異端児のドナルド・トランプ氏とどんな戦いを展開するのだろうか。米大統領選の民主党指名候補が確実となったヒラリー・クリントン前国務長官だ。若者の支持を取り付けられるかがカギだ。
本人が「大統領には私が最もふさわしい」と自負するのもうなずける経験と実績だ。クリントン氏は国務長官ばかりか、大統領だった夫ビル氏をファーストレディーとして支え、上院議員も務めた。
それで培われた安定感は中高年の支持を集める。実際、クリントン氏の選挙集会には中高年の人が目立つ。ある五十代の退役軍人は「クリントン氏には安心して国のかじ取りを任せられる」と評した。
大統領選の行方を左右する重要州である中西部オハイオ州で行われた予備選の出口調査でも、六十五歳以上の77%がクリントン氏に投票した。
ところが、三十歳未満の若者の支持はわずか19%で、対抗馬のバーニー・サンダース上院議員に圧倒された。青年層はクリントン氏のアキレス腱(けん)になっている。
豊富な経験に裏打ちされた現実論を説くクリントン氏に、若者は魅力を感じない。クリントン氏が大統領になっても代わり映えしない、と冷ややかだ。
クリントン氏は既得権益層の一人と見なされ、華麗な経歴がかえってあだとなっている。
一方、サンダース氏が掲げる巨大銀行解体や公立大学授業料の無料化といった公約は、実現性が薄いと指摘されるものが多い。それでも「政治革命」を熱く語るサンダース氏には、現状を変えようという意欲は見て取れる。若者たちはそこに熱狂した。
今回の大統領選で際立つのは、有権者の既得権益層への反発だ。それがトランプ氏やサンダース氏を押し上げた。本選で対決するクリントン、トランプ両氏の支持率が拮抗(きっこう)する大きな要因でもある。
米国を覆う閉塞(へいそく)感は、日本を含め先進諸国に共通する悩みだ。どの国でも「トランプ旋風」が巻き起こる素地はできている。
クリントン氏は初の女性大統領という期待を担う。七日の勝利演説では、女性の社会進出を阻む見えない障壁を意味する「ガラスの天井」に触れて「打ち破ることのできない天井や限界はない」と述べた。
クリントン氏が期待に応えるには、変革をもたらす意志を示す必要がある。まずは、若者の声に耳を傾けてほしい。
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