失速しなかった「アナ雪」「妖怪ウォッチ」後
ことしで55回目となる「東京おもちゃショー」には、国内外のメーカー160社が参加しおよそ3万5000点の最新のおもちゃが展示されています。 展示会特有の華やかさに加えて、会場に活気が感じられたのは、国内のおもちゃの売り上げが 2年連続で8000億円の大台にのるなど好調を維持しているからです。
業界団体の日本玩具協会が推計する昨年度・平成27年度の国内の売り上げは、8003億円。社会現象にもなった映画「アナと雪の女王」やアニメ「妖怪ウォッチ」の関連商品が好調で過去10年で一番の売り上げだった一昨年度・平成26年度と比べて1%の微減にとどまりました。
大幅な反動減も懸念されたなか、ほぼ同じ規模の売り上げを確保したことは業界にとってはうれしい驚きでした。しかも、昨年度の売り上げの中身をみると、インテリアなどの雑貨やベビー用品を除いた「主要なおもちゃ(10分野)」は、前の年を2.2%上回って過去10年で最高でした。この勢いは今年度に入ってからも続いているということです。
好調を支えるキーワードは「大人」
総務省によりますと、15歳未満の子どもの数はこの10年でも8%も減っています。少子化にも関わらず、なぜ、おもちゃの売り上げが好調なのでしょうか。展示会で取材を進めると、「大人」という新たな市場を開拓するためのキーワードが見えてきました。
展示会で目立ったのは「最新のデジタル技術」を生かしたおもちゃです。 日本玩具協会専門委員の伊吹文昭さんは「今の最新技術を取り込めれば、新鮮な面白さや驚きを提供できるうえ、大人も含めた幅広い年齢層からも支持を集めやすい」とこうした背景を分析しています。
人気だったのは実際にはいない場所に、あたかもいるかのような仮想現実を体験できる技術「VR=バーチャルリアリティー」のブースで、スマートフォンを取り付けたうえで身につけるゴーグル型のおもちゃは、ソファに座りながら手軽に宇宙空間にいるかのような映像を体験できました。
また、「言語合成機能」を使ったおもちゃも展示されていました。これはスマホのアプリに好きな食べ物や将来なりたい職業などの情報を入力しておくと、連動したクマのぬいぐるみが「チョコレートが好きなんだよね?」などと話しかけてきます。
人工的に作った音声からぬいぐるみが話すことばを作るのが「言語合成機能」です。また、「食べさせたい野菜」という項目に入力しておけば、ぬいぐるみから子どもに「ピーマンはおいしいよ」などと話しかけさせることもできるということです。
「Old Is New」
「古いものこそ新しく。昔からあるおもちゃを進化させなければならない」
玩具大手「タカラトミー」のハロルド・ジョージ・メイ社長は、子ども向けの定番商品にこそ、「大人」への市場を広げるチャンスがあると言います。
メイ社長のことばを商品化したのがこの会社の新幹線模型です。 レールを走る模型の正面と側面に2つのカメラが取り付けられていて、連動させたスマホで映像を見ることができます。正面のカメラからは運転席からの視点、側面のカメラは車窓からの視点で映像を楽しめます。
さらに列車の発信や停止をスマホから操作することもできます。会場を訪れた販売店の男性は「模型に乗れたらよいのにという小さい頃の夢がかなったようだ」と興奮気味に話していました。
また着せ替え人形のシリーズには、従来より大人っぽいファッションやデザインが凝ったバッグを使うなど、20代から30代の女性が親しみやすいような新商品が登場していました。実際にお金を払う大人が好みそうな付加価値を新たにつけることで、家族一緒になって楽しんでもらうという戦略です。
おもちゃの役割を多様化させていく
さらに進んで、子どもではなく大人を主なターゲットにしたおもちゃも増えています。例えば、「癒やし」を感じてもらえるおもちゃです。水槽内を照らす光や音楽にあわせ、金魚の模型が水流で泳いでいるように動くおもちゃはインテリアとしての利用を想定しています。
話しかけると、インターネット上で答えを探して返答するというロボットはお年寄りの話し相手としての需要が期待されています。
さらに去年、10年ぶりの新作が公開された人気映画のキャラクターのフィギュア。メーカーによりますと第1作が公開された1970年代からのファンら幅広い世代に受け入れられているということです。
また、ことしは「和」をテーマにしたおもちゃも増えていて、よろいを身につけたフィギュアや浅草寺などが精巧に再現する組み立てモデル、それに日本のアニメキャラクターなどは外国人観光客にも人気です。
このまま成長は続くか
創意工夫を競うおもちゃメーカー各社ですが、この勢いで市場の成長が続くかといえば、少子化もあって簡単ではないと関係者は口をそろえます。メイ社長は「日本市場は世界第2位だが全体の6%しかない。どれだけ頑張っても2倍、3倍に売り上げが増えることはなく、残る方法は海外戦略の拡大しかない」と話します。
海外でも日本のおもちゃは最新技術の活用、アイデア、そして品質へのこだわりが評価されているということで、展示会にも、多くの海外バイヤーが訪れていました。強みを武器に、社会の変化に対応したおもちゃを創出し続けることが国内、海外で市場を切り開くカギになると感じました。
- 経済部
- 加藤 誠