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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第138話 ミナトVSウェスカー

 

「どういうことだ……なぜ貴様がここにいる、バスク!?」

「どういうこと、って言ってもなあ……仕事だから、としか言いようがないね」

 ぽりぽりと頬をかきながら、相変わらずの軽口でシェーンの神経を逆なでしつつ、バスクは話す。

 その背後には、おそらくは『ダモクレス財団』の兵力であろう数十人の男たちが、様々な武器を手に、いつでも戦闘に移行できるよう構えていた。

「あら、こんな辺境までお仕事なんて大変ねえ? 『シンデレラ』の買い付けにでも来たのかしら?」

「あらら? 何だ、あいつらのこと知られちゃってるのか……こりゃまいったな。あんまり気は進まないけど……お嬢たちもまとめて消すしかないか」

 セレナの言葉を聴いて、自分達に都合の悪い情報が流出している可能性があると悟ったバスクは、表情も顔色もさして変化させず、さきほどまでと同じ軽薄そうなそれらのまま、あっさりと言ってのけた。

 ただ……目が少しだけ細められ、腰のサーベルに手が添えられたことで……シェーンや、状況を注視していたその他の面々がやや顔に焦りを浮かべる。

「ははあん……さてはあんた達、『ダモクレス財団』ね? 最近噂になってる秘密結社……なるほど、聞いてた通り扱いづらそうな連中だわね」

「おー、正解。しかし、それを知ってなお物怖じはせず、か……お姉さんギルド職員でしょ? かわいい顔して肝っ玉据わってんね」

 バスクがそう面白そうに茶化すが、セレナはこちらも『あら、ありがと』と軽く返すだけだった。別段何も気にしたような様子は無い。

「しかしまあ、『シンデレラ』を密造するチラノースの脱走兵が出たと思ったら、今度はチラノースそのものが喧嘩売ってきて、挙句の果てに悪の秘密結社まで襲ってくるって……この短期間にどんだけ面倒事が降りかかって来るんだか」

「そりゃまたお疲れさん。でもコレも仕事なもんでさ、ちゃんと始末するもんは始末しないといけないんだわ。半分はウェスカーが殺ってくれたっぽいけど」

「あの食欲が失せる状態になってた洞窟はあんたの同僚の仕業か。ったく、後から調べに来る人のこと考えなさいよ……アレ気が弱い人が見たら肉食えなくなるわよ?」

「ごめんごめん。けどしょーがないじゃん? 繰り返しになるけど、仕事だもん」

「……その仕事ってのは、『シンデレラ』の現物の回収? それとも、脱走兵達が持ってるであろう、チラノース門外不出の『シンデレラ』のレシピ? それとも技術者ごと回収……いや、コレはないわね。思いっきり殺してたし」

「ふふっ、想像に任せるよ、ギルドのお姉さ「それとも」……ん?」

 
「……彼らが『もしかしたら持っているかもしれない』、また別な『何か』……とか?」

 
 にやり、と、
 そんな効果音がつきそうな笑みを浮かべたセレナ。

 その笑みと、はったりとは到底思えない声音に、一瞬表情と体を強張らせてしまったバスクは……一瞬の間を置いて、こちらも笑みを少し深くした。

「……面白いこと言うねえ……ひょっとして、他にも『何か』持ってた?」

「さあね? 一介のギルド職員でしかないお姉さんにはわかんないわねえ?」

 意趣返しとばかりにそう返してから、セレナは続ける。

「実の所、今言ったうちのどれが目的だ……って肯定された所で、不自然でしかないのよ。別に『シンデレラ』のレシピなんて、チラノースのそれだけが際立って高品質なものを作れるわけじゃないもの。探せば他にも優秀なレシピは存在する」

「…………」

「技術者にしてもそう。レシピにもよるけど、『シンデレラ』は扱いが比較的簡単な薬物だから、材料さえ揃えば作るのはさほど難しくはない。無理に経験者をそろえて作らせる必要はそこまでない。専門的な知識が必要なのは、そのレシピそのものを作る時だけ」

「その『レシピ』を作らせようとして、この島に潜んでる彼らを回収しようとしたのかも……いや、コレは無理があるか。ウェスカーが半分殺したってさっき言っちゃったからなあ」

「そうね。それもあってこの線もなくなったわ。そして、『シンデレラ』の現物の回収……コレは一番ないわね。いくら作るのが簡単な薬物だからって、こんな設備も何も整ってない場所で作られて雑に保管されてた薬をわざわざ回収するために戦力をよこすはずないもの。となれば……他に目的がある可能性を考えるのはごく自然よね? それに……」

「それに?」

「チラノースの連中。あいつらの対応もちょっと不自然だと思ってたのよ。脱走兵をさっさと始末したいってのはわからなくもないけど、だからってやることなすこと急ぎすぎな上に雑すぎるもの。考えてもみなさいよ、自分達の最大戦力はAAAなのに、その更に上のSランクがいて、どう考えても戦って勝てないってわかってる相手に、普通喧嘩売る?」

「現にこうして売っちゃってるんだからしかたないんじゃないの? 自信過剰と逆ギレと暴走はあの国のお家芸みたいなもんだし、そこまで不思議でもないと思うけど」

「それと同じくらい、トカゲの尻尾切りや責任逃れも得意よ、あの国は。利益になるなら人道やら何やら普通に無視するけど、不利益をこうむりそうな時には積極的に味方を見捨ててしらばっくれて、いくらでもダメージを少なくすることを考える国だもの」

 何か昔の……軍人時代の出来事でも思い出しているのか、やや機嫌を悪そうにしながらセレナは吐き捨てるように言った。

「そもそもぶっちゃけあの国、そこまで必死に脱走兵を始末する必要ないはずなのよ。実は。『シンデレラ』の密造は他の技術者使って今でも続けてるっぽいし、脱走兵が何か暴露的に騒ぎ立てても、適当な下っ端をスケープゴートにしていい逃れるでしょうし」

 そこで一拍置いて、

「だから、連中がわざわざこんな危険区にまで討伐目的の大戦力を送り込んで来たってことは……あいつらはただの脱走兵じゃない、多分何か、チラノースそのものにとって途轍もなく不都合で、なおかつあんたらにとって都合のい――危ないわねいきなり」

 と、セレナがそこまで指摘した瞬間……バスクの手から、シェーンすらも反応できない速さで、セレナの眉間めがけて投げナイフが投げつけられた。

 セレナは、首をこてん、と寝かせて危なげなく避けていたが。

「……この状況で頭が切れるねえ、お姉さん。どうやらあんたは、生かして返すわけにはいかない筆頭候補らしい」

「ご丁寧に肯定していただいてどうも。しかしやれやれだわ……初仕事から何て面倒なのかしら。なんだって調査依頼で新進気鋭の秘密結社の相手しなきゃいけないんだか」

 傾けていた首を元に戻したセレナの目の前で……バスクはとうとう剣を抜き、臨戦態勢に入る。背後に控えている兵士達と共に。

 その身からにじみ出始めた濃密な殺気に……彼の実力を知っているシェーンはもちろん、避難途中の施設の職員達も恐怖や焦りを顔に表していた。

 が、その中でただ1人……先ほどから会話の矢面に立っている彼女だけは、動揺など微塵も見せることなく、堂々と立っていた。

「しょ~がないわね……仕方ないから相手しますか。もー全く、これ以上報告書に書く事柄増やさないでちょーだいよ……たるいっつーのにもう」

 心底面倒くさそうにそう吐き捨てたセレナは、腕輪……の形をしている収納マジックアイテムのはめられた左腕をすっと前に出し、そこに付けられている宝玉をきらりと光らせた……次の瞬間、

 
 ――ドガゴォォオオン!!

 
「「「!?」」」

 セレナにシェーン、そしてバスク……さらに両陣営の『その他大勢』まで全員が思わず振り返る程の大音量と共に……ネスティアの調査基地の屋根が一部吹き飛んだ。

 その原因は……

 
 ☆☆☆

 
「あ、あんのバカ……加減ってもん考えなさいよ……」

「いや、普段ならそのへんちゃんと考えてくれるしさ……コレはむしろ、加減してる場合じゃない戦いなんだ、ってとるべきじゃないかな? ミナト君にとっても」

「それだけ強い、ってこと? あの白黒コートが」

「でしょうね……エルクさん、ミュウちゃん、風か何かで土埃を飛ばせませんか? 『サテライト』があるとはいえ、この視界の悪さはちょっといただけないです」

「はいはいー。あ、アルバちゃん、バリアもう結構ですよ? 瓦礫も大方落ちきりましたし」

 ――ぴーっ!

 
 ……えーと、ごめん。でもザリーの言うとおり、余裕とかない相手なので許して。

 心の中だけでそう謝りつつ……正面にいるこいつから視線ははずさない。

 今何が起こったのかというと、至極単純。

 僕とウェスカーは、互いにそれなりに気合を入れた初撃を正面から激突させ……その余波で、調査基地の一角を爆散させてしまったのである。

「おや……不意打ちのつもりでやらせていただいたのですが、防がれてしまいましたか」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 言葉を交わす僕とウェスカーは……2人も、さっきまでの、何とかコフを挟んで話していた位置から一歩も動いていない。その距離、10m前後。

 この距離から、両者ともが不意打ち気味に『遠距離攻撃』をぶつけた結果がこの惨劇だ。天井は崩れ、壁は吹き飛び、床にもかなりヒビが入って今にも崩れそう……この下地下室あったな。危ないな。

「ふむ、なるほど……徒手空拳と言う戦闘スタイルから、ネックは射程距離……と考えるのは危険だ、という予想は当たっていたようですね」

「あっそ、よかったね。……ところで、その辺にいたチラノースの皆さん、消し飛んじゃったかな? 何か見えた?」

「ダモス・ジャロニコフ殿とその部下の方々ですか? 大半は今の私とあなたの攻撃に挟まれて血霧になってしまいましたが……ジャロニコフ殿は間一髪回避していましたね。そのあたりの瓦礫の下に埋まっているかもしれません」

 あー、そうそう、『ジャロニコフ』。うん、そんな名前だっけ。
 そっか、その人だけ無事か。

『そういうわけで皆、あのAAAのハンマーマッチョがその辺にいるかもだから、それだけ気をつけて。僕、こいつの相手で多分手離せないから』

『了解、あんたも気をつけてね』

 と、念話でエルク他全員に伝えつつ、再びウェスカーに対して身構え……た瞬間に向こうがもう1発かましてきた。

「ではもう1度……『エル・スラスト』」

 今度は縦方向に剣を一閃させたウェスカー。
 その太刀筋に沿って、強烈な衝撃波のような飛ぶ斬撃が放たれ……しかも魔力を混ぜ込まれて凶悪な威力になって飛んでくる。

「こんのッ……『ジャイアントインパクト』!!」

 直後、1テンポ遅れながらも、僕は右腕に魔力をこめ、その内外で『風』と『闇』魔力を渦巻かせる……と同時に思いっきり増幅させ、しかしそれを圧縮する。

 そして、拳を突き出すのと同時に開放し……さらに同時に、圧縮させたエネルギーを真正面に打ち出すように開放。その結果……僕の拳から魔力をこめた特大の衝撃波が放たれ、ウェスカーの技と同じように、しかしこちらは障害物を粉砕しながら飛んでいく。

 で、さっき激突した結果として通路が吹き飛んだ2つの技が再び激突し……さっき以上の爆発になって炸裂した。

 後ろからエルクの『またかい!!』って声が聞こえた……と同時に、土煙にまぎれて左横からウェスカーが剣を構えて突っ込んできた。

 太刀筋は……突き。狙いは、僕の心臓。

 突き刺されちゃたまんないので、体をひねって避け……違う!

「そっちか!」

「――っ!!」

 刃を避けるために体をひねる直前になって、僅かに違和感を感じ……直後、反射的に僕はその逆、右側に向かって後ろ回し蹴りを繰り出していた。

 するとそこに、蹴りを回避しながらその場を飛び退るウェスカーの姿が見えて……左から迫ってきたウェスカーの『幻影イリュージョン』は、幻であり攻撃力なんて全くない剣の切っ先が僕の体に触れた途端、霧散して消えた。

「……そういや、『ケルビム』の十八番の1つが幻覚だったな……めんどくさっ」

 言いながら僕は、今度はこちらから仕掛けるべく地面を蹴った。

 剣を構えるウェスカーに正面から突っ込む……と見せかけて、直前で方向転換。
 真後ろに回って拳を叩き込む……が、それにウェスカーは普通に反応してみせた。

 その場で体を半回転させたと思うと、手首をひねって射線上に剣を割り込ませ、ガギンと防御する。
 さすがに正面から受け止める形じゃなく、衝撃をいなして受け流す感じだけど。

 反応速度もすごいけど……受け流したとはいえ、僕の拳を剣一本で受け止めたってのもすごいな。

 当然ただの金属の剣なんかじゃないんだろうけど……盾でガードしようと、そのガードの上から押し切ってぶっ飛ばせるだけの威力がある僕の拳を受けてなお、平然と、とは。

 よく見ると剣の周りに、障壁魔法に似た魔力の展開を感じる……相手の攻撃を受け止めることを考慮に入れた魔法か、それともそういう機能が剣にあるのか……。

 ……考えてる暇なさそうだから、放置。

「――ッ!!」

 僕の一瞬の硬直を見逃さず、今度はウェスカーが手首をひねって刃を閃かせ、頚動脈狙いの横凪ぎの一撃を振るってくる。

 普通の刃物なら薄皮一枚切れない僕の体でも、こいつの攻撃は防げる気がしないので……一歩後ろに下がってそれをかわし、しかしそこに追撃がもう一太刀飛んでくる。

 それをよけても、更にもう一発、さらに一発……途切れることなく高速で振りぬかれる。

 1秒にも満たない間に、合計5回。しかも、一撃一撃が驚くほど精密なそれが、だ。
 僕じゃなかったら一発目で死んでるよコレ……と思った瞬間、急に体が動かなくなった。

 この感覚には覚えがある……洋館での修業時代に母さんにくらった、相手の動きを縛る金縛りみたいな魔法だ……ってか、ケルビムは種族特性で『金縛り』使えるんだっけ。

 そして確信した。あの洞窟の惨殺現場……犯人、こいつだ。

 死体の傷口の見事な切り口はもちろん……抵抗した痕跡が一切なかった理由もわかった。
 金縛り(コレ)で抵抗も逃走もできなくしてから、1人1人始末したんだ、多分……それなら全部説明がつく。連中、どうしようもなかったことだろう。

 で、このままだと1秒後には僕もああいう感じになること間違い無しなので……

「――だらァッ!!」

「何……!?」

 強引に金縛りを破り、振るわれる剣を飛びすさって回避する。

 残念ながら、金縛りならこっちもミュウちゃんの魔改造の時にきちんと研究・解析して完璧に把握してる。無論その時に、対処法なんかも考案・確立済みだ。

 『ケルビム』の金縛りは、念力みたいな力で物理的(……って言っていいのか?)に体を押さえ込むのではなく、幻術ベースの技能で思念・精神サイドから干渉し、体を『動かせなくする』技法だ。暗示とか催眠に近い。

 しかし僕には、夢魔特有の高い精神制御能力があり、しかもディア姉さんとシエラ姉さんによる修業で鍛えられている。それを利用して、金縛りに限らずあらゆる精神干渉系の技を解除もしくは無効化が可能ってわけだ。限度はあるけど。

 さすがに一瞬で金縛りを破られるというのは予想外だったのか、ウェスカーの太刀筋に若干の動揺が見て取れた……その瞬間に、今度はこっちが攻勢に転じる。

 クロスカウンターの要領で拳を突き出し、顎を狙って打ち抜く……と見せかけて、手甲に仕込まれているギミックの1つを作動させる。

「っ!? かぎ爪!?」

 手の甲側の手首の辺りからギラリとその身を輝かせて伸びた『魔力変形合金』――僕オリジナルの新物質。魔力を流すとあらかじめ設定した形に変形する特殊金属――の爪が、間一髪の所で気付いて状態を逸らしたウェスカーの頬をチッ、と掠める。

 前世のマンガとかだと、忍者が壁を登る時に使いそうな感じの4連装のかぎ爪。今みたいに不意打ちに使ってよし、壁や崖の移動の時に使ってよしの便利ツールである。拳より威力は劣るけどリーチが伸びるから、油断してる奴をザックリいけたりするし。

 今回はそうは行かなかったけど、度肝を抜くことは出来たようなのでよしとして……そのままお返しとばかりに反撃を開始。

 『魔力変形合金』の爪は僕の意思1つで収納自在な上、何気に長さもある程度変えられる。時に爪で、時に拳で、2種類の攻撃を織り交ぜてウェスカーに連撃を叩き込む。

 リーチは長いが威力が低く、剣でも受け止められる爪と、リーチは短いが威力は高く、剣では下手をすればはじかれるか押し切られてしまう拳。2種類の攻撃が不規則に入れ替わって繰り出されるラッシュに、さすがのウェスカーも苦戦……していたけども、

「くっ……さすがに接近戦では分が悪いですね。ならば!」

「ん? て、おわっ……!?」

 どうやら強引に、自分の土俵での戦いに持ち込むことにしたらしい。
 次の瞬間、僕の周囲に無数の白く輝く光の玉が出現し、一斉に襲ってきた。

 慌てて飛び退りつつ、その場でコマのようにぎゅるっと一回転して殺到する魔力弾を全部はじくが……その僅かな間に、ウェスカーは次の手を準備していた。

「全く、常人なら普通に風穴が開く威力だというのに……つくづく常識はずれですね」

「そんなもん何十発も一瞬で配置できるあんたもね。で、今度は何それ?」

「さあ……何でしょうね?」

 ウェスカーの手元には……さっきまでは普通に金属光沢程度の輝きだけだった、しかし今は白い魔力光で刀身全体が覆われいる。あきらかにヤバげな剣が。
 しかも、何か周囲の空間が歪んで見えるほどの魔力感じるし……凄まじく嫌な予感。

 そして次の瞬間、ウェスカーがそれを横に一閃させると、その軌跡に沿って大きな光の刃が形成され、高速でこちらにむけて射出された。

 僕は手甲をクロスさせて受け止めようとして……しかし一瞬後に、背筋にぞくっと来るものを感じ、急遽転がるようにしてそれを避け……

「っっ!? っっづぁあっ!?」

 当たってもいないのに、すぐそばを掠めただけで体が灼けるかと思うほどのとんでもない熱が僕の肌を襲った。

 僕に当たることなくむなしく空を切ったその白熱光の刃は、そのまま飛んでいき……その先にあった瓦礫の山を一瞬で溶かしてしまった。ちょ、どんだけだよ温度!?

 おそらく数千度はあろう光熱の刃……食らったらさすがに僕でもやばそうだ。コイツやっぱただもんじゃない!

 そのウェスカーは、またしても刀身を光らせた剣で――今度は熱の代わりに電撃を纏ってるらしい、放電してる――直接斬りつけてくる。

 近づいただけで髪の毛が静電気っぽく立ってしまう。まとってる魔力からして、かすっただけで全身丸焦げ確実な電圧が宿されたその剣が……

 ……なぜか、持っているウェスカーの腕ごと3本に分裂して、3方向から襲ってきた。

(は!? 今度は何……お得意の幻術か!!)

 一瞬後、1つだけが本物で残り2本は幻覚で作られた腕(と剣)であり、攻撃力は無いと見破った僕は、集中力を極限まで高めて、当たる直前で本物の剣を見破り、それをかわした……と思ったら、剣から広範囲に放電。

(見破った意味ないじゃん!?)

 至極当たり前のように、剣よりも遥かに長いリーチで広い範囲を席巻する電撃。
 幻術を見破った意味も剣を交わした意味もなく、普通に食らってしまった。

 が、電撃自体は……まあ強烈といえば強烈だけど、そこまでダメージは大きくないのでまあよしとしよう。

(……大型の魔物も一撃で殺せる電圧なのですが……)

 何か一瞬ウェスカーの表情が微妙な感じになったかと思ったそのさらに次の瞬間、またしても腕を増やして斬りかかってくるウェスカー。
 しかし、今度は刃は光っているものの、熱も電気も感じない。

 単純に魔力で強化してるだけみたいだ。これなら今度こそ、幻を見破ってきっちりかわせば……いい、とは言い切れない。

 冷静に考えろ……コイツがそんな、単純な対処でどうにかなる戦い方してくれると思うか……?

 さっきの電撃がいい例だ。単に幻影を駆使した、虚実織り交ぜた攻撃っていうだけじゃなく、こっちが予想もしない角度から攻撃を成功させた。

 見える攻撃をかわせばいい、幻術を見破ればいい、範囲外に出ればいい……そんな『普通』な対処をあざ笑うように、明後日の方向から適確にいやらしく一撃を叩き込んできた。

 それを踏まえて、こういうパターンで僕の裏をかいて攻撃を成功させるとしたら……!!

「……『全部』っ!!」

「……ほぉ」

 感心したように呟くウェスカーの目の前で僕は、ガギギギンッ、と耳障りな音を立てて……幻影を含む、3つ全部の剣を、両腕を使って3つともガードする。

 やっぱり……本物の剣だけじゃなく、幻影の2つも攻撃か!!

 幻影の中にカマイタチでも仕込んでたのか、それとも幻影そのものに実体を持たせたのかはわからないけど……最初の心臓突きやさっきの雷の時で、『幻影に攻撃力は無い』と思い込まされていた場合……この上なく有効な『正面からの奇襲』だ。

 タチが悪すぎる……今度は攻撃そのものを透明にして隠したりして襲ってくるんじゃないか? いやそもそもこいつ、自分自身透明になれるんだっけ、幻術で。
 それか、幻術で分身の術とかつかって攪乱しつつ襲ってくるかも……

 そんな嫌な予想が次々と僕の頭を埋めていく中、ウェスカーの次の手は……

「……ちょ、全部とか」

「はい?」

 分身しつつ腕を三本にして、周囲に風と光の魔力を漂わせ――いくつかカマイタチや光刃が浮いてるな、間違いなく――しかもそれらを表したり消したりしながら、全方位から僕に襲いかかってきた。

 ……あーもー、しんどい! 予想はしてたけど、ホント強いなこいつ!

 全方向から迫ってくる攻撃。威力にばらつきはあるようだけど、当たったら洒落にならないダメージにつながるものもいくつか混じってる以上、棒立ちってわけにはいかない。

 しかし、全方位から何十発と同時に、しかも高速で迫ってくる強力な攻撃をさばくなんてのはさすがに不可能に近い。『リニアラン』か何かで強引に突破しようとしても、少なく無いダメージを覚悟しなければならないだろう。

 しかしそれもごめんだ……となれば、いよいよアレの出番だろう。

 よーしいいだろう、上等だ、コイツなら相手にとって不足は無い、存分に溜めさせてもらうとしよう。
 師匠の所で、僕と師匠とミシェル兄さんでが協力して作り上げた、否常識装備の力を。

 心を落ち着け、呼吸を整え……両手足の鉄鋼と脚甲に意識を集中する。
 そして、その力を一気に解放するイメージで……

 
「『パワードアームズ』!!」

 
 直後、僕の体は、『ダークジョーカー』の発動時のような闇魔力の渦に包まれ……両手両足と胸に、小さなサイズの同じような渦が出現。

 一瞬にして僕の装備が、黒一色の手甲と脚甲から、それらが金色で縁取られ、胸部分を覆うプロテクターが付け足された本気モード『パワードアームズ』へと姿を変える。

 そして僕はそのまま、攻防力が大幅に上がった状態で、一番攻撃の弾幕が薄い部分へ突っ込み……無傷でそこを突破した。

 それを見て、背後でウェスカーが『ほぉ』と感心してるのが聞こえた。

 一瞬にして姿を変化させ、黒と金色+5つの宝玉を組み合わせた、ちょっと派手な装備に身を包んだ僕の姿を、ものめずらしそうに頭から足先までじろりと見ている。

「その装備は始めて見ますね……あなたの奥の手ですか? 装備自体の頑丈さもさることながら、周囲にそれなりに強力なエネルギーフィールドが発生している……防御力は桁違いに高そうだ。いやはや、驚かされますね」

「そらども。じゃ、もう1つついでに驚いてみる?」

「?」

 疑問符を頭の上に浮かべるウェスカーに何も説明はせず、僕は顔の前で腕をクロスさせる。

 同時に、両手の甲と両足のくるぶし部分、そして胸の中心に取り付けられた宝玉デモンズパールに魔力を流し、僕のもう1つの『切り札』の発動準備にかかる。

 多分『パワードアームズ』だけでも大丈夫だと思うけど、念には念を、だ。
 何か妙な手札を切られる前に、早急に決着をつけるべき……そのためには、コレを使うのは、決して悪手じゃないだろう。

 強力すぎて下手な相手には使えず、師匠のとこで使って以来の活躍だから……感覚を忘れないためにも、ちょうどいい機会だし。

 5つの『デモンズパール』が紫色の輝きを放ち、さっきよりも更に高純度な闇魔力の渦が僕の体を包み込み……

 そしてついに、僕のもう1つの切り札……『ダークジョーカー』の進化系奥義が、形を成した。

 

「……『アメイジングジョーカー』……!」

 

 
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