東京・秋葉原の「私設図書館カフェ シャッツキステ」では、開店時間を前に、オーナー兼総メイド長のエリスさんを中心にメイドたちが慌ただしく働いていた。この日、キッチンから漂ってきたのはミネストローネの香り。店で供するスコーンやジャム、シフォンケーキなどもすべてメイドたちの手作りだ。
ヴィクトリア朝時代のイギリスの片田舎をイメージした空間で、クラシカルな黒いメイド服に身を包んだメイドたちが客を笑顔で出迎える。
「オタクといえばゲームやアニメ好きと連想されがちですが、何か一つ好きなものがあって、そこにすごい愛情を注いだり、知識を深めたりできる人たちのこと。実は人一倍、探究心や知識欲の強い人たちなんです。この図書館はそうした知的好奇心を満たしたり、会話を楽しむ場所で、メイドはそのサポート役なんです」
そう話すエリスさんも、小さい頃から筋金入りのオタクだと笑う。店内の本棚を見ると、漫画や「薄い本」と呼ばれる同人誌、カードゲームやボードゲームなどもそろえつつ、絵本、小説、図鑑、写真集、専門書などと幅広い。
「お店に来た人に、『こんな世界もあるんだ!』と驚いてもらえるような、マニアックなものをメイドたちが選び、そろえています。メイドの中には公共の図書館で司書として働いている人もいるんですよ」
エリスさんがこの店をオープンしてから今年3月で10年目を迎えた。秋葉原では約15年前にメイド喫茶ができはじめ、その頃、エリスさんも秋葉原でメイドデビューを果たした。
エリスさん曰(いわ)く、黎明(れいめい)期のメイド喫茶はオタクたちの社交場のような役割も果たしていたという。エリスさんが在籍していた店にも、自分たちが好きなものについて語り合う客の姿がよく見られたという。
次第に観光客が増えるようになり、エリスさんの目には、以前から通ってきていた常連たちが肩身の狭い思いをしているように映った。そして、とことん好きなものがある人たちがたちがそのことについて熱く語り、交流できる場を作ることにしたのだ。
「オタクって、世間の流行とは関係なしに、『これ好き!』って何かを見つけ、自分で心に火をつけられる人だと思うんです。勝手に着火して、火を起こしちゃう。しかも自分でいろいろと燃料を探して投下して、もっと盛り上がっちゃう人たちなんです。しかもオタク同士は、好きなものが違っていても、他の人の火のつけどころを見るのが好きだったりもするんです」
とはいえ、来店する人たちがすべて、メイドたちが営む私設図書館という世界観にすぐに溶け込めるわけではない。
「メイド喫茶は日常の中にあるちょっとした異世界。お客さまをお迎えする当館のメイドたちには、サーカスが始まる前に、異世界へと誘うピエロみたいに、お客さまが自然と世界に入れるよう案内する役であってほしいと思っています。また、店内でもメイドとだけ話をするのではなくて、他のお客さまを紹介したりして、みなさまの交流をサポートできるよう心がけています」
だから、客同士が仲良くなっていく姿を見ると、メイドたちもうれしい気持ちに包まれる。同店が主催するイベントなどで集まっているうちにカップルが誕生し、結婚した人もいるという。
「年齢を重ねるにつれ、結婚したり、子どもが生まれる方たちも増えてきました。いつかそんなオタク第二世代の子たちが、熱いハートを持ってすくすくと成長する様子もこの場で眺められたら……、アキバメイドとしてこれほど幸せなことはありません」
■オススメの3冊
「現代萌衛星図鑑」(著:しきしまふげん監修:松浦晋也、絵:へかとん)
人類の未来のために過酷な宇宙で奮闘する人工衛星を擬人化し、“彼女”たちのミッションや物語を紹介した一冊。「著者は人工衛星好きが高じて同人誌を出していたら出版社から声がかかって書籍化されました。すごく難しい内容なのに、一般の人でも楽しめる内容。涙なくては読めない一冊です!」
「いるの いないの」(著:京極 夏彦、イラスト:町田尚子、編集:東雅夫)
おばあさんの古い家でしばらく暮らすことになったぼく。その家の暗がりに、誰かがいるような気がする――。「子ども心にびっくりを残すようなものを作ろう、という思いからできた絵本です。周りの大人はこわいものを子どもから遠ざけようとするけど、こういう感情も大切。本気で怖がらせにきている絵本なので、大人が読んでも怖いんです……」
「私設図書館シャッツキステへようこそ! エリスとゆかいなメイドたち」(有井エリス)
同店のオタクなメイドたちの日常を、総メイド長エリスさんが描いた4コマ漫画。「お店の世界観を知ってもらうつもりで描いていた4コマ漫画が本になっちゃいました(笑)」
◇
私設図書館カフェ シャッツキステ
東京都千代田区外神田6-5-11 長谷川ビル1F
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