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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第132話 悪意ある外交

 

 なんか、島に停泊してた船の上から手振ってきた女の子に手を振り返してから、数十分後、

 僕らの乗る『ネスティア』の軍艦もまた、その船と同様に火山島『サンセスタ島』に到着していた。

 ただし、僕らは事前に聞いてた通り、本島から少し離れた場所の、調査基地のある離島に船を着けたのに対して……向こうの軍艦は、本島に直接接岸してたけど。

 気になって聞いてみたら、『チラノース帝国』とやらは調査基地を持ってないんだそうだ。だから、船で僕が言ったみたいに、船をそのまま拠点にするつもりなんだろうと。

 作ってなかったわけじゃなくて、本島に直接作ったせいで、火山活動やそれに伴う噴煙や火山灰に巻き込まれて使えなくなっちゃった、って感じらしいけど。

 それと、ここからもっと南の方の海岸に、もう1つ、『ジャスニア王国』っていう国の調査団の船も停泊してるのが見つかったらしい。

 ジャスニアはチラノースとは逆、ネスティアの南側にある国で、横に広い領土を持つ大国。ネスティアとも割と仲がいい国で、貿易なんかも普通にしてるそうだ。

 必要ならこの調査中、協力して任務に望むことも可能だろうとのこと。そりゃ頼もしい。

 一方『チラノース』は、妙にプライドが高いというか何というか、他国に対して突っぱねるような態度をとる国らしい。

 と言っても、さすがに外交の場で他国を堂々とバカにするような感じじゃあないらしいけど、強気な感じはあるらしくて……『わが国のやることに口を出すな』的なところがあるとか。

 そのくせ、相手の弱みには適確につけこんで指摘してくるような陰険な面もあったり、一部の噂では、他国の弱みを握ったり、技術を盗用しようと工作員を各所に送り込んでる……なんてことまで言われてるそうだ。

 おまけに、領土とか資源とか利権とか、外交上色々な問題を色々な国と抱えてたりして……なんか前世でもそんな国あったなー。どことは言わないけど。

 国と国との付き合いに、トラブル皆無の円満なそれなんてそうそう可能なもんじゃないってのはわかってるけど……特に領土とかその辺の問題って、関わってる国が両方とも向きになった結果、バカな対応の応酬になることもけっこうあるみたいだしなあ……。
 めんどくさいなー、関わりたくないなー。

 まあ、その2つの国(の調査団)への挨拶とか対応は、スウラさん達と一緒に来た行政府の方々がやってくれるらしいから、気は楽っちゃ楽だけど……はぁ。

 何も起こらないといいなー……このクエストが終わるまで……。

 
 ☆☆☆

 
 拠点に物資を運び込んだ後、僕らネスティアの調査団および護衛たちは、あらかじめ決めてあったそれぞれの役割にしたがって動き出した。

 冒険者や傭兵は、『調査団に同行して火山島に入り、調査団を護衛しつつサンプル等の採取を手伝う組』と、『船および調査基地に残ってそこを守る組』の2つに別れる。

 そして調査団に同行するほうのチームは、さらに調査団の部隊の数にあわせて組を分け、それぞれの部隊と一緒に火山島を調べていく……って感じだ。

 この組み分けは日によって変わる。昨日調査チームだったのが今日は船番チームだったりとかする。毎日変わるわけじゃいないけども。

 ちなみに僕ら『邪香猫』は、組を細分化する際にそのまま1つのチームとして分けられた。普段から一緒にいるチームなら、1つにしておいた方が連携も取りやすいってことで。

 そして、同行する調査チームにはギーナちゃんと、僕らの『担当』である義姉さんが一緒だった。

 ちなみにスウラさんは船番の組。
 船には他にも実力者がいるし、冒険者でも軍人でもないけど、そのくらいには強いシェーンもいるから……まあ安全だろう、あそこは。

 というわけで、調査団と一緒に火山島に踏み込む僕らは、こっちの仕事にきっちり集中して、調査団の皆さんをお守りするとしましょうかね。

 

 調査スケジュールみたいなのは、事前に調査団の方で立ててたらしいので、それにしたがって進んでいく。

 調査団の、戦闘力ほぼ皆無な人達を、僕ら冒険者……っていうか『邪香猫』が取り囲む形で保護しながら進んで行ってる。

 護衛がSランクのチームだからだろう、僕らのつく調査チームに振り分けられたのは、調査予定のルートの中でも一番危険が大きいルートだった。

 過去数百年もの間、人の手がほとんど入ってないってことで、オールウェイズ獣道なのはもちろんのこと、岩場とか砂地とかもあって足場は悪いし、密林を突っ切ったりもするし、川を渡ったりもするという、なかなか凄まじいルートである。

 どこの秘境探検隊だっていう話……あ、実際にそんな感じだっけこの任務。

 もっとも、きちんと訓練をつんだ軍人や、荒事が日常茶飯事な冒険者であれば、苦労はしても命の危険まではそんなにないルートではあるんだけど……調査チームの中には、普段は机にかじりついて書類や実験器具をいじってるインドアな人も多い。

 当然そういう人達は、軍人や冒険者に比べて運動神経も戦闘能力も足りてないわけであり、すぐにばててペースが落ちたりする彼らをフォローしつつ進んでいくのも、護衛役の冒険者の役目なのだ。

 さっき言った通りの大自然。舗装なんてされてない道。インドアな方々は歩くだけでそれなりにきつい……ってのは、僕が前世でそうだったのでよく知ってる。
 中学の時の遠足で山登りとか、本気でサボりたかった。

 そして極めつけは、その数百年の間に、そこらじゅうに大量にふりつもった火山灰だ。

 火山灰にも色々と種類があり、さらさらに細かくて軽いものや、湿った土みたいに重いものもある。まだ固まってなくて、踏むと新雪を踏んだみたいにズボッと足が沈むものもあれば、固まって岩石化しているものもある。

 そのおかげで歩きにくいし、風が吹けば軽い火山灰が巻き上がって視界がふさがれるわ、肺に入ったらむせるわ、体について不快だわでもう散々。

 おまけに、環境に適合した魔物もいて……降り積もった火山灰の中から飛び出したり、風で吹き上がった火山灰の向こうから奇襲をかけてくることもあり、油断できない。

 そんなのが当たり前にいつでも起こるのだ。この島の調査では。200年以上もの間放っとかれた理由がわかるってもんだろう。

 
 ……まあ、さっきからそのへんガン無視してるけど僕ら。
 『否常識魔法』、大活躍。

 
「「「…………」」」

 見てごらん、調査団の人たちがリアクションの取り方すらわからずに絶句しているよ。

「……無理ないと思います」

 疲れた様子のギーナちゃんが、何度目かになるため息混じりに言う。
 もちろんというか、肉体的な疲れではなく、精神的なそれだ。

 今、僕らは……さっき話した探索における厳しい前提条件を、全体的に鼻で笑いながら調査地域を進んで行っている。

 戦闘を進んでいるのは、僕とシェリー。
 その後ろに、ザリーとエルク、そしてミュウに守られながら調査団の人たちがいる。
 最後尾はギーナちゃんとナナ、そしてセレナ義姉さんだ。

 歩くフィールドには、砂地や火山灰なんかの、足場が最悪な場所もあるんだけど……それを僕は、水面を歩くときと同じように、足の裏に魔力で力場を作ることで解決。

 雪駄を履いて雪の上を歩くように、砂だろうが火山灰だろうが、足を沈めずにすたすたと歩いている形だ。

 そして、師匠のとこで修行した結果、『邪香猫』は全員僕と同じように水上歩行が出来るようになっているので、今も僕と同じ方法で、足場の悪さを無視して歩いている。

 沈まずに歩ける速さに違いはあるけど、そもそもゆっくり歩いて周囲を観察しつつ進む予定なので問題ない。むしろ、一番この魔法が苦手なザリーでも、本気出せば今の何倍も速く歩けるし。

 ただし、ミュウだけはこの方法で歩いているわけではなく……呼び出した『召喚獣』に、調査団(ひ弱)の皆さんと一緒に乗っている。

 呼び出したのは、巨大なエイの魔物『オーグルライア』。
 水中だけでなく、空中をゆっくりと飛行することも可能なこいつに、魔法の絨毯よろしく調査団の皆さんを乗せて、自分も上に乗って指示を出しながら進んでいる形だ。

 なお、『邪香猫』でないゆえに『水上歩行』を使えず、『オーグルライア』に乗せてもらってもいないギーナちゃんだけは、自分の足で、悪路にやや苦戦しながら歩いてる。

 いや、別に彼女だけ仲間はずれにしてるわけじゃない。
 ないんだけど……

「……無理しないでギーナちゃんも乗れば? ミュウの召喚獣ならまだ他にもいるし」

「い、いえ、今でさえ様々な魔法の恩恵にあずからせていただいているというのに、そこまで甘えるわけにはさすがに……それに私は、何かに乗っているよりも、きちんと地に足をつけて立っていたほうが、いざという時に機敏に動けますから……」

 ……ってな感じで、心配してみても断られてるんだよね。

 一応その心意気を尊重してはみたけど、1人だけ明らかに疲労スピードが違うし、しかもそこにこころなしか精神的疲労も加わってる気がするのでいたたまれない。

 ……精神的疲労はお前のせいだって? アーアーキコエナーイ。

 てか、ホント別に気にしなくてもいいんだけどなあ。
 だって……

「いや~、快適♪」

 うちの義姉なんか、何の遠慮もなく『オーグルライア』に普通に乗ってるし。

 ……まあでも、ギーナちゃんの気持ちもわからなくもない。

 風で巻き上がる火山灰は、エルクの『否常識魔法』の1つで、粉塵・有毒ガス遮断用の風の結界『エアーコンディショナー』で防いでるし、

 襲ってくる魔物とかに関しても、師匠の所で強化して、魔物だろうと人だろうと探知できるようになった『完成版・マジックサテライト』でチェックしてるし、

 そもそもさっきから僕が、こちらも改良して味方……人間に効かないようにした『マジックフェロモン』を使いながら歩いてるから、よっぽど強いか、実力差がわからないバカじゃない限り、魔物とか寄ってこない。

 とまあ普通に考えたら、何だこの予定の100倍快適な調査道中は、って感じで進んでるわけだから、遠慮したくなる気持ちはわかるんだけど……さて、どーしようかね。

 ていうか、『サテライト』があるんだから外的の接近なんて事前にわかるし、その時には足場を確保するために風魔法で周りの火山灰なんて全部ふっ飛ばす予定だから、ホントに遠慮とかしなくていいんだけどな……

 もし疲労が度を超えるようなことになりそうなら、無理矢理にでも乗せよう。

 いざとなったら、『元中将のこの人もバリバリお言葉に甘えまくってだらけまくってんだから、気にしない気にしない』って感じで義姉さんをダシに使わせてもらおうか。

 

 
 道中では、調査団の人達から『止まってくれ』って言われたところで止まり、そこで色々な作業をしていく。

 火山灰や、それが固まったと見られる岩石、その下に埋もれている土や、周囲の草花を研究用のサンプルとして採取したり、

 地層なんかが見られる崖とかでは、それを観察して特徴を記載し、既存の情報各種と照らし合わせて色々と考察したり、

 その際、邪魔な岩石なんかがあったら僕らが砕いてどかしたりとかしていた。

 一通りそれらの作業が終わったら、移動を再開し、また次の調査場所へ……ってな感じに繰り返していく。延々と。

「……なんか、探索って思ったよりやることないね。ちょっと意外かも」

「いや、明らかにあなた達のせいですから。この状況。普通は……というか、悪い意味でですけど、こんなはずじゃなかったんですから」

 と、ギーナちゃん。

 あ、ちなみに今、何箇所目かの調査場所で、調査団の皆さんが採取にいそしんでるので、護衛の僕らは、周囲を警戒しつつ休憩中だ。

「本来、こんな未開の危険区の探索なんて、ずっと魔物に襲われっぱなしでもおかしくないんです。ましてや、ここは数百年もの間、ほとんど人の手が入ってこなかった孤島……外敵に対して魔物は過敏に反応するだろう……っていう予想だったんですよ」

「しかし、その予想は外れちゃったわけだ」

「『外れた』じゃなくて『外された』んですよ……力づくで」

 お、ギーナちゃん初ジト目。けっこうかわいいな、似合ってる。

「しょうがないんじゃないかな、それも。魔物に限らず、野生の生き物は普通、繁殖期や子育ての時期なんかの例外を除けば、自分より強い生き物を襲うことはないからね」

「そして多くの場合、相手の発する匂いやフェロモン何かからそれを感じ取る……ミナトさんの『マジックフェロモン』は、それを逆手に取った虫除けなわけですから」

「……あえてわかりやすくしてるわけですか。魔物に対して……彼我の実力差を」

「そんなとこだね。自画自賛になっちゃうけど……僕もう多分、AAAランクより下の魔物にはほぼ苦戦する気しないし」

「そんなこと言ったら……なんだっけ、フラグ? が立つんじゃないの? どーすんのよあの『ディアボロス亜種』みたいなのがまた来たら」

「むしろ本人が来ちゃったりするかもしれませんねー」

 『邪香猫』メンバーにギーナちゃんもくわわって、そんな感じの緊張感に欠ける雑談。
 むろん、『サテライト』と『フェロモン』は継続して発動中で、きちんと警戒は続けてるけども。

 ただ、完成した『サテライト』はエルク1人、もしくはアルバ1羽で発動可能であり、ある程度の範囲をサーチできるものになっているため、移動中も含めて交代でやることで消耗を最小限にしている。

 今は、僕の肩の上で干し肉をついばんでいるアルバが発動し、『邪香猫』とギーナちゃんの頭にリンクさせている。

 わざわざアルバが空高く飛び上がってエルクとリンクしなくても発動できるようになったので、こんな風に自由に動けてるわけだけど……これだと『衛星サテライト』って名前はどうなんだろう? 単体発動版は名前別なの考えた方がいいかな?

 すると、ため息をつきながら水分補給していたギーナちゃんが、ふと、少しはなれたところの岩に座って僕らを見ているセレナ義姉さんに気付き、

「……そういえば、セレナ殿は……平気なのですね」

「平気? 何が?」

「いえ、その……ミナト殿たちと初めて行動を共にする場合、だいたい皆さん、非常識なまでのその強さや、多彩かつ聞いたこともない魔法に唖然とさせられて、なれないうちはついていくだけで心身ともに大変だ、とスウラ大尉もおっしゃっていましたし、実際身をもって知りましたので……」

 なるほど、平気そうにしているセレナ義姉さんはさすがだな、と。

 そういやそうだな……自分で言うのもなんだけど、この道中、僕らが何してもリアクションは『ほー』とか『ふーん』とかだったし……驚いてる様子もあんましなかった。

 やっぱ、王国軍で『中将』まで上り詰めた人は違うってことかな? それとも、一世紀以上の時を生きてる年の功か……はたまたそこはやっぱり『キャドリーユ家』に嫁いだ女ってことなのか……

「なんか失礼な想像されてる気がするけど……まあいいわ。色々あんのよ、100年以上も生きてればね」

「そんなもん?」

「そんなもんよ」

 なんか、だらけた中にも達観したというか、きちんとした先達っぽい貫禄を姉さんに感じつつ、そろそろここでの調査も終わるかな……と、思ってたら、

「「「――!」」」

 ……サテライトに感あり。
 リンクしていた7人と1羽が、同時にそれを感じ取った。

 どうやら、人……みたいだな。それも、けっこうな大人数だ。
 早くもなく遅くもないスピードで歩きながら、こっちに近づいてきてる。

 そしてその人達、配置が……僕らと同じように、護衛する者とされる者の立ち居地になってて……おそらくは、目的も僕らと同じものだろうと予想できる。

 けど、ネスティアの他の調査チームとは、調査コースがクロスしたりはしないはずだ。
 つまり、こいつらは……

 同様の答えが、おそらくいっせいに僕らの頭の中に浮かんだ数秒後、
 少し離れた所の茂みをかきわけて、その人らは姿を見せた。

 現れたのは、登山とかアウトドアに適したかっこうの人たちが数人、
 それと、その人達を囲むように動いている、こちらもアウトドアに適した格好の人たちが数人だった。

 ただ、前者と後者では、明らかに雰囲気が違うから……別な種類の人間だと割とはっきりわかる。

 前者は、普段はインドアだけど、外にいく必要が出てきたから、一通り装備そろえて出てきました、って感じの人達。動ける服装ではあるけど、外を……こういう、未開の危険区域を歩くことには、なんだかなれていなさそうな感じ。

 それに対して後者は、その程度にムラはあれど、明らかにそういうのになれてる感じの人達。服装や持ち物も、セオリーに沿って無難に用意したように見える前者とは違い、何度もそういう場を潜り抜ける中で、経験で必要なものを理解してそろえている感じ。

 ……ちょうど、僕らも同じような感じになってるからわかる。

 普段、ほとんどインドアで研究作業とかしてる、たまにフィールドワークとか行く程度な研究者や技術者の人たちが、前者みたいな服装。
 普段から危険区域を渡り歩き、荒事に関わっている僕ら冒険者……すなわち護衛役が、後者の服装をしている。

 そんな僕達と同じってことは、この人達は……

(……他国の調査チーム、かな?)

(みたいだね。服に刺繍されてるマークから見ると……ジャスニアのだ)

 

 当然というか何というか、茂みから出てきた『ジャスニア王国』とやらの調査団の皆さんは、こっちの調査団を乗せてる『オーグルライア』を見てびっくりしてたけど、その後普通にこちらに挨拶してきた。
 暴れる様子もないことから、こっちの支配下にある、ってことはわかったみたいで。

 その人達への対応は、『ネスティア』の調査団の人たちが担当している。

 横で見てると、『やあ、これはこれは』『どうも』とか何とか、無難なやり取りしてるように見えるけど……別々の国の調査団である以上、これもいわゆる『外交』とかそういうのの一種なんだろうか?

 だったら、素人が口出したりしないで、専門(?)の人に任せといたほうがいいか。
 僕ら冒険者の仕事はあくまで護衛であって、彼らの相手や接待じゃじゃないし。

 そして、その考えは向こう……ジャスニアの皆さんも一緒なのか、護衛と思しき人達は、調査団同士の話し合いには関わろうとせず、数歩ほど離れた所でその様子を見ている。

 同時に、こっちの護衛である僕らを観察したり、周囲に魔物がいないか気を配ったり。

 けど、それ以外は何もしないし、話しかけても来ない。
 目があったりすると、軽く会釈したりすることはあるけど、それだけ。

 事なかれ主義……っていうと変な感じに聞こえるけど、必要ないことはしない、波風立たないならその方がいい、っていう考え方は共通みたいだ。

 それに、ナナやセレナ義姉さんによると、もともと『ジャスニア王国』と『ネスティア王国』は仲いいらしいし、こういう場面でギクシャクしたりする心配はあんまりないそうだから、そこまで緊張しなくていいらしいけど。

 その言葉どおり、向こうの調査団とは、お互いの代表っぽい人たちが話したり握手したりした後、お互い頑張りましょう的なことを言ってわかれ、何もトラブルなんかは起こらなかった。

 

 ……起こらなかったんだけど、

 もう1つの国の方が……なんというか、そうはいかなかったようで。

 
 ☆☆☆

 
 それからさらに数時間後、
 今日の分の『探索』を終えて、僕らが拠点に戻ってみると……何やら、入り口付近が騒がしくなっているのに気付いた。

 見ると、そこには……さっきと同じ感じの、しかし『ジャスニア』とはまた違った服装の人たちがいて、何やら入り口の前で、スウラさんや、他の調査団関係者の人達とあーだこーだ話していた。

 その更に後ろには、護衛らしき人達と……護衛では無さそうだけど、作業員とか用務員か何かかな、って感じの人達もいた。荷物とか色々、結構な量持って。
 しかも、さっき遭遇した『ジャスニア』の調査団に比べて、何やら護衛の人数というか比率が多いような気も。

 僕らに気付いて振り向いたその人達の服の胸には、見覚えのあるマークが。
 昼間……船から見えた、一足先にこの島についてた軍艦についてたマークだ。

 つまり、この人たちが『チラノース帝国』とやらの調査団、もしくはその関係者であることはほぼ確定なわけだけど……護衛とか作業員とかぞろぞろ引き連れて、しかも、こっちの拠点まで来て。

 あいさつ回り的な? でも、用務員(仮)さん達が持ってる荷物……手土産とか、そういうのには見えないけど……

 それに心なしか、うちの責任者さんたちとの間に漂ってる空気が、剣呑な感じがするし。
 同盟国とはいえ、調査途中で鉢合わせしてともすればサンプルの争奪戦になる可能性だってあった昼間の邂逅より、なんだかよっぽど空気が悪いんだけど……?

 その『チラノース』の先頭に立ってる、おそらくは代表と思しき小太りの男は、帰ってきた僕らに、にっこりとした、しかしどこか胡散臭い笑みを向けてきた。
 一応、会釈だけは返しておくけども。

「……おっと、これは失礼。出入り口をふさいでしまっていましたな。ささ、どうぞお通り下さい」

「あ、ご丁寧にどうも」

 そう言って、すたすたと入り口の前から数歩どいたチラノースの皆さんだけど、帰るわけじゃないらしく、再びスウラさん達に向き直る。

「さて……話は中断してしまいましたな。して、どうでしょう、ネスティアの方々? お互いにとって、決して損になる申し出ではないと思うのですが……」

「し、しかしですね……何分、こちらにも都合というものがありまして……。用意も何もしていませんし、部屋も決して余分にあるわけではありません。いきなりそのようなことを言われましても、お気持ちだけ受け取っておきたいと思いますが……」

「まあ、そうおっしゃらずに……こちらからも協力できることならさせていただきますし、何でしたら、お互いに人材を交換する形での派遣というのはいかがです?」

「そ、それこそ困ります! こちらにも、あらかじめ立てたスケジュールや、その他にも都合というものがあって……」

 ……なんかホントに厄介ごとが起こってる風に見えるんだけど……?

 見た感じ、やっかいごとを持ってきてるのは『チラノース』の方で、こっちの代表はそれに必死で対抗してるというか、外交的な面から、角が立たないようにお引取り願おうとしてるっぽい。
 けど、向こうの代表がしぶとくしつこく粘ってて、もうやだ……って感じだな。

 気になったので、エルクに合図を送り……スウラさんと『念話』でつないでもらって、事情を簡単に説明してもらった。

 それを聞くと……やっぱりというか、向こうが厄介ごとを持ってきていた。
 しかもそれどころか、協力とかいいつつ明らかにこっちをいいように利用するつもり。最初から迷惑かけるつもり満々なようだ。

 どういうことなのかというと、この人たちが来たのはついさっきらしいんだけど、こっちの責任者を呼び出した『チラノース』の方々は、ある提案をしてきた。

 それは、この『サンセスタ島』の調査を、チラノースとネスティアの2つの国で協力してやらないか、というもの。
 しかもそのために、チラノースの研究者や技術者をこっちに派遣するから、この『調査基地』を一部間借りさせてほしいという。場合によっては、サンプルなどを相互に提供したりして、お互いにお互いを助け合いつつ研究を進めよう、と。

 ……何それ、怪しすぎるんだけど。

 お互いのために共同研究って形にしたいから、こっちの施設を曲がりさせろって? しかも、サンプルその他の貸与・提供・交換なんかもしたいって?

 ……字面どおりに受け取れば普通に善意の申し出だけど……外交の『が』の字も知らない僕でも断言できる。字面どおりに受け取るなんて絶対無理な申し出だ、コレ。

 さっきから『有効な国交のために』とか『お互いの研究の躍進のためにも』なんて耳あたりのいい言葉がぺらぺらとチラノース代表さんからは飛び出してるけど、明らかにこっちに不利、というか不安要素が多すぎる提案だもの。

 いくら協力するだの何だの言われたからって、自国の研究施設に外部の人間入れるなんてできっこないだろう。しかも、こんないきなり。
 完全に内通者を疑う展開だ。ていうか、態度的にホントにそうだろうし。

 てか、もしかして用務員(?)たちが持ってるあの荷持、もしかして引越しのためにもう持ち込んできてる、実験器具とかの荷物?

 最初から、しかもこの足で引越し進める気だったのかこいつら? 気が早い通り越してあつかましいな、おい。

 素人の僕でもわかるくらい非常識っていうか、失礼な態度な気がするんだけど……コレ、ホントにこっちに要求呑んでもらえるとでも思ってるんだろうか? どう考えても断られるのは目に見えてるのに……

 すると、申し出て断られて、が何回か繰り返されたところで……チラノースの代表さんが、わざとらしく何かを考え込むようなそぶりを見せて、

「ふむ……ですがネスティア代表、色々な事情があるのはわかりますが、お互いに今は、手を取り合った方がいいかと思いますが……火山活動が収まったとはいえ、ここが未だに未開の危険区域であり、危険な魔物も多く存在していることはご存知でしょう?」

「それは、そうですが……」

「でしたら、こういうのもなんですが……何よりも我らチラノースの調査団との同盟は、その意味においてお役に立てると思うのですよ。何せこちらには……ああ、紹介が遅れました。君達」

「「はい」」

「……」

 すると、護衛らしき数人の中から、2名が小気味よく返事をして、1名は無言で、前の方に進み出てきた。

 1人は、軍服に似たデザインの、豪華だけど動きを阻害することも無さそうなつくりの、実用性のありそうな服を身にまとった壮年の男性。腰にはサーベルをさしている。

 大柄で、整えられたカイゼル髭が印象的。なんか、高圧的に見える。視線も、身長差のせいだけじゃなく見下すようなものを感じるし……貴族が平民を見下す感じに近いな。

 返事をしたもう1人は、重厚そうな鎧をきて、ヘルムまでかぶって完全武装の男。
 なんで男だってわかるのかというと、ヘルムが頭の上半分を覆う形で、下半分は見えてるからだ。無精ひげが生えてる。

 それに、1人目ほどじゃないけど大柄で、ゴリマッチョ。鎧の隙間から見える腕毛なんかもすごい。武器は、肩に担いで構えてる大きなハンマーか。

 そして最後。返事をしなかった1人、は……細身の女の子だった。
 服装がまた特徴的で、どう見ても……チャイナドレス?にしか見えない。丈が少し短くて動きやすそうだから、バトルドレス的な奴なのかもしれないけど。
 整った顔立ちに、セミロングの赤い髪、凹凸の少ないスレンダーな体に、気が強そうな目が印象的だ。

 しかしそれ以上に印象的、というか特徴的なのは……その装備。
 エルクやシェリーみたいな、最低限急所を隠す軽鎧、は別にいいとして……問題は、武器の方だ。

 弓……なんだと思うけど、弦が張ってある方とは反対側、射る時に相手の方になる部分に刃がついてて……振り回したら普通に接近戦でも使えそうなデザインだ。
 刃で相手の攻撃を受け止めつつ、弦を引いて矢を射る、なんてこともできそう。見たことない武器だから、何て呼んでいいのかもわからん。

 っていうか……あれ? この娘……昼間、チラノースの軍艦にのって、望遠鏡除きながら僕に手振ってきた、あの娘じゃ……?

 すると、目があった瞬間向こうも僕のことに気付いたらしく、にやり笑みを返してきた。
 う……なんか、シェリーとか、アイリーンさん系の笑い方だな、曲者の気配。

 そんな3人が前に進み出たタイミングで、

「始めまして、ネスティアの方。ゼストール・ゴールマンと申します。チラノース帝国軍において、中将を務めております」

「ちゅ、中将殿ですか!?」

 軍服っぽい服……ってかホントに軍服だった人が言った言葉に、ネスティアの代表さんは驚きを隠せなかった様子だ。

「ええ。そしてこちらは、順に、ダモス・ジャロニコフ殿と、シン・セイラン殿。今回の調査に際して我らが雇った、冒険者の方です」

「いずれも、我らチラノースの調査団が絶対の信頼を寄せている武人ですぞ?」

 と、最後に代表の人が締めくくった。

 ……自己紹介しろとか言いつつ、最初の中将さんが纏めて紹介したのはおいといて……中将か。随分と上の人が出てきたんだな。

 軍の階級がネスティアと同じなら、たしか中将は……元帥、大将に続いて偉い、上から3番目の役職だったはず。偉そうな態度はそのせいか?

「は、はあ……武人、ですか?」

「左様……セイラン殿もジャロニコフ殿も、AAAランクの冒険者なのですよ。そしてジャロニコフ中将もまた、それに相当する実力者でいらっしゃいます」

「と……AAA(トリプルエー)ですか!?」

 今度は、こっちの調査団全員の顔に戦慄が走った。無理ないけど。
 AAAランク3人って……そりゃ怖いわ。人間兵器一歩手前が目の前に3人いるんだもん。

 てか、そんだけの戦力ちらつかせてこの人、なんかあらためて『どうですかな? お互いの安全のためにも、ここは同盟を』とか『なんでしたら、彼らのうち1人くらいなら、派遣人員とすることも可能ですが』とか言い出したんだけど……もしかしてこれ、ただの脅迫か?

 同盟組まないとこの人たちが黙ってないぞとかって……いや、さすがに直接的に襲わせるのは問題あるだろうから、暗に『調査中に不幸な事故が起こって云々』とか示唆してるのかも? 口には出してないけど。

 あーまあ、確かに普通の人にしてみたら、AAAランクなんていう化け物に襲われた日にゃたまったもんじゃないだろうしなあ。かなり雑っていうか乱暴だけど、全く効果がないわけじゃないのか。

 それにしたってあまりにも無理矢理すぎる、同盟と調査基地間借りの申し出を受け続けて、精神的に疲弊し始めた代表の人が気の毒になったのか……どうやら助け舟を出す気になったらしいスウラさんが、視線で僕に合図を送ってきた。

 その意図を察し、僕が了承の意味をこめて頷くと、スウラさんは『おっほん』と咳払いをして、代表さん達の会話に割り込み、

「ご心配痛み入ります、チラノース代表。しかし、正式な国際同盟関係にもないわれわれが、ご厚意からとはいえそのような大きな約定を受けることは出来ません」

「はっはっは、そんなお気になさらずともよいのに。我々はただ、この危険な島で、お互いが安全に調査を進められるように願っているだけなのですから」

 心なしか、さっきより態度がでかくなった気が。
 AAA3人の素性の公表と……無関係じゃないんだろうな。調子乗ってる?

 まあ、それももう十数秒だろうけど。

 それを聞いてスウラさん、待ってましたとばかりに、

「ええ、ですから、こちらも護衛として相応の戦力はそろえてきておりますので、あなたがたのお手をお借りするまでもありません」

「はい? はっはっは……いやいや、そうですか、それは失礼。しかしながら、見栄を張っても仕方ありませんぞ? あなた、見たところ軍関係の責任者のようですが……とてもそこまでの実力をお持ちには見えませんが……」

 はったりだと思って笑うチラノース代表。
 軍人さんと冒険者(男)のAAAは、ナメられたとでも思ったのか、眉間にしわを寄せてやや不快そうにした。

 しかし、残る1人……シン・セイランとかいう女の子は、ぴくっと一瞬眉毛を動かして反応した後……なぜか、僕のほうに視線を向けた。え、何で?

 そしてその瞬間、笑い声をわざとさえぎるようにスウラさんが、

「ええ、私の戦闘能力は大したことはありません。ですが、こちらにも……AAAランク、もしくはそれに値する戦闘力の方が3人ほどと……何より、Sランクが1人おります」

「はっはっ…………は?」

 沈黙。
 ビデオの一時停止ボタンでも押したのかってくらいに、キレイにその場の音が消えた。

 今度は絶句するのは、向こうの番だったようで……今しがた聞いた言葉を理解するのが難しそうに、代表さんが唖然としている。
 口をぽかんと開けているその顔は中々面白く、笑いをこらえるのがちと大変だ。

 その横で、AAAの男2人も、同じように驚いていて……
 女の子は……またこっち見た。

 そのまま数秒かけて、代表の人は再起動したかと思うと……さっきより若干表情筋が硬い感じの笑みを浮かべて、

「は、はっはっは……これは面白い冗談ですなあ。いやいや、一本取られました。しかし、さすがにSランクなど……」

「……黒髪に黒い瞳、黒服に黒い装備……ふむ」

 と、
 今度はチラノース側から言葉をさえぎられた代表さん。

 その音源、というか犯人は、さっきからこちらをじろりとガン見している……赤い髪の娘。こころなしか、笑っているようにも見える。

「……なるほど、あなたが『黒獅子』か。つい最近認定されたという、現在世界中に4人しかいないというSランク冒険者の1人……」

「……ま、まさか……本当に?」

 落ち着いたトーンで、しかしそれゆえに冗談には聞こえない、しかも自分の陣営からの解説に、さっきまでの余裕はどこへやら。代表さんの頬を、たらりと汗が伝う。

 大枚をはたいて雇ったのであろうAAAの戦力を頼りにした静かな脅迫が意味を成さなくなったことへの焦りか、それともただ単に、Sランク(を要する調査団)に喧嘩を売ってしまったことへの後悔か……。

 ちなみに、僕の後ろに、スウラさんが言ってたAAA相当の実力者(シェリー、ナナ、セレナ義姉さん)もいるんだけど……なんかすでに言う必要も無さそうな感じである。

 先ほどまでとはうってかわって、焦りを隠せない感じであたふたして早口になってるちらノースの代表さんはというと、どうにかこうにか持ち直したものの、さっきまでのしつこさが嘘のようにあっさり引き下がり、すごすごと退散していった。

 護衛たちもそれに続く。AAAの男2人は、若干戸惑いつつも、計画を狂わせて出鼻をくじいた形になる僕に、忌々しそうな視線を向けてから。

 ……そして、赤い髪のあの娘は、恐怖でも焦りでも苛立ちでもない、何というか……嬉しそうな、好奇心に満ちた視線を、流し目気味に僕に一瞬向けて。

 やれやれ、初日からなんだよ、このトラブル。ってか人災。
 なんかこのクエストも、何事もなく終わってはくれなそうな感じだ……あーやだやだ。

 

 
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