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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第169話 拾い『者』

今回より第11章に入ります。

それと、前話である第168話のラスト……反響の大きかったあの部分を、勝手ではありますが、名前変えました。いきなりすいません。理由は後書きにのっけました。

では、どうぞ。
 

 母さん達が僕らの元から去ってから、およそ2ヶ月。

 何だかんだで十分息抜きになった『ジャスニア王国』での日々を終えた僕ら『邪香猫』一同(と、師匠)は、今までと同じく、ネスティアは『ウォルカ』の近くにこの『オルトヘイム号』を停泊させ、これをもって拠点としている。

 そこで、平常運転の冒険者ライフに戻ったわけだけど……

 2ヶ月前、母さんから言われたある指摘を……今、僕は噛み締めていた。

 
 本日の仕事は、AAランクの依頼。

 ネスティアの中西部にあるやや大きな山村からの依頼で、山から下りてきて畑の作物を食い荒らす魔物を討伐してほしいとのこと。

 魔物の名は『ゴールドキャタピラー』。黄金の甲殻に身を包んだ巨大な芋虫。どのくらい大きいかっていうと、ワゴン車くらい。
 『アトランティス』でも出てきた、AAランクの魔物だ。

 防御力が凶悪なため、ハンパな威力の攻撃じゃその甲殻には傷一つ付けられない。頭についた2本の触覚から電撃を飛ばして攻撃してくる。

 が、このランクの魔物の中では珍しく温厚で、出くわしてもこちらから危害を加えたりしない限りは襲ってこないので、危険度はそこまでじゃない。

 しかし今回の場合は、その魔物に畑の作物が食い荒らされているとのこと。
 村の自警団では全く歯が立たない上、すでに1度他の冒険者が受注して失敗しているらしい。

 その依頼を受注した僕らは、オルトヘイム号を飛ばしてその山村に向かったわけだけど……

「それじゃ、依頼完了の確認のサインをお願いします」

「は、はい……これでいいですか?」

「はい、結構です……ミナト、帰るわよ」

「はいはーい」

 と、書類にサインを貰った姉さんが振り返った先で僕は……回収した『ゴールドキャタピラー』10匹の死骸を、荷車にロープで固定し終えた所だった。

「これでよし……と。しかし結構な数いたもんだなー……いくら温厚とはいえ、AAランクが10匹も出たんじゃ結構な大事件だよね」

「その大事件をあんた5秒で解決したわよね」

 うん。

 村に来てみたら、今正に『ゴールドキャタピラー』が畑を襲ってるところだったんだけど……目の前で作物が食い荒らされてるのを見て辛抱溜まらんといった感じになったらしく、クワやら何やらを持って農夫の皆さんが追い払おうとしたらしい。

 当然そんなんで立ち向かえるはずもなく、カンカンと甲殻を叩く音がむなしく響くばかり。攻撃になっていない=脅威として見ていないらしく、相手にもされない始末。

 が、何度もうるさく叩かれてさすがに怒ったのか、1匹の触覚から火花が散り始め、今正に電撃が放たれんとした瞬間に……どうにか間に合った僕が虫を蹴り飛ばした。

 巨体を数m、畑の外までふっ飛ばしたそれは、きちんと攻撃とみなされたらしく、10匹がいっせいに襲いかかってきた。

 戦闘で畑に被害が出てもよろしくないと思った僕は、地面を蹴って跳躍すると同時に……両足に『エレキャリバー』を発動させ、纏わせた。

 飛んでくる電撃は効かないので無視して、そのまま、飛び石を跳んで渡るみたいにして、10匹いる『ゴールドキャタピラー』達と次々とドカッと踏みつけていく。

 
 踏みつけた瞬間に、足が纏っている黒い電撃によって、体の内外が切られ焼かれ、10匹は瞬く間に全滅。この間、約5秒……というわけ。
 昆虫型の魔物は頭を切り落としても動くものも多いので、熱で焼くのが一番手っ取り早いのだ。

 さて、そんな感じで今日の依頼も終わったわけだけど……

「……こんなもんか、AAっつっても」

「何よ、また不完全燃焼?」

 隣を歩くエルクが、いつものジト目で僕に尋ねてくる。

 それに対して僕は、小さくため息をつきながら頷いた。

 何に対してため息なんかついてるのかと言えば……それはもちろん、AAランク相手の今回のクエストがあっけなく終わってしまったことに対してだ。
 ハプニング的な開戦だったことも手伝って、村について10分で全てが終わった。

 と言っても、すぐに戦いが終わってしまってつまらない、ってことを言いたいわけじゃない。僕は別に戦闘狂じゃないんで。

 すぐに戦いが終わってしまって……相変わらず、自分の実力って奴を測りあぐねてるだけだ。

 『神殿』で母さんに言われた、『あなたもうSSランク並みに強いわよ』って感じの宣告。

 そして同時に、ギルドで普通の依頼でも受けてみれば、自分の強さがわかるだろうとも言われた。楽勝すぎて拍子抜けするだろうと。

 後者はたしかにそうだった。どの依頼を受けても、標的の魔物がAAだろうがAAAだろうが、数が多いか邪魔が入りでもしない限り、慎重にいっても討伐に1分とかかることはなかった。

 魔物によっては手加減してとどめを刺さないと――変な日本語である――体が粉々になってしまい、討伐証明部位の回収が大変なものまであったくらいだ。

 しかし、前者……戦えば自分の実力がわかるだろう、って点については、半分Yes、半分No、といった感じだろうか。

 確かに、そこらの魔物を気に求めなくていいくらいの実力がある……っていう点に関しては、十分にわかったと言っていい。

 が……当然といえば当然なんだけども、自分がどのくらい強いのかを『正確に把握する』って点については、ほぼできていない。
 把握するほどじっくり戦う暇もなく……手加減しようが速攻で倒してしまうので。

 それでも数をこなせばある程度把握できなくもない、かもしれない。
 しかし、僕が少しでも手こずれる(・・・・)ような依頼なんて、そうそうあるもんじゃない。

 DやC、Bランクの依頼なら、いつギルドに来てもいくつも掲示してあるから、選んで受けられる。さすが剣と魔法の世界とでも言えばいいのか、国のあちこちに、日常的にこの程度のトラブルは転がってるのだ。

 が、ランクがAAだのAAAになると……いつ来てもある、というわけにはいかない。

 そのランクの依頼ってのは大概、都市一つ壊滅させるような危険度の魔物が出たとか、大災害が起こって救援が必要だとか、そういうとんでもない事態に当てはまる。
 そんなの、しょっちゅうあるはずもない。

 そして、そういう理由もあってだろう、Sランクの冒険者である僕(とそのチーム所属者)は、冒険者としての仕事のノルマが割とユルい。

 覚えているだろうか。冒険者は、1ヶ月にある程度の依頼を受注してこなすか、それに見合った探索成果等を上げないと、冒険者資格が剥奪になってしまうという規則を。

 この規則、ランクが変わると判定基準も変わる。ランクがFからE、EからDという風に高くなれば、当然それに見合った働きが要求されるわけで、ノルマも高くなる。

 しかし、AとかAAになってくると、そのランクに見合った依頼の数そのものが減ってくるし、逆にその1件1件の危険後や難易度は高くなることから、そこまでせわしなく依頼をこなしたりしなくてもよくなるのだ。

 その代わり、あまりに怠けすぎて、高ランク冒険者として果たすべき義務を怠っていると判断されると、何らかの処分を受けたり、最悪、冒険者資格剥奪になることもある。

 例えば、AAの冒険者が楽勝だからって自分より下のランク……BとかCの依頼ばかり受けて、ノルマを達成したとする。

 それ自体は別に問題ないんだけど、ある日AAランクの依頼が舞い込んできた時、自分はもうBやCの依頼でノルマ達成してるからってそれに見向きもしなかった。実力的にはふさわしい、自分が受けるべき依頼であるにも関わらず。

 そういうのを繰り返すことで『高ランク冒険者として果たすべき義務』を怠っていると判断されるケースもある。必要な時にはきっちり働け、ってことだね。

 さて……話を戻そう。そんなわけで、冒険者ギルドにAAだのAAAだのっていう、少しでも僕がてこずれるような依頼は、そんな強さの魔物の討伐任務はそうそう入ってこない。

 むしろ、入ってきた端から情報を回してもらって請け負っている。しかし大体同じような感じで、苦戦するより先に終わってしまう。
 ノルマは楽勝でクリアしてるんだけど、実力の把握、という目的においては不足だ。

 こないだなんかリィンさんに、『他の高ランク冒険者に回す依頼がなくなるので、ちょっとゆっくりしません?』なんて申し訳無さそうに言われてしまった。逆にやりすぎた?

 何を相手にしても『油断しなければ楽勝、邪魔さえ入らなければ瞬殺』って感じの手ごたえが返ってくるばかり。場合によっては、油断しても邪魔されても問題ないし。

 RPGで、高レベルのキャラで低レベルのザコ敵を殴ってる時みたいだ。何を相手にしても、レベル差あり過ぎで一様に一撃で倒せる。だから、敵のステータスの違いなんかわからない……というか、実質のところ違わない(・・・・・・・・・・)

「あーあ、わかりやすく数値化とか出来ればいいのにな……」

「またよくわからんことを言い始める……」

 いっそホントにゲームみたいにさー、攻撃力○○、防御力○○、HP○○……なんて感じでステータスウィンドウでも出てくれれば楽なのに。一目でわかるから。

 一番簡単な方法としては――今すぐに可能かどうかは別として――近い、もしくは同じくらいの実力の魔物やら人間やらと戦ってみるってのが手っ取り早いけど……そんなのそうそういるもんじゃないし。

 それに、互角の実力を持ってる魔物とか敵と戦うとなると……危ないし。怪我したり死ぬかもしれないからヤだ。

「いや、何そのワガママ? どうすりゃいいのよつまり?」

 と、荷車にちゃっかり腰掛けてる義姉さんからツッコミが入った。……そうだよねえ。

 強い奴と戦わなきゃ実力を測れない、でも危ないから強い奴とは戦いたくない。
 ……我ながら何を言ってるんだと思う。お前は何がしたいんだと。

 すると、僕の隣を歩いているエルクが、ふと思いついたように、

「それならさ、ノエルさんとかブルースさんに手伝ってもらえば?」

「へ? 姉さん達に?」

「ノエルさんはあんたのお目付け役だし、ブルースさんは傭兵だから……報酬は必要でしょうけど、試合程度なら協力してくれるんじゃないの? それにあの2人、どっちも実力Sランクオーバーでしょ? 申し分ないと思うけど」

「それもそうね……つか、あらためて考えると、あんたの試合相手になりそうな人なんて、兄弟内でも……4、5人ね」

 と、指折り数えながら義姉さん。マジで?

「マジよ。多分……ドレーク義兄さんとアクィラ義姉さん、ブルース義兄さん……あと、イオぐらいじゃないかしら?」

 
 聞けば、義姉さんが知る限りでのキャドリーユ家での強さの序列は、

 1位 ドレーク・ルーテルス
 2位 アクィラ・ヨーウィー
 3位 ブルース・クーザント
 4位 イオ・プロセドン
 5位 ミナト・キャドリーユ(多分)

 ……らしい。ただし当然ながら、母さんは除いている。

 マジでか。僕ベスト5入ってんの? 義姉さん予想で。
 ってことは……ノエル姉さんやミシェル兄さん、ダンテ兄さんあたりはもう超えた、ってこと?

「多分超えてるでしょうねー……割と早い段階で。ただ、3人にはあんたにはない『経験』ってもんがあるから、仮に勝負したとしてもそう簡単には勝てないと思うわ」

「なるほど……ところでさ」

「何?」

「いや、前々から名前だけは聞いてて気になってたんだけど……イオ兄さん、ってどんな人なの?」

 僕が現時点で持ってる情報って、昔、ノエル姉さんやミシェル兄さんとの3人で『キャドリーユ家三大問題児』って呼ばれてた、ってことくらいなんだよね……。
 亜人種族みたいだけど、どんな種族かも聞いてないし、どこに住んでるのかも聞いてない。

 最近『四大問題児』に数えられ始めている僕としては、ちょっと気になるというか。

 すると義姉さんは、顎に手を当ててううむと少し悩み……

「何ていうか……ノエル義姉さんを『元』問題児とするなら、ミシェルとイオは現役の問題児、って感じなのよね。あんたもだけど」

 はいはい。

 しかし、現役の問題児ねえ……僕はこの師匠ゆずりのマッドサイエンティスト気質があるし、ミシェル兄さんはネクロマンサーだし……これに匹敵する問題があるってこと?

「うん。なんていうかイオは…………山賊?」

「「は?」」

 聞き返した僕とエルク。ハモった。

 さ ん ぞ く?

 え、何、問題児って……ガチな感じ? そんな迷惑行為やってんの、その兄?

「いや、何ていうか……山賊だけど山賊じゃない、っていうか……大雑把に言うと、義賊、なのかしら? アレは」

「義賊?」

 義賊ってたしか……正義のために山賊とか犯罪行為をやる連中のこと? 悪人しか襲わない、悪人からしか盗まないとか。日本で言えば……ねずみ小僧とか。

「おおむねそんな感じ。ただ、あいつの場合……」

 と、義姉さんがそこまでいいかけたその時、

「「「!」」」

 横を歩いていたエルクが展開している『サテライト』に……僕ら以外の人間の反応が映った。

 もっとも、別にコレは珍しいことじゃない。僕らが移動しながら『サテライト』を使ってる以上、歩いている先に誰かいれば、当然その人も範囲内に入った段階で脳内地図に映ることになる。今回もそんな感じだ。

 ただ、今範囲内に入ってきたこの人……どうも、動きが変。

 冒険者みたいに、山道、もしくは獣道を警戒しながら動いてる感じでもなければ……僕らを獲物として襲おうとしている山賊みたいに、こっそりこっちに近づいてくるような感じでもない。

 真っ直ぐ進んだりジグザグに曲がったり、早く動いたりゆっくり動いたり、止まったり動き出したり……なんかひどく変則的、を通り越して不安定な動きだ。

 ひょっとして戦闘中……いや、違うな。戦闘中だとしたら、これは逆に動きが遅すぎるし、そもそもサテライトには魔物も映るけど、この人間の周囲に魔物はいない。

 ちょっと気になって、エルクに頼んで『サテライト』に詳しく情報が映るようにしてもらうと……その瞬間、3つのことがわかった。

 1つ目。この誰かさん、種族は『人間』であること。

 2つ目。この人間、手傷を負っているようで……生命力が低下していること。

 そして3つ目。地図を詳細にした結果、この人間が今いる場所が……川の中であることがわかった。

 なるほど、謎が解けた。
 この誰かさん……怪我して気絶してるor動けない状態で、川に落ちて流されてるんだ。

 どうしようコレ、助けた方がいいかな……なんて思いながら、僕はこの川が、ここから目視で確認できる位置を流れていることに気付いた。

 僕から見て右側、崖の下だ。距離的には遠いけど……僕の視力なら問題ない。

 ちょっと移動して崖の先端部に行き、下を覗き込むと……いきなり見つかった。
 川のど真ん中に力なく浮かび、そのまま流されてる人影が………………あれ!?

 
 ☆☆☆

 
 同時刻。
 ミナト達『邪香猫』の拠点にして旗艦・オルトヘイム号。

 船には、今回ミナト達に同行しなかったメンバーが残って、思い思いに時間を潰していた。

 今回のように、明らかに難易度が低く(あくまでも彼らの基準である)、依頼達成において全員の力が必ずしも必要とされないような場合、最近では同行希望者だけを募って目的地に向かう場合もある。
 今回は、ミナト、エルク、セレナの3人だけだった。

 シェリーは、討伐目標が『ゴールドキャタピラー』だと聞いて、ミナト1人で秒殺だろうし張り合いが無さそうだからということでパス。

 ナナは、最近ミナトとクローナが作った新しいマジックウェポンの試し打ちをするためパス。クローナはその場に立ち会っており、そもそもミナトらの任務についていくことなどないのでスルー。

 ミュウは今読んでいる小説がいいところなのでパス。ターニャとシェーンはそもそも戦闘要員ではない。シェーンはいざとなれば戦えるが。

 そして、残るメンバーは1人と1羽。ザリーとアルバであるが……諸事情によりこの2人、実は今この船に乗っていない。

 というのも、『邪香猫』には本業が冒険者でなかったり、冒険者ではあるが副業(?)を持っているメンバーもおり、そっちの用事がある場合は、リーダーであるミナトに一言断ってクエストに参加しないことも時々あるのだ。

 今回のザリーの不在はそれに当てはまる。ウォルカ南部、ジャスニア王国との国境付近に情報屋として用事があるらしく、欠席。
 そしてその用事に、アルバもついていった。

 なぜかといえば、今回の『用事』は少々荒事を伴う可能性があるため、護衛的な意味でアルバを貸してもらいたいとミナトに頼んだからである。

 ザリーの情報屋と言う職業は、信頼が命。情報の秘匿・取り扱いには細心の注意を払う。ザリー本人もそうだが、その顧客や同業者もだ。

 そういった事情から、戦力にやや不安があってもミナトなど顔見知りの手を借りることはそうそう出来ない……が、それが人間でなければ、ペットの動物であれば話は別。

 一般的に意思疎通の手段がなく、せいぜい調教して狩りや戦闘の補助をさせる程度の存在であるとされている彼らならば、情報屋としての仕事に同行させても警戒されることは少ない。

 それを見越してザリーは、実際の所余裕で人間と意思疎通が出来るだけの頭脳を持ち、さらに自分より上の戦闘能力を持っているアルバを借りていったというわけだ。

 ちなみにミナト、もといアルバへの報酬は、『新しい魔法』。
 今回『仕事』で行く先に、珍しい魔法の使い手がいるということで、それをアルバに習得させることが報酬なのである。

 
 そして、その『仕事』の先にいっていたザリーとアルバだが……ミナトが船を出ている間に、船に戻ってきていた。

 どういうことかと問われれば、彼らが『仕事』で向かったのがこのすぐ近くであり、その『仕事』が予定よりも早く終わり、さらに近くにミナト達が来ていることがわかったため、現地集合的なノリでやってきた……というだけの話だった。

 そのザリーは、定位置である止まり木にアルバを移した後、すぐにミナトに伝えたいことがある、と言って、ナナに頼んで『オルトヘイム号』の通信システムを使い……

 
 ☆☆☆

 
 じりりりりん、と電話が鳴る。帯に収納している、僕のスマホが。
 趣味で設定している黒電話の着メロ。うるさいくらいによく通るその音を聞いて、ちょうど今しがたかかっていたある作業を終えた所だった僕は、帯からスマホを取り出す。

 電話の向こうに聞こえたのは……今、船にいるはずのない男の声だった。

『やあミナト君、聞こえてる?』

「ザリー? え、何で船に?」

『近くだったから直接合流させてもらったんだ。もちろんアルバ君も一緒だよ』

 かくかくしかじか、といった感じで説明を受け、僕が納得したのを確認した後……ザリーは本題に入った。

『実は今。この近くの町に、あのメルディアナ王女が来てるんだよ。ジャスニアから来てる外交特使をもてなすためにね。その際、何か色々秘密の話し合いもするみたいでさ』

「ふーん……あの王女様がねえ」

 メルディアナ王女……あんまり耳に優しくない名前である。

 何せ、最近またかなり本気で僕の勧誘に動き出しそうだ……って、こないだ王都から来たダンテ兄さんに聞かされたからなあ。『サンセスタ島』の一件でまた注目されたんだとか。

 最早メルディアナ王女が僕を狙ってるってのは、王宮内では周知の事実になってきているらしく……もしかしたら、王女様に気にいられたい貴族とか派閥から接触があるかもしれないから注意しろ、って言われた。

 逆に、そういうのを毛嫌いしてる貴族・派閥から妨害や嫌がらせを受けるかも、とも。

 それに加えて……

『どうやらミナト君が今回ジャスニアでエルビス王子を救ったことについても、非公式な情報としてだけど受け取ってるみたいだね。それで俄然やる気出したのかな……その情報が入ったと同時に、彼女の管轄で動かせる部隊を使って何か根回し始めたみたいだし』

 そんな情報がうちの情報担当から届けられたもんだから、もう……はぁ。

 勧誘におべっか、嫌がらせに暗躍。
 ……そーゆーのが嫌だから僕、王女様の話蹴り続けてるんですけど……仕官もしないうちから巻き込まれるかもしれないって何だよ……。

 はぁ~、と深くため息をついていた僕。
 そんな僕の脱力を知ってか知らずか、その直後、ザリーが再び口を開き……

『それでねミナト君、実は今、メルディアナ王女が応対してるジャスニアの特使なんだけどさ……なんと、あのエルビス王子なんだよ』

「…………は?」

 電話口で告げられた意外な名前に、思わず間抜けな声を返してしまう。が、ザリーは気にした様子もなく話し続ける。

『こりゃ今回の訪問、ただの外交行事じゃ終わらなさそうだと思ってね。この2人が会うとなれば、間違いなく話題はミナト君のことだから、どう転ぶやら……。今のところ、ジャスニアの方は特にミナト君を「ちょ、ちょっと待ってザリー?」……え? 何?』

 『やれやれ』って感じの声音で話しているザリー。その話に、悪いとは思ったけど……強引に、さえぎる形で僕は割りこんだ。

 電話の向こうからは、話を中断したザリーがちょっと戸惑ってる気配が伝わってくるけど……ゴメン、今、君の口から無視できない言葉が、ってか情報が聞こえた。

「えっと、ザリー? メルディアナ王女が、エルビス王子の応対をしてるの? 今?」

『え? うん、そうだけど……多分今の時間だと、予定では……会食中じゃないかな? エルビス王子は明日までその町に滞在予定だから、同じ日程でメルディアナ王女も滞在して、色んなところを回るはずだけど……』

「……じゃあ、今、エルビス王子ってその町にいるってこと?」

『うん、そうだよ? 王女様と一緒にね』

「間違いなく? 今?」

『そのはずだけど……どうして?』

「いや、そうなると今ちょっと……目の前にありえない光景が広がってて……」

 言いながら僕は、虚空をさまよわせていた視線をちらっと下に落とす。
 そこには……

 
「じゃあ……コレ誰だ?」

 
 今しがた、川から引き上げて救命措置やら応急処置やらを終えたばかりの、赤い髪に褐色の肌、そして眼帯が特徴的な…………ずぶ濡れのエルビス王子が、横たわっている。

 
 …………どういうこと?

 
 
さて……『カプセルモンスター』が、プロットの段階で腹案だった名前の『C.P.U』に変わりました。

いや、聞いた話だと……『カプセルモンスター』って単語、商標登録されているみたいで……WEBの小説に載せるくらいなら問題ないとは思いますし、簡単な造語なんで、偶然でも出来てしまうようなものだとは思うんですが(実際自分、遊○王にそんなゲームがあるって知りませんでしたし)……念のため。
唐突ですいませんが、ご了承いただければと……。
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