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第3章ダイジェスト
また、夢をみた。
昔の夢だ。
前世、軍に所属していたときの、辛く、けれど懐かしい夢だ。
そこにはケルケイロ――俺のかつての親友がいて、一緒に砦へと向かうところだった。
砦、つまりは親父のいたところ。
魔の森の砦だ。
情報によれば、砦はすでに陥落していて、状況は絶望的だという話だった。
しかし、それでも親父なら生きているかもしれないと俺は願っていた。
願っていたんだ。
けれど、結果は残酷で。
砦は完全に粉砕されていて、何もそこにはなかった。
人、といってもそれは躯だけで。
ケルケイロが元気づけてくれたが、あのとき感じた絶望感は今でも、忘れることができない。
◇◆◇◆◇
夢から目覚めると、俺たちはまさにその場所。
魔の森の砦に向かうところだった。
今度は壊れたそれではない、未だに稼働している、現役の砦にだ。
なぜ魔法学院生である俺がそんなところに向かうことになったかと言えば、それが研修だからだということになるだろう。
魔法学院生は卒業した場合、各所において幹部クラスとして登用されることが約束されているため、そのために関係各所を回って経験を積んで来い、という意味合いがある。
いくつか選択肢がある中、俺が選んだのは、親父が働いている場所、魔の森の砦だったというわけだ。
あまり人気のない研修先ではあったが、道連れもいる。
魔法学院ノール班の面々と、それにタロス村の出身者たちだ。
俺についてきてくれた恰好なわけだ。
ある意味で頼もしく、ある意味でひともんちゃくありそうな顔ぶれだったが、実際に砦につく前にも問題が発生した。
魔の森を覆う長い石壁、その一部を破壊して巨大な魔物が襲ってきたのだ。
狂山羊と呼ばれるその魔物は、信じられないくらいに巨大で、とてもではないが麻帆学院生が倒しきれるものではなかったが、俺たちはなんとかその場をやり過ごしてみせる。
そしてすぐ後に、砦から一隊を連れた女性がやってきて、鮮やかな手際で倒してしまった。
彼女こそが、現在魔の森の砦においてもっとも強力な戦力である、魔剣士エリスだった。
父アレンと戦ったことのある彼女。
意外な出会いであった。
そして、俺たちは彼女に案内され、砦を回ることになった。
さまざまな施設や規則などを説明されたが、どれも必要なことばかりで、意味のないものはなかった。
そんな中、もう一つ意外な出会いがあった。
砦の屋上に上ったとき、日も暮れてきて他の誰もが砦の中に入った中、俺は一人黄昏ていた。
そこに後ろから声がかけられたのだ。
その声に聞き覚えのあった俺は驚いて振り返る。
そこにいたのは、俺のかつての親友、大貴族、ケルケイロであった。
◇◆◇◆◇
聞けば、彼は同じく貴族の友人であるフランダとともに事情があってこの魔の森の砦に来ているらしかった。
懐かしい彼に、不自然に思われない程度に親しくなるべく俺は努力することを決め、そして実際に仲良くなった。
ついでに俺の友人も引き込んで彼の友達にしたのは悪くない選択だっただろう。
彼は、前世と同じく気の置けない関係でいられる平民の友人を求めていた。
前世と少し違うのは貴族の友人もいるということだが、彼、フランダがどうしてケルケイロのもとを去ったのかはわからなかった。
また、砦でしばらく過ごしていると、なぜかケルケイロの妹であるティアナ、それのそのメイドであるリゼットにも出会った。
どうにも彼女たちは自分たちが砦に来ていることを秘密にしているらしく、ケルケイロには言うなとくぎを刺された。
どうすべきか迷ったが、俺は一応黙っておくことにした。
何かあればフォローすればいいだろうとも思ったからだ。
しかし、その選択が間違いであったことはすぐにしれた。
なぜなら、二人が魔の森に勝手に行ってしまったからだ。
それを砦の慌ただしさの中で耳にしたケルケイロは単身、彼女たちを追いかけて森に向かった。
俺もどうすべきか迷ったが、一度散らせてしまった友人の命をもう一度散らせるわけにはいかない。
俺が彼を追いかけることにした。
その際、足として、ユスタに頑張ってもらった。
ユスタは、俺がこの森に来ることをしって心配性なのかついてきてくれたのだ。
口笛を吹き、すぐにユスタがやってきて、森をかけていく。
結果として見つかったのは、ケルケイロではなく、ティアナとリゼットだった。
二人をユスタに乗せて返し、そして俺はケルケイロを探す。
そして見つけたそのとき、彼は竜に殺される直前だった。
しかし、あくまで直前であり、まだ生きていた。
そのことを神に感謝しつつ、目を見開くケルケイロと竜からの逃走を開始する。
ケルケイロはやはり前世でも結果的にある程度まで生き残っていただけあって、根性がある。
きつい道行を死ぬ気で走ってくれた。
けれど、それでも限界はあった。
結局俺たちは竜に追いつかれて、竜の最大の攻撃である息吹をくらってしまった。
俺はそれを防御したが、気絶してしまう。
後のことはすべてケルケイロに丸投げして。
それくらいしなければどうにもならなかったからだが、無念ではあった。
後は頼んだ、そんな心境で、俺は自らの魔力をすべて使い果たしたのだった。

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