんから……まあ、ミナトさんならあっても使わないでしょうけど」

 全身を使った僕のリアクションに目もくれず、顔を赤らめ、目を微妙に逸らしたまま話すナナ。

「そんな環境で、閉じこもっての禁欲生活もそろそろ2ヶ月になります。それでも、私や周りの女性にそんな所を全く見せずにいるミナトさんはさすがだなと思っていたんですが……最近になってあるきっかけで私、己の浅はかさを知りました。ミナトさんも、必死に耐えていたのだな、と……」

 え!? 何それどういう意味!?

 禁欲生活云々はともかく(いや置いといていい事柄でもないけど)、僕が『耐えていた』って何!? それを知ったって何!? 全然全くそんな覚えないんだけど……。

 いやそりゃ、全くそういう欲求を覚えなかったのか、意識もしなかったかって聞かれれば、僕も男だし何も思わなかったとは言わないよ!? 特に最近は、クロエとネリドラの『監視』もあったし、それ以外にも囚人の身体検査とか目にする機会あったし。

 けど、その辺の欲求はきちんと制御できてたし、そんなそぶりをナナ達に見せたこともなかったはず。なのになんでそんな風に思われるに至った!?

 そう聞くとナナは、だまって僕の事務作業用デスクの方に歩いていき……そこに詰まれている書類の中から、1枚を手に取った。
 そして、それを自分の目の前に広げ……

「ネリドラは《放送禁止用語》を広げて《放送禁止用語》を《放送禁止用語》したが、以前は何をしても《放送禁止用語》だったにも関わらず今は《放送禁止用語》となっており、また《放送禁止用語》だった。この原因について本人は《放送禁止用語》を《放送禁止用語》で……」

 ――ガタァン!

 ナナが音読した内容に、僕はソファごとひっくり返った。

 ちょっ、ナナ、それは……

「ご自分でこんな、いやらしい内容の小説を書くなんて……しかもモデルがネリドラさんだなんて……。いささか性欲の発散? 暴走? のさせ方が特殊すぎることに違和感こそ覚えましたが、そんなことより、こんなになるまでミナトさんの負担に気付けなかった自分が情けなく……」

「ちょっと待ったナナ! それ違うって! 誤解だってば!」

 それはネリドラが書いてくれたレポートの内容をカルテに纏める時に作った下書き!

 れっきとした研究資料であって決して僕の自作のエロ小説じゃない! ネリドラのレポートの内容がそもそも特殊だったから必然的にそうなったんであって、決して僕の頭の中にあった欲求とか願望を文章に起こしたものじゃない!!

 あわてて弁解するも、目じりに涙すら浮かべているナナの耳には届いていない様子で……

「いえっ、何も言わないで下さい、ミナトさんも男の子なんですからこれくらい当然です! それよりも私が不安なのは、ミナトさんがこのまま暴走してここに書いてあることを現実にしてしまわないかと……ええそうです、こんなに詳細な文章に起こすくらいです、ネリドラさんにそういった欲求を抱いてしまっていても繰り返しますが男の子ですから何も不思議じゃありません!」

「だから違うって、聞いて話を!」

「脳内や紙とインクで色々するくらいならともかくそれだけはだめですミナトさん! そうなる前に……私の体でよければお好きなようにしていただいて……」

「話聞けっつーのホントに!!」

 極度のパニック状態になると口調が乱暴になることがあるというツッコミ的な僕の癖を何気に自覚しつつ、どうにかこの誤解を何とかしようとナナに必死で弁解をしていると……ふと、違和感に気付く。

 正面から見据える、ナナの目。
 悲痛そうな表情に反して、その目が……なぜか笑ってるように見える。

 ……あれ? これはまさか……

 そう思った次の瞬間、ナナはそれまで浮かべていた悲痛そうな表情が一瞬で引っ込み、けろっとしたいつもの笑顔になった。涙もうそなきだったのか、全く見られない。

「なーんて、冗談ですよ♪」

「……は?」

「ミナトさんがそんなことする人じゃないってことくらいわかってますよ。これも……ちょっと内容はアレですけど、研究用の資料ですよね?」

「………………」

 とりあえず、ちょっと腹立ったので無言でデコピンを一発。
 『あぐっ!?』と、割とマジな感じの悲鳴と共に大きくのけぞるナナを見ながら……僕は、安堵と困惑が入り混じった表情になっていたと思う。

「いたたた……いや、あの、からかったのは謝りますけど……今のは割と本当に痛いですよ……」

「自業自得でしょうが、このおバカ」

 述べろ、可及的速やかに、今回のこの心臓に悪いドッキリを観光した動機を。
 物証はともかく、心情の面にはちょっと心当たりあっただけに本気で焦ったじゃないか。

「えっと、その……実は、エルクさんのアドバイスで……」

「は? エルク?」

 何でまたここで、我が嫁の名前が出る?

「その……ここに来る前に、エルクさんとシェリーさんに相談したんです、ミナトさんに告白する時、その……どんな風にしたらいいかって……」

 話を聴くと、どうやらナナが僕を好きでいることは、僕以外の『邪香猫』メンバー全員に周知の事実だったらしい。エルクたち女性陣にはあるきっかけから知れ渡ることとなり、その後ザリーにもばれたそうだ。僕を見る目が変わったとかで、奴の観察眼に見抜かれたと。

 ……その『きっかけ』ってのが何だったのかは教えてもらえなかったけど……なぜだろう? 本能的に効かない方がいいことのような気がする。

 それ以後、僕に告白すると決めたナナは、エルクとシェリーに色々相談していたんだそうだ。
 どう告白したらいいのかとか、その辺を。

 2人共『ナナならいいか』ってことで、僕の愛人その2になることは何も反対しておらず(むしろシェリーはノリノリだったそうな)、親身になって相談に乗ってくれていたそうだけど……その中でエルクに、告白の際のアドバイスとしてこんなことを言われたのだとか。

『あいつははっきり言わなきゃわかんない鈍感だけど、言ったら言ったで今度は戸惑ってガチガチに緊張すると思うから、冗談か何か言って緊張ほぐしてあげればいいわ』

 ……当たっているだけに文句を言いづらい。
 というか、ホントにうちの嫁は僕のことをわかってるな……。

 ため息をつく僕の前で、説明を終えたナナは、次の瞬間ふいに、けろっとした笑顔から真面目な顔になり、雰囲気を一変させた。
 そして、真正面から僕の目を見据え……口を開く。

「ミナトさん……くだらない冗談で困らせたことは、心から謝ります。でも私は、本当にあなたのことが好きです。社交辞令でも、奴隷身分から助けていただいた負い目や恩なんかでもなく、1人の女としてあなたが好きです。だから……」

「……っ……」

「……もし、あなたさえよろしければ……エルクさんやシェリーさんと同じように……愛していただけないでしょうか。ミナトさんの愛人としての末席に、ぜひ私も……」

 そう言って、ナナは僕の胸に飛び込んできた。
 ぎゅっと僕の服をつかみ、寄りかかってきて体重を預けてくる。

 身長、座高ともにほとんど違わないせいで、胸に寄りかかってきても、頭の位置はほとんど僕と同じなため……肩の辺りに頭が来る。

 息遣いが耳に届き、女性特有のやさしいにおいが鼻に飛び込んでくる。体ごと押し付けられている胸から腹のあたりには、ナナの体の柔らかい感触が感じられる。

 さっきのナナの『冗談』とそのネタばらしで、たしかに幾分緊張は緩んだものの……やっぱり、自分を好いてくれている女の子が、こうしてもたれかかってきているということを認識すると、緊張するし鼓動も早まる。

 ふと、ほんのちょっとだけ視線を左下に下げると、そこにはナナの藍色のさらさらの髪と、その下に見える色白の肌が色っぽいうなじが見えて……

 
 ……その瞬間、僕は絶句した。

 
「…………ナナ」

「……はい」

「服……脱いで」

「……っ……はい。でも、それなら部屋を……え? ミ、ミナトさん?」

 ナナが何か言うよりも前に、僕はナナの服――勤務時間は終わっているため、部屋着である――に手をかけ、ジャケット状の上着を脱がそうとしていた。

 いきなりのことに困惑するナナは、思わず僕の手を取って止めようとする。

「ミ、ミナトさん、ちょっ、待って……そんないきなり……。その、嫌とかじゃないですけど……せ、せめて寝室のベッドに……」

「いいから脱いで!」

「そ、そんな、でも……」

「そうじゃない違う! いいから肩見せて!」

「え? 肩?」

 僕が何を言っているのかわからない様子できょとんとしたナナの手の抵抗が止まり……その隙に僕はナナのジャケットを剥ぎ取り、さらにその下のシャツを強く引っ張って襟元を広げた。

 ナナが小さく『きゃっ!?』と声を上げたけど……その時には僕の注意はもう、ナナには向いていなかった。
 僕の目に映っていたのは……

「……ナナ……何コレ?」

「え? 何っって何が…………!?」

 僕の視線の先に、ナナも同様に目をやって……そして、同じように絶句した。

 そこには、ぐいっと強引に伸ばされた襟元からのぞく、ナナの白い肌と……

 
「……検査室ッッ!!」

 
 首元から肩にかけて広がる……赤い疱瘡があった。

 
 
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