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テロ対策の「穴」埋める議論を深めよう

2016/5/9 3:30
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 過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロが世界中に拡散するなか、5月26日から三重県志摩市の賢島で主要国首脳会議(サミット)が開かれる。日本ではこの先も、2019年のラグビー・ワールドカップ、翌20年の東京五輪と、世界的に注目される大イベントの開催が相次ぐ。

 テロを封じ込め、こうした催しを安全に運営することは国としての最大の課題の一つであり、各国に対する責務でもある。現行のテロ対策をいま一度点検して「穴」を塞ぎ、より実効性の高い制度へと練り上げていく必要がある。

 昨年11月、東京の靖国神社に発火物が仕掛けられる事件が起きた。幸い大きな被害はなかったが、起訴された韓国人の男は火薬や時限発火装置の材料をリュックに詰め、日本に持ち込んでいた。韓国から出国する際の保安検査も、入国時の荷物のチェックもすり抜けていたことになる。

 入国する外国人からは顔写真と指紋を採取し、不審者のリストと照合しているが、この人物は事前に把握されていなかったため、歯止めとはならなかった。「ローンウルフ(一匹おおかみ)」的な犯行を防ぐ難しさが改めて浮き彫りになったといえる。

 こうした事件の教訓を踏まえ、まずは水際対策を徹底する必要がある。荷物チェックなどの精度や頻度を上げ、これまで以上に関係各国と不審者情報などを共有していかなければならない。

 欧米諸国の取り組みと比較すると、日本は「情報」の分野での立ち遅れが目立つ。たとえば日本には対外情報を収集・分析する本格的な情報機関がない。政府は外務省に専門家のチームを設置したが、要員も手段も限定されている。各国間の情報交換の原則が「ギブ・アンド・テーク」であるという点からも、心細い。

 テロを未然に防止するための通信の傍受や不審人物の身柄の拘束などは、テロ対策の国際標準になっている。これも日本では認められていない。

 こうした対策は国民の自由やプライバシーにかかわる難しい問題である。だが実際にテロが起きてからでは遅い。拙速で感情的な議論に陥らないためにも、いまから日本の状況に即した中長期的なテロ対策のあり方を検討しておく必要がある。政府は日本の現状や欧米の取り組みなどを広く説明し、議論を深めていくべきだ。

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