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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第174話 100年前の大失敗

……なんかうちの第一王女様、敵キャラより敵視されてるなあ……。
文章表現って難しいです……。

そして今回、会議の時にクローナの話がさえぎられた理由が明らかになったりします。蛇足かもしれませんが。
第174話、どうぞ。
 

「……ってな感じで会議は終わりまして」

「……またエレーもん任されそうになってんな、お前」

 なんか僕がすでに受ける前提で話して多様な気がする第一王女様に、とりあえず返事は保留にさせてもらって(ギルド経由で返事することになってる)、解散。

 そして今、夜になって……師匠の所に相談に来た。エルクとナナと一緒に。

 いつも通り、ノーパンにバスローブでソファにどっかり腰掛けてる師匠。
 しかし最近はもう慣れてしまったのか、特に戸惑ったりせずにこうして向かい合っていられるようになった。師匠自身、恥じらいとか皆無だってのもあるし。

 そんな師匠は、ワイングラスの赤ワインをぐびっと飲み干しながら、

「で? お前がまた何か厄介事に巻き込まれそうになってんのはわかったが……それで俺に何の相談だって?」

「あ、はい。えっと……結局この依頼、どうした方がいいのかって意見をお聞かせ願いたいのと、もう1つ……師匠が昼に話そうとしてたことの続きを聞きたくて」

 会議の場では、かなりの急ピッチで話が進んだ……というよりも、第一王女様が独走状態で進めていたため、色々な所を深く議論する暇がなかった。それに伴って、この依頼についてメリットやデメリットを考えて、細かい判断を下したりする暇も。

 何せ今回のコレ、思いっきり国の中枢部が、しかも2国分も絡んだ案件になってるし……さすがに受けるに当たって、慎重になった方がいいと思って。依頼の内容も、いつも僕らがやってるような護衛とか討伐みたいな単純なものじゃないし。

 なので、情報および判断材料は出来る限り多くそろえた上で判断したいと思っている……というようなことを言ったら、なぜだか師匠に怪訝な顔をされた。え、何?

「……話はわかった。昼言いそびれた話を聞かせてほしいってんなら、話すのももちろんかまわねえ……が、その前に1つ、指摘せにゃならん点があるな」

 言いながら師匠、グラスの中のワインを全部飲み、空になったグラスを僕の方に指すように向けて、

「単刀直入に言わせて貰うとだな、バカ弟子……自分の中で結論が出ていることを、わざわざ俺に相談しに来るな」

「……はい?」

 どういう意味?

「……なるほどな、自覚無しか」

 呆れたように言う師匠。三白眼で僕を睨みながら……いいか、と口を開く。

「とりあえず最初に確認しとくとだな、お前、会議の最中に王女にそーいう感じで話を振ってこられて、どう思った?」

「どう、って言うと……」

 簡単に言えば……いつもながら、いや、いつも以上に強引だなあ、と。

 最後に『頼んだぞ』なんて確認のされ方した時は、特にそう思った。『あれ、何かこの人もう僕に依頼する気満々で話してない?』って。

 けどそれは、妹さんの命がかかってるわけだからわからなくも無いし、しかも聞く限り時間がないわけなんだから、多少焦る部分もあるだろうとは思う。もともとが上から目線な感じのある人だから……と、そのくらいに思った。

 結局その後、一応考える時間とかもくれたし、契約の内容は――薬の作成に関しては、ギルド通すわけには行かないけど――後日あらためて話して決めることになったし。

 それにそれはあくまで『薬を作る』ってことについての依頼と報酬その他についてであって、作った薬に関して、権利や販売による利益等には一切タッチしない旨も約束してくれた。全部僕自身に帰属することであり、依頼を理由にその利権の一部を要求することは一切無い、って。もちろん、契約にそう盛り込んでくれるとのこと。

 そしてもう1つ、
 現段階で確定ではないにせよ、こちらに成功報酬としてざっと提示してくれたものの中に……僕ら一同開いた口がふさがらないくらいとんでもないものがあったからだ。それも、いくつも。

 いや、まさかあんなものを提示してくるとは……王女様、この件に関して滅茶苦茶本気なんだな、ってことがよくわかるものだった。

 エルクやナナ、義姉さんも、あまりにぶっ飛んだ内容に『本気ですか!?』って何度も確認してたほどだ。

 そのことを話すと、さすがに師匠も『ほぉ~』と驚き、感心していた。

「なるほどな……無茶振り依頼への対価としては、まあ、悪くはねえわけか……けどなミナト、こいつはいわば事後的に提示されたもんだろう? 第一王女が上から目線で強引に話を進めていた時は、これはまだお前の耳には入ってなかったはずだ」

「? ええ、そうですね」

「にも関わらずお前は、第一王女の横暴とも言えるであろう強引な物言いに対し、大して反感を抱くこともなしに話を進めていた。進めることが出来ていた……俺が指摘してーのはそこだよ……何でお前、その会議の場での王女の物言いに反発しなかった?」

 ? 何でって……

「……特に、気にならなかったから、じゃないですかね?」

「それは何でだ?」

 師匠、またしても『何で?』って質問。

 いや、何で気にならなかったって言われても……何て言えばいいんだろう?
 何ていうか、あの場ではホントに、感覚的にほとんど気にならなかっただけだし。何で気にならないのか、なんていう確かな理由みたいなのが頭の中にあったわけじゃない。

 あえて言うなら多分……この人はこういう人だって元々わかってたからだとか、妹さんが今正に大変な病気にかかってるんだから助けてあげたいな、って感じのことを、無意識に心のどこかで思ってたから……みたいな感じですかね?

 そう師匠に答えると、

「それもあるだろう……だが俺が思うに、最大の理由は違う」

「最大の理由?」

「ああ……聞きてーか?」

 その問いに、ほとんどノータイムで頷く僕。
 師匠は『そうか』と言うと、真っ直ぐ僕の目を見て……口を開いた。

 
「それはなミナト、お前が……もうすでに依頼を受ける気、と言うよりも……そいつらを助けるつもりだったからだ。それも、病気の妹云々はほぼ関係なく、顔見知りで仲がいいネスティアの第一王女らが困ってる、っていう時点で、自主的に、な」

 
 ☆☆☆

 
 一方その頃、こちらは……また別の場所。
 詳しく言えば、会議が行われた場所からネスティア王都・ネフリムまで行くためのルートの途中。

 そこを走るネスティア王家専用の竜車の中で……第一王女・メルディアナは、奇しくもこの同時刻にクローナがミナトに対して諭しているのと同じことを、同乗しているイーサ達に対して説明していた。

「ミナト・キャドリーユが……最初から殿下に協力する気だった、と?」

「そうだ……そして、それを念頭に置いて私は交渉に当たっていた。……それが、奴の善意と好意を利用することだと知っていてなお、な」

 竜車の窓の外、遠くの地平線を眺めながら呟くメルディアナ。
 イーサから見えるその目は、どこか物悲しげな光を宿していた。

「優しい子だ、という話はアクィラから聞いておりましたからな。困っている殿下を見捨てておけなかった、というわけですか」

「いや、それは違うぞイーサ。ミナトは私やリンスレットの境遇に同情して助けようと思ったわけではない。まあ、それもなくはないだろうが……本質は違う」

「? と、申されますと?」

「奴は確かに優しい。だが、例えば今回困っていたのが私でなく、見ず知らずの他人だったなら、こうはならなかった可能性が高い。数多の医者に治せなくとも自分には出来るかもしれない……それがわかっていても、『専門家に頼め』と動かなかった可能性もある」

「助けるにしても相手は選ぶ、と?」

「正確に言えば、そういう相手でも……きちんとした依頼があれば動くかもしれん。きちんと契約を結び、報酬を用意すればな。だが、それが敵対している相手や個人的に嫌いな相手となれば……まず動かんだろう」

「それは……至極当然というか、人として当たり前の、ごく自然な考え方では? 別段、何も特別なところなどないように思われますが……」

「そこだ。イーサ、お前の言う通り……ミナトは一部の価値観を除いて、ごく自然、ごく一般的、ごく当たり前の考え方しかしないのだ。言ってしまえば、何か裏があるのではと我々が勝手に難しく考えているから、余計にややこしくなるだけでな」

「……?」

 ますます困惑するイーサに、メルディアナは例を挙げて説明する。

 例えばミナトが、それなりの難題を抱えて困っている人に出会ったとする。
 さて、その人が一体誰で、どんな立場の人だったら助けるだろうか?

 ①もしも、姉であるノエルだったら?
 抱えている問題が多少、いや相当な無理難題でも全力で助けるだろう。報酬など要求しないだろうし……まあ、くれるなら貰うかもしれないが。

 ②もしも、見ず知らずの他人だったら?
 基本関わろうとしないだろう。正式に報酬を用意して『依頼』するというなら、内容にも夜が、ビジネスライクで助けるかもしれないが、それでも無理ならきっぱり断る。

 ③もしも、敵対している立場の人物だったら?
 まず間違いなく、歯牙にもかけず一蹴する。勝手にすれば? 的な感じで。

「……やはり、至極当たり前の対応ですな」

「うむ。さて、ここで問題だイーサ……今回の件は、今述べた3つのうちのどれに当てはまると思う?」

 その質問に、イーサはしばし考えをめぐらす。

 ③は論外として……①も考えにくい。

 メルディアナは、ミナトが最初から協力してくれるつもりだった、と言っていた。

 それだけ聞けば①もありえそうではあるが、例えの内容から察するに、①はミナトが自分から積極的に協力するレベル……それこそ、仲間や兄弟、恩師あたりが困っているケースだろうと当たりがつく。

 が、メルディアナやエルビス、ルビスはおそらくはそこまで行かない。
 会議の場でイーサが見ていた限りでは、しっかりとメリット・デメリットを考えているようなそぶりもあったし、心のうちではどう思っていたかはともかく……積極的にこちらに手助けを申し出てきたわけでもない。

 しかし、丸っきり他人というわけでもない以上、残る②にも完全には当てはまらない。
 となると……

「どちらかと言えば①に近い②……といったところですか」

「そんなところだ。それを踏まえて、なぜミナトが①に近いとはいえ②の私やエルビスに、協力する方に最初から天秤が傾いていたか……わかるか?」

 再び思案を始めるイーサ。
 単純に考えれば、きちんと報酬を提案されたからビジネスライクで引き受けたのでは、というのが頭をよぎったが……ここでふと、先程のメルディアナの言葉がよぎる。

『何か裏があるのではと我々が勝手に難しく考えるから、余計にややこしくなる』

 それを踏まえ、イーサは務めて『単純』に考える。
 ミナトの立場を、意思を、そしてメルディアナとの関係を……

 そして、1つの結論に行き至るも……イーサはそれによって余計に混乱した。
 何せ、今回の『不治の病の治療薬の作成』という困難さ、しかもそれに関わっているのが2国の王族ということの大きさに比して、あまりに不釣合いすぎるほどに『普通』すぎる理由が見えたのだから。

 ミナトが、メルディアナを助けてもいいと最初から思っていたのは……

「まさか……いつもドレークアクィラが世話になっている相手だから?」

「…………」

 その沈黙は、何よりの答えだった。

 あっけに取られ、何も言えないイーサ。
 彼女も軍人、それも『大将』という高官である以上、それなりに貴族や商人などを相手に交渉ごとで渡り歩いてきた。そんな彼女にとって……いや、そういう立場にある者にとっては、ものごとの大きさに比して、その遂行に必要となる交渉などは加速度的に複雑化するものだし、様々な思惑が絡み、必然的に腹の探りあいが必要となってくる。

 今回の一件など、その最たるものだ。解決すべきは不治の病、関わっているのは王族、おまけに表に出すわけには行かない案件。普通に考えてツッコミ所満載。

 まさかこんな、『いつもうちの子がお世話になってます』とご近所が掃除を手伝うような感覚で手を貸してくれるなどと、誰が想像できようか。

 なおミナトは丁度同じ頃、クローナからそれについて指摘され……今正に、

『いやまあ、ドレーク兄さん達が日ごろお世話になってますし、第一王女様とも個人的にそこそこ仲いいじゃないですか? 仮にも命かかってますし、赤の他人ならともかく、断って見捨てたら今後会いづらくなるし……個人的にも後味悪いし』

 などということを言っていたことを、2人は知る由も無い。

 結局の所、ミナトはこれまた、自分の根っこの考え方にして、リリンから以前あらためて説かれたことを実行に移しているだけなのだ。

 『迷ったら、明日もご飯を美味しく食べられるような選択をしなさい』という家訓を。

「奴は……ミナトは優しいよ。優しく、素直で、誠実で……そして、甘い。ことがどんなに大きかろうと、あくまで自分の基準と考え方で判断する。こちらの価値観を察して手助けしてくれることはあっても、それを利用してこちらの隙や痛手に漬け込み、揚げ足を取り、自分に有利な条件を引っ張り出そうという気がまるでない。本当に普通で庶民的な、難しいことをいちいち考えなくていい付き合い方が基本なんだ……奴は」

 ビジネスライクが嫌いなわけではない。
 しかし、友達だったり仲間だったりする相手とは、極力難しいことを考えずに普通に付き合えるような……少し棘のある言い方をすれば、『ぬるま湯』とでも言うべき関係を好む。

 しかし、それは別に悪いことではない……むしろ、人と人との付き合い方としては、ある意味理想的だろう。もっとも、ある程度の地位や立場を伴えば、いとも簡単に捨てなければいけない考え方であるというのも確かなのだが。

 相変わらず窓の外に目を向けたままのメルディアナに、イーサは問いかける。

「……それで殿下、結局いかがなさるおつもりで?」

「いかがなさる、とは?」

「今回の交渉……率直に言って、一方的な上に穴だらけだったでしょう。解釈次第でいくらでもこちらのいいように条件をつけてしまえそうな部分がいくつもあります。まあ、今後の交渉で多少はそういった点をつめていくことにもなりましょうが……」

 もしメルディアナが今後、古参でやり手の貴族を相手にするように、本気で交渉に臨み、自分に最大限有利な条件をもぎ取ろうとするならば……それは可能だろう。

 おそらく、交渉によって条件をつめてくるのは、ミナトではなく交渉ごとの一切を任されている副リーダーのエルクあたりだろうが、それでも王族たるメルディアナは生まれながらの政治家であり、言い方は悪いが腹芸なら年季が違うし、補佐をつけることも出来る。

 最終的に、ただ同然の対価で最大の利益を上げることもそう難しくは無いはずだが……

「いや、それはありえん」

 メルディアナは、そうはっきりと言った。

「理由をお伺いしても? 自分もそういう友達づきあいがしたいとか、信頼を裏切るのが良心が痛むとか、そういうものではなさそうですが」

「そういう理由もないわけじゃないさ。正直な所……奴と話すのは楽しいし、何も深く考えず気兼ねなく話せる知り合いというのは、わたしの立場上貴重だ。実のところ、私もミナトに対してはそれなりに好意というものをもっているし……信頼もしているぞ?」

 これは嘘でもなんでもなかった。メルディアナにとってもミナトは、立場や裏表などややこしい部分を気にせずリラックスして話せる数少ない相手であり、今の関係を壊したくないとも思っている。

 また、ミナトの言葉を借りるわけではないが、普段よくしてくれているドレークやアクィラの弟ということもあり、粗雑に扱う気はない。

 それゆえにさらに身内に欲し、勧誘するという行為に火がついている点は否めないが。

 それに今回、ミナトは妹を助けようとしてくれているのだ、そんな相手の善意につけこむような、賢けれども恥知らずな真似をするなど、メルディアナには言語道断だった。

「それもある、ということは……それ以外にも理由がある、ということですな?」

「ああ。単純な話だ……そんなことをすれば今後、ミナトからの信頼は確実に失われる。最悪、敵としてみなされる。それだけは避けたい」

 恩着せがましくするようなつもりは全くなく、最初からほとんど善意によって助けてくれるつもりだったとしても……こちらの対応が誠意を感じないものだったり、善意につけこんで色々と要求するような強欲さを見せれば……いかに身内が世話になっている相手だとしても、心象は最悪になってしまうだろう。

 これが、一介の研究者だったり、多少腕が立つ程度の名もなき傭兵や冒険者ならば、そうなっても痛手ではないが……今回の場合は違う。

 ミナト・キャドリーユという個人は、そして彼が率いる『邪香猫』は、そんな使い捨て感覚で付き合っていいような相手では決してないのだから。

「Sランクの戦闘能力は、最早人間兵器という言い方すら生ぬるい。それこそ、1人で一軍に匹敵すると言っても過言ではない。しかもミナトの場合はそれだけではない。薬に魔法にマジックアイテム……それらの研究・開発における能力に比類ない。これだけ揃っている存在との繋がりを切り、あまつさえ敵に回すことの意味がわかるか?」

 どれか1つだけでも喉からでが出るほどに欲する才能……その全てを保有するミナト。
 メルディアナの見立てでは……将来、人材としてドレークすら超える価値が出る。

 味方につければ――今は正に味方と言っていい立ち位置にいるが――頼もしいことこの上ない。言うなれば金の卵を産む鶏、付き合い方を間違えなければ、素晴らしい宝や力をいくつもこの先もたらしてくれるだろう。仲がいい、というだけの理由で。

 しかし、敵に回せばその時は……損害としては、国が一つ敵に回ってしまったに等しい、あるいはそれ以上の大損害となる。手に入るはずだった素晴らしい技術や品物、そして武力は永久に失われ、それどころかそれらが将来、自国に牙を剥く可能性すらある。

 国益を何より重視する『王族』という立場から見て、明らかにミナトは『機嫌を損ねるべきではない』存在。理想的な付き合い方をできているなら、それを継続すべき存在だ。

 もし、何かのきっかけでミナトがこの国を見切るようなことがあれば……

 
『あーもうこの国やだ。みんな、引っ越そう』

 
 本当に軽く、そんなことを言ってネスティアを去り、二度と戻ってこず、味方もしてくれない……そんな未来を想像して、メルディアナはぞっとする。

 さすがに、気に入らないという理由でネスティアそのものを滅ぼすようなことはないとは思うし、もし仮にそうなっても、現時点ではおそらくミナト以上の戦闘能力を持っているであろうドレークやアクィラあたりが抑えてくれそうではあるが……問題となるのはむしろ武力ではなく、先程も言ったミナトの開発力による恩恵だ。

 その数や質、そしてミナトの協力の度合いによっては、下手をすればこの大陸の勢力図そのものが大きく書き変わってしまう可能性すらある。
 ミナトが今まで何を作ってきたかを知っている者ならば、当然の考えだ。

 戦闘に生活に有用な、多種多様な新魔法、マジックアイテム。

 浮遊戦艦・オルトヘイム号。

 大陸縦断すら可能にする超長距離転移システム。

 そして……不治の病にすら対症療法として有効な『薬湯』。

 これらはほんの一部。しかも今なお、ミナトは研究者として『成長途中』だというのだ。
 これでも敵に回そうなどと思える奴がいたら、メルディアナは顔を見てみたかった。

 正直な話、リンスレットの未来がかかっているとはいえ、あのように強引な物言いで話を進めてしまったことも、現在は半ば後悔しているのだ。あれでわずかでも、機嫌が悪くなってしまってはいないか、悪い印象をもたれてしまってはいないかと。

 仮にネスティアから出て行かれてしまったとして……その後行ってしまった国がどこかによっては、目も当てられない事態になる。

 ジャスニアならまだいいだろう。同盟国であるし、ミナト個人はともかく国同士の関係として無碍に扱われるようなことはあるまい。国力に如実な差が出て、扱いが下がってしまう程度は覚悟すべきかもしれないが……最悪でも滅ぶことは無い。

 チラノースなどに行かれてしまったら最悪だ。あの国はミナトの開発力によってもたらされたマジックアイテムや資産をもとに武装を進め、嬉々として侵略戦争を開始しかねない。戦争とまではいかずとも、威力外交に拍車がかかることは間違いない。
 もっとも、ミナト自身がチラノース嫌いなので、あまり心配はいらないとは思うが。

「それでも、将来ネスティア以外の国がミナトの力と恩恵を独占して力を得ることは絶対に避けたい。ジャスニアやチラノースのみならず、フロギュリアにリアロストピア、シャラムスカ……他にも、『6大国』以外にも小国はいくつもある」

「理想は、ミナト殿をジャスニアとわが国でシェアすることですかな?」

「言い方は好ましくないがな。それに、放っておいてもこの先、ミナトは争奪戦になる。関わる機会があったからこそ私はその価値にいち早く気付けたが、他国もいずれ奴のことを知り、勧誘を始めるだろう。その時になってもミナトがこの国を見切らずにいてくれるよう、今私達は最善を尽くさなければならんのだ……前科もあることだしな」

「? 前科、とは?」

「……会議の折にいた御仁を覚えているだろう? 『冥王』クローナ……彼女に対して、ネスティアは一度大ヘマをやらかしているのさ、大昔にな」

 自分どころか、イーサすら生まれていない頃の話だ、とメルディアナは語る。

 約100年前、当時クローナはこの国の都市部に居を構えていて、今回と同じように画期的な薬を完成させ、過去にあった不治の病の一つを完治させることに成功した。

 しかし、それによって生じる利権を目当てに国内の貴族や各種組織が殺到し、朝も昼も夜もなくクローナに対して契約や交渉、果ては『我々と組まないか?』などと勧誘を始めた。断っても断ってもそれは止まることはなく、エスカレートする一方。

 しかも、貴族の要らぬプライドによって、それらはもれなく上から目線で高圧的だった。
 『我々の役に立てるのだ、ありがたく思え!』『断るだと!? 無位無官の根無し草の風情が無礼な!』『今謝って我らに従うと約束すれば許してやるぞ?』……etc。

 それでもあの割と短気なクローナが、あくまで口頭による注意と拒絶だけで追い返し続けたのは、当時ネスティアの騎士団総帥に就任したばかりだったリリンの長男・ドレークを慮ってのことだったのだろう。そのくらいの配慮が出来る余裕は、まだあった。

 しかし、それをいいことに貴族達が調子に乗り続けた結果、とうとうその時は来た。

 詐欺や脅迫まがいの行為に出たり、彼女を違法な手段で奴隷や妾にしようとする動きまでもが出始めた段階になり……ついにクローナが切れた。

 そこからはもう、凄惨の一言だったという。

 クローナに目をつけられた貴族や組織は、片っ端から血祭りにあげられた。
 屋敷や防壁は焼け落ち、権力によって脅そうが命乞いしようがガン無視で八つ裂きにされ、私兵を差し向けようが一平卒に至るまで生き残ることは出来なかった。

 ここで反省すればよかったのだが、国内の貴族達が『たかが無位無官の輩に舐められてたまるか!』と逆切れし、自分達の権限で国軍の一部を動員し……当然のように全滅。

 そしてこれを受けて、当時相当頭に血が上っていたクローナは、『国ごと滅ぼした方が早いな』という決断を下して王都・王城に襲来。

 今正に、王族貴族が一同に会し、クローナの討伐に関して『もうやめよう』『何を今更』とあーだこーだ議論している場に単身殴り込みをかけた。

 そこで、あまりの怒気と威圧感に、対峙しただけでショック死する兵士や貴族が続出する中……せめて王族だけでも逃がすためにと、ドレーク以下騎士団の最精鋭部隊が玉砕覚悟で立ちはだかった。

「その直後、ドレークのご母堂……リリン殿が現れてクローナ殿を止めてくれなければ、100年前のその時、ネスティア王国は滅んでいた」

「……そんなことがあったのですか……」

「緘口令がしかれた一件の上、100年経っているゆえ、知らんのも無理は無い……今でもこのことを語り継いでいるのは、我ら王族と一部の大貴族だけだ。イーサ、お前がもし今後『元帥』になっていたら聞いていただろうな」

「……左様で」

「その後、ネスティア王国は正式にクローナ殿に謝罪し賠償を行い、今後不干渉を約束の上、関わった貴族達全員を処断することによって、どうにか見逃してもらったのさ。この一件でネスティアは……絶対に怒らせてはいけない者が世の中にはいることを知った」

 何せ、『うちの子をそんな不義理な国に預けておけません。断ったらドレークもアクィラも引き取った上で、私も参加して滅ぼすかもよ?』とリリンが当時の王に直々に宣言したとあっては他に取れる道などない。本当に間違いなくそうなるからだ。

 彼女とて、子どもであるドレーク達や、彼らが主として選んだ国も大事であるとはいえ、親友であるクローナのことも同様に大事だったのだから。

 結果的に滅亡の危機は脱したものの、クローナは以後ネスティアのみならず、権力そのものに関わることは永久になくなった……それにより、もし彼女が協力してくれていればなくなったかもしれない不治の病が今なおある、とも言われているのだ。

 そして、ミナトもおそらく今頃……クローナからこの話を聴いているだろう。

「今正に、100年前の教訓を生かすときだと私は思う。やることは難しくない、誠意と礼節を持って『普通に』対応するだけだ。でなければ……またわが国は宝を、未来を失う」

「……把握しました。このイーサ・コールガイン、以後全霊を持ってミナト殿とネスティアの調和を乱すことなきように務めます、部下や、ラグナドラスの連中にも委細徹底させましょう……100年前のことを話すわけにはいきませんが」

「頼むぞ。腫れ物扱いする必要は無い、ミナトもそれは望まん。あくまで普通に接すればいい。なまじお前は高い地位に来てしまっている分、余計に難しいかも知れんが……」

「いえ、ご心配なく、むしろ得意分野です。何せ……」

 そこでイーサは一拍置いて、

「彼と一緒に、接するに緊張感を保つのが難しい元上司がいましたからな」

 ☆☆☆

「ひっくしゅん!」

「あ? どーした、風邪か?」

「いや、多分違いますけど……」

 なんかいきなり、義姉さんが隣でくしゃみをした。どしたんだろ、噂でもされてたかな?

「ま、いい……そういうわけだからバカ弟子、依頼そのものは受けるつもりみてーだからもう止めねーけどな、くれぐれも気を許しすぎるな? 連中、甘やかすと付け上がるからな。締める所ではきっちり締めろ」

 むしろ多少わがまま言って困らせてやれ、との師匠のお言葉。

 しかし、100年前にそんなことがあったとは……だからなのか、師匠が権力嫌いな上、病気の治療薬を作ることに何だか嫌な思いで持ってそうだったのは。

 そして、フレデリカ姉さんが話をさえぎったのも納得がいった。こんなことあんな会議の場で話せるはずないわ、うん。

 まあ、第一王女様はたしかにかなり上から目線だけど、それでも気風がいいというか、きちんと誠実に対応してくれる部分はあるし……王族として暮らしてればああいう感じになっちゃうのも多少しかたない部分もあるんだろうから、あまり気にしてない。

 むしろ、ああいうキャラ(?)なんだと割り切っている。
 彼女にも立場ってもんはある以上、色々あるんだろうなとは思うから。

「契約内容色々とつめるために、事前に交渉するんだろ? 旦那はこんなだからな、きっちり支えてやれよ、嫁」

「わかってますよ。一任してもらっていいわよね、ミナト?」

「うん、いつも通りよろしく」

 エルクには今回も世話になる。僕、こういうの得意じゃないから。

 そしてそのエルクは、なんだか俄然やる気になってるようだ。
 聞けば、会議の最中から、第一王女様が何だか強引な会議の進め方をしてたことに対して、あまりよく思ってなかったらしい。交渉をつめる時には、相手が王族だろうが貴族だろうがきちんと遠慮なく要求をぶつけさせてもらうつもりだそうだ。頼もしい。

 
 それに今回は……これくらいしか関われないから、余計に気合入ってるのかもね。

 どういう意味かって? それは……後ほど。

 

 
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