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第146話 水の都『ブルーベル』
お久しぶりです。
やっと…夏の間ずっと苦しめられていた大きな仕事が終わりました……
ホンットに、長かった……
さっさともとの更新ペースに戻したいです。具体的には、この連休中にでも。
とりあえず第145話です。どうぞ。
あと、感想は後ほどきっちり変えさせていただきます。毎度毎度すいませんが、ご容赦下さい…
と、いうわけでやってきました『ブルーベル』。
母さんが借りてた金庫の期限がなんと今月末……こんな風に放置されてる、ってことはすなわちコレ忘れられてると見た。
この時点で十中八九どうでもいいものを記念受験的に預けたんだろうと予想できたけど、このまま期限切れで中身を処分されるのもアレだし、これからどうするかも決めてなかったので、僕らでその金庫の中身を取りに行くことに。
つまり、次の行き先が『ブルーベル』に決まったわけだ。
移動中、ザリーや義姉さんから軽くその町のことについて聞かせてもらっていた。
『ブルーベル』……通称『水の都』。
『ジャスニア王国』南西の沿岸部にあるそこは、ジャスニア全体でも屈指の古い歴史を誇る町であり、観光の名所としても有名。
リゾート地みたいなゴージャスな施設やカジノとかがあるってわけじゃないけど、石造りの古い町並みや、何百年もの間受け継がれてきた伝統工芸の数々は、大陸各地から観光客がこぞって訪れるほどに有名なものだという。
『水の都』と名のつくだけあり、町のあちこちに運河が流れ、移動手段の一つとしてボートが一般的に認知されているあたりも、景観の美麗さやもの珍しさから人気なんだとか。
で、やってきたわけだけど……こりゃ確かに見事なもんだ。
道路と同じように水路があちこちに通ってて……しかも地球のそれと違って、河岸が石材その他で舗装されてるのに、水は濁らず澄んでいる。
噴水や水飲み場(手水舎?)みたいなのもあちこちにあって、正に水の都……って感じだ。水不足、何それ、って感じに町全体が水だらけ。
これは確かに、来るだけで何だか楽しくなるのも頷ける。そりゃ観光地にもなるわ。
当然、ちょっと歩いてみただけでもわかるくらいに、『ウォルカ』や『ネフリム』、同じ港町の『チャウラ』とも並んでる店や売り物が大きく違うのがわかった。
武器なんかの装備や生活雑貨を取り扱ってる店は当然あるんだけど、特産品らしきアクセサリー類や、この近くで出るものらしい魔物の素材を使った装備、あとは……やっぱりネスティアでは見たこともないような、しかし美味しそうな食材なんかもわんさか。
正直、冒険者稼業の楽しみの一つに食い道楽を掲げている僕としては、かなりテンションが上がる。
目的を持ってこの町に来たわけだけど……ちょっとくらい遊んでも別にバチは当たんないよね?
☆☆☆
と、いうわけで解散。各自自由時間!
いくつかのグループに分かれて、各自好きなように町を散策することにした。
シェリーとターニャちゃんの組は、町を適当に回って思いっきり遊んだり自由に買い物したりするらしい。明るくて奔放、ノリのいい感じの2人にはお似合いの回り方だ。
何気にこの中で、一番地球の女子高生っぽい感性を持ってそうな2人。観光地で思いっきり遊べるとあってきゃいきゃいはしゃいでいた。
次、ナナとミュウとシェーンの組は、同じように見て回りつつ、生活雑貨や冒険者稼業に役立ちそうな道具なんかを見て回るらしい。
ウィンドウショッピング的に目で楽しみつつ、今後のことを考えてお買い物、と。
……厳密には彼女達3人の中に『冒険者』は1人もいないんだけど……まあいいか。
ザリーは1人で回るって。お得意の情報収集か……こんな時までご苦労さん。
ほどほどにしてきっちり羽は伸ばす、って言ってたけど。まあ、本人に任せるか。
そして残った3人……僕とエルクと義姉さんが一緒に行動してるってわけだ。
「ごめんねーお2人さん。せっかくのデートについてきちゃってさ、お邪魔だった?」
「いえ、むしろこっちの方が都合がいいですセレナさん。この大きな子供の世話は1人じゃ大変なので……こういう目にも口にも楽しい観光地では特に」
「……うちの義弟がすいません」
「2人とも失礼だなー、人を行楽地ですぐ両親の手を放して迷子になる子供みたいに」
「「そう言ってんのよ」」
なんか最近この2人がみょーに仲いい気がする。
冷やかしてからかうテンションから一転して申し訳無さそうな苦労人テンションになってる義姉さんと共に、我が嫁は今日も素敵なジト目を僕に向けてくる。
そしてその手は、いわゆる『恋人つなぎ』で僕の手を握っていて……ホントにデートっぽい。いやむしろ僕は俄然そのつもりで行きたいけども。
……これで動機が『迷子・暴走防止』じゃなかったら最高なんだけどね……。
「にしても、さっきから視線がやたらあちこちから飛んでくるんだけど……正直ちょっとうざったいわね。なんか、いつもと違う感じだし」
と、小声でエルクが。
それは僕も、さっきから感じていた。
視線が飛んでくるのなんて、Sランクになってからは日常茶飯事なんだけど……なんかこの町で感じる視線は、そういう感じの視線じゃないんだよなあ。
普段の、同業者を値踏みするような視線や、大きすぎる力を持った僕を畏怖したり怖がったりするような視線じゃなく……こう、なんというか……。
エルクと僕を交互に行き来して、時折『チッ』と舌うちなんかも混ざるこれは……
……あ、もしかして。
「ひょっとして、エルクがかわいいから、手をつないでいかにも恋人っぽくしてる僕に嫉妬してる、とか」
「むしろ、美女を両隣にはべらせてるあんたに、ってとこでしょうね。手はつないでないけど、様子を見れば私達とセレナさんが一緒に行動してるのは一目瞭然だし」
あ、なるほど……ヒガミね、いわゆる。
前世では、むしろ僕は他人に向けることの方が多かった視線だ。なんか新鮮。
しかしコレは何というか……そうやって見られると、むしろもっとこの隣にいる我が嫁を自慢したくなるのは、僕の人間の器が小さいってことになるんだろうか?
「ねえエルク、どうせなら肩とか組んでみる? 殺気増すかもだけど、ちょっと楽しそう」
「歩きにくいでしょうがバカ。ベンチか何かに座るまで我慢しなさい、。そうね……腕組むくらいならいいから」
「おーけー」
「……義弟もアレだけど、義妹も大概ね……まったくこのバカップルは」
なんか義姉さんが疲れてる。どうしたのかな?
エルクとの『デート』。最近じゃ久しぶりだ。
前は暇見つけて、町の散策や買い物もかねてよく2人で出かけたりしてたけど……ここんとこ忙しかったり、回りがうっとうしかったりしたからなあ。
今日は久々に羽を伸ばせる機会ということで、もろもろの面倒なことは忘れてきっちり楽しんで回ることにした。そう決めた。
といっても、片や彼女いない歴=年齢を前世から引きずってきたヘタレ、片や色恋も何もぶっちぎって冒険者一筋で生きてきた苦学生風少女、
デートの仕方、異性のエスコート方法(する方もされる方も)なんぞ僕もエルクも知らんので、その辺適当に見て回って買い物して終わりなんだけどね。いつも。
そのことを姉さんに話したら、三白眼で『えー』って感じの顔をされた。
ともかく、そんな感じで適当に見て回ったけど、それでも十分楽しかった。
エルクと一緒だったから、ってのももちろんあるけど、やっぱりこの『ブルーベル』が初めてくる都市で、しかも観光地だから面白いものも珍しいものも色々売ってたっていうのが大きかったと思う。
さながら気分は遊園地に来た子供。あっちの露店とか、こっちの商店とか、どれもこれも魅力的なアトラクションに見えて仕方なかった。
「ったくあんたは……出会った頃とちーとも変わらないんだから。何か見つけるたびあっちこっち突撃して……自分が方向音痴だってこと忘れてんじゃないの? ただでさえ観光地で人多いんだから気をつけなさいよ、この迷子予備軍」
「ごめんごめん……でも、近くならエルクの匂いたどって合流できるから平気だよ?」
「そうやって安心して遊び歩いた結果迷子になったのよね、前にも」
う……何も言い返せない。
エルクのジト目を受けながら、僕らは公園っぽい広場のベンチに腰掛けて、屋台で買ったホットドッグを昼ごはんに食べていた。
そんな僕らを、
「しっかし……なんとも色気のないデートだったわね、あんたら2人」
エルクと反対側の僕の隣に座っている……もちろん今日ずっと一緒だったセレナ義姉さんは、サンドイッチを食べながらそう評していた。
「? そっかな、楽しく回ってたつもりだったけど。ね、エルク」
「ええ、まあね。何か問題ありました?」
「いや、特段何もなかったけど……こういうのは何もなさ過ぎるのも逆に問題っていうか……最初のやり取り以来ちっとも恋人っぽい所がなかったというか……」
なぜか眉間にしわを寄せて、ううむとこの半日を思い返している様子の義姉さん。
午前中……つまり今までやったことといえば、普段エルクと出かける時と一緒だ。
露店見て回って買い食いして、色んな店とか回って買い物して、疲れたらこんな風にベンチで休んで……うん、普通に過ごしてたね。
別に何も問題は……というか、説明するようなことすら別になかった気がする。普通で。
まあ、色々ウォルカに売ってないものが多くて面白かったから、興味を引かれた食べ物とかそのへん詳しく説明できないこともないけど。
「……デートで普段どおりに楽しんでどうするのよ。てか、そもそも見て回った店に色気がなさすぎなんだってば。主に食べ物の屋台や雑貨の露店や冒険者用の装備・道具屋じゃないの。もっとこう……例えば、服屋で彼女に似合う服を選んであげるとか」
「いや、服なら見ましたけど、今着てる服が一番にあってるし性能も……」
「防具屋や装備屋の服じゃなくて服飾店の服よ。あんなとこに女の子用のかわいい服なんて置いてあるはずないでしょうが」
「えー、でも普通の服飾店の服じゃ強度的に心もとないし……」
「バトル前提で話すなっちゅーのよ。エルクちゃんだって女の子なんだから、別にバトル用じゃなくてもかわいい服とか着てみたいでしょ?」
「いや、別にそんなに興味ないですけど……」
エルク、バッサリ。
彼女からも否定的な意見が飛んでくるとは思わなかったのか、義姉さん、きょとん。
「……え? で、でもほら、色々着る機会あるでしょ? たまの休みの日に遊びに行くとか……何か、ね?」
「いえ、その……私休日家でも基本、鎧つけないくらいでこの服ですし……外に行く時は依頼だろうと遊びだろうと装備一式つけていきますし……」
「うぐ……ほ、ほかに部屋着とかあるでしょ? あとは……パジャマとか。普通の服飾店で買うわよね?」
「そりゃ着ますけど、部屋着もパジャマも特注品ですよ? ノエルさんの商会に発注して仕立ててもらった、魔物素材とか合金繊維で作った、軽いけど鎧より頑丈なやつ」
「お、オシャレとか興味ないの!? かわいい服着てみたいとか、最悪ホラ、うちの愚弟の目の保養的な意味で色んな服着てあげるとかそういうのでもいいわ!」
「だからそういうのは全部特注装備なんです。たまーにコイツが、見たこともないデザインの服もって来たりしますけど、それも漏れなく戦闘に耐えうる特殊素材です。服飾店に行っても動きにくそうな服のほうが多いですし、防御力高い服もないですし」
「……ふ、服はもういいわ……最低限、必要に応じてきちんと買ってるみたいではあるしね……ホントに最低限だけど。それも、女の子としてじゃなく、冒険者としての」
なんか姉さんがすごく疲れてるな。
「けど、それにしたって他の店のチョイスひどくない? 武器屋とか装備屋とか、薬屋に雑貨屋……何でそんな、冒険者関連の店ばっかりなのよ」
「何でって、そりゃ僕ら冒険者だし」
「『デート中』に行く店じゃないだろって意味よ! もっと他にあるでしょ、その、ほら……彼女に似合うアクセサリーを買ってあげるとか!」
「買わんでも手作りするよ僕が」
「その場合ただのアクセサリーじゃなく、凶悪な能力を持つマジックアイテムになるのよね、プレゼントが、もれなく」
「ちょっと見て気に入った雑貨とかを衝動買いしてみたりとか! それでいざ使ってみたり着けてみたりして、『似合うよ』って褒めてあげるとか……あるいは『似合わな~い』なんて笑ってみたりとか」
「似合わないかもしれないもの買うって何ですか。そこはちゃんと見て、できるなら使った感じを試して、本人の意見も聞いてから買います。無駄使いは許しません」
「だそーです。あ、基本的に僕や『邪香猫』の財布の紐はエルクが握ってるんで、これがデフォルトね。あと、二度目だけどアクセサリーや雑貨なら魔改造済みのを自作します」
「喫茶店で休憩しつつ愛を語り合ったりとか!」
「歩きながらでも話せるし喫茶店に入る必要ないでしょ」
「そもそも買い物中に愛を語るって変じゃないですか」
「夜景のキレイなスポットに行って2人でそれを眺めていい雰囲気になってそのムードにのっかってどちらからともなく唇を重ねるとか!!」
「昼でしょーが、今」
「てか、何でわざわざ夜景見に行くんですか……そりゃキレイかもしれないですけど他にやることなくてかえって気まずいでしょ」
「「そして別にそんな雰囲気作らなくてもキス以上にすごいことやってるし」」
「あんたら華の十代の過ごし方絶対間違ってるわぁあ―――っ!!!」
なぜ吼える、義姉よ。
☆☆☆
そんな感じで義姉さんの精神的疲労はアレなことになったけど、デートという名の市街散策自体はかなり楽しく、有意義なものだった。
水の都と言うだけあって、『水』関連の商品とか多いかなー、なんて安っぽい思考で考えてたら、ホントに多かった。水系が。
臨海都市だってこと以外にも、街中や近くをいくつも大きな川が通ってて、水源も近くにいくつもあるっていう状態だから、その方向で発展したのかな?
雑貨屋では、普通にどこの町のどんな店でも売ってるようなものに加えて、水筒なんかの高品質なもの(容量大、保温機能など)や、ろ過器なんてのを売ってたりもした。
水筒は予備も含めて姉さんの商会から買ったもので間に合ってたけど、ろ過器は面白そうだったので買った。今度分解して構造調べて、魔改造済みで自作する予定。
道具屋に行くと、こちらも普通の商品に加える形で独特なものがいくつも。
釣竿や釣り糸、釣り餌なんかの平和なものから、水中や船上での戦闘を意識して作られた武器・暗記なんかもあった。
ここでも、面白そうなものをいくつか選んで買った。
武器・装備の店も同じような感じだったけど……ここでは『水の羽衣』というかなり珍しいマジックアイテムを見つけることが出来た。
見た目は半透明に透き通った布。手触りはシルクよりよくて、しかも軽い。
透けて見えるなんてそれなんてエロ装備、なんて思うなかれ。この『水の羽衣』、この『ブルーベル』の伝統工芸とも言うべき芸術性と機能性を兼ね備えた高級品である。
伝統工芸的な技術で『水を編む』という、何かよくわからない単語の使い方……しかしコレで合ってる作り方で作られたそれは、親魔力性が高く、こと水の魔力は阻害ほぼなしで使えるどころか、発動体の代わりにもなるというすごい布だ。
ただ、強度的にはそこまでではないし、何よりその希少性からかなり高額……それこそ、同じ強度を金属で再現した鎧の方がずっと安いそうなので、戦闘用の装備としては人気は無い。せいぜいが礼服とか、そういうおしゃれ用。それも、富裕層限定の。
それでも、かなり品質の高いマジックアイテムであるこれは、僕からすればなんともいじり甲斐のあるおもちゃだ。
高額だったけど、色々と高レベルな依頼をこなしてる僕の懐は、ちょとやそっと豪遊したくらいじゃ依託もかゆくもない程度には潤沢。迷わず買った。
そして次は薬屋。ここはバリエーションが予想以上にすごかった。
上質な天然水(?)を使った高品質な回復薬類に加え、水薬系の研究には昔から力が入ってたんだろう。その他にも色んな面白い薬品があった。
汚れた水、にごった水も飲めるようになる殺菌浄水薬(ただし味は悪い)、
通常よりも味に癖が少なくて効能が高い回復薬、
回復薬調合のいい触媒になる真水(ミネラルウォーター?)、
そんな感じでまだ常識的な薬から……かなり専門的な魔法薬の材料・触媒まで。
さらには、ちょっと普通の人に売るには危険な薬品なんかも扱っていた。
まあ、多くは僕がすでに師匠の家で扱った経験のあるものだったけども。
……この手の薬品は僕のいつもの研究・開発では割とよく使うんだけど……姉さんの商会で発注しようとすると嫌な顔をされる。
ちょうどいいのでここで仕入れていくことにした。一通り、大量に購入。
なお、これらを買うには本来、特別な資格・許可やそれ相応の地位・身分がいるらしいけど、僕の『Sランク』のギルドカードと『ブラックパス』でそこは十分だった。
たまにはいいもんだね、権力の行使っていうのも。
そんな感じで今日は終わったわけだけど、宿に戻って皆で部屋でまったりしてる時にその話題になって、義姉さんが今日一日の愚痴をこぼしていた。
そしたら、あはははは、とシェリーが笑って、
「ですよねー、お義姉さまもそう思いますよねー! この2人、普段は自然にいちゃつくくせに、デートとかそういう部分でびっくりするくらい色気ないんですよー。っていうか個人的には、アレってデートとは呼べない何かだと思います」
「……酷い言われようねさっきから。いいじゃないの、本人たちが楽しんでんだから」
「楽しみ方は人それぞれだし、ミナト君とエルクちゃんがホントに仲いいのはちゃんとわかってるけどさー……この2人って、もう何か恋人とか新婚とか色々すっとばして、もはや熟年夫婦の領域なのよね」
「あー、それわかる気がしますー。なんていうかエルクさん、普段の何気ない生活で自然に甘えてくるお兄さんをあやしたり、呆れながら世話焼いたり、それでも仲良かったり……結婚ウン十年の古女房的な感じなんですよね。もはや貫禄すら感じるというか」
「甘く華やかな感じだけが恋人の形じゃない……そう考えると一応深い気もしますが……ただ単に自然体なだけって方がしっくり来ますね」
「もうすでに家族、って感じだよね。一緒にいるのが自然っていうか当然っていうか……あれ? そう考えるとミナトさんとおねーさまってやっぱ理想的な夫婦なのかな?」
「まあ、人それぞれだろう。……まだ夫婦では無いだろうが」
何コレ。何で僕らとエルクの仲について皆で考察してんの?
なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど……
なお、今日は外泊ということで、いつもの業務お休みなシェーン&ターニャちゃんともども団欒中である。
この宿で1番高い部屋だから、この人数集まっても全然狭く感じないくらい広い。
というのも、安宿だと野次馬が来るってことで、ここんとこ……具体的には、僕がSランクになってからは、極力高級で警備とか接客・対応等サービスもしっかりしてる所を選んで止まってるからさ。野次馬その他のシャットアウトのために。
心象をよくしてサービスも充実させてもらえるよう、取る部屋は出来る限り高級な部屋を選び、チップなんかも多めに渡すようにしている。……エルクが。
……いや、前世でも海外旅行とかしたことなかったし、チップ渡すのとか経験ないんだよね。相場も知らないから、我らが会計管理者に一任してるの。
そのエルクはというと、若干呆れた様子で、
「ったく、変な話題で盛り上がってんじゃないわよあんたらは……それで? あんたらは別に何か変わったこととかなかったの?」
「変わったこと、って言ってもねー……普通にぶらぶら歩いて買い物してただけだったし」
「そう? 私は結構楽しかったなー、普段私1人じゃ行けないようなところとか行けたしさ」
と、シェリーとターニャちゃん。
つまり、普段は治安とかの不安からターニャちゃん……女の子が1人ではいけないような、裏通りとかにもいけて面白かったと。
……何でそんなとこにわざわざ行ったよ?
「たまの休みってことでさ、シェリーさんにちょっと高価なアクセサリー買って貰っちゃったの。そしたらそれ見てた柄の悪そうな人達に目つけられちゃったみたいでね?」
「お金持ちの令嬢とでも思ったのかしらね。ずっと尾けてきてうっとうしかったから、わざと裏路地に入って襲わせてあげたのよ。で、お仕置きしてあげたわけ」
「……そこはかとなく私欲を感じるわね……ナナ達はどうだった?」
「んー……特段、何かあったということはないですよ? ただまあこの機会に、今後必要そうな物資とかを購入しておきました」
「『邪香猫』として、ってこと?」
「はい。領収書そろえてありますので、あとで清算お願いしますね」
事務担当と会計担当(兼務:副リーダー)のそんな会話。
こちらも色々見て回ってたみたいだけど、シェーンたちと違って単に物資調達、って感じだったみたいだ。ビジネス調というか、何というか。
普通に今日は遊びのつもりで自由時間にしたんだし、僕らもそのつもりで過ごしてたんだけど……なんか悪いな。今度何かお礼とか考えとこうかな。
そして残るは、いつものごとく単独で行動してたザリーだけど……
その口から、今日『何が会った』かを聞いた瞬間……
「「「はぁ!?」」」
ハモった。
ザリー以外全員の声が、キレイに。
期待通りのリアクションが帰ってきたとばかりに、ザリーは心なしか嬉しそうである。
いつもよりチャラ男スマイルの口角が何ミリか上に上がっているように見える。
いや、正確には『何があった』じゃなくて、『こんな情報を手に入れた』っていう伝聞の報告だったんだけど……何せ、その内容ってのが……
「……黒獅子の……偽者!?」
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