77/197
第140話 魔法忍者と女射手
最近遅い上に1話が長くてすいません……
今回はあの人が活躍(?)な第140話です。どうぞ。
『な、何だ一体!?』
『お、お前は冒険者の……なんでぐがっ!』
『畜生、何で俺達が!?』
場所は、チラノースの軍艦。
すでに開始されているはずの、『ネスティア』の拠点を攻め落とす作戦行動……それによって回収される素材や捕虜を収容するため、タイミングを見計らって『拠点』のある島へ寄港してきていた。
しかしその軍艦の中で、今……次々に命の灯火が消えていっている。
利用している、という認識だとはいえ、一応は味方だと思っていた……1人の女によって。
ある者は矢で急所を貫かれ、またある者は弓につけられた刃で斬り伏せられ、またある者は魔法で消し飛ばされる。
その襲撃者、シン・セイランのAAAランクの実力を前に……兵たちは必死で抗ったが、誰一人その身に触れることすら適わず排除されていく。
その殺戮劇は十数分程、船内で場所を移し移し続けられ……ほどなくして船内には、生きている兵は1人もいなくなった。
自分以外に動く者のいなくなった船内で、床一面に広がる血液の水溜りを踏んでびちゃびちゃと音を立てながら歩くセイランは、その直後……
「――そろそろ、いいか」
誰にともなく呟き……何の前触れもなく、斜め前の誰もいない壁に向かって、刃の取り付けられた異形の弓矢を引き絞る。
するとたちまち彼女の魔力で出来た矢が形成され、弦を引いていた手の指が放されると同時に発射……壁を丸ごと消し飛ばした。
それに続けて、土埃がおさまる前にそれを風魔法で吹き飛ばしたそこには……
「ふむ……やはりあなただったか、ザリー・トランター殿」
「……やれやれ、勘弁してよ……なんでこんな怪物と鉢合わせちゃうんだか」
最初にこの船に侵入していたのは、ザリーだった。
『チラノース』が攻めてきたこの状況を考え、その目的や手段を推理。そこからこの軍艦が一緒に接近してきているであろうことを見抜いたザリーは、ミナト達『邪香猫』メンバーに後を任せ、単独でこの船に侵入し、片っ端から重要情報を接収していた。
(うちに喧嘩売った時点でチラノースの皆さんは全滅確定……けどそうなると、後々の処理が面倒になるだろうから……『武器』をそろえとかないと、ね)
という予測のもとに。
盲信、というほどではないにせよ、ミナト達が負ける可能性はほぼ皆無だと思っているザリーは、この戦いそのものの帰結に関して心配はしていない。
しかし同時にコレは、曲がりなりにも国と国とが絡んだ事態であり……一時の襲撃を潜り抜けたとしても油断できない類の戦いだ、と感じ取っていた。
後々外交の場で腹の探りあいが始まる。そこでチラノースは、何が目的だったかはわからないが……それが失敗した分の損害を『外交』のテーブルでの話し合いによって少しでも補填しようと腹芸を仕掛けてくるだろうと。
その時、交渉材料として有効な機密文書などをこの隙にくすねてしまおうとザリーは動いたのであった。それも……『外に持ち出されると困る』『内容どころか存在を知られるだけでも困る』という条件のそろった、後ろ暗い内容のそれを。
隠密スキルを最大限使って、兵士の誰にも見つからないようにスニーキングミッションをこなしていたザリー。ゆえに、船内の兵士達は、ただ自分たちの出番……『ネスティア』の拠点制圧と、捕虜および物品回収の命令を待っていた。
……が、十数分前、脱走したシン・セイランがこの船に乗り込んできたあたりから、事情が変わってきた。何せ、兵たちを片っ端から虐殺し始めたのだから。
驚いたザリーは、まだ十分な資料は集まっていないが撤退すべきかと考えたが、セイランが部屋を移動するのにあわせて上手くはちあわないよう、見つからないように移動し続け、上手く部屋を回って資料を回収していた。
というよりも、セイランが兵達をひきつけてくれているおかげで、かえって隠密行動が簡単だったのである。皆、向こうに行くものだから。
……が、それが『おかしい』と思い始めたのは、つい先ほどだった。
何せ、セイランが兵達を虐殺するために部屋を回るペースや順番が、あまりにも都合がよすぎるのだ。自分が必要な資料を集めるために、この軍艦内部を回るのに。
そしてザリーがその意味に気付いてから程なくして……壁が破壊された。
「……やっぱりね。わざと派手に暴れて兵達の注意を引きつけて、僕が資料を集めやすいようにしてたわけだ。で、最後にこうして僕の前に現れたのは……」
「ご明察。あなたが集めてくれた資料をそっくり頂くため……」
つまり、最初からセイランはザリーの存在に気付いていて、それを利用した。
囮になるために兵たちを虐殺する……というのはいささか労力がかかりすぎる気がしないでもないが、そこは置いておいて、ザリーは今の状況の切り抜け方を考える。
(さて……厳しいな。いくらなんでもAAAが相手じゃ、どう甘く見積もってもAAに成り立ての僕に出来ることなんて限られる……いや、それだってできるかどうか……)
「率直に申し上げよう、あなたの実力では私には勝てない……が、あなたは弱くは無い。戦いになれば、私も手加減したままで勝てる見込みは少ない。そうなれば資料が無事では済むまい……どうだろう? 大人しくそれを置いていってはいただけないかな?」
「いやあ、それはちょっと……」
「おや……命に代えても持ち帰りたいと……? これはこれは、軽口の曲者かと思いきや、忠義仁義に熱いタイプですかな……?」
言うと同時に、ザリーに向けて叩きつけられるセイランの殺気。
けっして死線をくぐった数が少ないわけではないザリーであるが、やはりAAAランクのそれは別格と言ってもいいようで、汗が一筋頬を伝う。
「もし資料を渡していただけるのであれば……この場は見逃させていただきますが」
「それを信じろって? 無理があるでしょ……君、別に僕を殺して資料を奪いとってもいい立場なんだから。っていうか、何で君がこの資料を欲しがるのかわかんないね」
一見時間稼ぎにも聞こえる質問だが、純粋なザリーの疑問でもあった。
チラノース側の戦力としてこの島に来たセイラン。いわばこの船に乗っている連中は、雇用関係とはいえ味方である。そして、捕虜として拘束・監禁までしたザリーらネスティア勢の方が、言ってみれば敵だ。
どう脱走したのかはわからないが、脱走できたのならばむしろチラノース側に加勢し、この船に乗っている兵たちの――必要なら舌先三寸で丸め込んで――助力を得て戦う、もしくは逃げるのが利口な選択である。
Sランクのミナトを有するネスティア寝返るために彼らの首を手土産に……という線は無い。ここでこうしてザリーを脅している時点で。
もしそうするつもりならザリーとは協力するはずだ。脅しなどしてしまっては、寝返りそのものが成立しなくなるのは明白である。
彼女の立場はつまり、ネスティアにもチラノースにも協力するつもりはなく、その上で資料を欲している。大国1つにダメージ、もしくあ大打撃を与える可能性を秘めた極秘資料を……と、
ここにきて、ザリーの脳内にその『答え』が浮かんだ。
「……君、もしかして……彼らの同僚?」
「ほう? 彼ら、とは?」
「そりゃもちろん、外にいる2人の優男と同じ……『ダモクレス』だよ」
瞬間、
彼女の口元に、最早定番とも言えるかもしれない、微笑が浮かぶ。
「……まあ、状況が状況ですからな、感づくのも当然でしょう」
さらりと、そう言った。
「やっぱりね……この状況下、誰にも味方してもらえなくなるような行動を平然と取りつつ、有用だけど後ろ盾も何も無しじゃあ扱いが危険すぎる情報を欲しがるときたら、それ以外に答えなんて見つからないからねえ……しっかし、上手くもぐりこんだもんだ」
「いえ、それほどでも。実際、島に来てからは予定外のことばかりで辟易しております。本当ならもっと迅速かつ秘密裏に、ことを荒立てることなく必要な資料・物品を回収して終わりだったのですが……いつの世もイレギュラーというのは存在するものですな」
わざとらしくこめかみを抑えながら、やれやれ、と首を振るセイラン。
「まさかあなたがたのような強者がいようとは……おかげで大幅にプランを変更せざるを得ませんでした。事実を知る者を皆殺しするという、スマートさを欠くものにね。さて……」
そこで一旦言葉を切ると、西端は……ちゃき、と手に持っている特殊弓を構える。
「おしゃべりはここまで。さあ、資料を……っ!?」
「残念だけど、お断りだね」
しゅんっ、と、
ザリーが抱えて持っていた資料の束や、物品を入れた箱が……突然消える。
セイランは一瞬目を見開き、そのさらに一瞬後……何が起こったか理解する。
「……ああ、なるほど、収納系のマジックアイテムか。しかし……それは悪手だ」
「……というと?」
「資料が『収納』された今……私はあなたを倒すか殺すかして、アイテムを奪って資料を取り出すしかなくなった。いや、『可能になった』というべきか……何せ『収納』されたことで、暴れても破損の危険がなくなってしまったのだから、つまり――」
その先を言う代わりだとでも言わんばかりに、驚異的な速さでセイランは弓の弦を引き絞った。
「……あなたは、盾を自ら手放したのだ」
放たれる魔力の矢を、ザリーは横に跳んで間一髪回避する。
しかし、信じられないほどに短い間隔で次々に矢が放たれ、彼の体を掠めた。
(……っ、どんな速さだ……!)
普通の兵士が弓矢を連続で射ようとすれば、1発目を放ってから新しい矢を取ってそれを弓につがえ、弦を引き絞って射る、というプロセスが必要であり、早くとも1秒前後はかかる。
しかしセイランの連射は、弦を引き絞る手が残像を作る程の速さで動いて放たれ、その感覚は異常なほどに短い。
あまりに速く頻繁な弦の往復に、ビィィィィィ―――という音が鳴る。最早それは弓を射ている用には見えず、まるでおかしな楽器を早弾きで演奏しているかのようだった。
否……本当に弾いているのだ。魔力の矢は指先でつまむ必要も本当は無いのか……狙いをつけて弦を『弾く』だけで、矢が飛んでいく。
おまけにその威力たるや……頑丈なはずの壁を貫通して外に飛び出している。
「さっきのとは違って貫通力重視、かい? さすがAAA……化け物だね」
「土埃にまぎれて逃げられてはかないませんからな」
ものの数秒でいくつもの風穴を壁に開けたセイランは、視界の端の方に逃げたザリーを目で追い、見つけると……今度は自らがそこに突っ込んだ。
そして間合いに捕えると、横凪ぎに刃つきの弓を振るう。
とっさに後ろに跳んだザリーの服を刃がかすり、チッ、と音を立てる。
その斬撃の線上で……木製とはいえ、扉が刃の一撃を食らって真っ二つになった。
(見掛け倒しじゃない、か……なら!)
振りぬいた姿勢から、その勢いのままセイランはくるりと一回転すると、再びザリーに照準を合わせ……その瞬間、ザリーは魔法で砂を巻き上げて煙幕を張る。
ちっ、と短く舌打ちした後、セイランは弓ではなく、何も持っていないほうの手のひらをその方向に向ける。すると直後に暴風が発生し、あっという間に土埃を吹き飛ばした。
「……っ!?」
「小癪」
背こそ向けていなかったものの、出入り口の一つに向けて駆け出していた姿勢のザリーに今度こそ照準を合わせ……『弾く』。
一呼吸で3本の矢が放たれ、ザリーの腹を貫いた……と思いきや、次の瞬間、その座利0の姿が幻のように掻き消える。
「……っ!? 幻術……!?」
「こっちだよ」
直後、背後から聞こえたその声に反応して前に飛んで回避するセイラン。
直前までその首があった部分を、ザリーの短剣が凪いだ。
「ほう、ただの隠密というわけではないようだ……そのような技を使えるとは」
「最近習得した技で、まだ不慣れなんだけどね。なんだか僕らのことを調べてるようだけど、彼らに聞かされてないってことは、この技のことは知られてないみたいだ」
言いながら、ザリーの姿がぶれて消える。
その直後、別な位置に……今度はザリーが3人同時に出現した。
「『デザートミラージュ』……僕の新技だよ。まさかこんなに早く実戦に投入する機会が来るとは思ってなかったけどね」
「蜃気楼……面白い。だが、殺気も威圧感もなく、それどころか攻撃が当たっても小虫一匹殺すことの出来ない幻など、怖くも何ともない。そもそも……」
一拍、
「本物が見破れなくとも……全て射抜けばよいだけのこと!」
またしても殺人的なスピードで矢が放たれ……しかも今度は一度に3本、それが3回。
3人のザリーに合計9本の矢が襲い掛かり……そして全てがすり抜ける。
その直後、彼女の背後に2人のザリーが現れ……同じように射抜かれる。
(やはり全て幻……思惑はわかっている。この幻を利用して不意打ち、と見せかけて……)
「逃がさん!」
2つある出入り口のうち、1つに向けて矢を放ち、そこで外に駆け出そうとしていたザリー……の幻を射抜く。と同時に、セイランは床を蹴って背後に飛ぶ。
その先にある、もう1つの出入り口から出ようとしているザリーに、弓の刃で直接斬りつけ……しかしそれもむなしく空を切る。
(これも偽物……! 殺気!)
直後に斜め後ろから感じた殺気。
その方向に弓を突き出し、ガキィン、と耳障りな音を立てて、ザリーによって振り下ろされたサーベルを受け止める。そして同時に……確信した。
(この感触、手ごたえ……幻ではなく実体! 本物か!)
「せいっ!!」
「くっ!!」
手首を返して反撃とばかりに弓の刃を古い、それを今度はザリーが防御……しかし腕力の差か、剣は大きくはじかれてしまう。
そして、その隙を見逃す彼女ではなく……『もらったっ!!』と鋭く叫んで刃を振り下ろし、ザリーの体を肩口から袈裟懸けに斬り裂いた。
……が、
「……っ!? 違う!?」
その傷口から出てきたのは、真っ赤な鮮血ではなく……なんと、砂。
それ以前に、斬った感触が明らかに人間の肉ではなく、固められた砂そのものだった。
困惑するセイランの目の前で、斬り裂かれたザリーの体全体がなんと砂になって崩れ去り……今しがた弾いたサーベルだけが床に落ちて音を立てた。
(何だこれは!? 今まで確かに人の形をして、動いて、声も……砂の人形だと!? こんなものいつの間に……魔法!? バカな、こんな魔法聞いたことがないぞ!?)
その直後、視界の端に……空間から滲み出すようにザリーが姿を現した。
「『砂分身』……だってさ。魔力と低位の精霊魔法を用いて砂に擬似的な意思と命を与え、動いて話す分身体を作り出す……ホント面白い魔法作るよね、彼」
「っ!?」
「最近ますます研究バカになっちゃってさ、うちのリーダー。まあ、その恩恵にあずかって強くなれるのはありがたいんだけど、思いつきで作った魔法、面白がってどんどん僕らに教えるんだよ。似合いそうなのを。ま、僕も面白がってた部分もあるんだけど」
壁に寄りかかり、ナイフを手先でいじりながらそんなことを話すザリー。
顔には笑みが浮かんでおり……態度も何もかも、本当に余裕に見える。
「ちなみに、ミナト君がくれる魔法いくつも覚えて実践できるようになって……って続けてたら、最近なんでか僕『魔法忍者』とか呼ばれるようになってたんだよね。『ニンジャ』が何なのかはわかんないけど……それ以上にリーダーの頭の中もわかんない」
『ま、別にいいけどね』と付け足すと、ザリーは何やら胸の前で両手を、『ニンニン』とでも効果音がつきそうな形で組むと……次の瞬間、その左右に2人ずつ、計4人の『砂分身』が出現した。
とんでもないその光景に、魔法とわかっていてもセイランは驚きを隠せない。
「……最早どう驚いたらいいのかもわかりませんな。やれやれ、あなたがたは本当に人の度肝を抜くのがお上手のようだ……ちなみに『忍者』とは確か、東洋の国に存在する隠密の呼称だったと記憶しているが……」
「「「え、そうなの? またミナト君、よくわかんない知識持ってるなあ」」」
分身までいっせいにしゃべったがゆえに少々うるさく聞こえた……直後、5人のザリーは全員が別方向に走り出し、別な行動に出る。
2人は左右に分かれた後、武器を構えてセイランに突っ込む。
2人は同じように左右に別れ、しかしこちらは近づかずにナイフを投擲。
残る1人は……その場から飛び退いて更に離れると、魔力を練り上げて砂の弾丸を作り出し、それをセイランに向けて放った。
「全く……わけがわからんにも程がある! しかし、やることは変わらんッ!!」
突っ込んできた2人の攻撃と、投擲されたナイフをかわし、セイランは凄まじい勢いでその場で回転して、近くに来ていた2人のザリーを刃で斬る。
2人とも崩れ去って砂になる……のを確認することなく今度は回転しながら矢を放って残る3人を攻撃、すると同時に迫ってくる砂の弾丸を打ち落とす。
しかし、矢が命中したのは2人だけで……一番遠くで魔法を放っていた1人は回避。
その回避した先に、矢のような勢いで突っ込んだセイランは、足を振り上げたかと思うと一気に振り下ろし、5人目のザリーの頭を踏み潰した……が、
「これも砂!?」
予想しないではなかったとはいえ、5人全員はずれで振り出しに戻ったと悟りいらだつ様子のセイラン。その周囲に、先ほどから何度も砂の塊を砕いたり貫いたりしていたために、砂煙が舞い始めていた。
視界を確保できなくなるほどではなかったために放置していたセイランだが……
「――砂よ、灼き殺せ……『サンドオーブン』」
部屋の反対側から、そんな声が聞こえ……その瞬間、ザリーが発した魔力に反応し、飛び散っていた砂粒の全てが高熱を発し始めた。
必然、それが充満していた部屋全体――ただし、ザリーがあらかじめ自分の周囲に散布していた遮熱効果のある砂が守る区画を除く――は、一瞬にして灼熱地獄と化す。
木造の船室は炎上し、さらなる熱と破壊が巻き起こり、包み込む。
常人であれば、こんがりと焼き尽くされる他に選択肢のない状況……だが、
「―――ちょ・こ・ざ・い・なぁぁああっ!!!」
初めて、セイランの声音に明確な怒気がこめられて響き渡り……直後、
途轍もない爆風が部屋全体を、いや船の外壁ごと吹き飛ばしかねない勢いで吹き荒れ、炎も砂も全てを吹き飛ばした。
力任せに発動させたと思しき風魔法は、部屋の中にある形あるもののほとんどを粉々に砕いてしまうほどの威力。それどころか、扉や一部の壁も吹き飛ばされていた。
そして、それを発動させた張本人であるセイランは、肩で息をしながら部屋の真ん中に立っていた。
その顔は、もともと気の強そうなツリ目の目つきがさらにキツく、鋭くなっている。
さすがに今のを受けて無傷ではすまなかった様子で、服はあちこち焼け焦げ、軽微な火傷の痕もそこかしこに見られたが、そこまでのダメージではないのは明らかだった。
2本の足でしっかり立って、部屋を見回し……この部屋のおかしな点に気付く。
今しがた吹き荒れた暴虐的な風。その威力によって、部屋の中のあらゆるものが壊れ、壁も床もボロボロになっている中……一部分だけ、妙に奇麗な状態の壁があることに。
直後、時間制限でもあったのか……ゆっくりとその壁にかけられていた『デザートミラージュ』が解けていき……
「っ!? これは……」
今まで壁だと思っていたそこには……扉が開け放たれた出入り口があった。
それが意味する所を瞬時に理解し……セレナは、自らの敗北を悟る。
「やられたな……まさか最初から幻影を使って出入り口の1つを隠していて、隙を見てそこから逃げるつもりだったとは。派手な戦いの演出も、最後の大技も……私を仕留めるためではなく、戦いに意識を逸らしてこのことに気付かせないためのフェイク……」
呟きながらも、その出入り口から外に出るものの、すでにそこにザリーの姿は無い。
窓から外を見ても、見晴らしがいいのは開けた砂浜までであり……そこからすぐに生い茂り始めている森に入られてしまえば、隠密に優れるザリーを見つけるのは困難。
ましてや幻術や分身と言った奇天烈な技を使えるとなれば、いくらでも逃げよう、隠れようはある。見失った時点で打てる手はなくなったと言ってもよかった。
「『邪香猫』のメンバーとの合流地点で待ち伏せればまた出会えるかもしれんが……その場合、今度は戦力不足か。この任務、失敗、だな」
頭を抱えて自嘲するようにそう呟くと、セイランは臨戦態勢を解き、特殊弓を折りたたんで背中に背負ってしまう。
そして、証拠の全てを処分するために船に火を放つと、その場から速やかに立ち去った。
☆☆☆
「あーもう、めんどくさい!! 体が大きいってのはどうしてこうそれだけで……おあ!?」
ぶおんっ、と、
僕の目の前を、太さ何mだよっていうレベルの巨大な腕が通り過ぎる。
そのまま地面に着弾したそのパンチは、すさまじい爆音と揺れをもたらす。巻き込まれないように数十m向こうにいるエルクたちが転びそうになるレベルのを。
というか、この巨人の主(ウェスカー)は巻き込むつもり満々な所、近づかせないように接敵して戦ってるんだけどもね、僕が。
その結果、ウェスカーと『コンチネンタルガーディアン』の両方を相手にするなんていう難易度ぶっとんでる戦いに身を投じてるけど。Sランクの魔物(召喚獣)と、Sランク級かひょっとしたらそれ以上の戦闘能力持ってる奴を同時って……。
『アメイジングジョーカー』で超強化されてる僕の戦闘能力は、おそらくウェスカーよりも上だ。依然として攻撃の射程距離なんかでは負けてる部分があるけど、正面から1対1で戦えば勝てるレベル。
しかし、さっきまで同様、その前提条件がこいつ相手だと全く適用されない。戦いの最中にとんでもないランクの召喚獣ばんばん呼び出すんだから。
そいつらと連携した攻撃で、実力差を埋めて僕と互角に戦ってたわけだけど……どうやらここに来て、その均衡が崩れようとしていることに気付いた。
ウェスカーが、よく見るなければわからないレベルだけど……肩で息をし始めている。
大規模召喚に超威力の魔法の連発、浮遊魔法を使っているとはいえ縦横無尽に飛び回っての空中近接戦闘……それらによる疲労で、スタミナが切れてきたんだろうか?
おそらくこのペースで行けば、おそらく向こうのスタミナ切れで僕が勝てる……けど、それはおそらく向こうも承知してるはず。
だからこそ、何をするかわからなくて余計に怖いんだけどね……。何か奥の手的なものを切ってきたりしないか、とか。
その前にさっさと決めたいんだけど……おそらく切り札の1つであろうこの『コンチネンタルガーディアン』がそれを許さない。でかい分タフで、倒せないのだ。
こいつに的を絞って攻撃に集中すれば出来ないこともないんだけど、ウェスカーがいる時点で無理だし、2人同時に相手しながらでも出せる小技じゃとっても無理。
誰かに加勢してもらおうにも……残念ながらSランクを相手取れそうな実力の人はこっちの陣営にはいないのだ。
シェリー、ナナ、セレナ義姉さんでもAAAだし、エルクやミュウちゃんは問題外だ。
スウラさんやギーナちゃん、ザリーやシェーンも同じ。そもそもこの4人は別行動中。
というか、そもそも……あっちはあっちで白兵戦が大変そうだ。
指揮官のなんとかって中将さんが乱入したことで戦闘態勢に戻っちゃったチラノースの相手で。
その中将さんと、雇われ冒険者の……ああまた名前忘れた、ともかく、その2人のAAAランクの相手をシェリーたちがやってるわけだ。
それとは別に『ダモクレス』の勢力もいて、率いるのはおそらくAAA相当の実力を持っているであろうバスク。加えて、ここにはいないけど、『サテライト』でのザリーの連絡によると、セイランさんもダモクレス陣営の仲間だったらしい。
……てか、この戦場AAA多いな。
ネスティア:シェリー、ナナ、義姉さん
チラノース:中将さん、何とかコフ
ダモクレス:バスク、セイランさん(不在)
この他にエルクらAやBの戦力や、兵士とかその他大勢が入り乱れている戦場。
あらためて整理してみるとなんつー状況だ、コレ。
他の陣営にどれだけ被害が出ようが知ったこっちゃないけど、万が一にも僕の仲間から犠牲者が……なんてことは考えたくもない。
早急に決着させる必要がある……そのためには……っと。
横凪ぎに振るわれる巨大な腕を上昇することで回避し、その先で待ち受けていたウェスカーの剣を体をひねってこれまた回避。そのまま牽制の蹴り(かわされるの前提)を放ちながら、考えるったら考える。
(どーにかしなきゃいけないのは、まずウェスカーとこの巨人、次いで敵の手練れ4人……内1人はこの場にいないから後回しでもいいけど、時間はあまり無い……今んとこ敵味方にAAAが3人ずつだけど、ここにセイランさんが戻ってきたら混戦が酷くなって、最悪死人が出る。僕含め、拮抗する実力の敵と戦闘中の者は動けないから、それ以外でどうにか状況の打開をはかるのがもっとも賢い手段だろう。となると……)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。