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第164話 最強親子の一日・『黒獅子』VS『夜王』
今年最後の更新です。
なんか結局最近ペース落ち気味だったなあ……反省点です。
昼食は、いろいろな具材を使ってバリエーション(形も味も調理法も)豊かに作られたサンドイッチだった。
僕の大好物のBLTサンドやタマゴサンドはもちろん、ベーコンレタスやツナマヨ、サラダ風味やハムチーズ、それに大ボリュームのハンバーグサンドやカツサンド、焼いて端がくっついてるホットサンド、デザート風にクリームやジャムが入ってるものまで。
食べてて楽しい昼食を皆で終えるころには、十分に腹ごしらえが出来ていた。気分的にも胃袋的にも満足である。
――ということで、少しの休憩を挟んだ後、僕と母さんはこの後のスケジュールのため、船を出て手ごろな場所へ移動することになった。
そしたら、全員ついてきた。見物だってさ。ま、別にいいけど……。
☆☆☆
この日一番の大きなイベント……母さんとの模擬戦。
戦いの規模を考えると、船のトレーニングエリアを使うわけにはいかないので、船を出て手ごろな大きさの空き地を探すことに。
……が、それでもやっぱり安心できないとのことだったので、予定変更して母さん達が人工的にバトルフィールドを作り出した。
『ブルーベル』沖数kmの地点に、アイリーンさんと師匠と3人がかりで、直径数km、厚さも相当なものがある氷の島を。氷の魔法で海を凍らせて。あっという間に。
相変わらずとんでもないことするなさらっと、この人達は……。
さらにその表面全体にアイリーンさんが砂をばら撒いて乾かし、滑りづらくして完成。この使い捨ての小島が、今回母さんと僕が使う模擬戦会場だ。
……しかし、なんだ。
「……なんかもう今のこの光景だけで戦闘意欲失せるんだけど」
「ぐだぐだ言わないの、ほら準備体操始めなさい」
そして約10分後、準備を終えた僕と母さんは……10mほど間を開けて、氷の小島の中心に向かい合って立っていた。
母さんは、迷宮に挑んだ時と同じ、Vネックのシャツにベスト、ミニスカートにスパッツという動きやすそうな服装。手にはグローブ、足にはブーツ。武器は特に持ってない。
対して僕は、最初から『パワードアームズ』を装着して完全武装。そして、今は表に出してないけど、腰帯に色々と収納して準備してある。戦闘中に使えるように。
さらに、模擬戦開始を前に『アメイジングジョーカー』も発動……と。
よし……コレで全ての準備は終了。
「ほー、それ確か、最初に『ネガの神殿』で見つけたときも装着してたやつね? そんでその黒紫のオーラは……『ダークジョーカー』の改良版、ってとこかしら?」
「まあ、そんなとこ。本気で行くならこれ2つとも必要だからね」
「ん、気合十分ってわけね、結構結構。……じゃ……始めましょ」
その言葉を皮切りに、フィールドに漂い始める緊張感。
誰に言われなくとも、自然とそこにいる全員が口を閉じ――安全地帯で見物&見学しているエルク達含む――氷の島を静寂が包む。
僕は少し腰を落として構え、母さんは自然体で真正面から僕を見ている。
……随分と久しぶりだ、この感覚。
師匠と立ち会った時にも思った……自分よりも圧倒的に上の強者を前にして戦いを挑む、この緊張感。最近はほとんどなくなった、一瞬の油断も許されない戦い。
さらに、その相手が、生まれてからの16年間鍛えてくれた母さんだということもあり、緊張感に混じって懐かしさを感じるっていう、何だか不思議な感覚。
誓って僕は戦闘狂でも何でもないんだけど、なぜだか気分が高揚して、さっき失せていたやる気ってものが満ち満ちてくるのがわかった。
この人の前で、情けない姿なんか見せられない。見せたくない。そんな気持ち。
1人の戦士としての矜持? はたまた、偉大な師へ挑む弟子の発起心?
それとももっと単純に……親にいいところを見せたい子供の思考……とか?
……まあいいや、何でも。
この高揚感をどう表現した所で……これからやることは、変わらない。
「さ……おいでミナト。久々にお母さんが遊んだげるわ♪」
母さんの、いたずらっぽい笑顔とウインクと共に放たれたそんな言葉と共に、僕のやる気と集中力も最大まで引きあがった気がした。
☆☆☆
まず先に動いたのは、僕。
両のくるぶしについた紫色の宝珠『デモンズパール』が光り、僕の魔力が増大。踏み込みと同時に足元で爆発が起こったかのような勢いがつき、僕の体は前に飛び出す。
足の裏に伝わった感触から、反動で氷の地面が砕けたのがわかった。
その速度に乗せて、これまた手の甲にある宝珠を光らせて魔力をブーストさせながら、母さんの顎めがけて渾身のストレートパンチを繰り出す。
AAAランクのドラゴンすら、一撃で殺せる威力がある拳。
普通の人間の顔面にこんなもんを当てれば、その衝撃で頭のみならず上半身、下手したら全身が残らず木っ端微塵になって赤い霧になるだろう。
が……母さんはそれを、負傷することも、押し込まれることもなく、片手であっさりと受け止める。軽い挙動に似合わない凄まじい音と共に。
まるで、キャッチボール中に正面から飛んできたボールを受け止めました的なその軽い挙動で、僕の開幕の一撃はあっさり止められた。
その際に発生した衝撃波は、僕と母さんを中心にして地面に蜘蛛の巣状の罅を四方八方に走らせた。その際に地面が砕けて巻き上がった氷の粒を、同時に発生した爆風が周囲に散らしていく。
その中心で、僕の目の前で……母さんは、嬉しそうに笑っていた。
「……っち」
余裕ってわけね……まあ、わかってたけど。
すぐさま僕は拳を引っ込めてその場から飛び退る。
ザッ、と音を立てて着地。氷の大地の表面は乾いていて、しかも砂がばらまいてあるため、けっこうな勢いで跳んできても滑ったりしなかった。好都合!
間髪いれずに僕は地面を蹴り、さっきから光りっぱなしのくるぶしの宝珠でまた加速、今度は母さんの斜め後ろに回りこみ、後頭部めがけて飛び蹴りを……放った途端、
ガキン、とそれは受け止められた。母さんの脚に。
振り向きざまに――多分、だけど。いや、振り向いた挙動がろくに見えなかったし――放たれた母さんのハイキックが、僕の一撃を阻んでいた。
と思ったら次の瞬間母さんが消え、視界左端に金色の何かがきらめくのが見えた。
とっさに体をひねって後ろに跳躍。防御しつつ回避、という選択肢に出たとほとんど同時に、鋭い衝撃が僕の左腕を襲った。
その正体は、消えたようにしか見えないほどの速度で繰り出された、母さんの肘。一応防御には成功したものの、ガードをはじいて思いっきり体勢を崩された。
その勢いを逆に利用して回転、反撃に繰り出した僕の後ろ回し蹴りは……しかし母さんに見事に読まれていた。
肘鉄を出したのとは違うもう片方の手が唸る。カチ上げる軌道で放たれた母さんの掌底が僕の蹴りを上に逸らし、今度は取り返しがつかないレベルで僕の体制が崩れる。
このままだと格好の餌食だということは日を見るよりも明らかなので、背中のNIエンジンに魔力を注いで点火、一気に噴射させる。
ドォォオォッ!! という爆音を上げると共に暴風を吐き出し、飛翔。一気にその場から離れ、空中に逃れる僕。
「わぷっ!? な、何!?」
轟音と爆風、それに噴射口から噴き出した紫色の魔力残滓にびっくりしたらしい母さんがひるんだ一瞬の隙に体勢を立て直す。コートみたくなってる服をひるがえし、背中に生えているメタリックカラーの翼を羽ばたかせて滑空、そして着地。
僕が装備に仕込んでる武器のほとんどは、母さんには話してないし、『ネガの神殿』や『アトランティス』でも見せていないものばかり。戦闘の中で披露すれば、初見なら母さんでもびっくりさせてひるませられるものがあるかも、とは思っていた。
だからこそ、僕は降って沸いたこのチャンスにすぐさま反応できた。
一気に踏み込む。貴重な隙だ、生かさない手は無い!
が、死角から、しかも見えていないとわかっていながらもフェイントまで入れて放った僕の一撃――中段の回し蹴り――は、半身を引いてすっと突き出してきた母さんの肘によって、またしても防がれた。
直後、下から打ちあがってくる母さんの後ろ蹴りを、体を逸らしつつ足で軌道を変えてかわし、そのまま横に一回転して蹴りで反撃、しかしまた、今度は母さんも体をぐるっと回転させて放った蹴りではじかれる。
その攻防で互いの距離が開いた直後、今度は母さんから踏み込んできて、中段の肘鉄。
斜め後ろに跳んで威力を流しつつガードして耐え……しかし続けざまに反対側から飛んできた母さんの蹴りがわき腹に入る。やば、防御間に合わない。
とっさに僕は、避けようとはせずにあえて母さんの蹴りに向かって突っ込み……足がトップスピードに乗る前に受ける。
結果、ダメージは負ったものの、そのまま受けていた時よりもはるかに軽い衝撃で済み……息が詰まることもなく耐えることが出来た。チャンス!
今の僕の受け方に『おっ!』と母さんがびっくりしつつも感心しているその一瞬に、僕はたった今叩きつけられた母さんの足を、引き戻される前につかまえた。
そのまま引っ張り寄せて反撃に転じようとして……っっ!?
「ほ――っとぉ!!」
「どぉわああぁぁえっ!?」
相撲然り、プロレス然り、相手の足を取ったってのは普通、こっちに有利な体勢だ。
持ち上げて相手のバランスを崩すもよし、そのまま振り回してジャイアントスイングとか投げ技につなげたり、叩きつけたりするもよし……って感じ。相手はろくに動けない一方で、こっちはかなり攻撃に選択の余地がある。
……はずだったんだけど、母さんには通用しなかったのだ。
こっちが何かのアクションに出るより先に、母さんがその場でぐるんと勢いよくバック宙を決め、足をつかんでいた僕はそれに伴って縦にぐるんと振り回された後、地面に叩きつけられた。
背中を強打する形で倒れこみ、衝撃で肺の中の空気を吐き出してしまう。
僕の背中の下の氷の大地には、さっきのよりもさらに大きな蜘蛛の巣状の罅が入り、その衝撃の大きさを物語っていた。……よく見ると、僕の周囲ちょっと陥没してるし。
それをやってのけた母さんは、倒れた僕の頭の上側……見上げるような位置で、危なげなく華麗に着地していた。
そしてそのまま振り向きざまに、上段から地面まで一気に打ち下ろす形で、地面ごと地面ごと叩き割る鉄拳を降り抜いてきた。
☆☆☆
「……見学しに来たはいいけど、動きがまるで見えないわ……」
離れた位置から見ていたギャラリーたち。
その大部分の心境を、代表してエルクが呟くように口にした。
「何アレ、目で追えない。どんな速さで動いてるの? 最近訓練してそこそこ反射神経とかにも自信ついてきたと思ってたのに……」
「いや、気を落とす必要ないわよエルクちゃん。あれは間違いなくあの2人が異常だから」
落ち込むエルクに、斜め後ろに立って半眼になっているセレナが声をかける。
「セレナさんは見えるんですか?」
「どうにか見えるけど……反応するのは無理ね。攻撃全てがとんでもない速さで繰り出されてる。防御か回避に動く前に攻撃が届いてぶっとばされるわ」
セレナの言う通り、ギャラリーとして観戦している者たちの大部分は、ミナトとリリン、2人の動きをほとんど目で追えていなかった。
安全を考えて遠くにいるせいもあるが、ミナトとリリンの戦いは、読んで字のごとく『目にも留まらぬ』速さでの戦いであり、残像すらろくに捉えることができない。
訓練をつんでいるセレナやシェリー、ナナはまだギリギリ目で追える、もしくはなんとなく2人の像が視界に映らなくもない、といった感じに見ることが出来ているが、エルクやザリー、ミュウは完全にお手上げだった。
時折、2人の攻撃と攻撃、もしくは攻撃と防御がぶつかり合って発生する衝撃波が空気を震わせ、氷の地面に大きなひび割れを作る。それによって2人の居場所がようやくわかる程度のものだった――当然、直後にもうそこからいなくなるわけだが。
そんな2人の戦いを、完璧に見ていて目で終える者といえば……同じレベル、もしくはさらにその上のレベルの戦いのステージに立つ者たちのみ。
この場には、3人いた。誰であるかは、言うまでもない。
「ふーん……中々善戦してるじゃないの。どうだいクローナ? 師匠から見て、弟子の成長具合は」
「まーまー、ってとこだな。スピードもパワーも上がってるし、きっちり修業はしてたらしい。体術は俺んとこにいた頃とあまり変わらねえみてーだが……まあ、技能そのものはもともと高かったし、自主トレじゃ限界がある分野だからしかたねえだろ」
「確かに、動きそのものは十分ムダが少なく洗練されてるようだニャ……ちゃんとリリンの動きについていってるし、防戦一方じゃなく果敢に攻めてて、カウンターで反撃にも出れてる」
「え、ミナト君、やっぱりいい勝負できてるんですか?」
横で『女楼蜘蛛』の3人の話を聞いていたシェリーが、思い人が健闘しているというその内容に、驚きつつも嬉しそうにたずねる。
「ま、そういう趣旨での組み手だからね。あくまでこの模擬戦は、ミナト君の戦闘技能と戦闘力を見極めるのが目的だ、そうしやすいように戦ってるだけさ」
「あ、やっぱ手加減はされてるんですね」
「あたりめーだろ。リリンが本気で戦ってたら、5秒もってねーよ」
と、そんな会話が交わされた頃……話題となっている2人の戦いは、次の段階に駒を進めたような形になっていた。
それに気付いたアイリーンが、「おぉ?」と面白そうに声をあげ、それにつられてその場にいた全員が同じ方向に……ミナトとリリンの戦いの場に再び目を向ける。
そこでは、あまりの速さにほとんど何も目に映らず、時折発生する白い波紋のような衝撃波以外には見るものもなかった先ほどまでと違い……色鮮やかな火炎や電撃がほとばしる戦いが始まっていた。
☆☆☆
肉弾戦から一転、母さんとの模擬戦は第二段階……魔法やら何やら、各種技能を織り交ぜた戦いにシフトしていた。
たった今母さんが放った魔法の一撃で、周囲数十mの氷の地面が吹き飛び、氷の粒や大量の水蒸気でできた煙で視界がふさがる。
そこから飛び出ると、すぐさま母さんの追撃が飛んできた。
前にばっと突き出した両の手のひらから、マシンガンのごとき速さと勢いで連射、というよりも乱射される、ピンポン玉くらいの小さな魔力弾。
ただし、小さくても威力は恐ろしいものであり、一発一発が戦車砲みたいな威力。地面に当たると轟音と共に爆発して広範囲を吹き飛ばす。
そんな魔力弾が秒間十何発、雨あられと降り注ぐ。とんでもなく凶悪な弾幕である。
それでも、隙間がないわけじゃない。フェイントを入れながら素早く動いてそれをかわしつつ、僅かな隙間を縫って接近していく。
避け切れなくて2、3発当たるけど、無視して前進。もともとの防御力に加えて『魔力共振バリア』もあるので、そこまで大きなダメージは無い。
母さんまで残り10m……そこで一気に地面を蹴って跳躍する。
するとふいに光弾の豪雨が止まり……次の瞬間、その分全てを収束させて作り出したと見られる、西瓜くらいの大きさの光弾が母さんの手元から放たれた。
が、真っ直ぐ飛んでくるそれを僕は、
「ナイスパスッ!!」
――ぱしッ!!
「おぉ!?」
両手でキャッチ。
そして、予想外の対応に面食らってる母さんの脳天にダンクシュート――爆発。
さっきまでの戦車砲撃級数発分の収束魔力弾だけあり、爆発はひときわ強力だった。
爆心地から数百メートルの地面が吹き飛び、ひび割れどころでは済まず、大きなクレーターが出来る。周囲は巻き上がった氷の粒が霧のように立ちこめて……
一瞬後、僕も母さんもバッとその中から飛び出てきた。両者無傷で。
母さんは浮遊魔法で、僕は背中のエンジンと羽で飛翔し、今度は空中戦が始まった。
僕よりも一瞬早く空中に上がった母さんは、急停止して僕の正面に手をかざし、突っ込んでくる僕にクリーンヒットするように、落雷みたいな凄まじい電撃を放つ。
直撃。しかし……僕がそれによってダメージを受けたのは最初の一瞬だけ。
母さんの魔法を電気だと見切った僕は、即座に体内に『MDC』を精製。降り注ぐ電撃を逆に利用して充電、魔力に変換する。
ダメージがないどころか僕の魔力が膨れ上がってることに気付いた母さんは、電撃と共に起こる強烈な光の向こうで、驚きと関心の入り混じった顔をしていた。
僕が大体何をしているのかを理解し、母さんが放電をやめるのと同時に、今度は僕が攻撃に移る。
大きく息を吸い込み……同時に、体の中で魔力を練り上げる。
それを、水と風と雷の属性に変換・増幅。あと、吸収したあと魔力に変換しないで溜め込んどいた電気も一緒に混ぜ、エネルギーが膨れ上がったら一気に口から開放。
名付けて『ドラゴンブレス・サイクロンバージョン』。
風・水・雷の3種類の魔力を練り上げて作った雷雲の竜巻を、ブレス攻撃の要領で相手に吹き付ける技。暴風と電撃が一気に襲い掛かり、並みの相手なら正に竜巻に巻き込まれたかのように千々に千切れて吹き飛ばされ……いや、消し飛ばされる。
そんなとんでもないものを口から吐き出すという、色々と人間やめてるよなコレ、と僕でも思うようなトチ狂った技を受けてなお……母さんはピンピンしていた。
損傷……ちょっと髪型が乱れてる。以上。
……ホントどうやったらダメージ通るんだこの人。
が、それも予想済み。
今の攻撃を目くらましに背後に回り、本命の一撃を痛っったぁぁあァ!?
「っ――あっっぶなぁぁあ!! 何ちゅー技使うんだよ母さん!?」
「そりゃこっちのセリフよ! あなたいつからあんな口からゲロゲロ吐き出すような技使うようになったの! 下品でしょ! めっ!」
「いいんだよ胃じゃなくて肺から吐き出してる系だから! てか、髪の毛で串刺しにするようなえぐい技使っといて言えたことかァ!!」
母さんの長くてキレイな金髪が、硬化して四方八方にピンと真っ直ぐ伸び、ウニみたいな形になっていた。近づくもの全てを串刺しにする凶悪な針山に。
怖っ! 威力は大したこと無さそうだけど見た目と発想が怖いよ!
刺さりこそしなかったし、顔はとっさにかばったものの、無数の切っ先に体中を突っつかれ、完全にカウンターを返された形になった。体の前半分があちこち痛い……。
「もう! 知らない間にオリジナル技が増えてるのは、一年以上離れてたから仕方ないとしても……そんな品のない技作って……後でお仕置きだからねっ!」
「自分の子供を性的な意味で捕食する人に品をどうこう言われたくないんだけど……」
「問答無用!」
理不尽だ。
すると、僕の帯と同じ収納系のマジックを使ったのか、突如として母さんの手に短剣が姿を現して握られていた。徒手空拳、魔法戦と来て、今度は武器戦闘か。
……って、あれ? あの短剣って、まさか……。
☆☆☆
「あれ? あれってもしかして……私が使ってるのと同じ短剣じゃ……?」
遠くから戦いの様子を見ていたエルクは、リリンが手に持っている、見覚えのあるデザインの短剣を見て、気付いたように言った。
見間違えようもない。常日ごとから愛用している、水晶の短剣。
自らが『クリスタルダガー』と呼ぶそれと、同じものであると。
そして同時に、以前ミナトに、あの短剣の本当の価値を聞かされた時の記憶もよみがえっていた。
ミナト曰く、『たまに遺跡なんかから出土するすごい武器』『見た目と中身が一致しないいい例』。
もし、真にその短剣を使いこなせれば……というか、以前リリンがその『真に使いこなした』結果を聞かされたことがあったのだが、その時はエルクはまだミナトやリリンの否常識ぶりを完全には把握していなかったこともあり、『まさかあ』と話半分だった。
が、今のエルクは知っている。ミナトの、そしてリリンの『否常識』な力を。
そしてそれを鑑みるに、あの時ミナトに聞かされた、あの短剣『クリスタルダガー』の真の力……それが、はたして大げさな物言いだったのかどうか。
その真実は……数秒後に目の前で展開されることになる。、
「せっかくだ、よく見てなよエルクちゃん。君の持ってるその短剣……その力を完全に制御して使いこなすと、どういう戦いが可能になるのかをね」
そんなアイリーンの言葉の直後、リリンが短剣に魔力をこめた。
☆☆☆
エルクも使っている、水晶の短剣。
呼び名は、エルクは『クリスタルダガー』って呼んでるけど、色々あるそうだ。
僕は母さんから『プリズムブレイザー』っていう名前で聞かされてた。まあ、どっちでもいいんだけどね。
今のエルクは、刀身に魔力を纏わせて切れ味を上げたり、魔法発動の時の媒介にして魔力を増幅させる、くらいの使い方しか出来ないんだけど……母さんクラスがコレを使うと、とんでもないことになるのである。
――こんな風に。
「じゃ、行くわよミナト……こっからは武器ありね、お互いに」
そんなことを言う母さんの手にある『プリズムブレイザー』からは……水晶の刀身から、魔力で出来た光の刃がぐんと伸びている。
その長さ……ゆうに30mはあろう。
それを母さん、無造作に縦一線にぶぅんと振るう。
当然横に跳躍して僕はそれを避けるわけだけど、その光の刃は……氷の大地をさっくりと、まるでケーキにナイフを入れるかのように切り裂いて大きな切れ込みを作った。
続けざまに母さん、今度は横方向に切り上げるように振るう。
地中から氷を切り裂きながら、僕を狙って再び地上に現れた光刃。しかもなんかさっきより長くなってる気がする。
それも避けたら、今度は弧を描くような軌道で、色んな角度で何度も僕を狙ってきた。
これだ……母さんが『プリズムブレイザー』を使うと、こんな感じで凶悪な性能を発揮する。魔力の増幅もそうだけど……それ以上に、間合いってもんを完全に無視した伸縮自在の光の刃による斬撃。威力も切れ味もきっちり凶悪なこの攻撃が最も怖い。
振るわれるたびに氷の地面が切り刻まれ、瞬く間にバトルフィールドの形が変わっていく。あちこちにクレーターやひびはあるものの、大体平らだった氷の大地は、振り回される光刃によって切られ、めくられ、削られ……足場の悪い岩場みたいになっていく。
跳んで回避するのも大変になるし、そもそも逃げる所がだんだんなくなっていく。
……もっとも、母さんがその気になるとこの剣、最大で200mくらいまで伸ばせるらしいし、直線の剣じゃなくて鞭みたいにしならせることもできるらしいから、まだ手加減してもらってる方なんだろうけど。
「ほらほらほらほら! 逃げてばっかじゃ勝負にならないわよ? どうするのミナト!」
気分が乗ってきたのか、射程が更に伸びて50mくらいになってる剣を振り回しながら言う母さん。くっ……近づけない……!
……けど、打開策がないわけでもない。
母さんがさっき言ってたけど……『武器あり』なら。
相変わらずのこのトンデモ射程、トンデモ性能を前にどこまでやれるか試してみてたけど、やっぱ相手の土俵で戦うのは苦労するし性に合わない。やめよう。
そんなことを思いつつ、僕は帯に収納していた武器の1つを取り出して手に持つ。
それは、見た目は何の変哲もないハンマーだ。打つ部分がやや大きくて、持つ柄の部分まで金属でコーティングされてる、ちょっと豪華な見た目。
当然ながら、ただのハンマーじゃないんだけどね。
振り下ろされる光の刃を避けつつ、その横っ腹に叩きつける形で振るった……途端、
光の刃は、まるでガラスか何かのように……いとも簡単に、儚く砕け散った。それも、殴った周辺だけでなく……根元から先端まで、長さ50mの刃全てが。
「……おぉ?」
その光景に、さすがの母さんも驚いている。
そしてその隙に、地面を蹴って速やかに接敵する僕。
当然、母さんは再び魔力を流して光の刃を作り、今度は鞭みたいにしならせて僕の体を捕らえに来る。しかし、軌道を読んで交わしつつ、再びハンマーを一撃。
さっきと同じように、砕け散る光の鞭。
このハンマーは、打撃と同時に特殊な魔力波を放出することにより、魔力で構成された物質を木っ端微塵に破壊することが出来るマジックアイテムだ。僕オリジナルの。
といってもコレは試作品で、強度を無視して何でも壊せる、ってわけじゃない。簡単な魔力構築で作られたものに限られる。本来なら、母さんクラスの魔法使いが作った魔力物質には通用しない。
が、今回母さんは『プリズムブレイザー』で光の刃を作るに当たり、さほど強度に重きをおかず、しかも訓練ってことで手加減して形作っていた。なので、この試作品のハンマーでも刃を簡単に壊せたのだ。
……だから、
――ガキィン!
こんな風に、むやみに射程距離を長くしたりせず、きっちり丁寧に、頑丈に魔力構築を行って刃を作られると……太刀打ちできなくなる。
「へー、ミナトそれ、面白いもの作ったわね。まだまだ未完成みたいだけど」
「まね。でも……」
十分だ、ここまで近くに、懐にもぐりこめれば、本来の僕のスタイルで戦える。あとは、さっきみたいに放されないように気をつけながらやればいい!
後ろに飛んだりして距離をとられる前に、中段の回し蹴りで攻撃に移る。
それを剣で払う母さんは、返す刀で僕に切りかかってくるけど、僕もそれを受け流して再び攻撃。懐に飛び込みつつのエルボー。
が、当然のようにぱしっと空いてる方の手で受け止められたかと思うと、そこを伝って……出た、触手みたいな髪の毛。僕の腕を、そしてそのまま体を絡めとらんとしてくる。
EBによって鋼線などとは比較にならないレベルの強度を誇る髪の毛だ。絡み疲れてはたまらないので、こんなのために作っておいた秘密兵器の一つを使うことに。
ベルトから取り出し、ぽい、と母さんの髪めがけて放ると、瞬時にそれは力を発揮した。
「ん? ちょ、何コレっ!?」
「カーラー」
そう、カーラー。あの理容用品の。そしてここではマジックアイテムの。
細い触手や粘着性の糸なんかを使う魔物対策のコレは、投げつけると周囲にある糸や触手なんかを巻き込んで高速回転し、強引に巻き取っていく。蜘蛛の巣やワイヤーなんかのトラップや障害物を除去するために作ったものだけど、見た目が完全にカーラーだ。
なので、髪の毛という名の触手を使う母さんへの対処にはいろんな意味でぴったり。
「ちょ、やめ、痛たたたっ!? 髪が、髪が痛むってコレあいたぁっ!?」
予想外の反撃に戸惑ってる母さんの手首を蹴飛ばして『プリズムブレイザー』を強奪に成功。そのまま追撃をかけられるかと思ったんだけど、母さんの反撃の水面蹴りが飛んできたのでその場から飛び退った。
同時に、母さんの髪の強度に負けたか、はたまた母さんが髪に電撃でも流したか、カーラー(仮)が爆発した。
「んも~! 何すんのミナト! 何なの今の! アイデアとしては確かに悪くないけど、髪の毛が痛んじゃうでしょあんなのに巻き込まれたら! ホントにもう、さっきのブレスといい、変なのばっか作ってるんだから!」
言いながら母さん、片方の手で髪をすいて整えつつ、もう片方の手で何かを持ち上げつ酔うなジェスチャーを行う。
すると、念力か何か使ったのか……周囲にある、さっきの『プリズムブレイザー』の乱舞で切り刻まれた大量の氷塊が浮き上がり、続く母さんの投げつけるようなジェスチャーと共にこっちに高速で飛んできた。
僕はそれに、火と土の魔力を混ぜ合わせ、たった今母さんから奪い取った『プリズムブレイザー』に纏わせてマグマの刀身を作り、それで切り払う。
直後、切り払った氷塊が超高熱で一気に気化した結果、『水蒸気爆発』という名の現象がそこで起こり、周囲に凄まじい高熱と爆風、大量の水蒸気を撒き散らした。
それを目くらましに、僕は母さんのいる位置を耳のセンサーで正確に把握、素早く後ろに回りこみ奇襲をかける。
が、その瞬間、真下からの強烈な衝撃が僕を襲った。
見ると、一瞬前まで確かに目の前で背中を向けていたはずの母さんが、僕の横に回りこんで僕の腹を下から鋭く蹴り上げていた。
ちょ……マジで!? 奇襲が失敗したのはともかく、今の動き全く見えなかったぞ!? センサーでも感じ取れてなかったし……どんだけ速く動いたんだ!?
蹴り上げられた僕の体は、この身に感じる凄まじいGとともに上空高く打ち上げられ、そこに追撃する形で母さんが飛び上がってくる。このままだとやられっぱなしになるので、背中のエンジンを点火して僕も空中戦モードに移行した。
浮遊魔法と飛行用兵装でそれぞれ空を翔る僕と母さんは、空中で何度も激突し、拳を、蹴りを、肘を、膝をぶつけ合って切り結ぶ。
『プリズムブレイザー』は蹴られた時に落としてしまった……と思ったら母さんがしっかり回収していて、高速飛行からの斬撃で攻撃してきたりした。
間合いが自在な光の剣が相手では、ただでさえ得意とは言えない空中戦、徒手空拳だけでは限界があるので、仕込みの兵装をフル活用してこっちも応戦する。
手甲に仕込んだ魔力ミサイルやカギヅメ、攻撃+牽制用の魔力機雷数十個、様々な魔力を付与した手裏剣数十個、棍、鎖つき鉄球、etc……
光剣一本でそれらを全て切り払い、叩き落す母さん。なんだかだいぶボルテージ上がってきてるというか、本気に近くなってきているような気がする。
剣だけじゃなく、周囲に魔力弾浮かび上がらせての砲撃なんかも使ってくるし。それらを避けたり、蹴飛ばしたりしつつ戦うのマジ大変だ。
それに……
「ほらほらほら! 攻撃にキレがなくなってきてるわよ、疲れちゃったかしら?」
「そりゃまあ……そんな弾幕じみた攻撃さばきながら戦ってればね……! そろそろ時間もヤバイし(ぼそっ)」
戦闘開始時からずっと発動しっぱなしの『アメイジングジョーカー』。ここにきての激しい戦闘のせいで、持続時間がガンガン削られてきてしまっている。もうあと何分持つか……
しかし、それで焦って隙ができてしまっては元も子もないので、務めて冷静さを保ったままで戦う。積極的に、苛烈に、しかし無茶はせずに……難しっ。
そんなことを知ってか知らずか、どんどん苛烈になる母さんのラッシュ。一呼吸で幾筋もの剣閃が走り、間合いの外に出れば光の刃が伸びるか鉄板すら易々と貫く魔力砲撃が放たれ、かといって懐に飛び込めば強烈な蹴りや肘が飛んでくる。
攻撃の密度は一秒ごとに増していく。
それに伴って僕も考える暇がなくなり、しかしそのお陰なのか、これまでにない集中力を発揮していた。反射に近い思考・反応速度で攻撃に対応し、反撃や回避のタイミングを一瞬よりも遥かに短い時間で読みきって動く。
攻撃、反撃、回避、防御、その応酬からなる激闘は、空中で行われているにも関わらず、その余波だけで地上……氷の大地をえぐり、砕き、崩壊させるレベルだった。
そんな、これまでで最も激しいと言って差し支えないレベルの戦いは……唐突に終わりを迎えることとなった。
刺突の形で繰り出される母さんの光の剣。その軌道を見切った僕は、ぎゅるっと体を回転させて飛んできていた魔力弾を蹴り砕きつつ、その剣の攻撃を回避。
そのままの勢いで母さんの手首……よりも少し先、短剣を持っている指の付け根がある部分を蹴り上げ、持っていた短剣を取り落とさせる。
(……! 上手い!)
そのまま回転の勢いをさらに利用して、みぞおちにエルボーを叩き込もうとして……しかし母さんのカウンターの蹴りが迫ってきていたので中止、腕で防御する。
蹴りを防がれた母さんは、今度はばっと両手を前に突き出して魔法を放とうとするも、とっさに僕は両手でがしっと手と手を組み合わせる形にして捕まえる。
手のひらを合わせて、指を絡めて捕まえて、力比べでもするような形に。相互に動けなくなった僕と母さんは、そのままぐぐっと互いに腕を押し込むようにして力を拮抗さる。
そこから先に動いたのは僕。腕と腕の間で顔と顔が突き合わされてるこの状況、ここからの攻撃となると、魔法を除けば蹴りかもしくは頭突きくらいしかないだろうけど……僕には僕特有の攻撃手段がある。素早くそれを選択。
すぅっ、と息を吸い込み、体内で練り上げた火の魔力を混ぜ合わせて炎のブレスを作り上げ……と、その時、母さんの表情が変わった。
真剣かつ楽しそう――母さんは別に戦闘狂とかじゃないけど、訓練で僕がいい動きをすると嬉しそうにする――な顔だった母さんが、むっとしたような表情に。
そして母さん、
「だからね……ミナト」
ぱっと両手を離して僕の手を振り払い、
「さっきも言ったけど」
右手を伸ばして僕の胸倉をつかんで引き寄せ、
「そういう行儀の悪くて品のないような技」
左手を僕の頭の後ろに回してさらに引き寄せ、
「使ってんじゃ……ないのッ!」
そのまま……僕の唇を奪った。
「……ん゛っ!?」
……そして、
一気に僕の口の中に息を吹き込んできて……吹き出そうと思っていた火炎ブレスが逆流・暴発し、僕の体の中から、ぼっごぉぉっ!! という壊滅的な音が聞こえた。
「ん゛……ぅぐぅごごっほぉぉえっ!?」
口から煙を吐き出すというギャグマンガでしか見ないようなリアクション(?)と共に、咳き込んで上手く呼吸が出来なくなり、空中でふらつく僕。熱っ! 体の中熱っ!
やばいって……EBで内臓も強化してるし、普段から火炎とかのブレス使ってるからそれなりに肺とかも強度あるけど、それでもこれはちょっと洒落にならない……!
息を吸い込むたびに気管のあたりが激痛に襲われる中、ふと見ると母さんがいない。
直後、後ろから抱きしめられ……背中にあたるぷにゅんとした柔らかい感触。
誰に抱きしめられて、当たってるのが何か、何てのは考えるまでもないこと。
……それよりも、この後何が起こるのかを考えたい今日この頃。
そして、
「お仕置き……よっ!」
見事なバックドロップが炸裂。
空中から一気に氷の大地……をも突き破って海中まで叩き込まれた僕は、その一撃でキレイに意識を刈り取られた。
☆☆☆
「あ゛~……ホント死ぬかと思った」
「大げさねぇ……ちゃんと手加減してあげたでしょ?」
「いや、内臓焼かれて手加減も何もないって……アレ下手したら僕死んでたんじゃない?」
「息吹き込む時に、火炎ブレスの威力一緒に減衰させてたから大丈夫よ。そんな凡ミスするはずないでしょ、このお母さまが」
時と場所は変わって……夜、僕の部屋の浴室。
僕の意識が戻った後、訓練でかいた汗を流すために母さんと一緒に入っているお風呂にて……反省会という名のお説教タイムが執り行われていた。
2人揃って湯船に浸かっていて、隣には僕同様、一糸纏わぬ姿の母さんがいるわけだけど……何度も言うようにもう母さんと一緒のお風呂は慣れている。女性として魅力的だとは思うが、そういう感情は今更出てこない。
……っていうか、今はとにかく体中があちこち痛いし、疲労も結構なレベルなのでゆっくり休む以外のことに割く神経がない。
なので、肩までお湯に使ってリラックスしつつ、母さんの評価を聞かされてるわけだけど、おおむね高評価のようだ。成長そのものは、母さんの予想以上だったと。
まあ、一部母さんが個人的に気に入らない成長を遂げた部分もあるようで、それについてはちょっと苦言を呈されたけど。
けどブレスは、アレはアレでホントに便利なんだけどな……手がふさがってても使えるし、普通の人なら考えもつかないような攻撃方法だから虚を突くこともできる。中・遠距離でも使えて、威力も割とあるし、属性や追加効果もかなり変幻自在だから。
「お母さんとしては、ああいう技はできれば控えてほしいって気もするけど……利便性は認めざるを得ないわね。特に、道具無しじゃ遠距離攻撃ができないあなたは」
「あ、そこは気付いてくれてたんだ」
「まあね……それにしたってさあ、色々他にやり方あるでしょうに」
「例えば?」
「んー……目からビーム出すとか」
いや、それもどうかと。
むしろビジュアル的にはより酷いんじゃなかろうか、生身の人間が目から何か出すのは。
それに、母さんだってコワイ攻撃色々使ってくるじゃん。髪の毛とか。
「ま、それはおいおい考えて欲しいけど……それにしても……」
と、母さんはそこで言葉を切ると、何だか意味ありげな視線をこっちに向けてくる。
さっきまでの、責めるような感じじゃない……もっとこう、感慨深いものを見るような感じの、どちらかというと優しい感じの目だった。
きょとんとしてその視線を受け止める僕。その頭に母さんの手が伸びてきて、なでる。幼い子供にやるみたいに。
「ホント、いつの間にかこんなに大きくなっちゃって……ちょっと前まで、私がおむつ変えてあげてたっていうのにね」
「あのさ、本人が覚えてないからってそういう黒歴史的なことを話されるのは、男の子は割と恥ずかしいんだよ?」
「乳幼児時代の微笑ましい思い出じゃないの、いらん感情抱かない。……てか、あなたならその頃のこと覚えてても何だか不思議じゃない気がするんだけど」
「いやいやいや、いくらなんでも……」
……覚えてますけどね、実際に。
授乳とか、おむつとか、おまるとか……色々と。
「子供の成長って、親からしてみれば嬉しくもあり、さびしくもあり、って感じでさー……いつの間にか手がかからなくなっちゃった時とか、毎回実感するのよね。特にミナトの場合、他の子達に比べてもずば抜けて成長早かったから。いつの間にか、こんなに大きく、強くなっちゃって……もうちょっとで、初期の女楼蜘蛛のレベルに届くんじゃないかしら」
「いや、いくらなんでもそんな俗に言うバケモノレベルまではさすがにごぼごぼごぼ」
「どぅあ~れがバケモノか」
撫でてた手にそのまま力がこもって湯船に沈められた。
が、すぐさま『魔緑素』で対応。僕に溺死という死因は無い。
「全く失礼な……それに、別に冗談とかじゃないのよ? そのくらいあなた、ホントに強くなってるもの。まあ、『女楼蜘蛛』全盛期の実力とまでは言わないけど……結成当初の私達くらいなら、互角かそれ以上くらいのレベルじゃないかしら?」
『え、そうなの? でも僕Sランクだよ? 確か母さん達って、Sランクに到底収まらないレベルに強いから『SS』なんてランクが新設されるくらい強かったんでしょ?』
「……なるほど、やっぱりわかってないのね」
すると、水面の向こうに見える母さんが、なぜかジト目になって僕を見下ろしてきた。
「あのねミナト……ひょっとしてあなた、ここんとこ強い相手といっぱい戦ってた?」
『へ? いきなり?』
「いいから」
んー……言われて見れば確かにそうだね。思えば、王都のゴタゴタに巻き込まれたときあたりからそんな感じだ。
狩場で、第一王女様たちを守りながら『ディアボロス亜種』と戦ったのが皮切りか。
師匠の所でAAやAAA、Sランクの魔物たちと戦って鍛えた。それに、稽古付けてもらってた師匠自身も、強いどころじゃないレベルの人だった。
その後、休暇のつもりで行ったサンセスタ島で、ウェスカーとその召喚獣たちと一戦。僕と同レベルの実力者……人の形した敵としては最強の強さだった。
そして今回、『神殿』そして『アトランティス』では、ディアボロス7匹にAAAランクの魔物各種と戦った。加えて、戦ってはないけど、母さん達『女楼蜘蛛』メンバーや、最強アンデッドであるテラさんを目の当たりにした。
……色々とんでもないな、ここ数ヶ月の僕の状況。
「なるほどね……それでか」
『何が?』
「ミナト、あなた自分の実力ってもんを正確に把握するべきだわ。さっきの一戦で確認した。あなたすでにSランクぶち抜いてるレベルまで強くなってるわよ……」
『え、マジで?』
「マジよ。それに聞く限りだと、ここ最近はギルドの依頼とかも受けてないでしょ? ウォルカに戻ったら適当なの受けてみるといいわ、多分拍子抜けどころじゃないから」
『ふーん……』
「たぶんあなたなら、SSランクになる日も遠くないわ。きっかけさえあればそれこそ……ってさっきから普通に話しちゃってるけど、大丈夫なの?」
と、今更ながら僕の頭を湯船の中に沈めたままであることに気付いた母さん。
ご心配なく、『魔緑素』さえあれば僕は水中でも酸素には困らない。
「てか、コレなんであなたの頭が水中にあるのに普通に声が聞こえるの? 念話……とも違うみたいだけど」
『『骨伝導』って知らない?』
人間が音を認識する時、耳から空気の振動で伝わってくる音と同時に、頭蓋骨の振動によって直接伝わる音を感じ取ってるっていうアレだ。
それの応用で、言葉にしなくても、直接接触さえしていれば僕は音声を伝えられる。魔力を乗せてるけど念話じゃないから、僕でも使えるのだ。
母さんはわかったようなわからないような、って感じだったけど、感心すると同時に呆れながら僕の頭から手を離した。
同時に僕、浮上。今まで湯に使ってたから、風呂場の蒸し暑い空気が涼しく感じる。
ふぅ、と一息つくと、隣に座ってる母さんが、
「それにしても……親子水入らずで入るお風呂もいいけど、やっぱ未来の娘とも一緒に入りたいわね。今度エルクちゃんとシェリーちゃんも呼んできてよ」
「断られなければね」
まあ……エルクは初日に一回強引に連れ込まれてるから拒否感それほどでもないかもしれないし、シェリーは多分ノリノリでついてくるだろうけど。
そう伝えると、母さんはふと思いついたようにして、
「ねえ、ナナちゃんは違うの?」
「は?」
「いやだからホラ、ナナちゃんは愛人とか、2番目3番目じゃないの? あなたの」
なんてことを聞き始める。
「いや、ナナは何ていうか……秘書みたいな感じ? あとノエル姉さん直属で、僕の監視」
「ふーん、なーんだ。私はあのくらいよく気の利く娘なら大歓迎なのに。それに私から見た感じ、ミナトのこと悪くは思ってないみたいだし、きっかけさえあれば私の娘になってくれそうな感じはあるんだけどなあ……」
「あのね……別に僕はハーレムが作りたいわけじゃないんだって。あくまでチームの仲間としてだね……」
「船の乗組員が男2人に女7人っていう状況のリーダーさんに言われても説得力ないでーす。おまけにもう1人の男の子は何か影薄いし」
「……それ、ザリーの前で言わないでね」
何気に気にしてるっぽいから。
「いや、私別に責めてるわけじゃないのよ全然。むしろかわいい女の子が新しい家族になってくれるのは大歓迎だからさ。何なら全員もらっちゃいなさいよ」
「だからそんな思惑ないっての……そういう関係になってるのは今んとこエルクとシェリーだけ。それにこの部屋の合鍵はエルクしか持ってな…………ん、鍵?」
「つまんないなーもー。ていうか、シェリーちゃんには何で合鍵持たせてあげてないのよ? 正妻と愛人だからって待遇に差をつけすぎると…………ん、鍵?」
と、僕と母さんがほぼ同時に、ある1つのフレーズにつまずいて言葉を止めた。
そして……直後。
「「……あぁぁああ―――っ!!!」」
僕と母さんは……顔を見合わせて絶叫した。
わ す れ て た!!
鍵! ここに……っていうか『ブルーベル』に来たそもそもの理由だった『鍵』!
なんとかって貸金庫の、使用期限が今月末までの鍵! あれまだ使ってない! アレの中身まだ受け取ってない! やばい、きれいさっぱり忘れてた!
ちょっとちょっとちょっと、期限大丈夫か!? まだ日にちあるっけ!?
「えっと、えっと……やばい、今日までだわ!」
「うっそマジで!? もう夕暮れだよ!? 営業時間……」
「ギリギリ大丈夫よ、ミナトほら早く上がって着替えて! とりに行くわよ全速力で!」
「わ、わかった!」
……最後の最後で、今日と言う日はあわただしい終わり方になってしまった。
疲れた体を引きずって、貸金庫に荷物を取りに行くことに。
……まあ、思い出せただけよかったとしよう、うん。
ここ数ヶ月ほど、気付いたら直そうと思ってて直せてない誤字脱字が溜まってることに今更思い至りました……感想で指摘されたののうち2割くらいしか手つけてないかも……。
いい機会なんで、年末年始に片付けたいです。この9連休のうちに……そろそろ半分終わりますけど。
今年も1年間お世話になりました。来年2015年も、頑張って続きを書いていこうと思ってます。
WEB版、書籍版、ともにどうぞよろしくお願いします。よいお年を。
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