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第145話 謎の鍵と眠れる巨怪
第145話、投稿します。
あと、書籍版第2巻発売になりました!
こちらもよろしくお願いします
m(_ _)m
web版ともども頑張ります!
実家に帰ってきて数日。
『洋館』での休暇は、普通に落ち着くというか、ゆったりとくつろげる日々になった。
奇をてらって危険区域行きの依頼受けて休むとか、何考えてたんだろ、って感じに。
……いやまあ、ここも『危険区域』には違いないんだけども。
ただそれでも、この家という絶対的な安全地帯がある上、主に日課の鍛錬と食料の調達に的を絞って有効活用させてもらってるので、あんましそれを理由に落ち着かないとか、ストレスを感じることもない。
似たような経験……危険区域の中での修業を、『暗黒山脈』の師匠の邸宅で経験済みである『邪香猫』メンバーはもちろん、最初緊張してたターニャちゃんやシェーンもだんだんと慣れてきて、今じゃ普通に、町にいたときと変わらないテンションで過ごしている。
窓に関しても、カーテンが閉められることもなくなったどころか、サファリパーク感覚で窓の外に見える魔物を眺めてたりしてるし。
……さすがにお食事シーンとかは目を逸らしてるけど。
また、今ちらっと言ったように、僕らは休暇中といえども体がなまらないようにトレーニングは続けている。外の『グラドエルの樹海』で。
何せランクAAの危険区域。ちょっと歩けば向こうからBやAはくだらない魔物が襲ってくるため、戦闘訓練の相手には事欠かない。
ランクAのエルクやミュウ、AA成り立てのザリーなんかにはちょうどいい修業場所であり、鈍らないどころか日増しにその実力を研ぎ澄ましていっている。
……休暇中のはずなんだけどね、今。
まあ細かいことは気にしない。強くなるのはいいことだ。
エルクなんかは、魔法の腕や魔力運用もめきめき上達していっている上、僕の『否常識魔法』をアルバと僕を除けばこのメンバーの中では一番多く習得している。
『ハイエルフ』の『先祖がえり』としてのもともとの死蔵された才能もどんどん表に引っ張り出してきており、その実力は天井知らずの伸びを見せている。
この分なら、AAランクに手が届く日もそう遠くはないだろうと思う。
ミュウやザリーの伸びはエルクほどじゃないものの、確実に強くなってきている。
身体能力や魔力運用能力はもちろん、技のレパートリーも増えてきてるし。
ザリーはもともと高かった隠密行動能力や相手の意表をつくトリッキーな技・魔法に磨きがかかってきてるし、ミュウちゃんは魔法の腕や召喚獣のコントロール技能を上げてきている。
無論2人とも、僕の『否常識魔法』の習得にも(諦めて)精力的だ。
『邪香猫+α』のうち、アンダーAAAの3人はそんな感じ。
そしてそれ以上の4人……僕、シェリー、ナナ、セレナ義姉さんはというと。
僕ら4人に関しては、この森の魔物でも戦いの相手としては少々心もとないこともあり、主に自分達での組み手をメインにトレーニングを行っている。
実力で言うと……自画自賛になっちゃうんだけど、この4人の中では僕が一番上。
次点で義姉さん。その下に僅差でシェリーとナナ。この2人は互角ってとこだ。
なので組み手をする時は、大体義姉さんとシェリーとナナの3人のうち2人が戦う。
残り1人は見学・休憩している時もあるし、僕と戦ってる時もある。
また、それほど頻度は多くない――が、最近だんだん増えてきている――けども、僕とシェリー達3人の3VS1での組み手なんてのもやることがある。
実力では勝っているといっても、きっちり連携決めてかかってくるので、かなり手ごわいし……ヒヤッとすることも何度かある。
近距離でガンガン大威力の攻撃を叩き込んでくる義姉さんと、遠距離で義姉さんをサポートしつつ隙を見て狙撃なんかもしてくるナナ、その両方で必要に応じて動けるシェリーの連携は、正直凶悪と言っていい。
身体強化だけの『通常状態』だと僕もそれなりに苦戦している。『パワードアームズ』使うとかなり楽になるけど、それでも強かったし。加減したとはいえ結構持ちこたえられてしまった。
戦ってみた感じからの個人的な感想だけど……多分この3人が連携して戦えば、相手がSランクの魔物や冒険者だろうと勝てると思う。
そんな感じで体が鈍らないように適度(?)に動かしつつ、疲れたらお風呂やふかふかのベッドでゆっくりくつろいで休み、お腹がすいたらシェーンとターニャちゃんの料理に舌鼓を打ち、退屈したら母さんの書斎その他の部屋にある本なんかを読み、
そんな風に家を歩きながら、ここで過ごした16年ちょっとの長い時間に思いを馳せ、
最近の喧騒を忘れてゆっくりと過ごしていた……ある日のことだった。
母さんの書斎で、ふかふかの回る社長的な椅子に座ってくるくる回って遊びつつ、エルクからの『何をしてんだコイツは……』的な視線を受け止めていた僕は、ふと、視界の端に移ったあるものに気付いた。
あれ? 何だろ……今、机の下に何か光るものが見えたような……
気になってしゃがんで見てみると、これは……
「……鍵、か?」
☆☆☆
拾ったのは、鍵。
もしかしたら何かのマジックアイテムかもしれないけど、少なくとも見た目は鍵。
ただ、何というか……見た目が気になる。
何せ金ピカ。純金で作ってあるみたいにきらめいてて……しかしそこまで重くない上に硬いから、もっと別の金属だとは思う。
そしてその取っ手の部分に、青色の水晶が埋め込まれている。
あと、何か微妙に年代ものっぽい見た目なのが気になる……若干汚れとかあるし。
その後ちょうど食事だったので、『コレ何か知らない?』って皆に見せてみたところ、ナナと義姉さん、それにザリーがその答えを知っていた。
「……え、貸金庫の鍵?」
「そ。『ブルーベル』にある『ディープブルー金庫』の鍵よ、コレ」
……どっちも知らない。
『ブルーベル』って何、町の名前か何か?
「知らないのも無理ないかもね。『ブルーベル』があるのはジャスニア……ネスティア王国の国外だからさ」
「あ、そうなんだ? ……まあ国内にあっても知ってるかどうか微妙だったけど」
「……あ、そ」
「それで、そこにある大きな貸金庫が『ディープブルー金庫』ってわけ。創業1000年超えの老舗でね、ジャスニアだけでなく、他国の王族や貴族なんかも、私財その他の保管先として利用してたりするのよ」
1000年……そりゃまたすごいな。日本で言ったら平安時代だ。
聞く限り、富裕層がよく利用する金庫とか銀行の類……地球で言えば、スイス銀行とかみたいな感じなんだろうか? その『ディープブルー金庫』とやら。
しかも聞けば、腕利きの警備兵を何人も雇っている上、マジックアイテムによる盗難防止策まで何重にも仕掛けてあり、警備も万全らしい。そりゃすごい……他国の要人各位が信用を置くわけだ。
「その鍵がここにあるってことは……その金庫をうちの母さんが利用したってこと?」
「そうなるわね。まあ、別に大したもの預けてないと思うけど……」
「? 何で? ミナトさんのお母さんってあの『女楼蜘蛛』だった人でしょ? その人が貸し金庫まで利用するんだから、すごいマジックアイテムとかが入ってるんじゃないの?」
と、ターニャちゃん。
姉さんの発言が疑問のようだけど、いやだってホラ……
「だって預ける必要ないじゃない。確実にお義母さんが自分で管理してた方が安全よ?」
「「「ああ、確かに」」」
知りうる限り最強の番人であるといえる。
多分だけど、そういう金庫があるって聞いて、興味本位で何か預けてみよう、ってことで利用しただけの可能性大。記念受験的な。
もしくは……自分で持っていたくない、けど長期間保存していたいわけありの品とか。
そんなことを考えていたら、ふと気付いたようにザリーが口を開いた。
「ところでさ、この鍵で開く金庫、使用期限っていつなのかな?」
「使用期限? ああ……貸し金庫だし、そりゃそういうのもあるか」
「鍵の取っ手部分見てみて。13桁のシリアルナンバーがついてるはずだよ。前半4桁が金庫の番号、後ろの6桁が保管期限」
「……ああ、あったあった。間にアルファベットが3つ入ってるけど、コレは?」
「管理してる金庫の側で使うコードか何からしいから気にしなくていいよ」
「へー……随分よく知ってるね、ザリー」
「ん、昔ちょっとね」
ザリーの言ったとおり、鍵の取っ手部分には何か桁数の多い番号みたいなのが刻まれている。えっと、これの下6桁が使用期限=日付ってことは……
この鍵で開く金庫の中身の期限は……
「……今月末?」
「「「え゛!?」」」
☆☆☆
時刻は夜。
場所は変わって……ある海沿いの町の近くにある、丘陵地帯。その中にある岩場。
1人の少女が、とても人が歩くには適しているとは言えない険しい岩場を……とてとてとやや危なっかしい足取りで走っていた。
粗末な布地の上、つぎはぎがそこかしこに目立つ服が、褐色の肌を包んでいる。
その手には、上に布をかけた果物籠のようなものが握り締められている。
つい今しがた、日が完全に沈んだこの時間帯。
町に近く、街道がそばを通っているといっても、この付近の岩場は決して安全とは言えない。ましてや、何の力も持たない子供にとっては、なおさらだ。
しかしそんなことにも構わず。、少女は走っている。
通いなれた道なのだろうか。目指す場所がどこかはわかっている様子で、足場の悪さが原因の危なっかしさを除けば、その足取りに迷いは無い。
そのまま十数分。
終始駆け足、少々息を切らして少女がたどり着いたのは……洞窟だった。
外部からはかなりわかりにくい場所にあり、存在を知らなければ探し出すのは難しいであろうそこに、少女は入っていく。
天井に穴が開いているらしく、月明かりが入ってきて中はそれなりに明るいようだった。
その中に、少々暗闇のせいで苦戦し、地面の凹凸に躓きながら入っていく少女。
洞窟の中に……その気配を察知し、唸り声を上げるものがいた。
が、すぐにその唸り声は止む。視界に少女の姿が入ったために。
少女の方も同様に、月明かりの中、その唸り声を上げていた『何か』を発見し、しかし洞窟の中で丸くなって寝転がるそれを見ても一切恐れも躊躇もすることなく、そのそばに駆け寄っていった。
そして、手に持っていた果物籠にかけていた布を取り去り、中身を出していく。
「ホラ見て。今日はね、漁師のおじさん達が来たの。それで、傷が酷くて売り物にならないお魚、いっぱいもらえたんだよ? はい、おすそわけ!」
まるで友達にでも話すように、少女はその『何か』に優しく、楽しげに語りかける。
それに対して、『何か』は……唸り声を返すだけ。
「そんなこと言わないで? ちょっと見た目は悪いけど……ホントに美味しいんだよ? それに私、お婆ちゃんに言われてるもん。『人に助けてもらったら、ちゃんと御礼をしなさい』って」
何を、何に対してかはわからないが、少女は気にする様子なくそう言い返すと、その『何か』の隣に腰を下ろした。
籠の中に入れていた、自分の分の食料らしい、やや硬そうな粗末なパンを取り出してかじりつつ……『何か』の唸り声に、
「そんなの関係ないよー。それに私、こうしてあなたに会いに来るの、楽しいもん」
ふたたび、唸り声。
「もちろんだよ、だって、私がやりたくてやってることだもん」
『何か』との会話に花を咲かせる少女は、月明かりの下で楽しげに微笑んだ。
そのまましばし、沈黙が場を支配する。
数十秒ほども経った頃、今までほぼ不動だった『何か』に、初めて唸り声以外のアクションが見られた。
視線がちら、と少女が持ってきた魚に移る。
その魚は、少女の配慮だろうか、天井から降り注ぐ月光がちょうどあたる位置に置かれていて……夜、この洞窟の闇の中でもよく見えた。
そして『何か』は、少女の厚意を受け入れることにしたようだ。
ゆっくりと体を起こすと、その凶悪な――普通の女の子ならそれを見ただけで震えて泣き出すか動けなくなりかねないほどに凶悪な見た目の口を開く。
ずらっと並んだ牙が見える。人間の体など、骨ごと容易く食いちぎれそうだ。
そして次の瞬間、その口で……月明かりの下に置かれた魚に噛みつき、ほおばり……一口で腹の中に収めた。
『よく噛まなきゃダメだよー?』という、少女の緊張感のない声を聞きながら。
その髪ついた瞬間……月明かりの下には、その『何か』の……トカゲのようなその体躯と、龍の重厚な鱗と鋭い爪や牙、角が浮かび上がっていた。
+注意+
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