読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【妄想小説『半現実の王国で』】第1話 ヴィヴィアンの奇妙な冒険

【妄想小説「半現実の王国で」】

奇跡の万能細胞「STAPO(スタポ)」の開発者、オポカタ コハルは、後頭部の痛みで目を覚ました。

「いてぇ…」

どうやら何者かに、鈍器のようなもので殴られ、そのまま気絶していたようだ。

 

コハルは痛む後頭部をさすりながら、 辺りを見回す。

「どこだ?ここは…」

 

気を失っている間に、拉致されたのだろうか。

薄暗さにようやく目が慣れてきて、周囲の状況が分かり始めた。

どうやら、何かの倉庫らしき建物の中のようだ。

小さな窓がいくつかあり、そこからの月明りで、かろうじて中の様子が分かった。

 

天井はカーブを描いたような作りになっていて、ちょうど板付きのかまぼこのようなイメージだ。

 

写真はイメージです

f:id:gattolibero:20160607160858j:plain

http://blog.goo.ne.jp/

 

かまぼこ廠舎(しょうしゃ)の中は暗く、そして寒かった。

 

何が何だかよく分からないけど、とにかくここから出よう。

コハルはよろよろと立ち上がり、ドアの方へと向かった。

 

それにしても、アタイはいったい…

 

少しずつ冷静さを取り戻してきたコハルはようやく何かに気付いた。

 

「ウゲっ!

オ…

オ…

何も思い出せない…!」

 

頭部を強打したことが影響したのか、自分自身の名前さえも思い出せない。

 

マジかよ…!?

 

コハルは愕然とした。

 

自分が一体、どこの誰なのか、何故こんなことに巻き込まれたのか、何から何まで、全く思い出せない…!

 

とにかく、警察へ行こう。

いや、病院か?

違う。

やっぱり警察が先だ。

 

若干のパニック状態に陥ったコハルは小走りにドアへと駆け寄り、急いでノブを回す。

とにかくここを出なきゃ!

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

「開かねえし!!」

 

マジか~。

おもいっくそ、閉じ込められてんじゃん。

 

超~あり得ないんですけど。

 

他にどこか、外に出られそうなところは?

そうだ。窓がある。

 

かまぼこ廠舎(しょうしゃ)には、小さな窓がいくつかあるが、そのすべてに鉄格子がはめてあり、外には出られそうになかった。

 

うわ~~。

詰んだ。

アタイ、詰んだわ。

 

コハルは、やさぐれた。

 

もう何も考えることが出来なかった。

 

ぶん殴られてアタマ超~いてぇし。

スゲ~寒いし。

なんか閉じ込められてるし。

どうしてこんなことになったのかも、全然分かんない。

ってか、

アタイ、自分の名前も分かんねぇじゃん。

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

名前?

 

コハルは何かの手掛かりがあるかも知れないと思い、着ている洋服のポケット全てに手を入れてみた。

 

右のポッケにゃ 夢があり、

左のポッケにゃ チュウインガム

が入っていた。

 

夢…?

コハルは思わず二度見した。

 

よく見るとそれは「夢」でもなんでもなく、

ポケットに入れたまま洗濯機を回してしまいガビガビになったティッシュだった。

 

 

何か、手掛かりになるようなものは…。

 

コハルは、今自分が着ている割烹着をくまなく調べることにした。

どこかに自分の名前が書いてあるかも知れない。

 

・・・・・・

 

・・・・・・

 

あった。

 

何かが書いてある。

 

小窓から差し込む月明りの元で、コハルは目を凝らした。

そこには、アルファベットでこう書いてあった。

 

「Vivienne……Eastwood……」

ヴィヴィアン・イーストウッド

 

これが…アタイの名前…!

 

それはただ単に割烹着メーカーのロゴだったのだが、コハルはそのことには気づかなかった。

頭部へのダメージにより「メーカーのロゴ」という概念がそっくり抜け落ちてしまっていたのだ。

 

 

ヴィヴィアンは、右のポッケから出てきたガビガビになったティッシュをほぐし、それで鼻をかんだ。

 

鉄格子の入った小窓から外を眺め、後頭部のたんこぶをさすりながら思った。

 

アタイはこれからどうなってしまうんだろう…??

 

 

 

オマケコーナー。物語をより深く味わうためのヒントがここに…!

妄想小説「半現実の王国で」の世界観を見事に表しているテーマソング。(無許可)

(ちょうどいいところから再生します。)

 

「半現実の王国で」 というタイトルは、世界一長い物語と言われているヘンリー・ダーガーの作品「非現実の王国で」へのオマージュ。

gattolibero.hatenablog.com

 

 

第1話にいたるまでの原案(登場人物のイメージ画像)などもコチラのカテゴリーに収録してございます。

gattolibero.hatenablog.com

 

 

広告を非表示にする