ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
山田厚史の「世界かわら版」

落日の財務省で「財政破綻願望」が静かに広がる

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第111回】 2016年6月9日
previous page
5

 「税と社会保障の一体解決」という財務省のスローガンは、社会保障を人質にとった増税策ともいえる。増税がイヤなら社会保障を切りますよ、という脅しめいた政策だ。

 上から目線で納税者を脅す、というのでは財務省がいくら健全財政を叫んでも、増税路線は支持されない。

 財務官僚が「官邸の横暴」を嘆いても、庶民の同情が集まらないのは、独善的は財政至上主義の匂いがするからだ。

 税収が足らなければ、社会保障だけでなく、一機200億円もするオスプレイなどの防衛費や、被災地の地元でも異論がある巨大防波堤といった公共事業など見直すべき対象はいくらでもある。

 現実は様々な既得権が絡み合い、簡単ではないが、増税ができないなら、削減に挑戦する課題は事欠かない。

 日本の財政に今必要なのは、財政支出をゼロから見直す、納税者目線に立つ予算の組み替えではないのか。

 人口増と企業の躍進をバネにした高度成長期に税収が増えた日本経済が、財政を差配する大蔵省に権力を与えた。財政破綻すればその権威が陰るのは当然のことである。

 権力を失いながら、いまもその幻想の中から人々を見下ろしている財務官僚の限界が今の迷走に現れている。

 誰のための財政か、どうすれば公正な世の中が実現できるのか。納税者に寄り添う視点を取り返さない限り、財務官僚への憧憬のまなざしは戻ってこないだろう。

 天下の秀才たちが組織の歯車に組み込まれ全体が見えない。若手は意味を見いだし難い資料作りに明け暮れ、動機づけは評価と昇進。ベテランになるとポストと再就職先に意識が向かう。自負心と輝きを失った組織に突破力は期待できない。

 現状を憂う官僚に「危機待望」が静かに広がっている。

 日本の財政はもう自己修正できない。やがて破局が訪れる。5年先か10年かかるか、分からない。でもいつか必ずやって来る。

 歴史の節目には常に大混乱がある。その時が勝負だ、と。ゼロからのやり直しを待つしかない、という。

 無力感は破局願望を伴いがちだ。自分たちは混乱の外にいるのだろうか。エリートにはチャンスかもしれない。激動に翻弄されるのは庶民である。

 危機回避を使命とする人たちが、危機を待望することに、組織の深い病理が見える。

世論調査

質問1 「2020年度の財政基礎収支(プライマリーバランス)黒字化」も先送りされると思う?



>>投票結果を見る
previous page
5
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
ビジネスプロフェッショナルの方必見!年収2,000万円以上の求人特集
ビジネスプロフェッショナルの方必見!
年収2,000万円以上の求人特集

管理職、経営、スペシャリストなどのキーポジションを国内外の優良・成長企業が求めています。まずはあなたの業界の求人を覗いてみませんか?[PR]

経営課題解決まとめ企業経営・組織マネジメントに役立つ記事をテーマごとにセレクトしました

クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

注目のトピックスPR

話題の記事

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


山田厚史の「世界かわら版」

元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

「山田厚史の「世界かわら版」」

⇒バックナンバー一覧