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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第157話 テラさんのアトランティス講座

 

 『エターナルテラー』
 ランク測定不能。アンデッド系最強の魔物。

 人間を軽く超える高い知能に、測り知ることすら適わないほどの魔力、多種多様な魔法に、永遠に近い寿命と言った、まさに『魔王』の名をとるにふさわしい存在。

 一晩で国一つを滅ぼしたとか、見渡す限りの大地を向こう数百年草一本生えない土地に変えたとか、無限のアンデッドの兵士を従えてるとか、色々な伝説が残っている。

 そんな、その名の通りに恐怖の代名詞として申し分ない存在が、今……

「ほぉ~……こりゃたまげたのぅ、お嬢ちゃんたち、上の世界から降りてきたのか」

「やだもー、お嬢ちゃんだなんて! テラさんったら上手ね、もう!」

 うちの母とふつーに談笑してます。テラさんて……

 つか母さん、あんたもあんたで、なじむの早すぎなんですけど?

 
 『玉座の間』で『エターナルテラー』と遭遇した時は、てっきりこのまま、最強の冒険者チームVS最強のアンデッドが始まるかと思ったんだけど、全然そんなことはなかった。

 何でかって言うと、そのアンデッドさんがめちゃめちゃフレンドリーで、全然僕らを敵視する様子とかがなかったから。

 むしろ、久々のお客さんってことで、丁重におもてなししようとまでしてくれた。

 ただ、お茶として出されたのが、『ライオットスライム』を煮溶かして作ったお茶(!?)だったので、僕と母さん以外は丁重にお断りしてたけど。いやホラ、飲んだら溶けるし。

 EBのおかげでそのへんの心配がない僕と母さんは、おっかなびっくり飲んだ。以外にも、甘くて少しの酸味があって割と美味しかった。スライム茶……未知の味覚を新発見だ。

「いやいや、しかしここに人が来るのは本当に久しぶりじゃ。てっきりワシの残りの人生、ここでずっと1人で暮らすことになるもんじゃとばかり思っとったよ」

「やっぱり相当昔のことなの?」

「うむ、ざっと7000年くらいは昔の話じゃな」

「「「そんなに!?」」」

 7000年!? マジか、すごい数字出たなおい!?

「しかもなんとまあ、『ネガの神殿』を逆走してここにたどり着くとはのう。まさかそんなやり方でここまで来るものがいるとは、いやはやワシも予想せなんだわ」

「? どういうこと? あの巨大迷路みたいな建物がやっぱり『ネガの神殿』だったみたいだけど……『逆走』って?」

「わからんのも無理なかろうが、話を聞く限りでは間違いないじゃろ、お主らどうやら、あの迷宮……『ネガの神殿』の『出口』から入って『入り口』から出てきたようじゃ。せっかくじゃし、少し詳しく説明してやろうかの、この古き都のことも含めてな」

 エターナルテラーことテラさん、確認を取るように『知りたい?』と聞いてきたので、全員で頷く。それを見て満足そうに頷くと、テラさんは話し始めた。

 ☆☆☆

 まずここは、さっき聞いた通り、7000年以上前に栄えた太古の都市である。
 名前は『アトランティス』……マジかおい。地球に同じ名前の幻の海底都市あるぞ。

 高い技術力と様々な知識を誇り、強力なマジックアイテムなんかも多く有する魔法文明だったが、それゆえに他の都市や国から目を付けられ、狙われてもいた。
 国同士の戦いにその技術力を使い、大陸の覇権を握らんとする者たちによって。

 『アトランティス』はそういった交渉を全て断り、時には武力を使ってでも狙ってくる者たちを撃退していた。

 ただし、それは別に『技術の流出によってこの世界に無駄な争いが起こるなんていけない!』とかいう理由じゃなく、『アトランティスの民以外が我々の技術を使おうと接触してくるなど不遜っ!』とかいう、傲慢というか、強烈な選民意識によるものだったという。

 似たような環境で育ってきたって前に言ってたシェリーが、昔のことを思い出したのか、嫌そうな顔をしてた。

 さて、そのアトランティスだけど……その傲慢がある時変な方向に極まったらしい。
 度重なる外部からの接触に嫌気がさしたとかで、『あの者たちが絶対にて出しできない場所に移り住んで静かに暮らそう!』とか誰かが言い出した。

 それをきっかけにあるプロジェクトが発足し、その10年後……『アトランティス』は海に沈んだ。都市機能や居住環境をほぼ完全に残したまま、海底に場所を移した。

 今もなお起動している空気のドームによって地上と変わらない環境を保つと共に、特殊な魔法で海面に降り注いだ太陽光をこの海底まで届けることで光源も確保。さらには万が一外部からの攻撃なんかがあった時ののことを考えて、人工の魔法生物による都市防衛なんかも充実させて、海底に引きこもったのである。

 そしてその際に作られたのが、『ネガの神殿』。僕らがここに来るために通ってきた、危険どころじゃない魔物がわんさかいるあの道は、このアトランティスの民が『上の世界』……すなわち『地上』に戻るための道として作られたらしい。

 二度と上の世界に関わらないという誓いの元で人々はこの都市に移り住んだそうだけど、何年、何十年とこの退屈な海底での暮らしが続けば、開かれた世界に戻りたいと言い出す者が現れるかも知れない、そんな懸念から作られた、試練の道。

 もしも外に出たいのなら、ここを通って自力で外へ行け、というもの。もしも生きて外に出られたら、その時は好きにするべし、と。

 しかし、当事のお偉いさんの頭の中には、そんなつもりは微塵もなかった。実際はあの迷宮は、外に出たいと言い出した『裏切り者』を、AAAランクの強さの魔物たちに殺させるための処刑場。

 しかももし迷宮の最後までたどり着けたとしても、出口である一方通行の魔法陣は地上になんかつながっていない。ワープ先は海底であり、到着した瞬間即死という徹底ぶり。

 まあ、その選民意識によって最後までこの『アトランティス』も、この海底という閉鎖空間での長い長い暮らしの結果、緩やかに衰退し、終わりを迎えたらしいんだけど。

 それ以来、無人となったこの『アトランティス』は、当時作られたもしくは捕獲され飼育されていた魔物たちと、テラさんことエターナルテラーだけが住んでいたそうな。

「ま、簡単に言えばこんな感じかの」

 スライム茶をずずっ――と口の中に流し込み、マジで午後の縁側が似合うおじいちゃん的な雰囲気のテラさんの話が一区切りした。

「たまげたね……そんな高度な文明が数千年前のこの大陸に存在したのか」

「遺跡とかで出土するマジックアイテムの中にたまにある、規格外な感じのやつとかって、もしかしてココから流れ出たものなのかも知れないニャ」

「可能性はなきにしもあらずじゃろうの。外部との接触を絶っていたとはいえ、私利私欲に捕われて技術等の一部を横流ししようとした者がいなかったわけでもないし……ココでなくとも、他の超古代文明の異物ということも考えられる」

「ん? この『アトランティス』以外にも、こんなとんでもない文明力を持った都市が?」

 あったのか、と問いかけるアイリーンさん。

「それについては是、と答えておくが、長い上にややこしい話になるからまたの機会にでもの。しかしお主ら、よくあの迷宮を抜けてこれたのう……魔物強かったろ?」

 そりゃもう。とんでもない場所でしたよ。

 この古代都市に昔住んでた人、あんなのを防衛戦力として保有してたってんだからすごすぎるよなあ……ガチで世界制服とか狙えたんじゃないのか? 選民意識の塊みたいな人達だったって聞いたけど、そういうの考えなかったんだろうか。

 面倒だからって興味持たなかったか……さっき話にチラッと出てきた、拮抗する力を持つ別な古代文明があって牽制しあってたか……

 もしかしたら、すでに過去それに近いことをやってたのかもしれない。けど、統治すら面倒になって海底に引きこもって、その後独自に大陸の国々が発達した、とか?

 まあいいや、後でテラさんにあらためて聞いてみよ。また今度話してくれるみたいなこと言ってたし。

「しかし、今の話を聴く限りだと、あのへん一帯って昔は海の底だったのか? 俺ら普通に陸続きの場所から『神殿』に入ったんだが」

「海岸線が下がったのか、もしくは海底が隆起して海面より上に出てきてもうたのかも知れん。環境が多少変わろうが、かなり長いこと持続する魔法陣だったからの」

「それもさすがに7000年もの歳月を経て劣化したようだったけどね。魔法の痕跡すらほとんど感じないほどに。……まあ、コイツは無理矢理こじあけてたけど」

「え、マジで? ……すごいね、お嬢ちゃん」

「あっはっは、褒めても何もでないわよーテラさん」

 表情筋ないからわかりにくいけど、テラさんの今の顔は引きつった表情だと思う。

「やれやれ、久々のお客さんは色々とんでもないご一行様みたいじゃな……いや、とんでもない連中じゃなきゃここにたどり着くことなぞそもそもできんか。ともあれ、7000年ぶりのお客さんじゃ、わしも暇つぶしがてらおもてなしさせてもらうぞい? 何なら後で、この神殿とか都市とか案内してやろうか?」

「え、マジ!?」

 食いつく母さん。次いでアイリーンさんが、

「おいおいいいのかい? この都市って技術の流出が嫌で引きこもったんだろ?」

「構いやせんよ。別にワシにこの都の住人達の意思を尊重する義務があるわけでもなし……あの迷宮を抜けてきたお主らに、ご褒美の1つや2つあってもバチは当たるまい」

 それに、と続けるテラさん。

「おぬしら見たところ、こういう怪しげな遺跡なんぞを探索するのが生業じゃろ? もともとの目的を邪魔するよーな無粋なことする気もないしの」

「こりゃまた大盤振る舞いだねえ、おじいさん……その予想としては当たりだけど、僕らをここで自由にさせちゃっていいの? 冒険者、といえば聞こえはいいけど、調査とか採取と称して、見方を変えれば盗掘者や墓荒らしと変わりないことしちゃうかもよ?」

「そうそう。古代遺跡のお宝なんて、モノにもよりますが、私達にとっては格好の収入源ですからねー、根こそぎ持っていっちゃうかもしれませんよ? というか、てっきりおじいさんってココの守護神みたいなのかと思ったんですが、違うんですか?」

 次いで、ザリーとミュウ。
 最初緊張してた2人も、この場の空気にすっかり慣れたというか、なじんだようだ。普通に、旧知の知り合いか何かと話すテンションでしゃべってる。

 しかし、そんな2人のからかい混じりの警告(?)を聞いても、テラさんは何も動揺する様子は見せず、かっかっかっ! と景気のいい笑い声を響かせる。

「結構結構、盗掘持ち逃げ大いに結構! どの道放っといてもここで朽ちていくしか未来のないもんばっかりじゃて、何も遠慮することなどないぞい?」

 そう言ってテラさん、指パッチンを一回。

 すると次の瞬間、玉座の間にある全ての扉が鍵ごと開いて全開になった。
 いや、音からして……玉座の間の外の扉も全部開いたっぽいな。

 そしてテラさん、玉座に座ったまま背もたれに体を預けて、両腕を大きく左右に広げ、

「好きなもんを好きなだけ持っていくとよかろう、ワシは何も邪魔せんからの。ま、手伝いもせんことにしとこうか……この城には魔物も多くいるし、トラップもある。それらをお主らが自力でかいくぐって見つけ、手に入れた宝なら、繰り返すがなーんにも遠慮はいらん。何でも持ってって構わんぞ」

「そりゃ嬉しいね……何でもかい?」

「ああ、何でもじゃ。宝箱の中の金銀財宝はもちろん、保管してある武器・防具・マジックアイテム……さらには、時間がたっても朽ちぬように加工された、古の魔法技術の研究資料・・・・研究素材・・・・なんかもどこかに眠っておるぞ」

 
((…………ほぉ……))

 
 一息に説明されたテラさんのセリフのある部分に、僕……ともう1人、僕の隣の隣にいる人が、心の中で反応した。

 ☆☆☆

 テラさん曰く、この都市全体を使わなくとも、大抵の用はこの城の中で事足りるらしい。なので、なんなら泊まって行け、遠慮するな、だそうだ。

 当事の特権階級の人々が住んでいた城だけあり、居住エリア完備。さらに清浄系の魔法が常時働いているため、環境もきっちり清潔で、掃除の必要もなし。すぐ使える。

 食料だけは自前か、魔物を狩って調達するしかないけど、風呂もトイレも完備。シーツとかもキレイで、普通の宿と同じくらいかそれ以上に快適に過ごせる環境が揃っている。

 武器や防具、その他道具類を整備したりするための設備もある。事務作業用のデスクなんかがある、自習室とか作業室みたいな所もあるという。

 それを聞いた上で、僕らは各自思うように過ごすことにした。

 エルク、シェリー、ナナ、ミュウ、そしてエレノアさんは、適当に居住エリアの個室の中から1つ選んで自室にして、そこで休むそうだ。荷物を下ろして、ゆっくり疲れを取ると。あ、あと、ビィとペルも。

 そりゃ疲れただろうしね……今日一日、色々あって。

 母さん、アイリーンさん、ザリー、義姉さんは少しこの城を見て回るそうだ。つまりは、未知の遺跡を探検してみると。そんでもって情報を集めると。

 母さん以外の3人はさらにそのあと、収集した情報やテラさんから聞いた話をまとめて報告用の資料を作るらしい。ザリーは情報屋として扱える分だけのそれを纏めて、アイリーンさんと義姉さんは、ギルド報告用のそれを。

 ……そのギルドの最高責任者はすでに実地にいるんだけど、一応報告書は必要だそうだ。まあ、他のギルド幹部に報告とかして、色々協議することもあるるだろうしね。こんなとんでもないダンジョンが発見されたからには。

 母さんはその後は……シェリー達と同じで、休むんじゃないかな。

 そして、僕と師匠はまあ、当然……

「よし、行くぞ弟子」

「了解です、師匠」

 まあ……こうなるのも当然だろう。
 あまりの驚きですぐにはそこまで気が回らなかったのと、無意識に集団行動を意識して暴走を抑えてたけど……テラさんの話を聴いたあたりで、うん。悪い癖が出た。

 そういう人種なのだから仕方ない。僕も師匠も。
 実の所、話の結構序盤から……うずうずしてたんだ。堪えてたんだ。

 話が終わり、各自の自由時間になり……しかもテラさんから直々に『何してもおk』というお墨付きまで貰った今、僕と師匠は完全にスイッチオンの状態に。
 こうなったらもー止まらない。満足するまで。いつになるかわかんないけど。

 何せ……この都市の魔法技術を根こそぎ解析しつくすまで、満足できるとは到底思えないもんで。僕も師匠も。

 通路のそこかしこに見える魔法文明の史跡に、窓から見える非常識な光景に、あらためて心が躍る。

 大量の水を、膨大な水圧を押しのけ、海底に都市を建造し、そこに人が住むことを可能とする空気のドーム。その内部の環境を正常に保ち、人間が暮らすのに十分なほどに澄み渡った空気や水を維持する空気清浄機みたいなシステム。

 現在の地上には無い石材を初めとした各種素材、それらを加工する技術。

 はるか上方であろう海面から、海水を透過させて太陽光をこの海底都市にまで届ける魔法技術。それによって育つ各種の、食用であろう果実や葉っぱをいくつもつけている植物……しかもそのいくつかは、見たこともない種類。

 複数人数、超長距離の転移を可能とする魔法陣を始めとした、高度な魔法関連装置の数々。

 そして……『デストロイヤー』を始めとした、魔法生物系の強力な魔物を人工的に作り出す技術。

 どれもコレも、知識欲をこれまでにないくらいガンガン刺激してくれる……!

 今、僕と師匠は……アルバに展開してもらった『サテライト』によってこの城の構造を把握して場所を調べた『宝物庫』の前にいる。

 もっとも、僕らがこの扉の向こうに期待してるのは、金銀財宝なんかじゃなく……わかる人にしかその価値がわからないような、癖のある……いやむしろ、癖しかない『宝物』の数々なんだけども。

「くっくっく……覚悟はいいか、弟子? この扉の先にあるのはおそらく、この俺すらも考えの及ばねえ超弩級のオモチャ共だ。常識・道徳・倫理・自重全てに喧嘩を売ってその深淵へ頭から飛び込んで肩までどっぷり浸かる勇気がお前にあるか?」

「愚問ですね師匠……常識だの何だの、そんな殊勝なもんは最初から僕の辞書には載っちゃいませんよ。僕の目指すものはいつだって、お利口な模範生には逆立ちしたって至ること適わない地獄の果てにあるんですからね」

「それでこそ俺の弟子だ、くっくっ……そういやエルク・カークスは一緒に来なかったのか? てっきりお前のストッパーやるためについてくると思ってたんだが」

「諦めてましたんで」

 よく気がつく……というか、よくわかってる嫁である。
 ただし代わりに『止めろとは最早言わないから、いつもより可能な限り自重しなさい。自分で意識して。3割増しくらいでいいから』というお言葉をいただいたけども。

 アレか、受験近くなった時に高校の先生がよく言ってた『100点取ろうとしなくていいから、得意分野で絶対取りこぼさず、80点でいいから確実に取れるようになりなさい』とかいうアドバイスと同じニュアンスかな?

「そーかそーか……で、自重すんのか? 3割増しで」

「やだなー師匠、知らないんですか? 0を3割増ししようが0ですよ」

「あー、そーさな」

 さて、じゃあそろそろ…………宴を始めよう。

 

 後にエルクは語る。
 『面倒くさがって諦めずに、ちゃんと止めておくべきだった……』と。

 アイリーンさんは語る。
 『あっはっは……世界、ヤバくね?』と。

 
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