1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。
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住宅市場ではこのところ毎年90万戸ペースで新築住宅が量産されているが、今後アベノミクスが奏功して新築着工が120万戸ペースに回復すれば、2040年に全国の空き家率は43%、60万戸ペースに激減しても36%になるといった恐ろしいシミュレーションがある。
<住宅着工戸数シナリオ別の将来の空き家率推移>
※出典:野村総合研究所:人口減少時代の住宅・土地利用・社会資本管理の問題とその解決に向けて(下)~2040年の日本の空家問題への対応策案(http://goo.gl/iZtNjp)
都市の空き家率が30パーセントを超えると都市環境が悪化し、居住快適性が著しく低下することが研究者の間で知られている。空き家への侵入、放火などの犯罪の温床になり、何より街が荒れてくるとそこに暮らす人の心も荒む。かつてベルリンの壁が崩壊したとき、旧東ドイツの人々が旧西ドイツに大挙して押し寄せ、東ドイツでは空き家率が30%、40%いった都市が続出、街の荒廃が大きな社会問題となった。
空き家が増加する根本的な原因は世帯数でも人口減でもなく「新築の造り過ぎ」だ。前回お伝えしたように、西欧では多くの国で、10年間の「住宅需要」「住宅建設見込み」を推計し、それを基に住宅政策を決定する。2003年から10年間の各国の世帯数当たりの新築建設をみると、低いのがスウェーデンの5.6%、イギリス7.2%、イタリア8.3%。多くが10%以下で見込む。
経済調査会資料より長嶋修事務所作成
日本にはこうした目安がない。今も90万戸程度の新築住宅を量産する日本に空き家や増大するのは自明なのだ。適正な新築数はおそらく45万戸程度だろう。イギリスと同じ7.2%なら年間着工は35.9万戸程度。イタリアと同じなら41.47万戸。10%にするなら49.9万戸程度が適正だということになる。