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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第141話 死闘・終焉

最近パソコンがバカになってきてます……動作が死ぬほど遅かったり、不具合もわんさか。

そして、多分今迄で一番長い話になりました……にしたって更新するの遅すぎですいません。
第141話、どうぞ。

感想へのお返事は後ほど変えさせていただきます。しばしご容赦を……


「ぬぅぅぇぇぇええええィ!!」

 大上段から振り下ろされる大槌。

 狙った獲物にあたりこそしなかったものの……それそのものの重量に加え、圧倒的な腕力で持って地面に叩きつけられたそれは、超のつくほどに巨大な衝撃をそこに叩き込む。

 地面が割れ、衝撃波が発生し、土や砂、砕けた大小の石弾が周囲に飛散し、決して狭くない範囲を蹂躙していく……味方であるはずの、チラノースの兵士をも巻き込んで。

 その光景は、この男……ダモス・ジャロニコフがAAAの実力を持っているのだと証明するに足るものであった。鋼のような筋肉と超重量の大槌を用いて繰り出される一撃は、防御力の高い鋼の鎧を身にまとっているはずの兵士達を軽々と吹き飛ばしている。

 その、直撃すれば致死確実の一撃を、当たる直前でさっと飛び退いてかわしたのは、赤いバトルドレスを軽やかに翻して戦場を駆ける褐色の美女。

 直後、急加速してダモスの懐に飛び込んだシェリーは、下段から逆袈裟に剣を振るう。
 刀身に超高熱の炎がまとわりついた魔剣の一撃をしかし、ダモスはその大柄な体からは想像もできないような俊敏さでのバックステップでかわすと、追撃に備えて槌を構える。

 隙のないその構えに、シェリーは二撃目を諦め、魔力の消耗を抑えるため刀身の炎を一旦消した。

 その顔には……久々に戦いがいのある相手、それも人間のそれに出会えたからだろうか、歓喜の笑みが見て取れる。

「くくっ……コレよコレ、私が求めてたのは。最近は強くなりすぎるのも考えもんだと思ってたけど、やっぱ戦いはやめらんないわね……!」

「はっ、肝が据わってるじゃねえかよ、女。中々気に入ったぜ……こんな出会い方じゃなかったら、俺の女にしてやってもよかったんだがな」

「あら、ありがと。でも残念、私もう、心に決めた人がいるのよね」

「へへっ、安心しな。そういう女を力で屈服させるのも好きだからよ、俺は」

 ダモスは下卑た笑みの中に残虐性を滲ませながら、迎撃のために構えていた大槌を再び攻撃の時に構えに戻す。

「昔は戦場といえばほとんど野郎ばっかりだったからなァ、今じゃ女兵士も割と増えて、いい時代になったぜ。恐怖に打ち震えて許しを請う女を手篭めにするのは、俺の人生の最高の楽しみなんでな」

「うっわ、趣味悪……っていうかあんた、戦場に出てるの? 冒険者なのに?」

「あ? 何を聞いて……ああ、なるほどな、平和ボケしたネスティアじゃあ、冒険者が戦争に動員されるなんてこともほとんどねえからなあ、ピンとこねえのも無理ねえか」

 冒険者の仕事は、主に危険区域の探索や調査、素材の採取や魔物の討伐である。

 しかし、まれにでは在るが、それらのどれにもあてはまらないイレギュラーな種類の以来がギルドに、もしくは冒険者個人に直接寄せられることもある。

 要人の護衛任務ならまだわかるが、後ろ暗いものになると、危ない品物の運び屋や、狩猟が制限されている区域での密漁やその手伝い、酷い時には暗殺など……。

 そういったイレギュラーな依頼の中には、『戦争への参加』というものがある。

 他国と戦争状態にある、もしくは内戦が発生している国や地域などに行くと、国や政府の要人などが依頼人となって冒険者を募集する。
 その依頼を受けた冒険者は、依頼人の軍事力の一部として戦うというわけだ。言ってみれば傭兵のようなものである。

 ダモス・ジャロニコフは、そういった依頼を好んで受ける、変わり者の冒険者だった。

 彼は世界各地の『戦場』を渡り歩き、ギルドを通したものか否かを問わず、その土地で行われている戦争に参加している。適当に決めた勢力に味方し、相手の勢力の兵士を虐殺し……時に気まぐれで女兵士を食い物にして、自分の欲望を満たしている。

 戦闘狂、虐殺狂、嗜虐癖の殺人鬼などと呼ばれて恐れられ、しかし戦争中の国にとっては味方につければ恐ろしくもこの上なく頼もしい存在として、いびつな好意を向けられている。

 AAAランクの地位に上り詰めることが出来たのも、本人の実力はもちろん、いくつかの国や地域の要人から推薦が出されたからだという話もある。戦争時に大戦力として活躍したというのは、意図せずしてそういった繋がりを作り出すことも多々あったのだ。

「くっくっく……見たとこ、あんたも戦好きみてえだが、もったいねえ人生の使い方しちまったなあ? 戦いたけりゃ真面目に冒険者なんぞやらずに、戦争に行きゃよかったのによ。戦い放題、殺し放題、その上金ももらえるんだぜ?」

「ここで死ぬのが確定したみたいな言い方が腹立つけど……まあいいわ。私、戦いは好きだけど戦争はあんまり好きじゃないのよね。お偉いさん達の黒~い腹芸につき合わされてるみたいで、なんか気に入らないの。戦いの理由が他人の私利私欲や私怨ってのも嫌。私は戦いたい時に戦いたい人と戦いたいように戦うタイプなのよ」

「そうかよ、なら結構だ……これから死ぬにあたって後悔がねえのはいいことだぜ!!」

 地を蹴るダモス。再び、その体型や装備に似合わないスピードで接近すると、斜め上から袈裟懸けに大槌を振り下ろした。

 しかし今度は、その大槌がオレンジ色の魔力の光で覆われており……その暖かな色彩に反して、シェリーは背筋が寒くなるほどの凄まじいプレッシャーを感じ取っていた。

「……っっ!!」

 とっさに後ろに跳びつつ、前方向に炎の刃を何発も飛ばして備えた次の瞬間、先ほどに何倍もの威力の一撃が地面に叩き込まれ……ダモスを中心に大きなクレーターができた。

 その際に弾き飛ばされた大量の土砂が、またしても周囲の全てを巻き込む凶器となって空間そのものを蹂躙していく。

 同時に立ち上った大量の土煙が少し晴れてくると、そこには今の一撃で屍にされてしまった20人以上のチラノース兵士達が転がっていた。

 シェリーはというと、迎撃にはなった炎の刃でも完全には衝撃波と土砂の弾丸を防げず、手足に大小の傷をいくつか負っていたものの、戦闘継続に何ら問題はなかった。

 それでも、今しがた見せられた圧倒的な破壊のインパクトは大きく、うかつに近づくのは危険であるとの認識を頭に刷り込まれていた。

 ……が、

「面白いじゃない……言っとくけど、一撃必殺なら私だって負けてないんだから!」

 再び炎を剣に纏わせ、地を蹴るシェリー。
 彼女にとって、危険であることと戦いをためらうことはイコールではなかった様子。

 それを見て驚くダモスだが、すぐにその顔に歓喜が浮かぶ。

「はっはァ、ますますもっていい女だ! 決めた、お前は嬲らねえ、一撃で頭を砕いて殺してやる! いい女は屈服させて抱くのもいいが、一思いに殺して血に染まった骸にしてやるのも俺ァ好きなんでね! 花は散る時が一番キレイとはよく言ったもんだよなァ!!」

「私も人のこと言えないけどホント物騒なおじさんだこと! 悪いけどそれ遠慮するわ! 私はまだまだこの先1000年は満開続ける予定なんだからねっ!」

 

「どォ―――らぁっしゃぁァァァぁああ!!!」

 大剣……クレイモアを横に突き出すように構えて、そのまま一回転。
 範囲内の敵を纏めてなぎ払うその豪快な一撃に……チラノースとダモクレスの兵士達。

 その場で真っ二つになった者もいれば、鎧や盾で受け止めた結果、受け止めきれずに吹き飛ばされてしまった者もいる。その両方もだ。

 しかし、彼女が相手にしている本命の敵は……これで何度目かになる大回転斬撃を軽々とかわし、軽業のように戦場を跳ね回っていた。

「だああ、ストレス溜まる! いい加減当たれ、ガキンチョ!」

「当たったら死んじゃうでしょーが。ったく、俺の知り合いの女の子ってどーしてこうきっつい性格の娘ばっかなんだろ」

 軽口を叩きながら投げナイフ……しかも毒塗りのそれを一度に何本も投げるバスク。

 セレナはそれを、左手に構えた大盾で振り払うようにまとめて防御すると……その全面の宝玉の部分に魔力を流し、充填していく。

 『やばっ』というセリフと共にその場からバスクが飛び退った次の瞬間、人の頭ほどもある魔力弾が放たれてそこに着弾・炸裂した。

 またしても兵士数人を消し飛ばす威力のそれを見たバスクは、ヒュウ、と口を鳴らしながら体勢を立て直していた。

「やれやれ……遠距離にも隙なしか。ホント物騒な……あのミナトってのの知り合いってこんなんばっか? ……お嬢大丈夫かね、このまま彼とつるんでて」

「あら、元弟子が心配? 大丈夫よ、うちの義弟は頭はおかしいけど仲間思いだから」

「あっそう……ってか、俺、お嬢と師弟関係だって言ったっけ?」

「構えや動き見りゃわかるわよ」

「……そりゃすごい」

 言いながら、サーベルを構えなおすバスク。
 魔力を流したのか、その刀身を赤黒い光が覆い……次の瞬間、一呼吸で数度振るわれたその刃から、三日月のような形状をした魔力の斬撃がいくつも飛んだ。

 しかし、セレナはそれもやはり大盾で受け止めた……その直後、バスクの顔に笑みが浮かぶ。

 はじかれてそのまま霧散するかと思われた魔力の刃は、消えも落ちもせず、ブーメランのように舞い戻ってきて再度セレナに襲い掛かったのだ。

 驚くセレナだが、年の功だろうか、対応は早かった。

 再び大盾を構え……しかし今度は、腕ごと大きく頭上に振り上げ……

「――ぅおらぁっ!!!」

 そのまま振り下ろし、赤黒い斬撃全てを前面で叩き落として地面とサンドし、押しつぶしてしまった。

 ズゥン、とものすごい音がして盾は地面にめり込み、セレナがそれを引っこ抜くと、ちょうど大盾の四角形のへこんだ跡が地面についていた。
 無論、赤黒い魔力は影も形もない。1つ残らず潰されてしまっていた。

(め、滅茶苦茶な……盾も十分凶器ってわけか……)

 たらり、とバスクの頬を嫌な汗が伝い、彼の中からセレナとクロスレンジで戦うという選択肢がなくなった。

 

「ひるむな、進めっ!! この戦こそ、祖国のために戦う戦士たちの大舞台と心得よ、その命を持って祖国に勝利をもたらすのだ、死を恐れるな、戦士たちよ!!」

 チラノース軍中将ゼストール・ゴールマンは、武器と武器のぶつかり合う戦場でもよく通るほどの大声で舞台に檄を飛ばしながら、自らも前線に出て武器を振るっていた。

 高圧的な態度ではあるが、その実指揮能力は確かであり、混乱状態だったチラノース軍をまとめあげて再び組織として動かすことに成功していた。

 さらには、選民意識を少なからず持っている兵士達を――故意にそういう連中を選んで部隊に選抜していることもある――上手く刺激してあおり、死兵……死を恐れない、むしろ祖国のために散っていくことを美徳とする精神を持った兵士へと変えていた。

 常日頃の教育あってのものであろうが、こうなると気迫で押されがちになるネスティアの軍および冒険者たちは不利である。

 しかも、中将の周囲に限ってとはいえ、軍の動きが統率されているせいで、一発逆転を狙って中将を直接狙うということができない上、中将自身がAAAランクである。流れ弾的なものも含め、遠距離攻撃は全て叩き落され、近距離で挑んでも斬り伏せられる。

(人を使うことに長け、なおかつ自分も戦える……中将の名は伊達では無いということですか……厄介ですね)

 『ワルサー』を片手に戦場を走り回りながら、発射地点を特定されないように兵士達の影にまぎれて何度か魔力弾を放ったナナの攻撃も、同じように叩き落されていた。

(かといって放置すれば、統制された兵力によってこっちの被害が看過できないものになる……ですが、中途半端な中・遠距離攻撃は通じない。かといって私は近距離は得意とは言えませんから論外……となると、ここは……)

 本来は両手剣であろう大きな剣――セレナのクレイモアほどではないが――を片手で振り回して敵をなぎ払っていくゼストール中将の姿に、どうしたものかとナナが思案していた……その時、

 

『え~、こちらミュウ、こちらミュウ。みなさーん、準備できましたー。作戦を開始しますので、手はずどおりにお願いしますー』

 

(((来たか!!)))

 十数分前、あらかじめミナトから『作戦』を聞かされていた『邪香猫』のメンバー達は……頭に届いたミュウの念話に、いよいよもって反撃が始まることを知った。

(まあ、作戦ってほど大層なものでもないんですけどね……ただ、やることが滅茶苦茶なだけに、事前に通達しとかないと味方にまで被害が出るってだけで)

 そんなことを頭で考えているミュウは……現在、空中に立っていた。

 が、しかし……別に浮遊魔法で浮いているわけではない。

 乗っているのだ……幻術で隠している、あるものに。

 そして次の瞬間、その幻術が取り払われ……戦場に突如として、日の光をさえぎり大きな影を作る、巨大な物体が姿を現した。

 空中にいきなり出現したそれに、敵味方関係なく皆唖然とする中……1人、バスクだけが、それが何かを知っているがゆえに反応し、しかしやはり余計に驚いていた。

(は!? ありゃ……『オルトヘイム号』!? 何でここに……てか、浮いて……!?)

 そして、そのさらに次の瞬間、

「はい、ではエルクさん……左舷魔力砲、全門で一斉掃射お願いします。目標はあのでっかいのです」

『はいはい了解。アルバ、あんたも行ってきなさい』

 ――ぴーっ!!

 事前にミナトから操作方法を聞いていたエルクが、操舵室という名のコクピットで操作したことにより、『オルトヘイム号』の兵装の一つ、『魔力大砲』が火を噴いた。

 片側8門あるそこから、魔力の弾丸が高速で発射され……ミナトが戦っている『コンチネンタルガーディアン』に直撃する。

 それから少し遅れて……ぎゅん、と戦場に飛来したアルバが、目の前に魔力を6つ同時に収束させる。6つの脳をフル稼働して発動された攻撃魔法は……ミナトがクローナ邸で開発した、実戦初公開の『否常識魔法』。

 その名も『ハイドロゲンブレイカー』。
 水に魔粒子を混ぜ、それを酸素と水素に分解して魔力弾に再構成、魔粒子によって安定を保ちつつ、対象に着弾と同時に魔力反応で着火、爆風と熱量で相手を粉砕する魔法。

 アルバにより発動され、6つの青い光弾となって放たれたその魔法は……それぞれ巨人の両手足と胸と頭に着弾し、大爆発を引き起こした。

 そこに、追撃の魔力砲が打ち込まれ……ついに、『コンチネンタルガーディアン』は大きくバランスを崩し、仰向けにどう、と倒れた。

 その超重量ゆえに、店頭の衝撃で当たり一体の地面が大きく揺れる中……時を同じくして、オルトヘイム号からは、ミナトがつけたギミックの1つ『テレパスピーカー』によって、ネスティア側の兵士達全員の頭に、スウラからの指令が念話で送られていた。

『全軍後退! 今からあの船に搭載されている兵装による総攻撃が開始される! これにより敵兵を一掃することを目的の一つとしているため、密集していては邪魔になる! 至急後退し、敵陣営から離れて陣形を組みなおせ!』

 特定人物(複数可)を指定してその人物に念話を飛ばずスピーカーによって、ネスティアの見方の兵士達および冒険者達の頭に指令が届けられ、戸惑いつつもそれにしたがって後退していく兵士達。

「っ!? これは……全軍前進っ!! ネスティア軍に距離をとらせるな、的にされるぞ!!」

 その動きに気付いたゼストール中将は、今しがた出現した巨大な浮遊戦艦とその代火力から、瞬時にネスティア陣営の狙いに気付いて追撃を支持するも……その最前線の兵士達が、ナナとアルバの援護射撃によって足止めされてしまい、失敗。

 両軍の間に、数十mほどではあるものの距離が出来てしまい……しかしそれだけ開けば十分だった。

 直後、巨人からこちらに標的を変えた魔力砲が雨あられと打ち込まれる。

 瞬く間に戦況が逆転していく光景に、そして何よりもあのインパクトが抜群を通り越して非常識な浮遊戦艦の登場と攻撃に、巨人と連携して戦っていたウェスカーすらも、ほんの数秒ではあるが……動きを止めて驚いていた。

 そして……この戦場で、この相手の前で、その数秒は致命的。

「もらったァ!!」

「っ!?」

 土煙の中から最高速度で飛び出したミナトの拳が迫り……あわやというタイミングでそれに気付いたウェスカーは、とっさに剣を前に構えて防御の構えを取る。

 それにより直撃は免れたものの、何重にも重ねた魔法障壁でも防げない威力の一撃によって、剣は弾き飛ばされてウェスカーの手から離れてしまい……丸腰になったウェスカーは、土煙を目くらましに利用し、その中に飛び込んだ。

 が、それを確認する前にミナトの豪快な回し蹴りが振りぬかれた。その爆風であたりの土煙が散ってしまい、ウェスカーの姿があらわになる。

 そしてそこに……

「逃がすか……『ダークネスキック』!!」

 その足に闇色の光が渦巻くミナトのとび蹴りが叩き込まれ……ど真ん中に直撃を受けたウェスカーの体は、くの字に折れ曲がって地面に叩きつけられた。

 

 一方、別の戦場にも変化が訪れていた。

 先ほどまで、ダモスと相対していたのは、シェリー……しかし今しがた、その2人の間に、灰緑色の影が割り込んできていた。

 だん、と大きな音を立てて盾の底辺を地面に叩きつけ、シェリーを背中にかばって2人を分断する形で立っている、セレナである。

「あぁ!? 何だテメエ、割り込んできやがって……邪魔する気かよ、あぁ!?」

「うっさいわよトンカチ。シェリーちゃん、ほら、作戦。こいつ私がやるから、配置について」

「あー……それなんですけどね? お義姉さま。もうちょっとダメ? 今いいとこ……じゃなくて、やっぱ決着は自分でつけたいっていうか……」

 事前の打ち合わせどおりの行動を取るように促すセレナに対し……どうやらやはり興が乗ってきていたらしいシェリーは、ねだるというか渋るように、声を小さくすると共に目線でも『まだ戦いたい』と訴えていた。

 どうやら、よほどダモスとの戦いはスリリングで楽しかったようだ。久しぶりに戦闘狂の血が騒いで、この戦いをまだまだ堪能していたいあまり、作戦開始を少し時間的に融通してもらえないか……という懇願だったが、セレナの答えは、

「却下! さっさと行け! 無駄にする時間は1秒だってないの!」

「で、でも……」

「でももへったくれもない! あんたが戦闘バカなのはミナトに聞いて知ってるし、それ自体は別にいいけどね、己の欲望や一時のテンションに走って大局を見誤るようなバカはキャドリーユ家には愛人だろうと関わる資格なし!! わかったら働け小娘!! あんたを信頼してる義弟の思いを裏切るようなら、私があんたを叩っ斬る!!」

「は、はいぃ、わかりましたお義姉さまっ!!」

 セレナのあまりの剣幕に押され、シェリーはその場から走り去る。

 その背中を追いかけようとした矢先に、眼前に割り込んできたセレナによって進路をふさがれ、こちらも動揺に興が乗ってきていたダモスは、目に見えて不機嫌になっていた。

「おい、テメエいい度胸してるじゃねえか。他人の戦いに水差しやがって……!!」

「あ? かんけーないわね、誰の戦いだろーと。勝つために、勝てるように動くのは当然のことでしょ? そのためには私情を押し殺して任務に当たる……基礎中の基礎よ?」

「はっ、お利口なこって! まるで軍人だなおい、ますます腹立ってきたぜ!!」

 言うが早いか、ダモスは大槌を構えて地面を蹴り、恐るべきスピードでセレナに突進してくる。その様子は、ダモスの体が筋骨隆々の巨体であることも手伝って、巨大な岩が砲弾の速度で突っ込んでくるかのような威圧感だった。

 しかし、剣と盾を構えるセレナは、それに一切動じる様子を見せない。
 恐れもおびえもなく、ただ真正面からダモスを見据え……左手に持っている大盾を、突き出すようにして構えた。

 ダモスはそれを見て、にやりとほくそ笑み……防御の構えを取っているのにも構わず、大槌を大上段に構え、さらに『土』の魔力までもそこにまとわせ……全力で振り下ろす。

 その自慢の怪力で、大槌が繰り出す圧倒的な破壊力で、大盾もろともセレナの体を粉砕するために。

 それに合わせる形で、セレナもまた地面を蹴り、大盾を叩きつける要領で突き出してくるが、自らの怪力に絶対の自信を持ち、勝利を確信しているダモスは、一切躊躇することなく大槌を振りぬいた。

 そして、大槌と大盾、2つが正面からぶつかり……次の瞬間、

 
「おぉーりゃぁぁあああっ!!!」

「ッ!? ぐがぁはぁっ!?」

 
 一瞬の拮抗すら許さず、セレナの大盾が大槌ごとダモスに叩きつけられていた。

 岩盤すら粉砕する威力の大槌を真正面から受け止めておきながら、それをはじいて押し返し、さらにはそのまま勢いの衰えぬ盾の殴打でダモスを吹き飛ばしたのである。

 周りで見ていた兵士達には、とても信じられない衝撃的な光景だった。

 それも当然だろう。今の光景が示す事実はつまり……この細腕の女性が、腕力と腕力の真っ向勝負でダモスに圧勝したということに他ならないのだ。大盾で大槌を押し返して殴るという行為は、その他の理由では成立し得ない。

「お生憎様……私こう見えても、ネスティア王国軍歴代最強の怪力持ちなのよ。地面が割れる程度の腕力じゃ私は……聞こえてなさそうね」

 今の一撃で全身打撲であろうダモスは、脳も激しく揺さぶられたらしく、目に見えてふらふらだった。そして……それを見逃すセレナではない。
 右手のクレイモアを大上段に掲げ……振り下ろす。

 その一撃で、ダモス・ジャロニコフの脳天から股までを刃が断ち切り……赤黒い血の濁流と共に真っ二つにした。

 左右に分かれてドチャッと倒れ、動かなくなったそのグロテスクな屍を見下ろしながら、セレナはクレイモアについた血液その他を払った。

 
 この時点で、『作戦』はほぼ達成されたといってもいい。

 まず、ミュウの幻術を駆使してエルクとミュウが一時戦場から撤退し、ギーナと共にこちらに向かっているスウラを回収する。

 そして、少し遠くまで離れてから……『邪香猫』ではミナトの次に魔力量が多いアルバの協力により、『オルトヘイム号』を呼び出し、そこに乗り込んで発信、ミュウの幻術で姿を隠しながら戦場に舞い戻る。

 あとは搭載されている兵装によって遠距離から『コンチネンタルガーディアン』を攻撃して隙を作り、それによって短時間だろうが1対1になるミナトがウェスカーを撃破。

 その後、今度はミナトが『コンチネンタルガーディアン』の撃破に集中し、オルトヘイム号の兵装はチラノース兵達への爆撃に回す。その際、事前にスウラが『テレパスピーカー』で兵達を下がらせ、アルバとナナにその援護をさせることで混戦状態を解消しておく。

 さらに、多少なりとも敵に動揺が走るそのタイミングを狙って、今まで相手にしていた敵との組み合わせをシャッフルする。

 それまでシェリーが担当していたダモスとの戦いを、正面からの腕力勝負……すなわち相手の土俵で真っ向からねじ伏せられるセレナが引き受け、シェリーは別の場所へ。

 セレナとダモスはどちらもパワータイプ。同じタイプの戦士同士がぶつかれば、その力および戦士としての実力で勝る方が勝つのは道理である。加えてダモスは、セレナを細腕の女だと思って油断していた。速攻の一撃で決めるには理想的な状況だったわけだ。

 見事その思惑を成功させ、セレナは勝利したわけだが……そのセレナが相手取っていたバスクの相手は、ナナが受け持つことになっていた。

 そして、ナナが相手取る、というより様子を見ていたゼストール中将は、この混乱で兵たちへの指令を飛ばすのに手一杯であると見て、一時的に放置。他の相手を片付けた後で、集中攻撃でしとめる……という予定だった。

 が、その予定は一部狂っていた。

 中将が……突如として背後から放たれた魔力の矢に胸を貫かれ、その周辺の肉を消し飛ばされて絶命する、という展開になって。

 
 ☆☆☆

 
 ……おおむね成功、と見ていいだろう。この数十秒の間に、勝勢はあきらかにこっちに傾きつつある。セイランさんが狙撃で中将さんを殺したのは予定外だったけど。

 ザリーを追いかけてきたのか、それとも単にこの戦いに参加するためにここに来たのかはわかんないけど、浜辺沿いに走ってきて様子をうかがってた(例によって『サテライト』で筒抜け)彼女は、混乱に乗じて厄介な連中の口封じを優先して行うことにしたようだ。

 長距離狙撃で中将さんの胸にトイレットペーパー(未使用)が1ロールまるごとはまりそうな風穴を開け、まんまと殺害に成功したセイランさんは、動きを見るに、今度は『オルトヘイム号』を攻撃しようと接近もしくは潜入を試みたようだけど……今は躊躇するように足を止めている。

 おそらく、ダモス戦から離脱したシェリーが戻ってきて甲板に陣取り、迎撃姿勢を見せてるからだろう……接近戦闘要員として速攻で船に戻ってもらっといてよかった。

 接近戦ならシェリーに分があるだろうし、あの距離から弓矢で攻撃してきても、オルトヘイム号には船全体を保護するバリアフィールド完備だ。相当な魔力を集中させた攻撃ならともかく、いくらAAAの攻撃でも遠距離じゃそうそう突破は出来ないはず。

 それに、無事ダモスを撃破した姉さんが、バスクの相手を含む後の戦いを引き受けて、ナナさんがすぐに船に戻るはずだから、向こうはもう問題ないだろう。

 ……それよりも、こっちの問題だ。

 次の僕の任務は、この岩石の巨兵『コンチネンタルガーディアン』の破壊だけど……ウェスカー撃破後に挑むはずだったこの任務を前にして、僕は妙な不安感に襲われていた。

(……さっき、ウェスカーを蹴り飛ばした時、何か違和感が……)

 本気の『ダークネスキック』をウェスカーのみぞおちにクリーンヒットさせたその瞬間、上手く言えないけど……何だか妙な『違和感』を感じた。

 手ごたえはあった。蹴った感触、間違いなく実体、本物の人間を蹴った時のものだったから、お得意の幻覚ってことは無い……と思う。

 現に、蹴っ飛ばされて吹き飛んだウェスカーの体は、地面に激突して動かなくなり、今もここから見下ろす位置に力なく転がっている。血も流れてるし、激突の衝撃で手とか足が変な方向に曲がったりもしてるけど……消えたりする気配もない。

 だから、ザリーの『砂分身』みたいな分身系の魔法ってこともないと思うし――そんな魔法があるのかはわかんないけど――蹴る直前、というか蹴った瞬間にも、気配はきちんとウェスカーだった。

 不審に思いつつも、さっさとこの巨人を破壊しようとした……その時、

 斜め右、僕から見て14時の方向に……凄まじい魔力が収束していくのがわかった。
 それも……間違えようもない、身に覚えのある魔力が。

 はっとしてそっちに視線をやると……そこには、開けた岩場の上で、信じられないくらいの量と密度の魔力を練り上げている、今しがた倒したはずのウェスカーがいた。

 驚いた僕の視界の端で、地面に倒れていたウェスカーの体がゆっくりと透けていき……魔力の残滓になって霧散し、消えた。

 しかしその消え方は、幻影や分身のそれじゃあない。アレは……この戦場でも、さっきまで何度も目にしていた……

(あれは、呼び出された『召喚獣』が消える感じの……まさか!!)

 
「『ドッペルゲンガー』か!?」

 
 『ドッペルゲンガー』

 師匠のところで読んだ資料で、名前だけ目にした……ランク『測定不能』の魔物。

 ただしそれは、単純な戦闘能力によって定められたランクではない。
 こいつが持つ……敵と同じ姿に擬態し、同じ能力を使って襲ってくるという、とんでもない特殊能力を持つことによるものだ、って書いてあった。

 その能力も、ある条件下でしか使えないとか、再現する戦闘能力にも上限があるとか言われてるけど、どこに生息しているのかもわからないため確かめようがない。あくまで、伝承や冒険者の口伝による報告だけがその根拠なのだ。

 何せ、師匠たちですら見たことがない魔物なんだし。

 一説には、すでに絶滅したとさえ言われた魔物で、師匠たちも一度も見たことがないって言う……まさかアイツ、そんなとんでもない奴まで『召喚獣』にしてたのか!?

 じゃあアイツ今、土煙に隠れたあの一瞬でそれを召喚して、自分に化けさせて身代わりにすると同時に幻術で隠れて……って考察してる場合じゃない!

 今あいつが練り上げてる魔法、間違いなくヤバイ。目で見ても肌で魔力を感じても、洒落にならない破壊力がこめられてるのがわかる。
 そして、その目線の先にあるターゲットは……『オルトヘイム号』か!?

 甲板の上にいるミュウたちも、それに気付いて顔を青くしてる。念話でバリアの強化を、コクピットにいるエルクに頼んでるようだけど、明らかに無意味だ。
 ホントにまずい! あんなん食らったらバリアなんて普通にぶち抜かれる!!

 そう悟るやいなや、僕は背中のイオンエンジンを全回にして加速した。

 (間に合え……っっ!!)

 今にもウェスカーの魔法が放たれんとしているその射線上に割り込み、背後からシェリーの『ちょ、ミナト君!?』って声が聞こえた……その瞬間、

 目の前にいる――っつっても100mくらい離れてるけど――ウェスカーが、口を開いた。

「……お早い到着ですね、さすがです。あまりこういう手は好きではないのですが……あなたを仕留められるだけの一撃を確実に当てるとなると、このくらいしか手が浮かびませんでしたのでね……」

「なっ……!?」

 ……やられた。
 こいつ最初から、僕が船とみんなをかばって割り込んでくることまで予想済みで、その上で『僕を』しとめるためにコレを……!

「今日はあなたに驚かされてばかりですからね……お礼と言っては何ですが、お目にかけましょう、これが今の私の最強の一撃です―――『ディヴェルティメント・フレア』」

 そして、ウェスカーが両手のひらを勢いよく前に突き出すと、そこに太陽のごとき強烈な光を放つ、直径2mもの巨大な光球が形成され……そこから、凄まじいほどのエネルギーの奔流が破壊光線となってこちらに向けて放たれた。

 船の近くで受けるのを避けるため、発射直前に前に飛び出した僕は……直後に襲いかかってきたその攻撃を、両手を前に突き出して受け止めた。

 その瞬間、今まで感じたこともないレベルの魔力と超高熱が襲いかかってきた。

「あ、がぁぁあああああああああぁぁあっっ!!!」

 魔力共振バリアでも到底受け止めきれない光の砲撃は、直接受け止めている僕の手のひらを容赦なく焼く。手のひらだけでなく、腕や肩にまで熱と魔力の圧力による激痛が走る。

 背中の羽……そしてネクロミウムイオンエンジンを全力以上に稼動させてどうにか押し切られないよう踏ん張りつつ、悲鳴を上げる両腕を、どうにかこらえて前に突き出し続ける。幸いにも、船には爆風と熱の余波以外の被害は出ていないようだ。

 視界の端に映った、このビームの射線上の岩肌が……溶けている。どんな熱量だコレ……僕じゃなかったら一瞬で蒸発するレベルだろ、間違いなく!!

 よく見たら、僕の周りの岩肌まで赤熱してきてるし……空気が地味に熱い。目を開けてるのも、息をするのも辛くなってきた。

 かといって、よければ間違いなく『オルトヘイム号』に風穴が開くだけに、ここを動くわけにはいかない。

 このままだと内臓を焼かれるので、口を閉じて息を止め、代わりに『魔緑素』を作って酸素供給源に。耳と鼻の中に水属性の『魔粒子』を充填して熱を可能な限り遮断。眼球表面に水の膜を作って熱から保護、同時に光の屈折率他をいじってサングラス代わりに。

『み、ミナト!? いくらなんでも無茶よ!! その光線、すごい魔力と熱がこっちまで……そのままじゃあんたでも……』

『ごめん黙っててエルク!! 集中させて!! 今気ぃ散ったらマジで死ぬ!!』

 頭に、エルクの悲鳴に近い念話が入ってくるけど、僕は反射的にそう返していた。
 いや、事実だしね……ホント、一瞬でも気を抜いたら死ねる。

『……っ……! そうだ、今からオルトヘイム号を移動させるわ! 射線から離れたら合図するから、そしたらあんたも逃『ダメだエルク!! 船は動かすな!!』っ!? 何でよ!?』

『この砲撃はウェスカーの『魔法』なんだよ! 大砲や巨大弓バリスタじゃないんだ、狙いを定めるのにわざわざ台座を動かす必要がない、ウェスカーが手の向きを動かすだけでいい! たぶん船を動かそうが簡単に追尾される! それに……』

『それに……!?』

『実の所僕、割と今ギリギリで、もしそうなった時すぐに反応して移動して再度かばえる自信ないんだ……だったらこのままの方が安全だから!!』

『船が安全でもあんたが死んじゃうわよ、このままだったら!!』

『大丈夫……まだ耐えられる。それに……』

『それに……!?』

『このまま、やられっぱなしで終わるつもりないからね……考えがある。僕に任せてエルク。コレが終わったら……100倍返しでこの勝負、決めてやる!!』

 これ以上、僕のかわいい嫁に心配させないために……念話ででも力強さが伝わるように、はっきりとそう言い切り……僕は歯を食いしばり、ちょっと無理して笑みを浮かべた。

 今の言葉ははったりじゃない……見てろよウェスカー、コレがやんだら……目に物見せてやる! 『キャドリーユ家四大問題児』ミナト・キャドリーユを舐めるなよ!!

 
 ☆☆☆

 
 そのままたっぷり1分近くも経過した頃……ようやく、ウェスカーのビームは止んだ。

 こめた魔力がなくなって止んだのか、それともウェスカーが止めたのかはわかんないけど、とにかく止まり……灼熱の破壊光線から開放された僕は、傍目から見てもかなりボロボロな状態になっていた。

 飛行魔法を維持するのすらきつくなって、ビームが止むと同時に墜落したし。そのまま倒れこみこそしなかったものの、あくまで立てているだけ……構えもへったくれもない状態で、肩で息をしている。

 さすが師匠というか、今の一撃を受け止めても手甲は無事だけど、その下の腕が、皮膚が……真っ黒に焼け焦げている。腕全体が黒く、素人目にも炭化しているとわかる状態である。そんな状態が二の腕の付け根付近にまで及んでいる。

 服もボロボロ。光線を直接受け止めたのは手で、その余波の熱波しか届いてないとはいえ、それだけでも数百度以上は確実にあったんだろう。

 もともと黒い色だからわかりにくいけど、あちこち焼け焦げたり敗れたりしている。ドラゴンのブレスの直撃でも焦げ後ひとつつかなかった服が、だ。

 それでも、大きく破れたり焼け落ちたりはしていないので、敵の攻撃で服が燃えて素っ裸になるなんていうハプニングも起こらず……てか、美少女ならともかく野郎がそんなことになっても見苦しいだけだろうな。

 ともかく、そんな感じでおおむね原型を保ったまま僕は立っているものの、繰り返しになるが傍から見ても完全に満身創痍である。服が無事でも、両腕が炭化してりゃあね。

「本当に呆れた頑丈さですね……今のはSランクの魔物すら消滅させる威力の、正真正銘私の奥義だったのですが……まさか生身で受け止めきるとは思いませんでしたよ」

「あ、そう……そりゃよかった。あれより上があるとか言われたら、マジ泣けるもん」

「軽口を叩く余裕すら残っているようですが……さすがに満身創痍のようですね。申し訳ありませんが、このまま決めさせていただきます」

 言うなり、ウェスカーは……いつの間にか回収していた自分の剣を手に取り、切っ先を僕の心臓に向けて……風と光、それに雷までまとって凄まじい速さで突っ込んできた。

 100m以上空いていた距離を一瞬で詰め、背後からエルクたちの悲鳴が聞こえる中で、僕はその輝く刃に心臓を貫かれた……

 
 ……と、誰もが思ったその瞬間、

 
「残・念・でした……! 『リヴァイヴ・リボーン』!!」

 
 ウェスカーの剣が体に届く直前、僕の体は背中からばりっと裂けて……そこから、『僕』が飛び出し、真上に跳躍してウェスカーの一撃をかわした。

 
「「「―――は!?」」」

 
 あまりの驚きに、その場にいる全員の声がそろう……無理もないだろう。目の前でいきなり人間が『脱皮』したんだから。セミの幼虫か何かみたいに、背中から。

 しかも、脱皮した僕の腕は……脱皮前とは全く違って、炭化どころか焦げ跡ひとつないきれいな状態になってたんだから。

 技名『リヴァイヴ・リボーン』。『否常識魔法』の中でも、僕専用の一品。『アメイジングジョーカー』でしか使えない超奥義だ。

 魔粒子によって細胞分裂を限界突破して活性化し、火傷なんかで激しく損傷した表皮の下に超高速で新しい皮膚を作り……同時に表皮全体を新しい皮膚と魔粒子、その他様々な魔法技能を使って押し出すようにして『抜け殻』状態にする。

 つまり、超高速で対組織を再生させると同時に、損傷して使い物にならなくなった古い外皮を一気に捨て去る技だ。

 なおその際、服や装備の損傷まではさすがに直らないものの……技の発動時に服や装備も一緒に脱ぎ捨てて素っ裸に……なんてことはない。

 脱皮すると、きちんと服も装備もつけた状態で中から出てこれるのだ。そして、抜け殻の方の服や装備は……皮膚と一緒に崩れて灰になる。

 この不思議現象は、服を含めた僕の装備全てがこういった魔法の使用を意識した特殊な素材で作られ、特殊な術式を編みこまれているためで、魔法発動に際しその存在そのものを転移もしくは僕の『黒帯』に組み込まれている装着状態維持型装備収納機構に近い形で新しいしかし『本来の』と呼んで差し支えない体に正常に装着した状態で……

 ……まあ。長いし複雑だから『そういうもん』だと思っていい。

 ただしこの脱皮&超回復、体表面付近の傷しか回復させられせない上に、魔力も体力もどえらい量消費するから、そう何度も使える技じゃないんだけどね。今んとこ。

 そして僕は、この技の他に……もう1つ、ある技を発動して『仕込み』を行っていた。

 それは、超高熱の空気に肺をやられないように息を止めた時に、呼吸困難にならないように体の中に『魔緑素』を作った時に同時に発動したもの。
 というか正確には、『魔緑素』と同時に体の中に作ったものだ。

 その名も『MDC』。
 略さず言うと、『マジック・ダイナモ・セル』。
 日本語訳、『魔法の発電所細胞』。
 意訳、『魔力生産細胞』。

 能力……ずばり『攻撃吸収充電・回復能力』。

 要するにアレだ、ゲームとかで、特定の属性の攻撃技とかを受けると、ダメージ受けない上にそれ吸収して回復したり、自分の能力を強化しちゃったりする敵いるじゃん?

 この『MDC』は、それと似たようなもんだと思っていい。
 攻撃無力化なんて能力こそないものの、魔法による攻撃を体で受けた際、そのエネルギーの一部を自分の魔力に変換・吸収することを可能にする能力があるのだ。

 それにより今まで、熱線を受けながらも僕はそのエネルギーをどんどん変換して吸収し、体内に溜め込んでいた……そして今から、それを存分に使わせてもらうわけだ。

 『ディヴェルティメント・フレア』とやらはやっぱり相当強力な攻撃だった。その分、僕が吸収できた魔力も大きく……消耗したとは思えないほどの凄まじい魔力が、今僕の腕に渦巻いている。

「さっきの魔法……お前の最強技なんだっけ? そんなもん食らわせてもらって光栄だね……こりゃぜひともお礼をさせてもらわなくっちゃ……」

「……いえ、そこまでお気になさらずともいいのですが……」

「まあ、そう言わずに……!!」

 その魔力は、徐々に姿を変えていく。僕の右手の周りで、黒い霧のようなものに。

 そこに、バリバリと電撃がほとばしり始めた段階で……おそらく見ている人のほぼ全てが、この黒い霧のようなものが『雷雲』だということに気付いたと思う。

 次第にそれは渦を巻き始め、黒い竜巻のように僕を、僕の右腕を中心に渦巻いていく。その周囲に、砂や小石が巻き上がるほどの暴風と電撃を撒き散らしながら。

 さすがにヤバイと感じたんだろう、ウェスカーが飛びすさって僕から距離をとろうとして……しかしそうはさせない。
 あらかじめ、あいつに合図を出してあるからだ。

 次の瞬間、

「っ!? こ、これは……!?」

 僕とウェスカーの両方を巻き込む広範囲に、数倍の重力を発生させる魔法『メガグラビティ』が発動。犯人、アルバ。

 それにより、身軽に動けなくなったウェスカーの動きが止まる。

 当然、この魔法は範囲型なので、僕だけを対象外にするなんてことは出来ず、きっちり僕もそれを食らってるんだけども……

 
「関・係・―――!!」

 
 僕は素でそれを無視できる身体能力を最大限に強化して、ズガン、と豪快に地面を蹴り砕きながら前に跳んだ。

 回避不可能を悟ったウェスカーは、剣を構えた上で全魔力を防御に回して障壁を展開し、さらに何体もの召喚獣を呼び出して盾代わりにしようとしてる……上等!!

 拳を握り、右腕を大きく後ろに引いて力をため……そしてウェスカーを射程距離に捉えた瞬間、拳を突き出すと同時に雷雲のエネルギーを全て開放!!

 これで、決める!!!

 

「まとめて吹き飛べ!! 『トールハンマー』ァァアアァッ!!!!」

 
 ――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……ドガァァアアアッ!!!!

 

 渾身のストレートパンチと共に、地上でなんと雷鳴が轟き、そこにこめられた凄まじいまでのエネルギーが一気に炸裂した。

 竜巻のごとき暴風が、何百何千の雷が、雷と同時に発生した電熱が、空気の膨張で巻き起こった衝撃波が、周囲の全てを飲み込んで粉砕していく。

 地面は砕けてめくれ上がり、岩は砂になり、範囲内の全てが消し飛ばされていく。

 ウェスカーが盾代わりに呼び出した召喚獣たちも、展開した障壁も、奴自身も……その、もはや何が何だかよくわからないレベルの大爆発に飲みこまれて見えなくなった。

 

 気を抜いたら僕自身もふっ飛びそうな凄まじい爆風の中…………拳を振りぬいた姿勢で止まっている僕の周囲で、次第に爆風と轟音が収まっていく。

 それからだいぶ遅れて、土煙や周囲に漂っていた魔力の残滓も収まっていった。

 そこは……直径100mを超える、巨大なクレーターの中心になっていた。
 そこには僕ともう1人、フラフラになりながらも、2本の足で立っている人間がいた。

「……マジで?」

「……ええ……マジ、ですとも……」

「お前、そんなに頑丈だったんだ……人は見かけによらないね」

「違いますよ……あなたの人外の肉体と一緒にしないで頂きたい……。魔力全てをつぎ込んだ障壁と……コレの召喚が間に合ったお陰です」

 土煙の晴れたそこには……焦土と化した地面に転がっている、無数の鎧の破片のようなものが見えた。

 しかも、見覚えのある感じで消えてってる最中……召喚獣?

「『ゲリュオーン』……三頭六手の鎧の騎士型の魔物。私の召喚獣の中で最強の防御力を誇ります。それを盾にしたのですが……完全粉砕されてなお威力減衰どまりとは……っ!!」

 どうやらその召喚獣に守ってもらったおかげで命拾いしたらしいウェスカー。

 しかし、防ぎきれなかった分のダメージは甚大らしく、そのままふらっと崩れ落ち、うつぶせに倒れこむ……と思った、その時。

 僕とウェスカーの間、10mも開いていない空間で……突如、どこからともなく飛んできた魔力弾丸と魔力の矢がぶつかり合って炸裂、爆発した。え、何!?

 そしてその更に次の瞬間、赤と灰緑色の2つの影が飛び込んできたかと思うと、僕とウェスカーはそれぞれ腰の辺りから抱え上げられて、逆方向に掻っ攫われた。

 その正体は……僕を掻っ攫ったのがセレナ義姉さんで、ウェスカーを掻っ攫ったのがバスクだった。

 そして、さっきの魔力弾と魔力の矢の衝突の正体は……どうやらそれぞれ敵を狙って狙撃した、ナナのスナイパーライフルとセイランさんの特殊弓によるものだったらしい。射線から予測するに……ナナさんはウェスカーを、セイランさんは僕を狙って。

 それが単に隙を作るためのものだったのか、それとも双方マジで殺しにかかってたのかは知らないけど、その一瞬の隙をついて2人は双方のリーダーを掻っ攫って逃げたってわけで……ってちょっと待った!

「ちょっと待った姉さん! 僕「却下!」まだ何も言ってない!」

「戦闘継続ならダメよ! あんた外側は今の脱皮?で治ってるけど体は依然ボロボロでしょーが!! 見りゃわかるわ!! さっさとあんた自慢の旗艦に戻るわよ!」

「いや旗艦って……いやでも待って! まだあのコンチネンタル何とかっての倒してないから! ほら、もう起きてる! あれSランクだし、倒せるの僕くらいしか……」

 現に今、視線の先で……さっき転倒させた岩石の巨人『コンチネンタルガーディアン』が起き上がり、再びこっちに向かって歩いてこようとしている。

 アレは呼び出したら倒されるか、術者が送還するまで帰らない『召喚獣』……さっさと倒さないと、また敵である僕らに攻撃してくるだろう。
 そしたら僕らはもちろん、船だって危ない……って主張するより先に姉さんが吼える。

「それならすでに手は打ってあるみたいだから大丈夫よ! あんたは気立てのいい嫁さん貰って幸せねホント!」

「は? 何言って……」

 姉さんに運ばれながらそこまで言って……気付いた。
 いつの間にかこちらに向いているオルトヘイム号の船首の下から……『それ』が出てきているのに。

 そしてそこに、すでに魔力の充填が始まっていることに。

 そこにあるのは……長く、太い円柱状の『砲身』。
 その発射口の奥に、まばゆいばかりの粒子状の光が収束していっているのが見える。

 そこからほとばしる凄まじい魔力は、けっこう離れているここでもひしひしと肌で感じ取れるレベルで……この瞬間僕は、姉さんが急いでいる理由を十二分に理解した。

 もしかして、バスクとセイランさんが急いでウェスカーを回収したのも、エルクが『アレ』を作動させたのを察知したからか……? 在りうるな。
 アレが何なのかはわからないだろうけど……やばいもんだってことは悟ったか。

 ……その予想、正解だ。アレは、僕が『オルトヘイム号』に搭載した兵器の中でも、文句なしの最強&最終兵器……。

 そして、全速力で戦場を駆け抜けた義姉さんが、だん、と力強く地面を踏み切って跳躍し、抱えた僕と共に甲板に着地した……その瞬間、

 
『発射ぁぁぁああああっ!!!』

 
 おそらくコクピットにいるらしいエルクの叫び声と共に、『荷電粒子砲』が火を噴いた。

 強烈な光と熱を孕んで発射されたその破壊光線は、直線状の全てを蒸発・消滅させながら突き進み……狙い通り、『コンチネンタルガーディアン』の巨体のど真ん中に着弾。

 その圧倒的な威力で、一瞬にしてその巨体を貫き、炸裂して上半身を消し飛ばし……なおも直進して後ろの山々に直撃。山肌をえぐった上、大地をドロドロにとかしてしまう。

 わずか数秒。そんな短い時間の内に……僕の秘密兵器は、Sランクの魔物を消滅させ、地形を変え、溶岩流を作り出すというとんでもない破壊を引き起こしていた。
 よく見ると、射線上には川なんかもあったらしいが、見事に蒸発している。

 ワンテンポ遅れて……下半身だけになった巨人が、空気に溶けるように消滅した。

 後には何も残っておらず……誰もいない。どうやら、ウェスカーたちも逃げたようだ。

 その光景に僕は、製作者として満足しつつも……おそらくこの後待っているであろう、エルク他のお説教を覚悟しておこうと決めた。

 
 
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