渦の左巻きと右巻き                       2006-11-12 





「お四国さんと民話たび(第二集):岸上匡」の挿画
06-10の区切り打ちで曼荼羅寺門前の遍路宿「門先屋」さんで購入


■このところ、四国遍路にのめり込んでいるので、他の話題のアップができない。「左右の理屈」ページも、今年の1月以来まったくメンテしていない。書き残したい話題はあるのだが、より直近の関心である遍路ページに戻ってしまうのだ。そんな中、「お四国さんと民話たび(第二集):岸上匡」を読んでいて、次の文章を見つけた。
 …”阿波の三馬鹿”という言葉がある。その三つの馬鹿は、いずれも阿波にはなくてはならない大切な観光資源である。その筆頭は、まず阿波踊り、これは阿呆踊りともいうから馬鹿の中に入る。つぎは鳴門の渦潮。この渦は左巻きである。残る一つは大歩危、小歩危、すなわち「ボケ」である。…
 とまあ、「左巻き」=「バカ」と断言しているのだが、他の二つの「馬鹿」も、決して馬鹿ではないので、単なるユーモアとして許容しておこう。
 ところが、その本を読んでいる最中に偶然にNHK−TVが映っていて、鳴門の渦潮の映像が見ることができた。ところが、どの映像も渦は「右巻き」であった。これでは、上の「阿波の三馬鹿」説が崩れてしまうが、挿画の版画を見ると、「左巻き」である渦潮が「右巻き」で描かれている。訳が分からない。

■と言うことで、左巻きと右巻きを少しはしっかり書こうと思った訳である。渦に関する描写で最も優れたものは、ポーの「メールストロムの渦」ではないか。と言うより、他に思いつかない。あの超自然的で全てを呑み込む渦、あの渦は「右巻き」なのか「左巻き」なのか。室内のどこかに文庫本があるはずだが、なかなか見つからない。やっと今日、見つけて読み直すが、渦の回転方向に関する記述は発見できなかった。ただし、渦の回転方向に着目して読むと、どちらかというと観念的に読解される「メールストロムの渦」が物理的力学的な現象として浮かびあがってくる。ちなみにメールストロムの渦は、ノルウェイの「ロフォーデンのモスケー島」の近くに発生するという設定になっている。実際にロフォーテン諸島の南端にモスケネセア島があるので、このあたりの海をイメージしたのだろうか。
 渦の回転方向に関する記述はなかったが、船は最初、「左舷へぐいとなかばまわり、それからその新たな方向へ稲妻のようにつき進みました。」とあり、次には「その右舷は渦巻に近く、左舷にはいま通ってきた大海原がもり上がっていた」とある。右側を内側にして回転するなら、この渦は「右巻き」ということになる。断定はできないし、筆者はそんなことには関心がないから、左右の記述を厳密におこなったかは疑わしい。

■鳴門の渦潮は本当は左右どっちに回っているのだろうか。渦潮は潮汐によって発生するから、満潮時と干潮時で流れが変わる。流れの方向で渦の回転方向が決定されるというのが予想である。以下のサイトの説明が分かり易い。
「鳴門の渦潮はこうしてできる」(うずしお観潮船のサイトより)
http://www.uzusio.com/uzu.html
……流れの速い本流と、その両サイドの緩やかな流れの境目付近で渦が発生します。速い本流の流れに流れの遅い水が引き込まれて渦潮がまくものと考えられています。
 この原理から考察しますと、潮流が北から南に向かって流れている時(南流時)、大鳴門橋を背にして正面を向いた時、右側(鳴門側)には時計の針の動きと同じ右巻きの渦が、そして左側(淡路島側)には左巻きの渦が発生し、潮流が南から北へと流れている時(北流時)は逆に、鳴門側で左巻き、淡路島側で右巻きの渦が見られるはずですが、実際自然の中の鳴門海峡では、南流時は鳴門側に、北流時には淡路島側にのみ多く発生します。つまり、右巻きの渦潮がほとんどなのです。まれには左巻きの渦潮も巻きます……。
この場合は、鳴門側に「右巻き」の渦が発生。(図は上記サイトを引用させていただく)

■以上より、私がテレビで見た「右巻き」の渦が正解で、「阿波の三馬鹿」説は崩れた。私の予測も外れた。たまたま本を読んでいるときに、テレビが鳴門の渦を映し出さなかったら、この伝承を信じて、また知ったかぶりして、ウェブに書いてしまうところだ。テレビでこの渦を撮影した水中カメラマンは、接近撮影で渦に巻き込まれる恐怖を感じていたのに、逆に渦に弾き飛ばされたと発言していた。メールストロムの渦に巻き込まれた小船に乗った船員は、大きな物体は渦に呑み込まれるのに、軽い物体が渦の外側に運ばれる現象を発見し、自ら渦に飛び込み、結果として渦の外側に運ばれて生還する。同じ現象なのだろうか。
 話しは鳴門の渦に戻って、鳴門の渦に「左巻き」ができにくい理由として「コリオリ力」が使えないか考えてみよう。「コリオリ力」は地球のような回転座標系の運動物体に働く見かけの力で、どんな本も北半球で台風の渦が「左巻き」(南半球では「右巻き」)なのは、コリオリ力の影響だと説明している。ところが、コリオリ力は北半球では進行方向に向かって右側に働く。普通に考えれば、北半球では台風の渦は「右向き」になるべきだ。
 コリオリ力というのは直感的には分かりやすいが、きちんとした理解は困難な概念だし、何より自分のように右も左も分からない人間には説明不能である。しかしカーナビやジャイロセンサを説明するためには、きちんと分かっていないと困る。今日はきちんと絵を描きながら、少しでも自分の混乱した脳の理解を助けるようにしたい。
コリオリ力(高校の先生のサイトより)
http://georoom.hp.infoseek.co.jp/7old/2atmos/2Coriolis.htm
 このサイトの海流図を使って、地球の回転方向、偏西風、貿易風を記入すると以下になる。単純にコリオリ力だけでなく、各種の力関係が複合した結果としてではあるが、北半球の海流は「右回り」(南半球の海流は「左回り」)となる。鳴門もメールストロムも北半球にあるが、その回転方向は一致していることになる。
 問題は台風である。ここまでの理解では、北半球の台風が「左巻き」になる理由が分からない。
 



■問題は台風である。ここまでの理解では、北半球の台風が「左巻き」になる理由が分からない。最近国内でも頻発する竜巻も、ガードナーの「自然界における左と右」では、北半球では「左巻き」であるとしている。渦の回転中心がほぼ固定していて、流れの運動だけが慣性の影響を受ける海流は、以上の説明でよいとして、台風や竜巻のように回転しながら、中心が移動すると、話しがややこしくなる。
台風の雲
http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/news/text/kadan/dan011007a.html
という談話室があるが、これを読むともっとややこしくなる。ただ、ともかく「台風の渦巻きはコリオリ力によって左巻きになる」など知ったかぶりしてはいけないということだけは分かった。
 鳴門の渦潮から話題がどんどんズレていったが、これはコリオリ力の影響ではない。
 





【鏡と螺旋の迷宮】