再生数約7000万回以上。これは、ある1人のプランナーが直近で制作に関わった、5つの映像作品の再生数の合計だ。
例えば、最近“スマホジャック”の体験が話題になった6人組の女性ヒップホップユニットlyrical school の『RUN and RUN』のミュージックビデオは、VimeoとYouTubeで合計170万回の再生数を記録した。同動画はSNSで数万単位のシェア数を獲得している。
また、C.C.lemon『忍者女子高生|制服で大回転』の再生数は、これまででなんと合計800万回。本作は、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル2015のBRANDED CONTENT & ENTERTAINMENT部門でシルバー賞を受賞している。
これらの動画の企画チームに共通するプランナーが、TBWA HAKUHODOの栗林和明さん。※『忍者女子高生』は、出向元の博報堂在籍時に担当
28歳の若手ながら、数々のチームで結果を残す栗林さんの名刺に記載された肩書きは“Buzz Machine”。「バズらせる」ことが生業の栗林さんは、“バズのツボ”という、動画を軸として世の中に話題を巻き起こすためのポイントを持っているという。
クリエイティブに関わる人間であれば、誰もが知りたい情報ではないだろうか。ご本人にお話を伺った。
「6原則」と「80の切り口」動画をバイラルさせるために必要なこと
――「バズのツボ」って、それ自体がキャッチーなネーミングですよね(笑)。
ありがとうございます。バズのツボと呼んでいるのは、どんな映像にも普遍的に適用できる「6原則」と、媒体ごとに適用可能な「80の切り口」の2種類でして。
――プランナー・クリエイターホイホイじゃないですか!
(笑)。まず「6原則」は「UNIVERSAL」「DISCUSSION」「WOW」「INSIGHT」「1st CATCH」「1 WORD」の6つです。
重要度が高い順に紹介しましょう。
「UNIVERSAL」 はどこの国の人でも、無音でも、理解できる。
「DISCUSSION」は 議論を巻き起こす、ついひと言物申したくなる。
「WOW」 は予想できない展開がある。
「INSIGHT」 共感・納得を得られる。
「1st CATCH」 冒頭で心を掴む。
「1 WORD」 その企画をひと言で人から人へ説明できる。
なかでも、「DISCUSSION」は最近のバイラルの根幹をなしている気がします。
――動画以外にも応用できそうです。この原則を押さえた上で、「80の切り口」がある、と。
そうですね。まずはできる限り骨太な、コアになるアイディアを考えることに尽力した上で、その企画がまず「6原則」に則っているか、チェックリスト的に利用します。足りなければ補い、これはイケる、と確信したら、「80の切り口」で、更に企画を飛躍させる、という順番です。その切り口には、普遍的なものもあれば、ニュースサイト、Twitter、Facebook、Instagramそれぞれで使えるものが違うこともあります。
例えば既存の企画に「世界初」という切り口を足してみたらどうなるか。「日本文化」を取り入れてみたらどうなるか。「限定1回CM」で流してみたら、もっと期待感を煽れるのではないか、などなど、このような流れで企画を膨らませていきます。
――一つひとつは経験的にも納得できるし、すごく目新しいわけではないのですが、それをこのように可視化されたのが発明ですよね。
もちろん、困ったときの「A(Animal:動物)B(Beauty:美人)C(Children:子供)」などは広告業界のクリエイティブでずっと言われていることです。でも、これはやっぱり時代によっても変化するものなので。最近だと「ライフハック」「料理」「医療」「エンタメ体験」なども、かなりキテいる気がします。何かしら自分との接点がある、シェアすることで友達も得をするような映像コンテンツの需要がとても高まってきていますね。
僕はSNS上の映像作品を1年で1万本くらい、Twitterのポストも10万件くらい見て、その再生数、シェア数とライク数をとにかく片っ端から記憶しているのですが(笑)、バズのツボは、その中から「当たったもの」「当たりそうだけど当たらなかったもの」を徹底的に洗い出して、少しずつそのバズのTipsを集積してわかったことなんです。
なぜ『RUN and RUN』『猫バンバン』はバズったのか、バズの原則と切り口から分析する
――1つのクリエイティブに、いくつくらいのバズのツボが含まれますか?
6原則に加えて、さらに3~10個くらいの切り口を足すことが多いです。
――これまでの事例とあわせて紹介していただけますか?
もちろんです。ただ、その前に、こんな若輩者が偉そうに語っていますが、これは決して僕個人の功績ではなく、最高のクリエイティブディレクター率いるクリエイティブ・マーケティングスタッフ、プロデューサー、そしてクライアントが一体となった“チーム”の仕事だということをご留意いただければと……。
――なるほど、チームプレーなんですね。
はい! その上で、まずは計170万再生を突破した『RUN and RUN』からご紹介します。
RUN and RUN / lyrical school 【MV for Smartphone】 from RUNandRUN_lyrisch on Vimeo.
(CD近山、PL高橋・荒井・河野・栗林、AE 田中、P 深津)
6原則の中でもメインになっているのは、まず自分のスマホが乗っ取られたような感覚になる「WOW」、そして縦型動画やミュージックビデオの可能性に対する「DISCUSSION」。それ以外に、若い子たちは最近テレビじゃなくてスマホでMVを観がちという「INSIGHT」、外国人にも理解できる「UNIVERSAL」、冒頭で惹きを作る「1st CATCH」、”スマホジャックMV”という「1 WORD」という原則も踏まえた作品になっています。
――しっかり6原則が遵守されている。
さらに、バズを飛躍させる切り口として、スマホだけで撮影するという「ローテク」、誰もが簡単に同じようなことが再現できる「真似しやすさ」、有名人からのお墨付きという「他薦」、気になる作り方を公開する「メイキング」、といったポイントを盛り足して、話題を広げていきました。
次は計500万再生を突破した『猫バンバン』です。
(CD高橋、CW 石田・桃井、AD 増田、PL 栗林、AE藤井・上村)
こちらの動画は、冬場に猫が車のボンネットに入り込み、人間が知らずにエンジンをかけることで命を落としてしまうという事故を、ボンネットをあらかじめ「バンバン」叩くことにより防止することを呼びかけたもの。“#猫バンバン”という違和感のある「1 WORD」、可愛すぎる猫の映像による「1st CATCH」、“こんな問題があったの、知ってた?”という「DISCUSSION」の3つの原則が反映されています。加えて、顕在化された「UNIVERSAL」な問題、ボンネットをバンバンするだけで助けられるという「WOW」、猫を助けたいという「INSIGHT」も効いています。
さらにこの問題を皆さんに知ってもらうために、ステッカー・ロゴデータの配布をおこない、「参加」の入り口を増やしたことで、二次拡散と二次創作につながりました。啓蒙ムービー自体も、猫の飼い主の方々から提供いただいた実際の映像をつないで制作されていますが、これはひとえに、「動物」の中でも最も訴求力のある「猫」という対象だったからこそ成立した企画だと思います。
――猫バンバンはどのような経緯で制作された作品ですか?
この活動は、1つのFacebook投稿から生まれました。日々クルマにまつわる情報を発信している中で、知られざるこの”猫の事故”について投稿したところ、反響が非常に大きかったんです。
僕らは、世の中の反応をインターネット上で常にモニタリングして、リアルタイムに施策を展開していくチームをクライアントと一体になって結成しています。今回もユーザーの声を聞きながら、臨機応変にウェブサイト、ステッカー、映像などを展開することで、その関心を拡大していくことに成功しました。

リアルタイムで情報を収集するシステム
続いては、計2600万再生を突破した日産の『インテリジェントパーキングチェア』。
(CD細田、PL 梅田・栗林、AD 増田、PR 小林、P 深津・上藤、AE 岡安・岡本・藤井・伊藤・牛山・中須)
――この動画、SNSで回ってきて観ました!
ありがとうございます! これは日産の技術にインスパイアされて開発されたイスです。ものすごい数のTV番組にも紹介してもらいました。
世の中の人のだいたいが感じたことがあるはずの、”散らかった会議室のイスを片付けるのは面倒”という「INSIGHT」。動画開始早々にイスが勝手に動く「1st CATCH」。そして、ここまで日常が自動化されることに対して、あなたはどう考えますかという「DISCUSSION」、この3つの原則が核になっています。
“技術の日産”らしさをに軸にしながら、「体験」できる場所を準備したり、その「メイキング」を拡散の切り口として設計したりしています。
体験という意味では、こちらの『GIGA SELFIE』(110万再生)も印象的ではないかと。
(CD 近山、CW 高橋・荒井、AD 河野、PL 栗林、AE 徳永・田中)
旅行先では最高の思い出写真を残したいという、世界中の人が抱くであろう「INSIGHT」。そして“ココ(の地域)を採用したらどう?”という「DISCUSSION」の2つの原則に沿った作品です。
最後にご紹介したいのが、こちらの『RISE –世界一激しいイス取りゲーム』。計3200万も再生されています。
(栗林、河石、谷川、小林、三枝)
これは僕が友人から依頼を受け、その友人が所属するアメフトチームのPRのために個人的に制作した動画なのですが、海外を中心にかなり拡散されました。
――すごいリアクション数ですね。まず「1st CATCH」でアメフト選手がイス取りゲームをしているのがおもしろいし、“世界一激しいイス取りゲーム”という「1 WORD」。イスが壊れる「WOW」もお約束的で思わず笑ってしまいますが、これは……?
この映像には、これでもかというくらい、僕の動画研究の全ての知見を詰め込みました(笑)。ぶつかり方にも脚本を用意しており、イスの脚が折れるところも実は計算です。最後、脚の折れたイスに座って倒れるところは、完全に選手のアドリブですが、それもかなりいい味を出しているのではないか、と。
ちなみにこちら、制作原価はトータル3000円で、折れたイス代でした。3000円で3000万人に届く時代って、「可能性だらけだな」とあらためて思いましたね(笑)。
「本当に人の生活を変えるもの」が今後のクリエイティブのカギ!? 「バズ」の先にあるもの
――どうすればこれらの事例のように、世界を驚かせるようなクリエイティブを制作できるのでしょうか? やはり、才能なのかなと思ってしまうのですが。
いや、才能じゃないと思います。それ以上に、とにかく場数を踏み、アウトプットを出し続けることが重要なのではないでしょうか。これは、そうすれば、その数だけ“アクチュアルデータ”が貯まるためです。今はどんな施策をしても、ネット上で反応がバレてしまう。それは脅威でもありますが、本当にユーザーに刺さる琴線を探れるという意味では大きな武器にもなります。
アウトプットをすればするほど、嫌でも嗅覚が磨かれる。僕はさまざまなクライアントさんのお陰で、ソーシャルメディアを中心に沢山のコンテンツを世に出させてもらいました。そして、全てのコンテンツで、ここまで説明したような「バズのツボ」が成果を収めたか、つまり閲覧数やエンゲージメント数がどれくらいまで達成するかを予測・検証しています。これで企画力が一気に身に付くというわけではありませんが、「○○をするとユーザーにスルーされてしまう」という“失敗アンテナ”が発達したと思います。これによって、たくさんあるアイディアのうち、何を切り捨てるべきかがわかり、結果、施策が成功する確率も高くなっていきます。
――では、企画力そのものを高めるにはどうすればいいのでしょうか。
先輩クリエイターにいつも言われるのが「俺たちの仕事は短距離走じゃなくて持久走」ということです。アイディアは突然強く(よく)なることはなくて、練習を繰り返すほどに強く(よく)なる。とにかくアイディアを考え、脳のシナプスをつなげて、思考の筋肉をつけていく、ということを心がけています。
――率直にお聞きして、クリエイティブってもう、やりつくされているんじゃないか、と思うのですが、いかがでしょうか。動画をいくつも制作されていて、アイディアが枯渇したり、既存の作品と似通ったりすることはありませんか?
新しいクリエイティブを生み出し続けるのは、めちゃくちゃ大変です……。毎回、ものすごく頭を悩ませます。ただ、単純に目を惹く映像であれば、できると思うんです。仮にこの80の切り口を2つ組み合わせると、約300パターンの発想ができる。切り口はもっとあるし、いくつ組み合わせてもいい。だから、クリエイティブには無限のアプローチがあるはずなんです。
でも、こうやって考えるような「バズムービー」の時代はもうきっと終わっていて。これからは、本当に人の生活を変える企業の戦略・商品・サービス・メッセージこそが、真のバイラルを生み出せる気がしています。と言うのも、これだけコンテンツが増えたら、中途半端なエンタメコンテンツはあっさり無視されてしまうので。
それでも振り向いてもらうためには、それに勝てるレベルのエンタメか、もしくは、人の日常を変え得る“アクション”を起こすしかないかと。だからこそ、エージェンシーである僕たちは、クライアントと一緒になって、もっとマーケティング、さらには経営の深い階層から議論をしていく必然性が高まっている気がします。
――最後になりますが、栗林さんはどうして「バズらせる」ことを仕事にしているんですか?
とにかく世界を席巻したいんです。いま、誰も着いていけないようなスピードで時代が前に進んでいる中で、僕らが予想だにしていないアイディア・技術を持つ人たちが、来るべきときに備えて黙々とその牙を研いでいるんだろうな、とヒシヒシ感じます。そんな世界中を唖然とさせる「何か」といち早く手タッグを組み、指を鳴らした瞬間に、その「何か」を世界中に知らしめる、そんな力を持ちたいです。そのためにも、まだまだ未開拓である「バズ」という領域を解剖したいと思っています。
これまでエージェンシーは、企業戦略の立案や、マスメディアを最大活用するクリエイティブについては熟練し、知見を蓄積してきましたが、いまだに、「人」というメディアを最大化させることについて、卓越してはいないように感じます。ソーシャルメディアによって発信力を増した「人」というメディアを、あらゆるデータを活用して深く理解できたときに、はじめてマーケティングが次の時代に一歩進むのではないでしょうか。
(朽木誠一郎/ノオト)






