先週に引き続き、まだまだ北へお出かけすればお花見が楽しめるシーズンということで、桜という植物の「秘密」に迫るお話です。東京・八王子にある、日本中の桜を一か所に集めた場所、多摩森林科学園の「桜保存林」からのレポート、お届けします。

ここには実は、山の斜面を利用した「桜の保存林」がありまして、全国各地から集められた様々な桜が、遺伝子の保存という目的で植えられています。その数はおよそ1300本。
その中にはもちろん、私たちにも一番馴染み深い桜、ソメイヨシノもあります。
今回はその、ソメイヨシノの秘密を教えちゃいます!
というわけでさっそく、ソメイヨシノの豆知識です。
日本全国にあるソメイヨシノは、種が土に落ちて、芽を出して育ったもの・・・ではないんです!!

多摩森林科学園で桜の研究に携わる農学博士、桜のことならなんでも知っている勝木俊雄さんに教えていただきました。

◆ソメイヨシノはすべてクローン
我々がみているソメイヨシノは、ごくたまに挿し木もあるんですが、基本的には接ぎ木で増殖して、日本全国に広めています。ですから、どれも同じ遺伝子を持って、どれもまったく同じ形の花を咲かせているということになります。


つまり、青森県・弘前公園の日本最古のソメイヨシノも、東京・目黒川のソメイヨシノも、香川県の朝日山のソメイヨシノも、すべて遺伝子が一緒です。一卵性双生児みたいなものなんです。
前回のお話にもありましたが、ソメイヨシノは、エドヒガンと、オオシマザクラの間から生まれた「雑種」です。どうしてその雑種が生まれたのかはわかっていません。植木職人が人工的に掛け合わせたともいわれていますし、森の中で偶然誰かが発見したともいわれている・・・謎なんです。
とにかく、エドヒガンをお母さん、オオシマザクラをお父さんに持つソメイヨシノは、接木によるクローンを増やしていって、いま日本中にあります。

そして、ソメイヨシノの寿命は60年くらいというお話をよく聞きませんか?これって実際のところどうなんでしょうか。勝木先生に教えていただきました!

◆ソメイヨシノの寿命は60年?
それは大嘘です。ソメイヨシノは比較的早く枯れるものが多いということが昔からいわれていまして、ソメイヨシノ寿命20年説とか30年説とか、そういういわれかたをしていた時代もありました。
これがなんで受け入れられたかというと、まずひとつはソメイヨシノの老木というのがほとんどないということです。ソメイヨシノが世の中に広まったのは江戸時代の終わりくらいですから、まだ150年経つか経たないか、まあそれくらいということになります。そうすると当然ながら、それ以前の古い木というのはないので、若い木しか我々は見ていないということになります。
ただ、青森県の弘前城が日本最古のソメイヨシノといわれていますが、東京の小石川植物園にもほぼ同じ樹齢だろうと思われるソメイヨシノがあるんです。これが明治10年頃に植えられたという話なので140年位ですよね。弘前城のソメイヨシノも小石川植物園のソメイヨシノもまだまだ元気ですよ。ですから、それくらい生きているソメイヨシノは実際にあります。
やっぱり環境がいいとそれなりに長生きはしてくれます。それから、これは心情的な面が強いんですが、とくにソメイヨシノの場合、樹齢のスケールが人間と似ています。
いま見るソメイヨシノの多くは、だいたい戦後、昭和20年代ころに植えられたといわれているんですが、植えられた桜が大きくなって、華やかに花をつけるよういなるのが、だいたい20年位。その後は、木自体は成長が止まって、条件が良ければずっと同じような形で花をつけます。そして、やはり歳をとってくると、だんだん枯れ枝も目立つし、花のつきもちょっと悪くなり、徐々に衰えていくということになります。
このサイクルが人間のサイクルとたいへん似ている。しかも昭和20年代に植えられたということになると、これはいわゆる戦後のベビーブーム、それから団塊の世代ですね。どうもその世代の人達が自分の人生と重ねあわせてソメイヨシノを語ってしまうということがあります。そうするとちょうどそれに合わせてソメイヨシノ寿命説というのも30年か40年、いまは60年ということになっているんですけれども、だんだん最近長くなってきているなあと思ってます(笑)。


つまり、桜の寿命・60年節というのは、団塊世代の方が流した噂だということらしいんですね。

ソメイヨシノって、同じ場所にある桜は、本当に一斉に花を開きますよね。まるで、「せーの!」って合図でもしているみたいです。
じつは、これにもちゃんと理由があるんです。

◆花の咲くタイミング
花はその植物が繁殖しやすい時期に咲くということになります。桜は虫媒花ということで、アブであるとか、ハチであるとか、そういった虫に花粉を運んでもらって受粉をするということがいちばん大きな目的になります。ですので、この目的にあった時期に咲くということになります。
いろんな植物がそれぞれ花を咲かせますが、春の早い時期というのは、やはり他の植物がまだ咲いていない、ほかに競争相手が少なくて、花粉を運んでくれる虫たちを独占しやすいという状況ではあります。ただ、あまり寒すぎると今度は花粉を運んでもらう虫も活動していないということになって、なかなかその辺の兼ね合いが難しいところだと思います。


ということは、ソメイヨシノと、八重桜で、開花する時期が違うのも、お互い咲く時期がバッティングしないように、兼ね合いを考えて、譲り合った結果なのかもしれないですね。
ということで、日本中に存在する様々な桜は、咲くタイミングが違います。
もちろん南と北で咲くタイミングが違います。
ですから、日本は一年中、なんらかの桜を楽しめる国なんです!

◆日本では一年中桜を楽しめる
カンヒザクラは沖縄で1月くらいに咲きはじめます。それが北上してきて、3月くらいになると九州でヤマザクラなんかが咲き始めますし、4月は日本全国で、北海道だったらソメイヨシノも5月くらいに咲きますよね。
また、標高が高いところに分布しているタカネザクラという桜があります。標高2000m以上のところまで分布しているんですが、やはりこれが咲くのがどうしても遅くなって6月、場合によっては7月に咲くこともありますから、つまり日本では春から初夏くらいまで桜を楽しめるんです。
あと、夏を過ぎると、いわゆる”狂い咲き”というものがあります。本来、日本の桜は春に咲いた後、次の年の花芽というものができてきます。この花芽がだんだん成長してきて、だいたいソメイヨシノだと夏場くらいにこの花芽がほぼできあがります。そしてそのあと休眠して、冬を越し、翌春に咲くというサイクルなんですけれども、このサイクルが狂うことがあります。
秋に本当は休眠していないといけないものが、何らかの原因で休眠できずに咲いてしまうということがあって、これを”狂い咲き”といういいかたをするんですが、9月、10月くらいからそういう現象が結構起きてきます。
狂い咲きの桜は一斉に咲くのではなく、春までポツポツと咲くのがダラダラ続くので、これが秋以降ずっと見れるということになります。それなりに見応えもあるし、秋に咲くときの景色って違いますから、そのへんの変化を楽しむということでも結構おもしろいと思いますね。


桜って春だけのものかと思っていましたが、いつの時期も、日本のどこかで桜が咲いているんですね。どうしてもソメイヨシノに目がいっちゃいますが、お花見しそこねた方、日本のどこかで咲いている桜ごらんになるのも楽しいかもしれません。

ちなみに、多摩森林科学園の勝木先生は「いまも、桜は分からないことだらけ」「だからこそ面白い」と話していました。今回のお話もとてもおもしろかったですね。

この模様はポッドキャストでも詳しく配信中です。ぜひこちらもお聞きください!

【今週のオンエア曲】
・ナチュラルに恋して / Perfume
・Haven't Met You Yet / Michael Buble

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