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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第160話 龍の門

ここんとこまた更新ペース下がってきて申し訳ない……
仕事は忙しいわ、ポケモンの新作は面白いわで……(おい)

それと、活動報告にも書いてるんですが、
『魔拳のデイドリーマー』3巻、12月末の発売予定です。
シェリーと『奴』が出る回です。よろしければどうぞ、見つけた際はお手にとって見てください。
 

 数日間この『アトランティス』に寝泊りしてみて、結局何というか……気分的・感覚的には、田舎のおじいちゃんちに行ってそこでのんびり自堕落な日々を過ごしたかのような感覚だった。テラさん、普通に優しかったし。昔話とかしてくれたし。

 田舎だと、裏山とかに行って遊んだり、虫取りしたり……都会じゃできないような大自然の中での遊びとかを堪能するわけだけど……僕と師匠にとってそれは、未知の文明の魔法遺産を思う存分に収集・研究することだったわけで。

 その合間に、テラさんとのんびり話したり、アトランティス産の野菜や果物を料理して食べたり、釣堀で釣りしたり(速攻飽きたけど)、のんびり過ごした。

「お、また何か読んどるのか?」

「うん。コレ」

「『召喚術の応用による魔物の汎用使役術概論』か……また難しいもんを勉強しとるようじゃのう。少しは休んだらどうじゃ? 根をつめすぎると体を壊すぞい?」

「平気だよ。完全に好きでやってることだし……それにさ、これに書かれてる理論を実践して色々作ってみたいから。その時のことを考えると、もー何ていうか、今から楽しみで楽しみで……」

「若いもんは元気でええのう。じゃが、当然かなり難しいぞ? あんまり乱用していいもんでもない、慎重にな。あと、くれぐれも国とか滅ぼすでないぞ?」

「うん、それはわかってるよテラさん。成功したとしても、ちゃんと時と場合を選んで暴れさせるから」

「ほっほっほ、なら何も問題ないのう」

「問題ないことあるかァ!! 何よその物騒な会話はぁ!!」

 バタン、と大きな音を立てて扉を勢いよく開き、エルクが飛び込んできた。何だ、今の聞いてたのか。

 まあ確かに……空気はホントにほのぼのしてたけど、内容はちょっとばかし物騒だったからなあ。

「まったく、夕食に呼びに来てみればまたあんたは妙なこと企んでるみたいだし……」

「安心して。企みのまま終わらす気はないから。必ず実行してみせる」

「安心できると思う?」

 いいえ。

 ☆☆☆

 この数日間は、本当にあっという間に過ぎた。
 楽しい時間はすぐに終わってしまうとか言うけれど、正にそんな感じだった。

 そして明日、僕達はここを出て地上に帰る予定でいる。

 またここ来る時のために、他の転移というか移動方法確立しておきたいなあ……毎回あの迷宮通るのはメンドいし、魔法陣だっていつ術式が狂って消滅するかわかったもんじゃない。

 超長距離魔法陣は……アレは一朝一夕で作成・設置できるようなもんじゃないから、今から明日の帰る時間までに用意しておいてくのは無理だろう。材料もないし。

 ……母さんとストークに頼んで、ストークの羽置いていくか。それなら位置がわかるから、最悪……あの魔法陣がすぐ消えちゃっても、オルトヘイム号の深海航行で直接ここに来れるし。

 ちなみにこの間、ふざけてテラさんを『おじいちゃん』って呼ばせてもらった。

 別に深い意味は無い。ただ、色々お宝くれるし、色んなこと教えてくれるし、話してて楽しいし……そんな感じでリラックスして一緒に過ごしてたら、なんか前世でのおじいちゃんとのこと思い出して、懐かしく、嬉しくなっちゃったんだよね。

 もともと僕おじいちゃんっ子、おばあちゃんっ子だったから、甘えっぱなしだった。一緒にいるのが楽しかった。……僕が高校に入ってまもなく亡くなったんだけど。

 思い出して懐かしくなっちゃったのと、目の前にいるこの人(?)があの頃のおじいちゃんと同じくらい近しく思えた。一緒にいて安心するというか、何というか。

 なので一度、特に何か意味があるわけでもなしに、ただ単に思いつきでテラさんのこと『おじいちゃん』って呼ばせてもらったのだ。そしたら……

『ぐはぁあっ!? こ、コレが噂に聞く、孫から『おじいちゃん』って呼ばれたときの年寄りの幸福感……! や、やばひ、萌え死ぬ……あ、わしもう死んでたっけ』

 ってな感じで、アンデッドのおじいちゃんは危うく成仏しそうになってた。

 そしてそのおじいちゃんことテラさんに、明日帰るってことで断りに行った際……ふと、気になったことが会ったので聞いてみた。

「ねえ、ちょっと聞きたいんだけどさ……テラさんって、いつからこの『アトランティス』に住んでるの? こないだの話聞いた感じだと、海底に移るだいぶ前からみたいだったけど」

「うん? ああ、そういや話してなかったのう」

 はっと気がついたようにそう言うと、テラさんは椅子に座りなおし、手に持っていたスライム茶(ホット)をずずーっと啜って話し始めた。

 僕も横で、同じようにスライム茶(アイス)を飲みながら聞く。

 

 テラさんが一体いつからここ『アトランティス』にいるのか。
 その話は、テラさんのそもそもの『正体』を説明することから始まった。

 通常、アンデッド系の魔物っていうのは、いくつか生まれ出るパターンがある。
 人間や動物、魔物の死体が魔力や瘴気に当てられてアンデッドになったり、死霊術師や上位のアンデッドによって生み出されたり、瘴気等が満ちた場所で自然発生したり……。

 テラさんこと『エターナルテラー』は、1番目と3番目の要因があわさった感じで生まれたらしい。

 この古代都市アトランティスの地下深くには、超巨大な墓地があるそうだ。
 アトランティスが出来てから今までここで死んだ人たちのみならず、戦いで死んだ人達までもが全員埋葬されている集団墓地……『カタコンベ』ってやつだろうか。

 そこに埋葬されてい何百万人分もの魂や怨念が、長い年月をかけてそこに発生・蓄積した瘴気と混ざり合い……やがて1つに収束して形を成した。

 それが、テラさん。数え切れないほどの亡者の魂に、膨大な怨念と瘴気が混ざって生まれた集合体。最強のアンデッド……『エターナルテラー』ってわけだ。

 しかし、あまりにも多くの魂が寄り集まったためにテラさんは、アンデッドの魔物が本来持っているような破壊・殺戮衝動なんかに捕われたりすることがなく、しかも極めて高い知能を持っていたため、人を襲ったりすることがなかった。

 認識阻害系の魔法で自らの姿を隠し、かげながらこの『アトランティス』の人々の暮らしを見守っていたそうだ。この都が海底に移り、そこで緩やかに衰退していき……ついには最後の1人が死んで、都市そのものが滅亡してしまってからも、今までずっと。

 それからは、時間の感覚もなくなるほどに長い時間を過ごしていたそんな中で、僕らがここにこうしてやってきたそうだ。そっか、そんなに長いことここに……。

「外に出たいとか思わなかったの? テラさんの実力なら、あの迷宮似にいた魔物蹴散らして外に出ることくらい簡単じゃないの?」

「いやいや、そんなことないぞい? ま、確かに強さで見れば、あの程度のオモチャ共恐るるに足らんが、ひっきりなしに魔物が襲ってくるような場所なんぞ、気疲れしてしまうわい。あんなややこしい迷路を通ってまで地上に行きたくもなかったしの」

「ふーん……そういうもんなの? 退屈じゃなかった?」

「プロの隠居とか年寄りっちゅーのは退屈を楽しむ術を知っとるもんじゃ。のんびりここでスライム茶でも飲んどる方が100倍有意義じゃったわ」

 と言って笑っていた。プロの隠居って何だ。

 でもそういうの、人それぞれだと思うけどなあ。地球にはお年を召してもなお現役で、諸国漫遊しながら悪代官を成敗して回ってるご隠居とかいるし。フィクションだけど。

「それに多分、わしがここ離れると、この都市が滅びてしまうからの」

「? え、それどういうこと?」

「この都市を形成する色々な機構や施設には、魔力を必要とするものが多くある。そしてその多くは、併設してある装置により、空気中・水中にある魔力を吸収して持続的に発動しておる……って知っておるじゃろ? お主ここにいる間、あの吸血鬼の嬢ちゃんと一緒にこの都市を調べまくっとったからの」

 うん。知ってる。

 この都市を海の水と海底の水圧から守っている空気のドームや、その内部の環境を快適に保つ空気清浄システム、その他諸々の設備を含め、ほとんど全ては魔力を原動力にしている。空気中や地中から魔力を吸収して動いているのだ。

 そしてそれを調べた時に同時にわかったんだけど、この都市がある場所は、広い海底の中でも特に魔力が集まりやすい、魔力留まりみたいな場所だった。海流やら地形やら、色んな条件が合わさってできる、特殊な環境。

 地球で言えば……盆地とかって周りより土地が低いせいで、降雨や豪雪の被害が酷くなったり、ものすごく暑くなったりするけど、あれと似たような感じだ。魔力がここに溜まって外に流れ出さない環境。結果、この周辺は常に結構な量の魔力が漂っている。

 おそらく昔の人はそれを見越してここに都を立てたんだろう。海底の魔力溜まりっていう環境を利用して、半永久的に魔力を動力とするシステムが稼動するように。

 しかし、あるときを境にこの場所に溜まる魔力はなぜか一部減少してしまい、都市機能を維持するには供給される魔力量が足りなくなってしまった。

 それ以降は、なんとテラさんがその分の魔力を人知れず供給していたというのだ。この海底都市が滅んだりしないように、こっそりと。

 そのことを、滅亡するその瞬間まで、『アトランティス』の人達は結局誰一人知ることがなかったそうだけど。

 そして今も、テラさんは都市機能の維持のために魔力を分け与えているとのこと。
 もっとも、人が暮らしていた頃ほどの量は必要じゃないし、テラさんの体から自然に漏れ出る魔力の量にちょっと色をつけるくらいで足りるそうだけど。

「遷都の折、地下墓地なんぞ放っといて上側の都市だけを移すことも出来たし、その方が楽じゃったじゃろうに、律儀にもあのどでかい墓場ごと移しおったんじゃよ、あやつら。ま、その墓場から生まれた者として、ちょいと義理を果たさせてもらってたんじゃ」

「なるほどね……それは確かに、テラさんがいなくなったらこの都市滅ぶわ」

「うむ。環境とかが荒れるのはもちろんじゃが……それ以前に空気のドームが機能しなくなって、あっちゅう間に海水に飲まれて都市全体が粉々になってしまうじゃろうな」

 それに、と言ってテラさんは、とっくに空になってしまった湯のみを手にとって、

「こいつが飲めなくなるのもさびしいしの。ま、年寄りが隠居生活を過ごすにはぴったりな隠れ家じゃ、あと3000年くらいは堪能させてもらうとするわい」

 そう言ってから、テラさんはふと何やら思いついたような仕草をして、

「あーでも、せっかく出来た孫的なお主とこのままお別れっちゅーのはちと寂しいのう……ううむ、どうすべきか……」

 そんなことを言い出す。
 ホントなんていうか、人間っぽい人だなあ。話してて安心する。

 何度目かもわかんないけど……前世のおじいちゃんを思い出すなあ……。

 僕としても、この人(?)とは今後も多少なり関わりを持っていきたいと思うし、こりゃ早いとこ先に考えた、この城に超長距離転移システムを設置する手はずを……いやでもアレ、システムや術式、媒介自体がまだ未完成なんだよなあ。一回使うと壊れるし。

「いっそのことテラさんがミュウと召喚獣契約でもしてくれたら、サッと呼び出せるからいつでも会えるんだけどねー」

「うん? ミュウって確か、あのちっちゃい娘っこじゃろ? 召喚獣契約?」

「そうそう。あの黄色の娘。彼女『ケルビム』だからさ、召喚術使えるんだ」

 ミュウの召喚術。アレは、召喚契約する際に2通りの方法というか、契約の形……バターンがあるっていうのは、前に話したと思う。

 1つは、死にかけもしくは死んで間もない魔物に魔力と専用の術式で仮の命を与えて召喚獣にする方法。

 自分に絶対服従な手駒を手に入れられるけど、知能はあまり期待できない。また、場合によっては生前よりも弱体化してしまうこともある。

 そしてもう1つは、相手の同意を得た上で専用の、1つ目の方法とはまた違った術式で召喚獣契約を結ぶ方法。精霊種の魔物なんかがこれに適用されたりする。

 魔物側にある程度の知能が必要だったり、きちんとした自我があるからこっちのいうことに100%従ってくれるわけじゃないとか色々面倒な部分があるけど、高い知能と生前そのままの戦闘能力などが保証される。

 テラさんに適用したいのはこの2つ目なんだけど、この契約方法だと、契約者と魔物の間に同意があっても、実力に差がありすぎる場合は契約できないんだよね……。

 そして、ミュウとテラさんの間には、それこそ僕と母さん以上の実力差があるのは明白。力量不足で契約不可能なのだ。残念。

「まあ、もう二度と会えんわけでもあるまいし、気長に待たせてもらうとするよ。それこそ、さっきお主が読んどった本の理論を完璧に使いこなせるようにでもなれば、ワシを呼び出せる契約を結ぶことも可能じゃないかの? おそらくじゃが、お主ならワシを相手に契約することも、力量的にも可能じゃろうし」

 そう……かな?

 アイリーンさんとかなら全然問題ないだろうし、テラさんも、母さん達『女楼蜘蛛』の四人が相手だと『勝てんかも。少なくともあの金髪のおねーちゃんはマジ無理』って言ってたし。

「それにしても、話題ふっといてこんなこと言うのも何じゃが、何じゃ色々と難しいことをいつも考えておるんじゃのう、お主は。専門の学院にでも通っとるのか知らんが、まだ若いんじゃし、ゆっくり休んだり息を抜いたりするのも必要なんじゃないのか?」

「……そもそも息抜きのつもりでここに来たはずだったんだけどね」

「? どういう意味?」

 かくかくしかじか。とりあえず、僕の現状や、サンセスタ島から始まった僕の休息プロジェクト(実家以外ことごとく失敗気味)について簡単に話した。

 もっとも、この『アトランティス』で過ごした約三日間に関しては、色々あったけど楽しかったし、十分『息抜き』にはなったと思う。

 ただ、息抜きって言っても疲れるタイプの息抜きだったなー……まあ、喜んでこの都市を見て回ったのは僕自身なんだから、何も文句とか言えた義理でもないんだけど。

 例えて言うなら、家でゴロゴロして疲れを取る感じの『息抜き』と、遊園地とかに行って疲れるのは承知でパーッと遊ぶ『息抜き』は違う、みたいなもんか。

 このアトランティスは、僕にとっては遊園地だった。あと師匠にとっても。
 結果、ものすごく楽しかったけど疲れちゃったな、っていう気だるさが体に残った。まあ、自分で選んだ休日の過ごし方なんだから、今更何も文句なんかないけどね。

「ほっほっほ、面白いことを言うのう……疲れても楽しければ息抜き、か。ならついでに、もう少し疲れてみるか?」

「え、どういうこと?」

「何、お主は好奇心を揺さぶるものに触れるのが好きなようじゃからな。まだこのアトランティスでおぬしらに案内しとらんかった場所へつれてってやろうと思っての」

 ? そんな場所あったの? もうこの都市は師匠と一緒に、普通の民家とか以外はあらかた調べ終わったと思ってたんだけど……。

 最初にテラさんに教えてもらった『面白そうなスポット』とかも全部回ったし。それにリストアップされてなかった場所がまだあった、ってことだよね?

「うむ。まあ何ちゅうか、案内するまでもないというか、するような場所でもなかったからの。別に何があるわけでもなし……行っても微妙な気分になるだけじゃろうと」

「……? どこなの、そこ?」

 するとテラさんは、くいくい、と床を……いや、『下』を指差して、

「この下じゃ、一番下。さっき話した地下の巨大墓地……その奥にある遺跡じゃ」

 ☆☆☆

 最初にテラさんと会った『玉座の間』にある隠し扉から地価に降りると、そこはひんやりとした空気の、聞いていた通りの超巨大墓地だった。

 その見た目が……なんかもう、凄まじいな。
 心臓の弱い人は連れて来れない感じだ……テラさんが『案内するような場所でもない』って言ってた理由がよーくわかった。

 せまくない道幅の一本道。その両側の壁に、骨、骨、骨……おそらくは全部人骨であろうそれが一面にびっしり。頭蓋骨もあれば、大小さまざまな棒状の骨、どこの骨かちょっとわからない形状の骨とかもある。とにかくびっしり敷き詰められてるよ。

 しかも、偶然なのか狙ったのかは知らないけど、頭蓋骨に関しては全部こっち……通路の方に正面が向く形ではめ込まれてる。

 ……ここって死者を祭る場所なんだよね? これって死者に対する冒涜とかじゃないの? こんな風に壁にはめ込んで建材みたいにしちゃって……

「ま、そういう見方もできんことは無いか。昔のこの都市の民達は、死後も自分達を見守ってほしいと願ってこうした葬り方にしたようじゃ。ま、正直な所……わしもこれはちょっとどうかと思うんじゃけど」

「この人達の怨念が寄り集まって出来たテラさんに言われちゃおしまいだね」

 暗さもあるけど、それ以前にこの一本道が長くて、向こう側の突き当たりが見えない。広い、っていうより長いな、この地下墓地。

「いんや、『広い』でもあっとるぞ? この骨の壁どかすと、横にも相当広いからの。それこそ、横幅も縦の長さと同じくらいある」

「……ってことはここ、元は『通路じゃなくて』、すごく広い1つの『部屋』だったってこと? それを、壁際からだんだんと骨の壁を積み上げてきたら、今僕らが歩いてるこの『通路』っぽい部分だけが残った、と……」

「そゆことじゃな」

 ……何万人分の骨だよ、それ。

 さすがに背筋に薄ら寒いものを感じつつ、テラさんの後をついて通路(?)を歩いていくと、ようやく突き当たりにまで行き着いた。

 そこは、今までの不気味さとは違った、何か不思議で神秘的な雰囲気が漂う空間だった。

 突き当たり部分の壁は平面ではなく、壁が婉曲した滑らかな奥行きになっていた。床と天井の形を見ると……半円型。円柱を半分に切ったような形の空間みたいだ。

 骨の壁もそこまでは続いていない。壁が円柱型になる空間の直前で途切れていた。

 そしてこの円柱空間はというと……一面にびっしり壁画が描かれていた。

 パッと見て、その共通点がすぐわかった。
 全部、魔物の絵……っていうか、ドラゴンの絵だ。

 大小さまざま、色んな種類のドラゴンが描かれてる。羽の生えてるドラゴンや、4つ足の羽の無いドラゴン、蛇みたいな長い東洋風のドラゴンに、恐竜みたいなドラゴン。

 ……と、その絵の中に、ちょっと気になる絵を見つけた。あれってもしかして……

「ねえ、テラさん。あそこのあの絵に書いてある魔物、っていうかドラゴンってもしかして……『ディアボロス』?」

 2足歩行している、細身のトカゲみたいな容姿。体は緑色で、目や爪が赤。
 しかもその中に……黒と金色のやつが混じってるし。

「うん? あの真ん中の一番上のか? ありゃ『武龍』じゃな」

「ぶ、りゅう?」

「昔はそう呼ばれとった。ま、他にも色々と呼び名はあるんじゃが……この呼び名が一番広く、長く使われとったんじゃ。その『でぃあぼろす』っちゅーのは今の地上での呼び名のようじゃが、多分同じので間違いないじゃろ」

 言いながらすたすたと歩いて、テラさんはその壁画満載の壁をぺしぺしと叩き阿賀ら、本題とばかりに説明を始めた。

「ミナトや、お主、今の時代で言う『古代文明』についてどの程度知っておる?」

「……えっと……古代の文明?」

「あ、うん、ごめん、変なこと聞いて」

 え? がっかりされた?
 どうもテラさんが期待してた答えとは違ったらしい。

「いや、まあ間違ってないんじゃけど……何千年単位よりもさらに昔の話になると、まあ言い伝えだけなんじゃが、ちょいと特殊な文明が存在したとされとるんじゃよ。聞いたことないかの……『龍神文明』って言うんじゃけど」

 

 簡単に説明してもらった所によると、どうやらこういうもののようだ。

 『龍神文明』とは、はるか昔に世界のどこかに存在した、龍を頂点、すなわち支配者にすえた文明であったらしい。

 当事の人間よりも遥かに優れた知能を持ったある種の龍によって統治される文明。龍によってもたらされる英知によってその文明は繁栄し、龍によって魔物たちや他の国の人間達から守られてきた……龍と共に生活を営んできた文明。

 当事の人間達は、自分達の『神』としてあがめ、その使徒として仕えていた。都市を守り、自分達を導いてくれる龍に、見返りとして貢物や、時には生贄なんかを差し出していた、なんていう言い伝えも残っているそうだ。

 その文明がいつ、どうして滅びたのかはわからないけど……テラさんが言うには、この壁画、というよりもこの地下の大空洞は、その時代の遺跡なんだそうだ。
 人間が龍と共に生きていた『龍神文明』の時代の。

「古来より人間は、繁栄と衰退を繰り返してきた。その知恵でもって技術を進歩させ、生活を豊かにし、魔物を退ける強さを身につけてきた。やがてそれが滅ぶと、また少しずつ発展していき……それを何度も繰り返して、人間は今までその種の命を紡いできた」

 うんうん。

「無論、程度に差はある。石斧が最強の武器じゃった時代もあれば、ミナトに以前聞かされた、今の地上の文明よりも進んだ技術を持っていた時代もあった。しかしその中でも、最も進んだ力と技術を持っていたのが、『龍神文明』じゃと言われておる」

「龍からもたらされた知恵や技術が、そんなにすごかったの?」

「それもあるかも知れんが、おそらく龍の守護を受けておったという環境が、人間をより安全な環境に置き、より余裕を持って技術を発展させることを可能にしたんじゃろう。龍が味方なら、大抵の魔物や災害は恐るるに足らんからの」

 そこでテラさん、また壁をぺしぺしと叩いて、

「この壁画はの、当事の文明の様子やその情報を記した史跡だとされていたんじゃ。ま、見ての通り絵が書いてある以外は何もないがの」

 へー……そんな時代が……。あ、いや、あったかどうかは定かじゃないんだっけ。
 それでも、興味深いな。その話ともども、この遺跡。

 確かに絵だけだけど、それでもそんな時代の情報が眠ってるかもしれないとなれば、考古学者的な人達にとっては垂涎の研究対象だろうし。

 ひょっとしてこれが、テラさんが僕に見せたかったものなんだろうか? 別に何があるわけでもないなんて言い方するから、ただ退屈なだけの墓場見学かと思ったら、結構面白いじゃない。話してくれた伝承ともども。

 そう言ったら、テラさん、嬉しそうに『ほっほっほっ』と笑って、

「そりゃよかったわい。じゃがの、この壁画、というかこの史跡そのものには、もう1つ……ちょいと微妙というか奇妙な言い伝えもあるんじゃよ」

 と、頬をぽりぽりとかきながら喋り出す。

「ただの壁画と床に見えるこの場所じゃが、『龍の門』という名前があっての? 言い伝え……と言っても、噂話レベルで不確かなことこの上ないんじゃが、冥府につながっているとか、離れた場所へ一瞬で移動できるとか、龍の神を召喚できるとか、後は……異世界に旅立つことが出来る、なんて言われとるんじゃ」

 …………!

「異世界……?」

「ああ。もっとも、7000年以上ここに住んでわしが調べておったが、そんな不思議な力どころか、魔法的な術式の気配の欠片も感じたことは無いんじゃがの。こりゃ正真正銘、ただの壁と壁画じゃよ」

 ……ふーん……そっか。

 ちょっとびっくりしたよ。いきなり『異世界』なんて単語が出てくるもんだからさ。

 僕の正体が正体だからね……まさか、と思っちゃったよ。もしかしたら、コレを使えば……日本に行ったりできるのかな、とか。

 でも、7000年もここにいて暇つぶしに調べてみてたっていうテラさんが何も発見できてなかったんであれば、ここは別に何でもない場所なんだろうな。

 ……なんて考えながら、僕もテラさんの真似をするように、壁に手をぽん、と軽く当てた…………その時。

 
 ――キィィィ……ン

 
「「……え゛?」」

 
 ほんの一瞬……僕とテラさんの目の前で、壁画のある壁……『龍の門』が、僅かにだけど、青白い光を放った。

 が、僕らがそれに驚きを覚えるよりも早く光は消えちゃって……それっきり、うんともすんとも言わなくなっちゃったっけども。

 あまりに突然、あまりに予想外な、今の一瞬だけの出来事に……思わず僕とテラさんは、きょとんとして顔を見合わせた。

 ……何だったの、今の?

 
 
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