挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第8章 トライアングル・デスペラード

61/197

第124話 『邪香猫』魔改造計画・続編

 

 僕とミシェル兄さんが師匠の城に自力で戻ってきた時、そりゃもう驚かれた。全員に。

 予定では僕は、『黄泉の柱』に入ってから10日後に師匠に迎えに来てもらって、それで帰ってくるっていう予定だったにも関わらず、折り返し地点にもまだならない4日目の夕方に、僕のほうから戻ってきたんだから。

 しかも、行く時にはいなかった『誰か』と一緒に。

 一応きちんと僕から彼……ミシェル兄さんについて説明はしたものの、やはりというか何というか、皆驚きを隠せないようだった。

 ただし……師匠をのぞいては、だけども。

 どういうことかというと、実はこの2人、なんと面識があったのである。

 1世紀近く前のことらしいんだけど、何かの用事で母さんに会いに来てた師匠は、当事すでに『死霊術ネクロマンシー』に傾倒しつつあった兄さんを、僕と同じ理由で気に入り、意気投合して色々と話したそうだ。

 そして、弟子に取りこそしなかったものの……色々とアドバイスを残し、将来に期待しながらその場は別れたのだという。

 機会に恵まれず、それ以来会ってなかったそうだけど、師匠の記憶力たるや素ン晴らしいものがあり、たった1度、それも子供の頃に会ったことがあるだけのミシェル兄さんをきっちり覚えてて、その姿を見るや『おー!』と声をかけてきた。

 そして、簡単な説明の後、師匠自ら兄さんを城にご招待して……そのままミシェル兄さんも一緒にここに滞在することが決まった。トントン拍子に。
 100年前にはまだダメだった分、色々と話してみたいことも多くあるそうで。

 ……そして、
 当然のことながら……ただ昔話をして盛り上がるためだけに、師匠がミシェル兄さんをこの城に泊めた……なんてことは全くなかった。

 そのことは、師匠が兄さんと会った時、訓練場で僕と模擬戦をしていたあの時と同じ、凶悪な笑顔を浮かべていたことからもよくわかった。

 そして、僕と同様にその笑顔を見ていたエルクは……その時すでに、途轍もなく嫌な予感に襲われていたそうだ。
 しかもその予感……約10分後に現実のものとなったのである。

 
「あ、エルクー。急遽なんだけどさ、今日から僕と師匠、ミシェル兄さんも入れて3人で色々と共同研究進めることになったから♪」

 
 ……僕の、こんなセリフをもって。

 後にエルクは語る。『あの時割と本気で、世界崩壊のカウントダウンが始まったんじゃないかと思った』と。……失礼な。

 
 ☆☆☆

 
 僕を含め、全員が『中間テスト』を無事終えたということで、僕らの特訓は更に1つ先のステップへと進んだ。

 と言ってもそれも、カテゴライズするなら、あくまで『基礎訓練』の枠を出ないんだろうけども。
 ただ、強くなった各自の力を上手く使いこなす訓練、ってだけだし。

 数日前に僕らが把握した、師匠の修行によっていつの間にか鍛え上げられ、『ジャージ』によって抑えられ隠されていた、今の僕らの真の力。

 『テスト』の結果からもわかることではあるけども……それらは、これまでの僕らが持っていた力とは明らかにレベルの違うそれで……頼もしい反面、上手く使いこなせなければ完全な宝の持ち腐れになるし、最悪制御できずに自滅する危険性もある。

 だからこそ、それを上手く制御する訓練が必要になるわけだ。

 僕が『黄泉の柱』に入っている間、エルクたちは師匠監修の元、それぞれ違ったメニューで訓練に没頭していたそうだ。

 より大きな魔力を、より安定して武器に纏わせて攻撃できるようにしたり、
 行動および攻撃の素早さ・精密さを損なわず、一撃一撃の威力を底上げしたり、
 自分の元々のスタイルや得意分野を考えて、最適の戦い方が出来るようにしたり。

 各々、自分に合った方法で、自分が今極めるべき技能に徹底的に磨きをかけ……膨れ上がった『力』を最大限効率的に使えるように研鑽を積んでいたそうだ。

 結果、エルクたち5人はこの数日の間に、技とかテクニックとか以前に、自分の『地力』そのものを大幅に強化させることに成功していた。

 シェリーさんの剣は、Aランクの魔物だろうと一撃で焼き尽くし灰にする威力と熱量になってたし、ナナさんは針の穴を通すような精密さと鉄板を楽に貫通する威力を併せ持った射撃を披露していた。

 ザリーは視線誘導と砂の遠隔操作なんかを上手く使った、相手の意表をつくようなトリッキーな戦い方を極めてたし、ミュウちゃんはもともと伸び代が大きかったためか、魔法の威力から使える魔法のバリエーションに至るまで満遍なく大幅レベルアップしていた。

 そして、今回一番成長幅が大きかったのはなんとエルクで……師匠の予想を大きく上回る形で、全能力が大幅なパワーアップを遂げていた。特に、魔力その他、魔法戦闘に必要とされる能力・感覚のそれは顕著だという。

 魔力の絶対量なんかではさすがに劣れど、魔力系統の出力やコントロールの精密さなどでは……なんと『ネガエルフ』であるシェリーさんにも並ぶほどだというから驚きだ。

 前々から垣間見えていた、エルクの謎の『才能』……その存在と正体が、ここにきて本格的に気になり出してきた。一体エルクは、何を『持って』るんだか……?

 
 そんな感じで、エルク達は自分達の『力』の制御を完全にモノにして、その成長を確固たるものにしたわけだけど……そこにいたって、師匠の『邪香猫魔改造計画』は、最終段階に移行することとなった。

 さて、

 今のエルク達は、RPGで例えれば、経験値を掻っ込みまくってレベルを上げに上げた状態である。ザコの魔物とかなら、装備なしでも素手ワンパンで倒せるような。
 ステータスも相応に高くなっていて、一定のレベルの戦いまでなら、小細工作戦一切無しでもガンガン戦えるレベルだと言っていい。

 上辺だけの力や技、装備なんかで強くなったような、危うくてもろい『強さ』じゃあなく……きっちり土台から順々に固めていって形にした『強さ』だ。中身のないハリボテのそれより、よっぽど頼りになるものだと思う。

 ただし、ここで勘違いしてはいけない点が1つ。

 今、『上辺だけの強さ』を僕は否定して言ったけど……その『上辺』そのものを否定とか、おろそかにしていいわけじゃあない。
 中身が伴ってこそ意味があるってだけで、『上辺』は『上辺』で重要なのだ。

 逆に言えば……中身が伴ってるなら、今度はそれにふさわしい『上辺』をつけてやることも、より強くなるためには当然に必要なことなのである。

 ……つまり、何を言いたいのかというと、

 エルクたちは、地力が相当な所まで来たわけだから、最後にそれに見合った『上辺』……強力な装備や技を身につけさせ、さらにそれを使いこなせるようにきっちり修行をつけることで、魔改造計画の最終段階とする……ってことだ。

 ……それも……僕・師匠・ミシェル兄さんの3人が共同研究の末に製作した、常識も自重も何もかもぶっちぎった超問題作のフルコースで、ね。ふっふっふ……。

 
 ☆☆☆

 
「と、いうわけで、今後使っていく武器配るよー、集合ー」

「……昨日の訓練終了後、武器の改造・強化するってんで私達の武器集めた時は『ついに来たか』と思ったけど……まさかホントに一晩で終わらせるとはね……」

 朝、いつも通りの時間に『訓練場』に集合した、いつものメンバー5人。

 昨日の訓練終了後のこと。僕を含めてこの6人は、師匠に言われて自分達の装備を一度、師匠に手渡してある。師匠に、より強化・改造してもらうために。

 理由はさっき言ったとおり、自分達の今の力に見合った装備を身につけるため。

 その方が当然強くなれるのはもちろんだけど……ぶっちゃけ今のままの装備じゃ、パワーアップした僕らの力に耐えられるか微妙なのである。
 普通の鉄製の手甲や脚甲を僕が使うと、魔力負荷で吹き飛んじゃうように。

 そういうわけで、『邪香猫』装備全面リニューアル、っていう運びになったのだ。

 ……たった1つ、エルクの武器をのぞいて。

 エルクの武器……水晶の刃のダガーは、彼女のお母さんの形見であり、改造とかそういうことをするのに、エルクが難色を示したのである。
 まあ、思い出の品なんだ。無理もないだろう。

 しかし幸運なことに、そのエルクの『ダガー』に限っては……強化改造しなくても大丈夫だった。もともとが強力なマジックアイテムだったために。

 すんごく前にちらっと言った気がするけど、エルクのダガーは、母さんが太鼓判を押すくらいの超高性能マジックアイテムなのである。古代の遺跡から、希に出土する系の。

 水晶の刀身――無論、ただの水晶ではない――は、金属以上の強度と、纏わせた魔力を増幅する作用を持ち合わせており、ただダガーとして使っても十分強いけど、使い方次第でいくらでも強い武器になる。

 普通の冒険者だったらしいエルクのお母さんが、一体どこで、どんな経緯でそれを手に入れたのかはわからないけど……まあ、それはひとまず置いておいて、
 ともかくそんなわけで、エルクの武器だけは改造しなくてもOKだったのだ。

 思い出の詰まった武器を弄くらなくて済んだことで、エルクはホッとしてた。
 直後、師匠に『むしろお前の方こそ早く強くなれ。そいつに見合うレベルまで』って言われて、なんというか微妙な顔になってたけど。

 ああ、思い入れで思い出したんだけど……シェリーさんの剣も、肉親どうこうじゃないけど、(勝手に持ち出してきた)実家の家宝とかだった気がする。

 なのに、改造するって言われても普通に師匠に差し出してたから、いいのかって聞いたんだけど……家宝でも別に思い入れは無いらしい。

 強くなれるならそっちの方がいいし、むしろ堅っ苦しい実家や村の風習やら何やかんやも小馬鹿に出来て一石二鳥だとか何とか言って、快く(?)差し出してくれた。

 で、それらの武器を、僕ら3人で夜を徹して改造し……それらとは別口で、事前に作っておいた皆用の新装備一式とあわせて、今から配るのである。

 ちなみに、その際に使った素材その他は全部師匠に出してもらった。
 こんな至れり尽くせり的なことでいいんだろうか、と思ったけど……趣味の研究・開発も兼ねた作業だから気にしないし、『女楼蜘蛛』時代に溜め込んだ素材各種が、空間拡張した貯蔵庫にトン単位で眠っているそうだ。

 というか、そんなことより、僕らで考えた新しい魔法理論や、化学や物理学といった僕の前世知識等々を織り込んだ新魔法アイテムを作るのが楽しみで仕方ないようだった。

 なので、ご厚意にありがたく甘えさせていただいたわけである。

 ……そこにミシェル兄さんまで加わった結果、僕らは常識、倫理、道徳、自重、何もかもぶっちぎってエスカレートしていき……

 気がつけば翌朝になっていて……そこには、おそらくこの世界でも類を見ないであろうとんでもないマジックアイテムたちが、いくつも完成していた。
 ノエル姉さんとかブルース兄さんとか、一応常識人で僕のことを心配してくれるような人に見せたら、ぶっ倒れるんじゃないかってくらいのレベルのが、いくつも。

 ……だがしかし、後悔も反省もしていない。

「しなさい(びしっ)」

 あ痛っ。

 

 ともかく、集まった皆に各種装備を配った。
 すぐに装着してもらい、各自への簡単な説明を済ませた後……すぐに実戦テストへ。

 そこで、僕を含む『邪香猫』6人は、全員が全員、その非常識……否、『否常識』なまでの性能に驚くと同時に、何を考えて自分たちにこんなもん持たせてんだ、とでも言いたげな視線を僕らに向けてきた。

 ああ、心配無用、安心して。副作用とか反動なんかも別にないから、今までと同じ感じで普通に使ってもらってOKだよ全然。

「いや、絶対OKじゃないよコレ。ミナト君、一体君どこを目指してるの?」

 と、ツッコミを入れてくるのは、最初の犠牲者ザリーだ。

「犠牲者って自分で言っちゃってんじゃないのよ。てか、ホントにとんでもないわねあんた製の装備……」

 と、地の文にまでツッコむエルクの視線の先には……今正に、新装備で『擬態』の魔物との模擬戦を終えたところであるザリーがいた。

 その身にまとっているのは、『トロン』で買っていた、くすんだオレンジ色の外套。
 防御の魔法がかけられていて高い防御力を誇るそれは、師匠が術式を組みなおした上でいくつも補助術式を追加したことにより、格段に性能を上げている。

 それ以上に凶悪なのが、両手に持っている2本の武器だ。

 右手には、ザリー愛用のショートソード。

 もともと、かなり高品質な合金で作られていたそれは、僕らの手によってさらに頑丈にされた上、切っ先部分を『ミスリル』を含んだ合金によって作っているため、悪魔系やアンデッド系の魔物に対して攻撃力に上昇補正がかかっている。
 同時に親魔力性も上がり、魔力を乗せる攻撃の伝導率が高くなった。

 もう片方の手に持っているサバイバルナイフは……もっと凶悪だ。

 高品質とはいえ、普通の鋼鉄製だったナイフは、預かった時点で寿命寸前だったため、これなら作り直した方がいいってことで、ザリーに了解をとって刀身をすげ替えた。
 師匠の倉庫から持ってきた特殊な砂を加工して刃の形に固めた刀身に。

 その刃は、鋼鉄以上の硬度・強度と誇るのはもちろん……欠けたり折れたりしても、魔力と砂を補充するだけで簡単に復元可能というデタラメ仕様。

 加えてこの刃には……突き刺した敵の体から水分を吸い取り、奪って干からびさせるという恐ろしい能力があり……魔力を流すことでそれは発動する。

 ザリーの二つ名の1つが『砂塵』だったため、砂→砂漠→乾燥という段階を経て思いついた能力を付与してみた。刺して魔力を流している間しか吸わないし、吸い取れる量にも上限はあるけど、かなり強力な能力だと思う。

 現にさっきなんか、ザリーの体丸ごと飲み込めるような巨大なスライムの魔物を、攻撃をかわしながらナイフで切りつけてたら……水分を失ってスライムがどんどん小さくなって、最後には核だけ残して消滅してたし。

 ザリーの『ドライカーペット』でも似たようなことは出来るけど……魔法であるために発動に相応の集中力を必要とするアレと違い、コレは魔力だけでさっと使えるので、状況に応じて使い分けが出来る。

 例えば暗殺の時とか。素早く使える上、たとえ動脈に刺しても噴き出た端から血吸いつくすから、血痕とか証拠を残さないので、便利だと思う。

「いや、僕あくまで情報屋であって、暗殺者じゃないから。暗殺とか請け負ったりしないから別に」

「でもどっちかっていうと、敵には正面から挑むよりそういう感じで確実に決めるタイプでしょ?」

「……そうだけどさ」

「あ、それとそのナイフ、魔法発動体としての効果もあって、身につけてるだけで魔力効率バリバリよくなるようになってるから」

「……もう何でもいいよ、ははは……」

 あ、諦めた。

 
 ☆☆☆

 
 続いてはミュウちゃん。
 ミュウちゃんは、服とかからして市販品だったので、ほぼ全取っ替えみたいな感じで装備片っ端からリニューアルした。

 服は、魔物素材の糸で作った頑丈なものにして……さらに防御効果のある色んな術式を付与。
 以前と見た目はほぼ同じながら、下手な鎧より防御力があるデタラメ装備の出来上がり。

 加えて、ミュウちゃんにお似合い? のクリーム色の外套をプレゼント。

 見た目は毛布か何かみたいに見えるそれなのだが、防御力はやはり異常に高い上、魔法攻撃に対して強力なレジスト作用を持ち、さらに耐寒、耐暑、耐水、耐衝撃等の効果まで持っているという、これまたデタラメな装備である。

 それと、ミュウちゃんは武器と呼べるものを持ってなかったりする。もともと彼女、肉弾戦はあんまりしないし、『ケルビム族』だから魔法発動に媒介とかも必要じゃないし。

 そんな子にいきなり刃物持たせるのも、かえって危ないし、今のところ困る様子もないので、とりあえずミュウちゃんは防御面を充実させた。

 それともう1つ。ミュウちゃんといえば召喚術。召喚術といえば召喚獣。

 魔法スキルを徹底的に磨き上げた結果、ミュウちゃんは個人の素の戦闘力でもAに近いBランクにまで強くなった(ただし、肉弾戦等は想定していない。あくまで魔法戦闘)ため、ご褒美じゃないけど新しい召喚獣が必要だな、ってことになったので……

「取り急ぎコレと契約してみました」

「ほぉーう……してこの、大きさ数mはゆうにありそうなカニは一体何なわけ?」

「昨日、そこの湖で釣った」

 Aランクの魔物で、『テラキャンサー』っていうらしい。
 気分転換の釣りで取った魔物だし、当初は食用にする予定だったんだけど、重攻撃系の召喚獣がそういやまだいないなー、と思って契約してみてもらった。

 泡が溶解液の性質を持ってるため、馬力以外も色々と凶悪な魔物だ。頼もしい。

 実際に、擬態スライムで作った大鬼の魔物『オーガ』と戦わせて見た結果、ゴリマッチョの鬼ボディから繰り出される攻撃の数々を、その分厚い甲殻は全く通さず、その剛力で一方的に打ち据え、最後にはハサミでじょきんと、泡でじゅわっと……グロいことに。

 おまけに、召喚術の付随技能の一つである、召喚術師が魔力でブーストをかけることで召喚獣の能力を増大する術もミュウちゃんは会得したため、圧倒的だった。

 召喚獣のコントロール技能も上がってるみたいだし、前までと同じ『ネクロフィッシュ』とかなら、もっともっと多い数を一度に出してコントロールできるだろう。

「感覚的にはどう? ネクロフィッシュとか、何体くらいまで操れそう?」

「そうですねー、今なら多分、行動そのものを召喚獣の自立思考に任せれば、10匹や20匹は余裕で……はっ!?」

「……そっかー……試してみ「試すな。増やすな。契約させるな」」

 エルク、見事なインターセプト式ツッコミである。

 
 ☆☆☆

 
 さて、お次はナナさんだ。

 婦人警官を思わせる服装――ただしスカートはプリーツタイプで動きやすい。あと帽子は無い――で、手には『ワルサー』。一見すると変わっていないように見える彼女にも、魔改造の間の手はきちんと及んでいる。

 まず、『ワルサー』は古代の遺物を再調整してそのまんま使ってたわけだけど、師匠により一旦バラされ、磨耗してた芯や金具などを取替えるついでにより効力の高いものにすげ替えたりしてバージョンアップ。
 出力・耐久力共に1ランクも2ランクも上の逸品が出来上がった。

 服も、前の2人と同様に魔物素材で強化したものになっている上、師匠のご厚意により、僕のリュックやベルトと同様の『収納』アイテムであるカフスボタンを貰っていた。

 このボタン、僕のベルトよりもさらに収納容量は小さいんだけど、変わりに締まってあるものを取り出すスピードは少し速くなっており、早打ちも得意なナナさんには使い勝手がいいものになっている。

 何も手に持っていないと思わせて一瞬後にはワルサーでズドン、なんてことも可能なわけだ。ボタンって言う形状上、マジックアイテムだと疑われることもそうないし。

 そしてさらにもう1つ。
 ナナさんの、火力を増すためにはタメが必要、という弱点をカバーするために、急ごしらえながら十分すぎる性能を持たせて作った武器。

 ただいま、スライム擬態の魔物でそれを実践中。

 相手にしているのは、昆虫系の魔物『ドラゴンフライ』の大群。
 ランクは『D』で強くは無いけど、飛ぶ速度が速くて狙いが定めづらいので、魔力弾とか主体の魔法使いにはやや厄介な相手……なんだけど、

 んなもん知ったことか、とでも言わんばかりに、ナナさんは新武器に、文字通り火を吹かせている。……こんな音と共に。

 ――ジャコッ、ドゥン!! ――ジャコッ、ドゥン!!

 ポンプ音と共に、銃口から飛び出す、何十何百もの小さな魔力弾。
 拡散して放たれたそれは、特に狙いをつけなくても複数の『ドラゴンフライ』に普通にヒットし、蜂の巣にして打ち落とす。

 見た目どおり、いや見た目以上の火力である。
 圧倒的じゃないか、ショットガン型魔法媒体。我ながら力作を作ったもんだ。

「問題作の間違いでしょうが……つーかアレ、どういう仕組みなの?」

「基本的には普通の魔法媒体と一緒だよ? ただ、あのポンプ動作が、大気中の魔力を収束する術式になっててさ。アレやるとちょい時間かかるかわりに、自分の魔力だけで撃つより低コストでいけるの」

 魔力弾ガンナーであるナナさんは、魔力残量=残弾である。しかも同じ魔力で、身体強化とかその辺もやりくりしなきゃいけない。
 なので、その辺の燃費効率なんかも考えてみて作ったのが、あのショットガンだ。

 大気中の魔力を収束・蓄積して自分の負荷を減らす魔法は、前々から考えてあったので、それを組み込んでみた。結果、周囲に霧散している魔力量にもよるけど、大体8掛けから半分くらいの魔力消費で、威力は落とさずに魔力散弾を放てるようになった。

 逆に、それを考えなければ、わざわざ『ジャコッ』とやらなくても散弾撃てることは撃てるんだよね。魔力全部自腹になるだけで。
 それでも、ワルサー使って自前で魔力の散弾を同数・同規模で作り出すよりは、専用の術式を組み込んで専門武器にしてる分、こっちの方が低コストですむ。

 マジックアイテムとしては若干大型だからややかさばるけど、その分の火力は実現できている。それに、作る時に素材に気を使ったから、頑丈な上に軽い。

 ぶっちゃけ、狙いさえきっちりつけられるだけの実力が使い手にあれば、片手でも扱える重さだ。その上、下手な剣とか棍棒より頑丈だから、何気に鈍器としても使える。

 飛んでくの魔力弾だから反動無いし、その気になればナナさんなら、ワルサーとこいつで2丁拳銃(拳銃じゃないけど)なんてのも出来ると思う。
 ……ますます魔法に見えなくなるだろうけど。

 スライム擬態の『ドラゴンフライ』合計60匹、数発ショットガンを打つだけであっという間に一掃された。
 かかった時間は10秒未満、かかった魔力は、同じことを『ワルサー』でする場合の半分……いや、おそらくは4分の1以下。ん、上々の出来だな。

「ああそれとナナさん、あとグレネードランチャーとロケットランチャーとスナイパーライフルも作ってるんだけど、まだ出来てないからまた今度試してね?」

「……えっと、楽しみにしてます、ね?」

「……どういうもんなのかは皆目見当つかないけど、多分褒められたものは出来ないんでしょうね……」

 
 ☆☆☆

 
 シェリーさん……ただいま無双中。

 敵は……擬態スライムではなく、ミシェル兄さんに出してもらったスケルトンの大群。
 目算でだいたい……500体以上は確実に出てるな、うん。

 防具は……前3人と同じ感じで加工・強化した服。ただし、彼女が使う魔法が炎属性のため、耐熱効果のある染料や素材を使い、術式を組み込んでさらに強化してある。

 ぶっちゃけ、火災現場の消防士とかの防護服も鼻で笑えるレベルに仕上がってるんだけど……もともとの露出が多めなのであんまり意味がないような気もする。
 一応、露出してる部分にも防御効果のあるエネルギーの皮膜は発生してるけど。

 あと、新たに装備してるのが……耐火・耐熱性能がハンパない高さの、シェリーさん専用手甲。これで、剣に今まで以上の高熱を乗せて戦っても、手は完璧に保護される。

 そして獲物は……僕が取ってきた『ソレイユタイガー』の牙(新鮮)と、師匠が倉庫の奥から引っ張り出した『マグマスコーピオン』の素材を使って強化加工した剣。
 これがまた、とんでもない出来に仕上がっててさ……。

 以前から、刃を高熱にして敵を焼き斬ったり、斬撃と同時に爆炎を噴き上げて木っ端微塵とかは普通に出来たんだけど、スペックが上がって更に凶悪なことが出来るように。

 魔力を炎に変えて刀身に纏わせ、それを更に伸ばして……火炎と熱でできた大剣を形成して振り回しで広範囲を焼き尽くしたりたりとか、

 斬撃と同時に炎を飛ばして、前にノエル姉さんもやってたみたいに『飛ぶ斬撃・炎ver』で攻撃したりとか……他にも色々。

 加えて、シェリーさんはそもそも、フィジカルを含めた基本的な戦闘能力が全体的に安定して高いので、武器の性能が加わった今、とにかく手が付けられない存在になっている。

 斬撃が効きにくいはずの、ガイコツ系のアンデッド達を、まるで濡らした和紙を指で貫くかのようにばっさばっさと切り刻む。まさに無双。
 もうコレ戦いになってないよ、一方的な殺戮だよ完全に。

 小さな町なら攻め落とせそうなガイコツの軍団は、心の底から楽しそうな顔をして乱舞するシェリーさんの刃によって、10分そこらで全滅していた。

 ……あと、コレは余談なんだけど、

「師匠曰くところなんだけど、シェリーさんの剣さ、『ソレイユタイガー』の素材じゃなかったらしいよ?」

「え!? ちょ、それどういうこと!? ホントに!?」

「ホントホント、何か、もっと別の魔物の素材と、魔法金属で作った合金だったって」

 師匠は一目見て、『ソレイユタイガー』の素材にしちゃつくりが粗いし弱い、って見抜いてた。で、調べてみたら案の定だったそうだ。

 師匠の見立てだと、おそらく炎属性の強力な魔物の骨や牙なんかを使って作ったものだとのこと。一応品質そのものは十分に一級品だそうだ。今までシェリーさんが使ってきて、それに応えてきたことからも、それはわかる。

 ただ、『ソレイユタイガー』の素材はそれ以上に強力である……ってだけで。

 そして、今僕の手元にはその本物があるわけで……どうせならホントに『ソレイユタイガー』の剣にしちゃえってことで、僕が持ち帰ったあの亡骸から牙を進呈した。

 そこに、師匠がくれた素材も足して強化・改造し、名実共に『ソレイユタイガーの剣』になったその剣は、それまでと桁が1つ2つ違う破壊力を宿すに至った、ってわけ。

 そのことを話したらシェリーさん、さすがに驚いてたけど……すぐに気を取り直して、より強くなった愛剣に心を躍らせていた。

 ……こりゃシェリーさん、多分町に戻ったらランク上がるだろうなぁ……AAAあたりに。
 まあ、実際に何かクエストとかで功績打ち立ててからかもしれないけど、そんなの割とすぐだろうし……。

 
 ☆☆☆

 
 で、最後はエルクの装備。
 武器は変わらないけど、防具は変わってるので。

 鎧も服も、相変わらず緑色統一。『ナーガ』の鱗や皮で作られた軽鎧は、さらに強力な魔物素材と重ね合わせる形で接合し、強度と更に倍増しする形で改造された。

 主に使われた素材は、『黄泉の柱』で僕が狩って持ち帰った『ドラゴン』の素材。
 ダークグリーンの鱗は、『ナーガ』の鱗の鎧と上手くなじんだらしく、つなぎに使った師匠提供の素材も上手く生きて、今までとは比にならない強度になった。

 加えてこの鎧、強度以外にもとんでもない仕掛けがあったり。

 『つなぎ』に使った素材のうちの1つが、『シムルグ』の羽なんだけど……この羽、装備に加工してそこに魔力を流すと、装備者にかかる重力を激減させるという、とんでもない特殊効果を秘めている。

 ドラゴンの皮と鱗で加工したエルクの鎧は、強度がました分それなりに重くなったけど、この特性のおかげで――コレぶっちゃけ『身体強化』で微弱な魔力纏った程度でも発動するので――いざ戦いになった際に、鎧の重さに足をすくわれるなんてことはまずない。

 それどころか、エルク自身の身体能力自体、今までよりもかなり上がってるし、何も問題ないだろう。今までどおり、いや今まで以上の動きが出来るはずだ。

 
 そんな感じで、僕ら『邪香猫』は、ぐーんと伸びた地力に見合った装備をそろえ、ばっちりみんなそろって次のステージへ歩みを進め……

 
「……あれ? ミナト、あんたの装備は?」

「……いや、まだ調整とか色々出来てなくて……」

 
 ……さびしくなんかないよ?

 
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ