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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第9章 絶海の火山島

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第130話 姉と義姉

なんか最近、更新遅くてすいません。
でも、6月とかになるとリアルの職場で修羅場が来そうなんで、もっと悪化するかも……ま、負けてられない……!

精一杯がんばる所存ですので、生暖かい目で見ていただければと。よろしくです。

では、第130話をどうぞ。
 

 時刻は、もうそろそろ日付が変わるくらいの深夜。
 僕は……ある場所へ向かっていた。

 今の僕は、普段から夜の闇にまぎれやすい黒服(ただし手甲脚甲は装備してない)に加え、いくつか『否常識魔法』も使って、他の人に見つからないようにしている。

 Sランクになってからというもの、このくらいしないとおちおち出かけることもままならない。四方八方から視線が飛んでくるし、絡んでくる人も多いし。

 それに、今から僕が行こうとしてるところ……その場所が場所だから、今は余計に気を使っている。

 
 数分ほど歩いて着いたのは、深夜にも関わらず、夜の闇を押しのけるほどに多くの明かりが灯っている通りである。

 この世界では、夜中でも営業している店っていうのは珍しい。24時間営業なんていう概念、軍や冒険者ギルドくらいにしかないから。

 そんな珍しい店が密集し、『眠らない町』とか、むしろ『夜の町』とまで呼ばれることも呼ばれるここの区域は……いわゆる『花街』ってやつである。
 冒険者になりたての頃、僕が興味本位で行こうとしたこともある場所だ。

 昼間のような、とは言わないまでも、通りの向こうの人の顔も余裕で見える明るさゆえに、黒装束がかえって目立ってしまうその通りを……しかし僕は、併用している否常識魔法のおかげで、他人に見つかることなく素早く通過する。

 そのまま更に数分歩くと、僕はお目当ての場所にたどり着いた。

 そこは、娼館や娼婦宿、紹介所などの乱立するこの花街の中でもかなり高級な……VIP専用、会員制の娼館。

 腕の立つ用心棒なんかも大勢抱えていて、プライバシーなんかもばっちり守ってくれるっていう、一見さんお断りの高級な店だ。

 僕はその店の裏手に回り、裏口のドア……の数m横にあり、幻術で壁に偽装されている、顧客の中でも更に特別な、超VIP専用の秘密の入り口をくぐって中に入った。

 入ると同時に、『否常識魔法』の隠遁を全てOFFにする。

 中には受付係のお姉さんがいて、彼女には僕がいきなり現れたように見えたはずだけど、少しも驚きはせず、『お待ちしておりました』と僕に話しかけてきた。

 そのまま僕は、お姉さんの指示に従って、指定された個室まで行き、中に入る。

 中には、大人数人が横に並んで寝られるような大きなベッドや、大きさは小さめだけれど豪華で清潔なバスルームなんかが完備されていて、

 そして、そのベッドの上には……2人の女の子が座っていた。

 一見して、姉妹、それも双子ではないかとわかるほどに似ている2人。
 2人とも濃いピンク色……マゼンタっていうのかな? そんな色の髪で、長さは肩にかかるくらい。

 背は少し低く、立っても僕の肩くらい。
 体の線も細くて……っていうかそもそも見た目、小さいというか幼いというか……。

 服はどちらも同じ、薄いピンク色のワンピース。

 違う所といえば……片方は釣り目気味でやや気が強そうな感じ。眉毛逆ハの字。
 で、もう片方は……温和そうな目つきだ。ハの字眉、ってほどじゃないけど。

 2人は、僕が部屋に入ってきたのを見ると、にっこりと笑って、

「いらっしゃいませ♪」

「ふふっ、よく来たわね……今日もよろしくね♪」

 猫なで声でそう言い、ベッドの方に僕を手招きした。

 その誘いに逆らわず、僕はベッドの方へ歩いていき、ベッドに座る前に、ベルトに『収納』していた小さな麻袋を出し、それを2人に渡す。
 中身は銀貨。今日の分の料金の半分の額だ。

 こういう所を利用する際には一般的なやり方であるらしい。事前に決めてある料金の何割かをまず最初に相手に渡し、全部が終わったら残りの分も渡す。

 最初に全額渡すと娼婦の方に逃げられてしまうし、最後に全額という形だと客の方に逃げられてしまう、というわけなので。

 そのルールに乗っ取り前金を支払うと、2人は中身を確認し、あらためて笑顔で、僕をベッドに迎え入れた。
 手を引かれた僕はそのまま、彼女達のちょうど真ん中に座る。

 そして、そのままベッドに仰向けになり……あ、ちょっとタイム。

 ちょっと説明遅くなったけど、僕別に、本来の目的で利用させてもらおうと娼館ここにきたわけじゃないからね?

 この2人に会いにきたのはちゃんとした、いやらしくも何ともない目的があるからだし、これからやるのは別に『そういうこと』じゃないし。

 だってこの2人……

 
「でもつれないなー、ミナトってば。たまには『修行』じゃなくて、息抜き的な目的でここ利用してもらってもいいのに。ねえ、ディア?」

「こら、シエラ。ミナトは真面目なんだから……でも、したかったらホントに遠慮しなくてもいいのよ? ミナト?」

「……ディア姉さんもシエラ姉さんも何言ってんの」

 
 2人とも、僕の姉だから。

 
 ☆☆☆

 
 簡単に言うなら、蛇の道は蛇。

 師匠の下で鍛えることが出来なかった唯一の技能……『夢魔』の固有能力。
 それを鍛えるには、同じ技を使える人に訓練を見てもらうのが一番。

 ゆえに白羽の矢が立ったのが、僕の姉であり『夢魔族』である双子の姉妹……キャドリーユ家九女ディア・キリオンと、十女シエラ・キリオンの2人である。

 優しい目つきの方がディア姉さんで、釣り目のほうがシエラ姉さんだ。

 この2人はもともと娼婦で、この高級娼館に務めている。

 『夢魔』の種族特性のためでもあるけど……もともと2人とも『そういうこと』が好きだからでもあるらしい。やりたいことを仕事にしてる、ってわけだ。
 生命維持に必要なエネルギーも確保できて、一石二鳥、と。

 ……まあ、本人たちがいいなら、別に僕が言う事は何もないか。

 この娼館は他の大きな都市にいくつも支店を持ってて、2人はそこを定期的に転々と移動してるらしいんだけど、最近になって久しぶりにウォルカの支店に来ていた。

 それを知ったノエル姉さんから紹介されて、僕は2人を訪ね……『夢魔』の固有能力の指導をお願いしたわけだ。

 2人とも、快くOKしてくれた。
 もっとも、料金はきちんともらわなきゃならない、ってことだったけど、そこは当然だろう。

 娼婦ってのは時間と内容に応じてお金を貰うのがもともとのシステムだし、内容は違うとはいえ、わざわざ僕のために時間も手間も割いてもらってるわけだから。
 2人がこの時間、通常の営業をしていたのと同じだけの料金は保証すべきだし。

 とまあ、そんな感じで僕は今、ディア姉さんとシエラ姉さんの2人に……『精神制御』や『夢の操作』といった能力を、体で覚えさせられています。

 具体的には、リラックスできるようにベッドに横になった所で、姉さん達に『幻想空間』に連れ込まれ……そこで色々と。

 

 幻想空間の中で僕は、バケツをひっくり返したような大雨に打たれていた。

 そこで、目を閉じて精神統一、そして自分の望みをはっきりとイメージし……ゆっくりとそれを体の中から外にあふれ出させる、というイメージに。

「……っ!!」

 そして、それを一気に開放し、この世界に干渉させた……直後、

 頭上を覆っていた雨雲が一気に晴れた。

 それを見ていた姉さん達は、『おーっ!』と感心したようにいい、ぱちぱちと手を叩いて褒めてくれる。

「やるじゃんミナト! 前々から思ってたけど、覚えるの早いねー!」

「ホントね。先に『覚醒』が済んでるからかもしれないけど、スポンジが水吸うみたいに、教えること片っ端から吸収しちゃうんだもんね……自信なくしちゃうなあ」

「いやいや、僕なんかまだまだだって。姉さん達このくらいノータイムで出来るでしょ?」

「「まあね」」

 直後、
 晴れ渡っていた空が、また大雨に変わった。しかも今度は雷まで鳴ってる。

 言わずもがな、姉さんたちがこの幻想世界に干渉して天候を変えたために。

 基本的に幻想空間では、その空間の創造者がルールだ。
 世界はその創造者のイメージと精神力で出来ている。だから、創造者の意思一つでなんでもできる。天候を変えたり、魔物を呼び出したり……etc。

 もっとも、何を起こしたところで、それは幻想でしかないわけだけど。

 しかし、同じ系統の術……幻術や『幻想世界』の構築やイメージの操作などを使うものなら、精神力次第で他人が作った幻想空間に干渉することも出来る。

 それを応用して僕は修行しているわけだ。姉さんたちが作った幻想空間に連れてきてもらい、そこで世界に色々と干渉してみる。それによってイメージ力を鍛えると共に、幻想空間の概念ってものを体で、感覚で覚えていくのだ。ゆくゆくは、自分で作れるように。

 さっきみたいに天候を変えたり、滝を逆流させたり、何もないところから物質を生み出したり、星座の並び方を変えたり。

 面白かったのは、姉さんたちがイメージで作り出したモンスターを、同じように僕がイメージで作ったモンスターと戦わせるっていう、育成系RPGを髣髴とさせる内容の訓練だった。

 もうコレがめっちゃ楽しくて。想像力は余りある僕だから、最後の方になると……姉さんたちが大量に生み出したドラゴンと、僕が調子に乗ってイメージした巨大合体ロボとの最終戦争的な何かが始まってたりして……あ、もちろん僕中に乗ってた。

 で、その勝負僕が勝ったんだけど、その後、姉としてのプライドが傷ついたのか、ムキになった姉さんたちが隕石振らせたり大津波起こして逆襲してきたけど。いや、幻想空間だからよかったけど、あれはマジで怖かった。僕のイメージじゃ対抗できなかったし。

 まあ、それも含めて楽しい修行のいい思い出だけどね。

 ただ、たまに姉さんたちが悪ノリして、いろんな意味で恐ろしい内容の幻想訓練思いついて実行することがあって、それだけちょっと怖いんだけど……

 いや実は前に一回、幻想空間の中で性転換させられて、女の体にされて、ベッドの上に寝かされて指一本動かない状態にされてたことがあって……

 しかもその時、姉さん達がにやりと笑って……

 
『早く男に戻らないと私達に色々とイタズラされちゃうわよ?』

『男に戻っても体の束縛をどうにかしないとどっちみちイタズラされちゃうけどね♪』

 
 なんていうとんでもない修行内容をふっかけてきたことがあった。

 その時は一応、火事場のバカ力とでもいうのか……さして時間をかけずに姉さん達のイメージを打ち破れたから事なきを得たけど……アレはちょっと、うん。トラウマ寸前だ。

 いや、男としては美少女に弄くられるなんてのは役得かもしれないんだけど、同時に捨ててはいけない尊厳を色々と踏みにじられるような悪寒が……。

 今日は幸い、そんな感じの事態になることはなく、いつも通り姉さん達の幻想空間内で、姉さんたちが起こす天変地異を、僕がイメージで干渉してかき消す訓練。

 後、これは初めてだけど、自分で幻想空間を作り出すってのもやらせてもらった。

 意外にも1回目で上手くいって、姉さん達をそこに招待できた。
 姉さん達曰く、構築はまだまだ雑だけど、初めてにしては上出来だそうだ。

 これと同じ要領で、寝ている間の夢の操作もできるらしいので、今度やってみようと思う。

 

「へー、じゃあ、しばらく来れないんだ?」

「冒険者って大変だね。そんな危険な所にも行かなきゃいけないの?」

「うん。まあでも、今回のコレは完全に僕らの都合というか、自由意志だけどね。自分で言うのも何だけど、僕今有名人だし……ゆっくり出来ないんだよ、この町じゃ」

 そのための時間つぶしに危険区域に行くってのも独特な思考だとは思うけど、どうせなら何か目的を持っといた方がいい。
 何もせずにただ時間潰すだけとか、最初はよくても後で暇になっちゃいそうだし。

 母さん達も(実力とは全く関係ない理由で)探索を投げ出したような場所で、まだ色々とわかってないことが多いって聞くし……初めての本格的な探索任務には、うってつけのデビュー戦だろう。

 いざとなったら『オルトヘイム号』で撤退すればいいし……そもそも、僕らだけじゃなく他の冒険者達も大勢来るんだから、そこまで大きな危険は無いだろう。

 いや、手柄の独り占め狙いの冒険者達については警戒が必要かもだけど……それはまあ、どこ行っても一緒だと思うし。

「しっかし、『サンセスタ島』かあ……最近話題にする人多いなとは思ってたけど、ミナトがそこ行くとはねー……」

「? 話題って?」

「外歩いてても普通に耳に入ってくるし、お客の相手しててもよく聞くの」

 『お客の相手』ってとこでちょっとぴくっと反応しそうになったけど、本人たちが気にしてないのに僕が動揺してどうするんだってことで押さえ込んで、聞く姿勢。

「……どんな感じで?」

「自慢話とかに織り込まれてるのが大概ね。自分こそがあの未開地域の謎を解き明かしてやるんだとか、採れる資源を扱った商売で一儲けしてやるとか、そんな感じ」

「で……『だから今のうちに俺と仲良くなっておくと得だぞ?』って続くのよね、お客さんの場合だと。そのまま、それとなく身請けの話につなげていったりとかさ」

「ふーん……って、身請け?」

 『身請け』ってたしか……娼婦が、所属先の遊郭とかからお客さんに『買われ』て、その人専属の愛人とかになる感じのアレだったっけ? 別の言い方すると、『落籍』。

「そうそう、それ」

「娼婦ってのは一般的に、寿命の長い職業じゃないから。賞味期限が切れる前に、将来性のある人に買ってもらうのが、理想的な卒業の仕方なの」

「ま、私達にはあんまり関係ない話なんだけどね」

 言いながら、シエラ姉さんは自分の耳……夢魔族の特徴の一つである、長く尖った耳をいじくっている。

「そっか、2人とも『夢魔』だもんね」

「そゆこと。お母さんの例もあるし、あと200年は現役貫けるわ、多分」

「いや、この先200年も娼婦やってるつもりなの……?」

「ある意味天職だと思ってるから」

 あっさり言うシエラ姉さん。
 ……ホントに忌避感ないんだな、この職業に。むしろ楽しんでる。

 ……っていうか、つい忘れそうになるけど、2人とももうすでに一世紀以上生きてるんだよな……いつからこの職業だったのかは知らないけど、おそらく数十年単位だろうし、プロ意識とか誇りみたいなのも持ってたりするのかも?

「私達を自分のものにしたくて、身請けを申し出てくる人は後を絶たないのよ? まあ、これって人がいないから、今んとこ全部断ってるけど」

「居たら買われるの?」

「さあね。どっちにしろ今はあんまり考えてない」

「それに、私達みたいなのは、寿命なんかも気にしないといけないの。たとえば、今人間の誰かに身請けされても……人間なんてせいぜい80年くらいで死んじゃうでしょ? 確実に私たちが取り残されちゃう」

 あーなるほど。夢魔って、個体差あるけど、数千年単位で生きるしね。

「それより早く、確実に『男として』枯れるしね」

「……さっきから『賞味期限』だの『枯れる』だの、けっこうすごいこと平気で言うよね」

「慣れよ、こんなもんは」

 ……こういう、細かいことを気にしない豪快(?)な性格も、気にいられる理由なんだろうな、と思う今日この頃。

 実際、2人とも、体はちっちゃいけど、すごく美人だし、人気あるんだろう。

 前に受付の人にチラッと聞いたら、彼女達の方が客を選べるくらいの人気で、予約は常にいっぱい。兄弟ってことで時間を作ってもらえる僕は、それが知れたら多方面から嫉妬されかねない、とかいう話だったし。例えその中身が、彼らのヤってることとは違っても。

 よく気もきくし、男性を立てることも出来て、日々の愚痴を聞いたりするときにも聞き上手。おまけに料理をはじめ家事全般できるときてる。

 ……愛人じゃなくて奥さんとして欲しがる人も多そうだな。寿命以外は将来に何も心配要らなそうだ。

「ま、そういう立ち居地なのよ、私たちは。何ならあんたも誘ってみる? 身請け」

「いや、今そんなつもりないっていったばっかじゃんか。てか、僕ら姉弟」

「気にしなきゃ同じよ。男と女にはかわりないんだから」

「それにミナト、夢魔族の力を持ってるってことは、私達と同じくらい長生きできそうだしね……まあ、私たちが虜になるくらいいい男になったら、考えてあげてもいいよ?」

 人の話を聞け。

 
 そんな感じで、修行後しばし2人の姉と談笑した後、今後しばらく来られない旨をあらためて話した上で、今日の修行はお開きになった。

 帰りがけに、自主的に出来る精神トレーニングのやり方を簡単に教えてもらえたので、暇を見つけてやっておこうと思う。

 
 ……しかし、さっきは流しちゃったけど……
 僕、確かに夢魔の力持ってるけど、寿命に関してはホントにどうなんだろうな……? 今度機会があったら、師匠とかダンテ兄さんあたりに聞いてみようかな?

 
 ☆☆☆

 
 数日後、

 ギルドに正式に『サンセスタ島』探索チーム募集のクエストが張り出され、野心・冒険心の豊かな冒険者たちが殺到。
 当然、僕らも申請。エルクと、事務仕事担当のナナと3人で申し込みに来た。

 ……来たんだけど……

「……何か言いたそうですね?」

「いや、さすがにここまで偶然というか何というかそのー……ホントに僕の担当とかになってません? リィンさん」

「……実は最近、本当にあなたの担当になりました」

 と、最早おなじみになった、僕がギルドの受付に来ると必ず姿を見せる職員・リィンさんがため息混じりにそんなことをちょっと待って今何て言った?

 え、ホントに? ホントにこの人僕の担当になったの?

「ええ……あまり知られていない事実、というか、普通は説明する必要もありませんから当然なのですが……Sランクの冒険者には、専属の担当職員が2人つくのです。その選抜の際、私が一番あなたと接点が多かったということで……担当の1人に選ばれまして」

「へー……今初めて聞いたんだけど?」

 僕、Sランクになって1ヶ月くらい経つんだけど……全然そんな話聞かなかったよ?

「本来、Sランクともなれば、ランク昇格は数ヶ月単位で審査が行われますからね。しかしあなたの場合、わかりやすい上に無視できない功績数多ですから……例外中の例外と言っていい早さで決まったんですよ」

「つまり……展開の早さに手続きその他が追いつかなくて連絡が遅れたのね」

 と、エルク。

「そもそも就任が、ですね。私が担当に任命されたのは一昨日なので」

 こころもち疲れた感じのため息と共にそんなことを言ってくるリィンさん。なんかごめんなさい。

 てか、2人って言ってたけど……もう1人って誰なんだろ?

「もう1人の方でしたら……今、あなたの後ろにいらっしゃいますね」

「「「え!?」」」

 そんなリィンさんの言葉にぎょっとして振り向くと、そこには……確かに1人の女性が立っていた。

 背は低め。
 髪は茶色で、ポニーテール。
 幼さの残るかわいらしい顔立ち。
 標準装備のエプロンがよく似合……って、え?

「やっほー、ミナトさん! 奇遇だね、こんなとこで」

「……ターニャちゃん?」

「……? うん」

 ………………

 いやいやいやいや……

 あまりに予想外な事態に、ちょっと僕の頭が混乱気味になっていると……目の前できょとんとしているターニャちゃんの頭の上に、ぽん、と誰かの手が置かれた。

 思わずその手の先を目で追うと、そこには……見慣れない女の人が。

 背中まで届く緑灰色の長い髪に、どことなくターニャちゃんに似た、しかし大人っぽさも感じる整った顔。目はぱっちり大きくて、瞳は濃い灰色。
 女性にしてはかなり身長が高く、180cmくらいありそうなその人は……ギルド職員の制服に身を包んでいた。

 ターニャちゃんを見下ろし、ため息をついているその女性は、

「こぉら、ターニャ。いきなり走り出してどうしたのよ? 知り合いでもいた?」

「あ、ごめーん、ひいお婆ちゃん」

 そう呼ばれ……はい?
 ひ、『曾お婆ちゃん』!?

「……その呼ばれ方嫌いなんだけど」

「あはは、ごめんごめん、セレナおばさん。でもホントのことでしょ?」

 ターニャちゃんの爆弾発言に、当然というか不機嫌そうに返すその女性……セレナおばさん、とも呼ばれた彼女は、『やれやれ』とでも言いたげな視線をターニャちゃんに返すと、そのまま彼女を押しのけて僕の目の前に立った。

 そこに至って、彼女がギルド職員の制服を着ていることから、もしかしてこっちが? と思い至った僕が、視線を後ろに一瞬返してリィンさんを見ると、僕の言いたいことがわかるかのように、リィンさんはこくり、と頷いた。

(じゃあやっぱり、この人が……?)

 そう思い、再び視線を前に戻……そうとした所で、横に立っているナナの目が、驚きに見開かれていることに気付いた。
 なんか、体ぷるぷる震えてるし……口ぱくぱくしてるし。な、何だ!?

 ちょっとびっくりしたというか、驚いてその視線の先を見ると……そこにいるのは、今しがたリィンさんが首肯で肯定した、おそらく僕らのもう1人の担当である、セレナさん。え、この人がどうかしたのか? 知り合いか何かか?

 目が合うと、にっこりと優しい笑みを返してきたけど……それと同時に、やっとと言う感じで、横でパニクっていたナナが口を開き、

 

「……セ……セレナ、隊、長……!? な、何でここに……!?」

「あら、久しぶりねナナ。話には聞いてたけど、ホントに彼と一緒にいたんだ?」

 

 ……隊長?

 え? どゆこと? 隊長って……え?
 ナナが……元・直属騎士団『副』隊長のナナがそんな風な呼び方をするってことは……え? まさか……え!?
 ちょ、僕らの担当のギルド職員2人目じゃなかったの!?

「? そうよ? 挨拶が送れちゃってごめんね、私、セレナ。今度から、『Sランク』になったあなた達の現地業務担当職員になったの」

「は、はあ……いや、でも、今ナナがあなたのこと『隊長』って……え、職員?」

「そうよー? ただ……」

 一拍、

 
「そこにいるナナの元上司兼師匠で、この子の曾祖母で、そして、あなたの義姉……ってだけの、ただのギルド職員よ♪」

「……は?」

 
 とりあえず……一言。日本語おかしい。
 その文面に『ただの』は絶対おかしい。

 
 この女性……セレナ・バースさんが、

 ターニャちゃんの曾お婆さんで、
 女子大生くらいにしか見えないのは『ハーフエルフ』だからで、

 元・王族直属護衛騎士団2番隊隊長……すなわち、ナナの元上司で、ランクにしてAAA以上の実力者で、

 そして、今は亡き僕の兄、『ゴート・バース』の妻……
 すなわち僕の義理の姉である未亡人で……あとついでに、自動的に僕とターニャちゃんって親戚だった……

 ……っていう、色々と詰め込み過ぎな気がするバックグラウンドを持つギルド職員だってことを説明されたのは、この数分後、ギルドの奥の部屋で場所を変えてゆっくり話した時のことだった。

 
 
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