写真・図版 6月10日、欠陥エアバッグ部品の大量リコールで財務悪化が懸念されるタカタが米投資銀行ラザードを起用し、スポンサー探しを本格化させている。写真はタカタのロゴ、都内で5月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)

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 [東京 10日 ロイター] - 欠陥エアバッグ部品の大量リコール(回収・無償修理)で財務悪化が懸念されるタカタ<7312.T>が米投資銀行ラザードを起用し、スポンサー(出資企業)探しを本格化させている。

 多くの買収案件で実績のあるラザードの力を借り、今秋にも出資のスキームと再建計画をまとめる方針で、混迷を極めていたタカタ再建問題はようやく少しずつ動き始めた。 

 <ラザードの調整力>

 「これでだいぶ決着が見えてきた」――。交渉を知る関係企業の役員はラザード起用の効果に期待を隠さない。同社が調整役に入ったことで、リコール費用を肩代わりしてきた自動車メーカー各社とタカタとの間でこう着状態にあった交渉が前に進みそうな気配を見せつつあるからだ。 

 タカタは2月、再建案策定のために企業再生に詳しい弁護士などからなる外部専門家委員会を設置。5月26日には同委員会がラザードを財務アドバイザー(FA)に起用したことを発表した。

 これまでにリコールの対象となった車両は1億台以上、リコール費用は総額1兆円超に膨らむ見通しで、タカタの支払い能力を超える。同委員会はラザードと組んでスポンサー選定を進め、車メーカーにもリコール費用の支払い猶予や今後の取引継続などの支援を要請している。

 リコールを実施したメーカーはホンダ<7267.T>、トヨタ自動車<7203.T>などの日系にとどまらず、米フォード・モーター<F.N>、独フォルクスワーゲン(VW)<VOWG_p.DE>なども含まれ、世界で13社以上に及ぶ。

 各社によってリコール対象台数は異なり、その費用も数百億円から5000億円以上と大きな開きがある。死亡事故は北米に多く集中しているが、日本と欧州ではまだ確認されておらず、事態への危機感は地域によっても温度差がある。「メーカーの意見は必ずしもまとまっているわけではなかった」(車メーカー幹部)。 

 だが、交渉状況を知る関係者は「国際的なプレーヤーであるラザードなら(日米欧にまたがる)車メーカー各社とのコミュニケーションも問題なく、話を前に進められる」とラザードの手腕に期待を寄せる。さらには「すべてのメーカーが結果に納得できなかったしても、今は決着を導き出そうとする雰囲気を強く感じる」と話している。

 関係者によれば、タカタは7日から9日にかけて車メーカー各社との会合を開いて、再建計画策定に向けた動きなどを説明した。

 <腹くくり始めた自動車メーカー> 

 自動車メーカー各社はこれまで不具合の根本的な原因が特定された後、それを踏まえて責任相応のリコール費用をタカタに請求すると公言してきた。

 しかし、複数の第三者機関で別々に進んでいるいずれの原因究明調査も玉虫色の決着で終わる公算が大きく、各メーカーもそれを受け入れざるを得ないとの見方が広がっている。関係者の中には「メーカー側は私的整理で決着をつけ、リコール費用の請求はある程度、放棄せざるを得ないと腹をくくり始めた」との声も出ている。  

 タカタの外部専門家委員会は、同社再生の手法として裁判所の監督下で行う法的整理ではなく、車メーカーなどの債権者との協議による私的整理を目指している。私的整理の場合は原則としてすべての債権者から再建計画の同意を得る必要がある。

 メーカー側は巨額のリコール費用の請求を放棄すれば、自社の株主に対する説明責任も求められるため、簡単には同意できない。だが、複数の車メーカー幹部らは「どこかで誰かが折り合いをつけないとタカタ問題は終わりを見ない」とも話しており、事態収束への気持ちも強まりを見せているようだ。  

 <理想のスポンサー>  

 スポンサー候補には現在、米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)など複数の投資ファンドのほか、中国の新興自動車メーカー、寧波均勝電子(Ningbo Joyson Electronic)<600699.SS>傘下の米キー・セイフティ・システムズの名が挙がっている。  

 車メーカーの幹部らは、理想的なスポンサーについて「部品の安定供給さえしていただければ、どこであろうと構わない」と口をそろえる。幹部の1人は「自動運転などの最先端分野と違って、タカタの主力製品であるエアバッグやシートベルトは技術力以上に安全性の担保が大前提。そして安ければさらに良い」と語っている。  

 ただし、車メーカーにとって、スウェーデンのオートリブ<ALV.N>と米ZF―TRWの同業大手2社については、スポンサーとして好ましくないようだ。インフレ―ター市場はタカタを含めた3社で世界シェアの大部分を占めており、タカタがどちらかの傘下に入ると寡占が強まり、価格交渉力を握られる恐れがあるためだ。タカタが問題のインフレ―ターの生産停止を余儀なくされ、メーカー各社の部品不足が続く中、「オートリブは価格を高めにしていた」との声も上がっていた。 

 

 (白木真紀、田実直美 取材協力:浦中大我 編集:吉瀬邦彦)