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第167話 『夜王』の教育方針
感想でめっちゃザリーが心配されててびっくりしました。
なんか、あのー……ありがとうございます(汗)
それと今回、クローナ編で一回あったようなSEKKYOU回っぽいものになってます。
あの時と同じく、内心恐々としながらの更新です……もし内容がご不快でしたらすいません。フィクションキャラの独特な思想だと思っていただければ……。
「ねー母さん、どこまで歩くの?」
「んー、もうちょっと先の方にね。確か、ここを曲がって次の……」
今朝のことだった。
朝食を終えた僕のところに母さんが来て、突然『出かけるから準備して』って言われて……説明もろくにないままに連れ出された。
そしてつれてこられたのは……なぜ今ここなのかわからないけども、『ネガの神殿』。
あの不安定な入り口を、どうやら師匠に頼んでどうにかしてもらったらしく……急ごしらえではあるけど、しっかりしたつくりになってた魔法陣を通り、『神殿』の中へと入り……今現在、そこをすたすたと2人で歩いている。
こないだみたいに、めんどくさいからって一気に強行突破するようなこともなく……まるで遠足か散歩でもしてるみたいに、すたすたと。
当然、『ライオットスライム』や『デストロイヤー』といった魔物が襲ってくるけど、僕ら2人の戦闘能力ならまず問題ない。
母さんは指先からビーム出してドカンだし、僕も上手くやれば一撃で、ちょっとずれてもそのまま連続で打撃を叩き込めば数秒とかからずに破壊できる。
……というか、前にここに来た時より楽に相手出来てる気がする。
ここ数日、昔みたいに母さんから1対1で稽古付けてもらったり、暇な時には師匠やエレノアさんにまで見てもらってるからかなあ……。最近僕、伝説の冒険者3人がかりで指導してもらってるよ……すごい贅沢。
他のメンバーも、あくまで暇な時にだけど、『女楼蜘蛛』メンバーに指導してもらってたりするし。そりゃ短期間でもある程度つよくなるってもんだろうか。
……と、途中から声に出てたのか、はたまた顔に書いてあったのか……前を歩く母さんが声をかけてきた。
「それだけじゃないと思うわよー? 理由」
「? っていうと?」
母さんは首だけ振り返り、ジト目気味な視線を僕に送りながら続ける。
「覚えてる? あなた最初ここにきたとき、あの豪華版のアーマー身につけてたでしょ?」
豪華版? ……ああ、『パワードアームズ』?
そういやそうだったな。『ディアボロス』9匹と戦った直後だったから。
それに得体の知れない危険な敵が出てくるダンジョンだってこともあって、通常状態より強くなれる『パワードアームズ』で戦ってたっけ。さすがに『アメイジングジョーカー』は解除してたけど。
でも、それが何か?
「その次……私達みんなで潜った時はどうだった?」
「? そりゃ……楽に進めたけど。頼もしかったっていうか、頼もしすぎて」
「そうじゃなくて、あなたはどうだった?」
「?」
「やりやすくなかった? 1回目……あなたと『邪香猫』のコたちだけで潜った時に比べて、さ」
……何か妙な聞かれ方するな、と感じながらも、考えてみる。
まあ、確かにそう思わなくもなかったと思う。ちょっと情けない理由で。
いや、ああまでこっち側の戦力が充実してるとさ……何かあっても、いやむしろ何『が』あっても大丈夫って気がするんだよね。ちょっとどころじゃなく安心できる。
例えるなら……アドベンチャーゲームで一定時間無敵になるようなアイテムを取った時に近い感覚だった。どんな敵が来ようが怖くない感じ。
仮にとんでもなく強い、それこそ僕でも危ないような魔物が現れても、そいつが何かする前に母さん達が消し飛ばすって確信できてた。危険を感じる必要性がなかった。
こんな、結果的にであれ他力本願な感想抱いてたって知れたら、師匠から殴られるかもしれないって思ってたから、口には出さなかったけど。
そう白状したら、母さんは『ふーん……』と呟くように言いつつ、何か考えるそぶりを一瞬だけ見せて、
「……あーやっぱこういうめんどくさいやりとり苦手だわ……はっきり言お」
「は?」
と、何かを諦めたというか、投げ出したようなあっさりとした口調で言うと、今度は体ごとこっちを振り返って言う。
「ミナト、単刀直にゃ……はっきり言うわ」
「はっきり言えなかったね今」
すごい場面で噛む母。
「黙らっしゃい。しょうがないでしょどう言ったらカッコい……もとい、正しく伝わるか考えながら話してるんだから」
「今ので少なくともカッコつくことはなくなったから力抜いて話せばいいと思う」
もうグダグダ。
母さんは、ため息を一つすると同時、そんな空気を強引に振り切ると……がしっと僕の肩をつかんで固定し、真ッ正面から僕の顔を、目を見据えて話し始める。
グダグダな空気の変わりに……この人には珍しい、割とシリアスな空気をまとって。
「単刀直入に言うわミナト。あなたは、前々回より前回の方が、そして前回より今回の方が、ここの魔物連中に対して戦いやすいって、気が楽だって感じているはずよ」
んー……言われてみればそうかも。
前々回と前回は、比べるまでもないだろう。母さんたちがいるんだし。
しかし、前回よりも今回……たしかに、そんな気がする。
いや、2人だけで……ストークやアルバすら連れてこずに潜ってる分、1人1人が相手する魔物の数は多くなっててそこは少し大変かもだけど、苦には感じない。それほど苦戦せずに勝てる相手だ、ってこともある。
確かに……随分と『気が楽』だ。
「それね……理由、2つあるわよ。何だかわかる?」
「2つ? うーん……1つは、母さんとか、師匠たちみたいな強い人が一緒にいたからだと思うけど……」
あとの1つって……
「……もう1つはね……っと」
と、僕が考え、母さんが何かを言おうとしている最中に……前方に見えていた曲がり角の向こうから、団体さんがやってきた。
『デストロイヤー』4体か……ぼく1人でも1分かからないかな。
振り向いてそれを確認した母さんは……
「……で、もう1つが何かって話だけど」
すごいな、無視して話し始めたよ。
当然襲いかかってくるわけだけど、2人共上に跳んで回避した後、体をひねって天井に着地。そのまま、それぞれ魔力操作や魔法の応用で天井に座り込んで話の続きをする。
「理由2だけどね……ちょっと厳しいっていうか、酷いこというかもだけど……誰かが一緒に『いる』ことよりも、誰かが『いない』ことの方が大きいと思うわ」
「一緒に、いない?」
「そ。もっとはっきり言っちゃえば……『足手まといがいない』からよ」
……足手まとい?
「そう。……誰のこと言ってるのか、なんて説明は要らないわよね?」
いつになく厳しい表情で言う母さん。
その真面目な言葉に……僕の方は、ちょっとムッとした。
理由は簡単。誰のことを言ってるかすぐにわかったからだ。
しかしそれを僕が言葉にする前に、母さんが先に次の言葉を発する。
「……ミナト。あなたは強い。こんな風に――」
と、そこまで言って、天井めがけて飛んできた魔力弾丸をよけて飛び退り……落下しながらそれぞれ飛び蹴りで1体ずつ『デストロイヤー』を仕留める母さん、と僕。
「――軽くお説教聴きながら、AAAランクなんていう都市壊滅級の魔物を一蹴できるくらいにはね」
でも、と続ける。
「はっきり言わせて貰うけど……あなたの周囲にいるコたちは……あなたほど強くない。それはイコール、戦いの際、あなたが彼女達を守る立場に立つことを、そして彼女達があなたの弱点になりうる……ってことを意味する」
言いながら着地する母さん。その目はどこまでも真剣。
たぶん今、同じく着地した僕の顔は、かつてないくらい面白く無さそうな、機嫌の悪そうなものになってると思うんだけど……それを見ても、母さんは表情を変えない。
面と向かって『お前の仲間はお前にとって足手まといだ』なんていうことを言われたわけだから、そりゃ気分悪くもなるよね……それが間違ってなくても。
そりゃ、僕がSランクで、その他はAAAやAAやAなんだから――世間一般の基準ならこれでも十分バケモンかもだけど――僕よりは弱いってのも事実だ。
そして……たとえばAAランクの魔物なら、僕が相手にして楽勝でも、Aランクのエルクやミュウが相手にするとなれば危ない。これも事実だ。
同じチームにいながら、同じ場所に立ちながら両者に存在するこの実力差。
これが、いくら僕ら本人同士が気にしなくても、時に最悪の弱点になりうる……と、母さんは言いたいわけだ。
母さんにはなかったものだ。メンバー全員化け物級だったから。
でも、僕は違う。
「……そのうち来るわ。彼女達があなたの足かせになる日が。彼女達を守っているせいで、あなたが十全に実力を発揮できない状況になって現れるかもしれないし、もしかしたら……あなたを狙うために、彼女達を先に狙おうとする奴らがいるかもしれない」
「…………」
何ていうか、心情的には言い返したいっていうか、僕は僕で色々と考える所もあるんだけど……言ってることは間違ってないのも事実だ。
さっき母さんが僕に『神殿で戦ってみた感想が、前回、前々回、そして今回でどう違うか』って感じの質問を投げかけてきた意味もよくわかった。
確かにそうだ……前々回より前回、前回より今回の方が動きやすい。
労力的に楽なのは、って聞かれれば師匠たちも一緒だった時が一番楽だったけど……一番『気が楽』なのは今だ。母さんと一緒で、魔物討伐の労力自体は多めであるにも関わらず。
それはなぜか。
……足手まといが……注意し、気を配ってないといけない仲間がいないから。
まさに今、実感している。
今ここにいるのは、僕と母さんだけ。いずれも、AAAなんて一蹴できるレベル。
だから、他人を心配せずに自分の前にいる相手にだけ注意していればいい。それは……前2回の探索の時にはなかった感覚だ。
認めざるを得ない。いつもってわけじゃないにせよ、エルク達は確かに……僕にとって、足枷に近い存在になっていると。
「そしてそれらと同じように、あなたの前にはいずれ……必ず現れるわ。あなたにとって、エルクちゃん達は枷でしかない、手を切って、もっと実力の釣り合う者と組むべきだ……もしくは、そういう組織に所属すべきだ……って言ってくる連中が」
「…………」
「あなたの場合、私以上に多芸だからね……単純な武力以外にも、マジックアイテムや新しい魔法の開発の能力、武器や新薬なんかを求めて声がかかるかもしれない……そしてそのために、色々裏で手を回したりしてくるかもしれない。今言った、実力差云々なんて1つの例でしかないわ、色んな理由で、色んな所から、色んな誘いが沸いて出てくる。言うことは全部、耳障りでしかないお節介……しかしそれでいて、ムダに周到で厄介」
「…………」
「そういう水面下で色々やってくるようなのが相手だと、気付いたら手遅れになってる、なんてこともありうる。しかもあろうことか、そう望むものが大多数……世間一般の見解、所謂『民意』になってしまうことすらある。逆らうこと自体が罪、決められたルートを歩くことを強要される。世の中には、そんな理不尽があちこちにある」
……いちいちキツいな……このお説教。
けど何一つ間違ってないってのはつらい。確かにその通りだ……腕っ節で解決できないことなんて、世の中にはいくらでも転がっていることだろう。
いつの間にか出来てしまっていた道筋。そこから外れることは事実上許されない状態。
裏で動かれて、もしくは公然の常識や慣例を武器にして、そういう状態にもちこまれてしまうっていうのは……一番面倒だ。
ネスティアの第一王女様のわがまま(例:模擬戦して)くらいならまだかわいげあるけど、これがもっとドロドロした現実的な領域に来て、政略結婚やら業務提携やら何やらっていう小難しい+大きな話になってくると……って考えると、頭痛がする。
実際にそれが多くの利益をもたらすことが明白だとしたら。逆にそれに従わない場合、何一つ得るものがなく、酷く非効率的で、多くの不利益が生まれるとしたら。
その時味方はいない。敵しかいない。最初から結末が用意され、自分が折れるしかない最悪の詰みゲー……考えただけで恐ろしい。
「その時あなたは目の当たりにする。賢しく、おろかで、どうしようもないくらいに残酷な……この世界の闇の部分を。嫌だと思っても抗いようのない現実、そこに巣食う悪意……あなたと仲間たちの人生そのものをゆがめかねない、巨大な世のうねりを」
おそらくは、母さんも冒険者として生きてくる中で、そういう不条理や理不尽を何度も経験してきたんだろう……だから、こんなにも真剣な目で、張り詰めた空気をまとって僕に諭してくれていて……僕は目を逸らせない。
僕も真剣に、母さんの言葉に耳を傾け、その中身を飲み込むべきなんだ、理解するべきなんだ、ってわかるから……
「あなたは、いつか必ずそれらに出会う。だから……」
「うん……わかるよ、なんとなくだけ「わかるな」ど…………え?」
「わかるな。わからなくていい、って言ってんの。そんなしょーもない理屈は」
…………うん?
え、どういう意味?
「いい? ミナト、今こうしてこの世界のどーしようもない部分を並べて挙げた上で、その上で、結論を言うわ………………ミナト」
一拍。
「一切、聞く耳、持たなくてよし!」
…………はい?
え、ちょ……どういう意味ですかね?
この一連のお説教って……そういうどうしようもない、どうにもならないダークサイドがこの世界には存在するから、そういうのに注意しつつ今後の人生をエルクたちと歩んでいくように……っていう、先輩冒険者としての警告とかじゃ……?
「んなわけないでしょ、ばかばかしい。そもそも何で何も悪いことしてないのに、そんな裏でこそこそ手回すような陰湿な連中の思い通りに動いてやらなきゃならないってのよ。こちとら1から10まで全部自由にやりたくて冒険者やってたんだから」
「……はあ……」
何だ? 何か……思い描いてた展開、ってか内容と全然違うぞ!?
母さんは何が言いたいんだ? これから何を言うつもりなんだ?
「いいミナト? 今言ったように、いずれ必ずあなたの前に現れるわ。自分ないし自分達の野望・欲望のためにあなたの力を使おうとする奴らや、悪意がなくてもいらんお節介以外の何物でもないものを強要してくる奴らが。厄介なことに正論を武器にして、あるいは裏で動いて逃げ道をふさいだ上で、出口の決まった交渉をしてくる……」
その瞬間、残っていた2体の『デストロイヤー』が僕らめがけて突進してきて……
「普通に考えてどうしようもない、残酷な状況。そういう時はね、ミナト…………」
僕と母さんをもろともに真っ二つにしようと、剣を振り下ろした……その瞬間。
「こう……すンのっ!」
振り向きざまに放った、正拳突き……と呼ぶのはちょっとためらわれるような、荒々しい拳の一閃。
そこから生まれた衝撃波(?)が……数m先にいた『デストロイヤー』2体を破壊した。
真正面からぶつかり、全身が一気に粉々に砕かれた。
うん、相変わらずお見事………………で、
……『こう』するって……何?
「見てわかんない?」
「ごめん、わかんない」
そう応えると、母さんは腕を組んでちょっと考えた後、
「……ミナトのその優しさや謙虚さは、普段のあなたの魅力の1つでもあるけれど……一回そういうお利口な考え方全部取っ払って考えてみなさい。正論、欲望、権威、陰謀、民意、大義……それらめんどくさいモノに、いかにして目の前からご退場願うか」
「……さっき、『どうしようもない』って言ってたやつだよね?」
「そう、普通に考えて正攻法じゃどうにもならないモノ。普通はここで、抗うことを諦め、より自分に得になる、損のない結果を導き出そうとして妥協点を探す……」
けどね、と母さんは続ける。
「お母さんそういうの、ただの戯言だと思ってるわ」
「ざ……戯、言?」
「そう、戯言。もちろん、そうしなきゃいけない人もいる……ってか、この世界中の人間その他の99.99%はそうなんでしょうし、それを間違ってるとも言わない」
「で……母さんは残りの0.01%?」
「その中でも特にワガママな0.001%くらいだと思ってるわ」
あっさりとそんな風に言い切る母さん。
「もちろん人として最低限の良識みたいなのはきっちり持ってたし、それなりに周りに気を使ってもいたわ。と言ってもそれらは、別に何か特別なことをしてたわけじゃなくて……普通に過ごしてたってだけ。困ってる人がいれば助けたし、悩んでる友達の相談に乗った。自分の出来る範囲のことに、出来る限りの力で向き合ってたってだけ」
でも、と続ける。
「私の知らない所で勝手に何か企んで、それに勝手に私や私の仲間たちを巻き込んで何かしようとするような奴に従うつもりなんてのは、これっぽっちもなかった。さもそれが当然みたいに、悪いのはこっちだって感じであーだこーだ言ってくるような奴にはね。それが例え、客観的に見て正論だろうと、公共の利益になろうと、裏でいくら手が回ってようと……嫌だと言ったら嫌、意地でも思い通りに動いてやるつもりはなかった」
「……それで、どうしたの?」
「今言った通りよ。そいつらの望む通りになんかしなかっただけ。何を言われようが、どう思われようが、自分のやりたいようにやった」
「面倒なことにならなかった? 権力で妨害されたりとか」
「なったわ」
「そういう時どうしたの?」
「黙らせたわ、力ずくで」
「…………はい!?」
……え、そんな直接的な感じ!?
なんかこう、そういうのじゃどうにもならない……っていうのが大前提の話じゃなかったの? 腕力や武力じゃどう頑張ってもどうにもならないように手を回してある、っていう問題に対しての対処の話だったと思ったんだけど。
「普通は、どうにもならないわね。私はどうにでもなるけど」
「……どうやって?」
「問題が出てきた端から力ずくで解決しただけ。無実の罪で逮捕しようとしてきたら撃退、暗殺しようとしてきたら返り討ち、出頭とか提出要求されても拒否、とにかく自分が『やりたくないことはやらない』を貫き通す。あとはいつも通り」
「問題にならなかったの? 事態が悪化して……もっと大人数で来られたりとか、罪状が追加になったりとか」
「その時はまた追い返すなり無視するなりするだけよ」
「ずっと?」
「ずっと」
「……それでどうにかなるもんなの?」
「どうにかなるならないじゃないの、どうにか『する』の」
一切の迷いなくはっきり言い切る母。なんか……すごいな。
「当然向こうもだんだんマジになってくるわ。例えば人数。最初数人で逮捕しようとしてきたのが、撃退したら一個小隊になったり、それも撃退したら一個中隊が来たり。でもやることは同じ、どれだけ問題が大きくなろうがやめなかった。向こうが諦めるまで」
「へ、へー……」
「最終的には、被害も無視できないし面子も丸つぶれだけど、諦めてそっとしておく方が害がないってわかってもらえるのよ、割と。まあ中には諦めの悪い国や組織もあってね……運が悪いと、最終的に国が滅びるまで続いたりもするんだけど」
「……ちなみに最終的に、その国ってどうなったの?」
「翌年地図から消えたわ」
……マジか。
島1つ沈めた話なら聞いたことあったけど……国一つ滅ぼしたなんてエピソードもあったのか、この人。
唖然としている僕の目の前で、母さんはまとめに入る。
「ミナト。今から私、ものすごく滅茶苦茶なことをいたって真面目に言うわ。一応、ものすごく極端な話ではあるってことを念頭に置いた上で聞くように」
「う、うん」
もうすでに言ってましたけど、っていうツッコミはどうにか飲み込み、ごくり、と喉を鳴らしながら、真正面から見据えてくる母さんの視線を受け止める僕。
「私達みたいに強力な力を持つ者は、力の使い方ってものをよく考えなきゃいけない。普通の人に出来ないことが容易くできるってことは、便利でもあるし危険でもある。時として他者を、そして自分を傷つけることもある。十分注意しなきゃダメ……でも……」
一拍、
「いざ力を使うべきだと判断したなら、本当にそれが正しいと思ったなら、その時はもう迷っちゃダメ。相手が誰だろうと、何だろうと……必要な結果を出すために、必要な力をためらわず発揮するべきよ」
「本当に、必要だと思った時……」
「そう。もちろん、そうなのかどうかはよく考えなきゃいけないわ。お母さんの場合、例えば……明日以降のご飯を美味しく食べられるかどうか、が基準だったわね」
「? ご飯?」
「よくあるたとえ話よ。『明日の飯がマズくなる』っていうアレ」
ああ、なるほど。
そう聞くとなんとなくわかった。少年漫画とかでたまに見る言い回しだ。
何か重大な決断や行動を、いざやるべき時にやれなかったら、動くべき時に動けなかったら、そのあとずっと後悔することになって……そんな精神状態で食べるご飯なんておいしいはずがない、っていう感じのやつだ。熱血主人公とかが出てくるマンガに多い。
「私にとって何より優先順位が高いのは、私と私の大切な人達……友達や仲間や家族が、楽しく幸せに暮らせる日々を守ること。さすがにそのためだからって他人に迷惑をかけるのは褒められたことじゃないし、必要な自重や遠慮はしっかり持っておくべき。けど……」
きりっ……と、少し母さんの目が細く、鋭くなった。
「それを乱そうとする奴に対しては遠慮する必要は、ない。少なくとも私はしたことはないし、これからもするつもりはない。そしてそのためなら、躊躇わず力を振るう。例え誰に何と言われようが、私の幸せな時間はどこの誰にも邪魔させない。そしてそれについて邪魔者の立場から何をどう言われても、一切聞かなくてよし!」
今度は母さんの目が閉じられた。
「とにッッかくこの世界には多いのよ。耳障りな戯言を呼吸をするように言う輩がね……やられたからってやりかえすなんて野蛮人のやることだとか、怒りや憎しみに捕われるなとか、もっと別の方法があるはずだとか……他人の気持ち、事情、バックグラウンドその他諸々全く考えずに、わかったような口の聞き方する奴がさァ……」
直後、かあさんの目がカッと見開かれたかと思うと、威厳や気迫すら感じる目力と共に……早口で一気に話し出す。語彙は粗く、まるで革命家か何かの演説みたいだった。
「特に必要もない面倒起こして迷惑かけてくるような奴らののワガママのために、私たちが犠牲になる必要なんてない。全力でこっちもワガママを貫き通しなさい! 甘い? 綺麗事? 幻想? 上ォ等じゃないの!! 幻想が現実に勝てないっていつ誰が決めた!? そんなもん力ずくで叶えりゃすむの! 偉そうにふんぞり返って裏でこそこそやってるバカをはっ倒して黙らせるだけなんだから簡単よ! 目には目を、歯には歯を、暴力には暴力、非情には非情、理不尽には理不尽、力ずくには力ずく!! それら一切恥じる必要なし!! 言ってもわからないバカには殴ってわからせるしかないし、殴ってでもわからないバカはわからなくてもいいようにしちゃうしかないの! 以上!!」
……なんか、数ヶ月前……師匠に荒々しく激励された時のことを思い出した。
あの時もそう……かなり過激な内容の演説(?)を聞かされて。けどそれ全部、間違ってはいないことばっかりで……衝撃的だったなあ。
今思えば、あの一喝をベースにして僕のマッドサイエンティスト根性が形作られたような気がする。滅茶苦茶だろうが何だろうが、やりたいようにやるっていう感じで。
……いや、形作られたっていうのも違うか。
師匠のあの言葉は、なんていうか……価値観やものの考え方を、僕の中に一から作り上げたとかじゃなく……
「……だよね」
「うん?」
「いや、何ていうか……いやにすっきりしたというか、あっさり母さんの言葉が頭に入ってきてさ。多分、言われて学んだっていうより……もともとそれに近い考え方が僕の頭の中にあったんだけど、今のでそれを理解したみたいな……そんな感じ」
そう……もともとあったものを削り出して明確に自覚させた、って感じだった。
師匠や母さんにそういう意図があったのかはわからない。けど、僕はそう感じた。
自分の本音を、周りの状況や自分の立場、周囲の人への配慮や遠慮から、自分にすらわからないように押し隠す……現代日本でもよくあることだ。
心の中では誰かのことが好きなのに、それを自覚できずそっけない態度になったり、
心の中では誰かを尊敬してるのに、プライドが邪魔してそれを認められずにいたり、
その結果、自分自身でそれに気づくことが出来ないままになってしまったり、気付けたとしてもその時にはもう手遅れになっていたりする。本当にやりたいことが何なのか、はっきりしないままにに終わってしまったりとか。
良心、モラル、自重……そういったものに邪魔されて見えづらかった、僕の本音。
何に対してどうあるべき、という考え方が、一応は、未完成かもしれなくとも自分の中にあるにも関わらず、それでいいのかどうか、誰かに迷惑じゃないのか、責められるんじゃないか……そんな不安や懸念が邪魔して、はっきり表に出てこなかった本心。
例えるなら、鞘にしまったままの剣を振り回してるみたいな感じ。何かあっても傷つけまいと、責められまいと、無難に徹した中途半端な意思表示。
しかし、母さんや師匠の一喝は、ものの見事にその鞘を取っ払った。
目を逸らしようもないくらいにはっきりと、僕の心の奥底にある本音を、本心を浮き彫りにしてしまった。飾っても取り繕ってもどうしようもない、僕が『正直に思うところ』ってやつが引きずり出された。
取っ払った結果としてよりヤバげな主張が表に出てきたりする、もしくはしたのかもしれないけど……その結果何が引き起こされるかなんて、結局はそれを自覚した僕次第なんだから、表に出てきたことそのものにどうこう言っても意味は無い。
重要なのは、これから僕がどうするか。
そういう場面に出くわした時、僕に何が出来るか……だろう。
「……その時は、がんばるよ。僕も」
「……ま、いきなりこんなこと言われても戸惑っちゃうでしょうね。今は頭の片隅においとくだけでいいわ。これから先、本当にそういう問題に直面した時にでも思い出してちょうだい。その時……あなたの本当に大切にしたいものを守るために、ね」
そう言ってくれる母さんの顔は、さっきの気迫に満ちた表情とは打って変わって……すごく優しい笑顔だった。
その笑顔のまま、母さんは僕の目の前にまで歩み寄ると、首に手を回してぎゅっと抱き寄せた。
「その時は……貴族が相手だろうが、国が相手だろうが、私もミナトの味方になってあげるからね」
「ん……頼もしいよ。ありがと」
そのまま数秒そうしていた後……母さんは僕をゆっくり放したかと思うと、そのまま数mほど距離をとった。
しかし、そのまま歩いていくわけでもなく、大体10mくらい離れた所で止まると……さっきほどではないけど、笑みをひっこめた真剣な表情な表情になったこっちを見据える。
「……ミナト。もう1つ……あなたに伝えることがあるの」
「? 何?」
「すでに言ったけど……あなたは途轍もなく強くなった。しかも、今回『アトランティス』から持ち帰った技術を研究して、さらに上へ進もうとしている。……ここだけの話、アイリーンなんかはすでにあなたに『SS』のランクを与える準備に入るって言ってたわ」
「え!? ちょ、マジで!?」
「もちろん、大マジよ。もっとも、さすがに今日明日の話じゃないでしょうけど……数ヶ月以内にはおそらく……ってそんなことは置いといて」
え、置いとくの?
「そのくらいのレベルまでもう来ちゃったからには、もう今のうちに、あなたに教えておきたいことがあるの」
……? 何だろう、『教えておきたいこと』って。
もしかして、数年前に聞かされたあの代理出産(?)エピソードみたいに、まだ何か僕が知らされてない衝撃の事実みたいなのが隠されてるんだろうか?
そう聞くと、母さんは首を横に振った。
「秘密とか事実とか、知識とかじゃないわ。今からあなたに教える、いや、伝えるのは……そうね……あなたの好きそうな言い回しで言うなら……
……『最終奥義』、かな」
……はい?
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