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第119話 『邪香猫』魔改造計画・前編
例によって(?)感想への返信は時間見て随時行っていきます。
しばしご容赦を。
第119話、どうぞ。
「……どういうつもりだい、クローナ?」
「ん? 何がだよ、アイリーン」
「わかってるくせに聞き返すものじゃないよ……ミナト君を弟子に取るなんて、一体どういう風の吹き回しだ、って聞いてんのさ」
時刻は昼前。
場所はクローナの私室。
あの模擬戦と『勧誘』の後、アイリーンとクローナは、どちらから言い出すでもなくこの部屋に赴き、クローナが開けたとっておきのワインを酌み交わしていた。
そんなものをクローナが、昼間から気前よく出した理由は……推して知るべし、とでも言ったところだろうか。
「くくっ、それこそ聞く必要ねーんじゃねーか? 俺の性格を考えればよ」
「……君の性格を知ってるからこそ戸惑ってるんだよ。昔っから面倒そうなことや興味の無いことにはとことん無関心で、自分のやりたいことだけ自重もなしに全力でやって来た君が弟子を取るなんて、天地がひっくり返ってもありえないと思ってたからね」
アイリーンが思い返す限り……クローナが誰かのためにその力や知識を使うなどということは、『女楼蜘蛛』を組んでいた数十年間でも、数えるほどしかなかったはずだった。
基本的に、先にミナトにして見せた説教の通り……慈善も偽善も嫌い、否定し、自分と自分の仲間のためにだけ、その力を発揮してきたのが彼女である。
龍をもねじ伏せる力も、あらゆる分野に精通した知識も、多種多様なマジックアイテムを作り出す手腕も、全てを。
所々で露見したその力を、当然欲するものは多く……戦力として、頭脳として、国家や巨大な組織から勧誘を受けること数多。
それと同様、弟子入りを志願するものもまた数多。
それら全てを『面倒』の一言でバッサリと切って捨てていた彼女が……弟子をとり、育てるなどという決断を、しかも自分からしたという事実は、アイリーンの理解の外だった。
それを聞いてクローナは……またしても、あの獰猛そうな笑みを浮かべる。
「なァに、大したこっちゃねーさ。おめーやテーガンが昔言ってたみてーに、次の世代、ってやつをちと育ててみたくなっただけだよ。マジで、純粋にな」
「ふーん……そんなに気に入ったの? ミナト君のこと」
「ああ、気に入ったね、絶対逃がしたくねえ、って思うくらいにな。あんだけの資質や才能を持ってて、尚且つ変な妄想も持たず、肝も据わってるやつなんざ……5世紀以上生きてて初めて見た。ありゃぜひとも鍛え上げてみてえ。鍛え上げて、研ぎ澄まして……」
そこで、ぐいっ、と、
クローナは自分のグラスのワインを飲み干し、叩きつけるようにテーブルに置くと、
「その果てに一体、どういう化け物が出来上がるのか……この目で見たい」
そう、ギラッと牙を光らせ、満面の笑みで言い切った。
それを見ているアイリーンは、いつもの笑顔だが……目だけは笑っていなかった。
「……まあ、苛烈な物言いはいつものことだけど……一応確認しておくよ。あくまで、育て甲斐のある弟子として、彼を気に入ったんだよね?」
「くくっ、実験動物として見初めたのかとでも心配してたか? 安心しろ、んなこたねえよ。むしろ、そんな安い扱いで使い捨てられるようなら、最初から興味なんざ持ってねえさ」
クローナはそう言って笑い、、やや温度差のありそうなアイリーンに向かって、しかし気にせずに嬉々として話す。
グラスをスッと掲げ、メイドにワインの2杯目を注がせながら。
「昨日お前から聞いたとおりだったよ……あいつはリリンに似てる。けど俺が見た感じ、リリン以上に、むしろ俺に近い感じがしたね」
図らずも、この屋敷に来る直前に、ミナトに対してアイリーンが言ったことと同じことを、クローナ本人もまた言っていた。
それを聞いたアイリーンの眉が僅かに動いたが、特にクローナが気にした様子は無い。
「あいつの考え方は俺に近いし、才能もある。それこそ……魔法の開発とか研究って分野で言えば、明らかに現時点でもリリンを凌ぐレベルでな。ああ、これ客観的な分析で、色目とか全然入ってねーぞ?」
「わかってるよ。正直、ボクも同意見だ」
「ならもうわかるだろ? 俺があのガキに心惹かれた理由ってもんがよ」
一拍、
「あれは磨けば光る。鍛えれば伸びる。しかもあいつ夢魔だろ? 見たとこまだ『覚醒』もしてねえようだし……伸び代どんだけだっつー話だよ。まだまだ、どこまでも、いくらでも化けるぜ? そして……」
「……そして?」
「きっといつか、俺達と同じステージにまで上り詰める。そう遠くない未来に、な」
「……そんな、将来有望な超新星の中の超新星に、自分が500年の人生で学んできた全てを伝えてやりたい、と思ったわけ?」
「ああそうさ。あいつなら、俺の全てを受け継いだ上で……それをさらに超える化け物になって大成するって、何でかしらねーが確信できるからな。くくくっ……初めてだよ。初めてだし、考えもしなかった。いずれ俺を超えるかもしれない奴に出会うなんてのも……そしてそれが、あろうことかどこか楽しみにすら感じるってのも」
言い切って、注がれたワインをまたしても一気に呷り、グラスを空にする。
アイリーンは、ぷはぁっ、と気分よさそうに息をつく目の前の友人を見ていて……その笑顔が、酒で気分が高揚したがゆえのものか、それともこれから始まる、ミナト風に言えば『魔改造』と呼ぶべきプランに夢を膨らませているからか……判断に困っていた。
(……まさか、ミナト君自身が『魔改造』されるような事態が来るとはね……)
「止めてもムダだぜアイリーン? 俺はあのガキを、満足するまで、あらゆる方法で鍛え上げる。同時進行で魔法やマジックアイテムの共同研究なんかもしてみてーな……くくっ、どうせなら本気で世界最強とか目指してみるかな! あー楽しみだ!」
「……はぁ……今になって思うんだけど……よく考えたら君とミナト君って、いわゆる『混ぜるな危険』って奴だったのかもね……手遅れだけど」
仕事の都合で、これから数十分後には帰らなければならないアイリーンは……ここに今しばらくの間滞在することになった、ミナト以下『邪香猫』メンバー達の今後を思って、ため息をついていた。
☆☆☆
「……おーい、ミナトー?」
「…………」
「ミ・ナ・トー?」
「…………」
「…………ったく」
――ゴッ!!
「あがっ!?」
痛った!? え、何、今の百科事典で殴られたみたいな感じの鈍器インパクト!?
「そりゃまあ、実際にそのくらいの大きさの本で殴ったからね」
ああ、エルクか。
「ったく……相変わらず集中すると何も聞こえなくなるわねあんたは」
「ははは……ごめんごめん。いや、あんまりにも面白い本だったもんでさ」
……と、言うわけで、
クローナさんのお誘いを受諾した僕は今、メイドさんに案内されてきたこの城の書庫で、面白そうな本を片っ端から読みふけっています。
クローナさんの『弟子にならないか』発言。
当然、かなり驚いた僕は……一応ちょっと時間を貰って、エルク達と相談したけど、最終的には……こんな機会めったにあるもんじゃない、ってことで、受けることになった。
代わりに、ってわけじゃないけど、僕と一緒に、他の『邪香猫』メンバーの訓練なんかも、気が向いたら見てもらえないか、って聞いたら、了承してくれたし。
繰り返しだけど、伝説と言ってもいい『女楼蜘蛛』のメンバーに稽古付けてもらえるなんてこと、そうそうあるもんじゃない。
さすがに戸惑ってはいたけど、基本的に向上心豊かなうちのメンバーは、多少なりともやる気を滲ませて頷いていた。
その手始めに――本格的な修行は明日から始めるらしいので――この『書庫』に入れてもらって、クローナさん秘蔵の文献を片っ端から読み漁らせてもらってるんだけど……これがもう、宝の山。
クローナさんの性格なのか、はたまたシルキーメイドさん達が優秀なのか、ジャンル別に整頓されているこの書庫には……僕主観な部分も混じるけど、興味深い本が目白押し。
面白い魔法書物や、古代のめずらしい魔物の記録、さらには……亜人の古代種族に関する記録や、どこでギって来たのかいろんな国の重要機密書類まで……なんだこの魔窟。
亜人の関連の本はミュウちゃんが、某国の機密書類はザリーがそれぞれ興味を示して読みふけってたけど……その結果何が起こるかは、あんまり精神衛生上よろしくないと思われるので考えないでおく。
あと、ナナさんとエルクは、持ち前の勤勉さを発揮し、普通に自分の役に立ちそうな本を探して読んでて……活字が苦手なシェリーさんはリタイアした。
今? 机に突っ伏して寝てるよ。
……で、僕がこの書庫で興味を示して読んでるのは……その中でも特に特殊。
クローナさんが、若い頃に手がけた魔法関連の研究の内容を記録した、論文とかそういう奴である。
ナナさんやザリーいわく、学者でもない限り読もうともしない内容であるその論文はどれも、僕の興味を非ッ常~~にそそるものだった。
斬新な術式、思いがけない発想、そして……僕の目から見て、まだ改良の余地がある魔法の数々。それを目にして……何ともいえない心の高揚を僕は感じていた。
また、クローナさん以外の研究者が手がけた、魔法関連の論文なんかもたくさんそろえてあって……それは何だか、クローナさんのよりはめんどくさい言い回しとか難しい専門用語っぽいのとかが多用されてたけど、やっぱり興味深かった。
その中にはいくつか、研究段階ではっきりした新事実や新法則なんかもあったけど……その中のさらにいくつかは、僕が前世に学校で普通に習ったこととかもあったりしたので、理解に困ることはあんまりなかったし。
この短時間で読んだのは本の氷山の一角だけど、ぶっちゃけ今、僕の本音は……ここにある論文全部読んでみたい、って感じなのである。
「あんたってやっぱ、学者肌でもあったのかしら? 机の上でも大暴れできるっていうか……むしろそこがホームグラウンドっていうか……」
目が疲れたのか、隣で本を閉じて一旦休憩にしているエルクが、6冊目の論文綴に手をかけた僕に、ため息混じりにそんなことを言ってきた。
「? いや、別にそんなつもりはないんだけどね……クローナさんがさっき言ってたように、ただ僕、面白いからやってるだけだし」
「そういう所が『天才』って奴なんでしょうね……はぁ、そんなんだから私達は……」
「うん? 何?」
最後の方、ちょっと声小さくて聞こえなかったんだけど……何か言った?
「何でもないわよ。さて、休憩終わり……っと」
そう言ってエルクは、眼鏡ハンカチで拭いて視界をクリアにした後、手近にあった本の、しおりの挟んであるページを開き……再び読み始めた。
……よくわかんないけど、別に大したことでも無さそうだったし……いいか。
そう思って再び論文を読み始めた僕は……このとき、気付かなかった。
その時のエルクと似たような視線が、周囲の複数の人物……ナナさんやミュウちゃん、さらには、寝ていると思っていたシェリーさんからも、僕に向けられていると言うことに。
☆☆☆
明けて翌日、いよいよクローナさんの稽古が始まった。
前の晩に僕らに配られた、稽古着だっていう服――見た目はほぼジャージ――に着替えてから、前日にも使った『運動場』に集合。
昨日あれだけ(クローナさんが)暴れて、結構破壊されたこの部屋はしかし、その痕跡がどこにも見当たらず、キレイに修復されていた。
聞けばこの部屋、ある種のスライムの魔物を解析して作ったっていう、クローナさんオリジナルの生体金属で出来てるらしく、破損してもすぐに自己修復するらしいのだ。
そんな面白い話を聞いて、僕が自分でもわかるくらいに目を輝かせていたところ、クローナさんに『早めに修行が終わって余裕が出来たら、そのあたりの授業をしてやってもいいぞ?』ってな感じのことを言われたので、頑張ろうと思う。
便利なマジックアイテム作り……オリジナルの……うん、心躍る。
え、隣でエルクがジト目で睨んできてるって? わかってるよそんなことは。
そんな僕らを面白そうに眺めているクローナさんは、特に何の変哲も無さそうな黒のワンピースに身を包んでいた。
動きやすそうではあるけど……あれで稽古付けてくれるのかな? だとすると……
すると、開始前の訓示とばかりに、僕ら6人を見渡して一喝。
「よし、いいかお前ら? まず最初に言っておく。いつも通り俺は下着なんざ面倒くせえからつけてねーが、俺が訓練に参加して動くのはまだ先のステップだから……動いた拍子にスカートの中が見えそうだの何だの期待というか心配してるマセガキは安心しろ」
「「「…………」」」
みんなの視線が痛い。
「さて、注目! まず、お前らに稽古付けるにあたってだが……俺に言わせれば、強くなるためにやることなんざ3つだけだ。東洋の国には、何かを極めるに当たって『心技体』っていう概念があるそうだが……まさにそんな感じでな」
すっ、と手を突き出し……3本指を立てるクローナさん。
「まず『腹を決める』。次に『技を覚えて極める』。んでも1つ『地力を上げる』……以上、これだけだ。そして俺の弟子になる以上、中途半端なんぞ俺は認めん。徹底的にやるから覚悟してついて来い、以上……じゃ、始める」
と、相変わらずかなり苛烈な感じの激励というか発破を飛ばした後、クローナさんは腰のポーチから、握りこぶしくらいのガラスのビンを取り出した。
その中には、透明な、しかし明らかに水じゃないとわかる、どろっとしたゲル状の何かが入っていて……クローナさんはそのビンの蓋を取ると、中身をドバッと床にぶちまけた。
ばしゃっと床に広がったその何かは、そのまま床にしみこんでなくなった。
それを確認すると、クローナさんはビンの蓋を閉めながら、説明を始める。
「さてお前ら。この訓練場に使ってる生体金属のタイルには、いろんな特殊能力があってな……俺がこうして、能力ごとに違った、必要な『エサ』を部屋に与えてやることでそれらは発動する。その1つに『擬態能力』って奴があるんだが……おっ、きたきた」
と、何かに気付いたように言い、足元に視線を落とすクローナさん。
その視線の先を見ると、クローナさんが今、ビンの中身をぶちまけた床の部分が……なんだか、波打っているように見えた。
クローナさんは2歩ほど後ろに下がり、その『うねり』部分に引き続き注目。
すると数秒後、その中から……
「「「……っ!?」」」
ずるるるっ、と、
滲み出すように……地面からなんと、白骨の体を持つ魔物が現れた。
人間……の骨のようだけど、その構造が明らかに異形。
頭蓋骨は2つ、足は3本ある。腕は4本で、その1つ1つに剣を持っている……ってコイツ、見覚えあるな何だか。
細部は違うけど……そうだ、幽霊船の中で見た『オーバースケルトン』ってやつじゃない?
なんでこんなのがいきなり……と、驚き戸惑っている僕らを、満足そうに見ているクローナさんから、さらに説明が入る。
「とまあ、こんな風に……『エサ』に応じた魔物に擬態する。その強さや動きなんかもトレースしてな。そしてコイツは、こちらから攻撃するか、創造主である俺が合図すると、凶暴化して襲いかかってくるんだが……さて、俺が言いたいことがわかったか?」
「えっと……コレを相手にバトれと?」
「そういうことだ。ちなみにコイツは……そこのピアス、お前の相手だ」
「えっ、僕?」
いきなり指名(かなり雑)されてだろうか、驚いたような声を上げるザリー。
「そうだ。相手にしてもらう魔物は、基本的に1対1。本気でやれば勝てる強さの相手をチョイスする。種類はその都度変える。じゃ、他のも出すぞ」
そう言ってクローナさんは、ザリー以外はついてくるように言って歩き出した。
そして数十mほど歩いた所で、また別のビンを取り出し、床にこぼし……魔物(スライムの擬態)を作り出す。
そしてそれを、最初のを合わせて……計6回行い、訓練場に6体の魔物を作り出した。
ザリーの相手として……さっき言ったとおりの、『オーバースケルトン』。
エルクの相手には……体が砂や小石に覆われた大きなサル『サンドエイプ』。
ミュウちゃんの相手には……普通の『スライム』。
ただし、ミュウちゃんが『ケルビム』であることを看破した上で……召喚獣は使わないで、自分の魔法だけで倒すこと、という条件付き。
ナナさんの相手には……ドラゴンの骨が魔物化した強敵『スケルトンドラゴン』。
シェリーさんの相手は……なんとなつかしの、植物怪獣こと『トロピカルタイラント』。
そして、他の5人からだいぶ離れた所で作り出された、僕の相手は……
大きな翼と長い首を持ち、四本足で立つそいつは……ダンプカーぐらいの巨体で、獰猛そうな目をぎらつかせている。
どう見てもこいつ……
「……あの、僕いきなりドラゴン系なんですか? てか、めっちゃ強そうなんですけど」
「『ファフニール』な、名前。ランクはAAAだから……油断しなきゃ勝てるだろ」
えー。
さらりと当然のように言ってくれたクローナさんは、僕から『訓練の間持っといてやるよ』って言って預かったアルバを手に乗せて、近所の猫でも見るかのような目で、凶悪なことこの上ないビジュアルのドラゴンを見ていた。
クローナさん曰く、一応『ネヴァーリデス』の生態はある程度把握してるらしいんだけど、それ専用の訓練メニューはまだ出来てないらしいので、アルバはまだ待機らしい。
……ってか、アルバも鍛えるんだ? こいつこれ以上強くなるの?
そして、6人全員、割と顔を引きつらせて自分の相手を前にしているのを確認し、安全圏であるベンチに戻って座ると……
「じゃ、始め」
あっさりそう言って、ぱちん、と指を鳴らす。
広い訓練場にもよく響いたその音を合図に、魔物(擬態)たちが凶暴化し、戦闘開始となった。
☆☆☆
どうやら何らかの処置というか設定が施されてたらしく、自分の目の前にいた獲物以外には襲い掛かったりはせず、しかも開始と同時に他の組と区切る形で半透明の壁が出現し、バトルフィールドが明確に区分された。
そのおかげで、巻き込む、または巻き込まれる心配がなくなり、クローナさんの言うとおり一対一で戦えた。
最終的には、15分ほどで全員が討伐に成功。
一番早かったのは、きちんと魔法を練習してて、Fランク程度なら相手じゃなかったミュウちゃん。『ファイアボール』で簡単にスライムを蒸発させてた。
それに対して、一番てこずったのは僕だった。
擬態と言ってもさすがに『龍族』だけあり、当然のように空飛ぶし、炎まで吐いてきてかなり手ごわかったそいつは……最終的には、両方の羽と足4本全部潰した上で『ダークネスキック』で首の骨を中の脊髄ごときっちり粉砕して、ようやく倒れてくれた。
倒された魔物は、スライムの体に戻ったかのようにドロドロに解けて床にしみこみ、何も痕跡を残さず消滅していた。
いや、しかしさすがというか、正直舐めてたなドラゴン系……ディアボロスもそうだったけど、頑丈さが他とは全然違う。
ちょっとのダメージならすぐ回復するみたいだし……こりゃ本格的に鍛えないとな。
とか思いつつ、休憩しようと床に座ろうとした……その絶妙なタイミングで、
「よーし、じゃ、次いくぞー」
そんな声が響き渡った。
え……『次』?
視線を上げると……そこには、いつの間に近づいてきていたのか僕の目の前で、当然のように『エサ』という名のゲル状物質を床に垂らすクローナさんがいた。
「ん? 何だその顔は? 言っとくが俺の方針は『1に実戦、2に実戦、3、4がなくて5に実戦。最低でも実戦、最高でも実戦、兎にも角にもとりあえず実戦』だからな。訓練すべき事柄はその都度その中に盛り込むとして、基本的に戦いの中で、予習も復習も全部一気にやる形だから、そのつもりでいろ」
「……マジですか」
「情けねー声出すな。おら、出てくるから、開始までにきっちり観察して戦うプランでも考えてろ。それも戦闘に必要な技能のうちだぞ?」
「は、はい……」
……うん、覚悟してはいたけど……予想以上にスパルタな訓練になりそうな予感……
あらためて腹を決める僕の目の前で、今度は……なんか全身毛むくじゃらの、異様に首が長い牛みたいな魔物が……
「……えっと、これは……」
「『カトブレパス』。AAA。一般に『邪眼』とか呼ばれる類の奴持ってて、目見ると死ぬ」
「死ぬんですか!?」
「『夢魔』なら耐性あるし、大丈夫だから安心しろ……ってか、擬態だからそこまで強力な能力までは模倣できてねーさ。まあ、そーでなくても強いから油断はすんなよ?」
……さいですか。
結局この訓練は午前中いっぱい続き、油断が許されない相手と何連戦もしてものすごく疲れた僕らは、昼食とその前後の休憩の間、ものの見事に陥落。
軒並みAAからAAAの敵と戦わされた僕はもちろん、実力を正確に把握されたミュウちゃんなんかも、2回目からは結構強めの敵が相手になってたし……他のメンバーも同様。
誰も大きな怪我とかはしなかったのは幸いだけど、もし仮に午後も同じ訓練やらされたとしたら、果たして耐えられるんだろうか……ってな感じになるほど、僕らは全身に満遍なく疲労感を感じながら、ひたすら回復を待つ状態だった。
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