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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第10章 水の都とよみがえる伝説

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第148話 第五王子の依頼

 

 えーと、何々……

『拝啓 ミナト・キャドリーユ殿

 このたび、同盟国の王族であり私の個人的な友人でもあるエルビス第五王子より、Sランクの冒険者であるミナト殿の腕を是非に借りたいとの話を受け、勝手は承知であるが友人の立場からこの様な書状をしたためさせていただいた。

 ついては、この書状を持って来たジャスニア王国第五王子エルビス殿下に対し、格別の配慮をお願いしたい。

 一国の王族であることに加え、真面目で誠実な性格で知られる好青年ゆえ、関係を築いておくことは貴君にとっても今後の冒険者人生の中で大いに助けとなることだろう。

 貴君の将来の主(予定)
 メルディアナ・ネストラクタスより

 
 追伸
 勝手ついでにもう1つ。そろそろ仕官せんか?』

 
「……破りたい。この手紙」

「さすがに色々問題ありますから我慢してください、ミナトさん」

 意外とかしこまった感じの文書で始まった……と思ったらやっぱりあの第一王女様の手紙だったその『紹介状』を読んだ僕の、率直な感想でした。

 ナナに『どうどう』とたしなめられつつ、不本意ながら丁寧に封筒に戻してリュックに放り込む。

 ……今視界の端にある燭台のロウソクの火につけてもやしたら、機密保持みたいにちょっとカッコつけつつ灰にできるかなとか考えた。

 けど、さすがに王女様直筆の紹介状(笑)を粗末に扱うのはまずいらしいし、それを本気で頼みにして持ってきた、目の前に座っているこの王子様にも悪いのでやめておく。

 玄関先で話すのもなんだったので部屋に入ってもらって、応接室もかくやって感じのふかふかなソファがある居間に案内した。

 そこであらためて、彼……エルビス王子が、こんな『紹介状』まで持参して僕を訪ねてきた理由を聞くことに。

「まずはあらためて礼を言わせてくれ。夜分にこのように突然おしかけたにも関わらず、こうして話を聴く場を設けてくれたこと……言えた義理では無いかもしれんが、感謝する」

 会釈。背後の護衛の皆さんも一緒に。

 背筋がピンと伸びて姿勢がいいからか、そんな仕草一つでも様になってるというか……気品とか威厳? みたいなものが感じられる。

 しかし改めて見てみると、ホントになんというか、特徴的な見た目だなこの人。

 短めに切りそろえられた赤い髪に、褐色の肌。中性的で整った顔つきは、まるで男装の麗人のようで……しかしそれゆえ余計に、左目を隠す眼帯が悪目立ち?する。

 髪色の赤は、シェリーの髪の色を『ルビー色』と言うなら、こっちのは『赤銅色』だろうか。若干くすんでる感じの色だ。

 着ている服は、礼服とかの類ではなく……どちらかというと軍服に近いようなそれ。明らかに、パーティ会場で踊ることよりも戦場を走り回ることを主眼に仕立てられている。

 さっき食堂で偽シェリーを取り押さえた時の動きを見るに、運動能力もそれなりに優秀な上、武術の心得も多少なりあるみたいだ。ひょっとして、ネスティアのアーバレオン王みたいにアクティブな性格だったりするんだろうか?

「もう夜も遅いし、食事もこれからの様子。話なら手短に済ませたほうがいいだろうし、さっそく本題に入らせてもらってもいいだろうか?」

「ええ、わかりました。ですが、あくまで殿下にお持ちいただいたお話を受けさせていただくかどうかは、その内容を確認した上で判断させていただきたいと考えておりますので、その点ご留意の上、話す『範囲』にご注意いただきたいのですが。なお、この場における交渉等の内容は、ギルド職員によって公式に記録されますのでご承知おきください」

 こういう時のため、以前からナナやエルクと一緒に考えておいた対応用のセリフ。
 よかった……とちったり噛んだりしないで言えた。

「無論だ。この上、話を聴いたからには……などという姑息な手段に訴えて、ジャスニア王家の名を汚すつもりは毛頭ない。安心してほしい」

 こちらの言いたいことを全て理解し汲み取ってくれたらしいエルビス王子は、では、と改まって話し始めた。

「貴君らに依頼をしたい。内容は……我々がこれから行う、魔物討伐任務への加勢だ」

 
 ☆☆☆

 
 ことの発端は、今から1ヶ月ほど前にさかのぼるんだそうな。

 この第五王子様……のみならず、ジャスニア王国の王族は全員、ある程度の年齢になると王様から領地を与えられるらしい。

 といっても、その理由は別に身内びいきとかそういうんじゃなく……その領地を自分の力で統治することで、統治や政務の能力を磨くためなんだそうだ。

 このエルビス王子もその例に漏れず、この『ブルーベル』の町から見て北西にある『レーリア地方』という場所を自分の領地に持ち、そこを統べる立場にあるそうだ。

 その領地に最近、厄介な魔物が群れで現れて領民の生活や安全が脅かされる事態になったため、領主であるエルビス王子の管轄下の軍を動かして駆除を行ったそうなんだけど……その際に打ち漏らして逃げた魔物が、領地の境目を越えてこの『ブルーベル地方』まで、すなわちこの付近まで逃げてきてしまったらしい。

 そして王子様は、そいつらを追撃し、今度こそ討伐を完了するために護衛と共にここへ来たそうで、その作戦に加勢してほしくて僕らを雇いたいんだそうだ。

「恥ずかしい、というか情けない話ではあるのだが……一応私に出来る範囲で力を尽くして人材を集めたものの、討伐するにはまだ戦力に不安がある。そんな時、かの『黒獅子』がこのジャスニアに来ているという話を聴いたのだ。ちょうどその時、私は別の外交公務でネスティアのメルディアナ殿下と会っていたのだが……」

「なるほど、その時に僕への紹介状をメルディアナ王女に書いてもらって、僕を探しに来たと?」

「そういうことだ。幸運にも、『ブルーベル』付近に滞在しているという話を聴いていたものでな。もっとも、その噂は先ほどの『偽者』のことを指した話だったのだが……本物もこの町に来ていたとは、本当に幸運だった」

 この町に来てから聞き込みを行う中で、どうやらその『黒獅子』が偽者っぽいっていうことはうすうすわかってきていたらしいけど、同時に、噂が2種類あることにも気付いた。

 『偽黒獅子一行』に関する噂と、僕ら本物の『邪香猫』に関する噂の2つが、だ。

 ひょっとしたらと思って両方調べてみた所、どうも一方が本物である可能性が高く、しかもその両方が同じ宿に泊まっているという話だったため、ここをたずねて来た。

 ……て、あの食堂の一件につながるわけだ。

「あの偽者一行に感じては、こちらで厳正に処分しておくゆえ安心してほしい。さて……ここまでで何か質問等はあるだろうか?」

「あ、じゃあ1つ。素人考えかもしれないんですけど……いくら討伐作戦で取り逃がした魔物だからって、領地を超えて逃げた奴らまで追いかけるものなんですか? それも、王子様直々に。その、逃げ込んだ領地の軍とかに任せればいいんじゃ?」

 そう聞くと、なぜかエルビス王子は眉間にしわを寄せ……少し、というかかなり面白く無さそうな顔をした。え、なぜ? 僕今何かまずいこと言った?

 ちらっとナナに視線をやると……あれ、ナナもちょっと戸惑ってる。
 っていうか、意外そうにしてる?
 ……ってことは、別に僕が何かバカやったわけじゃない?

 視線を王子様に戻すと、その顔色というか表情が、『面白くない』というよりもむしろ『ばつが悪い』といった感じのものに変わっていた。

「……身内の恥をさらすようなことを言いたくはないのだが……」

「あ、言いたくなければ無理して言わなくても……」

「いや、いい。話そう。こちらから危険な任務を頼むのだ、話せる部分は全て話しておくのが義理というものだろうからな」

 きっぱりそう言い切るエルビス王子。おお、男らしい。

 それでもやっぱりちょっと言いづらそうにしてはいるけど、王子様は懐から何枚か紙を取り出すと、重ならないように机の上に広げた。何だろうコレ?

「……家系図、ですか?」

「そうだ、我がジャスニア王家の家系図だ。ああ、先に言っておくが、機密事項などは書かれていない。聞かれれば教えるような内容だから遠慮せずに見てくれていい。……して、コレを見て何か気付くことはあるか?」

「何か、っていうと……」

 あらためて机の上の紙を見る。

 一番上に、今の王様のそれだっていう名前があって、その下や横に、奥さんや子供……つまりは王妃様、王子様、王女様の名前がずらーっと。

 この書き方だと……先祖代々の名前が連ねられてるわけじゃなく、あくまで今の王様をメインにした資料みたいだな。

 しかし、王妃様の名前が3つあるってことは、一夫多妻なのか。
 そして、王子様と王女様……なんかやたら人数多いな?

 数えてみると、王子様が全部で5人、王女様は3人いた。

 そして、ここにいる第5王子様は……ん、最年少なのか。王位継承権も最下位だ。

「……見てわかるとおり、私は今代のジャスニア王家の中で、最も地位が低い所にいる。女姉妹まで全員合わせた上でも末子であり、王位継承権も8位と低い。おまけに我が母上は、婚姻を結んだのが3人の王妃の中で最も遅い上に、すでにこの世を去っている」

 指差した先にある第5王子様のお母さんの名前は、よく見ると、名前の横に故人であることを示す但し書きがあった。

「そのせいばかりというわけでもないが、中枢で要職につく場合が多い上の兄や姉たちとは違い、私のような末端の王族には、また毛色の違った役目が回ってくるのだ。主に政略結婚などだが……私の場合、またさらに特殊でな」

「特殊、ですか?」

「うむ……図らずも食堂で少し見せたと思うが、私は趣味で体を鍛えているゆえに、並みの兵より動けるし戦えるのだ。それを生かす形になるのか……王族の勇猛果敢さをアピールするために、戦わないとはいえ紛争の鎮圧や魔物の討伐隊を率いる立場に任命されることがままある。今回も、縁者からの推薦があって、私がこうして出向くことになった」

 聞いた感じ、言ってみれば『広告塔』みたいなもののようだ。

 戦記モノのマンガとかだとよく、王族貴族なんかの偉い人が鎧を着て戦地に出向くことがある。豪華な装飾の剣なんか掲げたりして。

 もっともそういうのって、大概はその人が戦うわけじゃなく……兵士達の鼓舞、士気の向上が目的だけど。

 それに加えて、王族自らが討伐に参加し、民に仇なす魔物を討ったっていう事実を作って内外から人気を取るっていうイメージ戦略もあるらしい。

 実際は戦場まで出向くことすら少なく、いいとこ指揮取ってたり作戦考えたりする程度で、別に何もしないことも多いとしても、だ。

「話を戻そう。そういうわけで、私は今またこうして魔物の討伐任務を受けているわけだが、正しく説明すると、別に私の領地に現れた魔物だから私が狩ろうとしているわけではない……私に任務が来た以上は、どこに居ようがどこへ行こうが、狩るその瞬間まで私のターゲットなのだ。末端とはいえ王族が獲物を取り逃がし、その挙句他の王族でもない貴族の私兵や傭兵などに手柄を取られることなど許されんがゆえにな」

 ……なるほどね。

 身内の恥、って言ってたのはことことか。王子様が領地の境目を越えて討伐に赴くのは、王族全体の見栄っ張りがその理由ってわけだ。

 もっとも、王族みたいな権威を衣と一緒に着るのが仕事の人達には、必要な『見栄』なんだろうし……この王子様もそこはわかってるんだろうけど。

 心なしかちょっと自嘲気味な目をしている王子様。
 しかしすぐにきりっとした目つきになって、こっちを真っ直ぐ見据えて、

「本題に入りたい……ミナト・キャドリーユ。貴君ら『邪香猫』を、本討伐任務達成までの期限付きで私兵として雇いたい。今述べた事情が絡むゆえにギルドを介するわけにはいかないが……代わりと言ってはなんだが、報酬は前払いで支払わせていただく」

 そこまで言って王子様は、視線を部下の人にやりながらそれっぽく指パッチンを一回。

 それを合図に……部下の人は何もない空中から、大きな金属製の箱を取り出した。
 収納系のマジックアイテムだろうってのは予想つくけど、こういうのはいきなりやられると未だにちょっとびっくりする。

 大きさ的には、日本円で一億円くらい入りそうな……っていうか、偏見っていうか変な例えだけど、誘拐犯に身代金引き渡す時に使いそうなジュラルミンケースっぽい見た目と大きさの箱が、テーブルの上に置かれ、がぱっと開かれる。

 そこには……福沢諭吉の顔が書かれた紙なんかよりも、今の僕にとってはよっぽど魅力的なものが入っていた。

「……これも、メルディアナ王女からの情報ですかね?」

「うむ……あなたに協力を要請する際、喜ばれるお礼は何がいいかとたずねた答えだった。……珍しいマジックアイテムや希少な魔法資源、魔物素材が一番いいだろう、と」

 箱の中は、間仕切りによっていくつかのスペースに区分けされていて……その1つ1つに、見たこともない、しかしそんじょそこらの安物なんかではぜったいにないとわかるマジックアイテムや素材が、いくつも並べられていた。

 ……にゃろうめ、上手い手を。

 
 ☆☆☆

 
「あーぁ、せっかく国外の観光に地まで来たってのに、なんでまたこういう荒事……しかも王族なんてもんが絡んでる厄介事に首突っ込む羽目になるんだろ」

「最終的に受けるって決めたのあんたでしょーが、それも報酬に目がくらんで」

「……まあ、そうなんだけどね」

 結局、受けることにした。うん。

 あの王女様の思い通りに動くことになるのはちょっぴり癪だったけど、そのくらいに報酬、しかも前払いのそれとして提示されたマジックアイテムがかなり魅力的だったので。

 それも……ただのマジックアイテムじゃなく、『素材として使える』『かなり希少で市場では手に入らない』『改良の余地がある』という特性を持つものだったあたりが特に。

 ……さては、このへんのチョイスも王女様のアドバイスか何かあったなこれは。
 お得意の観察眼か、それとも密偵か何か動かしたのか……実に適確に僕の『好み』を読み当てている。

 ひょっとしたら、食堂で披露してたあの僕関連知識も、いくつかは王女様提供だったりして……

 よくよく考えたら、あの時は場の空気的にただ感心するだけだったけど、かなり細かい……それこそ僕のかなり近くにいないとわからないような情報まで調べてあったしなあ。

 飲み物の好みなんかは正にそれだろう。酒嫌いってだけならともかく、もっぱらジュースやコーヒーとか……どうやら王女様、僕を勧誘するために割と本腰入れてるっぽい。

 なんかこの先ネスティア王家から行われる可能性のあるアプローチに若干不安になりつつ、僕は前払いで受け取った5つのマジックアイテムを手にとって眺めていた。

 どれもこれもとんでもなく希少な、しかし幸運にも師匠の所で読んだ資料で、その名前や能力・性質なんかはあらかじめ知ってた品々が5つ。

 太陽の光を当てるとそれを吸収して蓄積、その後暗所に持っていって魔力を流すと、自然の太陽光と同じ性質を持った光を発してあたりを照らす霊石『ジオブライト』。

 以前僕が師匠の『中間試験』で採取した『魔力結晶』……その上位物質であり、Sランク以上のアンデッドモンスターからのみ採取できるという超常物質『魂魄結晶』。

 太古の遺跡から出土した、すでに絶滅した龍族の化石から採取されたという希少素材であり、既存の技術では加工が不可能に近い『グローツラングの鱗』。

 はるか昔、天の世界から追放されて堕天し、邪悪な存在に成り果てた『フォールエンジェル』が落としたと噂される、正体不明の生体物質でできた羽『堕天使の黒羽』。

 そして……『オリハルコン』『ヒヒイロカネ』『アダマンタイト』以上に希少であり、一説には空から降ってきた隕石から採取されるという超金属物質『コズミウム』。

 どれもこれも超が2、3個つく希少な素材……しかし、いつだったか王女様にもらったご褒美と同じように、加工したり生かす技術がなかったために、長年倉庫の中に死蔵されていたものだそうだ。

 ……ナナやザリーに価値を確認するまでもなくわかる、とんでもない豪華アイテム・素材の数々。要らない人にはガラクタだけど、価値を知ってる人にしてみればいくら金を積んでも手に入らないであろう代物……それが5つ。

 なんというか……どういう感想を抱いたらいいのやら、コレ。

 初対面のいち冒険者にポンとこんなもんを渡す豪胆さを褒めればいいのか、それとも呆れればいいのか……まあいいか。

 なんにせよ、これを受け取った以上は……繰り返し癪だけど、王子様の望みどおり、そしてあの王女様の思惑通り、魔物討伐とやらに参加・強力するってのは決定事項だ。

 手に持った『コズミウム』をいろんな角度から見ながら、僕はナナに、ちょっとリーダーっぽく偉そうにたずねる。

 デスク付属の椅子でありながらソファみたいにふかふかな、いわゆる『社長椅子』に。肘掛と背もたれにゆったりと背中を預けて、リラックスして。

「ナナ、仕事内容の確認。メモもっかい読んでくれる?」

「かしこまりました、ミナトさん。えーとですね、依頼内容ですが……」

 ナナは収納用カフスボタンから、事務担当の彼女のために僕が作って使い方を教えた『マジックタブレット』――テキスト作成とデータの保存だけが可能な簡易版。タッチペン付属――を取り出し、さっきの話の内容を記録したデータを出す。

 ……なんかもう、完璧に秘書か何かって感じである。有能で結構。

「依頼人はジャスニア王国第五王子にして王位継承権第八位、エルビス・ラッサー・プラシュトゥーム・ジャスニア殿下。依頼自体は非公式なものでギルドは介在しませんが、依頼内容などは専属職員であるセレナさんに記録していただきます。討伐目標は『サラマンダー』の群れ。数は5体。報酬は前払いで、希少なマジックアイテムや素材を計5点をすでに受領済み。条件によっては依頼完遂後に上乗せもしてくださるそうです」

 一気に説明を終えるナナ。
 聞いていた全員、あらためて内容をきちんと把握できたようだ……つっても、シェーンとターニャちゃんは参加とかはしない立場だけど。

 話に出てきた『サラマンダー』は、二足歩行のトカゲのような魔物。
 ただし、『リザードマン』みたいな人間系の体つきではなく、獣脚類の恐竜とか怪獣映画の怪獣みたいな、トカゲをそのまま二足歩行にしたって感じのビジュアルである。

 大きさは全高4~5mでかなり大型。赤茶色の鱗で全身が覆われていて、長い手足には岩すら砕ける膂力が秘められている。

 それも当然だ。下級とはいえ『龍族』に分類される魔物であり、ランクはA。熟練の冒険者でもきちんとチームで、もしくはギルドなんかで仲間を集めて挑む相手だ。

 それが複数……精鋭を集めたとはいえ、決して油断できる相手ではない。
 場合によっては命がけになりそうな討伐ターゲット……その討伐に、王子様は自ら部隊を率いて挑もうとしているわけだ。

 
 ……さて、最近AAAとかSランクとかそれ相当もしくはそれ以上の人間(生ける伝説的とか秘密結社の幹部とか)とかを相手にしすぎて感覚が麻痺してきたせいで、『Aランク? 楽勝じゃん』っていう感想を真っ先に抱いてしまった僕が可能な限り感覚を普通に近づけて組み立てた説明だけど、上手くできてただろうか。

 
「上出来じゃない? ……まあ、私達ならおそらく3分で終わる相手だってことには変わりないわけだけどさ」

「エルクまでこんなこと言い出したよ。もうダメだねうちのチーム」

「主にあんたのせいでね」

 わかってる。わかってる。
 ま、問題ないけどねそもそも。事実だし。

 今のエルクなら、接近戦か魔法戦か相手によって選ぶ必要性くらいはあるかもしれないけど……Aランク程度なら1対1でも倒せる力は十分にある。

 ミュウちゃんも同様。
 というか最近、ちょっとまたさらにすごいのと契約し(てもらっ)たので、ある意味エルク以上にすごいことになってるというか何というか。

 ザリーもだ。文句なしAAランクの実力になってる。
 『サンセスタ島』の一件でセイランさんと戦ってからは、心なしか修業に更に熱が入るようになって来た感じがあるし。
 龍族だから油断は禁物かもだけど、苦戦はしないと思う。

 ランクAAA(相当)の3人や僕は……まあ、もう言うまでもないだろう。
 Aランク程度なら片手間で一撃だ。

 そう考えると……なんか不安というか、嫌な予感がする。

「? 何よ、嫌な予感って」

「いやホラ、僕らってさ……楽勝で終わると思ってた任務が、けっこうな確率でかなりの厄介事に発展したりするじゃん? 採掘ツアーに来たら幽霊船に出くわしたり、調査任務で無人島行ったら三つ巴の抗争に巻き込まれたり……それに……」

「それに?」

「もともと厄介事の匂いがする任務だった場合、その厄介事がもっと厄介な感じになったりするからさ……第一王女様の一件とか」

 呼び出し→勧誘→嫉妬→狩り→暗殺者→『奴』。
 どんだけ偶然やタイミングに不幸が重なったらこうなるんだ、っていうとんでもないフローチャートである。

 それに、だ。
 今回の場合、何だか最初っから妙な感じがするというか、さっきの第五王子様の説明でもその疑念が全然ぬぐいきれてないというか……

 第五王子なんて立場を考えれば……今のこの現状に不自然すぎる点はまだまだある。
 さっきはパッと思い浮かばなかったし、考えもまとまってなかったから指摘しなかったけど……ちょっと看過しづらいレベルのも含めて、いくつも。

 この先、いやもしかしたらすでに何か、『厄介事』に分類できる事態が進行していて……僕らがまたしてもそれに巻き込まれようとしてるんじゃないか、っていう類の悪い予感がするのだ。

「……例えば?」

「いや、別に具体的な何かが頭に浮かんでるってわけじゃないんだけどさ……」

「ふーん……」

 何事もなく、平和に――戦闘を前提にした任務で『平和に』ってのも変な言い方だけど――終わってくれればいいんだけどなあ……。

 ……この考え方もフラグっぽいな、やめよやめよ。

 

 
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