挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第8章 トライアングル・デスペラード

65/197

第128話 それぞれの真実

 

「とまあ、そういうわけだ……コレ、一応書面に起こしといた解析結果な」

「ん……サンキュ、クローナ」

 場所は……ウォルカのギルド本部。
 時刻は、深夜。日付が変わろうかという時間帯。

 ギルドマスター・アイリーンの執務室を、クローナは訪れていた。

 その目的は……色々な『報告』。

 今しがた提出された書類に、アイリーンはささっと目を通し、
 しかし、それだけで大方の事情を把握したのか……笑みを浮かべながら怪訝な表情になる、という器用なことをやってのけていた。

 視線の先にある書類。そこに書かれていたのは……以前、アイリーンがクローナに解析を依頼した、2つの調査対象。

 1つは、未知なる魔物『ディアボロス亜種』の体組織。
 そしてもう1つは……今ではクローナの弟子となった、ミナトの身体の精密検査。

「まず最初に、トカゲの鱗と爪の解析結果だがな……」

「……コレを見る限り、ボクの最悪の予感が当たってるようだね」

「ああ、そうらしい」

 きっぱりと断定するクローナの言葉に、アイリーンは苦々しいものを感じた。
 しかし、それが事実である以上……否定し、逃避することに意味は無い。すぐに思い直し、より建設的なことを考えるために頭を切り替える。

「『花の谷』に出てきたっていうやつから採取したサンプルと、『狩場』に出たやつから採取されたサンプル。2つとも調べてみたが、結論としては……」

「……やはり、同じ個体か」

「ああ、魔力パターンその他が一致したから間違いねえな」

 ずずっ、と、アイリーンから出された紅茶をすすりながら返すクローナ。

「……けど、クローナ……だとするとコレは……」

「ああ、言いてえことはわかるよ。俺だって目ェ疑ったからな」

 そして、カップを受け皿にことりと置き、クローナは解説に戻る。
 いつものだるそうな表情や、獰猛そうな笑み、そのどちらでもない……真剣な表情で。

 身を乗り出し、アイリーンの持っている資料のある一部分を指さして示しながら、

「『花の谷』と『狩場』……その2箇所でそいつが目撃され、ミナトの奴と交戦したその期間は数ヶ月と開いてねえ。しかし、それにしては……この2つの体組織の活性具合の差は、異常と言う他にない」

「……魔物の成長速度が人間より速いのは普通だ、っていう常識の上でも?」

「あんなもんを『成長速度』の違いで片付けられるかよ。こりゃもうむしろ、『進化』って言ってもいいくらいの差だぜ?」

 感心しているような、呆れているような言い方で、クローナは言い切った。

「ともかく、間違いねえな。この『ディアボロス・亜種』……原種もそうなのかは知らねーが、おそらく、戦闘経験の数と質に応じて、異常なまでの速度で進化する。それも、必要ならば自分の姿かたちすら変えてな……今回のがいい例だ」

「ああ。ミナト君曰く、以前見たときより、鱗が重厚になってた上に、動きの精度も上がってて……おまけに遠距離攻撃の手段や、爪や角に魔力を纏わせた攻撃までしてきたらしいからね。予想はしてたけど、そういうことなんだろう」

「知能も高く、その急激に進化した体を十二分にきっちり使いこなして戦ってくるってんだから、デタラメ以外の何物でもねえな」

 硬度や強度、対組織の活性具合や再生力、果ては親魔力性に至るまで……2箇所で採取された『ディアボロス・亜種』のサンプルには、隔絶した差があった。

 そこから予想される結論は、今言ったとおり至極単純。
 この龍の成長速度は、恐ろしく早い。

 そしてその成長は、より強い敵と戦う経験を経ることによってさらに加速し、時には、進化とも呼べるであろうそれすらも見られる。

「……それで、この鱗の持ち主君は……」

「ミナトの話じゃ、頭蓋骨を砕いた感触は、拳を通して伝わってきたらしい」

「じゃ、死んだ?」

「いや、そうとも限らねえぜ? 一部の魔物の中には、脳髄を含む内臓が鋼みてーに硬質な奴や、頭蓋骨が多層構造になってて脳を保護してるやつもいるしな」

 きっぱりと、クローナはそう言ってのけた。
 おそらくは『肯定してほしい』と内心願っていたであろう、アイリーンのかすかな希望を、あっさりと却下して。

 しかもそこにさらに、追い討ちをかけるように、

「そして当然だが……もしこいつが生きてれば、今回のミナトとの戦いで、また大幅にパワーアップして姿を見せるだろうな」

「……また、『進化』とすら呼べるであろう成長を遂げて、かい?」

「さあな、それはコイツが、コイツの本能が、どんな力を自分に必要とするかによるだろうが……ますます手がつけられねえレベルになることは間違いないだろーさ。もしコイツが次に出たら……お前が相手をした方がいいかもな」

 

 その後、いくつか質疑応答を済ませた後……2人の話題は、アイリーンからクローナへの、もう1つの解析依頼(・・・・・・・・・)の結果へと移っていった。

 
 ……そして、同時刻、

 同じ内容の話をしている者が……『暗黒山脈』上空の浮遊戦艦の甲板にもいたりする。

 
 ☆☆☆

 
「……ねえ、ミナト」

「何?」

「これは……一体何なの?」

 今のこの状況に関する説明を求めてだろう。エルクがそうたずねて来た。

 

 星空がきれいな夜、僕ら『邪香猫』一同は、今日の日暮れ前、『お世話になりましたー』ときっちりお礼を言った上で、師匠の所から無事出立した。

 で、せっかくなのでこの『新・オルトヘイム号』で飛んでいこう、って話になったんだけど……よくよく考えたらこんなもんが空飛んでたら騒ぎになるってことに、離陸して数分後に気付いた。

 ただ、幸いというか何というか、もう日が暮れて暗くなってきていた。
 黒塗りのこの船は夜の闇にまぎれることが出来るので、夜の間ならいいか、ってことで、今もこうして飛んでるのである。

 一応念のため、船自体に組み込んだ認識阻害の魔法も作動させてるし、多分見つかって大騒ぎになるようなことは無いと思う。

 ただ、いくら認識阻害術式組んでても、昼間とかだとさすがにこの巨体を隠しきるのは無理みたいなんだよね。見た人の意識から隠れきれないみたいで。
 霧の中とか、夜の闇にまぎれてれば大丈夫だと思うんだけど。

 そして、そんな船の上。
 甲板……というより船首近くのところに立って、僕は……両腕を横に伸ばしたエルクを、後ろから両手で支えていた。

 ……言わずと知れた、船の上では定番のあのポーズである。

 これが何なのか、ってことで、エルクのさっきの質問だったわけだ。

「ああ、このポーズ? えっとね……前に読んだラブロマンス系の物語の見せ場のポーズ。船が舞台の物語なんだけど、甲板に立って恋人同士がやってたやつ」

「……あんたはまたわけのわからん上にこっ恥ずかしいことを……」

「ちなみにその船最後沈むんだけどね」

「縁起でもない!!」

 すぱぁん、と、
 いい音で僕の頭を捕えたのは……ハリセン。

 こないだネタで作ってエルクにプレゼントしたツッコミツールだ。早速活躍している。

 実はコレ、マジックアイテム作りの授業その他の時に出たあまりを師匠にもらって、暇つぶしに作った奴なんだけど……使った材料がまた豪華なんだよね。
 何せ、『邪香猫』の新装備を作ったり、前の装備を改良した時に出たやつだから。

 柄の部分はつや消ししたオリハルコンで、刀(?)身の部分にはミスリル、あと形くずれしないようにアダマンタイトと、ちょっと曲がったりしても直るようにダークマターも混ぜてあって……うん、間違いなく世界一高価なハリセンだと思う。ムダに。

「まったくもう……っと、冷えてきたわね、もう中戻らない?」

「そだね、そうしよっか」

 言われてみれば確かに……ちょっとだけど風も出てきたし。
 体が冷えちゃう前に、一緒に中に戻ることにした。

 風向きは……向かい風なので、中に入る前に帆はたたんでおく。
 わざわざ上ったり引っ張ったりしなくても、専用の術式を組んであって、メインマストの付け根のロープをちょっといじるだけで自動的にできるので。

 それにこの船、風向きとか全く関係なく自力で飛ぶしね。

「……しっかし、帆船なのに帆たたんでも普通に飛んでるって、本格的に帆がただの飾りだというか、なんというか……僕が言うのもなんだけど、ちょっと非常識だよね」

「ホントよね……ってか空飛んでる時点でそもそも色々とおかしいってのよ。……っ、そんなことより早く入りましょ、風邪引いちゃうと悪いし」

「そだね。鍛えても寒さには強くなれないな、やっぱ」

「人間ってのはそーいう生き物よ。脂肪の有無で多少強い弱いはあるかもしんないけど、基本的に着衣で寒暖に対応するもんなんだから……まあ……」

 寒そうに体を震わせ、肩を抱いて船内への出入り口へと急ぐエルクは……ふいに、

 

「……お互い、人間じゃないとは言っても、ね……」

 

 ぽつりと、呟くように言った。

 その瞬間、何というか……複雑な感情が、一瞬だけエルクの瞳に浮かんだように見えた。

「……そだね。でも、一応僕らカテゴリー的には『人間』でしょ?」

「ギリギリで、だけどね。あんたが突然変異で……」

「エルクは……『先祖がえり』」

「そ。まあ、普通じゃないって意味では一緒よ。それに、だからって風邪引かないってことにはならないんだから、さっさとあったまりましょ。あんたは『エレメンタルブラッド』とやらで平気かもしれないけどね」

「はいはい」

 
 ……さっきから、僕とエルクの口から色々とわけのわからないというか、衝撃的と言っていい内容の事実および発言が飛び出してるけども、
 これは、これらは一体どう言う事なのかというと……

 ……話は、僕らが師匠の城を出立する前にさかのぼる。

 
 ☆☆☆

 
 いつもの訓練場に一同に集められた僕達に、師匠が言ったのは……師匠が初日にアイリーンさんから依頼されてたことに関して、僕らにも報告しておいた方がいいことがあるから今から説明する、というものだった。

 大きく分けて、それは3つあった。

 1つは、ディアボロスの件。

 強敵と戦うたびに、その経験を糧にして、進化と言ってもいいくらいの驚異的な速度で成長する、っていうもの。
 それゆえに、何度も逃がすのは得策ではなく……次であったらなるたけ仕留めた方がいい、ということだった。

 そして2つ目。
 それは、僕の体が……やはりというか、普通の人間のそれからは大きく外れたものに変質してしまっている、ということについてだった。

 そして、その原因は『エレメンタルブラッド』である……って、ちょっと!?

「ちょっ、師匠!? それは母さんから口止めされ……」

「わーってるよそんなことは。ただな、少なくともここにいる連中には知っといてもらった方がいいことだから言ってんだよ」

「……はい?」

 師匠が平然と、機密事項であるはずの『EB(エレメンタルブラッド)』のことをみんなの前で口にしたので、あわてて止めようとしたんだけど……どうも何か事情がありそうだ。

 何のことだかまだいまいちわからず、全体的にきょとんとしてる様子のエルクたちに対して、師匠は僕を制し、そのまま僕の体について、そして『EB』について、簡潔にとはいえ、わかりやすく懇切丁寧に説明してしまった。

 僕の秘密にしていた魔法『EB』が、血液中に魔力の粒子を流して全身を強化する魔法であり、それによって僕の体は全能力が凄まじいまでに強化されているということ、

 そして、幼い頃からそれを使っていた影響で……さっきも言ったとおり、僕の体が、魔力による強化以前に、異常なまでの変質を遂げていること。

 まず、おそらくは突然変異にも似た超反応の結果であろうが、僕の体組織は普通の人間のそれとは全く別格の強度を誇っているらしい。それも、細胞レベルで。

 筋肉繊維の1本1本の密度などからして普通のそれとは隔絶した差があり、師匠曰く、普通の人間のそれをただの糸とするなら、僕のは超硬合金の鋼線と言えるらしい。

 神経伝達は常人の数十倍から数百倍の速さ。骨の硬度・強度も超硬合金以上で、回復力にいたってはヘタな治癒魔法すら上回るレベル。

 細胞は個々の生命活動が途轍もなく活発な上、全身のそれら全てが『万能細胞』に近い能力を持っているらしく、汎用性が凄まじいどころじゃなくなってる。

 分化の方向性の操作次第でいろんな器官を作れるらしく、極端な話、葉緑素とかけちなこと言わずに、その気になれば羽根生やしたり目や腕を増やしたりすることもゲフンゲフン……まあ、さすがにやらないけど。

 そして、栄養分さながらに日常的に魔力を取り込んできたせいか、極めて親魔力性が高く、魔力運用に際して肉体が全くそれを阻害しないレベルである。
 加えて魔力耐性も高く、魔法攻撃に対して耐性が異常なほど高い。

 さっきも言った通り、もともとの防御力も異常だから、それと合わさって防御面は障壁魔法とタメはれるぐらいに鉄壁なわけだ。魔力で強化するともっと上がるけど。

 それと、戦闘能力には関係ないけど……消化器系や循環器系、免疫機能や栄養の蓄積機能なんかも満遍なく人外。

 毒物や病原菌が体の中に入ってきても、即座に抗体を作って駆逐するし、よっぽど強力じゃない限り基本的な免疫機能のみでそもそも十分に死滅させられる。

 あと、食べたものを栄養素に分解して吸収する際、消化吸収が以上に早い。意識して加速させることすら可能で、その気になれば数分で吸収し終わる。

 しかもそこに魔力が絡んで、普通の人間の体にある物質……グリコーゲンとかとは全く異なる物質を作ってるらしく、質量や体積の保存法則を無視してエネルギーを貯蔵できる。

 つまりは、普通の人間より吸収効率が尋常じゃなく良い上、体重を増やさず、余分な脂肪をつけずに大量の栄養を体内に溜め込んでおけるそうだ(師匠がここ説明した瞬間に女性陣から意味ありげな視線が飛んできた)。

 とまあ、ざっとこんな感じで僕の体はホントに否常識な感じになってるわけだけど……問題はむしろこの後だった。

 そんな、僕が人間から逸脱した肉体を得るきっかけになった『EB』……それを応用して作った魔法の1つに『他者強化』があるわけだけど……これがまた曲者だったのだ。

 ただの魔力でなく『魔粒子』を使って他人の体を強化するこの魔法、実は、その強化規模のきめ細かさゆえにか……単なる肉体の強化にとどまらず、体の組織の奥の奥まで届いて『強化』を施すため、あるとんでもない『副作用』があることが明らかになった。

 もっとも……別に悪影響があるってわけじゃないんだけど。

 それは、簡単に言えば……『才能の強制覚醒』。

 一定出力以上の『他者強化』を受けると、受けた者は、本来は長期の鍛錬によって呼び覚ますはずのものを含め、『才能』や『素質』が一気にたたき起こされる。

 しかも人によっては、遺伝子の奥底に眠っているってレベルの、本来なら持っていても一生表に出てくることなんてないであろう『素質』までも飛び起きる。

 そして、一度たたき起こされた才能や素質は、『他者強化』が切れた後も目覚めっぱなしであるため、個人差は当然あるものの、その人は『他者強化』の前後で基礎能力そのものがかなり強化されるという、凄まじい結果になる。

 ゲームとかで例えれば、冒険の序盤で、終盤にならないと覚醒しないような便利スキルがいきなり使えるようになるとか、そんな感じ。二週目プレイとかの特典でもない限りありえない、反則とかチートとか言ってもいいような異常現象である。

 そして、この力ゆえに、眠れる才能を呼び起こされた者たちが……すでに何人か。
 思い返してみると、結構いるんだ。そういう感じになった人たちが。

 まず、『邪香猫』メンバーは軒並みそうなってると言っていいだろう。
 ザリーもシェリーさんも、過去に『他者強化』を施術した前後で、なぜかかなり調子がよくなったって言ってたし。

 ミュウちゃんはそれに加えて、術そのものの『熟練度』みたいなものまで強化されたって言ってた。前までは不可能だったレベルの魔物とも『召喚獣契約』できるようになったとか、前までより大規模に魔法を展開できるようになってたとか。

 ナナさんなんかはもっと極端だ。前の3人と同じようなことが起こったのはもちろん……記憶喪失まで治った。今考えると、あの時のアレもこの副作用のせいだったんだ。

 こうなると、同じように最大出力の『他者強化』を施した他の人達……スウラさんやギーナちゃん、シェーンなんかも何かしらに目覚めてる可能性あるかも。
 そして、割と頻繁に僕の肩の上でそれを受けてたであろうアルバも。

 さらに言えば……もしかして『花の谷』で、『アルラウネ』のネールちゃんが一夜にして『フェスペリデス』に進化したのも、コレのせいかもしれない。

 しかしなんといっても、一番この力の影響が大きく出たのは……エルクだろう。

 何せ、さっきは極端な例として示した、遺伝子の奥底に眠っていた『素質』がホントに目覚めて、『先祖がえり』としてその力を覚醒させちゃったんだから。

 
 ☆☆☆

 
 そこの部分を師匠は、山場だとでも言わんばかりに、ゆっくり丁寧に話してくれた。

 エルクがここ最近発揮している非凡な才能の数々を、1つ1つ。
 魔力そのものの多さや、高い魔力感応力――そしてそれによる学習能力の高さ――なんかは、人間にも場合によっては見られるものだし、比較的ましだ。

 しかし、問題はここからで……まず、『花の谷』で見せた、『ドライアド』などの精霊種の魔物の念話を自然体で傍受する能力。

 精霊種の念話は特殊であり、早い話、結果的な理由だが、秘匿性能が極めて高い。相当な実力者でもない限り、同族以外には傍受なんて出来ないレベルだそうだ。
 それこそ、ザリーみたいに専用のマジックアイテムでも使わない限りは。それだって、使い手の実力次第では捉えられないらしいし。

 実際、『ネガエルフ』のシェリーさんでも、自分に向けて放たれたわけでもない精霊種の魔物の念話を拾うのは、使い手がよっぽど未熟でもない限り不可能だそうだ。
 なのにそれをエルクは……普通に聞いていた。

 次に、植物性の毒性魔力の影響を受けなかった点。
 これについて何のことだか最初わかんなかったんだけど、師匠に聞いたところ、ネールちゃんたちと初めて出会ったときにくらった『トレントコールド』って魔法のことらしい。

 僕にもエルクにも全く聞かなかったから、魔法なのか、魔法だとしてもどういうものなのかもわかんなかったんだけど、アレはいわゆる『状態異常』系の魔法で、限られた時間ながら食らった者に呪いのような作用をもたらす、れっきとした攻撃だそうだ。

 それを、僕は『EB』のおかげで効かなかったとして……なぜエルクは平気だったのか。

 他にも、師匠の指摘によれば……『マジックサテライト』。アレもおかしいらしい。

 『広範囲の空間の把握』なんていう無茶な魔法術式、普通の人間には絶対使えないし、仮に使えたとしても、精神・魔力負荷が大きくて1秒も使っていられないらしい。僕やアルバの魔力まで使った混成的なそれだから、なおさら。

 ……そういや前に、ザリーとかシェリーさんにも出来ないかってためしてみたことあったなあ。負荷以前に、発動や習得すら出来なかったけど。

 しかしエルクは、それを普通に使いこなしている。しかも、多種類の『チャンネル』まできっちり完全に制御して。
 向き不向きがあるのかな、とか考えて大して気にしてなかったけど。

 さらに、普通、念話は実力や熟練度に応じて通信可能な距離が伸びていくもので、覚えてまだ数ヶ月たってない素人ならせいぜい数mから、才能があっても数十mが限界だって言われてるのに、エルク普通に数km単位で念話使えるし、

 魔力関係の修行始めて間もないのに、魔力感知能力かなり高いし、属性まで感じ取るし、

 ……こんな感じで、普通の人間じゃあ考えられない点がわんさか。

 どれか1つか2つくらいなら、そういう分野で天才的なんだろう、って解釈も……だいぶ無理すれば出来なくもないけど、これら全部が可能となると最早楽観視は出来ない。

 実は師匠、それの確認のために、エルクが特訓の時に戦う魔物を使っていたらしい。
 毒性魔力や瘴気を使う魔物とか、相手をするだけで魔力的に強い負荷がかかる魔物とか、その他もろもろ……色んな性質を持つ魔物を。

 それらを使って調べた結果、師匠の結論は……

「エルク・カークス。おそらくお前は……『ハイエルフ』の先祖がえりだ」

「……は……?」

 コレにはさすがに、僕のせいで色んな非常識に慣れつつあった『邪香猫』メンバーも唖然としていた。

 

 『ハイエルフ』といえば、エルフ系種族の頂点に立つ存在にして……数ある亜人種族の中でも、伝説的な存在と言っていい種族。

 こと魔力方面において、『ケルビム』や『エクシア』、同種の反存在『ネガエルフ』など一部例外を除けば、他の種族を圧倒的に凌駕する実力を誇り、しかも身体能力的にも優秀で、寿命も数千年単位、おまけになぜか美男美女が多いというトンデモ種族だ。

 ただしその分(?)閉鎖的で……人前には滅多に出ない。
 というか、森の奥深くに集落作って生活してるらしいんだけど、普通そこを出てこないらしい。基本的に選民意識の塊な上、人間その他を蛮族としか見てないそうで。

 そういや、シェリーさんの故郷の『ネガエルフ』も似たような感じなんだっけ? 正反対の存在とか言われてるけど、やっぱ上位エルフ同士、似てるのかな、考え方とか。

 っていうか、そういえばハイエルフって……

「そういえば、ドレーク兄さんとアクィラ姉さんも『ハイエルフ』だったような……」

「ん? ああ……お前んとこの一番上のあの2人な」

 ドレーク兄さんは、金髪で、エルフらしく耳が長くて尖ってるダンディ、

 アクィラ姉さんは、黒髪で美人で……あ、髪に隠れてたから耳の形知らないや。けど多分尖ってるんだろう。

 母さんを除けば、キャドリーユ家戦闘能力No.1とNo.2であるらしいあの2人もハイエルフ。そう考えると、そのハイスペックさもわかるってもんだ。

 ……あの2人はその中でも別格である可能性が高いけど。

 しかし、素朴な疑問だけど……集落やその周辺の森からほぼ一切出ず、厳しい掟を守って暮らしている『ハイエルフ』の血が、よく僕ん家に入ったなあ。

 シェリーさんの話でもそうだったし、そんな厳格な暮らしのところなら、婚姻なんかも管理されてそうなもんだ。他の種族との婚姻とかありえなそうだけど。ファンタジー系のゲームとかだと、『ハーフエルフ』とかの混血児が冷遇されてたりするし。

 それをなんとなく師匠に聞いてみたら、

「ああ……あの2人は何というか、特殊な経歴というか過去の持ち主でな……」

 どうやらドレーク兄さんとアクィラ姉さんの父親は、そこでのそんな暮らしに嫌気がさしたらしい、超珍しい『例外』だったらしい。

 森の集落から出奔した所を、当事まだ解散前だった『女楼蜘蛛』と遭遇し意気投合。しばらく一緒に行動した後、最終的に同じ町に拠点を置いた。

 その後しばらくして……まあ、色々あったんだろう。色々。
 母さんが妊娠して……それをきっかけに、『女楼蜘蛛』は解散した。もともと『そろそろ潮時じゃない?』的な雰囲気もあったために。

 ドレーク兄さんとアクィラ姉さんの父親は同じらしいから、しばらく母さんはその『変わり者』のハイエルフと一緒に暮らしたのかも。

 そんな感じで『キャドリーユ家』に『ハイエルフ』の血が入ったわけだけど……実は話はそこで終わらなかったらしい。

 というのも、長男のドレーク兄さんが生まれた直後、お祝いってことで、解散後初めて『女楼蜘蛛』が再集結して誕生記念パーティなるものをやったらしいんだけど……偶然、ちょうどそのタイミングで、その父親……すなわち『変わり者』さんに、森の集落からの追っ手がやってきたらしいのだ。

 まあありがちというか、ハイエルフの掟に背くとはけしからん云々かんぬん、速やかに集落に戻れば酌量の余地はどーたらこーたら。

 そして、その後がまずかった。
 母さんとその『変わり者』さんとの間に子供……ドレーク兄さんが生まれてたことを知った追っ手の皆さん、その子供も集落に帰属すべきだとか言い出した。

 しかも、下賎な他種族の分際でハイエルフの子を産むなど無礼だの何だのと、母さんを捕えて自分達の独自の法律で裁判するとか言い出して……あ、この先なんか想像つく。

「で、まあ必然的に……リリンがキレて追っ手全員半殺しにしたわけだが」

 昔を懐かしむような顔で語る師匠の言葉に、僕ら全員が『うわぁ……』って感じの遠い目になった。

 しかも、話はまだ続く様子。

「そこで終わってくれりゃよかったんだが、ムダにプライドばっか高い連中だったからよ……今度はもっと大人数の追っ手がかかってな? リリンの留守を見計らって、ドレークとその父親を強引に連れ去っちまってよ」

「…………なんてことを」

 その先、聞くの怖いんですけど。

「で、当然リリン怒髪天。一緒にいた俺らも連れ立って、その集落に殴り込みだよ。……つっても、俺らはリリンのストッパー役としてだけど」

「なるほど」

「で、そこで夫と子供を返すようにリリンは言ったわけだが、例によって向こうさん、選民意識に根付いた罵詈雑言飛ばしてくるもんで、やっぱりリリンがキレてな」

「で、止めていただけたんですか?」

「いや、こともあろうにあいつら俺らもまとめて罵詈雑言と裁きの標的にしてきやがったんで、あの土壇場で『女楼蜘蛛』の心が1つになった」

 考えうる限り最悪の事態にっ!?

「その結果…………消えた」

 ……何が、どこから?

「えっと……追っ手が?」

「いや……」

「……集落が?」

「いや…………山が半分ほd」

「皆、僕たちは今何も聞かなかった! 『女楼蜘蛛』はちょっとエキセントリックだけど、間違いなく過去最高の見習うべき所の多い(と思いたい)冒険者チームだ! いいね!」

「「「了解」」」

 こっちでは『邪香猫』の心が一つになりましたとさ。

 精神衛生上よろしくないことには目を背ける。結構重要なスキルの1つだ。

 
 ま、まあ、兄さんと姉さん(と、その父親)に結構なバックグラウンドがあったことはわかったところで、盛大に脱線した話をもとに戻そう。

 エルクはその、『ハイエルフ』族の血を引いてるわけだ。『先祖がえり』という形で。

 同じ例としては……あのアイリーンさんも『ハイエルフ』の先祖がえりである。

 まあ、だからってエルクもあんな感じになるってわけじゃないだろうけど……普通の人間とは全く別格の存在になったことは事実。
 驚異的な魔力を有し、魔力方面での才能は天井知らず。肉体的にも普通の人間より強靭だし、もしかすると寿命もハイエルフ並みに長いかもしれない。

 しかも、それを自覚し知ったことでさらにその能力がまだまだ目覚めていくだろう、とのことだった。

 まあ、だからって知らない方がよかったとは思わないけど。知らないでいてある日突然暴発しました、とかの方が怖いし。

 それに、知らなかったとはいえ僕の『他者強化』が原因でそんな感じの能力が目覚めちゃったことに関して、エルクに気にしてるか聞いたら、

「別に? あんたと一緒になるって決めた時点で、とっくに普通の人生なんて諦めてるから。むしろ、今より強くなれるならいいことだしね」

 そんな、内容的にもフレーズ的にも嬉しい答えが返ってきたし。
 『一緒になる』って言葉の意味は、仲間的な意味なのか所帯的な意味なのかは聞かなかったけど、まあいいや。

 師匠の方から『こいつも結構毒されてきてんな』とか聞こえたけど、気にしない。

 さて、

「ま、そんなわけでエルク・カークス。お前は……まあ、戦い方や魔力制御的な意味の熟練度なら、俺が割と極限まで鍛え上げてやった。が……『ハイエルフ』の力やその修練方法は、正直俺も知らん。専門外だ」

「訓練法の考案なんかもできないんですか?」

「ああ。ましてや『先祖がえり』……下手に予想して効率悪かったり、間違った方法で指導しちまったら目も当てられねーわけよ。つーわけで、そこはそれ、専門家に聞け。話つけとくから」

「専門家って……ああ、アイリーンさんですか?」

「それともう1人な……心当たりあるから」

 もう1人? 誰だろ、同じように『ハイエルフ』の先祖がえりなのかな?

「いや、『先祖がえり』じゃなく純粋な『ハイエルフ』だ。つか、俺が知る限り『ハイエルフ』の先祖がえりは、アイリーンとエルクだけだし」

「純粋な『ハイエルフ』!? え、まさか他の『ハイエルフ』の集落に行けとか?」

「いや、そーでなくて、さっき話した『変わり者』……お前んちの長男と長女の父親だよ。あいつ、まだ生きてっから」

「え、そうなんですか!?」

 ああ、まあ、寿命的に考えればそりゃ、たった(?)150年前のことなわけだから、生きてても不思議じゃない……か。

 しかし、ドレーク兄さんとアクィラ姉さんのお父さんか……僕にとっては叔父にあたるわけだ。

 エルクの力の制御方法と訓練方法を、そんな人に習うことになる(かもしれない)とは……ホント世の中、どう転ぶかわかんないもんだなあ。

 師匠の話だと、背が高くてちょっと見た目怖いらしいけど、特に高圧的であるわけでもなく、人当たりもいいって話だから、あんまり緊張も心配も要らないらしい。

 あとついでに、多分実力は……AAAにちょっと届かないくらいだそう。強いんだな。

 どんな人なのかはわかんないけど、
 何にせよ、お世話になる人なんだ。きちんとして失礼のないようにしないと……

 

「名前が確か……バラックス、つったかな」

 

 ……え……?

 
 ☆☆☆

 
 ……さて、長い回想はこのへんにして。

 またまた所変わって、ついでに場面とか時間軸も変わって……僕らは今、なつかしき『ウォルカ』に無事戻ってきていた。
 『オルトヘイム号』は、夜明けと共に召喚解除して……徒歩で来た。

 離れてたの3ヶ月弱くらいだけど……王都と師匠んとこで過ごしたその期間がすごく濃かったから、すごく久しぶりに感じる。

 そして、戻ってきてすぐに僕らは、師匠から事前に言われていたとおり、まっすぐ冒険者ギルドに来た。

 そこで、師匠から話は通ってるはずだから、アイリーンさんとバラックスさん……というか、バラックスおじさん、とでも呼ぶべきなのか現在迷い中なあの人に、エルクの能力に関する指導をつけてもらうことについて話をつけないと、とか考えつつたずねたんだけど……

 なぜか到着して早々、リィンさん(わー、久しぶり)にギルドカードの提出を求められ……よくわからないままに全員それに応じて提出。

 そしたら数分後、
 なんと奥から、ギルドマスターであるアイリーンさんが直々に現れた。

 驚きのあまり、周りの人たちが硬直・沈黙する中、なんでもないことであるかのようにすたすたとこっちに歩いてきて……後ろには、なんかすごい恐縮そうにしながら、リィンさんもついてきていた。

 その手には、四角くて黒いトレーのようなものを持っていて、そしてその上には……1枚のギルドカードが乗っていた。
 てかアレ、僕のじゃん。『ブラックパス』ついてるし、間違いない。

 ……ていうか全体的に、なんか……表彰式か何かみたいな雰囲気だな。

 アイリーンさんが、表彰状を渡す偉い人で、リィンさんがお盆とかに表彰状や賞品を乗せて持ってくるお手伝いの人。そんな感じ。

 しかし、それならなぜそのお盆の上に、僕のギルドカードが乗ってるのかって話になるんだけど……その疑問は、5秒後にキレイに解消された。

 そのカードを手にとったアイリーンさんが、にっこり笑ってそれをこちらに差し出しつつ言った、たった一言のセリフによって。

 

「ミナト・キャドリーユ君。Sランク昇格、おめでとう」

 

 …………え゛っ?

 
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ