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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第8章 トライアングル・デスペラード

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第127話 『邪香猫』魔改造計画・完結編

どうも、和尚です。

今回の話ですが……正直、作者もちょっとやりすぎだったかなー、と……皆様の評価が怖いです。
いや、前々から考えてた展開ではあるんですが、いかにマッド3人が絡んだ『否常識』とはいえ、ちょっとぶっとばし過ぎた感が……コレ、ファンタジーものだったよね? と自問したりしてます。

第127話、どうぞ。
 

 ある朝。
 具体的には、僕が師匠に一喝され、『デイドリーマー』のフィルターをまた1つ取っ払うことに成功した、その次の朝。

 ついでに言うと、ここまで来たらもう勢いで! とでも言わんばかりのシェリーさんに流される形で、エルクに続いて彼女とも……男と女の関係になってしまった、その翌朝。

 僕は、もう通い慣れたと言っていい『訓練場』にて……静かに精神を統一していた。

 2本の足でしっかり立ち、目を閉じ、力を抜いて自然体で心を落ち着ける。

 そんな僕の目の前――目、閉じてるけど――には、初日にも戦わされた、四本足の巨大な龍・ファフニールが、獰猛そうな唸り声を上げている。もちろん『擬態』だけど。

 ランクAAAという凶悪な強さを持つこの魔物は、僕にとっても決して油断してかかれるような相手ではない。

 攻撃力・防御力共に桁外れ。きっちり集中して、長期戦も覚悟した上で戦わなければならない相手だ。

 
 …………昨日までは。

 
 集中を終え、僕が薄く目を開けた瞬間……師匠から『僕が目を開けたら戦闘開始』という条件付けをされていた擬態ファフニールが、勢いよく僕に飛び掛ってきて……

 次の瞬間、

 
「アサルト……パンチ!」

 
 僕の間合いに入ったと同時、
 轟音と共に、首の付け根のあたりに正面から炸裂した僕の正拳突きで、その付近の首の骨と肋骨のほとんど、それにその直線上の背骨を粉砕し、さらに肋骨が守っていた内臓のほとんどを潰された。

 そのまま、巨体は飛びかかってきた方向とは逆の真後ろへと飛んでいき、力なく地面に墜落して……動かなくなった。

 まあ、その前に確実に死んでただろうけど。

 それでも油断せず、きっちり残心して敵の死を確認する僕の目の前で……死亡確定のダメージだと判断されたことで、擬態の龍は床に解けて消えていった。

 それを見届けてから、さすがにあの巨体を正面から殴り飛ばしたせいで、ちょっとだけ痛む右手をぷらぷらと振っておく。もうちょっと魔力こめて強化すりゃよかったな。

 ふぅ、と一息つきながら、ふと横の……ベンチの方を見ると、

 今の一連の、というか一瞬の戦いを見て、唖然としている『邪香猫』メンバーと、なぜか何かを納得した様子で、うんうん、と頷いている師匠がいた。

 
 ☆☆☆

 
 ことの発端は、今からおよそ30分ほど前。
 朝起きて、いつも通りに朝練を始めようとした時に……僕が体意、何だか妙な違和感を感じた所に始まった。

 違和感と言っても、体調が悪いとかそういう感じじゃなく……むしろ、力がみなぎってくる感じだった。
 しかし、今まで感じたことがない風な感覚だったのは本当なので、やっぱ表現としては『違和感』っていうのを使うのが一番いいと思う。

 何だろうコレ、と思いつつ一応師匠にそのことを告げると、師匠の口から出てきたのは……『やっぱりか』とのお言葉。
 なんと師匠、僕がそうなることを予測していたのである。

 そして師匠は、僕にその違和感の正体を教えてくれた。

 
「『覚醒』……ですか?」

「ああ。やっぱり聞いたことねーか」

 

 『覚醒』。それが、今朝突然僕に起こった謎のパワーアップの正体。

 師匠からは合わせて、『夢魔』という種族のある知られざる能力、というか特性のようなものについても同時に聞かされた。

 

 簡単に言えば、夢魔の『覚醒』とは、精神面での何らかの大きな未熟さを取り払い、吹っ切ることで、その精神的な成長が、肉体面や魔力面においても爆発的なパワーアップとして現れたり、眠れる力が目覚めたりする……というものである。

 大きなトラウマがあったり、ずっと抱えてきた大きな悩みを解決したりすると、それによって精神、と一緒にすると同時に肉体とかも成長するわけだ。滅茶苦茶なことに。

 『覚醒』の鍵になる『精神的な問題』は個人個人で違うらしいんだけども、どうやら僕の場合……深刻な持病である『デイドリーマー』がそれに値するものだったようだ。

 昨日僕は、師匠に喝を入れられ、自分の本音や本性、至らぬ点各種を把握、

 その後、しっかりと反省した上で、シェリーさんから向けられてきた好意をきちんと受け止め、これに真摯に応えたことで、自分で言うのもなんだけど精神的な成長を遂げた。

 ……ついでに昨晩はその後、『せっかく思いが成就したんだから』ってのたまうシェリーさんとそのまま色々あって……それもある意味成長だけど、それは一旦置いといて。

 昨晩のその出来事が鍵となって起こった『覚醒』により、僕は、全能力のパワーアップに加え……もう1つ、夢魔固有のとんでもない特殊能力に目覚めた。

 それは……『精神力によるパワーアップ』。

 ベタというか、マンガや小説なんかではよくよくある話だけども……人間っていうのは不思議な生き物で、精神的な理由によって身体的な能力が上下することがよくある。

 例えば、テンションが上がってたり、自信満々な精神状態で何かに望めば、体がそれについてきて実力以上の力を発揮できたりもするし……逆に落ち込んでたり、自信喪失した状態だと、普段どおりの力を出せなかったりする。

 極端なものだと、何の、とは言わないけど試合中に、精神的に成長したり、トラウマを吹っ切ったり、観客席の大好きなあの子からの声援が飛んできたり、ってなことをきっかけにして超パワーアップし、劣勢だった状況を一気に逆転、とか。

 正にマンガとかの中みたいな話だけど、わりと普通に起こる話だ。

 他に、医学的なものが絡んだ例としては……病人がただのタブレット菓子か何かを『薬』だと思い込んで飲むと、それによって本当に病状が改善することもある。
 いわゆる『プラシーボ効果』。精神的なものが肉体に起こす不思議現象って奴だ。

 それと似たようなのが、夢魔の固有能力の1つとして存在するんだけど……『夢魔』という精神と肉体がこの上なく密接に関わっている種族においてそれは、人間における同様のものとは比較にならないレベルで現れる。

 師匠曰く、夢魔のそれは、単なる思い込みによるパフォーマンスの向上なんかではなく、精神力でその他の能力を『直接的に増大させる』らしい。

 例えて言うなら、普通の人間の『心』と『体』の関係は……『体』が火なら、『心』は薪だ。心という燃料によって、体という火がより強く燃えるという感じ。

 これが物語の中の勇者とか主人公とかだと、薪じゃなくてガソリンとか高性能爆薬とかになるわけだ。思い込みとか、そういうのの限度を最早とっぱらって強くなる。

 が、夢魔の『覚醒』による強化は……そういうのとは全く次元が異なるというか、強くなる方向が違うというか……とにかくまたデタラメな感じで強くなれる。

 例えるなら、『体』は火、『心』は薪その他、そして……そこに『精神力』が加わることによって、燃焼に最適な焼却炉ができて、薪が燃えやすく加工されて、そこに燃焼促進剤の灯油とかガソリンとかがさらに加わって、おまけに酸素濃度も上がったりする感じ。

 全く明後日の方向から引っ張り出されたそれらの要素により、戦闘能力を大きくブーストさせる。『精神力』なんていう、心とも似て非なる、目に見えない不確定な力で。

 そしてその『精神力』はもちろん、普通に魔法を使ったりする際に必要なそれとは全く別なものであり……師匠他は皮肉をこめて『精神力(笑)』または『凄心力せいしんりょく』なんて呼んでるらしい。クダラネ。

 で、実際にやってみた結果が……さっきのファフニール戦。
 以前ならそれなりに苦戦していたAAAランクの龍を、タイミングと打点をきっちり選んだとはいえ、一撃で葬るレベルの拳なわけだ。

 なるほど確かに……こりゃとんでもない。

 
 ☆☆☆

 
「なるほど……昨晩、そんなことが」

「シェリーさんまでもがお兄さんの毒牙にかかっ……もとい、お2人が両思いになったことで、お兄さんの身に『覚醒』とやらが起こった、と?」

「いや、それは単なる結果でしょ。多分ミナト君が、その偏見とか色んなもので歪んだ見方をしてたのがどうにかなったから、っていうことなんだろうね」

「っていうか、それでシェリーちゃん、今朝ちょっと気だるそうだったんだねえ」

 説明の必要があったら仕方なくとはいえ、昨日起こったことを話し……事情をしらなかったザリー、ナナさん、ミュウちゃん、そしてミシェル兄さんにも納得してもらえた。

 シェリーさんとそういう関係になった、っていうところで、案の定というかちょっとからかわれたんだけど……僕が今までにもまして化け物じみた力を手に入れた、ってことで意図せずにだいぶカバーされたらしく、みんな乾いた笑いを浮かべていた。

 ははは……精神的には助かった気もするけど、安心していいのやら。

「……でも何というか……シェリーさんまでミナトさんとそういう関係に?」

「えへへ、そうなのよ……あら? なあにナナちゃん、うらやましい?」

「いや、何というのか……他人が食べているものは余計に欲しくなるというか、おいしそうに見えるというか、そういう感じだと思うんですが……」

 と、視界の端でちょっと面白く無さそうな顔でナナさんがそんなことを言ってるのが少し気になったけど、それに反応するより先に……

「よぉーし、きっちり『覚醒』したところで、だ。ミナト、お前に渡すもんがある」

 と、師匠。

「はい? 何ですか師匠?」

「決まってるだろ、ふっふっふ……お前の新しい装備だよ」

 そんな言葉と共に師匠が投げてよこしてきたのは……先日から師匠に預けていた、母さん手作りの、黒帯という名の変身ベルト。
 それを見た時点で、大体の意図は察した。

 言われるままに、それをいつもの服の上から装着し、以前からやってたのと同じ感覚で『出てこい』と念じ、収納されているんであろう装備を呼び出した……その瞬間。

 僕の足元に、突如として……明るい紫色に光る魔法陣が出現した。

「「「……え?」」」

 その光景に、僕と師匠以外の全員の目が点になった……直後、

 その魔法陣が、同じく紫色の魔力光を放ったと同時に、間欠泉のごとき勢いで、微粒子状の魔力光が勢いよく噴き出し、竜巻のような螺旋を描いて立ち上る。
 それで僕が飛ばされたりはしなかったけど、僕の体は全体がそれに飲み込まれた。

 おそらく、外にいるエルクたちからは……光と魔力の奔流のせいで、その中心にいる僕の姿はちょっと見えにくくなっていることだろう。

 その魔力の奔流の中で、僕の両腕……肘から手にかけてのあたりに、魔法陣が出現し、まるで銀河のような渦状に光の粒子が収束したかと思うと、次の瞬間そこに装備が現れる。

 それの繰り返しで、紫色の竜巻が立ち上っているほんの2~3秒の間に、両腕に続き、両足、腰、さらに胸から肩の辺りに、今回新しく師匠に作ってもらった装備が出現。

 そして最後に、竜巻がぎゅんっ、と僕を中心に収束してこれまた銀河のような渦状に一瞬なったかと思うと、さらに一瞬後、その中心から光と共に勢いよく拡散して弾け飛ぶ。

 別に風圧とかは発生してないけど、眩しかったんであろう、エルク達は目をつぶったり手で目の前を覆ったりしてた。

 ……とまあ、こんな感じで、時間的には4~5秒程度の間の、そりゃもうド派手な……まんま特撮ヒーローの変身シーンじゃないか、って感じの演出の後。
 そこには……新装備を装着した僕が立っている、という現状だ。

 その装備だけども……前までとは当然、見た目も何もかも違う。

 手甲と脚甲は、さほどゴツくない感じのそれなのは今までどおりだけど……ちょっとばかり装飾が豪華になっている。黒一色だった今までと違い、縁とかの部分が金色になっていたり、随所に色んなギミックが仕込んであったり。

 さらに、手甲には手の甲の部分に、脚甲には足の外側のくるぶしの部分に、それぞれ1つずつ……両手両足合計で4つ、紫色のピンポン玉のような宝石が埋まっている。

 師匠が提供してくれたコレは、『デモンズパール』という真珠。
 闇の魔力を増幅させる効果があるが、取り扱いが難しく、実力不足のものがコレを使うと、最悪その場で魔力が暴走して体が木っ端微塵になってしまうらしい。

 まあ、事前に試して僕はそうならずに上手く扱えたから、埋め込んでもらったんだけど。

 それと、この埋め込んだ『デモンズパール』を固定している止め具の部分も金色だ。

 加えて、今まではにはなかった、胸部分を覆うアーマーを装着している。

 覆っている範囲は、前は肩から肋骨があるあたりまで。後ろは肩甲骨の周囲辺りまでだ。
 やはりというかそこまで重厚じゃなく、プロテクターって言った方がしっくりくる点と、ベースカラーは黒で縁とかが金色になっている点、

 胸の中心部分……肋骨の真上あたりに、手足のそれと同じ『デモンズパール』が埋め込まれていて、ここの止め具もやはり金色。

 さっき手甲と脚甲の説明でも出てきた、この金色の金属部分は、こないだの一件の報酬としてネスティア王室からもらったあの『オリハルコン』である。

 硬度・強度は全金属中最強クラスで、魔力伝導性も同じく。そのため、魔力系物質である『デモンズパール』と僕の体をつなぐ導線代わりや、魔力の放出機構として、新装備の各所に張り巡らされている。

 そして、装備の大部分を占めるカラーリングである黒色部分。
 今まで『ジョーカーメタル』だったこの部分は今、見た目は同じだが、材質は全く別なものに変わってしまっている。

 僕の前世知識&想像力と、師匠の膨大な専門知識と豊富な材料、そしてミシェル兄さんの『死霊術』に由来する知識と物質の各種を組み合わせた結果できた(できてしまった)超合金であり、つい先日この世界に誕生した新物質……『ダークマター』に。

 そもそも、『ジョーカーメタル』とは、複数の金属や魔法物質を特殊な製法で混ぜ合わせて作った合金らしい。

 使われている材料は3つ。超希少金属『アダマンタイト』と、『ゴールデンスフィンクス』という魔物の外殻、そして、高位のアンデッドモンスターの体内から取れる、怨念の結晶体とも呼ばれる素材『魂魄結晶』。

 これらを上手く混ぜ合わせて加工すると、オリハルコン以上の強度と魔力伝導性を持った超合金『ジョーカーメタル』になるわけだけど……師匠によると、それすらも比にならないほどに強力な物質なんだそうだ。『ダークマター』は。

 『ジョーカーメタル』をベースの素材として、魔法生物『ナイトメアスライム』の体細胞、龍族『ヒドラ』の鱗、生体鉱物『バイオクォーツ』、伝説の超金属『ヒヒイロカネ』、それから兄さんに出してもらったアンデッドの素材各種や、それを加工して得た新種の薬品……その他、魔物素材やら希少金属やらを惜しげもなく使用した。

 結果『ダークマター』は、『ジョーカーメタル』を遥かにしのぐ強度と硬度を持つのに加え、魔力を流すことでさらに強靭になる上、形状記憶・自己修復機能まで持つに至った。破損しても魔力流せば児童で直るってんだよ。すごいね、装備アイテムなのに。

 とまあ、こんな感じで大幅にパワーアップした僕の装備。
 見た目は……マスクこそないけど、かなり特撮ヒーローに近い感じになっている。

 ただ、この黒+金色の装備はハンパなく目立つので、この中の一部だけを装備し、前までと同じ黒だけの手甲&脚甲だけを装備している状態に出来る。

 その状態でも、性能は比べ物にならないくらいいいし、普段はこっちの方が目立たなくていいだろう。金の縁取りや胸部分のプレートは、本気モードの時だけ発現させる装備……って感じにすれば。

 そしてこれらのデザインは、装着時に展開されたあのド派手な演出も含めて、全て……

「あんたの趣味ね」

「正解♪」

 さすがエルク。僕の嫁。

 ……ああちなみに、僕の新装備のあの変身演出は、きちんとON・OFF効くので。
 毎度あれじゃ時間かかるし、隠密行動する時には思いっきり邪魔だしね。使うかどうかはその都度のノリだ。

「だったら最初からつけなきゃいいじゃないの」

「それはやだ」

「……あそ」

 
 とまあ、こうして、師匠プロデュースの『邪香猫』魔改造計画……最後の1人である僕の装備も完成したことにより、完結……と相成ったわけである。

 

 ……1つをのぞいて。

 
 ☆☆☆

 
 話は、1週間ほど前にさかのぼる。

 順調にメンバーおよび装備の魔改造が進んでいる中で、僕は師匠に、前々から考えていた、あるものの魔改造について打診した。

 それを話した時、師匠ですら数秒ほど唖然として絶句してたけど……すぐにいつもの獰猛そうな笑みを浮かべ、『いいじゃねえか、やるぞそれ!!』という感じで、実行することに決まった。

 なので、僕はすぐに、その魔改造のキーパーソンであるミュウちゃんをたずね、協力をお願いした。

 その際、何を早とちりで勘違いしたか、ミュウちゃんに若干おびえられながら、『私はその……腕は2本あれば十分ですし、目も2つ、足も2本あれば十分ですよ……?』とか言われて、普段僕はこの娘にどんな目で見られてるのかと思って若干傷ついたけど、きちんと説明して誤解を解いた上で協力してもらった。

 ……説明したらしたで唖然としてたけどね。
 まあ、無理もないか、計画が計画だし……そりゃびっくりするよね。

 

 『オルトヘイム号』超☆魔改造&戦艦化計画なんて聞かされたら。

 

 いや、前々から思ってたんだ。
 『オルトヘイム号』……あれ、召喚契約してもらったはいいけど、やっぱボロすぎるし、瘴気濃いし、色々問題ありすぎだよなあ、って。

 で、修行と授業の合間ぬって色々構想を纏めつつ、ある程度希望がまとまった段階で師匠に相談して、本格的に取り掛かることになったわけだ。

 召喚獣に手を加えるのは、召喚契約者の協力と、相応の技術力があればそう難しいことでは無いので……このさい徹底的に、それこそ僕ら『邪香猫』の移動拠点として活用できるレベルでの魔改造を施してしまおうと思った。

 思い立ってからはそりゃ早かった。

 召喚してもらった『オルトヘイム号』を、師匠の用意した特殊な術式で固定し、まず大まかにその内部構造を把握。

 続いて、とりあえず導入したい機構を片っ端からリストアップし、どこにつければいいか考え、大まかに完成予想図をくみ上げていく。

 そして、必要なパーツをそろえ、組み込みたいあらゆるギミックをくみ上げていく。
 マジックアイテムも作っていく。完成時にどんな活躍をどれだけ見せてくれるか期待に心を躍らせながら。

 ……このへんで僕と師匠、そして途中参加のミシェル兄さんの自重はほぼゼロになっていて……協力者であるミュウちゃんが壁に向かって『ごめんなさい、エルクさん、皆さん……私ではこの方々を止められないです……』と1人物悲しげに呟いていた。

 
 そんな感じで進んだオルトヘイム号の魔改造は、おととい終わって……後は魔術的な処理だけなので、師匠にお願いしていたのだ。

 そしてさっき、『ああ、アレも終わってるぞ?』との報告を師匠からもらったので、僕の新装備に続いてこいつもお披露目しようってことで、『オルトヘイム号』の魔改造が行われていたドックに全員連れてきたのである。

 
 そこで僕らの目の前に姿を見せたのは、ボロボロの幽霊船の面影がほぼなくなった、荘厳とすら言っていい姿の巨大な帆船だった。

 木造の船体は、幽霊船っぽく見える要因の1つだった多数の破損部分が全て直されているだけでなく、要所要所が金属のパーツで強化されている上、『スクウィード』の墨と『ミクトランデーモン』の血で作った黒塗料でコーティングされ、黒光りしている。黒船?

 帆は全て張り替えられ、魔物の皮や昆虫系の魔物の糸を主原料とした強靭な布に挿げ替えられている。

 甲板もまた、同様に完璧に修繕されているばかりか、木でも金属でもない特殊なパネルによって覆われている。

 実はこのパネル、『魔緑素』をヒントにして僕が考えた新しいマジックアイテム『マジックソーラーパネル』であり……前世の世界の『太陽電池ソーラーパネル』よろしく、光を受けて『魔力』を生産できるというとんでもないアイテムだ。
 しかも、太陽光だけじゃなく、月光でも星の光でも魔力光でもOKなのだ。

 ただ、使うには外部から一定量『魔緑素』を供給してやる必要があり、実質僕がいないと使えない半手動アイテムなんだけど、こいつを使えば、船に搭載されている各種ギミックをかなり省エネで使えるという優れもの。

 そしてその、船のギミックってのがまた、自重という言葉を空のかなたに投げ捨てたラインナップ。

 まず最初に、この船、空飛びます。浮遊戦艦です。

 師匠の資料の中から見つけた浮遊魔法の術式に、僕が改良して手を加えた術式を組み込んであって、操舵室という名のコクピットで操作することにより、飛べる。
 船尾部分に魔力のブースターもついてて、加速も出来る。けっこう速い……はず。

 ……海・空共に自力で航行可能だから、帆が既に飾りと化してる点はおいといて、

 内部も結構豪華。居住スペース完備、収納スペース充実。
 各所に『瘴気浄化装置』を取り付けてあるから、今まではいちいちミュウちゃんに頼んで処置してもらってた浄化措置もいらなくなり、普通に生活可能。

 設備もかなり充実してて、普通の居住スペースだけじゃなく、冒険者稼業における作業各種において、あったら便利な専用の部屋とかもきちんと備えられている。

 採取した薬草やアイテム、モンスターの素材を保管しておく保管庫はもちろん、各種機材が充実のトレーニングルーム、誰かお客さんを招いた時用の客室や、魔物や盗賊その他を生け捕りにした時にぶち込んでおく牢屋なんかもある。

 さらに、空間拡張した模擬戦用の訓練スペースもある。しかも内装には、師匠が『訓練場』の床や壁、天井に使ってるあのスライム製タイルを進呈してくれた。

 あと、僕専用の魔法・マジックアイテムその他研究室(ラボ)も……ふっふっふ。

 さらにさらに、一度ミュウちゃんに召喚してもらえば、送還しない限りはそのまま現界しつづけられるようになってるので、本気で拠点として使える。
 必要なのは実質、最初に召喚する分の魔力だけなのだ。

 その魔力も、『覚醒』で魔力量がまた大幅に増した僕なら、数%ほどの消費で呼び出せるから、嬉しい誤算でまた更に汎用性が上がっている。

 他にも色々とこだわりのシステムはあるんだけど、全部説明してたら時間がいくらあっても足りなくなるので、この船で最も僕がこだわった点2つについて説明したいと思う。

 1つは……部屋のいくつかについている、巨大な『モニター』。

 前世の液晶画面を思わせるこれは、師匠にもらった特殊な水晶の板を加工したもので、僕がオリジナルで作り上げた、『幻術』を利用した特殊な術式によって、そのまんま『モニター』の役割を果たしている。

 そもそも、だ。幻術というものについて、どうお考えだろうか。

 一般に幻術といえば、敵の感覚を支配し、狂わせ、あるはずのないものを見せて惑わせたりする魔法だ。攪乱戦闘などによく使われる。

 しかし、だ。
 この『感覚』に働きかけて、実際にそこには無い映像を見せたり、音を聞かせたりする、という効果……もっと他に使い道あるんじゃないかと、僕は前々から思っていた。

 だって、実際にそこには無い光景や音を、相手の目や耳に伝えたりするってそれ……前世でいう所の、電話とかムービーとか、まんまじゃないか、って。

 そう、全ては発想の転換。
 僕は『幻術』を、戦闘の技法ではなく、特殊なマジックアイテムを介して使うことにより、映像や音声を伴った『最高の通信・記録手段』として使えないかと考えていた。

 『幻術』が『幻』なのは、術者が相手に見せる映像や聞かせる音が『嘘』であるからこそ『幻』なのであって、例えばその内容が、遠く離れた相手の姿や、その相手が実際に言っていた内容であればどうか。

 もちろん、視覚的にそこに実際には無い、という意味でなら『幻』ではあるが……内容が真実であるならば、『記録』であり『通信』と呼べるのではないか。
 そしてそれを、誰にでも視覚的に捉えられる形で映し出すことが出来たなら、それはすんばらしいことじゃないか。

 そんな発想と共に、師匠に協力してもらって作ったのが、この船の各所に備えられている『モニター』であり……そしてもう1つ、

 僕の『ベルト』に収納されていて、この船の『モニター』とリンクしている2つの小型通信端末『マジックタブレット』と『マジックスマートフォン』である。

 この2つは、見た目は完全にスマートフォンとタブレット。画面をタッチしてスライドして操作できるあれら。

 しかし中身は別に精密機械ではなく……特殊合金製の外枠に、水晶の板をはめこんだだけのつくりだ。……もちろん、ただの枠と水晶じゃないけど。

 こいつらの画面に使っている水晶版は、幻術によって作り出された映像と音声を可視化・可聴化することができる媒介物質だ。幻術を使う要領で映像を構成することで、水晶の板に映してみんなでそれを見たりすることが出来る。

 そして枠は、本物のスマートフォンやタブレットの機能を再現するための媒介。風景を撮影したりするカメラ的な機能や、文章を作るためのテキスト作成機能、そしてそれらのデータを保存しておくメモリー機能など、色々なことが出来る。もちろん、スマホらしく『通話』もできる。電波じゃなく、念話の応用だけど。

 そしてそれらの機能の多くは『幻術』による『概念』であるため、僕の意思一つで編集などの操作が簡単に出来、その補助とするための映像データもイメージ一つで水晶版上に投影可能なので、僕がこうと思って操作すればそれこそタッチパネル感覚で……

 ……まあ簡単に言えば、一部機能限定ながら、スマホやタブレットと同じように使うことが出来る情報端末が出来ました、とだけわかってくれればいい。

 しかもコレ、これまた一部の機能だけに限るけど、この『オルトヘイム号』の遠隔操作にも使えるので便利である。

 ……なんか自重を一切しなかったせいで、世界観的に見て恐ろしく不釣合いなツールを作り出しちゃった気がするけど、生活が便利になるわけだから悪いことじゃないと思う。
 なので、気にしないことにした。

 どうせ――今更だけど名前長いな、『スマホ』と『タブレット』でいいか――どちらも、僕と師匠以外に使える人いないし。

 それにあくまで『スマホ』と『タブレット』は、自前で幻術が使えない僕が、『通信手段としての幻術の利用論』を行使するための補助媒体だ。
 僕だって幻術が使えれば、ホログラムとかバーチャルモニター的なものを空間に映し出して、記録のためにだけマジックアイテム使って自前で色々やる。

 ……そういうの作ってみてもいいかもな。バーチャル的な……
 後は、ゴーグル型の結晶プレート作って、それ装着して戦うことで相手の情報を分析したりしながら近未来的な……うーん、心躍る。

「……さっきから結構な頻度で背筋が寒くなるんだけど、あんたまた変なこと考えてないでしょうね?」

 エルクが最近鋭すぎる。

 それはそうと、幻術を利用した近代情報端末もどき達の話はここまでにして、

 この船に搭載されてる、僕こだわりのギミックの、もう1つ。
 それは、普段は船首部分に格納されている……ある最終兵器だ。

 師匠と一緒にちょっと試運転で使ってみた時に、ちょっと恐ろしいことになったので、ためしに使ってみるわけにもいかない一品であり……師匠と一緒になって『やりすぎたな』『はい』ってな感じになっちゃった品物なんだけども。

「……あんたら師弟をして『最終兵器』とか『やりすぎ』とか、聞くのも怖くて仕方ないんだけど……一体どんなの作ったのよ?」

「えっとね……ごにょごにょ」

「……何それ? 聞いたことないんだけど」

「んー……まあ、説明するの難しいから、使ったときのお楽しみってことで」

「永遠に来て欲しくないわそんな時は」

 結構辛辣なことを言われてるけど、まあそんな風に言われても仕方ないかな、って感じのものを作って搭載してしまったのも事実なので、甘んじて受けておこう。

 実際、あんまり使わない方がいい兵器だしね、アレは。

「……本気で怖いんだけど」

「いやもう、ごめんとしか」

 

 その数分後、
 船の中の探索を終えて、驚いたような疲れたような呆れたような諦めたような表情を浮かべている『邪香猫』メンバー達に、エルクがこんな質問をしていたのが聞こえた。

「ねえ、あんた達。『かでんりゅうしほう』って何なのか誰か知ってる?」

「「「知らない(です)」」」

 

 まあ、知ってたらそっちの方が驚きだね、うん。

 

 
 
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