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第137話 前座は終わって…
感想返しですが、もうちょっと待って下さい…時間見つけて必ず返すつもりです
m(_ _)m
チラノース軍による、突然の襲撃。
奇襲という他にないその武力行使に、不意を疲れた形になったネスティアの警備兵や、不運にもたまたまその近くに居合わせた冒険者・関係者達がその凶刃にかかり……いくばくか遅れをとって、応戦する姿勢をとった。
しかし、訓練されているとはいえ慌てて体勢を立て直したばかりのネスティア勢は、最初から戦うつもりだった上に勢いもついているチラノース勢が相手では、すぐに拮抗した戦いに持ち込むことは難しい。
こちらからもせめてはいるものの、やはり劣勢。負傷者も多い。
一旦引いて体勢を立て直すなどできれば別だろうが、勢いに乗って猛攻をしかけてくるチラノースの軍勢がそれを許さない。
戦線は徐々に基地内の奥へと押し込まれていき……防戦一方名戦況の中、また1人ネスティア兵がチラノース兵の刃にかかろうとした……その時、
上から『何か』が伸びてきたかと思うと、チラノース兵が振り上げた剣を腕ごと絡めとって止めた。
いきなりのことにその場にいた者たちが驚き、天井を見上げると……
「な、何だこりゃあっ!?」
「へ、蛇!? いや触手!? いや植物……ツタか!?」
「おわぁっ!? こ、こいつ襲ってくるぞ!?」
いつの間にか音もなく天井伝いに忍び寄っていた、大量の植物のツタがそこにあった。
天井から降り注ぐように伸びたそれらは、器用にもチラノースの兵士だけを選んで襲い掛かり、その体を絡めとって動きを封じ、壁や床に叩きつけたり押さえ込んだり。
そしてその過程で、ネスティアの兵士達を助けていく。
自分達には一切の被害がなく、今まで自分達を苦戦させていたチラノース軍が瞬く間に押し戻されていくその光景を前に、ネスティアの兵士達は少しの間あっけにとられていたが、すぐに持ち直して戦いを再会した。形勢が逆転し、自分達に有利になった戦場で。
彼らの多くは、この現象が何なのかやはりわからなかったが、一部の者たちだけは、なんとなく予想がついていた。
この『非常識』な自体を引き起こしたのは、間違いなくあの『否常識』な集団だと。
そしてその予想……見事正解。
『ツタ』の大本には……『召喚獣』の魔法陣に手をかざし、植物の魔物『テンタクルトレント』を呼び出して操っているミュウがいたのである。
しかも、エルクがすぐさま発動させた『サテライト』の空間把握を頼りに、ミュウのそれは基地全体を覆うかのごとき勢いで広がっていっている。
壁や床下、天井などを這うように広がっていくそれは、敵の動きを封じたり味方を援護するのみならず、敵の攻撃から施設そのものを保護する役割も果たしていた。
ミュウの手元を中心に、蜘蛛の巣状にツタが広がり、その領域全てがネスティアに有利なフィールドに変わっていく。それに伴って反撃が始まり、チラノースを押し戻していく。
「ふむ……不意打ちに弱いのは万人、とまでは言わないものの、大概の人に共通ですねー。今回の襲撃も、こっちにしてみたら『不意打ち』でしたし」
『ホントだね、早くも形勢逆転が始まってる。まあ、ネスティア軍の皆さんが優秀なのもあるんだろうけど……ってかミュウ、このツタどんだけ広げるの?』
「とりあえず、窓含めて施設の出入り口を全部ふさぎます。別働隊に侵入されたり、避難口に待ち伏せされたりするのはよろしくないですし。その後余裕があったら、扉の開閉の可否を操作して敵の進行ルートを誘導ですね」
と言いつつ、『余裕があったら』の後の作戦の一部はもう始まっていたりする。
開けられ、侵入されると困る扉にツタを這って開閉不可能にし、保管庫や捕虜収容施設にいけないようにする。
同時に、特定の扉だけを開くようにして、敵軍の進路を誘導し……その先で、
「お、いい具合にまとまって来ましたね……じゃ、お願いしますね、皆さん」
『『『了解』』』
待ち伏せしてまとめてしとめる、という形で。
基地内は決して少なくない数の通路が張り巡らされており、その全てに十分な戦力を配置しておくことは不可能。
ゆえに、ツタで扉を開かないようにふさいだり、必要ならば開閉システムそのものを破壊するなどして通路を限定した結果……チラノースの軍勢の進行ルートは、いくつかある大きな通路にまとまった。
そしてそこには漏れなく……その通路を死守し、そのままはじいて押し返すに十分なだけの戦力が配置されているわけである。
「はーい、ここから先通行禁止ねー」
「「「うぎゃあああああああ!?」」」
……こういった具合に。
なお、狭い通路でチラノース軍を待ちうけ、来た端から殴り倒し、投げ飛ばして順調に戦線を押し戻しているミナトの担当区画における光景である。
なおこの他の通路においても、似たような光景が広がっていることは言うまでもない。
☆☆☆
――ドドドドドドドドドドドドドド……――
絶え間なく放たれる魔力弾丸。
しかし、出鱈目に乱射されているわけではなく、両手に構えた拳銃……のような杖から、きちんとターゲットを狙って打ち出されている。
『邪香猫』所属のマジックガンナー・ナナによって。
急所こそはずしているものの、弾丸はもれなくチラノース兵士の体を実弾よろしく貫通する上、1発1発がもれなく『否常識魔法』の1つである。
水の魔力で編まれたその魔力弾丸は、着弾と同時に相手の体内の水分に振動を叩き込む仕様になっており、打たれた瞬間に周辺の筋肉その他が広範囲にわたって破壊される。
四肢欠損、というようなことにはさすがにならないものの、振動によって筋肉繊維は断裂し、強度や着弾場所いかんでは骨も折れる。運が悪ければ肉が骨から剥離する。尋常ならざる痛みが相手を襲い、漏れなく行動不能になるというわけである。
しかも、銃(杖)に専用のアシストパーツをつけることで、弾に麻痺毒などの作用をプラスさせることが可能である。
いかにこれらを開発した者たちが遠慮なく暴走したかがわかる性能であった。
それが四方八方に向けて火を噴く中、中心で惨劇を作り続けているナナは、無駄のない流れるような動きで、時に相手の剣を銃身ではじき、時に空中で体をひねって攻撃を避けながら、一瞬にも満たない僅かな時間で狙いを定め、撃っていく。
壁を走り、天井を蹴り、床を転がり、空中で回る。
立体的で派手でありながらムダのないその動き。ハリウッド映画顔負けのガンアクションでナナは、次々とチラノース兵を再起不能に追い込んでいった。
時折、ショットガン型の杖(?)が構えられたかと思うと、数十発の弾丸が放たれ、数に頼んで突破しようと突っ込んでくるチラノース兵を飲み込んだり、
距離をとって遠距離から魔法や弓矢で攻めようとしているところに、グレネードランチャー型の杖(?)から放たれた水魔力の爆弾が打ち込まれ、炸裂してその周辺の兵士達を吹き飛ばしたりもしていた。
見る人が見れば、神秘的な魔力光以外は、およそ『剣と魔法の異世界』における戦闘には見えない光景である。その魔力光すら、人によってはビームなど『近未来』の要素に置き換えられてしまうだろう。
そういう思いが頭の中にあったわけではないが、ナナ自身、リーダーから託されたこの道具、そしてこの力には驚かされてばかりだった。
「ふー……これで残り2割ちょっとですかね。しかしまあ、相変わらず凶悪な威力と性質……こんなアイデアが湯水のごとく沸いて出るんだから、ホントミナトさんって天才なんですねえ……」
独り言をぽつりと呟くナナの姿に僅かな隙を見たのか、チラノースの兵が1人は知って突っ込んでくるが……それを見てナナが何かに気付いたように『あ』と一言。
次の瞬間……水の魔力の地雷が、通路全体を覆い尽くすほどの水蒸気爆発を起こして、周囲にいた兵士ごとその1人を吹き飛ばしていた。
無事だったのは……ただの1人だけ。
爆発を察知して障壁を展開し、衝撃から身を守ったナナだけだった。
一方こちらは、別な通路。
「「「何だアレはぁぁぁああああああっ!?」」」
幅5mほどの通路を進んでいたチラノースの兵士達は……突如として襲い来る、真紅の鳥の大群に襲われていた。
ただの鳥ではない。しかし、魔物というわけでもない。
火の魔力を編んで作り出された擬似精霊である。
高密度に圧縮された炎で体が形作られ、術者の意思に従って敵を攻撃もしくは迎撃するようプログラムされて生み出されるその鳥が、シェリーの手によって何十羽と作り出され、狭くはないが逃げられるほどの広さもない通路でチラノースの兵に襲い掛かる。
しかも、その体は炎で出来ているがゆえに、普通に斬りつけてもほとんど効果は無い。
ゴーストなどを相手にする時のように、魔力をこめた攻撃などでなければ攻撃も防御も不可能。そのまま突っ込まれて攻撃を食らうだけである。
言うのは容易いが、それなりに高速で飛びまわっている炎の鳥に攻撃を与えるのは簡単ではなく、何人ものチラノース兵がその餌食になっていた。
しかし、それを潜り抜けることが出来た幸運な数人には……その向こうで構えている褐色の肌の彼女が待ち受けているのだった。
「そりゃ、っと」
あまりやる気の感じられない掛け声と共に、手に持つ剣を横一線に振るう美女。
しかし敵の兵士達まではまだ数mの距離があり、当然刃渡り1mに満たない剣ではその鎧も肉体も捉えることはかなわない……が、そんなことは問題ではなかった。
剣の閃きが左から右にすっと走った次の瞬間、凄まじい熱風と衝撃波が吹きつけて、あと数mのところにまで迫っていた兵士達を吹き飛ばす。
しかも追い討ちとばかりに、
「「「熱っっづぁああああああ!?」」」
熱波は霧散せず、吹き飛ばされた後の兵士達の体に、鎧にまるで水あめのように絡み付いてはなれない。
結果、その熱によって金属製の鎧その他装備が高熱を帯び、常時焼けた火箸を押し付けられているかのような地獄の状態が作り出された。どう考えても再起不能である。
おまけにその熱波は周囲にも伝染し、通路全体が蒸し風呂のような高熱の領域に。
そして、その惨劇を作り出している張本人はと言うと……不満そうだった。
「……強くなりすぎて困る、ってこういうことなのかしら。最近、ミナト君とかナナとか以外に張り合いのある相手がいないわ……」
きっちり健在であるらしい戦闘狂気質が災いしてか、満たされぬ欲望にはあ、とため息をつくシェリー。
目の前で起こっている灼熱の蹂躙劇に、あまり興味は無さそうである。
そんなシェリーの態度を隙と見てか、弓矢や魔法を放ってくる兵士がいたが……ため息をつくばかりで避けようともしないシェリーに直撃コースだったそれらはいずれも、その手前数十センチの所で燃え上がり、かき消されてしまった。
シェリーが身に纏う防御の『否常識魔法』……超高熱の陽炎の鎧『ブレイズヴェール』によって、彼女の身に届かず、燃え散ってしまうのである。
そしてそんな元気の残っていた者達のうち半分は、先ほどと同じ熱波の太刀風『ヒートソニック』によってなぎ払われ、
もう半分ほどは……熱気が充満する通路内で限界を迎え、熱中症もしくは脱水症状で気を失って崩れ落ちていった。
しかもその鎧その他は変わらず熱を帯びているため、かなり危険な状態である。
「強くなるのは楽しいし嬉しいけど……戦いになる相手がいなくなってくのも困り物ね。しかもうちのリーダーの性格があれだから、戦う機会に恵まれてるわけでもないし」
『じゃ『邪香猫』抜ける?』
「それはありえない。戦いも好きだけど旦那様も好きだもの。……さて、これ以上はここに来る人はいなそうね。帰ろ」
念話の向こうで司令塔役を務めているエルクにさらりと惚気を見せながら、構えていた剣をキンッ、と澄んだ音を立てて鞘に収めるシェリーは、いかにも不完全燃焼ですと言いたそうな顔で自分の担当区間を後にした。
ちなみにそのエルクであるが、自らも防衛ラインの守護に参加している。
ザリーと2人1組になり、ミナト、ナナ、シェリーが守るそれらとは別の最後の誘導ルートに陣取り、ザリーが流砂を作って敵の足を取りつつ、エルクが通路一体に『オキシゲン・ロスト』をかけて敵をかたっぱしから酸欠にして気絶させていくという方法で。
チラノース軍の襲撃開始より、30分強。
チラノースの残存兵力は、予想外の猛反撃によりすでに60%を切っていた。
『邪香猫』の活躍により、このままネスティア優勢で運ぶかに思われたこの戦場。
しかし多くが抱きつつあったその予想は、この後、思いもよらぬ理由によって崩れ去ることになるということを、まだ誰も知らなかった……
……1人を除いて。
「…………っ!?」
気付いたのは……ミナト。
シェリー同様、自分の担当する防衛ラインの敵を掃討し尽くし、合流のために集合場所として約束していた区画まで戻ろうとした……その時、
……この状況下において、彼が最も味わいたくない感覚が……彼の背筋を凍らせた。
『……? ミナト、どうかしたの?』
「あ、うん。えーと……今、何か変な感じが……」
『……?』
念話の向こうのエルクの不思議そうな雰囲気は港にも伝わっていたが、ミナトはそれ以上の詳しい説明を特にするようなこともなく、1人ゴクリと喉を鳴らす。
(今の感覚は、まさか……いやでも、こんな所で!? こんな絶海の孤島で、よりにもよって今、こんなタイミングで……!?)
「ちょっとちょっとちょっと、勘弁してよ……」
脳裏をよぎった嫌な予感を否定しきれないミナトは、『最悪』を想定し、急いでその場を離れるべく地面を蹴った。
☆☆☆
場面は変わって、
「ぐああぁっ!?」
「な、なんだこの女!? 強……ぎゃあっ!?」
「……ふん、正規軍が聞いて呆れる……この程度か、チラノースは」
ひゅん、と、
空気を切り裂く音と共に、シェーンの構える、青龍刀に似た形の剣が振るわれ……口封じのため、無差別に施設内の職員を襲おうとしていたチラノースの兵を斬り伏せる。
見る限り、食堂の調理係や配膳係、施設内の清掃員といった見た目の者たちばかり……避難用の経路の先で待ち構えていたのだから当然であるが、明らかに戦闘要員には見えない者たちばかりが、彼らの相手だった。
ゆえに、彼らの任務遂行は何ら難しいものではなく、一方的な殺戮によってこの場は終わるはずだった。
……避難してきた者たちの中に、元海賊として戦闘経験を持ち、研鑽を続けたことによりBからAに相当する実力を持つ、シェーンという戦闘要員がいなければ。
訓練をつんだ兵士とはいえ、その実力はDかC程度。
対抗できるはずもなく、次々に返り討ちにされていく。
30人以上いた部隊は、すでに半数以上が討ち取られ……残り半分の兵士達は、驚きや不安、恐怖や怒りなど、様々な表情を顔に貼り付けていた。
『サテライト』の念話によって情報をリアルタイムで回され、事情を性格に把握している……どころか、敵が通路の先に待ち構えていることすら把握していたシェーンは、応戦に迷いもためらいも何もなかった。
出会いがしらに何人か殺すつもりだった兵たちの死角から襲い掛かり、返り討ちにしてそのまま圧倒してしまっている。たった1人で、30人を相手に。
「お見事。こりゃ、私出番ないかしらね……」
と、一応その後ろで、避難誘導と外敵の排除のために同行してきていたセレナは、見事な立ち回りを見せるシェーンを前にして、ぽつりとそう呟いていた。
しかし次の瞬間、
そんな楽観的な思考を、予測を許してしまう、ネスティア側に明らかに有利なこの状況に……一石が投じられた。
「あれ? こりゃ偶然だな~。こんなとこで何やってんの? お嬢」
「……っ!?」
「うん?」
戦場に響いた、そんな緊張感に欠ける声に……よどみない剣筋で敵兵をなぎ払っていたシェーンの顔に、驚愕が浮かぶ。
直後、ばっと振り向いて……その聞き覚えのある声の出所を目視で確認した。
同時に、こちらは聞き覚えがない、純粋に誰かと思って振り向いたセレナも、その声の主を視界に捕えた。
そこにいたのは、見覚えのあるテンガロンハットととジャケットを身につけ、腰にはサーベルをさしてにやにやと笑っている……シェーンの昔なじみ。
もっとも、そこに、仲がいいと言えるような関係性はなく……むしろシェーンは、怒りと憎悪、殺気のたっぷりこもった視線をぶつけているが。
そして、それを平然と受け止めている男は……
「久しぶり、お嬢。相変わらず目、怖いね」
「……貴様、バスク……!!」
自分の名前がシェーンの口から出てきた瞬間、何の意図があってか、にやりと笑った。
……そして同時刻、基地の中では……
☆☆☆
今、僕の目の前には……下卑た笑みを浮かべた、1人の男が立っている。
その後ろに、何十人もの『チラノース』の兵士を従えて。
ヘルムで顔の上半分を隠し、重厚な鎧と巨大なハンマーで武装しているこのゴリマッチョは紛れもなく、初日の威力外交で名前の挙がった……何とかコフだ。
どうやら一向に攻略が上手く行かない現状に痺れを切らしたチラノースの司令部が切り札として投入したらしい。
持ち前の突破力で、ミュウの妨害を力ずくで突破してきたようだ。
で、後ろに引き連れてきたチラノースの新手が制圧する、って手はずだろうか。
そいつは、まず僕とザリーにバカにしたような視線を、そしてエルク達女性陣に劣情のこもった視線を向けて、へっへっへ、と笑う。
そいつはそのまま、恨みはねえが仕事だから諦めてくれだとか、せっかくSランクの服装を真似て脅しに使ってみたのに、それが通じない相手で残念だったなとか、女達は後でかわいがってやるとか、さっきから言いたい放題言ってくれてるけど、気にすることでもないので右から左に聞き流している。
つーかこいつ……何でか知らないけど、僕が『黒獅子』の偽者だと思ってるみたいだ。
まあたしかに僕、髪色と瞳の色さえ何とかすれば、わりとまねしやすい格好してる気もするけど……。
ともかく、そんな感じのもろもろの理由でやる気まんまんな何ちゃらコフは、さてそろそろはじめるかと言わんばかりに得物の大槌を構え……その後ろに控えている『チラノース』の兵士達もそれに習う。
こちらも臨戦態勢になるべく、武器に手をかけるけど……僕は動かず、さっきまでと同じように、ただ黙って正面を見据えていた。
僕とちょうど目をあわせるかのような立ち居地で立っている何てらコフ……ではなく、
そいつのゴリマッチョボディを、そして数十人の兵隊さん達を挟んで、反対側に立っている……と思われる、ある男を、だ。
おそらく、魔法で姿を隠してるんだろう。目には見えないし、気配も酷く希薄だけど……確かにそこにいる、と、僕の第六感的な何かが言っていた。
これまでもなぜか、適確すぎるくらいに存在を、接近を察知してきた『彼』が……どれだけ上手く隠れて、1000人いても1000人とも気付かなかった魔法であっても、僕だけはその存在を見破ってきた『彼』が、そこにいる、と……。
そして、次の瞬間、
槌の柄をぎゅっと握り締め、いつでも突撃できるように構えているほにゃららコフの向こうに……どうやら向こうも、気付かれていると悟ったのだろう。
観念して魔法を解除し、その姿を僕らの前に現した。
滲み出すように、何もない景色に色がつき……人の姿が浮かび上がる。
「「「…………!」」」
「あん?」
その姿を見た『邪香猫』メンバーは驚愕し、よくわからない表情の変化に、頭上に『?』を浮かべる……コフは、振り返ってその原因を視界に納めたものの……それが誰で、何者なのかは知らなかったため、さして驚きも戸惑いもしなかった。
そして、僕はというと……まあ、予想どおりっちゃ予想どおりだったので、特に何も。
……けどまあ、挨拶くらいはしとくか。
「ちーす、ウェスカー。仕事? こんなとこまでお疲れさん」
「いえいえ、このくらいどうという事はありませんよ……ミナト殿」
白と黒の特徴的なコートに、頭の上のサングラス、そして、今日は腰の鞘から抜いて、抜き身の刃となっているサーベルを手に……そいつはにっこりと笑っていた。
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