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国際スポーツ政治という“モラルなき世界” – 田崎健太(ノンフィクション作家)

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欧米の報道を鵜呑みにするのは誤り

今回の東京五輪招致に関して、現時点で出ている情報を見る限り、日本の国内法、そしてIOC規定には抵触していない。

 JOCと招致委員会はコンサルティング企業にロビー活動を依頼。電通はその助言をした。そのコンサルティング企業がどのような活動をするかは、日本側は関知しない。あくまでも、善意の第三者という立場を守った。

 もちろん、今後の捜査の行方を見なければならないが、「疑わしきは罰せず」、という原則に照らし合わせれば、非難される部分はない。

 だから、電通側からすればこういう言い方もできる。

 自分たちに泥が被らない、規定すれすれ、二億円程度の「裏金」で約八九億円もの招致活動費が死に金にならずに済んだ、と。

 最初にぼくが「ありきたりな設計図」と評したのは、日本のメディアは「モラル」の問題で騒いでいるからだ。

 しかし、国際スポーツ政治の世界こそ、モラルなき世界である。規制に引っかからなければ、なんでもあり、なのだ――。

 FIFAにしてもIOCにしても、本当に腐敗を撲滅したいと思うならば、専門家を使って規定、罰則規定を徹底的に厳しくすればいい。しかし、いつもどこか抜け道があるように見えるのは、文化、風習、常識の違う国が集う国際組織では、ある程度の〝遊び〟と〝柔軟性〟が必要であると理解しているからだろう。

 ぼくは五輪、W杯といったスポーツイベントの開催地は、開催提案書、各国のインフラ設備等々を慎重に吟味して、「裏金」なしに決めるべきだと考えている。しかし、残念ながらはそれは難しい。

 五輪は巨大なビジネスである。開催地に立候補し、招致競争に参加した段階で、魑魅魍魎の闇の中を歩いているのだ。

 そして、最後にこれだけは付け加えておきたい。

 国際的な捜査、そして報道には様々な意向が埋め込まれている。

 FIFAの腐敗摘発にアメリカが乗り出したのは、2022年W杯招致でアメリカがカタールに敗れたことが一つのきっかけだった。そのカタールに肩入れしたのは、フランスのUEFA(欧州サッカー連盟)元会長のミッシェル・プラティニだ。前述のように、カタールW杯には、東京五輪とは比べものにならない金が動いた――はずだ。

 今回のガーディアン紙の報道の元になったのは、フランス検察当局の動きだった。

 金にまみれた招致活動を正すというのならば、フランスの検察当局はどうして同国人のプラティニの関与が濃厚なカタールW杯に手を出さないのだろう。さらに、東京が開催地失格になった場合、ロンドンという欧州の都市名が早くから挙がったのはなぜか。疑問はいくつも出てくる。

 日本の媒体は欧米の報道を全面的に信用して、鵜呑みにする傾向がある。ジャーナリズムの基本ではあるが、情報の質、その裏側にある意図は精査しなければならない。

 新国立競技場の問題など、東京五輪を巡る金にまつわる話はもううんざりだ。しかし、招致を巡るこの一件はそれらとは少々性質が違うとぼくは考えている。

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田崎 健太
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