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第131話 船旅と再会と他国の調査団
感想は全部読んでます。
時間見つけて必ず返信させていただきますので、しばしご容赦を…
ネスティア王国主催の『サンセスタ島』探索ツアー。
費用その他もろもろほぼ全部国持ちでやってくれるこのクエストにやる気を出す冒険者は、やはりというか多かった。
国全体でなんと300人を超えたらしい希望者の中から、基準は明かされなかったけども、書類審査とかによる選抜みたいなのが行われて……参加者は50人にまで絞られた。
競争率6倍か……まあ、狭き門なんだろうか?
前世の大学受験で12倍の倍率を勝ち抜いた僕は、その数字を見てひそかに優越感に浸るなんていう意味のない上に器の小さいことをしてたのは秘密。
結局大学行く前に死んじゃったしね!(やけくそ)
ちなみに僕ら『邪香猫』は、個々の実力もさることながら、僕が世界有数の、そしてネスティア王国唯一の『Sランク』だってこともあり、選抜は顔パス気味に免除だったらしい。
……っていう話を、新しく担当になったセレナ義姉さんから聞いた。
☆☆☆
今僕は、船に揺られている。
船と言っても『オルトヘイム号』じゃなく、ギルドが、というか王国が手配した調査団用の船……っていうか軍艦だ。
国の依頼で派遣される騎士団ってことで、島に行くのには軍の船を使うらしい。すぐ用意できるし、船足も速いし、頑丈だ……ってことで。
その甲板で僕は、散歩しながら義姉さんと語らっていた。
さて、こないだ驚きのあまり色々と説明が途中になってしまった彼女だが……今言ったとおり、僕の姉である。義理の。
どういう身の上かと言うと、これがまた複雑。少々話が長くなる。
僕の兄の1人で、すでにこの世を去っており、王都の国営墓地に墓石のあった『ゴート・バース』。彼が、セレナ義姉さんの旦那さんだったそうだ。
結婚したのは100年以上前。2人とも、ネスティア王国軍に所属していたことがきっかけで知り合い、数年ほど愛情を育んだ後に結婚した。
しかし、ゴート兄さんは……戦闘能力は高かったものの、人間だった。
対してセレナ義理姉さんは『ハーフエルフ』。『エルフ』と人間の混血児。魔力的に人間よりも優秀であると同時に……純粋なエルフ同様、長い寿命を持つ。
そんな2人の間に、寿命の違いという壁が立ちはだかるのは、ある意味必然だった。
金婚を迎える頃には、2人の見た目は最早、夫婦ではなく、祖父と孫娘って感じ。
すでに腰も曲がり、軍もとっくの昔に引退したゴート兄さんに対し、セレナ義姉さんはバリバリの現役。20歳代中盤くらいの容姿を保ち、出世も続けていて……王国軍『中将』なんていうすごい地位にまで達していた。
それでもお互いを愛し合っていた2人は、最後の最後まで幸せだったそうだけど……ついにその『最後』が来てしまい、ゴート兄さんは天寿を全うしてこの世を去った。
未亡人になったセレナ義姉さんは、中将の座をイーサさんとかいう優秀な後輩――どっかで聞いたような……――に譲り渡し、惜しまれつつも引退した。
その後、喪に服する形でしばらく気ままに過ごした姉さんは、今後は荒事から離れてのんびり暮らそうかなと、ギルドの職員になった。
それから数十年、ギルドでも出世してかなりの地位に。
ただ時々、どうしてもって頼まれて軍やギルドの新人の指導なんかもしてたそうだ。
ナナの上官だった時期もそれに当たるらしい。
当事2番隊の隊長だった人が戦死して軍がやや混乱状態にあった中、ドレーク兄さんが直々に依頼し、期限付きで義姉さんを軍に復帰させ、隊長職を任せた。
その時に部下として付き合い、鍛え上げたのが、ナナってわけだ。
その後、ナナの家が策略に巻き込まれて没落し、そのすぐ後に期限切れになったので義姉さんも軍を退いたわけだけど……ほどなくして、僕が冒険者として頭角を現し始め……そのタイミングで、アイリーンさんから声がかかった。
当事すでに僕のSランク昇進を確信し、『担当』を探していた、という理由で。
「で、僕担当のギルド職員に任命され……現在に至る、ってわけか」
「そういうこと。やれやれ、荒事から離れてのんびり暮らす目的で職員になったのに……ままならないもんね、世の中」
「冒険者ギルドなんてよっぽど荒事と隣りあわせじゃない、ホントにのんびりする気あったの?」
「だってさあ……事務職ってことで就職したのに、いつの間にか総合職になってたのよ? しかも、知らないうちに。文句言おうとしたけど、関係書類にはその通りの内容が書いてあって、私の直筆の署名も入ってて……あーもう、やんなっちゃう」
「捏造されたってこと? でも、そういう重要書類の署名とかって、捏造が通用しないように専用の術式かけてあるんじゃなかった?」
数多の冒険者や危険区域、依頼人に関わるいろんな情報を扱うギルドは、一般職員でさえ、必要な手続きの際にはそういう術式入りの契約書を使って聞いたし。
あーでも、アイリーンさんならそれ強引に書き換えるなり何なり出来てもおかしくないかも……とか思ってたら、なぜか姉さんが気まずそうに僕から視線をはずした。
「……いやまあ、書類ろくすっぽ読まないでさっさとサインしちゃった私も私だけどさ」
もっと単純なトラップだったみたいだ。
聞けば、就職して数ヵ月後に回ってきた書類の中に、部署移動承諾書なるものが混じっていたらしく、よく読まないでサインした結果、移動してしまったと。
そしてその後、笑いをこらえている様子のアイリーンさんから辞令を渡されたと。
……どう見ても確信犯ですね。うん。
「だってしょーがないじゃない、予想以上にギルドの仕事って忙しかったし、そもそも私とりあえずやってみて後で何とかするタイプで、説明書とかあんまり読まない方だったし、私の素性知って勧誘とかしてくるうざったい連中の相手とか排除とかで忙しかったのよ」
そんなんでよく事務職やる気になったな。
てか無理じゃんか根本的に。書類読まない事務職って何だ。
そして怖いって。何、排除って。何平然と言ってんのあんた。
ていうか義姉さん、いくら面倒でも自分のことなんだから、そのへんきちんとしないと……そもそもそんな適当な性格でよく中将とかなれたな。
「部下が優秀だったのよ、面倒なことその娘に全部頼んでたから」
「あんたね……」
戦闘力だけで中将の地位まで行ったんかい。僕ん家は貰う嫁も規格外なのか。
まあでも、僕が言えることでもないか……僕もほとんど、ってかほぼ100%戦闘力だけでここまできたようなもんだし、事務系の仕事ナナにまかせっきりだし。
「しかし、イーサ元気かしら? 確か今大将だったはずだけど……」
おー、そのかわいそうな部下さん出世したのね……って思い出した!
『大将』の『イーサ』って……『イーサ・コールガイン』!?
たしかそれ、今、あの天然ボケのアクィラ姉さんが絶賛迷惑かけてて半ばツッコミ係になってるっていう王国軍の大将さんじゃないか!?
まだ僕会ったこと無いけど、その人、つくづくキャドリーユ家関係者の上司に迷惑かけられる境遇にあるみたいだ……なんか申し訳ない。
「ま、お給金はいいから続けてるけどねー……しかし、とうとうというか本格的に荒事に関わる位置に来ちゃったかー。まさかSランクの義弟の『現地業務担当職員』とは」
「……気になってたんだけど、その、現地なんちゃらって何なの?」
「読んで字のごとく、ってやつよ。Sランク冒険者の遠征とかで行く先に同行して、その行った先でギルドかその関連の業務を担当するの」
「何でわざわざ……現場のギルド職員に任せればいいんじゃないの?」
「そーもいかないのよね。普通の業務ならそれでもいいんだけど、Sランクともなると、国や大貴族から依頼を受けたりすることもあって……中には、情報が秘匿されてたりして、普通の仕事みたいに、不特定多数の職員の目につくような扱いにはできないものもあるの」
「あー、なんとなくわかるかも」
そこで、そういうやばい依頼を受ける冒険者には、ギルドマスター直々に選任した信頼の置ける者を『現地業務担当職員』としてつける。普通のギルド職員には預けられないような書類や情報その他を、出先で扱わせるために。
ただ、『現地業務担当職員』そのものは、受ける依頼内容が特殊であれば、別にSランクじゃなくてAAとかAAAでもその都度つけられるものなのだ。依頼が完了し次第解任されてもとの業務に戻り、担当・処理した業務内容は一切他言されず秘匿されるけど。
ただしSランクの場合は、個別に選ばれた『現地(略)』が常時つく。しかも、依頼じゃなくて自主的な探索とかでも一緒に現地に行ったりして、常に一緒に行動するらしい。
Sランクにもなる冒険者の場合、放っといてもそういう重大な事項に首を突っ込んで、いろいろやばい情報を扱う可能性があるっていうことで。
なんか、監視役みたいだな。実際そういう側面もあるんだろうけど。
そしてその『現地(略)』には、当然というか必然というか、高い戦闘能力を持った者が選任される。
そりゃそうだ、ヤバい情報が絡む、危険もありそうな現地についていくんだから。
しかもその『現地』っての、『行った先の町のギルド』って意味じゃなく……『行く先にある危険区』って意味だから。担当冒険者に拒否されるか、危険すぎてついていけないとかじゃない限り、『現地(略)』ってホントに現地についていくんだよ。
だからその役目には、ギルドマスターも認める信頼があり、Sランク冒険者が立ち入るような危険区域にも立ち入れるだけの戦闘能力があり、ギルドの仕事を問題なくこなしつつやばい情報をさばくだけの事務処理能力がある人が選ばれ……ん? 事務処理能力?
「あるの?」
「一応あるわよ、それなりには。イーサが来てから楽するようになっちゃったけど、それまでは普通に自分の仕事は自分でやってたから」
「頼りすぎた結果だめになっちゃったわけだ」
「はっきり言うわねー……ま、安心しなさい。仕事はきっちりやるし、自分の身は自分で守るだけの実力はあるから」
「それならいいんだけど。ああ、ないとは思うけど、元部下だからってうちのナナ勝手にレンタルとかしないでね?」
「しないわよ、ギルド業務は部外者に任せるわけにはいかないんだから」
ならいいんだけど。
あ、それと最後になっちゃったけど……こないだも言ったとおり、彼女、ターニャちゃんの曾祖母らしい。そしてその夫のゴート兄さん(故)は、僕の兄。
すなわち、ターニャちゃんって実は僕の親戚だったわけだ。
間柄をどう呼ぶのかは知らんけど。兄の子供の子供の子供って何ていうんだろ?
☆☆☆
しばらく雑談した後、仕事があるってんで義姉さんとは別れたんだけど……1人で船を歩いてると、さっきまでは気にならなかった人の視線がなんだかやけに気になった。
Sランクになってからはこんなのしょっちゅうだったけど、やっぱりというか、まだまだ慣れないな。
いつも思うけど……まるで、動物園のパンダか何かにでもなった気分だ。
みんな、奇異の目というか、珍しいものを見るような目で見てくる。
頭がよかったり、運動神経が優秀だったり、顔がいいから注目されるのとか、そういう視線とはまた違う注目のされ方。
見られてること自体にはさっきから気付いてたんだけど、さっきまでは義姉さんと一緒にいたから我慢できたというか、気にならなかっただけであって、1人だとやっぱり心細いもんがある。
たとえ見ている全員が次の瞬間襲いかかってきても蹴散らせる実力があっても、心細いもんは心細い。
なので、『邪香猫』メンバー達に合流することにした。
船に乗ってから、それぞれに振り当てられた個室を見たり、荷物を置いたりするため、僕らは一旦別行動を取っていた。
その時、もうすぐお昼だからってことで、食堂を集合場所にしたのだ。
船の内部構造は頭に……入ってないけど、おいしそうな料理のする匂いの方に向かって歩いていけばいいだけなので、迷うことはない。
そしてたどり着いた食堂では、予想通り、『邪香猫』メンバーが全員そろっていた。
しかし、他にももう3人ほど……見知った顔が。
いやまあ、船に乗る前に見つけてたから驚きはしないけど……あるもんだねえ、こんな偶然というか、縁というか。
「おっ、リーダー殿のご到着か……やはりSランクともなると、風格と呼べるものが感じられる気がするな、ミナト殿」
「お、お久しぶりです、ミナト殿!」
1人は、僕の性格をよくわかっているからか、座ったままジョーク交じりで悠々と、
もう1人は、生来の真面目な性格からか、反射的に立って直立不動で、それぞれ挨拶してきてくれた。
「久しぶり……っていうか、さっき会ったじゃん、スウラさん、ギーナちゃん」
研修を終え、正式に昇進したスウラさんと、こちらも訓練課程を終えて正式に騎士団に配属されたギーナちゃん。王都で会ったきりだった2人と、僕らは再会していた。
スウラさんの服はいつも通りだけど、昇進したからだろう、胸のバッジが少しだけ豪華になっているように見える。
一方ギーナちゃんの方は、それなりに格好に変化があった。
正式な騎士団員になったからだろう。訓練生の制服でない軍服に身を包んでいる。
所属が騎士団だからか、スウラさんたち『軍』の服とはまた違ったデザインだ。
国そのものが依頼主であるこの大規模クエストには、人数はさほど多くないが、行政府および軍の関係者や、各分野の専門家なんかも参加している。
形式としては、冒険者を護衛に雇って遺跡とかの調査にいくタイプのクエストの、大規模版みたいなもんだから。
そのメンバーの中に、スウラさんとギーナちゃんもいたわけだ。
顔見知りがいてくれるのは、こちらとしては嬉しい限り。エルクたちも、最初びっくりしてたけど、すぐにいつもの調子を取り戻して……今じゃこの通り、仲良く食事ってことになってるわけだ。僕ももうちょっと早く来ればよかったかも。
そして、もう1人……
「さて、お兄さんという、この中で一番の健啖家がいらっしゃったことを考えると……ご馳走が足りないですねえ。というわけでシェーンちゃん、大量に追加してくださいな」
「やれやれ、人使いの荒い……しかし、久しぶりだなミナト」
スウラさん達よりもうちょっと懐かしい声でそんなことを言いつつ、たった今持ってきたところであるらしい料理をテーブルに並べていく少女は……港町『チャウラ』で知り合った料理長少女。
聞けば、王都の大衆食堂で鍋を振るっていた所、スカウトされて期間契約で軍の厨房を手伝っているそうだ。シェーンは。
しかも、その直属の上司であり、スカウトした張本人ってのが……なんとキーラ姉さんだって言うんだから、世の中ってけっこう狭いと思う。
王宮総料理長の目に留まったのか、すごいなシェーン。
「でも、何でこの船に乗ってんの?」
「乗る予定だった厨房メンバーが1人、急病でこれなくなってな。担当者が代わりを探していた時に、私に白羽の矢が立ったんだ。船での料理経験もあるからな。ほらできたぞ」
「おっ! 美味しそ」
しゃべりながらもさささっと手を適確に動かし、大皿に肉の串焼きを作り上げたシェーンが、厨房から直接それを持ってくる。
じゅうぅぅう……とまだ音を立てて肉汁が弾けているその串焼きは、見た目一発めちゃくちゃ美味しそうだ。香ばしい香りが鼻に届き、空きっ腹がさらに催促してくる。
「大きめに切ったからな、よく噛んで食べろ。喉を詰まらせるなよ、ミナト」
「ありがとシェーン。でも大丈夫、いざとなったら喉から胃酸分泌して消化するから」
「……そうか」
一瞬顔が引きつったように見えたけど、すぐに、僕のことをある程度理解している者特有の疲れたような表情を見せて、厨房に戻……る前に、
「あ、そうだシェーン、ちょっと聞きたいことがあったんだけどさ、今いい?」
「? あまりよくは無いが……すぐ済むなら構わないぞ? 何だ?」
「うん、ありがと。あのさ、単刀直入に聞くんだけど……あの一件の後、何か体に変化とかなかった? 腕力が上がったとか、魔力が強くなったとか、特殊能力に目覚めたとか」
「いきなり何の話だ……」
一瞬でジト目になったシェーンだが、さらに一瞬間をおいて……『まてよ?』と、何かを思いついたような顔になった。
そのまま少し、視線を空中に泳がせると……何かに思い至った様子で、
「何か体に変わったところがないか、という意味の質問としてその問いをとらえれば……一応、ある。あの後、と言うからすぐには出てこなかったが……」
「? どんな?」
「……最近、手足が少し冷えるようになってきた」
……冷え性?
え、っと……僕は今の、『他者強化』の影響が何かシェーンにも起こってないかと思って聞いたんだけど……特に何もない、のかな?
まさかとは思うけど、『他者強化』のせいで冷え性になったなんてことないだろうし……。
「ただ、普通の冷え性でもないようなので、少々気になっていてな」
「? ってーと?」
「その、何というか……体温が低くなっても、特に不快に感じたりしないというか……むしろ、それがかえって心地よいようにすら感じてな。一応医者には行ってみたものの、体に特に異常は無いし、体質か何かだろうと言われたのだが……っと、長くなったな」
そこで、我に返ったように仕事のことを思い出したらしいシェーンは、僕に『すまんが、この続きはまた後で』と一言断って、職場に戻っていった。
……つらくない冷え性、か……ちょっと気になるな。
後で、時間見つけてまた聞いてみることにするか。
ああそうそう、向こうの2人にも聞かないとね。
スウラさんもギーナちゃんも、前に僕が全力で『他者強化』かけたことがある人の1人だ。肉体および各素質に何か変化が起こってるかもしれない。
もっとも師匠曰く、覚醒する才能とか素質なんて、そうそう持ってる人いないらしいんだけど……現にうちのメンバーは全員、大なり小なり何かに目覚めてるしなあ。
ギーナちゃんは亜人の超希少種族だし、スウラさんは普通の人間だけど、複数回『他者強化』を受けてるし。
……食べながらでもいいかな、いい加減限界だ。
この大皿に乗った串焼き、なんとしても熱いうちに食べたいし。うん。
☆☆☆
船旅は、思っていたほど長くは続かなかった。
港町を出発して2日後の朝食の席で、まもなく調査基地に到着する、との知らせが飛び込んできたのである。
地図で見て知ってた。絶海の孤島『サンセスタ島』は、ひたすらに海のど真ん中にあり、海に面している3つの大国『ネスティア』『ジャスニア』『チラノース』のいずれからもひたすらに遠い。これならそうそう調査隊なんか出せないだろうなってくらいに遠い。
いくら船足の速い軍艦でも数日はかかると思ってたけど、どうやら夜もぶっ通しで航海が続けられていた上に、何らかのマジックアイテムで加速していたらしい。
国はそれだけ本気ってことか。今回の探索に。
「にしても……基地なんてあんの? あの島に。火山活動でずっとまともに調査とかできなかったんだよね?」
「あの島にじゃなく、そのすぐ近くの小さな離島にあるみたいだよ。天然の洞窟の内部に建造したものらしいけど、清潔だし広いし、基地としては十分な設備が整ってるんだってさ。もっとも、劣化を懸念して、器具なんかは置きっぱなしにはしてないらしいけど」
前情報として調査済みだったらしいザリーは、手にしている『サンセスタ島』周辺の地図を見つつ、その島の周りにある小島の1つを指差して言う。
少々本島からは離れているように見えるものの、小船でも30分もあればたどり着けるであろう距離だ。どうやらここに、その調査基地なるものがあるらしい。
「へー……でも、調査基地とかって必要なのかな? 拠点なら、乗ってきたこの軍艦をそのまま使えばよさそうなもんだけど」
「船は揺れるからな。鉱物や動植物を薬品を用いて調べたりするには向かない。それに、採取するサンプルの量によっては手狭になりかねないし、火山島だけに、刺激を与えると爆発したり熱を発生させる素材もある可能性がある。陸上の、ある程度頑丈さのある保管施設は必要だったんだ」
なるほど。
ふと窓から外を見ると……常人の視力でも、うっすらとその島の影が見えるところまで来ている。こりゃそろそろ、上陸準備とかしといた方がいいかも…………ん?
「……スウラさん。今回の調査って……先遣隊か何かでも来てたんですか?」
「? いや、我々だけのはずだが……もしや、島に他の船が見えるのか?」
「はい。あ、でも、荷物とか運び出してる。今到着したばっか、って感じだ」
島の砂浜に、大きな船が停泊していた。
しかもよく見ると、明らかにこの船とは造詣が違うし……何だろアレ?
「相変わらずデタラメな視力ね。どんな船なの?」
エルクにそう聞かれ、よく見るために窓を開けて、あと『フィンガースコープ』も使って見る。えーと、特徴特徴……
「船体が赤くて、この船と同じかそれ以上に大きくて……てか、あれも軍艦か? 帆船で、帆に……なんか、シンボルマークみたいなのが描いてある。絵柄は……月と、百合の花」
「……なるほど。それはおそらく、チラノースの軍艦だな」
と、スウラさん。他国の船?
チラノースって確か、北の方にある海に面した大国だっけ? その国の船が来てるってことは……
「その国もまた、火山島の調査のために調査隊を引き連れてやってきた、ということだろうな。無論、護衛も……」
「なるほど……トラブルとかになったりしないですかね?」
前世では、そういうのよくあったと思うんだけど。
『サンセスタ』は、どこの国にも属さない島ってことになってるから、どこの国がどう探索しようとも自由だ。ただ、今までは危険だからできなかったけど。
けど、いざ探索できるようになった今、ずーっと放っとかれたその島には、もしかしたら貴重な資源が眠ってるかもしれないわけで……もしそんなものがあれば、欲しがるのはどこの国でも同じなわけで……
早い話、そういうのをめぐってちょっかいかけたりかけられたり、ってうめんどくさいことにならないか心配である。
国同士の利権をめぐる小競り合いに巻き込まれて、お互い表面上は笑顔で語り合いつつちくちくちくちく毒を吐いたり相手の揚げ足を取ろうと聞き耳立てたり弱みを握ろうとこそこそ嗅ぎまわられたり足引っ張られたりとか……死ぬほど面倒だ。強制排除したくなる。
しかし、冒険者同士ならまだしも、それすらもまずいのが国同士の付き合いって奴だ。
外交の『が』の字もわからない僕には、それがどんな事態に発展するかなんてわからないわけで……あー、陰鬱。
ちょっとすがるような目で、おそらくはこの中でそういうのに長けている部類であろうスウラさんやナナ、そして義姉さんに視線を送ると、3人共やはりというか『ちょっと心配』的な目をしていた。
「まあ……ここはどこの領地でもない場所ということになっているわけだから、おおっぴらにそういう手段に出てくるようなことは無いと思うが……」
「おおっぴらじゃない手段ならありえますねー……ジャスニアはまだましですけど、チラノースは割とそういう手も使ってくる国ですから……」
「面倒よねー、どうして政治屋ってそういう陰険なやり方が好きなのかしら? もし何かやってきたら全部纏めてふっ飛ばしちゃいたいわね」
訂正、頼れそうにない人が1人いた。
てか、それでいいのか元中将。あんたもしかしてシェリーより喧嘩っ早い?
「……念のため、採取したサンプルや研究資料などには、きちんと見張りをつけておいた方がいいかもしれないですね。まあ、もともとつける予定でしたが……」
「そうだな。しかし、その味方の見張りにくすねられても困るゆえ、人選だけでなく保管ケースなどの鍵の管理もきっちりやっておく必要があるだろう」
と、ギーナちゃんとスウラさん。
たしか、このクエスト、島で取れた素材その他は基本的に国が回収するんだっけ。功績とかそういうのも、ほとんど全部。
その代わり、採取に貢献した冒険者に、相応の代金が後で払われることになってるし、あまりに採取できた量が多ければ、分けてもらうことも出来る。現場責任者の判断だけど。
それに、魔物とかを倒した際の、その素材なんかについては、冒険者が貰っていいことになってるんだったっけ。
そうなると……魔物素材に関しては冒険者がもらって管理するとしても、国が押収するサンプルに関してはきちんと管理しておいた方がいいわけだ。
基本的に、それらの見張りには軍関係者の人がつくらしいし、鍵つきのケースに入れて保管しておくらしいけど、念には念を入れるくらいがちょうどいいだろうな。
何せここ、何が起こってもおかしくない、危険区なんだから。
「ま、それはそれとして……スウラさん、そういう外交とかめんどくさい部分って、スウラさん達に任せても問題ないですか?」
「ああ。厳密には……我々の方で連れてきている外交担当の政務官たちに任せることになるだろうな。ミナト殿らが気にしなければならないような事態にはなるまい……多分、な」
……多分、ですか。
☆☆☆
その頃。
ミナト達よりも一足早くその島にたどり着き、資材その他を下ろしていた『チラノース』の使節団は、沖合いに青緑色の船を……『ネスティア』の軍艦を視認した所だった。
当然、他国の調査団の来訪に緊張感が走るのはこちらも同じであったが……中には何人か、全く動揺することなくゆうゆうと構えている者もいた。
船の甲板に立って、手を目の上にかざしてそれを見ている1人の少女もその1人だ。
「ほぅ……ネスティアの船か。この船よりは小さいようだが、なかなか船足は速いな」
興味がわいたのか、その少女は――かなり背が高いが、年齢的には『少女』と呼んでいいだろう――懐から携帯型の望遠鏡を取り出し、まっすぐこちらへ向かってくるその船に向けて覗き込んだ。
レンズの向こうには、上陸準備のためにせわしなく動く船員達と……その作業に加わらず、思い思いに動いているように見える者達の2種類がいた。
後者はおそらく、護衛のために雇われた冒険者か傭兵の類だろう、と予想をつけながら、少女は……レンズの向こうに見える、おそらくは見られていることにも気付いていないであろう者たちを見定め始めた。
態度や歩き方、持っている武器やつけている装備……色々な点に逐一注目しながら、1人1人、どの程度の実力か予想をつけながら。
(……ふむ、やはり一山いくらの者が多いとはいえ、何人かできそうなのもいるな……む? あやつらは顔に見覚えがあるな。確か熟練のAランクで……おぉ、こちらにも。あのチームはたしかBランクの……なるほど、なかなか粒ぞろい…………ん?)
と、甲板の冒険者(と思しき者たち)を端から品定めしていた少女は、中ほどまで来たあたりで……望遠鏡を動かす手を止めた。
(……あの集団は……?)
今、望遠レンズを介して少女の目に映っている者たち。それに、何かを感じたために。
丸い視界の中にいるのは、おそらく同じ冒険者チームか何かであろう、数人の男女だった。男1人に女が4人と、やや偏った男女比になってはいるが。
しかも、女のメンバー達は皆、年齢やタイプは違うが、美女・美少女と言っていい。
見ていると、更に男と女がそこに1人ずつ加わった。
(……いいとこのお坊ちゃんが、見目麗しい女ばかりをはべらせている……というわけでは無さそうだな。歩き方、たたずまい、装備……どれを見ても、しかも全員只者では……っ!?)
その瞬間、少女はびくっ、と肩を震わせ、目を見開いた。
望遠鏡の向こうにいる、黒髪の少年と……目があったために。
しかし一瞬の間を置いて、まさかな、と思い直す。
こちらは望遠鏡だが、向こうは裸眼。島を見ようとしたあの彼と視線がたまたま一直線に並んでしまっただけだろう、と。
そう結論付けて考えながら、見えるわけがないと思いつつも……少女はふざけて、望遠鏡の向こうにいる少年に向けて、ひらひらと手を振ってみた。
……まさか、手を振り返されるとは思っていなかった。
「…………」
あっけに取られた少女だが、一旦望遠鏡から目を離し、今自分が乗っている船と向こうの船の距離を確認する。
キロメートル単位で開いているであろう距離。普通の人間が肉眼で、その向こうの景色を見ることが……できるわけがない。
が、しかし……その少女は、それを可能にしている人間をこの目で見ていた。
確認までしたのだ、そうであると断ぜざるをえなかった。
(……まてよ? 黒髪に黒服、華奢な少年……まさか……!)
レンズの向こうの人物の正体を認識した少女の顔には、面白いおもちゃを見つけた子供のような笑みが浮かんでいた。
その理由は、彼女しか知らない。
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