実はこのアプリの裏側には、JR東日本が活用に力を入れる技術が投入されているのをご存じだろうか。それはIoT(モノのインターネット)だ。同社では今、IoT技術を活用した鉄道メンテナンス業務の刷新に取り組んでいる。では、なぜメンテナンスに力を入れるのか。
収益確保は事業会社である以上、不可欠であることは間違いない。しかし鉄道会社にとって、それ以上に強く求められるのが、安心、安全な鉄道運行である。
特にJR東日本は、首都・東京の中心部を走る山手線をはじめ、日々多くの通勤客やビジネスパーソンを運ぶ路線が集中しているため、日本経済を支える交通インフラといっても過言ではない。その裏返しで、例えば、自然災害や事故などで管内を走る鉄道が止まれば、社会や経済に深刻な影響を与える。実際、台風や大雪、車両故障などで電車がたった数分遅れただけで、駅などが大混乱になった状況に直面したことがある人は多いだろう。
当然、JR東日本でも定常的な安心、安全の実現に向けた投資は惜しまない。強風や雪害など自然災害対策のほか、列車衝突・脱線事故対策、さらにはホームドア整備など人為的事故を防ぐために取り組んでいる。
そうした従来からの取り組みに加えて、同社の研究機関であるJR東日本研究開発センターにおいて、数年前からIoTの実証実験が進められてきた。その1つが軌道(レールや枕木など)のメンテナンスだ。
現在、同社では年に4回、専用の軌道検測車が運行して、レーザーセンサで軌道の摩耗やゆがみなどのデータを収集。加えて、担当者の目視による材料状態の検査が行われている。この業務をIoTを使って効率化しようというのが大きな目的である。「日本の労働人口がどんどん減っていく中、JR東日本としても少ない人員でいかに安心、安全のレベルを高めていくかが問われていた。その手段の1つがIoTなのだ」と中川氏は力を込める。
具体的に、今後は一般の営業車両に搭載したモニタリングシステムで軌道の検測と撮影を行い、そのデータを毎日収集、分析できるようにする。撮影した画像や映像では、線路のボルトが緩んだり、抜けたりしてないかをチェックする。既に京浜東北線の一部列車と山手線新型車両「E235」系にシステムを搭載。山手線では軌道に加えて、架線の状態も検測可能だという。
これによる効果は計り知れない。何よりも適切なメンテナンス時期が分かる。
今までは年に4回、専用の検測車を走らせるタイミングでしか軌道の細かな状態を把握できなかったため、場合によってはある程度前もって部材などを取り返ることも少なくなかった。「3カ月に1回の検測というタイミングもあくまで決め打ち。もしかしたら軌道の部材の取り換えなどに無駄があったかもしれない」と中川氏は述べる。
今後データがたまってくれば、これくらいの周期で取り換えた方が良い、もっと早めに交換した方が良いなどと、効率的なメンテナンスが可能になると考えている。
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