夏と言えば、気になるのが冷房による電力消費の増加。「省エネ」「節電」が重要になるのは当然だが、冷房に関してはいまだに大きな誤解もある。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している東京大学准教授の前真之氏に、冷房などのエネルギー消費における「イメージと現実のギャップ」を解説してもらう。
まずは、一般的な“イメージ”から見ていこう。
「(家庭で)エネルギーを一番使っていると思う用途」をインターネットでアンケートしたところ、暖房・冷房と答えた人が全国平均でそれぞれ54.9%、23.8% に達し、他の用途を圧倒する結果となった(図1)。
こうした認識は正しいのか。実は、エネルギー消費に関する調査結果は大きく異なる(図2)。まずは「一番消費が大きい」とされた暖房から見てみよう。
図2 冷房のエネルギー消費の比率はわずか。本当に多いのは給湯や照明・家電である。住宅における2次エネルギー消費量の内訳(2012年)。「家庭用エネルギーハンドブック2014」(住環境計画研究所編)から引用
北海道や東北、北陸といった寒冷地では、確かに暖房のエネルギー消費が多い。しかし、関東以南では暖房の割合は約20%にとどまる。
冷房にいたっては各地域でごく少なく、四国や九州のような比較的暑い地域でも3%足らず。イメージと現実のギャップが一番大きいのがこの冷房なのである。
逆にエネルギー消費が多いのは、給湯や照明、家電といった見すごされやすい“地味”な用途なのである。
■給湯、照明、家電の消費はなぜ多いか
なぜ、冷房のエネルギー消費は少なく、給湯や照明・家電は多いのか。加熱・冷却を必要とする期間と温度に着目すると分かりやすい(図3)。
冷房が必要なのは夏の限られた期間だけで、1日の中での使用時間も長くない。外気温が35℃を超えることは少なく、室内温度も25℃より低くはしないから、内外の温度差はせいぜい10℃である。必要な場所だけスポットで電源をオンにすることが多いので、冷房する範囲も最小限に抑えられている。