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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第182話 ラグナドラスの闇

 

 その日僕は、朝からまた王女様の診察を行っていた。
 今日は、今までと違って……ちょっと色々と突っ込んだところまで、詳しく調べさせてもらっている。

 現在、王女様は……全裸で、腕や布で隠すこともせず、僕の前に立っている。

 そして、その裸体を360度周囲、さらに上下からもじっくり見て、魔法を使ってスキャンしている。調べていない所なんかが残らないように、全体を満遍なく……だ。

 正直、体中に『邪血疱瘡』が浮き上がってても、抜群のプロポーションときれいな肌のリンスレット王女の裸姿は、かなりティーンの精神にはきついものがあるんだけど……そこはそれ、診療行為として割り切って、極力意識しないようにしている。

 当のリンスレット皇女が全く気にしてないのもあって、幾分『コレは医療行為である』って自分に言い聞かせるのが楽だ、ってのもあるな。

 王女様の護衛の、ビクーニャさんとエルタージャさんの妖精姉妹も、男の僕に王女様の肌を見せるのは好ましくは無いらしいけど、瀬に腹は帰られない、ここで気にして病を治せなくなるよりはってことで納得してくれてる。
 ベッドの所できちんと、妙なことをしないように監視してるけども。

「あんまりじろじろ見るんじゃないわよ。でも、きちんと見なさいよ」

「ビク姉、言ってること変っすよ。まあ、言いたいことはわかるっすけど」

「うるさいわね。っていうか……この鳥は何してんの? さっきから殿下の周りを飛び回って……」

 と、ビクーニャさんが見上げる先には……僕の指示を受けて縦横無尽に飛び回っているアルバ。

「ですから、さっき説明したように、アルバにも僕の目になってもらってるんですよ。患部をスキャンして見るには、アルバの目を通して見るとよく見えるんです」

 これは、『マジックサテライト』の応用である。

 僕はアルバと視覚の一部を共有し、アルバの目を通して王女様の体を、様々な方向からスキャンして見ているのだ。

 王女様の背中にある疱瘡を見る時は、アルバをそこに移動・滞空させて患部を凝視させ……その状態でスキャン用の解析魔法を使ってもらう。

 それを、サテライトの要領で僕も一緒になって見るわけだ。さらに見ながら、僕の方からアルバに指示を出してスキャンの方式を変えたりする。
 このやり方だと、ただ肉眼で見るより断然詳しく病状を把握することが出来る。

 診察の間中アルバが周りを飛び回ることになるから、人によっては若干うっとうしく感じるのが難点だけど……リンスレット王女、どうやら動物好きみたいで気にしなかった。
 賢いんですね、なんて言ってなでてたくらいだ。

 ……ちょっとうらやましかったのは内緒。

「よし……じゃあ、以上で終了です。エルタージャさん、服を」

「はい。殿下、どうぞお袖を」

「ありがとう、エル。ミナト様も、お疲れ様です」

「殿下が肌をさらしてまで協力してくださってるんだから……きっちり仕事してよね」

「だからビク姉……口調きっついっすよ。てか、猫かぶるのやめたんすか?」

 ……そういや、最初に会った時はビクーニャさん、僕に対しても敬語だったけど……なんか今は砕けた感じに話してるな。ちょっと乱暴な口調になった……とも言えるけど。

「うっさいわね……こないだ触診の時に思わず地で怒鳴っちゃったから、それ以来こうなのよ。よく考えたらあんたもその雑な口調で対応してるし……いいかなって」

「ひどいっす……」

「大丈夫よ、ちゃんと敬意は払ってるし……研究者として理解も信頼もしてるから」

「2人共、だから殿下の前でぺちゃくちゃと……申し訳ありません殿下」

「いいのよエル。仲がいいのはいいことだわ……ミナト様、少し騒がしいですが……許してあげてくださいね?」

「あ、はい、それはもちろん……じゃあ、今日はコレで失礼します」

 何か最初に着た時と比べて、結構なじんだ気もするな……なんて考えながら、僕はアルバを肩に止めて、ミーシャさん、ナナ、ギーナちゃん、そして義姉さんと共に王女様の部屋を後にした。

 ……この十数分後、厄介事に巻き込まれることになるとは知らずに……。

 ☆☆☆

 ある日の夕方。
 夕食後から還房までのわずかな時間。
 共有スペースの、人目につきにくいある一角で……それは起こっていた。

「痛……っ!」

 張り倒され、床に倒れこむ少女。その表紙に……こげ茶色の髪が乱れ、床に広がる。

「バカ、何やってんだいあんた!」

「で、でもこいつ生意気で……これだけ私らが誘ってんのに……」

「わかってるよ、顔をはたくバカがあるかって言ってんだよ! 腫れちまったら抱く男が萎えちまうだろ。今日からもう使う予定なのに」

「ご、ごめん、悪かったよ……バーバラ」

「ったく……まあいいや。で、クロエ……気は変わったかい?」

「……誰がッ!」

 手下を一喝した後、しゃがみこみ、倒れているクロエに顔を近づけて問いかけるのは……集団のリーダー、バーバラ。

 今日は、彼女がクロエに『返事を聞く』と言った日であり……彼女の中では結果の決まった『返事』を、今正にクロエの口から聞き出そうとしている所だった。

 しかし、変わらず繰り返される断りの返事に……今日のバーバラは苛立ちを隠そうとしない。

「あんた、今の状況わかってんのかい? 断れると思ってんの?」

 バーバラは、クロエの髪を乱暴にわしづかみにした。そのままぐいっと顔を引き寄せる。

「痛っ……放してよっ!」

「だったら強情はるのやめな! 新入りのあんたに今よりいい暮らしさせてやろうって言ってんだ……先輩の好意を袖にするってのかい! なめんじゃないよ!」

「何が好意よ、ただの売春じゃない、そんなの……あぐっ!」

 最後まで聞かずにバーバラは立ち上がり……クロエの腹を蹴った。
 痛みでクロエは息がつまり、体を『く』の字に曲げ、歯を食いしばって耐えている。

「いい子ぶってんじゃないよ! 監獄こんなとこにいる時点であんたと私に違いなんてないんだからさぁ……それに、せっかくそんな武器持ってんだから、使わないでどうすんだい?」

 言いながら、バーバラの視線は……囚人服を来ていてもわかる、クロエの女性的なスタイルを上から下まで嘗め回すように見ていた。

 これから、男性看守への『捧げ者』として有効活用する予定の、見目麗しく体つきも文句なしの掘り出し物。何としても自分の手駒にする……そんな嫌な決意が、一層固まった。

「こんなとこにいるんだ……あんたも生娘ってわけじゃないんだろ? それとも、意外や意外……ホントに未通子おぼこだったりするのかい? どっちでもいいけどね……こんな場所でそんなもん守ってたっていいことないんだ、有効に使わないとバカ見るよ!」

「そうそう……むしろ娯楽なんだからさ、これは」

「食って寝て働くだけの毎日なんて嫌だろ? あなたもも楽しんじゃいなさいよ? それで点数ももらえる上に、バカやっても味方になってくれる男を捕まえられるんだから、いいこと尽くめよ?」

「ほら、さっさとうんっていいな」

 立て続けに投げかけられる言葉が、苦しむクロエに届いていたかは定かでは無いが、その数秒後、呼吸が整ってきたクロエは……先程までと同じ目つきで言い放つ。

「……嫌よ」

「…………」

 何も言わず、足を振り上げるバーバラ。
 狙いは、また……腹。

 と、それが振り下ろされようとしたその時。

 バタン、と大きな音がして……クロエへのリンチに使われていた密室の扉が開け放たれ、外から1人の看守が入ってきた。若い男の看守が。

 その光景に、驚きと同時に希望を覚えたクロエだが……

「なっ、何だあんたかい! 脅かさないでくれよ……まだこいつの教育なら済んでないよ?」

 バーバラのその言葉に、理解してしまった。
 今飛び込んできたこの看守は……バーバラが飼いならしている看守なのだと。そして……自分の敵なのだと。

 しかしその看守は、クロエのことなど気に求めず、慌てたようにまくし立てる。

「いいからお前ら、さっさとズラかれ! ここに別の看守が向かって来てんだよ! もう2分もしないうちにくるぞ!」

「はぁ!? 何で!? ここはもうしばらく見回りはこないはずだろ!?」

「他の女囚がチクりやがったみたいなんだよ、お前らがここで騒いでるって! 俺達の息がかかってねえ奴だ、見られるとまずいぞ!」

「……っ……くそ、行くよ!」

 ちっ、と悪態をついて、バーバラは看守が入ってきたドアから外に出る。

「バーバラ、こいつどうすんの?」

「ほっときな!」

 あれよあれよという間に、バーバラ達はその部屋から立ち去った。彼女達が抱きこんでいる男性看守の1人と共に。クロエを置いて。

 残されたクロエは、ゆっくりと起き上がり……とりあえず体を壁に寄りかからせた所で、再び扉が開いた。

「? 誰もいな……くもないな」

 飛び込んできたのは……別な男性看守だった。
 それも……クロエとほとんど年の変わらなそうな、黒い髪の少年だった。

 ☆☆☆

 いや、びっくりした。
 いきなり見覚えのある囚人の女の子が駆け寄ってきて……『向こうで大人数のグループが1人の囚人をいじめてるから来てほしい』っていきなりいうんだもん。

 しかもその子……前に何度か(・・・)懲罰房で見た覚えのある、桃色の髪の女の子だった。

 そのことにぎょっとしたけど、言ってる内容は無視できるものじゃなかったので……ギーナちゃんとナナと一緒にそこに行ってみた。

 部屋に入った瞬間はわからなかったけど……部屋の壁に寄りかかるようにして座っている女の子がいた。よく見ると……顔が少し、赤くはれてるような娘が。

 すると、僕の後に入ってきたギーナちゃんとナナもそれに気付いて……なぜか、ナナがぎょっとしてた。傍目から見てもわかるくらいに、息を呑んでた。

「っ! ク……」

「クロエ!」

 と、ナナが思わず何かを言いそうになったその瞬間……最後に部屋に入ってきた、桃色の髪の女囚……177番が、座り込んでる629番の所に駆け寄った。629番の個人名である名前を叫んで。

 そのことで、驚きに固まってたナナが再起動したみたいだ。はっとして姿勢を整え……しかし、目に浮かんでいる不安や動揺は隠しきれていない。

「クロエ、大丈夫だった? 怪我は?」

「ネリドラ……ありがとう、大丈夫、心配しないで」

 お互いの名前を呼び合う2人の女囚を見下ろし、そしてチラッと横のナナにも目をやり……僕は、厄介事とは言わないまでも、またコレは何か複雑なことが起こってるんじゃないか……と、なんとなく思っていた。

 
 その後、僕らはひとまず629番の子を医務室に運び……177番には、簡単に事情を聞いた後で房に戻した。

 そして、後のことは担当の人達――アリスさんに選んでもらった、完全に信頼の置ける看守もしくは医務官――に任せて、業務復帰。
 しかしそれもすぐに終わり、ナナたちと一緒に昼食をとることにした。

 その席で……以前から気になってたことを、ナナに聞いてみた。

 『あのクロエって子、誰?』と。

 するとナナは、それを聞かれることも予想していたらしく、落ち着いてこう返してきた。

「……長くなるので、お部屋に戻ってからでもいいでしょうか?」

 何だか、ちょっと疲れた様子のナナのその言葉に……僕は、黙って頷いた。

 ☆☆☆

 ちょうどそのころ、ミナト達の乱入によって規則違反が露見する危機を免れたバーバラは……誰もいない部屋で、さっき知らせを持ってきた男性看守に詰め寄られていた。

「無理ってことかよ……今日は新入りが抱けるっていう話だったじゃないかよ」

「し、仕方ないだろ……邪魔が入っちまったんだから。医務室につめてる連中も、味方じゃない奴らばっかりだし……もうちょっと待っとくれよ」

「ケッ、仕方ねえ……けどよ」

 ずい、と前に出る看守。

「こっちはお前らの不都合を我慢してやるんだ……埋め合わせってもんが必要だよな?」

「…………」

 バーバラは黙って、男が暗に要求してきていることに従う。
 衆人服に手をかけ、看守が見ている前で脱ぎ捨てた。

 抱き込んでいるとは言っても、相手は看守……彼女は見逃されている立場。従う立場なのだ。

 目の前に差し出された『埋め合わせ』に、男性看守は悪態をつきつつも、にやついた顔を隠そうともしない。

「ま、今日はコレで我慢してやるよ……けど忘れるなよ? 俺もそうだけど、看守長も……あの娘のことは期待してんだからよ。今更無理だなんてこと、許されねえぞ?」

「わかってるよ……さっさと、済ませなよ」

 
 それからしばしの間、看守に好きなようにされながら……バーバラは静かに、胸のうちに苛立ちの炎を燃やしていた。

(どこのどいつだ、チクりやがったのは……ッ! 私の邪魔をしやがって……ただじゃおかない!)

 
 
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