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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第154話 事情聴取と変わらぬ母

 

「そんじゃまあ、2人ほど足りないのが残念だけど、150年ぶりに我ら『女楼蜘蛛』が再集結できたことを祝して、アーンド今現在目覚ましい活躍を見せて各方面から注目されてる新鋭チーム『邪香猫』の一層の躍進を祈願してっ! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

 わーい、完っ全に母さんが仕切ってるよーい。もうどうにでもなれ。

 ……一瞬思考その他諸々を放棄しかけました、ごめん。

 今現在、僕らは『オルトヘイム号』の食堂で、飲み会のごときテンションでのディナータイムに突入した所です。母さんの乾杯の音頭で。

 
 今日はもう夜も遅いからってことで、『ネガの神殿』には明日から潜ることになったんだけど、その壮行式みたいな感じで盛大に飲み食いすべく、この船の食堂でバカ騒ぎしてるのだ、今。この人達。

 まあ、どっちみちこれから夕食にしようと思ってたし、食材とか自前で大量に持ち込んでくれたから別にいいけどさ。

 それに、うちのシェーンはもともと大人数用の料理作るの得意だし、ターニャちゃんも加勢してたし。

 ほんの一時間弱の準備時間――それも昔懐かしい仲間同士で談笑してる間にあっという間に過ぎていた――の後、大人数用の長い会食用テーブルにいっぱいの料理が並び、『邪香猫』と『女楼蜘蛛』合同親睦お食事タイムとなったわけである。

 各々好きなところに座って、好きなように食べ始めたんだけど……僕の斜め前には、今回初めて会う、通算5人目の『女楼蜘蛛』元メンバーの女性が座っている。

 栗色のセミロングの、セットとかはしていないのか、所々はねている髪。その頭のてっぺんから、一対のネコミミが生えている。

 背丈はエルクと同じくらいで、体つきは細身で凹凸のないスレンダーな、しかしよく見ると、引き締まった筋肉に覆われて無駄なく鍛えられているそれだった。

 名前は、エレノア・トレパロスキー。猫系の獣人族の女性で、『女郎蜘蛛』の偵察兵。

 他のメンバーに先行して周辺区域の様子を探ったり、標的に気付かれないように尾行して情報を集めてきたりする役割を担っていたそうだ。僕ら『邪香猫』で言えば、ザリーあたりが該当するだろうか。

 さっき軽く話してみた感じだと、普通に気さくなお姉さんキャラ、って感じだったな。

 まあ、もっと長く話したり付き合ってみないとそりゃわかんないだろうけど、少なくとも母さんや師匠みたいに常識とかそのへんをナチュラルにぶっちぎってるタイプの人じゃなかったと思う。

「やれやれ、なんか悪いニャ、リリンの末っ子君。アポなしでいきなり押しかけた上に、こんなに美味しい夕飯までご馳走になっちゃったニャ」

 ……ちょっと語尾が特徴的ではあるけども。

 猫系の獣人だからか、それとも単に個人的に舌に合うだけなのか、シェーンの得意料理の一つである魚のムニエル(……だったかな?)をフォークで豪快に刺して食べながら、すごく嬉しそうな笑みを浮かべている。

 別に僕が作ったわけでもないんだけど、見てるこっちが嬉しくなるような笑みだ。
 そしてこの人……僕より童顔じゃなかろうか。顔といい小柄な体躯といい、パッと見女子中学生くらいに見えてしまいそうだ。師匠やエルクより小柄だもの。

 口いっぱいに料理詰め込んでおいしそうにほおばってる様子なんか特に……とか思ってたら、さっきまでハイテンションだった母さんが、ため息混じりに言った。

「にしてもさー……どーせなら6人で挑戦したかったわよねやっぱり。せっかくストーク飛ばしたってのに、テーガンもテレサもノリ悪いんだから」

 不満そうにしつつステーキを口に運ぶ母さんに、口の中の料理をごくんと飲み込んだエレノアさんがフォローするように言う。

「そりゃ仕方ないってもんニャ、リリン。テレサは仕事熱心だから、いきなり呼ばれてもすぐこっちに来れるわけニャいし。テーガンは……どーだか知らんけどニャ」

 今エレノアさんが言ったように、母さんはこの神殿攻略にあたり、かつての仲間全員にストークに頼んで手紙を届け、攻略ツアーに誘っていたのだ。自分以外の5人全員に。

 ここで活躍したのが、今さっき聞かされるまで僕も知らなかった、ストークの2つの能力だという。

 1つは、自分の『羽』がある場所を感じ取る能力。

 前にも言ったと思うけど、ストークの羽は本人に了承を取って抜いたものでないと、光になって消えてしまう。しかし、了承を取って抜いた羽……すなわち消えない羽の場合、ストークはその場所を、どれだけ遠くだろうと感じ取ることが出来るのだ。

 そして、『女楼蜘蛛』メンバーは全員その羽を持っている。だから、ストークはその羽を探知して飛んでいくことで、互いに居場所を知らせていなかったメンバー達にたどり着けた。

 そしてもう1つのストークの能力。それはなんとびっくり……『光速飛行能力』。

 直線距離で間に何も障害物がなく、ある程度以上の遠距離でないと発動不可能、っていう制約がある能力なんだけど……読んで字のごとく、光の速さで飛ぶことが出来る。

 ご存知かどうかわからないが、『光速』ってのは実にマッハ86万。一秒で地球を7周半もすることができるというとんでもない速さである。もうほぼ転移魔法だ。

 そんな伝書鳩ならぬ伝書フェニックスの手紙を受け取った5人のうち、3人が呼び出しに応じたわけだ。師匠とアイリーンさん、そしてエレノアさんが。
 残る2人は不参加。理由は不明。母さんはそれが残念だったみたい。

「しかし、噂には聞いてたけど……ふむふむ」

 と、いつの間にかエレノアさんが視線を移して、僕の方を見てきていることに気付いた。

「えっと、何か……?」

「ああ、ごめんごめん。思ったより普通というか、礼儀正しいと思ってニャ。アイリーンやクローナから聞いてた感じだと、もっとこう……非常識な感じだって聞いてたし」

「くくっ、そうだよな……皆最初はそう言うんだよな」

「確かに、普通だよねえ……見た目は。くすくす」

 おかしそうに笑う人が2人。ちらっと目をやると、ドッキリの仕掛け人か何かのような、ちょい邪悪な感じの笑みを浮かべていた。どういう意味ですか、そこ。

「ま、なんにせよこれからしばらくお世話したりお世話になったりすると思うから、よろしくニャ、末っ子君」

「あ、はい、どうも」

 そう言ってにこっと笑うエレノアさん。……やっぱり、今のところ普通に真人間と言うか、母さん達みたいにぶっ飛んだ性格はしてないようだけど……。

 うん、少なくとも……

「おーい弟子ー! 酒ー! エールとかじゃなくてワインとかねーか?」

「こらミナトー、何そんな離れたとこ座ってんのよー! お母さんの隣来なさい隣!」

 ……あのへんよりはまともだと思う。そう信じたい。うん。

 いや、遠慮しなくていいとは言ったけどさ……自分の家以上にくつろいでるよね、明らかに……

 ☆☆☆

 数十分後、僕はまだ飲み食いしつつ騒いでいる方々を残して食堂を抜け出し、セレナ義姉さんとザリーと一緒に、船内の通路を歩いていた。

 向かったのは、夕方から大人しく待ってもらっている、エルビス王子達のところだ。

 数時間も休んで十分落ち着いた+体力も回復しただろうってことで、そろそろ話とか聞かせてもらえないかなと思って。もちろん、聞ける範囲内で。

 ノックをして部屋に入ると、鎧なんかの装備をはずして楽にしていたらしい王子様と兵士さん達が、座りなおして入ってきた僕らを迎えてくれていた。

 僕らも軽く会釈して室内に入り、3人並んで向かい合うように座る。

 先に口を開いたのは、王子様だった。

「……まずは今回、この命を救い、守ってもらったこと、例を言う。そして同時に……私の内輪の策謀に巻き込んでしまったことを謝罪しよう……すまなかった」

 そう言って、王子様は頭を下げた。会釈程度だったけど。

「あらかじめ述べさせてもらうと……どうやら今回の一件は、初めから仕組まれていたことだったようだ……順序だてて説明させてもらっていいだろうか?」

「あ、はい……ああでも、あまり込み入った話というか、機密事項みたいなのは避けてもらえると……」

「ああ、承知している」

 本当なら、そして出来ることなら、王子様から何か話を聴くっていうのもあんまりよろしくない対応なんだ、って義姉さんやナナさんからはチラッと聞いた。

 今回の一件、かなりおかしい依頼内容や裏切り者の存在からして……明らかに何者かがこの討伐に乗じて何かよくないことを企てている。それも、かなり内側から。

 それどころかもしかしたら、この討伐任務そのものが王子様暗殺か何かを目的としたトラップだった可能性すらあるとのこと。

 そんな、大国の裏側が舞台の陰謀劇にこれ以上関わったら、確実に厄介なことになる。だからここは、王子様たちには最低限の手当てやら処置を施して手を切り、無関係ないち冒険者に戻るべきだ……っていうのが理想。

 しかし、そうしないでこんな風に事情聴取をさせてもらうことにしたのは……もうすでに手遅れである可能性が否定できないからだ。食事中、アイリーンさんにそう指摘された。

 何せ今回、僕らがどうやら嵌められて戦わされた相手は『ディアボロス』。それも、4体もの。普通に考えて、戦ったらほぼ確実に死ぬレベルの敵だ。
 イコール今回のこの陰謀は、マジで王子様を殺す気で仕組まれたということ。

 実際、成功していただろう……僕らという戦力を雇っていなければ。

 王子様自身がそう言ってたことからもわかるように、僕らが『ブルーベル』に来ていたことは完全なイレギュラーだ。王子様にしてみれば、任務に向かう直前に報告によって知ることが出来た、降って沸いた幸運。その時ちょうど、人に断りもなく紹介状なんか書いてくれやがる、そして僕の性格を知っているメルディアナ王女と一緒にいたことも含めて。

 その結果、任務失敗&死亡が確実だった王子様は生き残ってしまい、それを手助け……というか直接の原因である僕の存在はコレを仕組んだ側に100%伝わる。条件次第では、その黒幕連中から何かしらの報復・嫌がらせ的なあるかもしれないとのこと。

 だったらいっそ、ホントのホントにヤバイ情報だけ避けてもらって、限界ギリギリまで王子様に必要そうな情報を話してもらっておいた方が、後々の対処が楽だろう……というのが、アイリーンさんの提案だった。

 で、その意見を加味して考えた結果……アイリーンさんの案を採用し、ザリーと義姉さんに同席してもらって『事情聴取』することにしたわけだ。

 ちなみにその時、アイリーンさんが『んー、そういうことならボクもちょっと援護射撃してあげるよ』って言ってたけど……援護射撃って何だ?
 事情聴取には参加しないって言ってたし……どういう意味で言ったんだろうか?

 ともかく、僕らは王子様とその部下さんたちから、聞ける範囲で今回の一件の事情を聞かせてもらうことにした。
 それを王子様も承知し、順序だてて話してくれた。

 まず最初に……最悪の予感がいきなり当たっていたようだ。今回のこの討伐任務、おそらく最初から王子様を亡き者にするために仕組まれたものだとのこと。

「私が第五王子であり、王位継承権もかなり低いところにいる……というのは、最初の日に話したと思う」

 うん。聞いた。たしか継承権……8位とかだったっけ?

「それゆえに力もさほど大きくはなく、時期国王の座からは程遠い位置にいる……それが世間共通の認識なのだが……自画自賛になるが、実際はそうでもない」

 へ? 何で?

「私の王位継承権は確かに低いが……だからといって時期国王や、その際の要職につくことができないわけではないのだ。宮廷内では私、時期国王に最も近い1人とされている」

 え、何で? 8位なんでしょ?
 普通は、王位継承権『1位』の人がそういう風に言われるんじゃないの?

 するとその応えは、隣に座っていたザリーが知っていた。

「そういえば、ジャスニア王国の王位継承は、現国王の指名と議会の承認によって行われる仕組みでしたね」

「? どういうこと?」

「ジャスニアに限ったことじゃないけど、王位継承権が一番高い人がそのまま次の国王になるとは限らないんだよ。例えば普通、王様が『第○王子の○○を次の王にする』って宣言すれば、王政を取ってる国なら基本その通りになるでしょ?」

 ああ……そういやそうか。王様の指名で、王位継承権の順位ってどうにでもなるんだ。
 こないだ言ってたけど、あれって単に生まれた順番だし。

「我が国ジャスニアはそれに加えて、王位継承に議会の承認が必要になるのだ。そのあたりは、ジャスニアという国の来歴に起因する所があるのだが……」

 王子様によると、ジャスニアはもともと、『チラノース』と同じように、複数の国家が合併することによって出来た国らしく、大陸の南部に東西に長い領地を持つその国土は、もとは3つの『王国』であったとのこと。

 合併はもう何百年も前の話になるらしいんだけど、その際、片方がもう片方を吸収する形で生まれたチラノースとは違い、3つの国がそれぞれ対等な地位で1つになり、その際王家も1つに統合された。

 王家を1つに統合ってどういう意味だって思って聞いたら、また小説みたいにすごいフィクションちっくな歴史があったんだこれが。

 なんでも当事その三国って三つ巴の戦争状態で、国力をめちゃくちゃ疲弊させていたらしい。このまま戦争続けたら共倒れ確実じゃないか、ってくらいに。

 そんな三国に危機が訪れた。突然、何の前触れもなく異常発生した魔物の大群が三国に同時に襲い掛かった。国力を疲弊させた国にはいずれもその大侵攻に抗うだけの力はなく、最早これまでかと誰もが諦めたそんな時……救世主が現れた。

 その男の名は『エルドーラ』。混乱の真っ只中にあった戦場に颯爽と現れ、圧倒的な戦闘能力で持って魔物の軍勢を押し戻し、壊滅の危機に瀕していた三国の軍を救った。

 そしてバラバラだった三国を1つにまとめ上げて巨大な1つの軍として団結させ、それを率いて見事魔物の侵攻を撃退・殲滅した。

 人々はその英雄・エルドーラに感謝し、三国の王家は自分たちが愚かだったとその行いを恥じて冠を脱いだ。

 その数年後、手を取り合って歩むことを決めた三国は、互いの関係を対等なものとして合併し、1つの国……ジャスニア王国として生まれ変わった。そしてその初代国王の座には、国中の支持を受けてエルドーラが即位。

 三国の王家からそれぞれ1人ずつ王女を妻として彼が娶るという形で、3つの王家は1つになった。そして、英雄・エルドーラの名の下に生まれた強い絆を現代まで保ったまま、ジャスニア王国は今日この日まで歩んできた…………という話。

 ……ホントに安っぽい小説みたいな歴史持ってんだな、この国。

 いや、そんな危機的状況を生き延びて今まで命をつないでるってのはすごいことだってのはわかるし、その導き手になったっていう『エルドーラ』さんが超すごいのもわかる。

 わかるんだけど……やっぱ子供向け小説みたいっていう感想を覚えてしまう。最後の、三国からそれぞれ姫を娶ってハーレムエンド迎えたとこなんか特にご都合主義っぽい。

 まあ、過去のリア充偉人について何か言っても何になるわけでもないのでそれは置いといて……王子様ももれなくその初代国王エルドーラの血を引く1人なわけだ。

 話はここで、この国の王位継承のシステムに戻る。
 この国では現在の国王が誰かに王位を譲る場合、単に指名すれば次の王様として確定させられるかと言うとそうではなく、他に2つの条件があるらしい。

 1つは、初代の直系であり、王位継承権を持っていること。まあ基本っちゃ基本だ。
 そしてもう1つは、『議会』の承認を得ることだそうだ。

 『議会』っていうのは、より広い範囲からよりよい執政のための案や意見を取り入れるため、地方ごとに選出した『議員』を集めて作られる、日本で言う国会みたいなやつのことらしい。そこまで人数いないらしいけど。

 この国では、国王と『議会』の連携によって執政が行われているそうだ。王政と議会制の中間みたいな感じなんだろうか?

 その議会によって、王様が指名した後継者は次の王としてふさわしいかどうか、完全な第三者の立場から審査が行われ、そこで信任を勝ち取れば晴れて正当な後継者となるそうだ。

 それが問題になってくるってことはつまり、エルビス王子は……

「……民衆に人気もあって、向上心豊かで性格も誠実で実直。おまけに身体能力はそこらの傭兵なんかよりずっと上で、自ら魔物と戦って討伐する実力もある……そりゃ人気出るでしょうね。実際今、広告塔じみた役割も担ってることだし」

 と、義姉さん。割と遠慮なくズバッと言ってのけるなこの人。
 まあ、王子様別に気にしてないみたいだからいいけど。

 そして、このシステムを、『本来の王位継承権』と関連付けさせて説明した、ってことは……

「エルビス殿下は今、今の王様から後継者に指名される可能性がかなり高い立場にいる、もしくはそう思われている……ということでしょうか?」

「……そうだ。自分で言うのもなんだが、私はこの役割のせいか民衆受けもいい。初代・エルドーラ王の方針にのっとり、公と民が手を取り合って歩むことを信条とするこの国の次代を担うにふさわしい、と言われているのだ。もっとも、国王陛下直々にそう言っていたわけではなく、あくまでそう主張する派閥がある、という規模の話だが」

「と、なれば……そんな将来有望な王子様を狙う勢力なんて、嫌でも予想ついちゃうわよねえ~……」

 ……うん、確かに。

 そして理解した。これ以上は聞いちゃいけないと。
 たとえ、王子様が今回の犯人と思しき人物が誰か具体的に目星がついているとしても、直接僕や僕の仲間に手を出しでもしてこない限りは、それを聞くべきではないと。

 コレ思いっっっっきりアンタッチャブルな領域だよ。部外者が首突っ込んじゃ絶対ダメな、予想以上に大事おおごとかつドス黒い陰謀渦巻く世界の問題だよ。

「……誰、とは言えんし、そもそもわからんが……私をよく思わない者が、情報を操作して偽の討伐任務に私を就かせたのだろう。サラマンダーではなく、もっと強力なあの魔物たちが待ち受ける場に私を送り、殉死することを狙って、な」

「もしそうなら、随分と遠まわしな暗殺計画ね……不安要素も多いし」

「けどそれだけに、証拠が残りづらい」

 確かにそうだ。酷く回りくどいけど、上手い手、と言えなくもない。
 最初から死亡確定な『任務』に行かせ、それによって王子様を『殉職』させる。

 手順どおりに進めれば……暗殺の実行犯は野生の魔物だ。事前にその住処を調査し、王子様がそこに行くように誘導すれば、あとは勝手に任務中に殉職してくれる。

 そしてより万全を期するために、裏切り者を王子様の護衛部隊に紛れ込ませたんだろうな。最初から、そのまま一緒に魔物に襲わせて殺す……つまりは使い捨てにするつもりで。『話が違う』とか言ってたのはそのためだろう。

 成功しても、仮に失敗しても、『情報の精査が不十分だった』っていう理由で煙に巻けるし。ある程度の権力さえあればそれも簡単なこと……そしてコレを計画・実行した奴は、おそらく『ある程度』どころじゃない権力を持ってるだろうし。

「……話せることは、このくらいだな。これ以上は、互いのためにならんだろう」

「そうですね。義姉さん?」

「ん、ばっちり記録済みよー。ま、表に出すわけには行かない資料になっちゃったけどね」

 と、聴取内容を全て記録し書き取っていた義姉さんがサムズアップ。記録はばっちりだ。
 もっとも今義姉さんが言ったとおり、公式に扱える内容じゃないけど……せいぜいアイリーンさんに一応報告しておく程度かな?

「冒険者ギルド職員として、記録内容は外部に漏らすことは一切いたしませんからご安心くださいな、王子様。それと、これからどうなさるおつもりで?」

「そうだな……部下達の傷が癒えたら、すぐにでも王都に赴いて、色々と後処理をしなければ並んだろう。それまでは……『ブルーベル』に滞在するか」

 そこまで言って、ふと思いついたように、

「そうだ……ミナト殿、あなた方はこのままこの船に滞在するのか? もしそうなら、不躾な願いではあるのだが……あなた方が借りていたあの部屋をこの先数日、我々に使わせてもらえないだろうか? もちろん、相応の代金は払おう」

 ああ、あのロイヤルスイートか。あそこならセキュリティもしっかりしてるし、清潔だから怪我人の療養にも都合いいしね。

 ていうか別に、出歩ける区域さえ守ってもらえれば、このままこの船に滞在してもらってもいいけど……いやまてよ、そうなると『サンセスタ島』の時みたいに、船を使わせてもらったことに対しての報酬云々とかの話が別口で出てくる可能性が……?

 どうしたらいいかな、と義姉さんとザリーにアドバイスを貰おうとしたら、それよりも早く姉さんが口を開いた。

「それがいいと思うわ。もともとこの船、明日以降はシェーンちゃんとターニャの2人残して留守になっちゃうしね」

 え、どういうこと?
 明日以降この船留守にするって……何で? 僕ら別にどこにも出かける予定とかないよ? 『ネガの神殿』に挑戦するらしい母さんはともかく。

 そう聞いたら義姉さん、『あれ?』と意外そうに振り向いて、

 
「ミナト聞いてないの? さっきお義母さん言ってたんだけど……明日からの『ネガの神殿』の探索に、あんたたち『邪香猫』メンバーも全員連れてくって」

 
「「…………え゛?」」

 
 ☆☆☆

「ちょっと母さん!? さっき姉さんから聞いたんだけど、僕らも明日の朝『神殿』に行くってどういうことって人の部屋で何やってんだよあんたはぁ!?」

 食堂に戻ったらもう誰もいなかったので、客室に戻ったと推理したが、母さんの性格からしてわざわざ別な客室なんかに行かずに僕の部屋に行ってるだろうと推理。

 それが見事に当たってたので、さっそくそこにいた母さんにさっきの話の真贋を聞こうと思ったら……なんかタンス開けたり、本棚の後ろとかベッドの下を物色していた。

「え? 何って、いやらしー本とかどこに隠してんのかなーと思ってガサ入れを……」

「当然のことのように言ってるけど他人のプライバシーを思いっきり踏みにじってる事実をまずは認識しようか!」

 『何言ってんの?』とでも言いたげな、僕が怒ってるのが本気で不思議な様子の我が母。自分の問題発言を問題発言だと認識してないよこの人!

 てかあるわけないだろそんなもん! この世界写真もDVDもないから、必然的にエロ本もエロDVDもないんだから。春画エロイラストとかエロ小説とかはあるみたいだけど!

 まあ一応、師匠の所で修業した時に、写真とかDVDみたいに画像や映像を記録できる魔法とか記録媒体作ったりもしたけどさ。

「何だ、あるんじゃないの。どこよ? その記録媒体とやらは」

 手を『ちょーだい』の形にして提出を要求してくるわが母。やりたい放題継続中。

「いや別に見せてもいいけどさ……母さんが期待してるようなやらしい系のものは別に保存されてないよ? せいぜいエルクのコスチューム写真とか何気ない日常の中で見せた自然な笑顔とかを記録したフォトアルバムがあるだけでさ……」

「ちょっと待ったァ! あんたそんなもんいつの間に作ったのよ!?」

 すぱーん、といい音を響かせて、今日もエルクのハリセン(オリハルコン製)が唸る。

「何よその衝撃の事実!? 初耳なんだけど!?」

「あ、ごめん。ちょっとまだ編集中だったから言ってなかった。……あ、嫌だった?」

「いや、別に嫌とかじゃないけど、その……えっと、いくら私とあんたの仲とは言ってもさ、そーいうのは一応、事前に言ってからやってほしいっていうか「撮るよー(カシャ)」いや直前すぎだっつの」

 今のちょっと恥ずかしそうな表情も、スマホことマジックスマートフォンで激写。
 うん、いい画が撮れた。早速タブレットに転送して……あれ?

 ……無い、ってか出てこないぞ? たしかに『マジックタブレット』も帯に収納しといたはずなのに、念じても出てこない?

 やっば、もしかしてどこかに置き忘れ…………

「……母さん」

「んー、何?」

「今その手に持ってる縦20cm強、横30cm弱、厚さ約1.5cmの板状の物体は一体何かな?」

「わかんない。ただ、ミナトが大事にしてる何かだと思うわ」

 どう見ても『タブレット』です本当にありがとうございました。道理で無いはずだよ。
 ってか、どこにあったの? 何で今持ってるの? 今までどこに持ってたの?

「いや、今取り出したんだけど。ミナトの帯から」

「は!? どうやって!? コレ僕が念じないと出し入れできないはずだよね!?」

「いや、私も出し入れできるわよ? その帯作ったの誰だと思ってんのよ」

 すごいねこの人! ちゃっかり息子の収納アイテムに自分もアクセスできるように作った段階でプログラミングしてやがりましたよ! 周到!

 しかも何か見た感じ、タブレット普通に使えちゃってない!? 使い方教えてないのに……まさかこの短時間で感覚で覚えたっての!? どこまで天才ですかこの母は!?

「あ、コレ? エルクちゃんの『ほと』とかいうやつ。わーすごい、絵キレー。それにかわいーわね未来の私の娘は」

「『ほと』じゃなくて『フォト』ね。絵じゃないし。かわいーでしょ。自慢の嫁」

「ダメだこの親子……ツッコんでもツッコんでもキリない……大丈夫かしら私、この2人が待ち受けてる家に嫁いだりして……」

 あれ、エルクが疲れてる。何ゆえ?

「ま、これはあとでじっくり見せてもらうとして……明日は早いし、そろそろお風呂入ろうかしら。ミナト、久しぶりに一緒に入ろ♪」

「はいはい。あ、風呂そこね? 着替えは?」

「自前で持ってるわ」

「……ホントに一緒に入るんですね」

 と、エルク。
 ちょっとびっくりしたようなリアクションを見せた後、半分意外そうな、半分呆れたような表情で呟くように言っていた。

 あー、まあ、この年でお母さんと一緒にお風呂に入ってる男子なんて普通いないもんね。

 それでも、事前に、というか以前にチラッと話したことがあったからか、『やれやれ』ってため息つかれるくらいで嫌われたりはしなかったみたいだけど。ほっ、よかった。

 するとその直後、エルクの方をふと見た母さんの頭上で豆電球が点灯した。

「あ、そうだ! せっかくだからエルクちゃんも一緒に入りましょ!」

 またいきなりすごいことをを思いつきで言い出した。

「えっ!? い、いや私はその、いいです……親子水入らずでどうぞ」

 いきなりそんなことを言われて当然のごとくびっくりするエルクだが、すぐに落ち着きを取り戻して無難にそんな返答を返していた――が、

「遠慮しないのっ! ほら、スキンシップスキンシップ! いずれ義理とはいえ親子になるんだから、今のうちに裸の付き合いってもんを経験しとくのもいいでしょ!」

 残念ながら、この母は一度決めたら人の話を聞かない。

「いや、本当に私はけっこ……ちょっ、え!? な、何ですかコレ!?」

 それでも落ち着いた口調で丁寧に断ろうとしていたエルクだが、次の瞬間ぎょっとしてさすがに大声を上げてしまっていた。

 まあ、無理もないだろう。何せ……母さんの髪が呪いの人形みたいに伸びて、しかもそれが触手みたいにエルクの体にからみついて来てたんだから。

「え!? え!? ええぇぇえ!? なななな何ですかコレ!? 何、『否常識魔法』!? ミナトこれあんたの仕業か!? リリンさんに何教えたのよ!?」

「やーんもーエルクちゃんよそよそしいぞー! 私のことはお義母さんって呼んでよさびしーなー! ……でミナト、『否常識魔法』って何よ、あんた普段何してんの?」

「少なくとも母さんよりは常識的なことしてると思うから安心して。あとエルク、僕は別に何も教えてないよ、コレ『EB』の応用。髪の毛を自在に伸び縮みさせたり、自在に動かして手の代わりにしたりできないかなー、って昔考えた技」

 もっとも、手とか普通に動かすのに比べてえらい神経使うし、他にもいろんな面で費用対効果つりあわないから封印してたんだけどさ。

 でも見た感じ、完全に使いこなしてるなー、さすが母さん。

 そしてエルクがエロ同人誌みたいに全身を触手……もとい、母さんの髪の毛に絡め取られてる。しかも何か、そのまま服脱がそうとしてない?

「ちょっ……ホント何ですか!? なんかコレ服脱がそうとしてるっぽいんですけど!?」

「だって服着てお風呂に入ったら濡れちゃうじゃない。エルクちゃんはEB使えないから、火達磨式衣服乾燥法とかもできないでしょ?」

 ああ、服濡れた時とかに僕がよくやるあの、全身発火して強制的に水分飛ばすアレ。

「定番なんですかあの物騒な衣類乾燥手段!? いやだからお風呂は遠慮しますって……っていうかミナト! ぼさっと見てないで助けなさいよさっさと! 嫁のピンチよ!」

「こらエルクちゃん! 嫁と姑のやり取りの間に夫を挟むのは確執の元よ! めっ! 嫁姑戦争ならいつでも受けて立つから直接かかってきなさい! 私負けないけど」

「何なのコレ!? マジで何この状況!? 私はあと誰にどれだけツッコんだら平穏を得られるの!? さっきから私ツッコミっぱなしてホント疲れてきちゃったんだけど!」

「いいじゃないたまにはこんな笑顔とボケとツッコミのあふれた時間を過ごすのも。いつもは夜はエルクちゃんツッコまれる側でしょ? うちの子に」

「母さん、何の前触れもなく下ネタをぶっこんでこないように」

「だからあんた冷せ……わ、わかった! わかりました! 入ります! 一緒に入らせていただきますから無理矢理触手で服脱がせるのやめ、ちょ! そこダメあ―――っ!!!」

 

 結局その後、母さんの提案という名の命令により、入浴のみならず、夜ベッドで寝るのも僕とエルクと母さんの3人で川の字になって寝ることになった。

 当然ながら、終始エルクはツッコミっぱなしですっごい疲れてた。申し訳ない。

 リラックスできるはずの風呂やベッドで余計疲れるって何って話だよね、うん……ただでさえ明日は早起きして『ネガの神殿』に……ってそうだよ、それ聞いてない!

「ちょっと母さん!? 聞くの忘れてたけど、明日僕ら『邪香猫』も一緒に『ネガの神殿』に行くっていったいどういうこと……」

「コラミナト!早く寝なさいって言ったでしょ!」

 ――すぱぁん!

「あがっ!?」

 一閃した母さんの平手打ちが額にクリーンヒット。その一撃で盛大に脳を揺らされた。

「……え? 今の話、何?」

 困惑したようなエルクの声を耳に残しながら、あえなく僕の意識は闇に沈んでいった。

 む、無念……てかやっぱこの人強すぎ……(ガクッ)。

 
 
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