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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第142話 顛末とジャスニアの大使

ここんとこ更新ペースが落ち気味ですいません。
今、書籍化作業以外にも、リアルの方にけっこう大きな仕事が入ってきてまして……加えて作者は夏の暑さに弱いので(おい)作業ペースが落ちております。

仕事がひと段落する9月上旬~中旬あたりにはペース戻したいなあ……

ともかく第142話、どうぞ。
 

 
『こらミナト、早く起きなさいよっ。こらミナト、早く起きなさいよっ。こら――』

 
 次に目が覚めると、ベッドの上だった。

 エルクによる『荷電粒子砲』発射後――これだとまるでエルクが荷電粒子砲出したみたいだな――僕らは『サテライト』によって周囲および関係者の安全を確認。

 ウェスカー達『ダモクレス財団』の連中が1人残らず撤退したことを確認した上で……戦闘で消耗していた僕は、後のことを皆に任せて、『オルトヘイム号』の自室に戻って休ませて貰ったのである。

 で、3時間ほど仮眠をとった後、師匠の所で作ったマジックアイテムの1つである『目覚まし砂時計』によって、今起床したわけで…………うん、そうだよ。さっきの、目覚ましのアラーム代わりに録音した嫁ボイスだよ。

 ……我ながら、またこっぱずかしいこと考えたもんだな……冷静になってから使ってみるとよくわかる。披露した時にエルクが、常人なら首の骨が折れるレベルの魔力パンチぶつけてきた過激なツッコミも頷けるレベルだよ。

 後で謝っとこうと心に決めつつ、甲板に出て様子を確認してみると……

 そこには……ちょっとどころでなくて予想外な光景が広がっていた。

「……えっと、説明お願い、ギーナちゃん」

「あ、はい」

 ちょうど手近にいた彼女に、僕は説明を頼んだ。

 目の前で、活動を停止したはずの『サンセスタ島』の火山が噴火していて、しかもこころもち島自体が小さくなってるような……この割と凄まじい光景についての説明を。

 
 ☆☆☆

 
 僕が眠りについたその数分後、それは起きたという。

 攻めてきたチラノースの連中は、大半は僕とウェスカーの戦いその他に巻き込まれて吹き飛び、残りはこちらの兵力によって駆逐された。
 AAAの巨大戦力である、中将とダモスの2人を含めて、全滅だ。

 ダモクレス財団の連中は、生き残りの雑兵を含めて全員が撤退。当初チラノース側だと思ってたセイランさんについても、獅子身中の虫であり、ダモクレスの構成員だったため、バスク、ウェスカーと共にこの場を去った。

 そこまで確認できたことで、一応はこれで安全かと思われた正にその時……何の前触れもなく、大きな地震がこの島を襲った。

 幸いと言っていいのか、この船は宙に浮いているため、地震の影響は全く受けることはなかったものの……その直後に起きた2つの二次災害?が問題だった。

 1つ目は、おさまったはずの『サンセスタ島』の火山活動が再開し、島のあちこちにある山の頭頂部から噴煙と共に溶岩が噴出し始めたこと。

 そしてもう1つは、徐々にではあるが明らかに……海岸線が下がっていったこと。

 普段は海水に隠れて見えなかった海底の部分が、満ち潮・引き潮のレベルではないほどに見え始め……それが地震と同時に起こったことから、多くの者はその正体に気付いた。

 明らかに、『津波』の前兆だ、と。

 規模いかんでは『調査基地』のあるここも危険だと判断したネスティアの調査隊一同は、すぐさま物資全てを『オルトヘイム号』に積み込んで島を脱出した。

 なぜかっていうと、津波前の引き潮のせいで、それまで船を止めていた部分までもが干上がってしまい、ネスティアの軍艦が出港できなくなってしまったからである。

 チラノースの軍艦も同様。もっともこちらは、ザリーとセイランの戦闘で激しく損傷していた上、セイランさんが火を放っていたので、どのみち動かすのは無理だった。

 やむなく、浮遊による移動が可能なこの船を使うことになったというわけだ。まあ、そういうことなら仕方ないだろうね、人命救助とかしないわけにもいかないしね。

 船と基地から必要なものを全部運び込んだ後、この船は出港……その数十分後、予想通り津波が島を襲った。予想通り、調査基地も軍艦も全てを飲み込んで蹂躙する津波を眼下に見下ろしつつ……この船で脱出した、というわけだ。

 そういうわけで、島はいまや津波によって海岸近くが水没しており、奥の方、山麓付近は溶岩や火砕流で灼熱地獄と化している。とても人が入れる環境下にない。

 調査期間はあと3分の1ほど残ってたはずだけど……これじゃあ調査継続もへったくれもない。このまま帰還することになるだろう、とのことだ。

 ちなみに、あの島には他にも人がいた。チラノースがつれてきた他の冒険者とか、調査員とか。あとは……ジャスニアの調査団とか。

 その人達はどうしたのかというと、ジャスニアの調査団がまとめて回収したんだそうだ。チラノースの調査団や雇われの皆さんも含めて、全員。
 ジャスニアの軍艦は大きさ・積載要領では6大国でも1、2を争うものであるため、なんとかではあるがそれが可能だったらしい。

 バカやったチラノースの連中以外は全員助かったわけだ……よかったよかった。

 そういや、兵力引っさげて交渉(笑)しにきた、あの中年太りのチラノースのお偉いさん、どうなったのかな? ……ま、別にいいか。

「簡単に説明させていただきますと、こんなところかと。それよりもミナト殿、お体は大丈夫ですか? 浅くない傷を受けた上に、あの時と同じ奥義をも使われたとのことでしたが……反動などは?」

 と、ギーナちゃん、心配した様子で聞いてきてくれる。

 傷はともかく……奥義? あの時と同じって……ああ、『アメイジングジョーカー』か。
 『あの時』ってのは、ディアボロスとの戦いで『ダークジョーカー』使った時だな。

「大丈夫大丈夫。まあ、さすがにあちこち痛いけど、きっちり寝てあらかた直したし。それに、今回使ったのは前のやつの改良版だから、反動も問題ない」

 そう返しておく。嘘は無い。

 『アメイジングジョーカー』は、師匠の所で、僕の新装備と一緒に作り上げた新技であり……『ダークジョーカー』の進化形だ。戦闘能力だけでなく、あらゆる能力が改良されている。

 発動の際に肉体にかかる負荷も小さいし、感知能力は耳あて型のセンサーのおかげで段違い、何より、『ダークジョーカー』の時にはかなり深刻だった魔力混濁による反動は、『アメイジングジョーカー』では10分の1以下にまで抑えられている。

 これらはもちろん、魔法そのものでなく強化装備『パワードアームズ』あってのもの。あれに戦闘用以外の様々なギミックが仕込まれていて、僕を助けてくれるのだ。

 弱点としては、『アメイジングジョーカー』を使うには『パワードアームズ』を装着済みであることが前提条件だ、ってところくらいか。一応装着なしででも発動できるっちゃできるんだけど、出力はガクッと下がる上に反動も数倍になる。改良前と変わらない。

 けど今回はきっちり装備状態で発動したから、そのへんの心配はなしだ。

 あのプロテクターが魔力混濁そのものを予防する形で抑えてくれる仕組み。そしてそれは正しく機能したようで、今現在の時点でもう魔力混濁はゼロ。それでも念のため『パス』も握って寝てたから、僕の体の事故治癒力も最大限発揮されて、傷もほぼふさがってる。

 まあ、一応検査とかはすることになるんだろうけど、問題ないと思う。そもそも今回の戦い、最後のあのビーム以外はやばい攻撃の直撃とかも食らってないしね、僕。

 あのビームではさすがに腕の内外がかなりやられたけど、おそらく自力でなんとかなるだろう。師匠の診断だと、僕、自然治癒だけで深層まで届いた低温火傷すら治せるらしいし……もう今すでに痛みがほぼ治まって、動かすのに支障ないからね。

「……ところでギーナちゃん、『邪香猫うち』のメンバー達ってどこにいるか知らない? ここ来るまで誰とも会わなかったんだけど……」

「皆様でしたら、現在船内の応接室にて会議中です。ご案内しますか?」

「いや、大丈夫だよ、場所さえ聞ければ。ホラ、コレ僕の船だし」

「あ、そ、そうでした……すいません、失念しておりました」

 ちょっと顔を赤くしてぺこりと頭を下げるギーナちゃんには『いいって』と返しておき……さて、どうしよう?

 場所はわかったけど、会議中ってんなら、終わるの待ってた方がいいかな?

 ……ってかそもそも、何の会議なんだろう?

「お、ずばり、『何の会議なんだろう?』という疑問を胸に浮かべていらっしゃいますね、お兄さん?」

「うん?」

 後ろからそんな声。
 振り返ると、今正に船内から出てきた所であるらしいミュウが立っていた。

「お目覚めになったという報告がありましたもので、様子を見に来ました。あとエルクさんから『会議は私達だけでやっとくから休んどいていいわよ』との伝言を預かってます」

「そっか、ありがと。でさ、今の予想大当たりなんだけど……何の会議なの?」

「この船の使用にかかる経費その他の取り決めだそうだ」

 ミュウの背後……まだ開いたままの扉から、シェーンが出てきた。

 そこで偶然会いまして、との補足の後、続けてミュウが説明に入る。

「そもそも今回の依頼ですが、当初の予定としては生き返りの足は王国の軍艦が請け負う契約になっていたわけですが……あんなことになって船が使えなくなった結果、私達『邪香猫』の持ち物である『オルトヘイム号』を貸し出すことになったでしょう? それに対するお礼とか、かかる経費の精算とか、そのへんを話し合っているそうです」

「そうなの? なんかめんどくさいことになってるね……別にいいのに。緊急事態だし、間貸しするくらい」

 そう言ったら、目の前のミュウとシェーン、そして隣のギーナちゃんの僕を見る視線が微妙なものになった。え、何?

「……あのな、ミナト。前々から思っていたんだが……お前、いい加減にものごとを正しく客観的に評価できるようになれ」

「? どゆこと?」

「こんなとんでもない乗り物を貸し与えていることを『いいのに』なんて4文字で済ませるなど狂気の沙汰だ、という意味だと思われますー。ていうか、そうです。同意見です」

 と、ミュウの追撃。横を見ると、ギーナちゃんも苦笑しながら頷いていた。
 そして始まる、よくわかる解説byミュウ。

 さっきも言ってたけど、本来この調査の生き返りの足は王国の軍艦のはずであり、ギルド提出の依頼書にもそれは明記されている。

 まあ、今回のコレは緊急事態ということで、別に契約違反の問題行為……ってことにはならないらしいけど、自体への対処として僕ら『邪香猫』所有の船を借り、利用させてもらってるわけだから、そのへんのお礼はきちんとしなくちゃダメ、というのが1つ。

 2つ。借りてるこの船の性能が、王国の軍艦が笑えるくらいのものである点が問題。

 王国軍の兵士、冒険者、調査隊員、政務担当etc……全員を内部に収容可能。部屋によっては空間拡張なんかも使っているので広く、窮屈さを感じない。

 しかも、振動制御装置を搭載してるおかげで、波が来ようが風がふこうがほぼ揺れないし、空調設備なんかにも気を使ってるので、船内はかなり快適。
 怪我人も乗ってる、貴重なサンプルも乗せてるこの状況下、超ありがたいらしい。

 戦いの中で見せたとおり武装も強力で、海の魔物や海賊なんかに襲われてもかなり安心していられるのも大きい。

 他にも、風がなくても普通に自力で進むとか、来客用の浴室があるとか、その他設備がホントに船なのかここはってくらいに充実してるとか、そもそも空飛ぶって何だとか、まだまだ色々あるらしいけど……まとめていうと、高性能すぎて無償で借りるとかぶっちゃけありえない、とのこと。

 主にこの2つが理由となっているそうだ。『いいのに』の4文字でさっと課すことに問題がある理由に。

 あらためて説明されると……まあ、わからなくもないか。

「すいません……本来であれば、この船の責任者であり所有者のミナトさんも参加いただくのべきなのですが……療養中ということで、起こすのも忍びなく……」

「いいっていいって、どっちみち僕、あんま難しいことわかんないし。交渉事や事務作業なら、どの道エルクとナナを頼ることになってたと思うからね」

「では、後で結果だけ簡単に報告できるよう手配しておきますねー」

 ぺこり、と頭を下げて、船の中に戻っていくミュウ。

 そのミュウを追う形で、シェーンも船の中に戻ろうとして……入る前に、ふと思い出したように辺りを見回した。

「しかし……今あらためて口にしてみて実感したが、また随分と様変わりしたな、あの船が」

 どこか昔を懐かしむような目をして、半ば呆れながら言うシェーン。

 あ、そっか……この『オルトヘイム号』、許可貰って譲り受けたとはいえ、もともとシェーンのおじいさんの海賊船で、昔シェーンも乗ってた船だもんね。

「あー……もしかして、嫌だった?」

「いや、別にそんなことはないさ。まあ、昔に比べてかなり非常識な改造があちこちにあるとはいえ、再出発して新たな人生を歩んでいるとも取れるからな。海の底に沈んで誰にも知られずに朽ち果てていくよりは、よほどいいだろう」

 昔と少し間取りが違って戸惑ったがな、と茶化すように言うと、シェーンは今度こそ船内に消えた。

 今の話の通りなら……会議はホントにエルク達に任せても大丈夫か。だとすると暇だなー……

「お部屋で休まれてはいかがでしょうか? 回復したとはいえ、まだお体も本調子ではないでしょうし……船の警備でしたら、我々で責任をもってやらせていただきますので。あ、もちろん、立ち入り禁止の区域には入りませんし、他の冒険者が忍び込んだりしないよう厳重に警備いたします!」

「おー、そりゃ頼もしいね。でも、立ち入り禁止区域って?」

「エルク殿が事前に決めておられました。おそらく、『邪香猫』の機密情報や、備蓄の保管庫などを示したものかと」

 なるほど。それらプラス……僕の研究室だろうな。多分。

 ホント、気のきく嫁さんだ。

 まあどっちみち、やばいもんが入ってる保管庫とか研究室とかには、関係者以外は入れないようにきちんと鍵かけてあるんだけど……それも、例によって『否常識』な、侵入者にはもれなく己の愚行を泣きながら後悔してもらえるようなのを。

 よろしく、とギーナちゃんに一声かけた後、僕は部屋に戻って休ませて貰うことにした。

 実の所、体動かすのに大きな問題はなくても、筋肉痛みたいな鈍痛は体の節々にあるんだよね……お言葉に甘えて、もうちょっとゆっくりさせてもらおう。

 
 ☆☆☆

 
 状況が更に動いたのは、それから数時間後のことだった。

 疲れてるからってことで会議が始まる段階になっても起こされなかった僕だけど、今回は起きてもらわないといけない事柄だったらしく、エルクが僕の部屋まで呼びに来た。

 現在空中に停泊中のこの『オルトヘイム号』を動かす許可を貰うために。

 何かあったのか聞いたら、この船に乗ってる以外の人員を回収した『ジャスニア』の船がこっちにコンタクトを取りたがってるそうだ。

 で、当然というか向こうさんの船は『海上』にいるわけなので、そのためには空中に浮いているこの船を下ろさなければならず、そのために船を動かす許可を貰たいんだと。

 そのくらいなら別に僕の許可なんて取らなくたってやってもらってもいいと思うんだけど……現に、この船に避難人員乗せて飛ばす時は、『邪香猫』副リーダーであるエルクの許可で飛ばしたわけだし。

「本来はこういうのはこういうもんみたいよ。本来船の全権はリーダーのあんたにあって、あの時は緊急避難的な措置だったから私に聞いただけなの。それに今回はただ動かすだけとはいえ、その目的が他国とのコンタクトだからね。色々デリケートなやり取りも交わすだろうし、持ち主の許可は必要不可欠なんだと思うわ。んなことしなくてもこの浮遊とんでもない戦艦はすでに目ェつけられてるでしょうけどね」

「あー、そういうめんどくさい側面もあったのね。やれやれ、コレ休暇代わりのクエストのつもりだったんだけどなー……」

 海の状態はもうほぼ元に戻っていて、波も大きくはないということで、船を隣につけて停泊させる許可を出した僕だけど、船の責任者としてその会談に同席してほしいとのことだった。

 受け答えそのものは専門の人がやるし、もしかしたら船のこととか聞かれるかもしれないが、適当に相手してくれればいいということだったので。

 そもそも会談といっても簡易的なもので、わざわざ会議室なんかを使ったりもせず、甲板で簡単に話し合う程度だったし。

 高度を下ろし、『ジャスニア』の軍艦に乗り移った僕らを出迎えてくれたのは、向こうの代表の文官か何かと思しき数人だった。
 その先頭には、ゆったりした法衣のような服に身を包んだ女性が立っていた。

「ようこそ私どもの船へ、ネスティアの方々。ほんの僅かな間ですが、歓迎いたします」

 そう言って軽く会釈した女性の所作は、おそらくこういった場での対応に慣れているんだろう、かなり優雅で洗練されたものだった。

 青い瞳と、ウェーブのかかっている赤みがかった茶髪が印象的だ。
 顔に薄く浮かんでいる柔和な笑みやゆったりめの衣服が手伝って醸し出される、落ち着いた雰囲気。外見的な要素ではあるけど、交渉ごとに向いているかも、とも思える。

 頭を上げた茶髪の彼女は、

「ジャスニアの外交担当代表を務めます、ドロシー・グレーテルと申します。どうぞお見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。このたびは緊急時とはいえこの……」

 そんな感じで、何かメルヘン童話の化身みたいな名前の代表さんと自己紹介や挨拶を済ませた後、時間もそれほどあるわけではないということで、早速本題の話し合いを始めた。
 無論、僕じゃなくてネスティアの代表さんが。

 簡単に纏めれば、その内容は……保護したチラノースの方々の処遇とか、同盟国としてこの問題に対しての今後の対応方針とかだ。

 チラノースという国の、おそらくは一部の派閥か何かがバカやった結果であろう今回の騒動については、ネスティアは実際に被害が出ているということで、ジャスニアはその同盟国として、および一歩間違えば同じ島で巻き込まれていたかもしれないという立場から、正式に抗議するという方針をとることに決めた。

 ジャスニアが保護したチラノースの調査団および護衛の傭兵・冒険者については、全員そろって今回の騒動……というか軍の極秘作戦(?)には関与していない、知らなかった、という証言をしている。

 そのため、真贋はこれから聞き取り調査等できっちり調べるものの、無関係だった場合は普通に事情聴取だけで帰ってもらって構わないだろう、ということに。

 戦闘中に生け捕りにした捕虜が数名いるため、証拠やら証言はもうすでに揃っているので、チラノース本国に対して今回の追及をするのに不都合は無いんだそうだ。

 あのメタボの代表さんもその1人らしい。あ、生きてたんだ?
 てっきりその他大勢と同じく、僕とウェスカーのバトルに巻き込まれて消し飛んだかと。

 中将という、軍の中でもかなり上に位置する者が動いていたという時点で、トカゲのしっぽ切り的なやり方での言い逃れも不可能だろうし、後の対応はネスティア、ジャスニア共に本国に帰ってから、ということになるらしい。

 こんな感じで、ホントに簡単に話し合った程度で終わったんだけど――どうもこっちも向こうも対応として考えてた内容は同じだったみたいだ――その後ふと思いついたように、ジャスニアの代表さんがこっちを向いた。

「ああそれから……そちらの方ですよね? 第三勢力までもが介入した戦いにおいて獅子奮迅の活躍を見せ、途中から乱入してきた魔物たちすらも1人で蹴散らした冒険者とは」

 そう言ってにっこり。多分、営業スマイル。

「『黒獅子』のお噂は我らの国にまで届いております。Sランク冒険者の一角であり、拳1つで龍すら打ち落とす徒手空拳の達人だとか。外交大使という立場上、挨拶が遅くなってしまいましたことをお許しください、ミナト・キャドリーユ様」

「あ、いやそんな、ご丁寧にどうも」

 こっちも反射的にぺこりとお辞儀する僕。

 今時分でも遠まわしに言ってたけど、彼女の本分は外交大使としての交渉業務。
 事前に聞いてた通り、僕との会話はおそらくおまけみたいなもんだろうとわかってはいるものの……やっぱ緊張することはするのである。

 要人同士の話し合いのトーンでそのまま話しかけられたわけだから。声が裏返らなかっただけ上出来じゃなかろうか。

 なお、僕の素性……護衛の冒険者であることと、あの船の持ち主であることまでは、最初の自己紹介のときに話してある。もっとも、向こうも予想ついてたし、そもそも『黒獅子』やランク自体をもともと知識・情報として知ってたみたいだけど。

 ただ、戦いの最中に魔物が『乱入してきた』っていう、ちょっと間違った部分があったけども。

 僕がそれらを蹴散らしたのは事実だけど、その魔物はウェスカーが『召喚』した『召喚獣』であって、乱入してきたわけじゃないしね。
 まあ、当事者でもないんだから知らなくても無理ないし、気にすることでもないか。

「ネスティアを拠点としていらっしゃるとは聞き及んでいましたが、あなたのような頼もしい方が味方にいるとなると、ネスティアがうらやましい限りですわ。聞けば、王女殿下とも個人的に交流がおありだとか……もしかして、此度の依頼も?」

「ああいえ、今回は偶々というか、自主的にというか……この依頼を受けたのは、単に好奇心からだったので」

 国からの依頼を受けたとかでは無いです、と言っておく。
 特に、王女殿下(上から何番目の、かは聞くまでもない)と交流があるとかは『別に親密な関係とかではないんで』ときちんと断っておいた。

 冒険者とはいえ一市民に過ぎない僕と王族との交流なんて妙な話題を作られるのはごめんだし、それが原因で何かのっぴきならない事態になるようなことはもっとごめんだ。

 王室に1人、むしろ狙ってそれを引き起こしたりしそうな知り合いがいるので。

 てか、むしろあの人そういう噂を対外的に流して外堀から埋めようとかしてないだろうな? 僕が絡め手とかが嫌いだって知ってるから、まさかとは思うけど……うーん、あの人ならやりそうで怖い……。

 するとそれを聞いて彼女は、『あら』というちょっと意外そうな反応を返してきた。

「そうなのですか……てっきりネスティアにきちんとした拠点を持って、腰を落ち着けているタイプの冒険者の方だったのかと。それでしたら、機会があればぜひ『ジャスニア』にもいらしてくださいね?」

 そして唐突にそんなことを言われた。

 同時に、ネスティアの外交担当の人達や視界の端にいたスウラさんが、今の言葉にだろうか、ぴくっと反応していた。

「はい? ジャスニアに……ですか?」

「わが国は東西に広く、その分気候や植生、生物分布なども多彩ですから。それに伴って、ギルドへ寄せられる依頼も、スタンダードなものから変わったものまでバリエーションに富んでおります。休暇を過ごすような感覚でいらしても楽しめると思いますよ?」

 「Sランクのあなたなら、危険などあってないようなものでしょうし」と付け足されて、ドロシーさんのその話は、そして会談は終わりになった。営業スマイルを添えて。

 緊張したし疲れたけど……最後の最後に興味深い情報が聞けたな。

 ジャスニア、か……気候や植生もそうだけど、資源も魔物もネスティアとは違うんだろうな。

 ……ちょっと面白そう、かも?

 
 ☆☆☆

 
 ミナトがまだ見ぬ『ジャスニア』の地に思いをはせている頃、

 そのジャスニアの外交大使であるドロシー・グレーテルは、ジャスニアの船の中に戻り……その中でも許されたものしか立ち入りを許されていない区画に向かう。

 具体的に言えば、機密事項の書類などが保管されていたり、そういった書類の処理を行う……すなわち、それを取り扱うものだけが立ち入りを許可されたスペースに。

 その中でも更に特殊、彼女のみが鍵を持ち、立ち入りを許されている区画がある。
 ドロシーはそこを守る、重厚でありながら女性の細腕でも空けられるように特殊な仕掛けが施されている扉を鍵で開け、その中に入った。

 そして……ふぅ、と息をついて力を抜いたその直後、
 今まで浮かべていた、穏やかな営業スマイル系の笑みが引っ込み……その顔に、先ほどまでとはうってかわって、クールを通り越して冷たい印象を受ける笑みが浮かんだ。

 眼光は怪しくも鋭く、気品すら感じるようなそれになる。

「なるほどね、彼がSランク、か。見た目は完全に、人のよさそうなぼうやなのだけど……人は見かけによらないものなのね」

 そして、その視線の先にいる人物に、その笑みを向け、言葉を投げかける。

 
「何しろ……あなたと引き分けるくらいなのだものね、ウェスカー?」

「引き分け……ふふっ、果たしてそう言っていいものかどうか。どちらかと言えば、あのまま戦っていれば、やられていたのは私だったかもしれません」

 
 全身を治療の跡と思しき包帯やギプスで覆っているウェスカーが、ソファに座って楽な姿勢をとりながら、自嘲気味に笑っていた。
 その両隣の別のソファには、バスクとセイランの姿もある。

 ウェスカーのその言葉を聞いたドロシーは『あら』と驚いたように言って、しかし別に責めもからかいも慰めもすることなく、笑みを浮かべたまま彼と対面する位置にあるソファに座った。

「あなたがジャスニアの大使として来てくれていて助かりましたよ、ドロシー。防御と召喚で魔力も体力も枯渇状態、転移魔法も使えず……あのままでは危なかった」

「そこを救助してもらった上に、手当てまでしてくれたしねえ。ホント助かったよ、ありがと、ドロシーちゃん」

「ああ、本当に助かった。だが失敗は失敗だ、組織上層部からの処罰は免れんだろう……まだ財団に我らの居場所があることを願うばかりだな」

「気にすることはない、とはさすがに言えないけれど、あなた達の責任じゃないわ。今回のことは完全なイレギュラーだもの。本来は事情を知る者を始末して資料を回収するだけの任務だった……あんな巨大戦力が向こうにいるなんて、予定外よ」

 やれやれ、と方をすくめて首を振るドロシー。

 その言葉に、セイランとバスクがほっと胸をなでおろした。

 ウェスカーは特に何の反応も返さなかったが、気にせずドロシーは話を続ける。

「シンデレラなら、『レシピ』は手に入ったのだから、再現は私達でも十分に可能だわ。それに……本命の方の成果は予想以上のがあったしね。お咎めはないと思うわよ」

「……何?」

 その言葉を聴いて、セイランの顔色が変わった。
 『お咎めなし』を聞いての安堵……ではない。むしろ今までそうだった顔色が、ドロシーが発した言葉を聴いた瞬間、眼光鋭い狩人か何かの目になった。

「……まさか」

「そうよ……彼ら暗部によってチラノースから持ち出された、内部文書。それも、かなりヤバい情報が満載の、使い方次第で色んなことが出来そうなレベルの……ね」

 彼ら『ダモクレス財団』の今回の目的は2つ。

 1つは、上質な『シンデレラ』を作るためのチラノース暗部秘伝のレシピ。
 そしてもう1つは……彼らがチラノースから逃げ出す際に持ち出した『機密文書』。

 合併後、領内の治安が安定するまでしばらく続いた混乱期に、その混乱を収めるためという名目で打ち立てられた、チラノースの数々の後ろ暗い歴史が記録された、トップシークレットの中のトップシークレット。

 永久に封印されているべきそれを彼らは、逃げ出した後に他国の貴族や官僚に取り入ってかくまってもらう交渉をする際、『シンデレラ』と同じく交渉カードにするために持ち出していたのだ。

 今回チラノースが彼らを島で探していた真の目的は、『シンデレラ』の密造技術の接収と裏切り者の処断だけではなく……その禁断の文書の回収だった。

 情報の内容の危険さに比例して、そのやる気は本気も本気。情報の漏洩を完璧に防ぐため、AAAを3人も連れてきて、確実に皆殺しにする気であった。

 ……そのうちの1人は、最初から財団に通じる獅子身中の虫であったわけだが。

 ウェスカーとバスクがターゲットの回収・交渉のために動き、同じく彼らの存在を察知して抹殺および情報の回収を狙っているチラノースの者たちに対しては、セイランがさりげなく牽制・妨害を行う、という手はずだった。

 しかし、次々に起こったイレギュラーにより、計画は狂っていく。

 3カ国の調査団が同時に来訪したせいで、見つからないように逃げ隠れし始めた。

 決して大きくない島ではあったが、彼らを中々見つけることが出来ず……その間に、彼らが島にいる痕跡が(その正体を知っているか否かはともかく)次々に発見されていく。

 急いで探そうにも、召喚獣や人員を使って大規模な走査線をしけば、彼らの方が3国のいずれかに見つかってしまう危険性が大きいため不可能……そうでなくても、特大のイレギュラーであるミナト達がいる。

 『サテライト』の名称や能力まではともかく、彼らが広範囲を適確に策敵できる能力もしくは魔法を所有していることを知っていたため、ウェスカーもバスクもとにかく彼ら『邪香猫』に存在を察知されないように慎重だった。

 特にミナトの場合、ウェスカーどころかミナト自身もその理由は知らないとはいえ、なぜかウェスカーの気配をどれだけ上手く隠そうが近くに行くと察知する。

 もっとも……それは逆に、ウェスカーもそうなのだが。

 それらの理由から、あまり大規模な捜索を行えず、時間ばかりが経過し……結果、ウェスカーたちが彼らを見つける前に、彼らが行動を起こした。
 ネスティアの船をその一部の人員を動かして襲撃……しかも、返り討ちにあって捕えられてしまったのである。

 結果、回収もしくは始末すべき人員の半分以上が捕虜となってしまった。しかも、よりによってミナトが守るネスティア軍の捕虜に。

 この時点でウェスカーらは、残りの人員を一刻も早く処分すべく、どうにかその日の夜に探し出すことに成功。
 さらに、そのことをセイランに伝えた。内容を変更した計画と共に。

 その変更点とは、セイランの役割をチラノース軍の妨害からミナト達の監視および誘導へと変更するというもの。

 基本は監視だが、周囲の状況を察知することが出来る『邪香猫』には高確率でその存在が気付かれてしまうであろうことをも前提にした任務だった。

 見つかった後は、自らが獅子身中の虫であることを匂わせると同時に、魔法発動体を含む全ての武装を解除して無抵抗で捕虜になる。

 これにより、『話は通じる相手』だと印象付けて少しでも動きやすい環境を保ちつつ、ネスティア陣営の懐に潜入。隙を見て捕虜の回収、もしくは始末を……という計画だった。

 なおその際、手土産としてチラノース暗部と思しき連中の居場所を教え、案内する。
 もっともその頃にはウェスカーとバスクによって彼らと彼らの荷物は回収されており、適度に『残した』痕跡以外はその洞窟には何も見受けられず、『これは私も予想外』っていう反応を見せてお茶を濁す、という予定だった。

 期待したものは得られないものの、適度に残されている物証を回収させてやれば、そう大きな文句も出ないだろうと。

 が、その計画通り『空っぽの洞窟』に案内したつもりだったセイランは、彼女によっても予想外なことに、屍山血河が築かれた『血みどろの洞窟』へと案内してしまった。

 一足先に彼らにコンタクトをとったウェスカーが、『レシピ』と『機密文書』の入手後、全員を口封じに斬り捨てていたことによって。

「機密文書に記されていた情報によっては、彼らの口を封じる必要があるかもしれない、ということは最初から考えていました。あの場でその内容を見せてもらった結果、それに該当すると判断したため、彼らは全員処分させていただいたのですよ」

「生かして利用するという選択肢が消えて失せるような内容だったと……しかし口封じをするなら、やはりせめて事前に一言欲しかったですな。で、その内容とは?」

「あなたがそれを知る必要は無いわ」

 突き放すようなドロシーの言葉に、セイランの眉間にしわができる。

 ミナト達とのやり取りでも見せたように、ポーカーフェイスが得意な彼女には珍しく……不機嫌さがわかりやすく顔に表れていた。

「あら、不満?」

「……いえ、別に。ただ……」

「わかっているわよ、シン・セイラン。契約どおり、あなたが欲しがっている情報に関してはちゃんと開示するわ……しかしそれ以外の、こちらがあなたに提示する必要なしと判断したそれに関してはあなたは詮索・干渉しない。これも契約よね?」

「わかっている。しかしそれならば、その機密情報の中には……」

「精査してみないと断定は出来ないからもう少し待ってちょうだい。1ヵ月後には、あの中から拾えたものも含め、あなたが欲しがっている情報の大部分を渡せると思うから」

「……承知した」

 しぶしぶながら、という雰囲気を遠慮なく漂わせつつも、ドロシーの言葉を受け入れたセイランは、それ以上何も言う事はなく、それを確認したドロシーは満足げに頷いた。

 そして、今一度ウェスカー、バスクとあわせた3人を見渡すと、

「さて、3人とも。お疲れの所悪いけど……これから本土に戻ったらすぐに動いてもらうことになると思うから、そのつもりでいてね。薬は用意するから、死ぬ気で休んで体力を回復させておいてちょうだい。特にウェスカー、あなたはね」

「うぇ!? もう次の任務なの? 人使い荒いなー……ちょっとは休暇とかあってもいいんじゃない?」

 そう、どこまで本気かわからない調子でバスクが反論すると、ドロシーはこちらも内心を悟らせない笑みを顔に貼り付けたまま、

「そういうクレームは『総裁』に直接言ってもらえるかしら? 3日後には会えるから」

「……え、マジで? 来んの?」

「おや、それは珍しいですね……あの方が直々に動かれるほどの案件なのですか?」

 驚いた様子で、バスクとウェスカーの2人がそう返す。

 セイランも驚いてはいたものの、認識もしくは立場が違うのか、驚き方そのものは2人よりは小さく、ぴくっと眉が動いた程度だった。

「ちょっと会って指示を貰うだけよ。とはいえ、身なりはきちんとしとかないと失礼だから、今言った通りコンディションは戻しておいてね。それと……」

 ドロシーはそこで一旦区切ると、頬杖をついているセイランに目をやり、

「新参の外様とはいえ、あなたにとっても『総裁ボス』であることに変わりはないから……くれぐれも失礼のないように頼むわね? ……死にたくなければ」

 セイランからの返事はなかったが、ドロシーは気にした様子はなかった。

 
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