―安倍首相や麻生財務相は、補正予算の9割が予備費になった理由を「余震が続き、被害の総額がいくらに膨らむか、査定ができないから」と釈明していますが。
福島 その説明はウソです。確かに将来の分も含めた総額は査定できませんが、現時点での被害額は被災した自治体が積算しており、その報告が内閣府や熊本県に上がっています。私の調べでは現時点での被害額は約3千億円。だから、まずはこの3千億円の被害について、ガレキ処理にいくら、公共施設の復旧にいくらと項目を立てて予算化し、国会で審議・議決をすればよいのです。
東日本大震災の時は、復旧費を使用目的ごとに分けて計上し、震災後49日目に第1次補正予算として国会で可決しています。東日本大震災の時にできたことが、熊本地震の時できないはずがありません。このままでは予備費として計上された7千億円は官邸の自由裁量、つまり“つかみ金”になりかねないと危惧しています。
―その7千億円が九州の復興と直接関係のないことに流用されてしまう可能性があると。
福島 それ以上に見逃せないのは安倍政権が震災を名目に、このような予算編成に突き進んだことです。被災者の窮状を思えば、緊急に補正予算を打つことに野党が反対できるはずがありません。そんな野党の反応を見越して、ここぞとばかりに予備費9割の補正予算を持ち出してきたとするなら、それは一種の火事場ドロボウ的といわざるをえない。
実際、震災直後に菅義偉(すが・よしひで)官房長官は、憲法を改正し「緊急事態条項」を新設することに強い意欲を示しました。ひとたび緊急事態条項ができれば、官邸は国会の関与なしに、法律と同じ効力を持つ政令を出せるようになる。そして今回の補正予算では復興予算のほとんどを予備費として計上することで、官邸は国会のチェックなしに自由に予算を使えるようになった。
国家権力の根幹は、法律をつくることと税金を配分することのふたつですが、まさにそのひとつの予算編成という場面で、安倍政権が緊急事態条項を発動することに成功したともいえるのです。
―確かに、今の話のような問題はまったく議論される時間的余裕もないまま、補正予算は全会一致で可決されました。しかし今後も何か緊急事態が起きるたびに、今回と同様、野党も賛成せざるをえない状況でどんどんモノゴトが決まっていったら、国会の存在理由がなくなってしまう怖さがあります。でも一方で、見方を変えれば安倍政権ってすごく頭がよいともいえます。こうしたシナリオは一体、誰が?
福島 結局のところ、予算の中身を決めるのは政治家ではなく官僚です。元官僚である私の知見からすると、彼らは内心で「民主主義は合理的ではない。自分たちが主導してモノゴトを決めたほうが日本にとってよい」と思っている。
そして今回、安倍官邸を御輿(みこし)に担ぐことで、国会のチェックを受けず予算の使い方を自由に決められる道が開けた。そういう意味で、官僚にとって安倍首相は実に“担ぎがいのある”リーダーなんですよ。