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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第133話 交錯する数多の思惑

今回、全然筆が進まなかった上、上手く区切りいいところで斬ることが出来ずに、いつもより更新遅れました……すいません。

次の話はもうちょっと早く更新できると思います。多分……

第133話、どうぞ。
 

 調査1日目、夕食時。
 調査基地の食堂で、シェーンが腕を振るって作ってくれた料理を食べながら、僕らはいつもどおり談笑しながら、リラックスして食事を楽しんでいた。

「はー……幸せ。昼は未開の島を探検して、夜は皆で楽しく食事できて、美味しいもんお腹いっぱい食べられて……いいもんだね、こういう探索クエストってのも」

「言っとくけど、普通はこんな感じじゃないんだからね、ミナト君。未開の危険区の探索なんて、本来なら危険と隣り合わせな上、食事だっていつも安心して、満足に取れるわけじゃないんだからさ」

 と、ザリー。僕がだらけてると思ったのか、釘を刺すようにぴしゃりと言う。

「軍、っていうか国の施設があって、きちんと設備が整ってる所だから、こういう環境に身を置けるだけ。大丈夫だとは思うけど、本当はこの島、何がいるかもわかってなくて、近づくことすらためらわれる危険区域なんだって、ちゃんと頭においといてよ?」

「わかってるって。むしろ、そういう場所で寝泊りする危険さなら、7歳の頃から知ってるよ。その頃やった母さんの修行の中に、樹海でテント張って2泊3日、自給自足で魔物の襲撃を跳ね除けながらキャンプで生活する、ってのもあったから」

「……うん、まあ……そこまで極端に考えなくてもいいけどね?」

 いやあ、あの時は大変だったなあ……まだ僕小さくて、魔物たちからしたら見た目一発か弱い、格好の獲物だったから、ひっきりなしに魔物が襲ってきたっけ。

 襲撃で初日にテントだめにしちゃった上に一睡も出来なかったから、次の日から、魔物の住処になってる洞窟に殴りこんで全滅させて、ねぐら強奪して寝泊りしてたっけ。

 あの時の大変だった思い出は今でも覚えてる。危険区域の中で寝泊りするのがどれだけ大変で、危険なのか。少し油断しただけで、簡単にやられちゃうんだって。
 だからちゃんとわかってるよ。今のコレが、すごく恵まれた環境だってことは。

「……繰り返すけど、そこまで極端じゃなくてもいいんだけどね……」

「むしろ、そんな環境下を標準として考えられたら、私達速攻で死んじゃうわよね」

「AAの危険区で単独野宿って……我が義弟ながら、すごい環境で訓練積んできたのね」

「まあ、我ながら比較基準がおかしい気もするけど、それに比べりゃここは危険も……あ、でもまてよ?」

「? どうしたのよ、ミナト?」

 言ってる途中で僕がふいに、何かを思いついたようにつっかえたため、エルクから疑問の視線と共に質問が飛んできた。

「……いや、『危険』で思い出したんだけど……魔物とか環境以外にも、危険……というか、面倒くさそうなのがいたな、って思い出してさ」

「? ……ああ、夕方のあの連中ね」

 ワンテンポ遅れて放たれたエルクのその言葉で、食卓についていた全員が、僕が何のことを言ってるのかに気付いたらしい。

 そう、夕方にたずねて来た、あの迷惑な連中……『チラノース帝国』とやらの調査団だ。

 

 いい機会なので、今回この島を調査しに来た、ネスティア以外の2つの国について、詳しく聞いてみた。

 まず、『ジャスニア王国』。
 『ネスティア王国』の南にある隣国であり、『6大国』の1つ。

 横に長い国土を持ち、その面積はネスティアと大体同じくらい。南の温暖な海に面した国土を持っており、漁業はもちろん、他の様々な産業が盛んな国。
 国の気候そのものも温暖で安定しているため、作物の実りもよく、豊かな国である。

 国土が広い分、多くの国と接していて、そのせいで色々外交で気を揉む部分があったり、多種多様な魔物が生息していたり、抱えている課題も少なくはない国だけど、精強な軍隊を持ち、冒険者ギルドの支部も多くあるため、国力はネスティアに劣らない。

 おまけに、世界に4人しかいない『Sランク』冒険者の1人を擁する国なのである。
 といっても、その冒険者が明確にその国の味方をしてるわけじゃなく……僕と同じ感じで、ただその国に本拠地を置いてる、ってだけらしいけどね。

 ネスティアとは古くから友好的な関係を築き上げてきており、貿易などもさかんに行われているほか、有事の際は手を取り合って対処に当たったりもする同盟国家。
 大切な仲間というか、隣人というか、そんな感じだ。

 後は別に……戦争や紛争もなく平和だから、特筆すべき点は特にない。

 一方、もう1つの国である『チラノース帝国』はというと、対照的というか、問題児というか……『ジャスニア』とはうってかわって困った部分の多い国であるらしい。

 ネスティアの北にあるこの国は、同様に『6大国』の1つではあるものの、ネスティアやジャスニアに比べると国土は狭く、面積にして半分以下。

 気候も寒冷で、農耕業その他にも不利なため、主力の産業は漁業。次いで、寒冷で痩せた土地でも育つ作物をメインに作っているそうだ。

 そしてこの国、何でか外交面でやたら強気というか高圧的な面があるらしい。
 戦争こそ起こそうとしないものの、時にはそのきっかけにもなりかねないような、他国を舐めてるとしか思えないような政策や措置なんかをやってのけることもあるとか。

 さっきのあの、脅迫としか思えないような交渉もその1つだそうだ。他国を見下してるようにすら思えること少なくないというか……他国と手を取り合ったり、歩み寄ったりする姿勢がほとんどないらしい。あくまで『お前達が歩み寄れ』的な感じなんだとか。

 そしてそのくせ、他国から自国の内部に干渉されることをいやがるそうだ。自分の国の政治はあくまで自分の国でやるから口を出すな、的な感じで。何なんだそれ。

 ……どうしよう。ここまで聞いた限りだと、『チラノース=迷惑な国』っていうイメージしかでてこないんだけど……何でそんな風なことになってんのその国?

 そのへんが気になったので、こっちの国についてのみもうちょっと掘り下げて聞いてみると、ちょっとした歴史の授業っぽい説明の末にそれを理解することが出来た。

 聞けばこの国、もともとは東西2つの別々の国だったものを、およそ四半世紀ほど前、大きい方の国が小さい方を吸収する形で合併(?)して誕生した国であるらしい。
 西の国はその頃から『大国』で、東の国はその同盟国……といっても、その国力から、ほとんど属国みたいな扱いだった。

 その2つが、お互いをより大きく、より高い次元に発展させるためってことで合併した際、2つの国の要人たちがそのまま新たな大国の中枢を担い、協力して国を発展させ……そこからしばらくの間、目論見どおりにけっこうな勢いで国力を成長させてきた。

 一時は、このまま成長を続ければ他の大国と遜色ない国力を手にするだろう、なんていわれていたそうだけど、その勢いは長く続かず、あるときを境に成長は止まった。
 それでも先を見ず、勢いだけを重視して前へ前へ進もうとだけした結果、見事にバブル的なことになったらしい。はじけて、ガクッと。

 今現在、そのせいで今までとはうってかわってピンチ気味な自国の状態を何とかするために、今、軍事に経済に、色んな方面に手を出して躍起になっているとか何とか。

 それだけなら、なんか大変だな、って程度のもんだったんだけど、この国……もっと厄介な持病(?)を抱えていたのである。

 この国はそれまで、一応『6大国』とは称されながらも、他の国々に比べて国力で明らかに劣る部分があり、それが劣等感というか、コンプレックスになっていた。

 それが、合併後に急激に国力をつけ、大国の仲間入りだの何だのってもてはやされ、さらには今まであった劣等感の反動が手伝った結果……国民達の間、というか国全体に、変なプライドというか、選民意識みたいなのができてしまったらしい。

 自分達の国は大国であり、周りの国よりも優れてるんだとか、もう周りの国の顔色なんてうかがったりしないぞとかいう姿勢で、しかも『来るなら来い』っていう謎の喧嘩腰。
 中途半端に力がついて勢いづいたせいか、根拠のない自信で国内が満ちている。

 それがそのまま『お国柄』になり、現在の妙に強引で高圧的な外交に見られるような問題児国家として認知されるようになった……というわけだそうだ。

 ……なんか、どっかで聞いたことある感じの国情だな。例によって、前世でだけど。
 異世界でもやっぱり、こういう感じの国ってあるもんなのか。何か上手く行くと調子に乗るってのは、どこ行っても人間の性ってやつなのかね、うん。

 まあ、だからって脅されたりしたんじゃたまったもんじゃないし、理解なんぞする気は別にないけども。

 幸い今日は、図らずも僕の『Sランク』の肩書きのおかげで退散してもらえたけど……願わくば明日以降も変な気起こさずに、向こうは向こうで勝手にやって、こっちに迷惑とかかけないでほしいもんだよ……はぁ。

 
 ☆☆☆

 
 同時刻、
 こちらは『チラノース帝国』の調査団の乗る軍艦。

 その一室……幹部用の会議室にて、調査団と護衛部門の主だった面々がそろっていた。
 中将・ゼストールもいるが……冒険者の2人はいないようだ。

 会議に臨むその態度は様々。ふてぶてしく構えている者もいれば、逆にオドオドと気弱そうにしている者もいる。無関心そうにしている者や、それらを見てなぜか忌々しそうにしている者もいた。

「くそっ、ネスティアめ……まさか、あのような切り札を抱えていたとは!」

 部屋の位置取りとしては上座の位置に座し、おそらくはこの面々の中で責任者のような立ち居地にいるのであろう男が、ため息混じりに言った。

 夕方、3人のAAAランク相当の護衛と共に、ネスティアの調査基地を訪問した時、彼らの先頭に立っていた男だ。忌々しそうに顔をしかめている。

 それを見て、部下の一人と思しき男が、慌ててそのご機嫌を取ろうと、フォローするように声を上げた。

「そ、それは何というか……仕方がないのでは無いでしょうか? 何せ、世界で4人しかいないSランクの1人が、まさか調査隊などに同行しているなどと予想だに……」

「……ですが、予定が狂ったのは事実ですな。これは、少々これからのプランに修正を加える必要があるかもしれませぬ」

 そこに割り込む形で発言してきたゼストールは、こちらも忌々しそうにしていた。

 大柄で軍服の似合うがっしりした体つきの彼が、椅子に深く腰掛けて腕組みをし、眉間にしわを寄せているその光景は、その場にいるだけで他の者を緊張、あるいは萎縮させてしまえるだけの貫禄のようなものがあった。
 『中将』の名が伊達では無いことがわかる光景と言える。

「当初の予定では、向こうの回答がどういうものであれ、交渉その他の優位を確実かつ完全にこちらに持ってくるはずだったが、見事に思惑が外れた形ですな……」

「むしろ先ほどのこの一件で、こちらの高圧的な態度を向こうに気取られてしまった分、マイナスからのスタートになるやもしれません。あくまで交渉事は、ですが」

「ちっ、忌々しい……古ぼけた骨董品のネスティアがまたしても、常に進歩と進化に邁進して止まない我らチラノースの邪魔をするのか」

 茶請けとして出されたらしいケーキをがつがつと口に詰め込みながら、小太りの責任者は自分達のプランを早速狂わせたネスティアへの憎悪に顔をしかめた。

 隠す気すらなかった、あの脅迫と言っていい交渉は、ゼストール中将が今言ったとおり、どんな形であれチラノースに有利な状況をあらかじめ作り出すためのものだった。

 要求が通り、ネスティアの基地にこちらの人員を送り込めればもちろんよし。表向き共同研究ということにしておいて、隙を見てネスティアから物資や情報をこちらに流す内通者を向こうに置くことが出来る。

 しかし、向こうがその申し出に難色を示し、断るもしくは返事を保留にしてきても、別に構わなかった。

 AAAランク、およびそれ相当の実力者が合計3人という、こちら側が武力において圧倒的に優位に立っているという状況さえ示すことが出来ればよかったのだ。

 あの場の責任者の英断によって内通者の侵入を防ぐことが出来たとしても、こちらの露骨なまでの強硬姿勢を、そして申し出を断ってこちらが不愉快な思いをしたということを知れば、ネスティア陣営の不安感は右肩上がりになることは間違いない。

 もしかすると、調査中に闇討ちに遭うかもしれない……という危機感すら生まれるだろう。そしてその場合、AAAランクなどが相手では、勝ち目などない、とも思うだろう。

 危機感と疑心暗鬼に心を支配され、メンタルで大きく遅れを取らせることができれば、この調査中チラノースはネスティアに対して圧倒的に優位に立つことができる。

 調査・採取時の縄張り争いはもちろん、上手くすれば最初の交渉でお流れになった『内通者』が出来るかもしれない。

 『帝国に協力するから危害は加えないでくれ』という、恐怖感に追い詰められた向こう側の人員自らの申し出によって。

 いずれにせよ、この牽制を兼ねた訪問によって、調査中のアドバンテージを確保しようと帝国側は考えていたのだが……その思惑は見事に粉砕される結果となった。

 相手側が、予想外にも程があるレベルの戦力を有していたことによって。

「Sランクだと……!? ネスティアめ、一体どんな手を使った!?」

「大きすぎる誤算でしたな……我々が取った、武力をちらつかせた強硬姿勢による交渉は、こちらの有する武力が相手方を圧倒しているという前提条件がなければ、そもそも成立すらしない……くそっ、まさかSランクなどという怪物がいようとは!」

 チラノースの面々が驚かされたのには、いくつか理由があった。

 無論、ネスティアがSランクのミナトを連れてきていたためということには違いないのだが……より正確に言えば、その『Sランクが来た』理由がわからなかったのだ。

 AAAやSといった超高レベルの冒険者のほとんどは、我が強く、仕事を選ぶ。
 国などの大きな権力にしたがって動くということをあまりやりたがらない上に、自らに見合ったものであると自分で認める仕事しかしたがらない傾向が強い。

 本人の趣味思考もそれに色濃く反映されることが多いが、さすがに今回のような、孤島の探索などという、やや地味なクエストに参加したがる冒険者はそもそも少ない。

 いくら今まで人の手が入っていない分、未知の遺跡や魔物などがあるかもしれないなどという話がそこかしこにあっても、それまでの調査でそれを大きく否定するような材料がいくつも積み上げられている。

 そのため、大きな夢を胸に調査ツアーに参加する冒険者もいるが、興味を示さず見向きもしない冒険者もまた多いのだ。

 ましてや、調査ツアーともなれば、冒険者のアイテム等採取には一定の制限が課され、せっかく採取しても、依頼主……すなわち国の要請があれば、代金と引き換えにそれらの素材等を引き渡さなければならなかったりもして、自由度も低い。

 そのため、こういった依頼には、よほど報酬が魅力的であるか、探索しがいのありそうな秘境・魔境でもない限り、そこまで高レベルの冒険者は集まりにくいのだ。せいぜいがA程度……あとは、変わり者のAAがいるかいないか、という程度。

 事実、今回チラノースが動員した2人……ダモスとセイランは、国が大金を積んで裏から別口で依頼し、護衛戦力兼交渉材料として用意した人材だった。
 そこに、軍に要請して動員してもらった中将を合わせて、3人のAAA級……これだけいれば他国の、こんな場所につれてくるであろう戦力を十分圧倒できる、と。

 ……まさか、時間つぶし目的などという軽~い気持ちで、Sランクもの実力を誇りながらこのような依頼に、しかも自分から参加するような者がいるとは、誰も思わなかった。

 また、その冒険者が王国サイドに友好的なのは、個人的に仲がいい者が軍にいるからであるなどという事情も、わかるはずがなかった。

 そのため、チラノースの面々は必然的に、ミナトはネスティア王国そのものによって直接同行を依頼された冒険者であると見ていた。ダモスやセイランを大金で雇った自分達と同じように、何らかの目的のため、大金もしくはそれに値する報酬を用意して。

 しかし、やはりそれが何なのかはわからない。
 ネスティアがSランクを雇った目的も、どうやってSランクを説得したのかも。

「何にせよ、このまま放っておくのは得策ではないのでは? これでは、我々が当初予定していたのと全く逆の構図が出来上がってしまいますぞ?」

「わ、我々の中から内通者が出かねないというのか!? いやしかし、ありえなくは……」

「くそっ、忌々しい! 何か手は無いのか!?」

「え、Sランクと言っても1人、それもまだ若造ではないですか。暗殺してしまえば……」

「ムダだ。返り討ちにされるのが落ちだろうよ」

 期限が悪そうにしつつも、暗殺の提案をばっさりと斬り捨てる形で言い放ったゼストールは、自らも実力者であるがゆえにわかっていた。

 CやBならまだしも、Sなどという地位は、世渡りが上手いだの、権力にコネがあるだの、そういった理由で手に入るほど安くはない。AAAやSランクの地位にいる以上、若いとはいえ、それに見合った実力を持っているはずであると。

「毒などを使えればまだわからぬが……物陰に隠れての奇襲などでは、殺気を出した瞬間に察知されて返り討ちだろう。諜報部隊ごときの攻撃が当たるとも思えん」

「では、遠くから毒矢か何かを使って……あるいは、連中の食事に毒を!」

「それも無理だな。距離をおけば、攻撃が当たるまでに時間がある分余計に防がれる。それに、国が大金を出して雇ったのだ、毒殺なども警戒して、毒見役がいる可能性が高い。そもそも行き当たりばったりで密偵を忍び込ませられるほど、警備が手薄とも思えん」

 話せば話すほど、対抗策がない現状が明らかになっていく中、ため息混じりにゼストールが話を纏めにかかった。

「……まあいい。当初の予定より動きづらいのは痛いが、幸い向こうはこちらの『目的』には気付いていない……当面は通常通り、調査を進めていけばいいだろう」

「そ、そうですな……東洋の国には、『触らぬ神に祟りなし』なることわざもあるそうですし……いたずらに刺激して、こちらに明確な敵意を持たれさえしなければまだ……」

「……万が一にも、我らの『目的』に気付かれるようなことがあってはならん……くそっ、忌々しいネスティアめ!」

 様々な意味で全体的に空気の悪い会議室で、ネスティアに組するSランク・ミナトへの有効な対処法はついぞ見つからぬまま、数分後、結局その場は解散となったのだった。

 『裏の目的』に支障が出ないようにだけ、細心の注意を払う、ということだけを決定して。

 
 ☆☆☆

 
 さらに同時刻、

 『サンセスタ島』海岸部に、2つの人影があった。
 といっても……そのうち1つは、今正に来たところ、という様子であるが。

「へへっ、よぉ、お嬢ちゃん。奇遇だなあ。何してんだ? こんな時間にこんなとこで」

「……おや、ダモス殿か。何、寝酒でもと思ってな、今宵は月も明るいゆえ、どうせなら月見酒としゃれ込もうと思っただけですよ」

 景色のいい崖の上で、夜風を感じながら1人静かに酒を飲んでいた女性……セイラン。

 そこに歩いてきたのは、すでにだいぶ酒を飲んでいる様子のダモスだった。
 顔は赤く、『ひっく』などと言ってどこか足取りもおぼつかない。近くに寄れば、おそらくは酒の匂いが漂ってくることだろう。

「へえ、そうかい……って、何だ何だ、随分と小せえ酒瓶だな? 何だそりゃ?」

「ああ、コレですか? 私の故郷では割とよく使われているものなのですが、このあたりではどうやら珍しいらしい……見るとほとんど皆、あなたのような反応を返します」

 ダモスの言うとおり、酒瓶にしてはだいぶ小さめなそれは……いわゆる『徳利とっくり』というものだった。
 それを注ぐ器の方もまた、負けず劣らずかなり小さい。

「おいおい、そんなんじゃちょっとずつしか飲めねーだろ? まどろっこしい……ほかに器がねえなら、俺の貸してやろうか? その酒瓶に入ってる分の酒、多分全部入るぜ?」

「いや結構。そのちびちび飲むのがいいのですよ……一気にあおる飲み方も嫌いではないが、こういう夜にはこういう飲み方の方が、私の性にあっているゆえ」

「へー、そーかい」

 理解できた様子ではなかったが、ダモスはそう返すと、セイランの隣にどかっと腰掛けた。予想通りとでも言うべきか、彼女の鼻に、自分のとは違う酒の匂いが届く。

「それはそうと……へへっ、どうだ? 一杯やらねえか?」

 言いながら、ダモスは腰に提げている自分の酒瓶を揺らして見せる。

 金属製のそれは、よくあるマジックアイテムで、見た目より遥かに多い水や酒を入れておける魔法の水筒だ。実はセイランの徳利もその類であるが。

 それに紐でつながれているコップは、こちらも金属製で……どんぶりかと思うほどに大きい。ダモスの好きな酒の飲み方がわかるというものだ。

「構いませんが……私は私の飲み方のままで飲ませていただきますぞ? 風情というものがありますゆえ」

「へっ、つまんねーの」

 言いながらダモスは、手酌で自分の大きなカップに酒を注いで一気にあおり、『ぷはーっ!!』と豪快に息をついていた。

 となりでセイランが、少々居心地悪そうにしていたのには……気付いていないようだ。

「……しかし、驚きましたな」

「あん? 何がだよ?」

「昼間のあの一件ですよ。いやしかし、Sランクの冒険者など初めて見ましたな……意外というか何というか、あまり我々と変わらない見た目でしたが」

 その言葉に、ダモスは『あー』と夕方に出会った、黒装束の少年のことを思い出し……直後、『へっ!』と鼻で笑っていた。
 何事かとセイランが見返すと、

「おいおい、あんなひょろいガキがSランクって……ありえねーだろ? どこからどう見たらアレが強そうに見えるんだって話だよ」

 吐き捨てるように言うと、ダモスはそのまま3杯目の酒をあおる。

「あの軟弱そうなガキのどこに俺ら以上の強さがあるんだっつーの。ハッタリに決まってんだろあんなもん。それなのにお偉いさん達ときたら、ころっと騙されやがって……ってかそういえば、最初に言い出したのお嬢ちゃんだったな」

「ええ……たしかに。最近聴いた話と特徴が一致しましたからな」

「上から下まで真っ黒って奴か? そんなもん、適当に髪と目が黒の奴引っ張ってきて黒い服着させりゃ一発じゃねーか。お嬢ちゃんよお、もちっと人を見る目って奴を養った方がいいぜ?」

「ふむ……一応、人を見る目はある方だと思っているのだが……」

「あーあー、そんなんじゃまだまだだぜお嬢ちゃん? いいか、男の高ランク冒険者ってのは、数々の死線を潜り抜けた猛者特有の、見ただけでわかるくらいの貫禄って奴があるんだからよ……俺みたいにな、へへっ」

 なんなら手取り足取り教えてやろうか、と肩に回そうと伸ばされてきたダモスの手をセイランは涼しい顔をして、ぺしん、と軽く叩いて止める。

「気持ちだけ受け取っておきましょう。私などに構わずとも、船にはあなたを慕う女達が随分といたはず、彼女達をかわいがってさしあげればよろしい」

「へっ、お堅いこって」

 そこでセイランは会話を切り上げると『少し酔いを醒ましてから戻る』と言い残して、すたすたと歩いてその場を去った。

 背中から『気が変わったらいつでも待ってるぜ!』という、先ほどまでよりも少々ろれつが怪しくなった気がする声が聞こえたが、気にしなかったし、返事も返さなかった。

 

 ……が、

 明らかに、声を上げてもちょっとやそっと声を張ったくらいでは聞こえないであろう距離まで離れたあたりで、ふいにセイランは立ち止まった。

 そして、豆粒ほどにしか見えないほどに遠く離れたダモスに、ちらっと一瞬だけ視線を向けると……

「……人を見る目を養った方がいい、か……その言葉、そのまま返すぞ。ダモス・ジャロニコフ……」

 何を考えているのか見当のつかない、怪しげな笑みを一瞬だけ浮かべると……また歩き出した。

 当然ながら、ぽつりと呟かれた言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。

 

 ……そして、
 さらに同時刻……ミナト達やチラノースの重役達、そして雇われの2人とは、またさらに別の場所で……また別な密談が交わされていたことを、誰も知らない。

 
 ☆☆☆

 
「……見てきたか?」

「ああ……『チラノース』の軍艦だ。しかも、『ネスティア』や『ジャスニア』までいた……くそっ、最悪だぜ……」

「面倒なことになったな……だが、ネスティアやジャスニアは、あくまでこの島の調査目的何だろ? だったらそこまで警戒しなくてもいいんじゃ……?」

「確かにそうだが……見つかるようなことはどの道避けなきゃいけねえだろう。相手がどこの陣営でも、な」

「特に『チラノース』は、明らかに俺達を探してこの島に来てるだろうしな……他2つの国はともかく……あそこは出し抜ききれねえんじゃねーか?」

「いざとなったら、隙を見てここを出るか……。逃げ切れればいいが……」

「……準備だけはしておこう。どこの陣営に見つかっても、ろくなことにならねえのは間違いないからな……」

 
 ☆☆☆

 
「……ん~……何だか今、中々にカオスなことになってるねえ、あの島。軍艦3隻に要人・護衛わんさかだけど……どうする?」

「どうもこうも、我々は我々のやるべきことをするだけです。その過程で邪魔が入るのなら……排除する他ないでしょう」

「簡単に言うなあ……まあそれは同感だけど、結構厄介なのがそろってるっぽいよ? あの島。チラノースはまだわかるとしても、何でネスティアまであんな気合入った面子?」

「……おそらく、偶然でしょう。この時期に彼らがこんなクエストに参加していることを考えると……理由には心当たりがありますから」

「……いやいやいや、偶然であの面子がそろうって何よその悪夢……。資料を回収して、事情を知ってる奴を全員処分して帰還するだけの簡単なお仕事じゃなかったっけコレ? いつの間にSランクの怪物を相手取る難度デタラメなミッションになったの?」

「何を言っても現実は変わりませんよ。幸い彼らは、まだ詳しい事情までは知らないでしょうし……関わらなければ大丈夫だと言えます。チラノースもそれなりに大きな戦力を投入してきているようですが……まあ、AAAくらいなら、最悪私が何とかします。その間にあなた達でチラノースの人員を皆殺しにしてしまえば事足りるでしょう」

「うわーぉ、こりゃまた頼もしいお言葉で……」

 
 
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