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第168話 『最強』
今回で第10章はラストです。
次回から新章になります。
(『最終奥義』……?)
そんな、いきなりにも程がある感じのことを母さんに告げられ……僕はしばし固まった。
しかし母さん、構わず話を続ける。
「いい? 今からそれを使ってミナト……あなたに攻撃するわ」
「へ?」
「避けちゃダメ。防ぐのもダメ。ノーガードで受け止めなさい」
……回避も防御もしないで受け止めろと? 母さんの『最終奥義』とやらを?
拳の一発がバズーカより強力で、蹴りの一振りで滝とか真っ二つに出来て、超音速で空を飛んでも反動ガン無視できて、破壊不可能のマジックアイテムを力ずくで破壊できて、魔法の一撃で辺り一帯を焦土にするような……そんな母さんの『最終奥義』を?
「……あの……僕に死ねと?」
「大丈夫。食らっても死なないから。っていうか、攻撃技じゃないし」
「…………???」
いや、でも今『それを使って攻撃する』って……?
それなのに攻撃技とかじゃないってことは……『身体強化魔法』みたいな、能力変化系の技能? それとも、夢魔の能力で言う『催眠』や『魅了』みたいな補助魔法?
とか考えてたら……母さんは僕の目の前で、片足を引いて半身に構え、肘を曲げ、拳を引いてぐっと握った。
目線はさっきのまま、真っ直ぐ僕。
これ以上ないくらいわかりやすい、『これからパンチします』っていう意思表示だ。
しかし、『身体強化』とかの魔法は発動する様子はない。その他の技や魔法を準備してる様子も、特に見られない。
普段と変わりない……必要最低限の魔力を纏っているだけの自然体だ。これじゃあ確かに、いくらノーガードで僕に直撃させても痛打にはならない。
それはよかったんだけど、こうなるとホントに母さんが何をやりたいのかわからない……とか考えてたら、どうやら母さんはもう準備完了のようで、
「じゃ、行くわよミナト」
「えっ、あ、うん」
そして、軽く呼吸を整えて腰を少し落とすと、母さんは地面を蹴って僕の目の前まで跳び、僕の胸……あばら骨のあたりめがけて、その拳を振り抜―――
―――ぞくっ
「……っっ!!?」
気がつくと、僕の目の前に……降りぬいた拳を空振りさせた母さんが、きょとんとした表情で立っていた。
理由……僕が、避けるの禁止って言われてたにも関わらず、飛びすさって避けたから。
そして僕は……まるで激しい運動でもした直後のように、息を荒くして立っていた。
「っ……はぁ、はぁ……はぁ……っ」
今、一体何が起こったのか……自分でもわからない。
気がついたら、飛び退っていた。
母さんのあの……危険さや殺傷能力なんてものとは無縁そうな普通のパンチから、全力で、20mほども飛びすさって逃げていた。
何でそんなことしたのか、ほぼ反射みたいなものだったから、理由を聞かれると困るんだけど……その『原因』ははっきりわかる。
母さんが拳を振りぬこうとした、あの瞬間。
僕の背筋に……得体の知れない寒気が走った。
殺気とか、そういう類のものとは違った気がする。敵意とか害意みたいなのも、別に何も感じ取れなかった。
それでも……避けずにはいられなかった。
今もまだ、心臓がバクバク言ってる。息もちょっとしづらい。
……落ち着くまで、もうちょっとかかりそうだ。
……ホント何だ今の? わけがわからない。
「…………ミナト」
と、そんな状態の僕の耳に、母さんの声が届いてきて……それではっとした。
やばっ、避けちゃったじゃん。避けるなっていわれてたのに。
しかし、母さんは特にそのことを叱責する様子はなく……さっきまでと同じ、きょとんとした表情のままだった。
「……あなた、もしかしてすでに……」
「え?」
? 何か言った? 声小さすぎてよく聞こえなかったんだけど。
「……ううん、何でもない。大丈夫よ……さ、行きましょ」
「あ、うん……あれ? ちょっと待って母さん、奥義どうすんの?」
今僕、自分でもよくわかんないままに避けちゃったけど……やりなおしとかしなくていいのかな? 今度は……極力、避けたり逃げたりしないように頑張るけど。
「いや、いいわ。……必要無さそうだから」
……??? どういう意味?
☆☆☆
結局、全面的に謎のまま終わってしまった。
さっきの言葉の意味のみならず、『最終奥義』とやらが何なのかすら教えてもらえなかった。
母さん曰く『自分で気付かなきゃ意味ないのよねコレ』だそうで……いや、気付くも何も、情報が何一つ無い状態で一体どうしろと?
それはそうと、僕らは今、この『ネガの神殿』の最下層近くのある一角に向けて進んでいる。
何でかって言うと、そもそも母さんが僕をここに連れ込んだのは、ここの魔物と戦わせて僕に自分の実力をある程度でも認識させるってことと、エルクたちとの実力の差や、そこから生じる問題を知らせること、
そしてそれを導入口に、この先いずれやってくる不条理な問題の数々に対する『キャドリーユ家流』の対処法――売られた喧嘩は買う。以上――をきっちり教えること。これらが、ここに来た主目的だったからだ。
ちなみに、導入口として話題提起された、エルクたちと僕との実力差については、そんなものがあろうが悲観する必要は全くない、ということで母さんが言い切っていた。
危ない時にはまもってやるなり、もうちょっと強くなる手伝いを色々としてあげるなり、色々やり方はあるんだから、強さの差を理由に大事な仲間を切り離すようなバカな真似はやらなくていい、とのことだった。
僕もそう思う。てか、そうだ。それ以外は認めない。
……うん、いい機会だ。
ちょうどアトランティス土産の資料や素材も色々手元にあるし、これを元手にまたみんなのパワーアッププランを練るとしよう。目指せ全員Sランク。
……余談だけども、ちょうど同じ頃、『オルトヘイム号』で読書をしてたエルクの背筋に、原因不明の寒気が走ったらしい。
それはさておき、今僕らが最下層を目指して進んでる理由だけども……帰る途中、母さんが思いつきで展開した『マジックサテライト』が原因なのである。
別にそれ使わなくても、母さんが帰り道覚えてるし、覚えてなくても匂いたどって行けば済む話なんだけど……何か試してみたくなったんだそうだ。
しかし結果は、はっきり言って失敗だった。
最初の『神殿』探索の際、発動にアルバの補助を受けてなお、エルク単独での発動にも遠く及ばない精度・解像度etcだった母さんの『サテライト』は、母さん単独だと、発動はするものの……お世辞にも明瞭とはいえない結果に。
イメージを共有した僕が脳内で見たのは、1990年代とかそこらのテレビゲームのグラフィック(ドット絵)にも劣る画質のマップ(?)だった。
道筋がわからないことはないんだけど、線の太さや濃さが均一でなかったり、所々欠けてたりして見づらい。加えて、範囲もあの時よりせまかったし、ちょっと母さんの集中が途切れると消えてしまう。おまけに魔物などは表示されない。
エルクのマップは、ものすごく画質がキレイでわかりやすい。母さんのがドット絵に対して、こっちは超最新のコンピューターで作ったようなCG画像。そして当然のごとく3Dであり、魔物から隠しトラップまで全部表示してくれるし、拡大縮小まで出来る。そして展開したままで戦闘も出来る。無論、今言ったことを全て……エルク単独でだ。
これはおそらく、エルクが『ハイエルフ』の先祖がえりで、その能力を使えるからだっていうのが師匠および母さんの見解である。
エルフ系の、精霊に近い亜人種族は、自分固有の魔力やら何やらも強力なのに加えて、周囲の自然など環境そのものの力を借りて魔法を発動することに長けているらしい。
植物精霊の『ドライアド』や『アルラウネ』が、森の木々の力を借りて自分の気配を消したりするアレと似たような感じだ。そしてそれらの能力は、広範囲に影響を及ぼすような魔法を使う際に力を発揮する。
魔力その他のコントロール技能で言えば、母さんはエルクより圧倒的に上だ。しかし、母さんが『サテライト』を使う場合、その際に処理する必要がある膨大な量の情報を、母さんは自力で処理しなければならない。そのため発動・維持がかなり難しく、数世代前のテレビゲームみたいな残念な質になってしまった。
しかしエルクの場合、無意識に使っているらしい『ハイエルフ』の能力の恩恵により、地形その他を把握したり、その情報を処理する段階で周囲の環境そのものが味方してくれる。なので、あそこまでキレイなマップが形作られる、というわけだ。
この『サテライト』、思いつきで作った魔法だったんだけど……偶然にも、エルクにこの上なく向いている魔法だったのである。すごいね。
……さて、また話がそれた。戻そう。
母さんが『サテライト』を使った時、マップの隅に奇妙なものが映ったのである。
映像が一部、欠損していたのだ。それも、画質の問題で欠けてるとかそういう感じじゃなく……その部分だけ映し出せずにぼやけてしまってる感じだった。
……ちょうど、アトランティスでエルクが使った時に、テラさんのいた部屋の内部が、テラさんの強大すぎる魔力に邪魔されて映らなかったように。
それが気になった僕と母さんは、急遽そこを調べてみようということで行ってみた所……そこには、このダンジョンのボスじゃないのか、って感じの魔物がいた。
ライオンの体に人間の頭、鳥のそれのような羽を持ち、尻尾が蛇になっている……地球でも有名な怪物『スフィンクス』に似たその姿。
全身が金色の輝きを放つ魔法金属に覆われたその魔物の名は……『ゴールデンスフィンクス』…………まんまである。
地球のスフィンクスみたいになぞなぞでもかけてくるのかと一瞬思ったんだけどもちろんそんなことはなくて、『ゴールデンスフィンクス』は部屋に入るなり飛び掛ってきた。
大口を開けて噛み付こうとしてきたので、母さんと僕はそれぞれ逆方向に跳んで回避し、背後に回りこんで……僕は片方の羽を根元から、母さんは尻尾をそれぞれ引っこ抜いた。
魔法生物だからだろう、『ブチッ』じゃなくて『バキッ』という音ともに羽と尾がもげた結果、『ゴールデンスフィンクス』はダンジョン全体に響き渡りそうな大声で吼えて、逆上したように襲いかかってきた……と思ったら、見当外れの方向の壁に突っ込んでいた。
後で聴かされた話なんだけど……こいつの弱点、あの蛇の尻尾らしい。母さんはそれを知ってて、出会いがしらに引っこ抜いたわけだ。
正確には弱点というか、スライムで言う『核』にあたる部分だそうだ。こっちの蛇の尻尾の方が本体だといっても過言では無いとか。切り離されると胴体の方は制御不能になって一気に弱体化し、数分で活動を停止してしまうらしい。
もっとも、尻尾自体が攻撃力も防御力も高いし凶暴だし火炎ブレス吐き出してくるし小さくてよく動くから狙いにくいしで、弱点だとしても普通は狙えないらしいんだけど……母さんにとってはそんなこと関係ないらしい。普通に引っこ抜いてたもんね。
引っこ抜いた後は、壁に叩きつけた上でぶん殴って蛇の頭を粉々に粉砕してた。そしたら当然というか動かなくなって……数分後には胴体も動かなくなった。
後に残ったのは……その体を形作っていた大量の魔法金属。極上の素材である。もちろん全部持って帰ることに。
母さん曰く、『ゴールデンスフィンクス』は、珍しくてめったに出会えない魔物ではあるものの、はっきり言って最高のカモなんだそうだ。尻尾引っこ抜くだけで――『だけ』なんて表現を普通は使えないんだけども――倒せるから簡単だってことで。
さて、そいつを倒したわけだけど、その部屋には……まるでホントにRPGのボス部屋みたいに、宝箱がわんさかあった。
中身は金銀財宝ざっくざく……こいつ、コレを守ってたんだろうか?
もしかしたら、何かあった時のためにってことで『アトランティス』の人たちが隠しておいた隠し財宝かもしれないな、なんて考えてた僕の眼に……あるものが飛び込んできた。
宝箱に混じって……なんだか異質な、しかしどこかで見覚えのある『箱』があったのだ。
数秒後、その正体に気付いた。
箱そのものが放つ異様な雰囲気に、金細工で施された豪華で細やかな装飾、
そして、宝箱のど真ん中についている『Ⅶ』の文字。
……どう見ても『魔祖の棺』です本当にありがとうございました。
どうやらあの『ゴールデンスフィンクス』――だけじゃなく、このダンジョンの魔物全体かもしれない――は、コレの発する呪いのせいでかなり強化され、その結果、サテライトのマップを歪ませるまでの魔力反応を示していたみたいだ。
もし母さんが尻尾引っこ抜いて瞬殺してなければ、Sランクの強さにコレの作用も加わって、能力値がかなり強力になってたはずだから、少し手こずったかもしれない。
しかも、驚いたことに、同じシリアルナンバーが刻まれた『鍵』が一緒に保管されていた。コレもアトランティスの方々にとっては、財宝の一つ……だったんだろうか。
……とりあえず、コレも持って帰ろう。
最後の最後にとんでもない拾い物をして、僕と母さんのネガの神殿の探検ツアーは終わりを告げたのだった。
☆☆☆
その、さらに数日後。
『女楼蜘蛛』の……二度目の解散の日がやってきた。
母さんの大号令で急遽集まったこの4人だったけども、アイリーンさんは言うまでもなくギルドマスターとしての仕事があるし、エレノアさんも何か用事があるんだそうだ。
2人ともそろそろ戻らないといけない、ってことで、今回はここでお別れするとのこと。
そして母さんは、僕の成長を、そして僕の仲間たちを確認できて満足したそうで、また自由気ままな放浪の旅に戻るそうだ。
ペットであるストーク、ビィ、ペル、そして遅れて合流したバベルも一緒に。
それと、時を同じくして、ミシェル兄さんも帰っていった。
兄さんもまた、仕事ってわけじゃないけど用事があるらしい。
そんな感じで、今回の一件でこの『オルトヘイム号』に集っていた『女楼蜘蛛』『邪香猫』およびその関係者各位、役目を終えてそれぞれの居場所へ戻っていった……
……1人を除いて。
「やっぱ師匠は帰らないんですね」
「ああ。こいつらの研究してーからな」
母さんとアイリーンさんとエレノアさんは帰ったけど……この人だけはここに残った。
我が師匠……クローナ・C・J・ウェールズだけは。
そして今いるここは、もちろん僕のラボの中。
保管庫に所狭しと並べられた、『アトランティス』から持ち帰った研究用素材の数々。師匠はこれらを研究し尽くすまでは、引き続きこの『オルトヘイム号』に厄介になるということだった。
小分けにして持ち帰ってもよさそうだし、薬品とかの品揃えは師匠の邸宅の方がここよりも多いんだけど……ここにも一応ひとそろえ置いてあるからいいそうだ。
加えて、向こうで研究するなら1人でやらなきゃいけないけど、ここなら僕という共同研究者がいるためはかどるだろう、っていう理由も在るとのこと。
交換条件(?)として、滞在させてもらう間は、『邪香猫』メンバーのための新魔法やマジックアイテムの開発も手伝ってくれるし、『暗黒山脈』でやってもらってたように稽古も付けてくれるらしいので、こちらとしては異は無い。
契約成立。またしばらくお世話になります、師匠。
さて、じゃあ早速、今日の研究を始めますか。
今日一つ目の研究対象は……
「……やっぱコレですかね」
「ああ、コレだな」
そう言って師匠は、保管庫にしまってあるものの中から……強化ガラス(っぽい物質)の箱に入れられた『あるもの』を取り出した。
それは……数日前、『神殿』から帰ってきてから速攻で開けた、あの『魔祖の棺』の中に入っていたもの。
ちなみに、『棺』と鍵は、師匠によって周囲にのろいが撒き散らされないように封印処理を施してもらったので安心である。
で、だ。その中に何が入っていたのかっていうと……
「やっぱりコレ、見た感じ……ランプ、ですかね?」
そう、ランプだ。中に油を入れて火をともし、照明にするための。
それも、手に持って使うランタンみたいな形じゃなく……アラビアンナイト系の物語に出てくる、こすると魔人か何かが出てきそうな……ああいう形のランプだ。
……こすっても何も出てこなかったけど。
そしてコレ、当然ただのランプではない。
あの『魔祖の棺』に封印されていたアイテムであるからして、ただの生活雑貨のはずがないし……実際、師匠と一緒に解析してみたところ、凄まじく強力かつ複雑な術式が施されたマジックアイテムであることがわかった。
ホントに複雑なので、まだ解析に時間がかかる見通しである。現状、何のためのマジックアイテムなのかすらわかってないんだけど……現時点で解析できた一部の術式から判読できたパターンから判断するに、こいつは『封印系』のアイテムである可能性が高い。
となると……願いをかなえる、とは言わなくとも……何か古代の強力な魔物か何かが封印されている可能性は高いと言える。
現時点では、それを外に取り出す方法すらないわけだけど……師匠と一緒に研究を続けてれば、いずれは可能かもしれない。このアイテムの完全な解析も、同様に。
そして、このマジックアイテムは……僕の予感というか見通しが正しければ、今現在、僕が一番力を入れて研究・開発を進めている、あるマジックアイテムの完成に……大きく貢献してくれる可能性があるのだ。
研究用のエリアに移動する最中、僕は左手に『ランプ』の入った箱を抱えながら……右手に持った『マジックスマートフォン』をピコピコと操作する。
画面をスクロール……そこに記されているのは、いくつものマジックアイテムやそのための魔法術式の研究計画。
その中に……ある。
『Project Name : C.P.U』
召喚術の理論を勉強して得た知識。
『アトランティス』から持ち帰った、人造魔法生物に関する資料。
母さんにもらった魔氷。
そして……魔法のランプ(仮)。
……材料は、揃った。
+注意+
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