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第126話 夢から覚める時
第126話を投稿します。どうぞ。
それと、発売になりました『魔拳のデイドリーマー』ですが、ペンネーム『西 和尚』で出させていただいてます。2文字の単語では短かったようなので。
WEB版ともども、どうぞよろしくお願いします。
やけに冷たく感じる夜風を頬に浴びながら、僕は……屋根の上でぼーっとしていた。
いやまあ、1時間近くも風呂に、それも湯船に入ってたんだから、風なんて当たったらそりゃ冷たいわな。うん。
けど……頭が冷えるからちょうどいいかもしれない。今の僕には。
もっとも、のぼせてようが冷えようが、今の僕の頭の中を占拠してるのは……さっき師匠から聞かされた話だけなんだけども。
……なんのこたない。僕が未だに、現実を見ているようで見ていない……救いようのないバカだった、ってだけの話だ。
(……一体、どこで間違った……いや、どこ『が』、どこ『から』間違ってたんだろ……)
何度自分に問えど、答えは返ってこない。
……自分でこの問題に気付けなかったんだから、当たり前か。
あの短いやり取りで、師匠が僕に気付かせたことといえば……1つだけ。
僕が……シェリーさん達に対しても、恋愛か、それに近い、極めて大きな好意的感情を抱いている……ってことだけだ。普通の友達や仲間だと認識してたけど……実際は違った、自分でもわかってなかっただけだった、と。
けど、それに気づかなかったことが問題なわけじゃない。
問題なのは……『どうして』それに気付かなかったか。
そこに……考えるのも恐ろしいような、僕のとんでもなく重大な欠陥が潜んでるような気がした。
今から数十分前、風呂の中でまだぽろぽろ涙を流してた時……僕が落ち着いて自問自答してみたら、意外とすぐに答えは出た。それも、いとも簡単に。
ただ、僕が鈍感だったから? よくある、ギャルゲーの鈍感系主人公みたいに?
……それもまあ、あるかもしれない。実際、何度かエルクに指摘されたこともあるし。
けど、これは多分違う。僕の場合、もっと根本的なところが曲がっていたと思う。
なぜ僕が、僕自身のみんなへの好意にも……そして、さっき風呂場で師匠から指摘された言葉を信じるなら、シェリーさん達からの本気の好意にも気付けなかったのか。
……順序良く考えて、思い出してみよう。
例えば、シェリーさんからのアプローチがあった時、僕はどう感じ、何を考えたか?
一応、普通に嬉しかった。褒めてもらえて、好意的に見てもらえることは。何も感じなかったとか、そういうわけじゃない。
けど、そこに恋愛や、男女の関係を示唆するような言葉や誘いがあっても、僕はそれを1度たりとも本気にしなかった。けっこうはっきり言われても、だ。
同時に、自分自身も、彼女にそういう感情は持っていないと思っていた。
男としては確かに言われて嬉しいけど、コレは社交辞令だと。
それはなぜか? シェリーさんの言葉が、至極当然に冗談だと思ってたからだ。
自分に対して、本気でこんなことを言ってるはずがない、って。場の雰囲気を盛り上げるためとか、バカ話につなげて、最後に皆で笑うために言ってるだけだって。
むしろ、本気にしたりしたら引かれる、って思ったからだ。
じゃあ……なぜそう思った?
彼女は、雰囲気や話題作りのためにそういうことを言ってるんじゃないって……なぜ思わなかった?
……これはちょっと難しいかも。実際彼女、そういう目的で言うこともあったと思うし。
僕に向けられた好意的な言葉の全てが、本気ってわけじゃなかったはずだ。
じゃあ僕は、どうしてその『冗談』の好意と『本気』の好意の違いに気付けなかったのか……いや、これは疑問点としては違うだろう。
何せ僕、それら全部ひっくるめて『冗談』だって最初から決め付けてたんだから。
……いや、それこそ何でだ?
何で僕は最初から、自分への好意が全部冗談だって、本気であるはずがないって、そう決めつけてた?
シェリーさんに好みだって言われれば、『またそんな冗談』って。
ナナさんに、夜の相手でも勤めるって言われれば、『またそんな』って。
ミュウちゃんに、体を許すくらいの魅力はあるかもって以下略。
そして僕自身、彼女達へ恋愛的な好意を……いや、これはそもそも考えもしなかった。
どれを見てみても、見事なまでに、好意的かどうか考えることを、最初から放棄してる。自分のそれも他人のそれも関係無しに、門前払いだ。
何でだ? 何で僕はここまで、自分が絡んだ好意とか恋愛ってもんに無頓着だった?
……無意識のうちに、それこそ考えるまでもなく、心のどこかで思ってたからだ。
自分みたいな奴が、女の人に……それこそ、彼女達みたいに魅力的な女性に、そうそう好意なんて向けてもらえるはずがないって。
ちょっと俗な言い方をすれば……自分がモテるはずがないって。
なんで? だって……
ず っ と そ う だ っ た か ら
「………………」
前世で……現代日本で生きてた頃、僕は普通の高校生だった。
人付き合いは……苦手ってほどでもないけど、どっちかっていうと内気でインドア。
彼女なんているわけもなく、生涯『彼女いない歴=年齢』のまま一生を終えた。
……おそらく、その時の自意識や価値観が、まだ僕の中では生きている。
人の命も物もむやみに奪っちゃいけないっていう、法治国家の価値観。
謙虚に、誠実に人と接することこそ美徳だっていう、日本人の価値観。
人との約束があれば5分前行動が基本だっていう、社会人の価値観。
……自分は女性にモテたりするはずがないっていう、ヘタレな価値観。
そして、
剣や魔法、魔物を見ると、『ファンタジー小説みたいだ』って真っ先に考え、それをもとに全てを考えようとする……厨二病そのものな価値観。
……結論。僕はやっぱり『デイドリーマー』だった。
バリバリ機能している、身勝手なフィルターごしに、この世界を、彼女達を、そして、自分自身すらも見ていた。
考えもせずに彼女達の行為を『んなわけない』で否定し、自分の感情すら恋愛的なものはないと決めつけた。
モテるわけがない、ギャルゲーじゃあるまいし。
本気なわけがない、恋愛小説じゃあるまいし。
恋愛なんてあるはずない、ラブコメ漫画じゃあるまいし。
この世界は現実なんだ。フィクションじゃないんだから、まさかそんなゲームや小説やマンガみたいなこと、本当にあるはずないじゃないか―――
……そんなことを考えてた僕が、実は一番現実を見てなかったわけだ。
まあ、もしかしたら……仮に僕が『現実』をきちんと見てたとしても、彼女達の好意に気付けなかった可能性もある。
むしろ、そっちの可能性のほうが高いかも。鈍感はホントだからね、僕。
けど、仮にそうだとしても……世界ごとひっくるめてまともに考えることすらしなかった今の僕よりは、ましなんじゃなかろうか。
きちんと、この世界そのものを、現実として見てたつもりだった。
この世界に生きる人達は幻想なんかじゃなく、ホントに生きてるんだって。生きて、社会を形作ってるんだって。
人や物事と向き合う時も、人か魔物かを問わず、命のやりとりをする時も……そのことはきちんと頭にあった。真摯に、真剣に、向き合ってるつもりだった。
けど、その実コレか……
何だか、どういう心構えでいればいいのか、一体自分の価値観って何が正しくて何が間違ってるのか、まるでわかんなくなってきた……
こんなんで明日から、彼女達とどう向き合えばいいんだろ……
……考えても答えは出ず、考えれば考えるほど自分が情けなくなっていくだけだったので……もう今日は寝ることにした。
せっかく師匠が一喝してくれたってのに、さしたる結論も出せないまま、そのせいで余計に落ち込みながら部屋に戻る。
一晩寝て夜が明けたら、気分がすっきりしてる……なんてことはまずないだろうけど、かといってこのまま起きてても進展は無いだろうと思う。
だったら、逃げるみたいでなんかヤだけど、明日の訓練に差し支えないようにきちんと睡眠をとったほうが建設的かな……なんて思って、部屋に戻ると、
そこには……
「うふふっ、お帰りミナト君……遅かったわね? どう? そろそろいい加減に、私のこともらってくれないかしら?」
寝間着に身を包み、僕のベッドに腰掛けて妖艶な笑顔を僕に向けてくる、今正に頭の中にいた女性……シェリーさんだった。
どうやらお風呂上りらしい、紙がしっとりと濡れていて、よく見れば僅かに湯気みたいなのが体から立ち上っている。率直に言えば……色っぽい。
「ねーぇ? 私たち、一緒にいるようになってそろそろ半年でしょ? 確かに今みたいな、色んな所を一緒に冒険したり、一緒に戦ったりする仲間、っていうのも悪くない関係だと思うけど……そろそろ、一歩踏み出してみてもいいと思うなあ……?」
僕と目が合うと、首をかしげて上目遣いの視線を送り、誘うような仕草を取る。
……いやまあ、実際誘ってるのかもしれないけど。
その様子を、僕は……動かず、何もしゃべらず、表情一つ変えずに、立ったまま黙って見ていた。
いつもの僕なら……この後無言で背中を押してご退室願うか、窓から脱出して帰ってもらえるのを待つかの2択だったろうけど……
今回、僕は……何も言わずにベッドの上、シェリーさんの隣に腰掛けた。
「…………え?」
「…………」
途端、隣のシェリーさんの目が、表情が……きょとんとしたものに変わった。
思いっきり予想外というか、想定外の事態が目の前で起こったような感じのものに。
それに対しても僕は、ちらっと視線をやる程度で、何も反応を返せなかったけど。
「……あ、あのー……ミナト、くん?」
「…………ん?」
「いや、あの、何ていうか……いつもみたく、呆れたよーな感じで追い出そうとしないの?」
「…………ん」
……やっぱり、そう思うよね、うん。今までそうしてきたもんね。
本気じゃない、ただの社交辞令というか、悪ふざけだとばっかり思ってたからね。
……まあ、正確には今も、シェリーさんのコレが本気なのかどうかはわかってないんだけど。
夜中に部屋にまで来てるんだから、普通に考えたら――今更も今更だけど――本気で誘いに来てる、って考えるのが普通だ。
また『フィルター』越しの考え方で申し訳ないけど、マンガや小説ならほぼそうだ。
けど、やっぱり僕にはわからない。
シェリーさんが、本気で誘ってるのか、冗談なのか。
もっと言えば……本気で僕に好意を抱いてくれてるのか、そうでないのか。
こうして、隣に座ってみても……何一つわかることがない。
本気なら嬉しいし、それに応えたい。けど、シェリーさんが望んだとはいえ彼女に手出したりなんかしたら、二股かけたってことになってエルクに怒られるかもしれないし、最悪縁を切られるような……ことになったら生きていけない。
そもそもシェリーさんがそういうつもりじゃなかったら明日から気まずいどころじゃないし、それならそれで今までどおり無難な対応が必要だけど、判断材料がない。あったのかもしれないけど、僕は何一つ気付けないままここにいる。
……『デイドリーマー』を今一度自覚して、反省してなお、このザマだ。
ホント、僕は今まで何をやってたんだろうか……?
そんな感じで、答えの出ないどころか、考えれば考えるほど陰鬱になる思考に没頭していた僕は……隣で、いつもと違って追い出されなかったことで、シェリーさんが逆にテンパってることに気付けなかった。
「ね、ねえ……ミナト君? お、追い出されないってことは……これって、わ、私の思いがようやく成就しようとしてる……ってことでいいの、かな?」
「…………」
「そ、そうなの? それとも違うの? ま、まさか……ふしだらな女は嫌いって思ってる!? わ、私もしかして、愛想つかされちゃった!?」
「…………」
「お、お願いだから何かしゃべって~!」
☆☆☆
「……で、何で私が呼ばれてんの?」
ベッドの正面、椅子に座ってこっちをジト目で睨んでくるエルクのお言葉。
思いつめて何も言えず、無反応を貫き通してしまった結果、どうしたらいいかわからなくなったらしいシェリーさんが、さっきいきなり部屋から飛び出したかと思ったら……寝ていたところを無理に起こしたらしい彼女を連れて帰ってきたのである。
「だってほら、ミナト君変なのよ! 私が夜這いかけても追い出そうとしないし、何言っても反応返ってこないし、今まで見たこともない物憂げな表情浮かべてるし……もう何が何だかさっぱりわからないからどうしたらいいか教えてエルクちゃん!」
「私ゃコレの取扱説明書じゃないっつーの」
呆れを前面に押し出してため息までついて、再度僕にジト目を向けるエルクだけど……どうやら僕を見て、様子がおかしいのは本当だと気付いたらしい、
ぴくっ、と眉毛が動いて……その後、視線が僕を注視する感じに変わった。
「……ってこの色ボケ女が言ってるけど……何かあったの?」
「……ちょっとね」
「……そう」
直後、エルクの視線が、ただ呆れた態度が現れているだけのジト目から、何かを察したようなものに変わり……探るようなその目に、こっちがドキッとした。
「……よくわかんないけど、何かあったのは確からしいわね」
鋭い、と言う他ないその言葉に、また僕は驚かされ……しかし同時に、ちょっとだけ嬉しかった。
今の、たった二言三言のやり取りで……エルクが僕のことを『こいつ何かおかしい』って察してくれたような感じがして。
だからこそ、こっちを見てくる目の感じが変わったように思えて。
……そこ行くと、僕は……
(……この落ち込みようは何? シェリーに呆れてるわけでも、修行で疲れてるわけでもないし……っていうか、前にもコイツ、こんな感じになったことがあったような……?)
「……ねえ、エルク?」
「? 何?」
「……僕ってさ……今まで、シェリーさんとか、ナナさんとか、ミュウちゃんとかに……すごく、失礼なことしてたのかな……?」
「……どういう意味よ?」
☆☆☆
「……なるほど、ね。それで落ち込んでたわけ」
風呂場で師匠に言われたことや、その結果僕が気付いたこと、あと、そのことで僕がちょっと今鬱になってるってことを話すと……エルクとシェリーさんは、ようやく納得したようだった。
「……うん。今までの自分が情けなくなって……ごめん、こんな愚痴みたいなこと」
「いいわよ、別に。しっかし……なるほど、悪い予想が当たってたか……」
「……? 予想?」
「ああ、こっちの話よ」
そう言ってエルクは、今度は視線をシェリーさんの方に向ける。
その先にいるシェリーさんは……こっちはこっちで、不思議な表情をしていた。
さっきまでの戸惑った、僕の説明の途中で引っ込み……今の彼女の顔に浮かんでいるのは、『そーいうことね』とでも言いたげな、納得したような……それでいて、何も気にせずにすんなり受け入れてくれたかのような、優しい笑顔だった。
何かたくらんでる感じもなければ、誘うような感じも全くない。
まるで、小さな子供を見るような……ただただ、優しさのみが感じられる笑顔。
「……そーいうことらしいけど、どう? シェリー」
「ん、納得したわ、1から10まで。そりゃ歯牙にもかけてもらえないわけだ。でも……」
「でも?」
「今、私……すっごく嬉しい」
「「え?」」
嬉しい、って……何で?
今の話のどこにも、怒らせるような箇所はあれど、喜ばせるような箇所なんてなかったと思うけど……?
「あの……僕、シェリーさんの言葉とか意思とか、色々勝手に捻じ曲げて……っていうか、まともに見聞きすることも出来てなかったんですけど……怒られるならともかく、何で喜ばれるんですか?」
「まあ、それはちょっぴり悔しかったけど……ミナト君、言ってたじゃない。私達がミナト君にとって特別な存在だ、って。他の人に渡さないで独占してたい女性達だ、って」
「あ……」
あ、まあ……うん、言った。
言ったけど……シェリーさんの口からあらためて聞くと、なんかこっぱずかしいな。
「てっきりエルクちゃん一筋、私達その他大勢は眼中に無しだと思ってたミナト君の口からそんな事実が聞けたのよ? こんな嬉しいことってないわ! 必死で私のこと好きになってもらおうと頑張ってた努力が無駄じゃなかったんだ、ってわかったもの!」
「えっと……つまり、そのー……」
情けないことに、まだ確信持ててないっていうか、最後の一押しが僕の中で足りてないから、確認しなきゃいけない始末なんだけど……
シェリーさんはやっぱり、ホントにっていうか、本気で僕を……
すると、浮かれているシェリーさんを、横のエルクがなぜか肘で小突いて……僕の方を顎でしゃくって指し示した。
それだけで何かが伝わったらしく、シェリーさんが頷いてた。え、何だ今の?
シェリーさんは、両手で僕の両肩をぐいっとつかんで自分に向き直らせると……おほん、と咳払いを1つ。
そして、僕の目を真っ直ぐ真正面から見据えて、大きく息を吸って……
「好 き で す!!」
耳がキーンとなるくらいの超特大音量で、そう言った。というか、叫んだ。
あっけにとられている僕の目の前で、シェリーさんは勝手にすっきりした表情になり……ふぃーっ、と額の汗をぬぐっていた。何だ、その一仕事終えた感じのいい笑顔は。
そして横を見ると……いつものジト目になり、何やら魔法を発動させていると思われるエルクがため息をついてるところだった。
「……まさかホントにやるとは」
「どういう意味?」
「いや、あんたがコイツ他のアプローチに無頓着なのは、単に好意に気付いてないからじゃないかって最近話題になっててね……それをどうにかするには、あんたにいかにわかりやすく正確に好意を伝えるかだろうって話になって……」
「……大きな声で、っていう案が出たの?」
「そこの色ボケ女からね。ったく、とっさに私が防音結界張らなかったら、この夜更けにどんだけ迷惑な騒音だったか……」
あ、今エルクから感じる魔力、結界魔法なんだ?
それも、僕が考えた『否常識魔法』の1つ……音が空気の振動で伝わる波だってことを利用した防音魔法か。
「あはははは、まあ、それだけじゃなくて、私自身に発破をかける意味でもある大声だったんだけどねー。うん、すっきりした。ってことで……」
と、ホントにすっきりした表情で言うシェリーさんは、しかしそれでは終わらず、また僕の目を見て……今度は、ゆっくりと、しかしはっきりと言った。
薄く笑みの浮かんだ、しかし真剣さがありありとわかる顔で。
「私はあなたが好き。冗談でも社交辞令でも、人間として好きとかでもなく……1人の女としてミナト君が好き。出来ることなら娶ってほしいと本気で思ってる。正妻がもういるから一番は無理かもだけど、愛人でも全然大丈夫」
言ってることはかなりとんでもない内容だけど、目から伝わってくるその真剣さが……これ以上何を付け足す必要もなく、彼女が本気だということをありありとわからせた。
「ついでに言うなら、私は強い男はそれに見合った女を、1人と言わず囲うものだと思ってるし、私以外に愛人が増えようが何も言わないし、そもそもそんなの関係なく私はあなたのそばにいたい。一緒にご飯食べたり、バカ話して一緒に笑いたい。デートも買い物もしたい。一緒に戦いたいし、強くなりたいし、色んな所に旅に行きたいし、ちょっと口に出していうのがアレなことだってしたいし、できるなら子供もほしい。だから……」
一拍、
「私を、あなたのものにしてください。ミナト君」
……ここまで言われて、勘違いのしようがあるはずもない。
もともと僕は、人の真剣な思いってのに弱い人間だ。
真剣な思いを乗せた言葉ってのは、聴くだけでとても重くて……それに言葉を、返事を返すっていうのは、それだけこっちの言葉にも重みが求められるものだと思うから。
何というか、そういう重い感じの空気、苦手だし。
けど、それでも……そういう真剣な告白をしてくれた人に対して、同じように真剣に返事をするってのは、人として欠かしちゃいけない義務だとも思う。
だから……もう、目はそむけない。
今までも、わざとそうしてたわけじゃないけど……気付いた以上、もう逃げたくない。
たとえその返事がどんなものだとしても……僕は、自分の素直な、本気の気持ちを……きちんと責任持って伝えようと思った。
というか、どういう答えを返すのかなんて……考えるまでもない。
風呂場と、さっき屋根の上でやった自問自答で、もう答えは出てるんだから。
「……よ……」
「よ?」
「……よ、よろしく、お願いしまsあぶっ!?」
言い終わる前に……シェリーさんが飛び掛って抱きついてきた。
そのみにあふれんばかりにみなぎる感情を、抑えきれなくなったかのように。
その、抱擁というか突進に近い愛情表現の結果として、後ろの壁にシェリーさんもろとも激突しながら……僕は思っていた。
……今回のことで、僕の持病も、少しはましになったのかな、と。
まあ、油断は禁物だろうな……ただでさえ僕、前世持ちっていう、長所と弱点が一緒になった特異な点があって……そのせいもあって、物事の見方が常人離れするから。
そして、それが僕の考え方や無意識の底にある以上……色眼鏡を全く介さずにこの剣と魔法の世界の全ての物事を見るのは、開き直るようだけど、多分不可能だ。
けれど……何も出来ることがないわけじゃない。
小さなことでも、自分に出来る、始められることは、多分ある。
そうだな。まずは……自分を好きでいてくれる、自分にはもったいないくらいの魅力的な女性と……きっちり、真摯に向き合う所から始めようか。
さっきまでの、凛々しさにも似た真剣さはどこへやら、猫みたいに頬ずりして甘えてくるシェリーさんをなだめてると、『やれやれ』って感じでため息をついているエルクが見えた。
一瞬、現在の僕の恋人である彼女が、この展開をもしかしたらよく思わないんじゃないか、って懸念が頭をよぎったけど……何か言う前に、エルクが口を開いた。
「今あんたが考えてることは無用な心配よ。私なら気にしない……こともないけど、まあ、シェリーなら納得できる範囲内だからね」
「……心読んでるよねエルク、絶対」
「否常識じゃあるまいし、んなことできないわよ。ただ……」
「ただ?」
「……私はあんたのことなら、少なくとも『邪香猫』の誰よりもよくわかってる自信がある、ってだけの話よ」
ちょっとだけ得意げに、エルクはそう言った。
それを聞いてだろうか、僕の腕の中のシェリーさんが、こちらはちょっとだけ面白く無さそうというか、対抗心を燃やすような顔をして……しかしそれもすぐに引っ込んで、
にたぁっ、という、いたずらっぽさと獰猛さが混在したような笑みを浮べた。
『言ってくれるわね』とでも言うように。
それを……そんな2人を見て、僕はあらためて思った。
僕ってやっぱり、僕なんかにはもったいないほど魅力的な女の子に好いてもらってるんだなあ……と。
今後どれだけ僕を苦しめるんだろう、と覚悟していた悩みが、彼女達のお陰もあって一晩と待たずに消えてくれたことを安心しつつ……窓の外の夜空が、何だかさっきまでとは違って見えるような爽快感と共に、僕の長い夜は終わった……
……と、思ったのは甘かった。
「それはそうとミナト君?」
「はい?」
「私の思いが成就して、無事に私と君の関係が一歩前進できた所で……そうなったらそうなったで、もう1つ、ヤることあるわよね?」
「……あ、やっぱりそうなります?」
「もちろん♪ まさかもう、断らないわよね~……?」
さっきエルクに向けたそれとは、また種類の違う獰猛さというか……飢えた獣のごとき迫力の笑みを浮かべるシェリーさん。
目は口ほどにものを言う、とでも言うのか……彼女が何を言いたいのかが露骨なまでにはっきりわかる。
それ考えると……今言ったたとえは、正に、って感じだよなあ。
言ってみれば、半年間おあずけされてきた、待ちわびたエサなわけだから。
今さっきわかりあったばかりでいきなり感が多少はあるんだけど……直感的に、なんか今夜のシェリーさんは何言っても止まってくれなさそうだな、ってのを感じる。
それに、これまでの分の負い目、ってわけじゃないけど、シェリーさんの気持ちに応えてあげたいというか、そんな気持ちも僕の中にあった。
根っこがヘタレなせいだろうか? 現金なもので……すぐそばにあっても、自分のものじゃなければ手を出す気にもならなかったものでも、いざ自分のものになってみると……1から10まで、欠片も残さず全部モノにしたい、って欲求が湧き上がってくる。
意図せずして、ゴクリ、と僕の喉が鳴ったのを、シェリーさんは了承の合図とでも取ったのか……背後にいるエルクに、視線をちらりと。
それを受けた、シェリーさんいわくところの『正妻』であるエルクは、『やれやれ』という表情を浮かべて肩をすくめると、
「ごゆっくり」
そう言い残して、部屋を出た。
パタン、という、扉が閉まるその音が合図になって……褐色の飢えた獣に火がついて、僕はそのまま押し倒された。
……その後、美味しくいただかれてしまったのは……言うまでもない(←上手い)。
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