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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第150話 二転三転する戦場

お待たせしました。
今回、長くなったので2話に分けました。

第150話と151話、一挙2話更新します。どうぞ。
 

 がちん、と、
 僕の顔の横30cmくらいのところで、ディアボロスの牙が噛み合って……すごい音がした。

 首から上を食いちぎったつもりだったけど、さっとかわされていらだったのか……短くひと吼えしてまた噛み付いてくる。

 それもかわされると、今度はその真紅の爪や尻尾を振り回して怒涛のラッシュ。その中やっぱり噛み付きも交えてくる。

 その猛攻を僕は、体をひねってかわしたり、手甲・脚甲で防御してさばいていく。

 ただし、大きく避けたり、飛びすさって後ろに下がったりはしない。
 後ろに、守らないといけない対象がいるからだ。王子様と、その部下たちが。

 それを考えると、この状況は好都合でもあり、不都合でもあり……。

 相手は4匹もの『ディアボロス』……の原種。Sランクの強さを持つ魔物であり、人間に近い体の形と背丈と、驚異的な身体能力を併せ持った小回りの聞効くタイプの龍。

 ただし見た感じ……こいつらまだ子供らしい。攻撃を受け止めた時の感触だと、膂力は『花の谷』で戦ったアレよりも下だ。戦闘力は……せいぜいAA~AAAってとこか。

 僕にとっては、さして大きな脅威じゃあない。セレナ義姉さんやシェリーも大丈夫だろう。2人とももともと接近戦は得意だし、シェリーにはエルクがサポートについてる。

 メイン戦闘員4人のうち、ナナだけは接近戦やや苦手だけど、地力がしっかりしてるからかわしながら戦うのは難しくない。

 加えて、ザリーが砂魔法で、ミュウが召喚術でサポートしてる。
 特にミュウが加勢させてるのは、ミシェル兄さんに頼んで契約させてもらった『デスジェネラル』だ。こいつを前衛に据えてるから、むしろおつりが来る。

 と、いうわけで……AAA×4が相手のこの状況でも、問題なく対処できている。
 多分、このままこいつらを全滅させることは、そう難しくないだろう。

 なのになぜそうしないのかというと……他に特大の不安要素があるからだ。

 こいつら『ディアボロス』の生態については、以前、アイリーンさんや師匠から簡単に聞いたことがあるんだけど、その知識に照らして、今のこの状況は少々おかしい。

 『ディアボロス』は通常、群れを作らない。
 まだ成体にならないうちから、親元を離れて1匹で生きていく。縄張りを持たない流浪の魔物として、あてもなく各地を転々としながら。

 事実、僕が昔『樹海』で出会った個体も、『花の谷』や王都近くの狩場で戦ったあの『亜種』も、成体になっていない段階だったけど、1匹で行動してたし。

 しかしこいつらは、群れで行動している。
 4匹が1組になって、僕らを狩ろうとしている。

 『ディアボロス』が本来の修正に反して群れで行動する、いわば『例外』……それは、まだ親元を離れて独り立ちできない子供の時期だけだ。
 その時期だけは、親兄弟と一緒に過ごし、色々なことを学ぶ。敵との戦い方とか、大自然での生き延び方とか、色々なことを。

 見た感じ、そして戦ってみた感じ、はっきりとわかる。
 こいつらはあの2個体よりも体も小さいし、膂力や敏捷性なんかも劣って見える。

 まだ子供の龍とみて間違いないだろう……ということは、だ。

 こいつらはまだ親元を離れていない……つまり、親が一緒にいるはずなのだ。
 Sランクの戦闘能力を持つ、成体の『ディアボロス』が。

 今のところ、『サテライト』の範囲内にはいないようだけど……もしそれよりも離れた所で見ているのであれば、考え無しにこいつらを仕留めるのは危険だ。
 わが子を殺されて怒り狂って襲い掛かるだろうから。

 そしてその親が、雄or雌の片方だけか、それとも雄雌が揃ってるかによっても、取るべき対応は変わってくる。

 縦横無尽に振り回される真紅の爪を手の甲ではじいてさばきながら、『サテライト』のラインで全員に念話で相談する。

『さてコレどうした方がいいかな? 一旦王子様たちを避難させてから倒す? それとも守りながらこの場で倒す?』

『後者の方がおそらく楽ですが……親の存在を考慮すれば前者がいいですね。ただ、四方を囲まれているこの状況では少々難しいかと』

 確かにそうだな……逃がすっつっても、今ナナが言ったとおり囲まれてる。
 それも多分、偶然じゃない。知能の高いこいつらのことだ……作戦として4匹で包囲したんだろう。

 王子様やその部下さん達の実力は……ランクにしてAやB相当。手練の集団と言っていい。1人2人、AAくらいのもいるし。

 しかし、全員じゃない。Cとかそれ以下の強さの人も混じってる。

 戦ってる最中に、多少の隙間を作ることくらいは別に不可能じゃないだろうけど……その、僅かな時間しか空いてないであろう僅かな隙間で、王子様たちを逃がせるか。

 ……難しいだろう。確実に何人か逃げ遅れる。

 それに、この包囲網を脱出した後がむしろ問題だ。仮に親がいると仮定した場合……逃がした後にその親が王子様たちを襲う危険もある。

 だから王子様を護衛しつつ町まで送るのが一番いいんだろうけど……親がいるとすればそいつは間違いなくSランク。このメンバーの中でも、相手取れるのは自分くらいだろう。

 しかもその場合、ここにいるAAAランク相当の子供ディアボロス4体は、僕を除いた6人と1匹で相手をしなきゃいけないわけで……割とギリギリだろうな。

『何にせよ、まずは親の有無を把握する所からだね……エルク』

『おーけー』

 念話での返事と共に、エルクは『マジックサテライト』の探知範囲を最大限に広げていく。遠く離れた所にかくれている魔物がいても、見つけられるように。

 すると……Oh。

『……悪い方の予感が当たったか』

『まあ、父母がそろってないだけマシでしょ』

 いた。でかいのが。
 ここから南西に数百m行った所の、岩陰であり木陰でもある場所……そこに、おそらくはこいつらの狩りを見守っているんであろう、親の龍と思しき反応が。

 ディアボロスの身体能力なら、この距離を走破して戦闘に参加するのに……まあ、まず30秒かそこらだろう……子供を殺したらそうなるな。

 けど、1匹だけなら……なんとかならなくもない。
 時間をかけられるわけでもないし……やるか!

 念話で合図……と同時に、僕の右手を黒い電撃が覆う。

 直後に大上段から叩きつけられた真紅の爪を受け止めると、僕は一歩踏み込んで子ディアボロスその1の無防備な胴体に、横凪ぎに手刀を走らせた。

 師匠の所で修業し、さらに出力を上げた僕の『エレキャリバー』。斬り刻む黒い電撃を纏った右手の一閃は、龍とはいえ未成熟だったその体を上下に両断した。

(よーしもう引き返せないぞー……これで多分……)

 直後、こいつらの生命力が尋常じゃない高さだったことを思い出す。

 これで絶命したかどうかは微妙なので、追い討ち気味に縦にもう一発。
 『エレキャリバー』の手刀で脳天から腹までを両断。これでいくらなんでも死んだだろう。脳もきっちり真っ二つになってるし。

 と、兄弟(多分)の1匹がスプラッターになって死んでしまったのを見て驚きに固まったのを好機と見た義姉さんが一歩踏み込む。同時に、剣に流れる魔力が最大に。

 横一文字に振るわれたクレイモアは、固まったまま戦闘復帰できていないディアボロスその2の頚部を正確にとらえ……見事に標的の首と胴体をサヨウナラさせた。

 鬼の生命力を持つディアボロスも、さすがに首を斬られては生きてはいられないようで……ぴくぴくと数秒震えた後に胴体が倒れる。
 が、その前に義姉さんが遠くに蹴っ飛ばした。

 首の方は、勢いよく斬られたからか、結構遠くの方に飛んでいったみたいだ。

 残る2匹も、一気に反撃に転じたシェリーとナナが押してる。
 徐々にシェリーの剣が、ナナの弾丸と『デスジェネラル』の剣が敵の鱗を、肉体を削り始めた。

 数秒の間を置いて、第五王子様たちは今起きた出来事をようやく消化できてきたらしい。

 『念話』を貰ってなかったがゆえに戦況を正確に把握できず――絶体絶命だと思ってたんだろうなあ。明らかに『サラマンダー』より強い魔物4匹に囲まれてるし――ぽかんとしてた表情が、瞬く間に僕らが2匹倒したことで歓喜へと変わっていく。

 中には驚いたままの表情の人もまだいるけど、おおむね……

 
 ――ギュォオォォォァァァアアアアッ!!!!

 
 ……来たか、やっぱり。

 『獲物に返り討ちにされるような軟弱な者など我が子にあらず!』とか武闘派な考え方だったらありがたかったんだけど、普通に子供はかわいいらしい。

 気持ちはわからなくもないんだけど、だからってその子供が成長するための狩り演習の獲物役なんかやらされちゃたまらない。正当防衛だこのヤロー。

 ……来た来た。子供を殺されてお怒りの親が殴りこみに来た。

 つか凄まじいくらい足速いな。岩場をチーターみたいな速さで走ってくる。
 もう目視できるくらいまで来てるよ。

 一難去ってまた一難的な状況を把握した王子様たちが驚く声を聞きながら、僕はそいつと真っ向から向かい合う。

 目に映るのは、緑色の巨体。

 アイリーンさんに聞いてた通りだ。全高3m以上、尻尾合わせると6m超えそう。
 見るからに強靭な肉体は頑強そうな鱗に覆われ、剣だろうが斧だろうが傷つけるのは用意では無いと一目でわかる。

 見た目は、まんまあの『亜種』の色違い。鱗が緑で、爪と角は真紅……今まで戦ってたあれをより大きく、禍々しく成長させた感じだ。

 2度目に『亜種』と戦ったときみたいなオプションパーツ(?)は別に何も見当たらないけど、それでも見た目の威圧感は十分すごいといっていい。

 弱い奴なら、視界に入っただけで絶望して動けなくなるくらいに……っと、考えてる暇なさそうだな。
 トップスピードのまま突っ込んでくる。だいたいあと3秒、2秒、1秒……

 瞬間、目にも留まらぬ速さで親ディアボロスの爪が、僕の頭を吹き飛ばすコースで振るわれ……しかし僕はそれよりも早くその腕をつかんで体をひねる。

 その勢いを利用して回るように動き、背負い投げの要領で……しかし半回転じゃなく一回転して、ディアボロスの巨体を投げ飛ばした。突っ込んできたのと同じ方向に。

 しかし、さすがSランクの龍族とでも言うべきか……地面に叩きつけられたものの、即座に体勢を立て直してこっちに向き直っていた。

 叩きつけられたのは岩場で、勢いは自分が突っ込んできたスピード+僕の投げの合算だったってのに、丈夫な奴だ。

『うっし……じゃ皆、あと任せた。僕はコイツを処理するから』

『『『了解』』』

 念話でそう伝え、僕は目の前の緑色のオオトカゲに集中することに。

 相対してみると……やっぱりというか凄まじい威圧感だな。

 でもまあ、黒ディアやウェスカー、師匠や母さんほどじゃない。そこまでの危機感は感じないな。……比べる対象が悪い気もするけど。

 一対一だし、『パワードアームズ』も要らないだろう。

 さっさと倒せるなら倒すし、てこずるようでも引き付けておいて隙を作って、その間に王子様たちを逃がせばいい。

 子供の方のディアボロスも4匹から2匹に減らしたし、そのくらいの隙は簡単にできるだろう。その隙に王子様たちを逃が……

 
(お、おいどうするんだよ、予定と違うぞ!?)

(あ、ああ。このままじゃ勝っちまう……天地がひっくり返っても勝てない強さの魔物だって聞いてたのに……)

(つーか、明らかに俺達ごと死ぬところだったじゃねーか! 死ぬのはエルビス殿下とその側近だけじゃなかったのかよ!)

(っ……! あの狸ジジイ共……まさか最初から俺達を捨てる気で……!)

 
 ……そうと思ったら何だか不穏な会話が聞こえたよおい?

 音量としてはひそひそ話レベルだから、僕以外には聞こえてないかもしれないけど……臨戦体制で感覚研ぎ澄ましてた僕の耳にはばっちり飛び込んできた。

 おい、何だ今の。めっちゃ陰謀臭がするぞ。

『……予定変更。王子様たち逃がしちゃまずそうだから、逃がさないようにやろう』

『『『え?』』』

 説明は……戦いながらやりますか。

 直後、真紅の角で僕を串刺しにしようと突っ込んでくるディアボロス。

 かわすとその角は頭ごと岩場に激突。しかし、当然のように岩肌の方が砕ける。

 削岩機みたいだ。あまりの威力に岩が砕けて飛び散って、『刺さる』という状態にすらならなかった。

 ガリガリと角で岩を削りながら振り向き、こっちに顔を向ける……と同時に、尻尾が大きくしなって襲いかかってきた。

 今度は避けずに受け止めると、その場で僕は勢いよく回転して、今度はさっきと違って力ずくで投げ飛ばす。振り回され、またしても岩場に叩きつけられるディアボロス。

 しかしやっぱりすぐに起き上がると、今度は接近戦で僕を切り刻むことにしたらしい。

 素早く踏み込み、僕の体を引き裂こうと、骨を砕こうと、長く力強い腕を振り回す。

 小動物なら風圧だけでふっ飛びそうな威力だ……さすがSランク。鉄や鋼の鎧なんかじゃあってないようなもんだろうな、この分だと。
 振りぬく速さも凄まじいし……常人なら死を悟る前に木っ端微塵だなこりゃ。

 まあ、見えるし、止められるけどね。僕は。

 勢いよく振るわれるその腕の一撃を、爪に触らないようにして腕の部分をつかんで受け止め……懐にもぐりこんで拳を一発。

 上向きに叩き込んだその一撃でふわっと浮き上がる巨体。
 心なしか、若干息も詰まったように見える。

 そこに……上段の飛び回し蹴りを叩き込んで50mほど蹴っ飛ばす。

 そして、例によってディアボロスが体勢を立て直すより前に、鋭く踏み込んで距離をつめ……視線すらこっちに向かないうちに追い討ちを叩き込む。

 地面でバウンドしてる最中のディアボロス……その顔、顎の部分を手でつかみ、地面に叩きつける形で押さえ込み……その手に魔力を集中させていく。

 集中させながら性質を変換させ……『土』と『火』の魔力を混ぜ合わせる。
 手元に生み出されるのは……凄まじい熱量と爆発。イメージして、解き放つ!

「『イラプションブレイク』……爆ぜろ!!」

 火山の噴火をイメージして作ったこの技。僕のイメージどおりに発動し……練り上げられた2種類の魔力によって、僕の手元で爆発を起こす。

 顔面にそれを受けたディアボロスの怒号、もしくは悲鳴すらかき消して、岩場を丸ごと揺らすレベルの一撃が確実に決まった……と思った瞬間、

 僕の視界の端に……王子様やその護衛の兵士達が、ばたばたと倒れていくのが見えた。

「――!?」

 何だ!? 何が起きた!?

 攻撃……いや違う、されてなかった!
 戦場一帯はエルクの『サテライト』が常時カバーしてる。それを使って僕らは常に、目視でほどじゃないけど、戦況をきっちり把握しながら戦ってる。

 だけど、どこからもどんな攻撃も飛んできてなかった。他の魔物がいる気配もない、

 ディアボロスはうちのメンバーがきっちり対応してたし、連中の使える遠距離攻撃なんてあの咆哮ぐらいだ。

 バージョンアップ版の亜種は衝撃波も使ってたけど、こいつらは使えるのか知らん。

 どっちにしても大音量の咆哮を伴う。あんなもん使えば気付く……ってかそれ以前にミュウが障壁展開してるんだから、外部からの攻撃なんて通らないはず。

 じゃあ、毒か何かが風に乗って……いや、それも考えにくい。
 王子様たちに対しての風上は、僕が戦ってるこっち側だ。魔物にせよ人間にせよ、そんなもん散布すれば僕が気付く。

 そもそもミュウとアルバが使ってるバリアは、そういうのも警戒対象に入れた上で僕と師匠が共同開発した『否常識魔法』だ。風の魔力で、空気散布の毒すらはじく。

 それこそバリアの内側、超至近距離で散布でもしない限り毒なんて……っと!!

『ガアアアァァアアアアッ!!!』

 2秒ほど不覚にも思考に没頭してた僕の隙をついて、ディアボロスが大暴れして強引に手の下から脱出してきた。ちっ、やっぱ生きてたか。

 顔面に爆風と高熱受けといて、思ったより元気だな……やっぱ丈夫だ。

 それでも、やはりというか無傷じゃあなかったらしい。
 顔の左半分は炭化して真っ黒になってる。歯もバキバキに折れてるし、あの分なら目もつぶれてるだろう。

 それでも優位に立ったと油断できないのが、Sランクの戦闘能力って奴なんだけど。

 顔面があんな状態じゃ激痛が走ってるだろうに……相変わらず馬鹿げた生命力だな。
 それとも、子を守ろうとする親ゆえに、か?

 ……どっちにしたって僕がやることは変わらないんだけどもね。

 さっきと全く変わらない速さで振るわれるディアボロスの爪を避けながら、念話でミュウに聞く。

『ミュウ、王子様たちどうしたの!? 大丈夫!?』

『多分大丈夫だと思いますが……かなり苦しそうですね。アルバちゃんと一緒に治癒魔法をかけてますが、効果は薄いようです。原因も何も……』

『私が診ます。少し待ってください』

 途中でナナが割り込んできた。

 ちらっと一瞬だけそっちを見ると、ナナが王子様たちの体……首元や手首、額なんかを触ったり、症状を注意深く見たりして調べていた。
 ……衛生兵の経験でもあるんだろうか。かなり手際いいな。

 子ディアボロスのうちの1匹はシェリーが単独で相手をしてるみたいだ。

 もう1匹は……あ、義姉さんが今縦に真っ二つにした。

 その姉さんはシェリーに加勢に向かったので、もう大丈夫だろう。

 すると、僕が再び親ディアボロスの攻撃を利用して投げ飛ばしたあたりで、ナナから再度念話で連絡……というか報告が入ってきた。

『簡単にですが診てみました。多量の発汗に呼吸の乱れ……人によっては手足の震えや意識の混濁も見られます。ただ、症状が軽い人もいるようですね』

『……毒、かな?』

『断定は出来ませんが、おそらく……』

 と、その瞬間、

『『『っ!!』』』

 ほぼ同じタイミングで、『邪香猫』全員が反応する。
 理由……『サテライト』に新しい反応があったから。

 しかもそれが、けっこうな大きさで……すごいスピードでこっちに近づいてきてるから。

 しかもしかも、え!? 一匹じゃないぞ!?

(おいおい、これってまさか……)

 直後、僕らは……茂みから飛び出してきたそいつを目の当たりにした。

 
『ギュァァアアオオォオオオオ―――ッ!!!!』

 
「――っ、やっぱりか!!」

 いたよやっぱり! つがい! 両親揃って子育てしてたか!

 子供達および女房(もしくは旦那)の危機を悟った……っていうか、さっきからめっちゃうるさくして戦ってるから普通に気付いたのかもしれないけど、来ちゃったよもう一匹が! Sランクが!

 そしてその背中に……子ディアボロスがもう1匹!?

 子供もこの4匹だけじゃなかったのか……ってかこの4匹よりちょっと大きいぞ!? 長男!? 巣立ち目前で父ちゃんとマンツーマンで稽古でもしてたのか!?

 まずい……こっちのSランクが片付いてないのに、ここに来て敵方に援軍か! ああもう、『パワードアームズ』でも何でも使ってさっさと倒しときゃよかった!

『ギュアァァァアアアッ!』

「うっさい死にぞこない!」

 つがいの登場に士気が高まったのか、嬉しそうに吼える一匹を殴り飛ばして地面に叩きつける。

 同時に、アイコンタクトだけで義姉さんと意思を通じさせ、僕が新しく来たディアボロスの方に、義姉さんは今まで僕が相手してたディアボロスに向けて駆け出す。

 新しく来た奴は僕が担当する……そんで可能な限り早く倒す!
 その間、手負いの方を姉さんにおさえてもらって、子ディア2匹はシェリーとナナに頼む。そしてこっちが片付き次第そっちも僕が倒す!

 跳びながら、

「『パワードアームズ』!!! 省略バージョン!」

 変身シーンカット版(黒い渦とかなしにパッと装備が出る)の『パワードアームズ』で、一瞬で強化装備を装着。
 さらに『アメイジングジョーカー』も発動しようとしたその時……親の背中から、子供のディアボロスが飛び降りた。

 そして、親と同じように突っ込んでこようとする……ただし、僕に向かってきている親と違い、動けない様子の王子様たちの所めがけて。

 ……ディアボロスって無抵抗な奴には手出さないんじゃなかったっけ……いや、今さらか。子供だし、そのへんの思想(?)が育ってないんだろう。
 親にしても、子供を育てるためならそのへん許容してるっぽいし。

 けどまあ、子ディアの攻撃くらいなら……障壁で防げるだろう。親さえ止めておけば大丈夫だ。たぶん。

 それでも念のために、アルバとミュウに念話で指示してバリアの出力上げてもらおうかな……なんて思った時、そのバリアに守られている1人である、あの女の子が泣きそうになっているのが見えた。

 そう、突然現れて『魔物はいなくなった』と告げたあの謎の女の子である。ついでに、体から爬虫類のにおいがしたあの子である。

 あーまあ、そりゃ怖いよなあ……大丈夫とはいえ、あんな凶悪な見た目の魔物があんなスピードで迫ってくるんだから……。

 トラウマにならなきゃいいんだけど、と思ったその時、女の子は恐怖も限界に達したのか……目に涙を一杯に浮かべて、大声で叫んだ。

 

「いや、そんな……助けて……助けて、ゼットぉおお――――っ!!!」

 

 そんな悲痛な声が響いたその時、信じられないものが視界に飛び込んできた。

 親子ディアボロスがでてきたのとはまた別の茂みから、目にも留まらぬ速さで何か黒い影が飛び出し……そのまま突っ込んで、2匹とも弾き飛ばした。
 まるで車で撥ねたかのように。ドカッと。

 僕でさえとっさのことで輪郭すら捉えられなかったそれは……

「…………はぁ!?」

 ――訂正。弾き飛ばしたっていうか……蹴っ飛ばしてた。

 今、茂みから飛び出した……『奴』が。

 ……おいおいおい、なんかまた見た目変わってんだけど。

 人に近い骨格に、長い尻尾。これは前のまま。

 しかし、前はカブトムシちっくだったはずの琥珀色の角は……増えてる!?
 カブトムシはカブトムシでも、コーカサスオオカブトみたいな3本角になっとる!?

 逆に手の爪は……短くなってる。代わりに、指そのものの感じが違ってる。
 指の付け根、第3関節からすでに琥珀色になってて、そのまま外骨格、いやむしろ篭手みたいな感じで指全体が守られてる。逆にもう、爪って感じがしない。

 手の部分の鱗は更に重厚になってるし……ホントに、指だけ琥珀色で指先が長くて尖ってる篭手を装着してるみたいだ。足の指もそんな感じになってる。

 背中の突起も変わらず鋭い上に……尻尾の先端部分が琥珀色だ。黒色だった頃より更に攻撃力上がってるんだろうな……。

 さて、もうお分かりだろう……何が現れたのか。
 ……僕ぁわかりたくもないんだけど。

 
(よりによって、この忙しい時に……なんでお前出てくるかなあぁああっ!?)

 
 ディアボロス亜種……ホントにもう、最悪のタイミングで顔を出す奴だ。

 
 
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