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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第152話 再会

 

 謎の転移魔法陣が発動してから、約30分ほどが経過。

 その間に僕らは、休憩がてらやるべきことを全て済ませた。

 まず、全員の無事の確認。これはすぐ済んだ。
 転移しただけだから、別に怪我とかなかったし。気絶してるだけ。

 次、現状把握。
 エルクの頭痛――たぶん『転移酔い』――が収まってきた所で、エルクとアルバが連携して発動する強力版『サテライト』を使い、ここがどういう所なのか調べる。

 結果……やはりというか、ナーガの迷宮と似たような、遺跡のようなダンジョンだという事がわかった。天井から床に至るまで全てが石造りで、見た感じ相当古そうだ。

 そしてその他にもう2つ……とんでもないことがわかった。

 1つは、この迷宮の広さなんだが……恐ろしく広い。

 エルクとアルバが揃って発動する『サテライト』は、エルクとアルバのスペックが相乗効果をもたらすことにより、かなりの広範囲をカバーできる。
 チャンネルや設定次第で、その広さは変わるけども。

 その広さ、最大で……実に半径12キロ。
 よっぽど大きくない限り、そのへんの町や村を丸ごと探知範囲内に捕えられる……が、

「……!? うそでしょ……これでも、全部収まりきらないの……!?」

 それでもなお、この謎のダンジョンの全容を把握できない。
 半径12kmの円形の探知フィールドでも無理って、どんなダンジョンだ……!?

 何も、その範囲全体に迷宮が広がってるわけじゃなく、余白的な部分も多々あるんだけど、あちこちの通路がいくつも範囲を超えて伸びている……っていう感じだ。
 エルクが僕の頭にも地図を投影してくれてるので、わかる。

 ……まるで、ダンジョンっていうか、1つの大都市みたいな……?

 そして、もう1つの『とんでもないこと』なんだけど……さっきの半径12kmとは別の、それよりかなり狭いけど、周囲の『環境』を詳しく調べることが出来るチャンネルで調べた結果……このダンジョンがどういう立地か判明した。

 ……背筋が寒くなるような事実が、だ。

「……ねえ、エルク、これって……」

「ええ、どうやらここ……海底、みたいね」

 ……転移時の感覚からして、相当な距離を飛ばされたかもしれないとは思ってた。
 思ってたけど……いくらなんでも予想外すぎるだろう、海底とか。

 さっきの12km探知で見つけた『余白』の部分……すなわち、迷路構造とかが何もない部分についてみてみた結果……海水だった。
 しかも、いろんな種類の水棲の魔物が泳いでた。中には、海にしか生息しない魔物も。

 ……つまりこれは、結構な深さの海底に作られた何らかのダンジョンってことだ。

 そして、『環境把握用チャンネル』の最大探知半径は4km。しかし、その最上部で探知している箇所も、まだ海水。
 ってことは……少なくとも水深4km以深であるということ。

 地球の海って、確か深さの平均は約4km、最深部でマリアナ海溝の約11kmだったと思うんだけど……すでにその平均深度だよ、この場所。
 しかも、ここよりまだ下の方にまだまだ余裕で広がってる……ホント何なんだ?

 気になることばかりだけど、移動しないことにはこれ以上の情報は仕入れられそうにないので、ひとまずみんなの回復を待つことに。

 そしてその間にもう1つ、やっておくべきことがあった。

 ☆☆☆

「……私の暗殺を企てたものがいる可能性がある、と。それが、私の部下が拘束されている理由か」

「そーです」

 と、意識を取り戻した王子様に説明。
 その横では、王子様の部下さん達のうち何人かが、ロープで後ろ手に両手を縛られて拘束され、胡坐で座らされていた。

 拘束されてるのは全員じゃない。あくまで、あの時聞こえた『声』の主である可能性がある人だけだ。

 あの声は2人とも男だった。だから、女の部下さんは除外。その他、何度か話して声を覚えてて、記憶の中にある声と違うと断定できる人も除外してある。

 そして、残る容疑者を拘束したわけだけども……

「な、何をいうかっ! 殿下を裏切っただと、我らが!?」

「何を証拠にそんなことを……無礼にも程があるぞ!」

「……あ、この2人だ。よしミュウ、他の人放してあげて」

「はいはいー」

 僕の合図と共に、『犯人』認定した人以外のロープを、ミュウが手際よく解いていく。
 今、反論する声を聞いて確信した。この2人だ、裏切り者(多分)は。

 他の人の声も聞いてみたけど、声違った。うん。

 念のため、自分の記憶の中から必要な記憶を引っ張り起こす否常識魔法『メモリカバリー』であの時のことを思い出してみて確かめたけど、間違いない。

「……この2人が、裏切り者だと?」

「いや、裏切り者っていうか……何かの思惑で王子様とその側近の人達を殺そうとしてたみたいですよ? しかも……魔物に襲わせる、って形で」

 さっきの会話の内容からして、そんな感じだった。

 この2人は、いわくところの『天地がひっくり返っても勝てない強さの魔物』との戦いで王子様とその側近達が死ぬ、っていうシナリオを予定して動いてたようだ。
 しかし、予定外のことが2つ起こって焦っていた。

 1つは、僕という急遽雇った護衛のせいで、勝っちゃいそうだったこと。
 もう1つは、自分達も一緒に殺されそうになったこと。

 そんな中、今度は……これは未だに理由がわからないんだけど、彼ら2人を含め、王子様チーム全員が戦闘中に突然倒れて行動不能に。

 ……この2人を巻き込む巻き込まないはともかく、どうやら誰かが何らかの目的で、いくつか謀略を講じて王子様を暗殺しようとしてたのは、確かだと思われる。

 その方法を、わざわざ魔物を使ったものにした理由は知らんけど。

「っていうのが当方の見方ですけど……何か心当たりあります?」

「……ああ、ある」

 ……あるんだ?

「だが……すまない。詳しく話すわけには行かない。一身上の都合でな……この2人のことは、我々に任せてくれないか? 身柄はこちらで預かる。後始末も、こちらでする」

 ちらっ、と王子様が部下達に視線を向ける。

 僕も同じ方を見ると、残りの裏切ってない部下さん達が、何やら深刻そうな顔色でこくりと頷いていた。
 何人かはその後に裏切り者2人に視線を向け、キッと睨んでいる。

 その状況に、2人はこれから自分たちがどうなるのか頭に浮かんだんだろう、その顔色は青くなっていた。

 ……まあ、内輪の揉め事は内輪で処理してほしいとはこっちも思うし、それでいいんだけど……

「……でもまず、ここから町に帰れるかって所が問題ですよね」

「それは確かにそうだな。見たところ、遺跡か何かのようだが……転移させられたのか?」

「みたいです。全員、この部屋に。ただ、この部屋から元に戻れるかって聞かれると微妙で……魔力的な痕跡はあるんで、さっきからちょっと調べてはいたんですが……」

 こっちから向こうに戻る術式は無いのか、はたまたあっても機能不全なのか……全く何も起こらない。今現在、あの岩場に戻る手段はつかめていない。

 そもそも、一体何が原因であの岩場にあった転移魔法陣が発動したのかさえわかってないんだった。それがわかれば、多少ヒントになるかもしれないんだけど。

 『ブルーベル』の町にも、そしてあのあたりにも少なからず足を運んだことがあるらしい王子様や部下さん達も、あんなものがあったなんて知らなかったらしいし……本当に得体が知れないな。この遺跡もろとも。

「手がかりなし、か……この部屋から逆戻りする方法も見つからないし、別ルートで帰ることを考えた方がいいか……?」

「でもさっき『サテライト』で見たとおり、ここ相当広いダンジョンよ? 出口見つけるのに何時間、いや下手したら何日かかるか……それに見つかっても、何十km歩けばたどり着けるのかも全然想像つかないわ」

 と、エルク。次いで、義姉さんやナナ、ザリーも苦言を呈する。

「ていうか、そもそも出口があるのかどうかも微妙よね。転移で外と繋がってるってことは、必ずしも外に通じる『普通の出入り口』がある必要は無いわけだし。仮に転移での出口があったとしても、見つけるのは相当難しいでしょーね……」

「仮にあったとしても、半径12kmの広域探知でも全容がわからなかった巨大ダンジョン……しかも迷宮仕様となると、いったい何十キロ歩けばそこにたどり着けるか……」

「まず『サテライト』で出口を見つけて、ルートを確立させてから進んだ方がいいかもね。場合によっては、数日単位で時間が必要かもしれないな……食料もつかな?」

 ……不安要素は山盛り、か。

 箇条書き風に羅列してみるか……まず目的としては、ここを出たい。
 しかし、出口がわからない。
 そこへ行く道筋も、広すぎ&複雑すぎてわからない。
 というか、出口があるのかわからない。
 あるとしても、それが普通の出入り口か、それとも転移魔法の出入り口かわからない。

 ……どないせえっちゅーんじゃ。

 何か行動を起こさないことには始まらない、ってのはわかるんだけど、その起こす行動を選択するのに必要な情報がそもそも足りない。そしてそれを得る手段がない。

 とはいえ、何もせずじっとしててもそれこそ何も変わらない、か。

「……まずエルクとアルバの『サテライト』を使って、迷宮の全容を把握することから始めよっか。端っこの部分が見つかって、そこに出口があればそこをめざすとして……なかったらその時考えよう」

「それなら、エルクちゃんとアルバちゃんは別行動にした方がいいかしら? それなら二手に分かれて、別々の場所でそれぞれ『サテライト』で探れるし……あーでも、2人そろってないと範囲狭くなっちゃうんだっけ」

「そうね。魔物とかの危険性の問題もあるし、ここはまとまって……って、そういや魔物の探知はしてなかったんじゃない?」

 あ、そういやそうだ。広域把握と環境把握だけで、魔物がどこにどのくらいいるかとかの分布って見てなかったっけ。

 エルクに目配せして、とりあえず近場のその状況を知るべく『サテライト』を……ん?

 7人の脳内に同時に表示されたその情報に、全員の視線が同じ方へ向けられた。

 そこは、この部屋の入り口付近。そこにいつの間にか魔物が出現していた。

 見えた影は人型、一瞬ゴブリンか何かかと思ったんだけど……よく見ると違った。

「人型の……スライム?」

 ゲル状の体が縦に伸び、そこからさらに頭と両腕っぽい部分が伸びている。
 足までは形作られておらず、下半身(……って言っていいのか?)は不定形のままで、スライムらしくずるずると滑ってきている。

 顔は当然のごとく目も鼻も口もないのっぺらぼうフェイス。ギリギリ人間に見えなくもない、って程度のお粗末な人型でしかない。小学生が粘土で作った工作みたいだ。

 ただまあ、見たことも聞いたこともない魔物ではあるので、気にはなる。
 強そうには見えないけど……見た目でそう決め付けるのは危険だし。体液が強力な酸性だったり、普通に強いなんてこともありうるだろうし。

 その謎のスライムは、顔がないからわかりづらいけど、こっちに気付いたらしく、人型の体を向き直るようにこっちに向けた、

 すると、スライムの手(?)がぐにーっと手が伸びて変形したかと思うと、それは剣のような形に変わった。
 ああやって戦うのか、ちょっと面白いな……なんて僕が思ったその時、

 
 矢のような凄まじい勢いと速さで、人型スライムが突っ込んできた。

 
「「「!?」」」

 見た目からは想像もできない、その突然すぎる攻撃に驚き、反射的に僕は『ジャイアントインパクト』で迎撃していた。

 衝撃波が直撃……したと思ったら、なんと直前で察知したらしい。
 このスライム、横に体をひねってかわそうとした。

 でもかわしきれなくて体の右半分が吹き飛ん……ほとんど飛び散らない!?

 粘性がよほど高いのか、かなりの威力のはずの衝撃波でも破壊されなかったそいつは、ほんの数滴だけしか体を飛び散らせず、残りは衝撃で破けるように変形しただけで……すぐにぐにゃりとうねってもとの人型に戻った。

 ひるんだのもほんの数秒。再び剣に変形させた手で斬りかかってくる。

 袈裟懸けに振り下ろされたその一撃を横に飛んで避けると、今まで僕がいたところに、シェリーとナナの火炎弾と魔力弾が殺到してスライムに直撃するも……どちらも効果はほとんどなかった。

 シェリーの炎は効いた様子すらなく、ナナの弾丸は貫通こそしたものの、さっきと同じようにすぐに体が元に戻って穴はふさがった。ダメージ……無いな。

 今の一撃で警戒すべき敵が複数いることに気付いたらしい、スライムは今度はナナとシェリーの方を向いた……って何やってんだ!?

 スライムの背後(?)から、王子様の部下さんの1人が「うおおおおっ!」と雄叫びを上げながら切りかかっていた。ちょっと待てあんた、そんな安易に……。

 気合と共に振り下ろした部下さんの剣は、スライムの体に刃が食い込んだ瞬間……その部分がキレイに解けてなくなった。ろくに変形もさせられずに。

 だいぶ短くなった愛剣を、そして無傷のスライムを前に驚きを隠せない部下さんはそこでうかつにも硬直してしまい……スライムがゆっくりと振り向き、その手を向けたことに気付かなかった。

「バカ者、ぼけっとするな!!」

 が、その手が槍のように長く、鋭く伸びて部下さんを貫く直前、横から王子様が手を伸ばしてその襟首をつかんでひっぱり、間一髪その一撃から逃れさせた。

 しかし……その槍の射線上には、もう1人いた。
 さっきから捕縛したままの、裏切り者2人のうちの1人が。

 スライムの槍はそいつの胸を貫いて背中に抜け……同時に、先端部が幾重にも別れてイソギンチャクの触手のようになり、今度は背中側からそいつの体を丸ごと包み込んでしまった。なんか、当然のように体積まで変わってるように見える。

 半透明の粘液球に飲み込まれた裏切り部下その1は、声にならない悲鳴を上げながら溶かされ……数秒で跡形もなく消滅した。
 肉体どころか、魔法金属製のはずの鎧すら影も形もない。全部溶かされたのか。

「ひ、ひいいぃぃぃいいっ!」

 それと数m横で見ていたもう1人の裏切り者は、恐怖に顔を歪ませて情けない悲鳴をあげていた。縛られているせいで上手く立ち上がれず、必死で這ってそこから離れようとするが……悲鳴がまずかったのか、スライムの手が今度はそいつに突きつけられる。

 が、それが伸びるより早く……スライムの体に大量の砂が吹き付けて包み込んだ。
 ザリーの『ドライカーペット』だ。敵の水分を一瞬で奪う『否常識魔法』。

 乾燥に弱い魔物や、スライムみたいな体のほとんどが水分の魔物には致命的なダメージになる魔法攻撃……のはずなんだけど……

(……やっぱし効いてないか……)

 砂嵐が晴れるとそこには……大して体積を減少させた様子もなく、ノーダメージで普通にスライムが立っていた。

 打撃斬撃はもちろん、火炎や魔力弾、砂魔法でもダメージなしって……こいつどうやったらダメージ与えられるんだよおい。

 しかしそんなことを考える時間を与えてくれるはずもなく、スライムは今度はなんと……わきの下のあたりからもう2本腕を生やしていた。

 アレ全部別々の方向に伸ばされたりしたらさすがに厄介だな……死人が出る。

 その時、スライムの上空から何十本もの光の槍が降り注ぐ。
 上空……ってことはアルバか。ナイスアシスト。

 瞬く間に蜂の巣になり、原型をなくすレベルにまで破壊されるスライム。
 どうせまた再生するだろうけど……と思ったその時、

 その粘液が散乱する中に、きらりと光るものが……

「見っけ!」

 それがこのスライムの『核』だということに気付いた瞬間、僕は『リニアラン』で飛び出していた。空中に散っているスライムの破片の中を強引に突破し、それを掴み取る。

 粘液に触れた僕の肌が、僅かにだが痛みを感じて赤くなっていた。
 それ以上溶けるようなことはないみたいで問題ないけど……EBで強化した僕でも痛みを感じるレベルの酸か。そりゃ鎧程度軽く溶かすわけだわ。

 手の中に収めた『核』は……ガラス玉みたいにほぼ完全な透明の玉だった。
 そういや、さっきまでスライムの中に核見えなかったっけ。この透明度なら納得だ。

 バキン、と音を立てて握りつぶすと、核を中心に再生しようとしていたスライムの欠片達は……どろりと解けて崩れ落ちた。

「……倒した、のか?」

「ええ、多分」

 恐る恐る、といった感じに聞いてくる王子様にそう答えを返すと、兵士さん達ともどもほっとしていた。

 が、僕ら『邪香猫』の間に流れる空気は依然としてぴりぴりと張っている。

 ……さて、倒せたのはいいとして……今のスライム、果たしてこの謎のダンジョンではどんな位置づけの魔物なんだろうか?

 低く見積もってもAAランクは確実にありそうな強さだった。あんな魔物、野生にはそうそういない。『グラドエルの樹海』にも、1、2種類いるかいないかだ。

 あのスライムが、このダンジョンでも特に強い部類の魔物だとか、ボス級の敵だとかいうんなら問題ない。そんなのにいきなり出くわした僕らの運が悪かっただけだ。

 ……が、もしこのダンジョンが、あんなのがうじゃうじゃいるような場所だとすれば……やばいなんてもんじゃないぞ、今のこの状況は。

「……まずは移動かな?」

「そうね。ここで入り口一つしかないから、群れなんかに来られたら袋のネズミだわ。エルクちゃんのサテライトでこのあたりの構造と魔物の分布を見ながら進みましょ」

 義姉さんの提案を全面的に採用することにして、僕らは王子様たちと共に、少しでも安全な場所を……できれば出口を求めて、このダンジョンを進むことに決めた。

 
 ☆☆☆

 
 なんて思考が甘いにも程があるものだったことを、十数分後に僕らは知った。

 嫌な方の予想が、予想以上に最悪な形で的中してくれやがったのである。
 このダンジョン、やっぱおかしい。

 歩き始めてから数分で、避けようがないルートで進んできた魔物と鉢合わせになっちゃったんだけど……そこで出くわした魔物がとんでもない奴で。

 いや、強さもそうなんだけど……それ以上に、見た目が。

「何でロボット!?」

「え、ミナト何か言った!?」

「いや何でも……つか何アレ!? 魔法生物!? ゴーレム!?」

「『デストロイヤー』よ! ったく、まさかこんなのがいるなんて……いよいよマジでやばいわこの遺跡、一刻も早く脱出しないと全滅する!」

 今僕らが相対しているのは……身の丈5mにもなろうかという鋼の巨人。
 ていうかむしろ、ロボ。

 そこまでメカメカしい感じの部品とかが見えるわけじゃなく、割とスマートな見た目だし、甲冑とかゴーレムにギリギリ見えなくもない……気がしなくもない。

 しかし、頭についている単眼が『ピコーンピコーン』と点滅しながらこっちを睨んでおり、動くたびに『ウィーン、ガシャン』って音が体から……やっぱロボットだろコレ。

 背中にスラスターみたいなパーツついてるし、黒い機体のあちこちに走ってる青いラインとか発光してるし、持ってる剣と盾も同じ感じだし。ロボットアニメの装備っぽい。

 ただまあ、同時に魔力を感じるから……間違いなく魔力で動いてる魔法生物ではあるんだろうけどさ。

 ……って、思い出した! あの魔物、師匠の所で見た資料にもあった! 資料のスケッチ雑だったからわかんなかったよ見ても……師匠が描いたんじゃないらしいけど。

 そしてアイリーンさんの『リスト』にも名前が載ってた魔物……『デストロイヤー』!
 特定の古代遺跡にのみごくまれに主没する魔法生物系の魔物で、ランクAAA!

 こんなのといきなり出くわすとか、やっぱこのダンジョンの危険度って……

 そんな僕らの動揺なんぞ知ったことではないといわんばかりに、『デストロイヤー』は右手に持った剣を振り上げ……僕の頭上に振り下ろす。

 横に跳んで回避し、守りの方は皆に任せて……石の床を蹴って一気に接敵する。
 同時に後ろから、ナナと義姉さんが魔力弾で援護射撃してくれた。

 殺到する魔力弾の豪雨を、『デストロイヤー』は左手の盾でガードした。
 広い範囲に広がって放たれたせいで、何発かは防ぎきれずに足とかに当たってたけど、大して応えた様子は無い。さすがはAAAランクってことか。

 が、このほんの一瞬の隙があれば……十分。

 スライディングの要領で足元まで来た僕は、迎撃のために再度振るわれた剣を、今度は拳ではじいて上に逸らし……盾がガードのために割り込んでくるより先に、懐に飛び込んで……んん!?

「「「!?」」」

 僕の拳が、『デストロイヤー』の胸部装甲を叩き割らんとしたその瞬間……『サテライト』のマップ上に、いきなり別な反応が現れた。
 さっきまで何もなかったところに……いきなり。

 しかも、位置はコイツの真後ろだ、近い! そしてこの反応……同じ『デストロイヤー』か!? いきなりなんで!? 転移でもして現れたのか!? でもそんな気配も……

 と、それに驚いて一瞬硬直してしまったのがまずかった。
 はっとした瞬間、下から『デストロイヤー』が僕に膝蹴りを当てて天井に蹴り飛ばす。

 ドガッ、とすごい音を立てて石造りの天井に激突した僕は……手で支えたおかげで、なんとかめり込まずにすんだ。

 しかしそこに突き出される追撃の突き……は食らっちゃたまらないので、天井を蹴って飛び降りつつ避ける。

 と、その瞬間……相手をしている『デストロイヤー』の背後が上から見えた。
 そこには……もう1体のデストロイヤーが、同じように単眼を『ピコーンピコーン』と光らせてスタンバイしている……うわ、最悪の光景。

 と、そのさらに向こう……壁の所に、ふと目が行った。

 そこには、壁に一体化してるというか、埋め込まれるような感じで配置されている石像みたいなのがあって……って、あの形ってまさか……

 すると次の瞬間、その石像の顔部部分についている宝玉が『ピコーン』と光り……同時にその身を覆っていた石膏なんかが剥がれ落ちる。
 そして、『起動』して壁から出てきたのは……『デストロイヤー』。3体目だ。

 直後、『サテライト』に反応が出現……位置から見て、今起動したアレだ。

 ……なるほど……こいつらこのダンジョンのあちこちに、あんな風に石像みたいにしてスリープモードで眠ってるのか。その間は、サテライトにも映らない。

 で、侵入者が近づいたり、近くで戦闘が起こったりすると……起動するらしいな。いきなり反応が現れたのはそのせいってわけだ。

 納得しつつ、剣を再び振るおうとする、一番近く……というか真下にいる『デストロイヤー』の肩口に着地。
 そしてその頭に……ぎゅるっと体を勢いをつけて回した上での、渾身の回し蹴りを叩き込む。

 単眼の顔面に直撃した僕の足から、同時に練り上げた魔力を変質させた爆炎が放たれ……蹴りの威力と合わさって、見事にその頭部を消し飛ばした。

 ……地球のアニメとかのロボットだと、コクピットや動力炉がそこにない限りは、腕や足、それこそ頭部とか吹っ飛んでもそのまま戦い続けられるもんだけど……こいつはファンタジー性重視なのか、頭が消し飛んだら機能停止して倒れた。

 念のため油断せずに構えてたけど……よし、これで一体。

 ……まだあと2体いるけど……ってまた増えたよおい!
 壁から出てきた。しかも今度は2体同時……しかも前後に挟み撃ちちっくに出てきた。

 おいおい……まさかこの迷宮どこ行ってもこんな感じなんじゃあるまいな……? いくらなんでも勘弁だぞ、それ。

 ……仕方ない、前の3体は僕がやろう。『アメイジングジョーカー』でいけば、さほど時間かからずに処理できるはず。負担は……まあ、さっさと済ませれば何とかなるだろ。
 後ろに出てきた1体は……義姉さん達に任せるしかないか。

 ……とか考えながら、ちらっと後ろに出た『デストロイヤー』に視線を向けた……

 …………その時、

 
 ――ド カ ン !!!!!!

 
 とんでもない轟音と共に、後ろに出現していた『デストロイヤー』がいきなり爆発して……消し飛んだ。

「「「!!?」」」

 ……え、何!? 今何が起こったの!? 何も見えなかったぞ!?
 サテライトにも反応なかったし、ホントにいきなり……

 困惑しながら、2秒ほど前まで『デストロイヤー』がいた場所を見る僕。
 しかし、そこには今は土埃がたちこめるばかりで他には何も……と思った次の瞬間、

 その土煙の向こうから、すごい勢いで2つの影が飛び出した。え、今度は何だ!?

 僕の動体視力でも捕えられない速さで、僕らの横をすり抜けていった2つの影。

 それを追って振り向くと、そこには……おそらくは今の2つの何かによって、一瞬のうちに破壊されたデストロイヤーの残骸が転がっていて……

 その向こうに、それをやったのであろう犯人が………………あれ?

「わんわんっ!」

「にゃ~お」

 …………え? あれって……

 その『2つの影』の正体を視界にとらえたことで、きょとんとしている――そうならざるを得ない状態の僕。

 その僕の頭に、ぽすっ、と誰かの手が置かれた。

 そして、

 
「やーれやれ、久しぶりに会ったと思ったら、なかなか面白いことになってるみたいじゃないの。てか、何か装備豪華になってるし……背もちょっと伸びた?」



 ……聞き覚えのある声が、すぐ隣から聞こえた。

 その声を聞いて、何かを考えるより前に、自然と体が動く。
 後ろを、声のした方を振り向…………あれ、振り向けない?

「ふっふっふ、振り向けまい。鍛え方が足りないわね、この程度の握力で首が動かなくなるだなんて」

「……久しぶりの再会だってのに、現在進行形で何を意味わかんないことしてんの?」

「そっちこそ、久しぶりの再会だってのに現在進行形で何を意味わかんないことに巻き込まれてんのよ。しかもここ『ネガの神殿』じゃない。またけったいなとこに迷い込んで……このトラブル体質誰に似たんだか」

「あなた以外にありえないと思いますけどね……」

 と、義姉さんの引きつった声。多分顔も引きつってる。

 同時に頭をつかむ握力が緩んだので、すかさず振り向くとそこには……予想通りの人物がいた。

 しなやかに引き締まり、同時に女性的な部分はきっちり出ている健康的な体。
 長い金髪、尖った耳に緑色の目、100人が100人振り返る美貌。

 すっと出した手に、舞い降りてきた金色の大きな鳥が止まり……いつもの姿に。

 ……うん、どうやら何も変わってないみたいだな、この人。

 

「あー……久しぶり。母さん」

 

 
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