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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第8章 トライアングル・デスペラード

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第125話 本性と本音

お気に入りが10000件突破しました!
電子画面を見つめながらマジで泣きそうです。感謝感激雨あられです! ただひたすらにありがとうございます!!
コレを励みに今後とも一層頑張ります!

そして、感想は後できちんと返させていただきます。毎度毎度すいませんが、今しばらくご容赦ください……。

それと、活動報告で申し上げていた通り、書籍版1巻収録部分をまとめ版にさしかえました。ご承知置きください。

では、第125話、どうぞ。
今回は若干真面目というかシリアスというか……?
 

「っ―――っはぁっ!!」

 真一文字に振りぬかれる、炎の刃。

 その一撃で、肋骨部分を切り裂かれると同時に、噴き上がる爆炎で砕かれ、焼き尽くされた『スケルトンナイト』達が、粉々になって崩れ去る。

 他にも、つい先ほどまで異形のガイコツ『オーバースケルトン』や、骨の馬に乗ったガイコツの騎士『デスドラグーン』だった骨片があたり一面に色がっている。どれだけの数を彼女が粉砕してきたか、一目みてわかる光景だった。

 それもそのはず、今ので……

「はい、しゅーりょー。1000人斬り達成おめでと、シェリーちゃん」

 ぱちぱちぱち、と、

 安全圏であるベンチから、拍手をしながら軽い感じで声をかけてくるのは、黒髪に黒い瞳を持ち、しかしスカーフではなく黒いマントを纏った青年。
 特徴的には似てはいるものの、彼女の想い人とはまた別な常識人だった。

 フィールドの真ん中で息を整えていたシェリーは、今の声の主であり、先ほどまで自分が戦っていた骸骨の兵士達を作り出した張本人であるミシェルを視界にとらえ、にっこりと笑って拍手に答えた。

 そのままシェリーは、足元に散らばる骨片を、気にせずに踏み潰しながらベンチに歩み寄り、そこに置いてあった水筒を手にとって中身を一気にあおる。中身は……酒。

「っ、はー! いい運動した後のお酒はやっぱり美味しいわねー。でもいつもありがとねミシェルさん、訓練なんかに付き合ってもらっちゃって」

「いやいや、全然いいよこのくらい。魔力ならまだ余裕だし、それにどっちみち、今のこの時間は僕暇だからね」

 1000体ものアンデッドを生み出しておきながら、まだ余裕だなどと言うミシェルに、シェリーは『さすがミナト君のお兄さん……』と呆れの混じった笑みを返す。

 ここ数日ほど、夕食後のこの時間帯、ミシェルはシェリーの自主練に付き合うのが日課になっていた。

 昼の訓練で余力を残してノルマを達成できるようになったシェリーだったが、その成長を喜ぶと同時に、やや物足りなさを感じることも多くなった。

 そのため、それを発散すべく、ミシェルに協力を依頼していたのだ。

 『死霊術師ネクロマンサー』であるミシェルは、自らの魔力を消費してアンデッドモンスターを作り出せるため、大量に作ったそれらを相手にした戦闘訓練が可能だ。

 その形式で自主練を重ねているシェリーは、日に日に相手にする数を多くしていき……ついに今日、1人VS1000体の戦いを征したということで、先ほどのミシェルの祝詞だったわけだ。

 あらかじめ用意していたタオルで汗の始末をするシェリーは、ふと、思いついたように顔を挙げ、横にいるミシェルにたずねた。

「ねえ、ミシェルさん? ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「うん? 何?」

 持ち前の明るさと、人と壁を作らず、誰とでもすぐに仲良くなれる才能を持つシェリー。

 ミシェル相手にも、この短期間でそれは遺憾なく発揮されたらしい。
 彼自身があまりそういうことを気にしない、フランクな正確だったと言う事もあるからか……初対面から数日とたっていないにも関わらず、もうすでにタメ口で話していた。

「ずばり……ミシェルさんから見て、私って義妹として合格?」

「……割とすごいことをいきなり聞いてくるね」

 割とはっきり、自分の弟を狙う気まんまんな意思表示を唐突にしてきた目の前の少女を、ミシェルは少し困ったような表情で見返す。

「えーと、それってもしかしなくても……ミナトのことだよね?」

「ええ、お宅の末っ子さん。そろそろアプローチ続けて半年になるんだけど、一向に……」

 曰く、自分は浮ついた気持ちとかではなく、本気である。

 曰く、どれだけ誘って誘っても興味なさげに流される。

 曰く、最近になってそれは自分に魅力がないからとか、正妻エルクを立てているからではなく、『好意』そのものに気付いていないからではないかという疑惑が浮上。

 曰く、だったら気付かせてやろう……と思ったはいいものの、どう言ったら理解してもらえるのかわからない。
 ストレートに言っても、今までの態度が態度だったのでもしかしたら信じてもらえないかもしれないし、しんみりした空気や真面目すぎる空気はそもそも自分も苦手。かといって力づくで押し倒すのは実力上無理だし、据え膳的に迫っても100%スルーされる。

「……要するに、自分は本気でうちの弟のことが好きだから、どうにかしてこっちを見てほしい。むしろ手出してほしい、ってわけ?」

「まあ、そうね。個人的には、ミナト君は誠実な性格だから、真正面から告白するのが一番いいんじゃないか、って思うんだけどね。実際それなら、こっちも本気度を前面に押し出せば上手く行くかもしれないし……でも……」

「でも?」

「それをすると、別の理由でミナト君を悩ませちゃうような気がして」

 はあ、とため息をついて、シェリーはどうやら空になったらしい水筒に蓋をして置いた。

「彼ってどうやら、『一夫多妻』ってのにそもそも抵抗があるみたいで。自分みたいなのが女の子何人もはべらせるとか考えられない的な、意外と小心者っていうか、真面目だけど窮屈な考え方みたいなのよ。だから……」

「仮に告白そのものは上手くいっても、その後ミナトが悩んだり困ることになるのが心配、ってこと? 自己嫌悪とか、罪悪感とか……真面目だけど的外れな理由で」

「そうそう。だから、どうしたもんかと……私としては、有能な雄はその能力に見合った数の雌をはべらせる資格があると思ってるし、そもそも彼、1人で占有できるような器だとも思ってないから、そんなの全然構わないんだけど……」

「……すごい言い方するねえ、雄とか雌とか。しかも、自分が夫にしたい相手が浮気しようとOK宣言? 君も何というか、大物だね」

「もうすでに正妻いるから、むしろ私が愛人ポジションだしね。あ、でも誰でもいいってわけじゃなくて、愛人にするならするできちんと私も納得する人物がいいなとは思ってるわ」

 フォローになっているのかどうか微妙なフォローを付け加えるシェリー。
 そしてその後、また悩ましげにはあ、とため息をつく。

 想い人と添い遂げたい。そして、自分ひとりが彼の相手でなくてもいい。
 しかし、彼の方がそれに折り合いを付けられず、苦悩するかもしれない。

 いくら有能な男が愛人を持つのは悪いことでは無いと、自分達は納得していると言って聞かせても、おそらくは心のどこかで苦悩し続けるであろう、真面目で誠実で、しかし子供っぽくて手のかかる意中の彼は……どうやったら自分を娶ってくれるのか。
 どうやったら、皆仲良く幸せな未来が訪れるのだろうか。

 答えの出ないそんな問いを、また何度も反芻し……はあ、とシェリーは、何度目かもわからないため息をつく。

「いっそ『いい女は全員俺のものだー!!』的な欲求ぐらい持っててくれたら、そっちの方が楽だったのかもしれないんだけど……」

「それだったら君ら好きになってないんじゃない? ミナトのこと」

「……ああ、それはたしかにそうかも。けどそうなると、本格的に八方塞って感じだわ……前に自分でも言った気がするけど、誠実さや優しさと、肉食な貪欲さを持ち合わせた都合のいい男なんて、所詮いないってことね……まあ、それでも私は彼が好きだけど」

 
「……さて、それはどうかな?」

 
「……?」

 ふいに耳に届いた、気になる言葉。
 シェリーが、そのセリフを発した本人……ミシェルの方に目を向けると、そこでミシェルは、何かたくらんでいるようにニヤニヤと笑っていた。

 その真意も、今の言葉の意味もわからなかったシェリーは、

「えっと……それ、どういう意味?」

「言葉通りの意味だよ。君今、誠実さと貪欲さを併せ持った都合のいい男なんていない、って言ったろ? つまり、ミナトもそうじゃないと思ってるわけだ」

「……? そうだけど……でも、実際そうでしょ? まあ、自分の欲望に正直で困っちゃう部分は確かにあるけど、彼のどこに、女漁りするような面があるって……」

「ま、たしかに『女漁り』とか、『いい女全部俺のもの』的な欲望は見えないよね。それは僕もそう思うよ。けど……」

 一拍、

「だからって彼が、女の子は好きな娘1人と一緒にいれば十分、っていうのがホントの本音だとは限らないでしょ?」

「……どういう意味?」

「……人間ってのはおかしな生き物でね……なまじ他の生き物より賢すぎるせいか、逆に自分自身の本心とか本音には気付けなかったりする。まあ確かに、一夫多妻に抵抗があるとか、それも『本心』ではあるんだろうけど……」

 そこまで言うと、ミシェルはすっくと立ち上がり、黒いマントをなびかせながら、訓練場の出入り口の方へ歩いていった。

 歩きながら、視線は向けずに言う。

「はたして誰よりも『子供っぽい』彼が、それだけしか心の中にないものなのかどうか、って話さ。もっとも、自分ですら気付けないその真意……見透かすのも困難なら、表側に引っ張り出して自覚させるのはさらに困難だろうけどね」

「……まだ何かよくわかんないけど、それはつまり、どうするのが一番いいの?」

「簡単に言えば……『自分自身に正直になる』こと。これオンリーなんだけど……コレが難しいんだよねえ。少なくとも、たかだか100年ちょっとしか生きてない僕には、ミナトをそこに至らしめるための方法は思いつかないかな。けど……」

 出入り口の前まで来ると、ミシェルは一度だけ振り返ってシェリーに視線を向け……

「もしかしたら、今夜あたりその悩み、何とかなるかもよ? 500年以上生きてる伝説のお姉さんが、何やらミナトに気合入れるようなこと言ってたからね。便乗してみたら?」

 そう言ってドアを開け、その向こうの薄暗い廊下に消えた。
 ドアを閉める前にすでに、黒装束が闇に溶け込んで彼の姿は見えなくなっていた。

 残されたシェリーは、いつの間にか訓練場に入ってきていたシルキーメイドたちが、訓練場に散らばる無数の骨片を、魔法で風を起こしてかき集め、手早く掃除していくのをぼーっと眺めながら、

「……今夜あたり、ねえ……だといいんだけど」

 
 ☆☆☆

 
「ふぃー……あー、いい湯加減」

 湯船のお湯に肩まで浸かって脱力しながら、僕は、体中の疲れがじんわりと癒えていくのを感じていた。

 装備の配布も終わり(僕以外)、それを使っての訓練を続け……さらに、同時進行で各自に見合った新しい魔法の習得も進められていく。魔改造もいよいよクライマックスだ。

 新魔法は、普通の魔法と『否常識魔法』の両方をバランスよく(?)みんな学んでいってて、ここに来てなお実力を上げていっている。

 これで残るは、ナナさんの武器いくつかと、ミュウちゃんの新規の召喚獣に、『アレ』の改造、そして僕の新しい装備のみ……かと思ってたら、

『いや、実はまだあるんだけどな……まあ、何とは言わねーけど』

 と、師匠が独り言っぽく言ってたのが聞こえた。
 どういう意味なのかは……聞いても教えてくれなかったけど。

 師匠、何かまだ作るつもりなのかな? 魔法か、マジックアイテムか……いや、その2つだとしたら、多分僕も1枚噛ませてもらえると思うんだけど……

「……まあ、師匠だし……変なことは考えてないと思うけど」

「変なことは考えてないけど、結果変なことにはなるかもしれねーな」

「そうですか、結果…………!?」

 思わず返してしまったその一瞬後、痛烈な違和感に気付く。
 独り言のはずの台詞に、答えが返ってきたことに。

 同時に真横から、たぽん、と湯船に誰かが――いや、誰がってわかりきってるけども――入ってくる音がした。

 しかしながら……そっちに顔を向けて確認するわけにもいかない。

 だってあの人の性格上、風呂に入る時に水着や湯浴み着なんて身につけてるはずないし、僕が入ってるかもしれないことを考慮して配慮しておいてくれるわけがないし、そもそも男湯に普通に入ってきてる時点で何一つ譲歩を期待できないわけであるからして……

「……大丈夫だぞ、もう入ったから」

 と、気を利かせてかそんな言葉が。よかった、タイミングとかどうしようかと思ってた。

「あ、ありがとうございます師匠。でも、何でいきなりって半身浴じゃないですかぁ!?」

「肩まで浸かったとは言ってねーだろ、誰も」

 安心して振り向いてみたら、湯船の中の段差になってる部分に座って半身浴状態の、つまりお腹から上はばっちり見えてしまっている師匠の裸体が目に入ってきた。

 直前の師匠の言葉で油断、というか安心してしまっていただけに衝撃が大きい。ってか今の言い方からして、確実にこの人確信犯だよ……。

 慌てて目を逸らした僕に満足したのか、にやりと笑いながら……今度は普通に肩まで浸かって風呂をのお湯を堪能し始めた。

「ったく……リリンの息子とは思えねーな。初心っつーかなんつーか、感覚がガキ過ぎるだろ。もちっとがっついて好きあらば手篭めにするくらいの甲斐性ねーのか」

「ただの性犯罪者じゃないですかそれは……そもそも師匠、何で普通に入ってくるんですか。ここ男湯ですよ?」

「俺んちの風呂に俺がいつどんな風に入ろうが勝手だろうが。つかお前、もちっと男らしくするってことを知らねーのか? せっかく上玉の女4人もはべらせてんだからよ」

「はべらせてるって何ですか、はべらせてるって……」

 上物? 4人? って、もしかして……『邪香猫』の女性陣4人かそれ?

 いやいやいやいや、何を言い出すんだこの人はいきなり。
 あの4人はそんなんじゃないって、だいぶ最初の方に言ったといたはずなのに。

 エルクはまあ、ホントにそういう関係でもあるからともかく……シェリーさんはちょっとスキンシップとかが大胆だけど、軽い感じでバカ話して笑いあえる感じの仲間だし、

 ナナさんは仕事が出来て色々サポートしてくれて、おかげでいろんな面ですごく助けられてる秘書的なポジションの仲間だし、

 ミュウちゃんはまるっきりマスコットというか妹系というか、とりあえずそんな感じの立ち居地で、ついでに将来性があって今後の成長が楽しみなスーパールーキーだし、

 そりゃまあ、時々は過激なスキンシップとかすることになったりすることもあれば、女の子っぽい仕草とかにドキッとするようなこともあるけど……それはただ単にコミュニケーションの延長だとかそのへんのあ痛たたたたたたたたたっ!?

「……思ってたより重傷だな、この頭」

「し、師匠!? いきなり何あだだだだだ!!」

 師匠の細くてしなやかできれいな5本の指が……僕の頭をわしづかみにして、驚異的な握力でぎりぎりぎりぎりと締め上げる。

 見事なアイアンクロー。今にも頭蓋骨が砕けそうってこんな冷静に考察してる場合じゃない! ホントに痛い!

 身長差のせいで、僕の頭に手を届かせてる師匠の体は少し湯船から出てるんだけど……そんなものを見て恥ずかしがる余裕は今の僕にはない。

 ちょ、何で!? ねえ師匠!? 何でいきなり僕頭蓋骨握りつぶされそうな事態に陥ってるの!? 脈絡なさ過ぎて絶賛混乱中なんですけど!?

「うるせえバカ弟子、テメェの頭に聞け」

「頭からは骨が悲鳴を上げてる音しか聞こえないです!」

「……聞こえねえようにしてやろうか?」

「師匠それ洒落になってな……てかホントマジで何なんですか!? 僕何か失礼なことしました!? あの、だとしたら謝りますんで一旦放してもらえません!? さすがに人生の最後が風呂場で全裸でアイアンクローくらって死亡ってやるせないっていうか何というか……」

「……失礼なのは俺にじゃねーんだよな、この場合」

 はあ、とため息をついて……その一瞬後に、頭に指が食い込む破滅的な感触がふっと消えた。アイアンクローから解放されたようだ。

 開放された瞬間、頭部ダメージのせいかくらくらして、湯船にほぼ倒れるようにバシャッといってしまい、水しぶきが結構派手に飛び散った。

 あわてて溺死する前に起き上がり、胡坐あぐらで座りなおし……まだ鈍痛の残る頭を手で押さえる。し、死ぬかと思った……。

「あ゛~……酷いですよ師匠、何なんですか今の? 何に対するお仕置きですか?」

「おめーの人生観そのもの」

「……はい?」

 またよくわからん答えが返ってきた。なんだそれ?

 しかしその意味を聞くよりも早く、師匠はじろりとこっちを睨むように見ながら、

「ったく……親子そろって厄介だな、『デイドリーマー』ってのは」

「…………はい?」

 ……ここで、何でその単語が?

 現役時代、母さんがアイリーンさんに名づけられたっていう、『現実をフィクションか何かのように見る現実乖離気味な夢想者』と『現実的に考えて甘すぎる望みを力づくで実現してしまうバカ』の2つの意味を併せ持つ、ちょっと不名誉な呼び名のはず。

 耳にするのはちょっとばかり久しぶりなんだけども……今のアイアンクローとその単語が何か関係ある、ってことなんだろうか?

「おめーの嫁に聞いたんだがよ、お前ら2人、『ナーガの迷宮』で出会ったんだって? あの、ウォルカの近くにある超初心者用ダンジョン」

「あー、はい、そうですね」

 嫁……って多分エルクのことだろうから、そうだね。

 確か、洋館からワープ魔法陣のアイテムで飛ばされて、出た先が『ナーガの』迷宮で、

 そこで、あっちへこっちへ迷走してた途中で、人身事故の結果知り合ったのがエルクだったんだっけ……あー、懐かしいなあ。

 エルクと知り合って、色々あった末に、腹割って話して和解して……深い仲になって、

 それから、アルバやザリー、スウラさんやシェリーさん、ナナさんにミュウちゃんにギーナちゃんなんかとも次々に出会っていって……

 『ディアボロス亜種』やウェスカーみたいな、敵とか敵(予定)とかとも遭遇して、

 ノエル姉さん達を初めとした兄・姉たちや、母さんの昔のお仲間さん達にも出会って、

 楽勝ワンパンで倒せるような戦いも、死と隣り合わせのマジでヤバい戦いも両方経験して、そのたびに強くなることが出来て、

 ……ホントに色々あったんだなあ。
 エルクに出会ったあの日から、まだ半年くらいしか経ってないのに、ずっと昔のことみたいに思い返されるなあ……。

「出会った次の日に寝たんだってな、お前ら」

「……キレイな感じで思い返してたところにすごい台無しな言葉が飛んできた件」

「人生なんてそんなもんだよ」

 いい感じだった雰囲気を見事にぶち壊してくれた師匠は、しかし、てっきり今からかうつもり程度に言ったんだと思ってたその件について、さらっと流さずに掘り下げるようなことを言ってきた。

「奥手、っつーか真面目なおめーにしちゃあ、意外なことしたもんだな? 出会って2日目なんざ、ほとんど行きずりと一緒だろ。何だってそんなとこまで進んだんだよ?」

「あー、えっと……エルクの本質や本音を見る機会に恵まれた、といいますか……」

 詳しくは省くけど、あの時、追い詰められてたはずのエルクの堂々とした覚悟や、悪人連中に啖呵切った姿を見て……『ああ、この娘はホントに信用できる』って、本能的というか直感的に悟ったんだっけ。

 だからその後、夜、一度はパニクって流したエルクからの誘いを結局受けて……今につながるエルクと僕の関係ができたんだっけな。

 いやしかし、あの時は効いたなあ……出会って間もないエルクに、僕の現実乖離しがちな部分をビシッと指摘されて、ハッとしたりして……

 でもあの時のアレのおかげで、僕の『デイドリーマー』も少しはマシに――と、

 ここまで独り言で呟いた所で、師匠の目が細められた。

「えっと、何ですか?」

「……マシになった、と思うか? お前」

「え?」

 きょとんとした表情になっているであろう僕に、師匠は体ごと向き直った。

 一応、体は湯船の中に入ってて、隠すべき部分は見えない。

 ただ、見えていたとしても……多分僕は、その辺を気にしたりはしなかったと思う。

 こっちを見据えてくる、いやむしろ睨んでくる師匠の目が、あまりにマジなのもので。

「お前……そりゃまあ確かに、嫁に諭される前と比較すりゃ、ほんの少しはマシになったのかもしれねーが……今、お前はきっちりこの世界を、『デイドリーマー』の厄介なフィルターを通さずに見れてる、って断言できるのか? って聞いてんだ」

「……? えっと……」

 『フィルター』っていう、これまた懐かしい言い回しにちょっと記憶領域を刺激されつつも、僕の頭は師匠の言葉を理解しようと奮闘していた。

 まるで責めるような調子で師匠が言った言葉は……内容をまとめれば、僕は未だにこの世界を、空想の物語か何かを見るような感覚で見てる、って指摘されている……ってことになるんだと思うけど……

「……遠まわしに言うのもめんどくせーな。おいミナト、お前、あいつらのこと好きか?」

「……はい!? いや、それは……」

「恋愛感情じゃなくてもいい。友達としてでも、仲間としてでもいいから答えろ。本心で。お前……あいつらのこと、好きか?」

 じっ、と真正面から目を見て聞いてくる師匠。
 何ていうか、息が詰まりそうな張り詰めた感じがあるんだけど……それは我慢して、えーと、何て言おうか……

「……まあ、好きですよ? 皆、大事な仲間ですし……一緒にいて楽しい友達でもありますし。エルクも、シェリーさんも、ナナさんも、ミュウちゃんも。あと……恋愛云々からは完全に離れますけど、ザリーも。それに、スウラさんやギーナちゃんなんかも」

「最後の2人は誰なのか知らねーが……なるほどな、よくわかった。じゃ次の質問だが、そいつらからお前、何かしらのアプローチを受けたことはねーか? 『好きだ』って言われたり、抱かれてもいいとか言われたり」

「……ない、ことはないですよ? まあでも大部分は、社交辞令だったり、コミュニケーション目的の冗談としてですけど」

 エルクから言われたアレはともかく、シェリーさんとかスウラさんとかから、普通に友達に対して冗談言うみたいな感じで言われるのは……アレはまあ、違うだろうし。

「……ホントにそう思うか?」

「……は?」

 どういう意味?

「……いや、むしろコレは、俺がお前に言っても仕方ねえか。言い方を変えよう……お前は、あいつらからそういう風に言われて、嬉しかったか?」

「……はい、そりゃまあ」

 あんだけの美少女達に、社交辞令とはいえそんな風に言われて褒めてもらえるんだから……そりゃ嬉しいに決まってる。少なくとも、そういうことを言ってもらえるくらいには、実力を評価されて、好意的な感情を持ってもらえてる、っていうことだろうから。

「そうか。で、その『嬉しい』って感情は……恋愛が絡んだものか?」

「……いや、それはさすがにないですよ。エルク以外は……」

「何で?」

「は? いや、何でって……普通に彼女達は友達で、仲間ですから。彼女達は魅力的だとは思いますし、信頼もしてますし、友達以上に親しいかもって自覚もありますけど、それ以上の感情はないですよ。第一、社交辞令のセリフを本気にして態度に表したりなんかしたら、引かれるじゃないですか、そんなの嫌ですし……」

「……お前らからあいつらに対して、恋愛感情はないと?」

「まあ……どっちかっていえば、ないですよ、そりゃ。今言いましたけど、魅力的だとは思いますが、そこまでじゃ……」

「そーかい、じゃあ……」

 一拍、

 

「もしあいつらのうちの誰かが、お前じゃない他の誰かを好きになって、お前のもとを離れていくような事態になっても……お前は平気か?」

 

 ………………はい?

「……えっと、どういう意味ですか?」

「意味の推察が必要なほど難しい言い方してねーだろボケナス。もしあいつらに他に男が出来て、そいつと仲良くしたいからチームを抜けるとか言われても、別に恋愛感情も何も持ってねえと言い張るおめーはそいつを笑って送り出せるか?」

 …………えっと、つまり、

 エルク……は無いとしても、例えば、シェリーさんあたりで考えてみると、

 いつも、僕のこと好きとか、色々ちょっと過激だけど嬉しいこと言ってくれて、時にはちょっと大胆なスキンシップもしたりして、

 戦いになればすごく頼りになって、頭も何気にキレる。

 そんなシェリーさんが……他に好きな人を作って……って……

 …………いや、そんな飛躍したようなこと……

「どこが飛躍してんだどこが。見た感じてめー脳が考えるの拒否ってるっぽいから、具体的に言ってほしけりゃ言うぞ? お前がいつも仲良くしていちゃついてる女が他に男作って、お前に普段やってるようなことをお前以外の他の男にしたり、お前にいつも言ってることを他の男に言ったり、お前以外の男のために戦ったり、最終的に更に深い仲になってその男に自分の心も体も好きなように『ドゴォッ!!』……わかりやすくて結構」

 気がつくと、僕の右手は……かんしゃくを起こしたかのように、握り締められて風呂の壁に叩きつけられ、そこから蜘蛛の巣状に石の床にヒビが入っていた。

 ……あれ? 何だ、手が勝手に……っていうか、無意識に……?

 いやそれより、手が動く一瞬前……師匠が並べ立てたシーンを、シェリーさんを例にとって頭の中でふいに想像しちゃったその瞬間……

 ……なんか、ものすごく嫌な気分になったというか、むしろ嫌な気分とか通り越してどす黒い感情が広がったというか……

「……先に言っとくと、それは人としてごくごく普通~の感情だからな。嫌悪感持ったりする必要もねーからな」

 はあ、とため息混じりに言う師匠は……どうやら、僕の心の中をお見通しのようだ。
 しかもおそらくは、今絶賛混乱中の僕よりも正確に把握している。

 僕の方は……今のたった一つの質問で、僕の心の奥底に眠っていた、本音とか本性なんかに、今更ながら気付いたような……そんな感じが、徐々に徐々に広がってきていた。
 時間と共に僕の頭に、砂に水が染み入るように浸透し……正確に理解していく。

 しかしそれを待たず、師匠は質問の……それも、僕自身知らなかった僕の本音と本性を丸裸にする凶悪なそれを、遠慮なくガンガンぶつけてくる。

「質問の答えを聞こう……お前は彼女達を、笑って送り出せるか?」

「無理です」

「あいつらに対しての恋愛感情は? あるか?」

「……ある、と思います。完全に『恋愛感情』かどうかはわからないですけど……離れたくない、渡したくない、っていうのはあります」

「そのせいであいつらに嫌われたり、あいつらが不幸になるようなことがあってもか?」

「……いえ、そこまでは……もし本気で彼女達がそれを望むなら……不幸にするくらいなら、彼女達の幸せを優先する……と思います。ストレスは甚大でしょうけど」

「じゃ、もしあいつらが……全員が全員お前と放れたくない。第二婦人、第三夫人でも、愛人でもいいからそばに置いてほしい、って言ってきたらどうする?」

「…………………………その時は……」

 一拍、

「……全員、幸せにする……そういう選択をすると思います」

「選べねえか、その中から1人は」

「はい」

「全員、誰一人手放しも切り捨てもしたくねえか」

「はい」

「そのせいで悲しませることになるからか? それとも、全員を自分が独占してたいと思うからか? それとも……ヘタレだから誰か1人なんて選べねえか」

「……多分、全部です。理由」

 ……自然と、次から次へと、僕の口からは言葉があふれ出る。
 偽らざる、僕の正真正銘の本音が、本性が。

 自分でも気付かなかった、思いもしなかった……独占欲やら何やらが露骨に浮き出ている、心の奥底から氾濫してきた色んな感情……それらは僕に考える隙を与えず、ただただ思ったままの言葉が、口から出ていっていた。

 それを一通り、全部聞き届けて……師匠は、

「そうか。なら……そうしろ」

「え?」

 あっさり、そう言った。

 きょとんとする僕の頭に、ぽん、と手を置いて、

「女達のほうから望んできてんだ、だったら望みどおりにしてやりゃいい。お前にそれだけの魅力があるから、自分たち皆を受け入れてほしいし、独占もしないって言ってるんだから。戦闘力や開発力と同じ……こいつもまた、『持つ者』の特権だ」

 そこで師匠は、立ち上がって湯船から出て、脱衣場の方へ歩いて行き……その途中で立ち止まった。

 そして、『ただし……』と付け加えるように言いながら振り向いて、

「お前がその本音を、本気を押し通すんなら……女たちの本音や本気にも、きっちり気付いて、汲み取ってやれよ? 『社交辞令』なんて、フィルター通して見た勝手な偏見で最初から論外視したりしねーで、お前のと同じ心からの本音として向きあえ、馬鹿デイドリーマー

「…………あ……」

「……言ってる意味はわかったみてえだな。そこんとこきちんとしろよ……気付いてもらえないどころか、明後日の方向に勘違いされたままで平気な女なんて居ねーんだからな」

「…………」

「あー……まあでも、色んな要素が組み合わさった結果の誤解と偏見でもあるし、お前に悪気はなかったどころか、誠実に対応してるつもりはあったんだ。ある意味仕方ないとも言えるし、まだこれからきちんとしていきゃそれでいいだろ…………だから……

 
 …………泣くな、バカ弟子」

 
 『感じなくていい』とは最初に言われていたものの、その意味を知った今、やはりその『自己嫌悪』から逃れることが出来なかった僕は、その頬に、風呂のお湯とも汗とも違うしょっぱい滴を、いつのまにか、自分も気付かないうちに滴らせていた。

 嗚咽も特にこみ上げてこないし、肩が震えたりも別にしないけど……なぜだか、涙だけはぽろぽろ出てきて、止まらない。

 それが収まるまで、しばらくかかりそうだった僕を……師匠は風呂から先に出て、しばらく1人にしてくれた。

 それに感謝しながら……僕は、怒りを覚え、悲しみ、恥じ、そして……呆れていた。

 全部……自分に対して。

 

 
 
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