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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第165話 いくつものくすぶる火種

あけましておめでとうございます! ……遅いですよね、ええ、わかってますとも……

感想にもまだ返信できてないですが……全部目は通してますし、後ほど全部お返事させていただきますので、どうかしばしご容赦を。

本年も『魔拳のデイドリーマー』をどうぞよろしくお願いします。
 

 さて、夜である。
 もうすぐ夕食、ってくらいの時間。僕と母さんは、『オルトヘイム号』の僕の部屋のリビングにいて、卓についていた。

 そこには、料理やお菓子ではなく……今しがた『ディープブルー金庫』から受け取ってきた、母さんが昔預けた荷物が広げられている。
 ギリギリ間に合って、引き出すことが出来たので。

 いやホント、思い出せてよかった……あのまま思い出せなかったら、夕飯食べて寝るルートまっしぐらだったもん、間違いなく。

 そして、そこから持ち帰った母さんの荷物っていうのはしかし……予想通りなんだけど、そんなに大したものじゃなかった。

 別に、特に何か大事なものを確実に守って後世に残そうとかそういう考えで預けたんじゃなく……単に『そんなすごい金庫あるんだ? じゃ何か試しに預けてみよう』的な考えで利用してたらしい。

 とはいうものの、『大したものじゃない』ってのは現在の僕および母さんの主観とか価値観であって、一般基準で見ればけっこう大したものかもしれないけど。

 金庫に預けてあったのは、握り拳3~4つ分くらいの大きさの布袋だった。

 中身は主に宝石や金塊なんか。大小さまざま、研磨されてキレイにカットされてるものもあれば……原石のままのものもある。名前がわからないものもいくつかあった。

 価格的に見れば、全部売ればザッと……金貨十数枚くらいにはなりそう。うん、やっぱり一応『大したもの』かもしれない。

 とはいえ、どこにでもある……とまでは言えない、けど言えなくもない、お金さえ積めば購入できるような普通の宝石だ。特別な力を持つマジックアイテムとかじゃない。

 母さんにしてみれば――総資産いくらあるのかなんて正確には知らんけど多分――近所のコンビニでアイスでも買うような感覚でポンと買える程度のもんだろう。

 多分僕でも買えなくは……そういや、僕の、ていうか『邪香猫うち』の総資産ってどんな感じになってるんだろう?

 副リーダー兼会計担当のエルクにほぼ任せっぱなしだったから、すぐに使える分の予算だけ見てて、総資産とか最近把握してないな。

 最近は、僕らを雇う依頼も、特に名指しだとそれなりに高額な報酬になってきてたし――Sランクの冒険者を雇うことを考えるとそういうもんらしい――結構溜まってると思う。今度エルクに聞いてみよう。

「ところで母さん、この宝石どうすんの?」

「そうね……バベルにあげましょ。あの子宝石好きだし」

 母さんの見立てだと、『用事』もそろそろ終わって帰ってくるだろうとのことなので。

 ちなみにバベルってのは、4匹いる母さんのペットのうちの1匹。
 ストーク、ペル、ビィと同じく、洋館時代から僕があそこで一緒に過ごしていたやつで、黒い岩石のような甲羅を背負った、軽自動車くらいの大きさのある巨大な陸亀だ。

 無論というか、戦闘能力は前述の3匹に並ぶ高さであり、甲羅から岩石の砲弾を飛ばしたり、火山ガスを噴き出して攻撃してくる。

 そしてバベルなんだけど、食生活が独特で……石や岩を食べるのである。

 普通の食材も食べるし、ご飯の時間は他のペット達と一緒なんだけど……おやつ食べるみたいな感覚なのか、時々庭や森の岩を煎餅みたいにゴリゴリと噛み砕いて食べていた。

 だからなのか、宝石も普通に食べる。まれに母さんがどこからかもって来た宝石を食べさせてあげてたことがあった。
 売れば金貨数枚はしそうな大きなルビーやサファイアをおいしそうに食べてた。

 ……まあ、持ち主である母さんがいいんなら別にいいか、ってスルーしてたけど。

 そんなわけで、その昔母さんが預けて、長きに渡り金庫の奥に眠っていたこの宝石は、もうすぐ帰ってくるであろうバベルの胃袋に収まることが決定した……と思ったその時。

「……うん?」

 テーブルの上にぶちまけられた袋の中身。
 その中に……宝石とは違う別な『何か』がまざっていることに気付いた。

 摘み上げてみるとそれは、一見すると水晶か氷のように見える透明な塊だった。宝石というか、研磨前の原石に見えなくもない。
 しかし、他の宝石類と違い……コレからは魔力を感じる。

 もちろん、魔力を持つ物質を含んだただの結晶体、って可能性もある。魔物の中には、そういう物質を体内で作り出すような魔物もいるし、そういう素材を師匠に見せてもらったことも、マジックアイテム作りで扱ったこともある。

 しかし、この『何か』は……過去に見たそれとは違う感じだ。
 何ていうか、魔力が何かに包まれているような、くぐもった感じ方がしている。

 けど、内側に魔力があって外側がなんでもない結晶体、ってわけじゃなく、魔力は結晶全体から感じられる……何だ、このよくわかんない物質?

「……ねえ母さん、コレだけ僕にくれない?」

「え? 何、もしかしてエルクちゃんにプレゼントでも……あら? 魔氷じゃない、そんなものまじってた?」

「魔氷? これが?」

 母さんの口から出た名前は、師匠のところで勉強してる時に、聞いたことだけはある名前だった。

 『魔氷』――読んで字のごとくというか、魔力を含んだ氷、のような物質。

 『トロン』での修業の時に、ブルース兄さんが水に氷の魔力を注いで作ってくれたあの魔法の氷と似ている。見た目は普通の氷みたいだけど、かなり硬くてものによっては金属よりも頑丈。さらに、熱を加えても簡単には解けない。

 ただしこっちは正真正銘の天然モノである上、溶け込んでいる魔力は属性を何も持っていない純粋な魔力である、という点でことなる。

 さらに、ごくまれにではあるものの、常温程度じゃどれだけ長い期間放置しても全く解ける気配がなく、かなりの高温で長時間熱しないと解けないものもあるそうだ。
 ひょっとしたら、今正に手に持ってるコレがそうかも。

 そんな風に面白い性質だけど、似たような、そしてもっと応用できそうな性質を持つ物質なら他にもたくさんあったため、今まで注目されたことはなかった物質だけど……なぜかこのとき、僕は手に持っているこの結晶を無性に研究してみたくなっていた。

 何と言うか、勘みたいなもんなんだけど……コレを詳しく調べれば、また何か面白いことが出来そうな気がして。

 とりあえず、バベルにおつかいのお駄賃としてあげる宝石の中から、母さんに許可とってこの『魔氷』だけ貰い受けた僕は、こんなこともあろうかと帯にいつも入れている『素材収納用ケース』に入れて、後日あらためて研究することにした。

 ☆☆☆

 所変わって、ここはジャスニア王国、ブルーベルから離れたとある領地の城の中。

 この城の主は、ここ数週間の間留守にしていたが、今日、自らに課された任務を無事に――とは実の所言えないものの――終えて帰ってきていた。

 城に務めている侍女や執事たちの出迎えを受け、部屋で休む旨を伝え……その言葉通りに部屋に入ってきたこの城の主――ジャスニア王国第五王子・エルビスは、ベッドに腰掛けてふぅ、と息をついた。

 それを見て、入り口近くに控えている侍女が……何を思ったのか、はぁ、と隠しもせずにため息をつきながら口を開いた。

「殿下……服どころか鎧も脱がずにベッドに座ってはシーツが汚れますよ」

「固いことを言うな、ヴィット。疲れているんだから……私が気にしなければいいだけの話だろう? というか、何ならもうこのまま寝てしまいたいくらいだよ」

「ダメです。ちゃんとお風呂に入って、寝間着にお着替えになってください。シーツはその間に換えておきますので」

「細かいな……相変わらず」

 ヴィット、と呼ばれた侍女は、先ほどから一国の王子に対してのものとは思えないような不遜な発言を繰り返しているが、それをとがめられる様子は無い。

 むしろ、その物言いになぜかエルビスは、安心しているようにすら見えた。

 ヴィットがエルビスの近くに寄ると、エルビスは何かを言われるよりも先に立ち上がり、手を横に大きく広げる。

 その姿勢のエルビスから、ヴィットは慣れた手つきで鎧やその他の装備を取り外し、さらに外出用の服もささっと脱がせてしまう。

 インナーだけになったエルビスは、部屋から直接いける浴室にそのまま移動すると、そこで待っていた別な侍女たちに手伝わせて入浴を済ませた。

 無論、インナーも全て脱いで全裸になった上でだが……眼帯だけはつけたままだった。

 ナイトガウンのような寝間着を着て部屋に戻ると、言っていた通りベッドメイクが再度なされたらしい。シーツはしわ一つ、汚れ1つない状態になっていた。

 その手前にあるソファに腰掛け、テーブルの上のゴブレットを手に取ると……控えていたヴィットが寝酒用と思しきワインをそこに注いだ。

 それをゴブレットを傾けてぐいっと飲み干し、エルビスは息をつく。

「今回の遠征は色々と大変だったとお聞きしていますが」

「ああ、本当にな……正直な話、生きて帰れたのは奇跡だと思うよ」

 さらりとそんなことを言うエルビス。
 しかし、ヴィットは特に目立って反応を示す様子はなかった。

 話の内容に何も興味がない、というわけではない。事前に彼女には、というより、この城の一部の人間には報告が上がってきているのだ。この遠征中、エルビスに何があったのかということを。

「本当に幸運だった。任務実行の前に彼らに出合っていなければ、私は今頃、間違いなくあの龍たちの腹の中だった」

「Sランクの冒険者……『黒獅子』のチームを雇うことに成功したとうかがっています。その後、彼らとは?」

「お互いに深く関わらない方がいい、という結論に達したのでな。すぐに別れた。ひと段落してからは『ブルーベル』の宿で療養していたよ。襲撃より後は何もトラブルに襲われることもなかったからな。早い段階で外部監査機関が動いてくれていたことも幸いした」

 今回の一件は、おおっぴらには言うことなどできはしないものの……エルビスもミナトと同様に、他のジャスニアの王位継承権を持つ者が仕組んだことだと見ていた。

 それゆえに、これ以上外部の人間であるミナト達を巻き込まないように早い段階で別れ、ブルーベルに療養の場を移していた。その時もその後も、ろくにこの件に関して詳細な説明をすることもないままに。

 そして、そのブルーベルでの療養が済み、自分達もある程度この一件の調査に協力できるような態勢が整ってから、『外部監査期間』に調査を要請しようと思っていたのだが……なぜかそれより早くその機関が動き出していたのである。

 まさか、そこの最高顧問フレデリカ黒獅子ミナト――ひいては神殿で助けてくれた謎の女性(リリン)が身内であるなどと、エルビスには想像もついていなかった。

「何か報告は上がってきているのか?」

「いいえ、今の所は特には」

「そうか。まあ、別に期待してはいなかったがな……大体の目安はついているが、尻尾をつかませるような連中ではないだろう」

「それでも、仲介した組織をいくつか摘発したようです。中にはかなり歴史が古く、規模も大きいそれもあったようで……大元こそわかりませんでしたが、当面は安全かと」

「ほう、それはすごいな……この短期間でか? どうやら機関には、中々の傑物がいるらしい」

 感心したように言うエルビスは、一度会ってみたいな、と小声で呟くように言っていたが……実はその『傑物』、他でもないフレデリカ・メリンセッサであったりする。

 一見すると冷たくキツそうな印象を受けるフレデリカであるが、実は彼女……かなり身内に甘い。

 ある意味でリリンに似ているでもといえばいいのか……仕事はきっちりこなすし、怒るべきときには誰だろうとはっきり怒るものの、それ以外では兄弟姉妹に対してかなり甘く、愛情深い不器用な女として一部では知られている。

 そのフレデリカ、今回の一件でもその甘さというか愛情深さを遺憾なく発揮した。

 母の依頼であるため、ぶーたれつつもきちんと仕事をしようと思って手をつけた矢先、自分の末の弟が巻き込まれた被害者の1人であるということを知った。

 前々から話だけは聞いていて、いつ会えるのかと楽しみにしていた末っ子が巻き込まれていたと知ったフレデリカは、かなり本気で、現場で彼女直々に指揮を取って調査を進めていたりする。その結果がこの対応の素早さだった。

 そしてそのフレデリカは、丁度この日の夜、現地調査等を終えて帰還することとなり、オルトヘイム号を出ていたりする。

 そんなことを知る由もないエルビスだが、別にそこまで気になることでもなかったため、現在進行形で重くなってきているまぶたの方を優先した。

 ゴブレットに継ぎ足されたワインを全て飲み干し、風呂に入った体がまだ温まっているうちに、やわらかいベッドに横になろうと歩き出……そうとして、止まる。

 ふと視線を下に落とすと、表面がピカピカに磨かれたテーブルに……鏡ほどはっきりとではないが、エルビス自身の顔が映っているのが見えた。

 そこに映る自分の顔を、そのまましばし見つめる。

 そして何を思ったか、おもむろに眼帯をはずした。

 その下に隠れていた部分も含めて、再びテーブルに映った顔をじっと見つめていたエルビスは、数秒後、ヴィットの『湯冷めしますよ』という声ではっと我に返った。

「どうぞこちらへ。それとも……もう少し寝酒をお飲みになりますか?」

「いや、いい……寝る」

 そう言って再び眼帯を身につけると、エルビスはベッドまで歩いていって横になる。その上に、ヴィットが布団を引き上げてかけ、ガウンに包まれた体を覆った。

 そして、そのまま部屋を後にしようとしたヴィットを……視線を向けることなく、エルビスは呼び止めた。

「……なあ、ヴィット」

「はい、何でしょうか、でn……エルビス様」

 なぜか、途中で『殿下』と呼ぶのをやめて名前で聞き返したヴィット。

 しかしエルビスは、特にそれを気にした様子もなく、

「今回の暗殺計画……コレ(・・)絡みだと思うか?」

「……私にはわかりかねます……監査機関からの報告が来ないことには、何とも」

「そうか……そうだな」

「では……」

「ヴィット」

 またしても呼び止めるエルビス。
 今度は、やはり視線は向けなかったものの……ベッドの上で腕を伸ばし、振り向いたヴィットに見えるように、部屋のある一角を指差して言う。

「護身用の剣だが……あそこに置いてあるぞ」

「存じておりますが」

「……もし、私が寝ている間に私を殺したくなったら……自由に使え」

「……おっしゃっている意味がわかりません」

「…………ヴィット」

「…………はい」

「……私はな、見ず知らずの他人や、腹をすかせた魔物に殺されるくらいなら……お前に殺されたい」

「…………言の葉だけとはいえ、お戯れが過ぎます」

 それきり、しばし部屋を沈黙が支配した。

 たっぷり1分ほどもたってから……ベッドの上から、規則正しい寝息が聞こえ始める。

 ヴィットは、すでに夢の中に旅立っているであろうエルビスに向けて会釈程度に一礼すると、そのまま部屋を出た。

 ――扉を閉める直前、

 
「…………お休みなさい……ルビス」

 
 そう、言い残して。

 
 ☆☆☆

 
 また別な場所。
 ジャスニア王国ですらないその場所は……外から見ると、普通の民家にしか見えない、何の変哲もないと言っていいような建物。ついでに言えば、中に入ってもそうだ。

 しかし、ある一定の手順を踏んで仕掛けを動かすと、そこにある地下へ続く階段が現れ……そこを降りると、内装は贅沢ではないが清潔感に満ち、貴族が住んでいてもそれほどおかしくないような『隠れ家』があった。

 かなりの広さがあるそこは、『ある組織』が秘密のアジトの1つとして保有している施設であり……その組織の幹部であり、現在このアジトにおいて最も高い地位にいる者が、部下らしき男を従えて廊下を歩いていた。

「そうでしたか……アッザラの一派とレロナドの組が摘発を。少々、ブルーベル方面への影響力が削がれてしまいましたね。意図的にこちらを狙ったものでは無いとはいえ」

「はっ……ですが実行は彼らの独断。われわれが加担したわけでもありませんし、ここにまで捜査の手が及ぶことは無いでしょう。摘発された2つのグループも、裏組織としてはそれなりに力を持っておりましたが、重要な情報は何一つ与えておりません」

「ならばよし。しかし、この時期(・・・・)に王族をも巻き込んだ謀略ですか……少々興味がありますね。エドモンド、もう少し調べてみてもらえますか?」

「了解しました、ウェスカー様」

 執事風の服装に身を包んだ初老の男……エドモンド、と自らが読んだ部下に一瞥をくれると、その直後にウェスカーは目的の部屋に到着したことに気付く。

 ノックをして、部屋の中から「どうぞ」という高い声が聞こてから、エドモンドを外に残してウェスカーは中にはいった。

 部屋の中は、少し広いアパート、といった感じの空間になっている。

 1人用のベッドと少し大きめの戸棚があり、入り口とは別の扉を1つ開けたところには、トイレや風呂などがある。さらに別な扉の向こうには、非常用の通路まである。

 そしてこの部屋は、見た目だけでなく機能性を見てもまさにアパートのようであるが……その実態は『病室』なのだった。

 その部屋の主……ベッドに横になっている1人の少女は、入ってきたのがウェスカーだとわかると、緊張を霧散させて元気に挨拶した。

「あ、こんにちわウェスカーさん、お仕事終わったんですか?」

「ええ、先ほどね。簡単だったから速く帰ってこられました。体は大丈夫そうですね、エータさん」

 ベッドの上で上半身だけを起こし、その身を上等なシルクの寝間着に包んでいる少女・エータは、これまた元気よく『はい!』と返す。

 ちなみに、今しがた終えてきたウェスカーの『仕事』の内容は、子供に聞かせるにはかなり刺激的かつ教育上よろしくない類のものだったりする。

「今のところ何も問題は無いようですね……しかし、何か体に違和感を感じたら、すぐに人を呼ぶのですよ? その机の上のハンドベルを鳴らせば、すぐに来るようになっていますから」

「ありがとうございます。でも、ホントに最近は調子がよくて……ウェスカーさんに紹介してもらったお医者様にもらった薬のお陰だと思います。むしろ……」

「むしろ?」

「ここに着てから、着るものも食べるものもすごく贅沢なものばかりで……そっちの方がびっくりして、お腹壊しちゃいそうです」

「そうですか……ふふっ、すぐになれますよ。私もそうでしたからね」

「え? ウェスカーさんも?」

「ええ。もともとはここにいたんです……おっとそうだ、今日はちょっと、エータさんに見てもらいたいものがありましてね?」

 ウェスカーはそういいながら、コートの中に手をやると……中から何かを取り出した。

 それを見て、エータはわあ、と嬉しそうに声を上げて、笑顔を浮かべる。

 ウェスカーの手には、手のひらに乗るほどに小さな、そして見た目にもかわいらしい生き物が乗っていた。ぬいぐるみのように愛らしく、仕草も人懐っこそうだ。

 ただ、見た目はリスのようであるが、体毛が緑色だったり、体の一部が毛ではなく鱗で覆われていたりと、やや特徴的な容姿をしていることが気になる点ではある。

 しかし、エータにはさほど問題ではないようで、ウェスカーが差し出してきたその動物あるいは魔物をすんなり自分の手で受け取ると、胸に抱きかかえてかわいがる。

「かわいい~! この子、何ていうんですか、ウェスカーさん?」

「ふふっ、直接聞いてみるといいですよ。賢い子ですからね」

「はい、やってみます!」

 と、傍から見ると少しおかしなことを言っているウェスカーの言葉に、しかしエータはツッコミを入れる様子もなく、言われるままにそのリス(?)に話しかけ始め……

「……そっかー、トルクちゃんっていうんだ? へー、うんうん……じゃあ、困ってた所をウェスカーさんに助けてもらったんだね。私と一緒だ!」

「…………」

 しばし無言で、トルクと呼ばれたリス(?)とエータが話しているのを見ていたウェスカーは、その子はここであなたの話し相手になってくれますから、と言い残して病室を去った。手を振って送り出しているエータに、自分も手を降り返しながら。

 極力静かに病室の扉を閉めたウェスカーは、その扉に付けられているプレートをちらっと見る。

 ただ『エータ』と部屋の主の名前だけが書かれた紙がセットされているそれだが、そのすこし下に……名前以外の情報が書かれていた。

 『ドラゴノーシス感染個体No.41 進行度:1 特異性:A』

「……間違いないようですね。しかも、『龍栗鼠』と話せていたということは……」

 そこから先は口に出さず、ウェスカーは自分の考えを纏めると、少し早歩きでその病室の前から立ち去った。

 

 
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